ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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タイトルがネタバレ。

あとストックはこれでラストです。次回はいつかなぁ。ちょっとシュタインズゲート見るので遅くなるかも。


0.1:時をかける少年

 

 

 

 

 

「あの……?」

 

 

 困ったように立ち尽くす小柄な少女。いや、どう見ても小鳥遊先輩。

 

 突然の再会にびっくりしすぎて、掠れた声になってしまった。

 

 体はまだ驚いたまま、間抜けな顔になっているのが自覚できる一方で、頭の中は少しずつ冷静になっていった。

 

 確かに顔は瓜二つ、というか同一人物にしか見えないけど。細部が違うのだ。

 

 俺の知っている先輩は、目つきがこんなに鋭くなかったし、髪もロング。

 

 それに着ている制服は中学生のものだし、体格も先輩より少し小さい気がする。

 

 もしかして、妹さんか何か?

 

 と頭の中で考えていたら、いつまで経っても何もしない俺へ心配そうな声がかけられた。

 

 

「その、大丈夫ですか。どこか打ちましたか?」

 

「あ、ああ。大丈夫、ごめんね」

 

 

 いつの間にか、かなり近くまで来ていた少女。膝立ちで俺と目線を合わせて怪我がないのか、と体を確認する。

 

 どっちかといえば、彼女の方がボロボロ。頬は血が流れたままの切り傷、足や腕はアザが出来ていたし、服はところどころ破けてしまっている。

 

 自分のそんな状態を気にするよりも、こっちの心配をしてくれるあたり、優しい子なのだろう。でも、まだ警戒されているのは感じるから、早く俺の正体を確かめたいと言ったところかな。

 

 

「そうですか。……それで、えっと」

 

「ごめん、俺はシュウだ」

 

「ありがとうございます。それで……シュウさん、貴方はなぜここに?」

 

「……あー」

 

 

 なんて答えればいいのだろうか。馬鹿正直に家にいて変な装置を起動させたら、砂漠に飛ばされていましたー、とか言ったら余計に警戒されそうだし。

 

 答えを待つ少女は黙った俺を見て、不安そうな顔をしている。そりゃ、自分がピンチになった時に御伽話のような良すぎるタイミングで、助けが入ったら都合よく「ラッキー!」なんて思う人は少ないだろう。

 

 しかも、それがキヴォトスに全く存在しない男……人の男なら尚更か。

 

 ……うーん。

 

 

「そ、遭難してた……的な?」

 

「はい?」

 

「まだ俺、キヴォトスに来たばかりでさ。色々あって迷いまして……気づいたら砂漠でふらふらと……」

 

「……」

 

「……ははは」

 

 

 痛い……! さっきまでの視線から、一気に怪しいものと残念そうなものを見る目になったこの子の視線が痛すぎるっ。

 

 あんまり嘘は言ってないよな? 遭難していたのはホントだし、ここにも来たばかり。色々あったと誤魔化したところは……愛嬌みたいなものですよ!

 

 数分の沈黙。じーっと俺の顔を見続ける少女の視線から逃げたい気持ちになりながら、ひたすら誤魔化し笑いをしてた。

 

 それが打ち切られたのは、彼女のため息がきっかけ。

 

 はぁ、と息を吐き、ガシガシと頭を掻いて何かを考えたあと、顔を上げた少女の表情は、さっきまでのものより幾分かマシなものになっていた。

 

 

「ひとまずですが、信用します。助けられましたし、その服装を見るに怪しい人ではなさそうですから」

 

「へ?」

 

「アビドスの方ですよね。こちらに来たばかりということは、転入ですか?」

 

「ん? まぁ……そうかな」

 

「その間も気になることのひとつになりましたが。一旦、ここを離れましょう」

 

 

 キョロキョロとあたりを見回す少女に、俺も周りの状況を見渡す。

 

 酷い火薬やオイルの匂い、砂に倒れ伏す数多くのオートマタとドローンの残骸。

 

 誰かがこれを見たら、一目で激しい戦闘があったことを察するだろう。それに。

 

 

「まだ向こうの増援がやって来る可能性もあります」

 

「そうだな。よっと……」

 

 

 確かにまだ油断はできない。彼女の言葉を聞いて立ち上がり、投げ捨てた自分のハンドガンと鞄を回収しにいく。

 

 少し離れたところに投げ捨てたせいで、取りに行くのが少し面倒だったがこれが無くなってはとても困る。

 

 

「ごめん、お待たせ……ってあれ?」

 

 

 振り返り、当然付いて来てくれてくれていると思った少女の姿がなく、頭を傾げる。

 

 どこに行ったのかな、と軽く視線を動かせば先ほどまで俺が座り込んでいた場所に、彼女がぺたんと座ったままだった。

 

 何かあったのかな、と疑問に思いながらすぐに元の場所に戻ると、焦り引き攣った顔で俺を見上げた彼女と目があう。

 

 

「どうした、随分と困った顔してるけど」

 

「……その」

 

「ん?」

 

「気を抜いたつもりは無かったのですが……思ったよりも消耗していたのもあって……」

 

「そりゃ、そんな怪我してたらな。これだけの数を相手に立ち回ったのなら、体力も残ってない……ってもしかして」

 

 

 ぺたん座りのまま、引き攣った笑いを浮かべた少女にまさかとは思いつつ、思い当たる節を尋ねる。

 

 

「腰が抜けた、というか……立てない?」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 とても言いづらい自分の状況を察して、目を丸くして驚く目の前の人に少し顔が赤くなる。

 

 

「あー。いや……うん、しょうがないことだよ。見た感じ、ずっと戦ってたみたいだし」

 

「……」

 

「気にしないでいいよ。うん……別に気にしなくていいさ」

 

「…………ぅう」

 

「……“早くここを離れましょう”って言ったのに、情けない姿を見せて恥ずかしがらなくても大丈夫さ!」

 

「察してるなら皆まで言わないでくださいっ!」

 

「うわっ、砂を投げるな!」

 

 

 察したくせにわざわざ言葉にしたシュウと名乗った怪しい人に、思わず手元にあった砂を投げつける。

 

 かっこ悪い。あまりにも格好がつかない。

 

 私から早く撤退しようと言いながら、動けなくなるなんて。とてもじゃないが人に見せられないほど無様だ。

 

 自分で言うのは少しあれだが、これでも結構強い方だし、なんでもできると思っていた。だから他の人には優秀だとよく言われるし、羨望や嫉妬の目線を受けることは多々あった。

 

 これまでに、されたことも無い言葉と態度に顔が羞恥で熱くなる。

 

 あんな“意外とあれな子かな?”みたいな生優しい目線と声で、サムズアップをされたら限界を超えて、言葉を荒げて幼い子どものように砂を投げてしまった。

 

 悪気はなかった、と口では言っているがあの顔は絶対に揶揄っている節があった。絶対に。

 

 

「ごめんて」

 

「……」

 

「そんな怖い目で睨むなよ……ほら」

 

 

 ほんのり笑みを浮かべながら謝られても、それは私を怒らせるだけ。けど、申し訳ないと思っているのは本当のようだ。

 

 そして、しゃがみながら背中を向けられる。動けない私にここへ乗れってことなのだろうけど、ここまでの流れで反抗したくなる。

 

 

「情け無用です……私はここで潔く散ります」

 

「武士かお前は。いいから早くしろって……」

 

 

 ここで襲われたら流石にどうしようもないぞ、と言われてしまい、迷いながらもおずおずと彼の背へと手を伸ばす。

 

 私が背中に捕まったのを確認し、そのまま背に乗せられる。これでは文字通りお荷物ではないか。

 

 

「……うぅ」

 

「情けなく泣くなよ……」

 

「泣いてません!」

 

「元気なこって、よかったよかった」

 

「……っ! ……っ!」

 

「上下左右に揺れるな! 手に力を入れて強く握るな! おい、ほんとに元気だな!?」

 

 

 隙あれば揶揄うような言葉を投げかけてくる目の前の男に無言で抗議する。まだ顔を合わせて少ししか経っていないのに、やけに親しく接してくるこの人。

 

 馴れ馴れしい、と言うか距離感が近いというか……手がかかる子どもの世話をしているような接し方みたいで、ちょっと腹立たしい。

 

 少しの沈黙。冷たい風と砂を踏み締める音だけが耳に入ってくる。

 

 先ほどまでの激しい銃声はどこにいったのか、とても静かな夜の砂漠を私を背負って歩く見知らぬ男の人。

 

 ふと、声をかけてみた。

 

 

「なんで、助けてくれたんですか」

 

「なんでって言われてもな。目の前で襲われてたし」

 

「知らない私のために、わざわざ危険なことへ首を突っ込む理由がありません」

 

「えー……いや、俺さ、遭難してたしこの辺に詳しい人がいるかもなって」

 

「それで銃撃戦に介入するのは、よほどの間抜けか、お人好しだけです」

 

「間抜け……」

 

 

 ガクンと顔を落として落ち込む姿を見て少しスッキリした。……え、でもそこまで落ち込みます?

 

 顔は見えないが、こう、暗くなるオーラが出始めたというか。思った以上に効いてしまったみたいで、少しバツが悪くなる。

 

 

「……で、でも。そのおかげで助かりましたし……」

 

「……おう」

 

「……ありがとう、ございました」

 

「おう」

 

「……っ!」

 

「恥ずかしくなったからって頭突きは違うと思うぞ、お兄さんは」

 

 

 何やってるのかな、私。と冷静になって変に恥ずかしくなり、背中へ頭突きを繰り出せば、笑い声とともに突っ込まれてしまう。

 

 はぁ……。

 

 

「それでさ、なんで襲われてたんだ?」

 

「……別に、変な誘いを断っただけです」

 

「というと」

 

 

 今日、と言うか昨日の夜、ちょっとした用事で外に出ていたら急にオートマタたちに囲まれていた。

 

 物言わぬアンドロイドたちに警戒していると、そのうちの1体のスピーカーから聞き覚えのない男の声がして、契約を求められたのだ。

 

『貴方の神秘に興味があるのですよ』

 

 報酬は、膨大なお金。けど、あからさまに怪しい誘いであったし、聞こえてきた声にこれまでに感じたことがないほどの嫌悪感を抱いて、即座に断った。

 

 

「そしたら武力行使です。なんなんですか、全く……」

 

「……そっか」

 

「思ったよりも敵が多くて、逃げながら戦っていて気づけばここでした」

 

 

 何時間も銃のトリガーを引いていた気がする。私の話を静かに聞いていたシュウさんは時折、硬い口調で“そうか”という言葉と頷くだけ。でも、不思議と怒っているようにも感じた。

 

 勘違いでなければその怒りは私を思ってのもののようで、やっぱりお人好しなんだ、と思ったのと変な人だが悪い人ではなさそう、と感じさせる。

 

 時間に関する話題で、ふと今の時刻を確かめようと携帯を取り出すと、とっくに日付は変わっていて時間は深夜の2時を回っていた。

 

 同時にスマホの地図アプリが目に入って気づく。

 

 

「シュウさん……いえ、先輩」

 

「その顔で先輩って呼ばれるの違和感がすごい……」

 

「はい?」

 

「こっちの話。で、どうした?」

 

「いえ、今ってどこへ向かっているんですか?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

 ピタリと足が止まる。どうしたのだろうか、変なことを聞いた……いや、まさか。

 

 この寒い砂漠で急に汗ばんだ彼の首筋が見えて嫌な予感がした。

 

 

「先輩」

 

「……はい」

 

「確かこの砂漠で迷っていたと言っていましたよね」

 

「……言いました」

 

「つまり、この場所の土地勘はないと言うことですよね」

 

「……ないです」

 

「まさかとは思いますが、アテもなく歩いてませんよね?」

 

「……」

 

「先輩」

 

「…………ごめんなさい」

 

 

 やっぱりただの間抜けでは? という私の視線に耐えかねたのか、聞きもしていない言い訳が始まる。

 

 “だって早く離れたほうがいいと思って……”とか、“あのカッコつけた雰囲気で聞けないじゃん?”とか。

 

 そうだとしても、砂漠でアテもなく歩くのは危ないです、とバッサリと言えばまた項垂れて謝られる。

 

 ……変な人で、悪い人でもないけど馬鹿かもしれない。

 

 

「とにかく私がナビゲートしますから、砂漠から出ましょう」

 

「……お願いします」

 

「時間も深夜の遅い時間ですし、とっとと帰りますよ」

 

 

 ほら、と腕を伸ばして自分の携帯のホーム画面を、彼の顔へと見せるようにして電源をつける。

 

 

「……む?」

 

「なんですか」

 

「随分と可愛いホーム画面だなと……冗談だから頭突かないで」

 

「ならなんですか」

 

「いや、日付がおかしくなってるなーって」

 

「はい?」

 

 

 そう言われてホーム画面の日付と時刻を確認するが、特におかしなところはない。

 

 

「別におかしくないですけど」

 

「え? だって今って□□月□□日だろ」

 

 

 何を言っているのだろうか、なぜ“1ヶ月も先の日付”を?

 

 

「おかしいのは先輩です。今は——」

 

 

 今度は正確に年から月、日までを伝える。すると、またピタリと足が止まる。

 

 次はなんだろうか、と首を傾げる。聞こえてくるのは困惑し、焦ったような先輩の声。

 

 

「……いや……え……そんなまさか……」

 

「そんなに焦った声を出して、どうしたんですか?」

 

「…………あの、つかぬ事をお聞きしますが」

 

「どうして急に敬語なんですか……なんです?」

 

「その、中学生だよね」

 

「はい」

 

「何歳……?」

 

「14です」

 

「お姉さんとかいる……?」

 

「いえ」

 

 

 突然、私に関することを聞き始めたシュウ先輩の質問の意図がわからず、頭にハテナが浮かぶ。とはいえ、別に聞かれて困ることでもないので、すべて答えていく。

 

 気になるのはもうひとつ。私が質問に答えるたびに体と声が震えたり、乾いた笑いや現実逃避のような独り言をこぼすところ。

 

 そして、最後に変に緊張した声で聞いてきたのが。

 

 

「あの、キミ……名前は……?」

 

 

 聞かれて“ああ”となる。そういえば、一方的に私が先輩の名前を知っているだけで、まだ名乗っていなかった。

 

 少し失礼だったかな、と思いつつも自己紹介。

 

 

「すみません、遅れましたが。私は“小鳥遊ホシノ”です」

 

「………………」

 

「……先輩?」

 

「………………」

 

「?」

 

「……っ!?」

 

「ぅへぇっ!?」

 

 

 ブン、とすごい勢いでこちらへと顔を向けてきた先輩につい驚いてしまった。

 

 私の顔を見た先輩は、口をポカーン、目をまんまるであまりにも間抜けな顔をしていて、何をそんなに驚いているのかが気になり、声をかけようと口を開いた瞬間。

 

 

「あの、せんぱ——」

 

「時をかける少年ってことぉぉぉぉぉぉ!!!!????」

 

「うるさっ!?」

 

 

 信じられない大きな声量でよくわからないことを叫んでいた。

 

 ……変な人じゃなくて、すっごく変な人だ。この先輩。

 

 

 

 

 

 

 

——30.21.35.41

 

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