ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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黒服をいいやつだと一瞬でも思い込んでいた主人公がいるってマジ?


0.7:ヒトリヨガリノセイギ / オオキナキレツ

 

 

 

 ——01.06.30.26

 

 

「……シュウ先輩、何か私に隠していませんか?」

 

 

 夕食の最中、意を決したように真剣な眼差し。何かを確信しているような口調で聞かれた内容に、自然と手が止まってしまう。

 

 

「何かってなんだよ?」

 

「最近、先輩はおかしいです」

 

「おかしいって……何がだ?」

 

 

 かちゃん、と箸を皿の横に置いてじっと目を見つめられる。

 

 まっすぐな視線に耐えられずに、少し視線を外してどこかおちゃらけたような声が出てしまう。

 

 俺としては普段通りに、ホシノが思う自分を維持できたと思っていたのだが。

 

 

「私は真剣に聞いているんです……っ!」

 

 

 それは大きな勘違いだった。

 

 言葉は静かだが荒い口調。目は鋭く、肩を振るわせて怒りの表情を見せるホシノに言葉を失ってしまう。

 

 

「ここ数日、先輩の様子がおかしいのは気づいていましたし、何度も聞きました」

 

「……」

 

「その度に誤魔化して、私には何も言わずに思い悩んでいるのも知っています……!」

 

 

 気づいていたのか、と驚いている自分がいる反面でこれだけ一緒にいればバレていて当然と思っている部分もある。

 

 顔によく出るからわかりやすい。外の世界でもキヴォトスでも散々言われてきたこと。

 

 たかが1ヶ月、されど濃い日常。言葉のまま、ずっと一緒にいてより親密になった……なってしまったホシノは俺の小さな変化をとっくに見抜いていたわけだ。

 

 なんて、間抜け。

 

 心配をかけないようにと、ごく普通の生活を送ってほしいと願った相手に、一番させたくない表情をさせてしまっている。

 

 

「シュウ先輩が私を助けてくれるように、私も先輩の力になりたいんです。……心の底から信じられると思った貴方の力に」

 

「ホシノ……」

 

「だからお願いです。話してください……何があったんですか? どうして思い悩んだ顔ばかりしているんですか」

 

 

 ぎゅっと手を握られ、懇願するように聞かれて自分の中に迷いが生じる。

 

 話してしまっても、いいのだろうか。黒服のことや俺についての真実を。

 

 アイツから言われたこと、“俺が外の世界に戻れない理由がホシノ”ということ、自分が本来は未来の人間であること、そのほかにも多くの隠し事がある。

 

 それを全て話してしまえばきっと楽になる。けど、話すということは彼女が“俺が来てからずっと狙われていたこと”や、その原因が俺にあるかも知れないと告白しなければいけない。

 

 後者は別にいい。俺がホシノから嫌われるだけで済む。

 

 でも、狙われ続けていたという事実はまだ心身ともに幼い彼女には大きな傷になってしまう可能性がある。

 

 もう大丈夫だと言ったところで、ずっと騙してきた俺の言葉には致命的に信用がない。

 

 ……話せば楽になる、それは自分が解放されるだけの身勝手な考えだ。

 

 心配してくれるホシノの想いを踏み躙ることになったとしても、彼女には日常に戻ってアビドスへと入って貰わなければいけないのだ。

 

 だから。

 

 

「ごめん」

 

「っ……」

 

 

 初めてホシノへ拒絶する言葉を言った気がする。

 

 紙をぐしゃっとしたように歪めて、泣きそうになる彼女の顔。それを見てひどく心が痛む。

 

 たった数秒の沈黙。たかが数秒なのにあまりにも長く感じる苦痛な時間。

 

 ホシノと一緒にいてこうなるとは、想像もしていなかった。

 

 

「……そう、ですか」

 

「……」

 

「……ごめんさい。私、少し疲れているので休みます」

 

「……ああ」

 

 

 そっと手が離される。暖かな温度が消える。

 

 自分の手はこんなにも冷たかっただろうか。そう思うほどにホシノが離れた途端、体の芯から熱が失われていくような錯覚に陥る。

 

 パタンとベッドに寝転び、背を向けてしまった彼女をどれくらい見続けていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 残った料理を冷蔵庫に入れて、もう一度ホシノを見れば変わらず背を向けたまま。

 

 拒絶されている、のかな。と悲しく思う資格は俺にはない。そんな時間もない。

 

 けど、頭とこころは乖離しているかのようでひどく落ち込むのがわかる。

 

 

「……何やってるんだろうな、俺」

 

 

 結局、傷つけてしまった。

 

 これならば初めから、ホシノと仲良くならなければ良かったのかも知れない——。

 

 

「っ!」

 

 

 ぱしん、と両手で頬を強く叩く。

 

 嘘でもそんなことを思ってはいけない、何を考えているんだ、と萎えた気持ちを外へと投げ捨てる。

 

 ホシノのヘイローが消えているのを確認し、部屋の電気を消して音を立てないように外へと出る。

 

 結局のところ、俺の目的もやることも変わらない。

 

 いつ終わるかわからないこの過去での生活。すべきことは彼女を守ること。

 

 そして、結果としてホシノがアビドスへと入学すれば、小鳥遊先輩は消えないはずなのだ。

 

 過去で何が起きたとしても、ホシノが無事に高校へと入ればある程度の保護はある。そして後輩ができて数年後には先生によって救われる。

 

 だから、今は踏ん張れ。

 

 ガチャリと、もう慣れたドアを開けば冷たい風が刺すようにして体を突き抜ける。

 

 黒服は狙わないと、ホシノに危害を加えないと言ったが信用はできない。なら、夜間は俺が彼女を守り続ける。

 

 

「……行くか」

 

 

 

 

 

 ……暗闇に支配された部屋の中。ぼう、とピンク色の輪が光を取り戻す。

 

 ヘイローと呼ばれるキヴォトスの住民が持つ特別なもの。それの持ち主はゆっくりと体を持ち上げた。

 

 数秒ほど部屋を見渡し、そこにいるべき人がいないことに気づく。

 

 

「…………せん、ぱい?」

 

 

 時刻は22時。朧げな意識の中で大切な人がこの家から出ていく音を聞いた彼女はその足を外へと向け……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャン、という音と共に目の前の自販機から缶コーヒーを取り出す。

 

 夜の闇に覆われているが微かな電灯によって視界はそれなりに良好な公園。場所はホシノの家から少しの距離で夜の見回りをするたびに、ちょくちょくきている場所。

 

 遊具はほとんどなく、小さくて2〜3人くらい座るのが限度の少しボロい木のベンチがあるだけ。他はただの広場で子どもはろくに遊べる場所もなくて、退屈だろう。

 

 ベンチへと座り、背を預けて空を見上げれば少し雲は出ているが、いつもと変わらない綺麗な夜空が見える。手を伸ばせば届きそうだなと腕を上げれば目に映るのは、黒時計。

 

 ため息をこぼして買ったばかりの温かいコーヒーのプルタブを開ける。小気味のいい音と一緒に飲み口から白い湯気が上る。

 

 ひとくち、コーヒーを啜ってみる。

 

 

「うぇ、にが……」

 

 

 少しの酸味と強い苦味に、独特の香りが口に広がる。

 

 ブラックコーヒーを飲むのはこれが初めて。シャーレで先生と共に生活していた際に、“頭がスッキリする”と言ってよく飲んでいたのを思い出して、買ってみたが俺にはまだ早かったらしい。

 

 

「大人の味だな、これ」

 

 

 コン、と指で缶を弾き独り言。

 

 ちっとも頭はスッキリはしなかったが、ボヤけていた頭のモヤが少し晴れた気がして再び口をつけるがやっぱり苦いだけと、ベンチの横に置く。

 

 重症、とは言わないが自分が取った行動で起きたホシノの表情が随分と効いたようで、うまく頭が働いていない。

 

 間違ったことはしていない、と言い切れない。それに多分だけど後悔もしている。

 

 でも、同じ選択を迫られたら俺はきっと同じものを選ぶ。

 

 だから弱音は吐けない。これは選択した俺の責任だから。けど、誰にも聞かれていないなら吐き出したいと思っただけ。

 

 ぼーっと空を見ながらコーヒーを啜っている俺に声がかけられた。

 

 

「随分と酷い顔をされていますね」

 

「……お前が出てきて気分も最悪になったところだよ」

 

「クク……手厳しいことを言いますね」

 

 

 聞き覚えのある声。少しの振動はベンチの隣に誰かが座った際に起きたもの。

 

 誰か、なんて濁しているが正体など見るまでもなくわかっている。

 

 

「なんの用だよ、黒服」

 

「シュウさんの顔があまりにも酷かったもので、つい声をかけてしまった……そんなところです」

 

「その原因はお前だし、でまかせ言ってるのもわかるぞ」

 

「ククク……」

 

 

 ジロリと横目で睨めば黒スーツの胡散臭い大人、今の現状を作り出した諸悪の根源が座っている。

 

 何がつい声をかけただ。どうせどこかで俺のことを監視していたくせに。

 

 いつも通りの俺ならすぐに距離を取り、警戒していたはずだった。でも今は敵意を感じないコイツに対して何も起こす気力が湧かない。

 

 本来なら聞きたいことはたくさんあるし、聞かなきゃいけないと頭ではわかっている。でも、黒服は素直に答えてくれるわけもないから、無駄な体力を使いたくないと無言でコーヒーを飲む。

 

 この場で撃たれたら死ぬんだろうな、なんて。まるで他人事のように考えていたとき、口を開いたのは黒服だった。

 

 

「小鳥遊ホシノからの拒絶が効いているようで何よりですよ」

 

「……プライバシーとか知らないのか」

 

「知っていますよ」

 

「ならなんで」

 

「見てはいませんが聞いていますからね」

 

 

 誰に、と聞いても笑って何も言わない黒服にため息が出る。

 

 冷静に俺は何をしているのだろうか。ホシノを狙っていた悪の親玉、俺の敵である人物と呑気に駄弁っているというこの状況に変な笑いが出た。

 

 

「……想像以上に凹んでいるようで」

 

「あー? 全部お前のせいだろうが」

 

「クク……言い返す気力はあるようで何よりです」

 

 

 そう言って立ち上がる黒服を見て俺も自然と腰をあげる。対面するように並び立ったまま、不可思議な会話が続く。

 

 

「今日は貴方に提案があって来たのです」

 

「乗ると思うか?」

 

「話は最後まで聞いてみなければわかりませんよ?」

 

「……なんだよ」

 

「ご存知だと思いますが、私は小鳥遊ホシノの神秘を欲しています」

 

 

 そんなこと今更だろ、と悪態をつく。時折、時計を確認する黒服に違和感を抱きつつも一言返事を返す。

 

 

「ああ」

 

「しかし、それは貴方によって封じられている。私から彼女に対して契約を迫ることはできません」

 

「……」

 

「私から直接アプローチをかける手段がない今、あの神秘を手に入れる手段はないのですよ。例外として、小鳥遊ホシノの方から契約を求められた場合を除いて、ですがね」

 

 

 ホシノが自ら黒服の元へ行く。未来で起きる先生と彼女たちの物語を思い出す。

 

 確かにその可能性は否めないが、それは先生が解決してくれるものだと知っている俺からすれば、心配する要素はない。

 

 だが、余計なことを言えば何が起こるかわからない。黒服をじっと見つめたまま何も言わない。

 

 俺からの反応がないことを気にする様子もなく、黒服は言葉を続ける。

 

 

「ですので、貴方をスカウトに来たということですよ」

 

「……さっきも言ったけど、応じるつもりはないぞ」

 

「クク……対価はもちろん用意します」

 

「おい、俺の話を」

 

「外の世界への帰還、というのはいかがですか?」

 

「————っ」

 

 

 黒服からの予想外の報酬に息を呑む。

 

 惑わされるな、心の中ではそう叫ぶが口は開かない。

 

 こいつからの提案を受けたら碌なことにならないのは、わかっている。わかっているんだ。

 

 けど、迷いが生じてしまった。返事ができずに固まっていた俺を他所に、黒服の視線は俺ではなく、別の方向へ一瞬向いたのに気づいた。チラリと後方を確認するがそこはただの雑木林で暗闇が広がるだけで何もない。

 

 

「……どうした」

 

「クククッ……いえ。話を続けましょうか」

 

 

 声のトーンが1段階上がり、愉快そうなものになったのが癇に障る。人の葛藤を、迷いを見て愉しむあたり、本当に悪魔のようなやつだと舌打ちが出る。

 

 

「貴方の特殊な事情も悩みも私は理解しています」

 

「だろうな」

 

「ここには存在しないと言うことを含め……“多くのことを小鳥遊ホシノさんに偽っている”こともです」

 

「……ああ」

 

「クク……クククッ……」

 

「……何が、おかしい」

 

「いえ……そんな貴方に居場所はないはずです。こうして彼女には秘密裏で私と話をするのも2度目。貴方には隠さなければいけないことが多すぎる」

 

「……それが何だよ?」

 

「だからこそ、私の元へと来るのが最善だと言っているのですよ。“今は”アビドスの学校へなど行かないのでしょう?」

 

「お前の言う通り、確かに今はアビドスには転校しない。けど」

 

 

 けど、未来の俺はアビドスの生徒だ。そう言ってやるつもりだった。

 

 ガシャン、と重い何かが落ちる音が後方から聞こえるまでは。

 

 

「クククッ……先の知識とは便利なものですね、シュウさん」

 

「っ!?」

 

 

 黒服の言葉と胸に広がった嫌な予感で反射的に振り向く。そこには。

 

 

「……ホシ、ノ」

 

「…………」

 

 

 愛銃であるショットガンを足元に落とし、目尻に涙を溜めてこちらを……俺を睨みつける少女の姿。

 

 涙で濡れた瞳には、微かな悲しみと激しい怒りが写っていた。

 

 今までの会話を……黒服との話を聞かれていた? 俺は黒服と何を話していた?

 

 突然起きた目の前の事故とも言える現実に頭の中が真っ白になる。時が止まって欲しいと、考える時間が欲しいとここまで切に願ったことはない。

 

 

「……していたんですか」

 

「……ぇ?」

 

「ずっと、私を騙していたんですか!!」

 

「ま、待ってく……」

 

「ソイツとの話は本当なんですか、全部ウソだったんですか!?」

 

「っ」

 

「……違うって、言ってくださいよ! ソイツが言ったこと、全部、デタラメだって……!」

 

「それ、は……っ」

 

 

 激しい怒りと荒くなった言葉。語気は強く、これまでに聞いたことがないほどの声量で泣きながら叫ぶホシノ。

 

 嘘でも違う、と否定したかった。けど、言葉に詰まって顔を横に背けてしまう。

 

 否定してほしいが全部わかっている、そんな顔をしたホシノに俺から言える言葉が見つからなかったのだ。

 

 でもそれはあまりにも悪手。絶望したように顔を歪めて、涙を頬から落としたホシノを見て自分が大きなミスをしたのに気がついた。

 

 

「——ッ!!」

 

「……ホシノ!」

 

 

 武器を捨てたまま走り去っていく彼女に手を伸ばすが、もの凄い速さで駆けて行ってしまう。

 

 すぐに追い掛けなければ、と足に力を込めた瞬間、不快な笑い声が聞こえて振り向く。

 

 

「ククク……よほど好かれていたのでしょうね、シュウさん」

 

 

 黒服の不気味で愉しげに笑う姿を見て、嫌な想像が出てくる。

 

 

「お前、まさか最初から……!」

 

「クク……追い掛けなくてよろしいので?」

 

「くそっ……!」

 

 

 嵌められた。コイツの思考通り、踊らされていた。

 

 いつから? あの時の会話からか? そもそもなぜ俺とホシノがこうなることを狙っていた? 多くの疑問が浮かぶ。

 

 けどそんなことよりも、今は彼女を追いかける方が優先。余計なことを考えずに足を動かせ!

 

 市街地の外の方へと向かったホシノを探し、暗く染まったアビドスをひたすらに駆ける。

 

 

 

「ククク……さて、次の段階ですよ。……“私”」

 

 

 

 

 公園を出て住宅街を抜け、廃墟と化して砂漠に覆われ始めた元・市街地まで来た。昔はここも賑わっていたそうだが、数十年前から頻発し始めた大規模な砂嵐で今は人の影はない。

 

 息がきれる、呼吸をするのすら苦しい。数十分以上、全力で走り続けて足が悲鳴を上げている。でも、止まるわけにはいかない。

 

 

「ホシノ! ホシノーー!!」

 

 

 ひたすら名前を呼びながら走り続ける。返答はなく、虚しく俺の声が響くだけ。

 

 ただ正体のわからない焦りが胸の内を占めていく。黒服の狙いは分からないけど、明らかに狙って今の状況を作り出したのは察せる。

 

 一刻も早くホシノを見つけなければ、取り返しのつかないことに……ッ!

 

 全力疾走のまま、前へ転がるようにして回避行動。その直後、数発の銃声が響いた。

 

 

「く…ぅ……!」

 

 

 少し足を痛めたが問題はないと即座に周りの状況を確かめる。

 

 目の前にいたのは、銃を撃ってきたのは見覚えのある忌々しいオートマタ。それが数十体、気づけば俺を囲むようにどこからか現れていた。

 

 コイツらを俺の元へ寄越したのは黒服で間違いない。けど、おかしい。“まるではじめから俺がここに来るのがわかっていた”かのようだ。

 

 けど、関係ない。今はコイツらに構っているヒマはない!

 

 

「そこをどけ!!!」

 

 

 ハンドガンを抜き、低姿勢のままひたすら連射。数が多くとも一点突破でこの包囲から抜ける、それだけを頭に足は止めない。

 

 だが、冷静ではない完全に頭へ血が上った俺へ、容赦ない射撃が降り注ぐ。

 

 

「……がぁっ!?」

 

 

 左肩に横腹、そして足に弾丸を受けて地面へと倒れる。

 

 まずい、と傷跡を手で押さえて違和感を持つ。血が流れていない……?

 

 なぜ、と疑問に思うと同時に自分にあたったであろう弾丸がポロリと落ちる。それはゴム弾だった。

 

 あたって打ちどころが悪ければ打撲になったり、気絶するものだが殺傷能力はない。これは暴徒などを制圧するためにヴァルキューレなどが使う弾だ。

 

 それをなぜ、こいつらが……?

 

 

「クク……」

 

「ッ!」

 

 

 この数時間によって、聞くだけで怒りが芽生える不快な笑い声が聞こえ、瞬時に顔を上げる。

 

 その先にはやはり。

 

 

「“お久しぶり”ですね、シュウさん」

 

「黒服……ッ!」

 

 

 オートマタの中心にソイツはいた。几帳面なスーツの着こなし、不快な笑い声、そこの見えない薄暗い光のような眼。

 

 つい先程、あの公園で俺を嵌めた憎き相手。頭で考えるよりも先に手のハンドガンを向けていた。

 

 

「っぁ!?」

 

 

 が、それよりも先にオートマタたちの射撃によって腕を射抜かれ、手から銃がこぼれ落ちる。

 

 武器はなく、抗う手段が絶たれる。だが心はまだ折れていない。

 

 膝を負った状態でも身体を起こして黒服を睨み続ける。

 

 

「ククク……良い顔ですね。まだ諦めていない、強い人間の目です」

 

「邪魔を、するな……!」

 

「申し訳ないのですが、それは無理な話です」

 

「ホシノには手を出さないと言っただろう!!」

 

 

 信用はできないが、嘘はつかない。俺の甘い認識だったと深く後悔する。だが、次に出た黒服の言葉で混乱する。

 

 

「ええ。小鳥遊ホシノには手を出しませんよ」

 

「……は?」

 

 

 どういうことだ、やっている事と言っていることが大きく矛盾している。呆気にとられた俺を嘲笑うように、黒服は言葉を続ける。

 

 

「ですが、あの約束に貴方は含まれていません」

 

「っ」

 

「ククク……さて、まだ“見栄えが悪い”ですね。すみませんが、もう少し我慢していただけると」

 

「——がっ!?」

 

 

 軽い銃声。数発の抜けた音が聞こえたのと同時に鋭い痛みと衝撃が身体を突き抜けた。

 

 

「安心してください。数時間後には完治していますよ」

 

 

 意識が一瞬飛びかけたが、次に来たゴム弾の痛みで目が覚める。

 

 死ぬことはないが死ぬほどの痛みだけが身体に与え続けられる。

 

 

 

 こんなにも酷い拷問のような時間がどれほど続いたか。

 

 

 

 朦朧とし始めた意識の中で、黒服の声が二重に聞こえた。ひとつは目の前。もうひとつは電子音のようなもの。

 

 歯を食いしばり、顔を上げれば空中に開かれた仮想モニターに映像が映っていた。

 

 ボヤける視界の中でもはっきりと誰が映っているのかが、俺にはわかってしまった。

 

 

「ホ……シ、ノ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 ——01.01.18.46

 

 

 





次回、ホシノ視点。

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