ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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甘いです。えっちぃです。ご注意。







0:Question. 貴方は本当に童貞ですか?

 

 

 

 

 

 一定のリズムで体が揺れる感覚。奥底まで沈んでいた意識がゆっくりと浮上するように覚醒してく。

 

 落ちかけた夕陽の光がずっと閉じられたままだった私の瞳に写り、くらっとする。

 

 まだぼーっとしたまま、うまく力が入らない体。霞む視線を動かせば誰かの肩が目に入る。

 

 それはとても見覚えがある背中で、とても安心する場所。

 

 黒服へと自らの身を渡した私がもう触れることができない相手。

 

 

「しゅう、せんぱい……」

 

 

 だから、これは“ユメ”なんだってすぐに気づいた。

 

 暗い部屋で何かを打たれて気を失った。怖くて、震えて、寒くて。

 

 恐怖と絶望に塗りたくられた私が現実から逃げて見ているものだと思ったのだ。

 

 だから、この暖かくて幸せな空想を見たまま、また眠ろうと瞼を閉じようとした。でも、夢とは思えないほどに現実味を帯びた感触と優しい声が聞こえて……もう1度、目を開いた。

 

 

「……目、覚めたか?」

 

「……ぇ?」

 

 

 背に乗った私の方へと振り向いて、穏やかに笑う先輩に気の抜けた声が出てしまった。

 

 そこでやっとこれが現実だと気づいて、もやが抜けて意識がはっきりとする。

 

 自然と先輩の頬に手が伸びて、触れた途端に彼の体温が私に直接伝ってきて。冷たかった体に暖かなものが満ちてくる。

 

 

「なんだよ、急に」

 

「ぁ……せんぱい、ですよね」

 

「それ以外に見えるか?」

 

「……ぅ」

 

「え、なんで泣くの? 寝起きで俺の顔見たらショックだったか?」

 

「違い、ますよぉ……!」

 

 

 からからと笑うシュウ先輩を見て、安堵から来る涙がこぼれ落ちる。

 

 わかってる。揶揄われているのはわかっているのに、ちょっと前ならすぐに怒っていたのに。

 

 こんな何気ないやり取りがすごく嬉しい。つい、顔をぐしゃぐしゃにして泣いてしまうほど。

 

 もう頭の中はめちゃくちゃ。だって私は黒服に捕まっていたのに、目が覚めたらもう2度と会えないと思っていた人の背中にいるんだ。

 

 私自身、今どんな感情が溢れているかなんて理解できない。だから主語などなく、疑問の言葉だけが溢れる。

 

 

「どうして……どうやって……」

 

「どうしても何もなぁ」

 

 

 苦笑いと呆れたような言葉。それに少しびくりと体が震える。

 

 小さな子どもが悪いことをして、バレて怒られる前のような感覚。

 

 私がここに……先輩に背負われて見覚えのある市街地を歩いている。つまり、先輩は私を助けてくれた。

 

 あの、大人から。きっと想像もつかないような迷惑をかけてしまった。

 

 ……嫌われて、しまったのかもしれない。そう思っていた。

 

 けど、何気なく当たり前のように先輩は。

 

 

「“家出した”悪い後輩を迎えにいくのも先輩の勤めだからな」

 

 

 あの日から今まで暮らしてきてずっと見てきた、聞いてきた何気ない言葉でそんなことを言われてしまう。

 

 ……自分が身を差し出して先輩を助けたつもりだった。別に平気だと思っていたし、私は先輩よりずっと強い。

 

 でも、知らない大人と銃を構えた感情のないロボットに囲まれて、真っ暗な部屋に入れられたとき、あまりにも簡単に心は折れてしまった。

 

 たった1日、半日程度なのに先輩といないだけでボロボロになってしまうほど、私は弱くなってしまっていた。

 

 ホントに目を閉じる瞬間まで、何も考えたくないと体を丸めてしまうほどに弱っていたのに。

 

 

「随分と泣き虫だなぁ」

 

 

 ぽん、と手で頭を触られる。たったそれだけなのに胸が引き裂けそうなほど、嬉しさと元気が溢れてくる。

 

 先輩に触られるのが嬉しい。先輩と話すのが楽しい。先輩のもっと近くに行きたい。

 

 この想いはなんだろうと、ずっと漠然と考えていた。でも、一度離れて、もう一度触れ合って。

 

 ようやく、今までの人生で一度も感じた事のなかった、“この感情”の名前がわかった。

 

 

 

 

「……私、シュウ先輩のこと、大好きだ」

 

 

 

 

「ごめん、なんて?」

 

「っ。い、いえ……」

 

 

 意識せずに出てしまった言葉を誤魔化して、顔を背中に埋める。頬が信じられないくらいに熱い。

 

 ……ぎゅっと抱きしめるように首へと回していた腕に力が入る。大きく深呼吸する。

 

 鼻から入ってくる大好きな人の匂いが、頭の中で弾けるように伝わる。

 

 すっごくドキドキして、前よりも一緒にいたいと思えて。

 

 心底、自分が彼へとぞっこんなのが理解できて恥ずかしくなるけれど。それ以上に先輩にくっつきたくて、ひたすらぐりぐりと頬を背中に擦り付ける。

 

 

「……ふふ……えへへ」

 

「うおっと……どうしたんだ、次は」

 

「せんぱい、しゅうせんぱい〜……」

 

「声ふにゃふにゃじゃん……。泣いたと思ったら次は甘えん坊か?」

 

 

 声を聞くだけで、触れ合っているだけなのにとっても幸福。

 

 私をしょうがないと笑う横顔があまりにも輝いて見える。……先輩、こんなかっこよかったかな?

 

 時間にして数十分の帰り道。でも、その時間はこれまでで一番、心臓が高鳴った幸せなものだった。

 

 

 

 

 家に着いても私は先輩のそばから離れることなく、ベッドの上で手を握って体を預けたままずっとしがみついていた。

 

 ゆっくりと丁寧に撫でられる感触が気持ちいい。ずっとこのまま隣にいたいと、穏やかな気持ちのまま先輩の顔を見て——。

 

 

「……シュウ先輩」

 

「なんだ?」

 

「どうして、悲しそうな顔してるんですか」

 

「……そうか?」

 

 

 優しい笑み。でも、もう誤魔化されない。

 

 微かな違和感だけど、ほんの少しだけ彼の目に寂しそうで悲しげな色が映っているのを気づいてしまった。

 

 それを見て胸の中がざわつく。あの日、2日前の夜を思い出させて不安になる。

 

 まるでどこかへ消えてしまいそうな危なげな雰囲気が先輩から漂ってくるのだ。

 

 だから確信を持って、もう間違えないようにはっきりと聞く。

 

 

「まだ、何かを隠しているんですね」

 

「……ああ」

 

「教えてください。私はもう、先輩と離れたくないです」

 

「っ」

 

「……先輩?」

 

 

 隠しきれないほど歪んだ顔……そして諦めたかのように笑う。その表情は隠し事をするためではない。

 

 きっと教えようと覚悟を決めたもの。嬉しい、はず。私に隠していたことを言ってくれようとする、それは今までになかったから嬉しいはずなのに。

 

 この胸で鳴り響き続ける嫌な音はなんだろう。

 

 先輩の口が開く動作が嫌に遅く見えて。そして、聞こえた言葉に理解ができなくて……私はきっと酷い顔をしていた。

 

 

「“お別れ”だ」

 

「…………なん、で」

 

「急でごめんな」

 

「………」

 

「今日でお別れなんだ」

 

 

 ぎゅっとシュウ先輩の服を掴んだままの手に、自然と力が入る。

 

 なんて言われたのか理解できない……理解したくないと頭が拒否する。

 

 あまりにも突然すぎる。確かに今日でちょうど31日間、1ヶ月経つ。でも。

 

 

「急すぎます……! あと少し、せめて数日くらいはっ」

 

「俺はさ」

 

 

 引き止めようとする私の声を遮った先輩の声はとても硬いもので、まだ錯乱している私の口すら黙らせる。

 

 

「本当はここの世界の……違うか。この時間の人間じゃないんだよ」

 

「何を、言ってるんですか……?」

 

 

 ふざけているのか、そう思うのに。真剣に覚悟したように話すシュウ先輩の顔を見れば、嘘か誠かなどわかってしまう。

 

 

「アビドスの学校に入るのはもう少しだけ先でな。あの砂漠で彷徨っていたのは本当だけど、ほかは嘘ばっかりだったんだ」

 

「……うそ?」

 

「ああ。……ごめんな」

 

 

 頭を下げて謝られる。まだ混乱しているし、やっぱり嘘をつかれていたんだと思ってもいる。

 

 でも、そんなことは“どうでもいい”。重要なのは。

 

 

「いや……嫌です……っ!」

 

「……ホシノ?」

 

「いなくなっちゃ、やだぁ……!」

 

 

 溢れる涙、止まらない悲しみ。別に何かを隠しているとか、きっかけがどうとかは本当にどうでもいい。

 

 でも、先輩が……大好きな人が去ってしまうというのが私には耐えられなくて。

 

 

「なんで、なんでですかっ!」

 

「……」

 

「私よりも大切なものはないって言ってくれたのに……!」

 

「……ああ」

 

「それも嘘だった——」

 

「嘘なもんか!!」

 

「ぁ」

 

 

 怒った顔。初めて見る先輩の本気で怒った表情に声が出なくなった。

 

 同時に取り乱している心の中に安心と嬉しさがほんの少しだけ生まれた。だから、ちょっとだけ冷静にもなれた。

 

 

「っ。ご、ごめん」

 

「……先輩」

 

「……なんだ?」

 

「どうして、いなくなっちゃうんですか」

 

「なんて言えばいいのかな……」

 

 

 先輩は私が今まで知らなかったことを少しずつ、丁寧に教えてくれた。

 

 本当は私のことを元々知っていたこと。未来から来たということ。私を守るために裏でしていたこと。

 

 今の私では理解できないことばっかりだったけど、真剣な眼差しで真摯に言葉を伝えてくれる先輩を見て、ゆっくりと心が落ちつく。

 

 でも、最後の言葉だけは絶対に許せなくて……信じたくなかった。

 

 

「——だから、俺はあと数時間で消えるんだ。今の俺はホシノが見ている夢みたいなもの、と思ってくれ」

 

「……っ」

 

「いてっ……ホ、ホシノ?」

 

 

 ぎゅっと先輩の頬を摘んで引っ張る。それだけは、たとえ先輩が言った言葉だとしてもそれだけは許容できなかった。

 

 

「夢なんて、言わないでください」

 

「……だけど」

 

「私と先輩が過ごした時間まで、()なんて絶対に言わないでください……っ!」

 

「……そう、だな。ごめん」

 

 

 バツが悪そうに顔を逸らした先輩を両手で私の顔へと向けて目を合わせる。

 

 何が夢だ。たとえ、先輩がいなくなったとしてもこの思い出は絶対に本物で、私とシュウ先輩だけの……ふたりだけのもの。

 

 誰にも言わないし、言いたくない大切な宝物。それまで嘘だなんて、消えるなんて言ってほしくない。

 

 

「未来から来たって言いましたよね」

 

「……ああ」

 

「なら、待ってます」

 

「え?」

 

「シュウ先輩がまた、私のところに帰ってきてくれるまで、絶対に待っています」

 

 

 たとえ時間という概念が先輩と私を別れさせるとしても、ずっと待ち続ける。

 

 どんなに寂しくても、悲しくてもこの先の未来でシュウ先輩と会えるなら、私は耐えてみせる。

 

 覚悟を持って言った私の言葉を聞いた先輩は、より顔を歪めて悲しそうになる。

 

 だから、まだ何か……“私に伝えたくない”ものがあると悟ってしまう。

 

 

「…………ごめん」

 

「なんで……謝るんですか」

 

「夢っていうのは例え話じゃないんだよ」

 

「どういう、意味ですか」

 

「“消えるんだ。全部”」

 

「……何が、ですか」

 

「俺のいた痕跡、記憶……全部だよ。それにはホシノも含まれてる」

 

「なん、ですか。それ……」

 

 

 ああ、神様はどこまでも私のことが嫌いらしい。

 

 一緒にいることはおろか、思い出すらもなかったことにするというのか。

 

 ……すごく、すごくむかつく。

 

 こんな状況になったこと、私にこんな感情を与えた先輩、そして何もできないと諦めそうになった自分。

 

 その全てに言葉にできない怒りが込み上げてきた。

 

 先輩の頬に当てたままの手にまた力を込める。そのまま勢いよく引き寄せる。

 

 

「っ!」

 

「うわっ!? ホ、ホシ——ッ」

 

 

 驚いて慌てた声を出した彼を無視して、目をぎゅっと瞑ったまま力任せに先輩の顔へ……唇へと当てる。

 

 たった数秒だけど、感じたことのない感触と柔らかな息。これまで一番近くに感じるシュウ先輩の体温に体が熱くなる。

 

 ゆっくりと顔を離して目を開ければ、口をぱくぱくとして真っ赤になった間抜けな先輩の顔が映る。

 

 きっと私の顔も同じくらい、トマトのように赤くなっているのだろう。それくらいに全身の体温が上がっているのがわかる。胸の鼓動は早くてうるさい。

 

 

「忘れません」

 

「……え?」

 

「絶対に忘れてなんてあげませんから」

 

 

 そうだ。何がそうなると決まった運命だ。そんなものはクソ喰らえ!

 

 

「突然、現れて。お節介ばかりで、私の服や下着を勝手に洗うし!」

 

「あ、あの……?」

 

「デリカシー皆無で、女心なんて全くわからない。その上、馴れ馴れしい」

 

「ごめんなさい……本当、すみません……」

 

「なのに優しくて。毎日、一緒にいてくれて」

 

 

 強く自分の胸を服の上から掴む。うるさい心臓を隠すように、照れそうになって視線をずらさないように、目線はまっすぐ。

 

 

「隣にいてくれないと寂しくて、一緒にいると舞い上がっちゃうくらい嬉しくなって」

 

「……」

 

「手が触れるだけでドキドキして、もっとそばにいてほしいと思っちゃう」

 

 

 

「——そんなシュウ先輩のことが……私は大好きです」

 

「だから、絶対に忘れてなんてあげませんから!」

 

 

 一代一世の告白。初めて好きになった男の人へ怒りと勇気を織り交ぜた言葉。

 

 それを贈られた先輩の顔は。

 

 

「……う、え?」

 

 

 とても真っ赤で気の抜けた間抜けなもので、つい私の口には笑みが浮かんでしまった。

 

 

 

 

 

 

「……う、え?」

 

 

 状況を整理したい。

 

 今、何があった? → ホシノにキスされた。

 

 その次は? → 貶されていると思ったら告白された。

 

 ほんの一瞬前まで、鋭い目で睨まれながら怒られていたはずなのに。

 

 俺が瞬きをした次には、恥ずかしいという感情を押し殺しながら、頬をピンクに染めて必死に愛を伝えられた。

 

 懐かれている、慕われているとは思っていたけど。それが異性としてとは、思ってもいなかった。

 

 ポカンとしてしまった俺の耳に、小さなクスクスとした笑いが聞こえてくる。

 

 

「もう……女の子が勇気を振り絞って告白しているのに、そんな顔するなんて失礼ですよ?」

 

「ご、ごめん?」

 

「いえ、そんな先輩が大好きですから」

 

「っ。ちょ、ちょっとたんま!」

 

「いや、ですっ!」

 

「ぇ……んぐぅ!?」

 

 

 押し倒されて頭に手を回されて抱きしめるように、再び唇を奪われる。

 

 しっとりとしたホシノの唇の感触と淫靡なリップ音に頭が真っ白になる。いや、顔は多分真っ赤なんだけどね?

 

 ちゅぅ、と吸われて、柔らかいものをぐっと押しつけられる。

 

 初めてのキスの味はレモンなんていうが、あれは絶対に嘘っぱち。

 

 だって味とかわかるわけないくらい、混乱するから。

 

 体感はすごく長く感じたがさっきは数秒。でも今回はとても長い。

 

 一瞬離れたと思ったらすぐにおかわりがやってくる。

 

 目に映るのは、赤くした顔のまま何度も吸い付いてくる可愛らしい女の子の姿。

 

 2桁を超えたキスのあとでゆっくりと顔が離れる。お互いに息は上がっていて、頭に酸素が入っていないのか、ぼーっとしてくる。

 

 

「……これでも、忘れられますか?」

 

「……む、むりです」

 

「えへへ……んっ」

 

「んむっ……!?」

 

 

 またキスをされる。仰向けに倒されて跨られている状態。

 

 肩に手を当てられ、完全にマウントを取られてはろくに抵抗もできず、ホシノにされるまま。

 

 ここでようやく、今の自分が置かれた状況が理解できた。

 

 ホシノから漂う甘い匂い、柔らかな唇。

 

 他の同年代と比べて小柄とはいえ、しっかりと柔らかい胸。そして、ホシノが動くたびに……擦れるたびに適度に刺激される下半身。

 

 あ、まずい。と思った時には手遅れ。

 

 1ヶ月間に及ぶ禁欲、そして常に触れ合っていた女の子の感触と匂い。これらが組み合わされば、健全でまともな16歳の少年の相棒がどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。

 

 でも、それをたった2つ違いとはいえ中学生に向ける……いや、流石にまずい。というか、ホシノに気付かれたら本当に俺は終わる気がする。

 

 焦りで必死に逃げようとした俺を、より強く拘束しようとしたホシノが腰に力を入れて。

 

 

「……ぁ」

 

「…………」

 

 

 小さく何かに気づいたように声を上げたホシノの……さっきよりも、より頬を赤く染めた顔が目に入る。

 

 気まずい。あまりにも気まずくて、じっと見られた顔を横に向ける。まだワンチャンス気付かれていないかもしれないと、冷や汗を流しながら目をそらす。

 

 

「おっきく、なっちゃいましたね」

 

 

 神は死んだ。

 

 上半身をあげて、自分のスカートの下に感じる異物を見つめる姿。もうまともに顔が見れないと泣きたくなる。

 

 

「先輩」

 

「……はい」

 

「シュウ先輩。こっち、見て?」

 

「う……」

 

 

 どんな顔をされているのか。ロリコンとか犯罪者と罵られるのか。怖くて、あまりにも怖くて、震えながら視線をホシノに向ける。

 

 恐れた俺の目に映ったホシノの表情は。

 

 

「ふふ……」

 

 

 怒りではなく、喜びで赤くした顔。とても愛おしいものを見る目。優しげな笑い声。

 

 自分が予想していたものとは全く違う反応をしている彼女の姿に、また体が硬くなった。……元から一部分はずっと硬いままだが。

 

 

「私の……こんな体でも、反応してくれたんですよね?」

 

「……ノ、ノーコメント」

 

「こっちの子は、すごく素直ですよ?」

 

「うぁ……ちょ、待って! そこを撫でないで!?」

 

 

 よしよし、なんて優しく触られては余計に反応してしまう。

 

 なんだ、何が起きているんだ? というかホシノは今やっている行動の意味がわかっているのか?

 

 正気に戻らない俺の姿に、少し呆れた笑みを浮かべたホシノ。

 

 

「いくら私でも、そういう知識くらいあります」

 

「さ、さいですか」

 

「忘れないほどの思い出に、ぴったりのものですから」

 

「…………………。……………は、はぁ!!??」

 

 

 しゅるり、と着ていたパーカーを脱ぎ、下に着ていた制服のシャツのボタンをふたつ外したところで大声と共にその手を止める。

 

 キョトン、と不思議そうな顔で俺を見るホシノの姿に、おかしいのは自分の方なのか? と一瞬、疑ってしまった。

 

 

「どうしました?」

 

「ななな何をしようとしてるの!?」

 

「服、脱ごうとしてます」

 

「なんで!?」

 

「汚れますし、邪魔ですから」

 

「なんで!!??」

 

 

 なんでって……とまた不思議そうにしながら顔を横に傾げたホシノ。

 

 そして、ごく当たり前のように言った言葉は。

 

 

 

 

「えっち、するからです」

 

「………………」

 

 

 

 

 絶句。言葉が出ない。

 

 あのホシノから出た言葉と頭が認識できない。

 

 暴走したような雰囲気はないし、目も正気だがどこかギラついたものが瞳の奥底に見える。

 

 

「しないんですか?」

 

「しないよ!?」

 

 

 あまりにもでかい声が出てしまう。

 

 未成年! いや俺もだけど。でも流石にまずい! 法律……はキヴォトスだから問題ないかもだけど!

 

 いくら猿のように性に貪欲な男子高校生でも、これだけはまずい。

 

 必死にダメだといってホシノを落ち着けようと言葉を並べ続けていると、ふと静かなことに気づいて視線を戻す。

 

 そこには、寂しそうに……悲しそうに笑う彼女の顔があった。

 

 

「あ、え……ホシノ?」

 

「私は、先輩のことを忘れてしまうんですよね」

 

 

 よく見れば涙が目尻に溜まっていて、頭が冷えてくる。

 

 

「……ああ」

 

「なら、せめて繋がりが……なくなっちゃうとしても。確かに私と先輩がつながっていたって、思い出せるかもしれないものが欲しいんです」

 

 

 縋るように手を握られる。その手は震えていて、とても冷たかった。

 

 先ほどまでの力はどこに行ったのか。とても華奢で小さくて。ただのか弱い、ひとりの寂しがり屋な女の子の姿が俺の心を強く刺激する。

 

 

「先輩に、抱かれたいです。忘れないくらい、壊れちゃうくらい」

 

「……でも」

 

 

 それでも、とまだ煮え切らない俺の心。でも、そんなものは泣きそうな顔で無理をして笑うホシノの顔と。

 

 

「ダメ、ですか? ……私のこと、キライ……ですか?」

 

 

 酷く辛そうな声を聞いて吹っ飛んでしまった。

 

 絶対に女の子に、大切な子に言わせてはいけない言葉。それを言わせてしまった。

 

 そっと彼女を俺の方から優しく押し倒す。

 

 

「ぁ……」

 

 

 驚いたような声を出して、少し緊張しつつもどこか期待した上目遣い。触れば簡単に壊れてしまいそうなホシノの頬へと静かに触れる。

 

 

「せんぱい……? ぁ……ん」

 

 

 唇に優しく、なるべく力を入れないように自分の唇を重ねる。嬉しそうに笑って受け入れてくれた彼女を見て自分の内側に何かが灯る。

 

 

「俺、初めてだからさ。上手くできるかわからないし……きっと、痛いぞ」

 

 

 緊張で少しだけ低い声になってしまった。情けないと己の弱さを呪うが、そんな俺を見つめて。

 

 

「はい……私も、初めてです。……だから、一緒ですっ」

 

 

 湯上がりの後のように赤く染まった顔で、心の底から嬉しそうにするホシノを認識した瞬間、完全に理性が切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんぱ……待ってくださっ……」

 

 

「やぁ……そんなところ、だめ……」

 

 

「ん、ちゅる……うへへ、ここ弱いんですか?」

 

 

「あ、ん……」

 

 

「顔、見えないのイヤです……前がいい、です」

 

 

「ぎゅってするの、好きです。……ふふ。壊れるくらい、抱きしめて欲しい、です」

 

 

「っう……そこ、だめっ……跡が残っちゃいます……!」

 

 

「もう、むり……です……ほんとに私、壊れちゃ……ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

「しゅうせんぱいのけだもの、へんたい、ばか」

 

「……本当にすみませんでした」

 

 

 俺の腕を枕にしたまま、ぷくーっと膨れて不機嫌そうにぐりぐりと頭を擦り付けてくるホシノへ誠心誠意、心の底から謝る。

 

 皆までは言わないが、やりすぎましたね。ええ。

 

 

「6回は多すぎです……」

 

「誠に申し訳ございませんでした……ッ!」

 

 

 溜まっている、とは思っていたがここまでとは想像もしなかった。

 

 結構、疲れていたはずなのにそんなこと忘れるくらい夢中で……してしまった。

 

 もうしばらくは、ひとりでも発散することができないと思う。それくらいには出し切ったからね、うん。

 

 うちの息子も完全に元気をなくして、意気消沈……。

 

 

「ん。……たれてきちゃう……」

 

「…………」

 

「あ……もう。こっちはまだまだ元気ですね、先輩」

 

「は、ははは……」

 

 

 元気100倍とばかりに自己主張を始めた愚息に乾いた笑いが出る。

 

 え、まだ元気なのお前? と自分でもびっくりしてしまっている。

 

 そんなものを見つめて優しげに笑うホシノにちょっと期待している、浅ましい自分にも少し凹む。

 

 

「ん、ちゅ……これでガマンしてください」

 

「……それは逆効果なんだけど、わかってやってる?」

 

「はい。えへへ……」

 

 

 頬に優しい口付けをされて、より元気を取り戻した馬鹿タレを沈めるべく頭を無にする。

 

 

 

 

 …………こんな穏やかな時間も残りわずか。

 

 

 

「もう、そろそろですか?」

 

「……ああ」

 

 

 腕にずっとついたままの、呪いの装備。

 

 どこまでも黒一色の時計に触れれば残された時間が表示される。

 

 その残り時間を見て、笑みが消えたホシノの頭をそっと撫でて抱きしめる。

 

 

「ごめんな」

 

「……はい」

 

「絶対に、すぐに会いに行くから」

 

「…………約束、です」

 

 

 顔を胸に埋めていて、顔は見えないが震える肩を見ればどんな表情をしているかなど簡単にわかる。

 

 心が締め付けられる思い、というのはこういうものなのだろう。

 

 苦しい、とか辛いなんて、言葉にしてしまえば短くて軽く見える。

 

 でも、それがいざ心にのしかかって来れば、感じてみれば如何に重いものかと実感させられる。

 

 

00.00.00.20

 

 

「忘れ、ませんから」

 

「うん」

 

「絶対、また会えるって信じてますから」

 

「……ああ。約束だ」

 

「私が高校に入って、卒業するまでには絶対に来てください」

 

「もちろん」

 

「それで、次、は……」

 

 

 だんだんと言葉が詰まり、声に涙が混じり始める。

 

 胸から顔を上げて、涙で濡れたホシノ。

 

 

「次は、先輩から“好き”って、言ってもらえるような……女の子になってます、から……っ」

 

 

00.00.00.03

 

 

 最後は、ぎゅっと彼女を抱きしめて。

 

 

00.00.00.02

 

 

 嗚咽を漏らす少女の声だけを、ホシノの体温だけをしっかりとこの身に残して。

 

 

00.00.00.01

 

 

 俺の意識はゆっくりと闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     --.--.--.--

 

 

 

 

 






“Answer. 俺はホシノで童貞を捨てていた。”



次回、“Vol.1 過去からのメッセンジャー”、エピローグ。

To be continued……
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