ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
???“よぉ、三日ぶりだな?"
お久しぶりです。
とんでもない量の感想と称賛の言葉、“完結おめでとう”のコメントに涙が止まらない作者です。
さて、ここまで応援されたからには、一応用意したVol.2を書くか、と覚悟した今日この頃。……ええ、3日使って用意しておいた落書きをプロットとして完成させてました。
エピローグの後書を最後まで読んだ欲しがりさんなら察すると思いますが、次章のメインヒロインは“あの先輩”です。
Vol.2のプロローグは早めに出すかもですが、その前にご期待がすごい来ていたエピローグ後の後日談、シュウ&ホシノと先生たちの物語をお送りします。
言っときますが、くっそ甘いので注意です。私の作品を楽しんでくれている皆様へ捧げます。
あと、“小鳥遊ホシノ”タグの総合評価1位になっていたらしいです。お聞きして椅子から転げ落ちました。マジで感謝。
月曜日の朝。アビドス高等学校にある廃校対策委員会の部室。
時刻はまだ7時過ぎとかなり早めだというのに、その場にはシュウとホシノ以外のメンバーと先生がすでに集まっていた。
なんでこんなに早く? と疑問に持つものは、ここにはいない。なぜかと言えば先週の金曜日にあった例の事件“私で童貞捨てたくせに……”発言の後だからだ。
その場に居合わせた先生たちがシュウとホシノの事情を聞き、何とか落ち着かせたのは記憶に新しい。
だが、ふたりが本当にそういう関係だったのか。そして、もしそうならキッカケは? といった多くの疑問は残ったまま結局、週明けまで持ち越されていた。
件のふたりはまだ登校していない。今この場には興味津々な野次馬4人と“不純異性交遊”という胃痛に悩まされた先生だけ。
各々の表情を見ても、ワクワク話す対策委員メンバーと難しそうな顔をしている先生となっていて、同じ話題なのにここまで差ができるのか、とシュウなら思うだろう。
「結局、どっちなんでしょうね〜。あれからホシノ先輩から連絡も来ませんし」
「ん。昨日、シュウと話すって聞いたけど結果がこない」
「焦らされてる気分よね。気になってバイトに集中できなかったわよ……」
「ま、まぁまぁ。確かに気にはなりますが、まずはそっとして置いた方がいいと思いますし」
それぞれが色々な意見をいう中、結局のところは全員気になっていることには変わりない。
この状況を見ている先生の思考はふたつ。ひとつは“うんうん、これも青春の1ページだね”という、口では怒るが理解ある優しい先生のもの。もうひとつは。
「もし、あれが本当なら……せめて避妊はしてるよね……」
という、女性としての不安。いくらホシノが一番歳上と言ってもまだ17歳。それで子宝に恵まれては大変だろうし、世間的な目もある。
先生としては理解を示すし、何ならこんな早い段階で結ばれて子を授かるというのは、幸せなことかもしれない、と思っていたり。
だが、シュウ。キミはお説教である。まだ怪しいで済んでいるが、あのホシノの様子を見るに“お手付きをした”のはシュウだと睨んでいる。
でも、それなりにあの子とシャーレで生活を共にした身としては、シュウを信じているところもある。
あー、でも。
「シュウ、へんなところで悪い子だからなぁ……」
「そうかも。シュウ、ブラックマーケットのことすごい詳しいし」
「シロコ先輩。それ私、初耳なんだけど……」
「セリカちゃんだけじゃなく、私たちもですよ〜?」
「し、シュウ先輩、良いところもたくさんありますから!」
シロコに話を聞くと、以前にブラックマーケットでこそこそと何かを買っている場面に遭遇したらしい。
で、それが何かというと。
「ん。“男の子の宝本”って言って詳しく教えてくれなかった」
「宝本? 何でしょう……」
「うーん。男の子にとっての宝物……」
「…………あー、うん」
「先生? もしかしてわかったの?」
アヤネとノノミが悩んでいる中で察した私が、つい声を出してしまう。それに食いついたセリカに、なんて説明しようかと悩む。
言い淀んでいれば、みんなの視線が集まり、余計に言いづらくなった。こればっかりはなぁ……シュウも男の子だし、そういうものが欲しくなる気持ちがわからなくもない。
何より予想だし、へんに間違っていたら可哀想だから、何とか誤魔化そうと頭を悩ませていると、部屋の扉が開いた。
おっ、と私を含めてみんなが視線を開いた扉に向けると、そこには。
「はよー。……え、なに。何でこんな注目されてんの?」
「おはよ〜。おやまぁ、先生にみんなも揃ってる。朝、早いね〜」
話題の中心となっていたふたりがそろって登校してきたのだから、みんなも静かになるというものだ。
訝しんだ顔で頭を傾げるシュウに、あくびをしながら眠そうなホシノ。至っていつも通り。
そう、いつも通りなのだ。
予想とは違うこのふたりの様子に私たちは顔を合わせて、“え?”となってしまった。
▽
至って普通の反応をして、そのままの空気感でいつも通りの学校生活を送ろうとしていた俺。
でも、そうは問屋が卸さない人たちがいたわけで。
「あの……それで何で俺と先輩は、この前と同じ構図で座らさせられてるの……?」
「ふわぁ〜……おじさん、まだ眠いや……」
呑気なことを言って大きなあくびをするホシノの図太さにびっくりしている中で、反対側に座った4人と先生の顔色を随時チェックしておく。
シロコさんは真顔だが、耳はピクピクして興味津々の顔。ノノミさんは、にこにこしているけど決して目線は俺たちから離さない。
アヤネさんは申し訳なさそうな顔をしつつも、俺とホシノを交互に見てる。セリカさんに関しては“とっとと何があったか話してよ!”と顔だけじゃなくて声まで出ていた。
そんな彼女たちの中心にいる先生は、意外そうな顔をしていた。……なんすか?
「いや……シュウたち、もっとギスっている、というか微妙な空気で来るものだと思ってたから」
「は、はぁ……? そうですかね」
「ん。あの状況からたった2日間で元に戻っているのは逆に怪しい」
「ですね。何かあった、と言っているのと同じです!」
「何もないですよ……」
「んなわけないでしょ! あんな乙女な顔してた先輩が、元に戻っちゃってるじゃない!」
「セリカちゃん、それホシノ先輩に失礼じゃ……?」
「うへへ……おっきなくじらぁ〜……」
「……寝ぼけてるし」
「た、確かに不自然なくらい元に戻ってますけど……!」
わーわーとそれぞれが言い合う中で、俺の内心は冷や汗びっしょり。
なるべく普通にしていよう、とホシノと話し合った結果が今なわけだが、逆に疑われるとは。
どうしよう、とホシノに目線だけで聞こうと視線を横にずらすと。
「……うへへ」
嬉しそうに小さく手を振られてしまった。眠いのは本当だろうけど、それとは別にこの状況を楽しんでいるな、こいつ。
頭に手を当ててため息をつくと、これ見よがしにシロコさんが今の俺とホシノのやり取りを指摘する。
「目と目で会話してる。絶対に何かあった」
「い、いや……?」
「ただ目が合ったから手を振っただけだよ?」
「…………」
じーっとシロコさんに見つめられて、目が泳ぐ。まずい、顔に出てないだろうな、俺。
こんなやり取りをしている中、先生がパンと手を叩いて視線を集める。
「シュウ、ホシノ。とりあえず聞きたいのはね」
「はい」
「ん〜?」
「ふたりの中で解決はしたってことでいいの?」
……うん、まぁ。
「いろいろありましたけど」
「バッチリ解決したよ」
「……なら、良かったよ」
ふう、と息を吐いて安心したように笑う先生。教師としてあまりにも心配をかけてしまったからなぁ。
ともかく、先生は俺とホシノが仲違いするんじゃないか、という点が一番心配だったようだ。
なら、先生に関してはひとまずは安心……。と手元の水を含んだところで、真剣な顔になった先生がひと言。
「で、本題なんだけど。結局、シュウはホシノとヤっちゃったの?」
「——ぶっ!!??」
「わ、汚いよ〜。大丈夫?」
「ゲホ、ゲホッ……」
口と鼻から水が吹き出し、苦しくて咳き込む。なんてことを直球で聞いてくるんだこの人。
「ですです! 私たち、まだその辺りをしっかり聞いてません!」
「しっかり教えなさいよ! 気になって、バイトがろくに集中できないんだから!」
わいのわいのと、彼女たちの本当に聞きたかったことが話題になった瞬間にこれだ。
予想していなかったわけじゃない。ホシノとも事前にどうするか、と話したのだけど“私が何とかします”と言われて終わっている。
なんと答えるのだろうと、少し緊張しながらホシノを見ていると。
「あー、それはね」
「「「それは?」」」
「“あの時は”おじさんの勘違いだったよ?」
「え?」
「はい?」
「どうゆうこと?」
「……?」
三者三様の反応に見えて同じ疑問を持っている、そんな顔をしているみんな。
かく言う俺もそれでは誤魔化せないだろ、と思っている。
どんな言い訳を考えたのか、と様子を見ているとホシノは。
「いやー。まさかシュウくんがあの後に、過去のおじさんをたぶらかしてるとは思わなくてさ」
「「「「「は?」」」」」
なんて、隣に座る俺の肩に頭を預けて、嘘偽りない言葉を言うとは思わなくてさ。思わず……。
「ちょっ……ホシノ!?」
「急に呼び捨て!?」
「あ、やべ……」
「シュウ、焦った顔してる」
「……」
「沈黙しても無駄」
「と言うか過去のホシノ先輩?」
「え、え。どう言うこと?」
ざわつき始めた先生たちの姿に、おいおいおい、と焦る俺をにこにこ見ているホシノに小声で“何で!?”と聞くと。
「隠せっこないし、正直に話すのが一番だよ。ね、シュウ先輩?」
「待て、待って。ホシノさん?」
「先輩呼び……?」
「昨日の今日で何が……?」
何が“私に任せてください”だ! さては、最初から諦めてただろホシノ!
未だ焦る俺を楽しげに見つめるホシノに目で助けを求める。初めは“どうしたの?”という顔をしていたが、ピコンと何かを思いついたように、立ち上がる。
それを見て、すごい嫌な予感がした。だから、その勘に任せて逃げようとして。ホシノに肩を掴まれる。
で、柔らかなものを頬に感じた。すごく幸せな感触なのに、俺の目の前に座る5人の驚愕&真っ赤な顔を見て、逆にこっちの顔は真っ青。
この状況を作り出したホシノは、というと。
「——つまり結論は、こういうこと。これでみんなにも伝わったかな?」
少し恥ずかしげに頬をかきながら俺の膝に座ってきた。
………………。
「ねぇ」
危険を感じて顔を即座に下げた俺。しかし、平坦で感情を感じさせない大人の声が聞こえてしまった。
「…………」
「こっち、むこうか」
「…………あの。……あぁ……」
何も頭で考えられない。でも何かを言わなきゃと覚悟を決めて顔を上げた俺の目に映ったのは。
「シュウ、正座しよっか?」
笑顔なのに、凄みと圧を感じさせる先生。そして、怒られる前に聞く定番のひと言だった。
……。
…………。
………………。
「——と、言うことがありましてですね……はい」
「うんうん、そんな感じだね〜」
ホシノとふたりで何があったかをほぼ全て話した。怖くてゲロってしまった。
その結果。
「わぁ〜……素敵ですね〜!」
顔をキラキラさせて興奮したまま感想を言うノノミさん。
「それは何とも……すごいことになってたのね」
純粋に驚きつつも、顔を赤くして俺とホシノをチラチラと見るセリカさん。
「昔の純粋無垢なホシノ先輩にそんなことをしたら、そうなりますよ……」
呆れた顔でごもっともすぎる言葉を投げかけてくるアヤネさん。
「ん。先輩、大人になってた」
無表情。でもサムズアップとともに口元は笑っているシロコさん。そして。
「黒服……はぁ……。それ以上にキミは、全く……」
黒服と俺に呆れたような顔をする先生。
これによって自分がした恥ずかしいムーヴや言葉がほぼ全部バレたわけで。みんなからの生暖かい目線と言葉が、あまりにも俺のメンタルを削ってくる。
ああ、さようなら。俺の平穏な生活。と、諦めた顔をしている俺をよそに。
「これで気兼ねなく、くっ付けるね〜。うへへ〜」
と笑顔で抱きついてくるホシノ。経験したことは一緒のはずなのに、何でこんなにも違うんだ。
いや、まぁ……隠そうとしてた俺と、最初から全部話す気だったホシノじゃ違うか、と思っていれば後輩組(セリカさん&アヤネさん)がずいっと近づいて、質問を投げかけてくる。
「ホシノ先輩とシュウ先輩って、つまりは……」
「お互い好き同士……ってことよね」
「え、あー」
何これ、どんな羞恥プレイ? ホシノに抱きつかれたまま、その子が好きかって後輩に確認されるって。
言い淀む俺に痺れを切らしたかのように、同級生組(シロコさん&ノノミさん)が問い詰めてきた。
「ん、はっきり言う」
「………えっと」
「おふたりはあつあつ、ですね〜?」
う。と言いづらい顔をしていると、俺を後ろから抱きしめていたホシノが当たり前のように。
「えへへ……うん。私もシュウくんも大好き同士だよ。……ね?」
と、自慢げに同意を求められてしまっては、もう逃げ道もなく。
「…………。はい……」
と答えるしかなかった。
俺の言葉を聞いて、嬉しそうにぎゅ〜とより強く抱きしめてくるホシノ。それを見たみんなは。
「「「きゃ〜!」」」
「ん!」
「あ〜。コーヒーが恋しいや……」
予想していたけど、見たくなかった反応。
くっそ、くっそ……。恥ずかしいっ……! むちゃくちゃ顔が熱くなっている。
勘弁してくれないかな、と思っている中でみんなはまだ興奮したまま。つまりは質問が飛んでくる。
「キス、キスってどんな感じなんです〜!?」
「……知らん」
「え〜? ぽかぽかして幸せかな」
「ホシノ?」
「その、初めては痛いと聞きますが……? あとどんな感じなんですか……!」
「知らん!!!」
「ちょっと痛いけど、シュウくんは優しかったよ。……少しだけ、体力ありすぎだったけどね」
「ホシノさん??」
何で当たり前のように答えているんだ? と頬が引き攣りながらホシノに聞けば、耳元にこっそりと。
「こうやってアピールしておけば、シュウ先輩が他の子に取られる心配ないですから」
「……お、おう」
後輩モードでそんなことを言われては、嬉しくならない男などいるはずもない。てか、めちゃくちゃ照れる。
「あ〜、照れた〜」
「うわ、なんかこっそり話してる!」
「私たちにも聞かせるべき」
「何でもないよ〜?」
きゃっきゃと俺を挟んで話すみんな。ほんと仲良いね、君たち。
と、ちょっと呆れてたなかでひょんな質問が先生から飛んでくる。
「まぁ、好き同士で付き合っているなら、何かを私が言うのは野暮だね」
「はい?」
「へ?」
「え。なに、ふたりして不思議そうな顔して」
付き合う? ……あれ。と、俺とホシノはお互いの顔を見合ってしまう。たぶん、同じことを疑問に思っている。
俺たちのその反応に他のみんなも頭にハテナが浮かんでいた。
「俺とホシノって」
「私とシュウくんって」
「「付き合ってるの?」」
「「「「「は?」」」」」
お互いの気持ちは通じているし、言葉でも言い合った。何なら深い関係にもなっているが。
「付き合おうとかは言ってなかったよな」
「ん〜。そういえば、そうだね」
「待って待って」
「キスしたのに!? それ以上のこともしてるのに!?」
「でもお互いに好きって……」
「言ってたわよね」
「シュウ、ホシノ。どう言うこと?」
なぜか俺たち以上に混乱している先生たち。うーん、何というかなぁ。
「俺、ホシノと一緒にいるのが当たり前すぎて、その辺を考えてなかったというか」
「うん。どうせ私、シュウくんのそばにずっといるから」
お互いが一緒にいるのは当たり前のこと。そう認識していた。
でも、それは側から見ると……まぁ、ちょっとね。
「「うわ〜……」」
「ん……。アヤネ、コーヒー欲しい。ブラックの濃いめ」
「もう入れ始めてます。先生もいります?」
「うん。私のやつは2倍……3倍くらい濃いめで」
ちょっとして。今は俺と先生、ホシノは他のみんなと話している。耳には。
「ホシノ先輩、どこでシュウのこと好きになったの?」
「う、うへへ。ひみつ」
「えー! 教えてよー」
「なら、どこが好きなんです〜?」
「え、と…………全部」
「わ……。ベタ惚れですね……!」
と、聞いているこっちが羞恥で死にそうになる会話が耳に入ってきて、必死に耐えている。やっぱり拷問では?
ぐむむ、と唸っていると穏やかに笑う先生が目に入って、より気恥ずかしくなる。
「なんすか」
「ん? ただ若い子はいいなーって」
「……先生も十分に若いでしょ」
「学生の青春はもう私には眩しく見えるの」
ずずっと真っ黒なコーヒーをずいぶんと美味しそうに飲む先生。苦くないの?
「さて、ちょっとだけ私は真面目な話かな」
「はい?」
「何となく……というか、もろでわかるから言うけどね」
「何です」
「シュウ、昨晩もホシノと関係を持ったでしょ」
自分でもびっくりする速度で顔を背けてしまった。
「…………いいえ?」
「こら。こっちを向く」
え、何でバレてんの? と滝のような汗を流す。予想ではなく確信を持った顔で先生に言われて、口が滑ったかと必死に思い出すが、心当たりはない。
ため息が聞こえて、恐る恐る顔を先生へと向け直せば。何となく死んだ目でコーヒーを無心で啜る姿が。でも、聞くしかない。
「あの、何で?」
「はぁ……あのね」
「……はい」
「ホシノとシュウ、同じ匂いするよ。シャワーとか浴びるとき、同じもの使ったでしょ」
「…………」
「そんな青天の霹靂みたいな顔されてもね」
あまりにも、あまりにも間抜けすぎた。お泊まりしてるのだから、そりゃ使うシャンプーとかは同じになる。
しかも入ったのは朝。つまり。
「シュウ以外、とっくにみんな気づいてるし、自覚してるよ」
「っ!?」
反射的に振り向けば、俺の方を見て微笑ましそうに笑ったり、ふんす、とドヤ顔しているみんなと、顔を赤くしたホシノが目に映る。
「あはは……」
「ふふ……」
「バッチリ同じ匂いじゃない」
「ん。マーキング」
「うへへ……ちょ、ちょっとこれはおじさんも照れるね」
「……盗み聞きするな!!!」
「言い返せないからって論点をずらさない」
「……はい」
バカすぎる。みんなにバレないように、一番慎重になっていたと思い込んでいた俺がトップで間抜けだった……?
「はぁ……コーヒーおかわりしよ」
「3杯目ですよ、それ」
「飲んでなきゃやってられないの」
酒に溺れたダメな大人みたいな発言するじゃん……。
ひと息ついて、また真面目な空気となった先生。次は何を……。
「しっかり避妊してる?」
「え、真面目な空気は?」
「真面目に聞いてるよ」
「ああ、はい……」
真顔で言われてしゅんとする。いやだってさ、先生……大人の女性からこんなこと言われるとは思わないじゃんか?
え、そう思っているのは俺だけ。そうですか。
「学生のうちから子どもが出来たら大変なのはわかるでしょ?」
「はい、それはもちろん」
「先生としては“だめ”って言わないとなんだけどね」
先生の視線がホシノへと向く。その目はとても優しげで、どこか安心しているものに見えた。
「先生?」
「ホシノはね、ひとりだとちょっと危なっかしいところもあるから」
「……そうですね」
「私以上にシュウは知っているよね」
「ええ」
「だからさ。シュウって繋がりができて、あんなふうに子どもらしくはしゃぐホシノを見て安心はしてるんだ」
「……」
「だから、まぁ……これは先生じゃなくてひとりの大人としてね。好き同士だからシちゃうのはしょうがないけど、しっかりと避妊はすること。わかった?」
「はい」
「ん。ならいいよ」
またコーヒーを一口飲む先生。
ごく当たり前のこと。ただでさえ小柄なホシノがいま、子どもができてしまったら大変なのは間違いない。
気をつけよう。そう思ったのと同時に脳裏に蘇るのは昨晩のこと。
“やぁ……ぬいちゃイヤです……っ!”
“せんぱいとの赤ちゃん、欲しいです……”
………………。
「……何、顔を赤くしてるの?」
「あ、え……何でもない、です」
「……………はぁ〜〜〜〜〜〜」
「で、でかいため息ですね?」
「いやー。コーヒーが甘くて甘くて、もっと濃くすればよかったかな〜〜」
「え。ブラックですよ、それ」
「あははは。嫌味も通じないほど幸せなんだねシュウは」
笑っているのに真顔。怖い、すっごい怖い。
め、目が……瞳孔がめちゃくちゃ開いてる……!?
身を引いて先生から逃げようとしたとき、向こうでホシノと話していたシロコさんがやって来た。
「あれ、どした?」
「ん、シュウとも話したい」
「そりゃ構わんけど、だいたいはホシノから聞いただろ」
「うん。でもちょっと安心した」
いつものクールな無表情。でも本当にホッとしているような声音のシロコさん。何が心配だったんだ。
「安心?」
「シュウ、ちゃんと女の子が好きだったんだ」
「どう言う意味だよ?」
「私の家に泊まった時、そういう“そぶり”なかったから」
シーン。
あれほどキャーキャーと騒いでいたはずなのに。
痛いほどの静寂と視線が俺に突き刺さっている。
「あ、あの……シロコさん?」
「私の耳、よく触るけどそっちは何もなかったから」
「待って。ステイ、ステイだ」
「あ。確かにシュウ先輩、私の耳もよく触るかも」
「待って。セリカさん、本当に待って」
ケモな耳を持つ2人が言葉を発するたびに部屋の温度がぐんぐん下がっていく。気のせい、気のせいだと思いたい。
けど、確かな冷気と怒気をとある一点から感じて、体が震える。
「シュウくん」
名前が真後ろから呼ばれる。低い、メチャクチャに低い声。
あまりにも聞き覚えがある後輩モードの声に、震えながら振り向けば。
「おじさんさ。その話、詳しく聞きたいな?」
「た、小鳥遊先輩モード……!?」
さっきまで部屋の奥にいたのに気づけば真後ろにいたホシノ。そして、シロコさんと先生はみんなのいるところへ避難していた。
いや、みんな行動早くない? と思いつつ、今自分が口走ってしまった失言にハッとなる。
「“小鳥遊先輩”、ねぇ。おじさん、耳が遠くなっちゃったのかな〜〜〜〜?」
「ち、違うんですよ、これは違うんです……!」
「ん〜〜? 敬語〜〜?」
「あ……」
アウト。完全アウト。つい先日の会話を思い出す。
俺がホシノを苗字呼びしたら、どうなるか。
視線をみんなの方に向ける。ひどく冷たい目をしているが、そんなのは良いんだ。けど、問題はしっかりと全員いること。
逃げるが勝ちって言葉、素敵だよね。
「……さらばっ!」
踵を返して扉を開こうとして……。
「あれ?」
手を伸ばした先は天井。そして、腰にほんの少しの重み。
何だろう、見覚えがある。確かこれは初めて小鳥遊先輩に挨拶へ行った時。
「私、言いましたよね」
ぐい、と肩に手が置かれて固定される。その小柄な体のどこから出ているんだと疑問に思うほどの、とんでもない力。
貼り付けられたかのように動かない体。目の前には。
「さて、先輩」
にっこりと可愛い笑顔。幼いながら整った綺麗な顔。長く伸びた彼女の桃色の髪が俺の頬を撫でる。
これだけ聞けばご褒美。でも。
「苗字呼びしたら、みんなの前で何をするって言いましたっけ?」
口調、声音があまりにも低く恐ろしい。そして、ホシノが本当にあの時に言っていたことをやろうとしていると察して、慌てはじめる。
「ま、まま待って? 落ち着こ?」
「ふふ。私はすっごく冷静です」
冷静じゃないだろ! と言いたくなったが、圧がありすぎる声に反論できない。
「苗字呼び、しましたね?」
「は、い……」
「私の知らないところで、他の子とイチャイチャしてましたね?」
「い、いやそれは」
「はい?」
「……してました」
頭をしっかりと固定される。
「なら、罰ですね?」
「ま、待って——」
くれ、と言う前にはもうメチャクチャにされていた。
口を無理やり開かされて、蹂躙された。みんなの前で、しっかりと見せつけるように。
耳には“これ”を見ているギャラリーたちの息を呑む音や、恥ずかしそうな声が聞こえる。
どれほど経ったか。目に光がない俺に対して、口元から銀色に光る唾液の線を残して、ほのかに頬を染めたホシノが言った言葉は。
「
俺は、とんでもない子に弱みを握られてしまったかもしれない。
「コーヒー、甘すぎ」
そんな先生のひと言だけがいやに耳に残った。
はい。終わりです! コーヒーうまい! コーヒーうまい!
感想、評価お待ちしております。感想の返信は必ずするので、もう少しだけ待っててね……。ほんとすみません。