ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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#解-1.

Vol.2における由九咲 シュウは、Vol.1の由九咲 シュウと“同一人物であり、同一存在である”。







D-02:可愛いだけの梔子さん。……いや、えっちぃだけかも?

 

 

 

 炎天下のアビドス砂漠。

 

 砂しかないただの砂漠で、普段は人ひとりいない静かな場所。……だが、今日はちょっと様子が違う。

 

 ひゅ〜ん、どかん。

 

 距離にして約5メートルほど後方。そこから聞こえた音に冷や汗をこれでもかと流しながらも、必死に前だけを向いて走り続ける。

 

 ミサイルが着弾したところとは、また別方向から大きな盾を頭にあてて悲鳴を上げながら逃げるユメ先輩の姿。

 

 

「ひぃ〜ん! 助けてぇ、ホシノちゃん、シュウくん〜〜!!」

 

 

 さらに反対側。足を取られる砂地にも関わらず、俊敏に敵の攻撃をかわしながらショットガンで押し寄せてくるドローンを破壊するホシノが目に映る。

 

 真顔で片っ端から打ち落とし続けているが、流石にこっちを助けるほどの余裕は無い様子。ちらり、と目線が俺と合って。

 

 

「シュウ、ユメ先輩のフォローを! こちらは私ひとりで大丈夫ですから、後ほどB地点で合流!」

 

「おっけい!」

 

 

 すぐさまに思考を切り替えて、走る方向を左斜めに変更。

 

 いまだにフラフラと走り続けるユメ先輩へと合流するべく、足で砂を蹴る。

 

 走りづらいとはいえ、こうして砂漠で変な奴らに追いかけられるのも3回を超えてからは慣れ始めた。

 

 背後から迫ってくる敵と弾丸の弾道を予測しつつ、最速で目的の先輩の元へと辿りつく。

 

 まだ情けない悲鳴を上げるだけの余裕があることに、呆れつつも安心しながらユメ先輩をガッと抱き上げる。

 

 

「うわーん! ……ひゃぁ!? し、シュウくん?」

 

「逃げますよ! ……重っ」

 

「重くないもん!」

 

「先輩じゃなくて盾!」

 

 

 ムッとした顔で叫ばれるが重いものは重いのだ。主にシールドが。

 

 この場でよくそんなことを言えるな! とツッコミかけるが、また近くにミサイルが落ちてきて、それどころではなくなる。

 

 直ちに逃げなければ、とユメ先輩を抱え直して走る。

 

 かなり頑丈な先輩だが、速度は遅め。一緒に走るよりも俺が抱えた方が早いとは、これいかに。

 

 

「で、でもホシノちゃんが……あれ?」

 

 

 つい先ほどまでホシノが戦っていた場所を確認するユメ先輩が、疑問の声をあげた。

 

 俺も一瞬だけ目線をそちらに向ければ、そこには破壊された多くのドローンの残骸が積み重なっているだけで、彼女の影はすでに消えていた。

 

 

「とっくに後退してます! というか、ホシノはユメ先輩を逃すために今の今まで戦ってたんですよ?」

 

「そ、そっか……。ごめんね?」

 

「いつものことです。それより盾を俺の背中に構えておいてください!」

 

「うぇ! は、はいっ!」 

 

「あとなるべく頭は俺の胸の方にかがめて! そう、良い子です!」

 

「うぅ……そんな子どもに言うみたいにぃ……」

 

 

 実際、テンパっていたり混乱している時のユメ先輩の頭は子どもと変わらないのでは。とか言うとまた怒られるので、適当に謝って速度を上げる。

 

 見る見るうちに敵との距離が離れて、後ろから聞こえる爆撃音も小さくなってくる。

 

 あくまで俺たちを追い払うために攻撃していたみたいだ。オート操作のメカやミサイルでの攻撃だったし、一定の範囲からは出てこなかったのを見て、そう予想していたがビンゴだった。

 

 

「わ。相変わらず速いね」

 

「先輩が軽ければ、もっと早く走れるんですけどね」

 

「また重いって言った! もぉ〜〜!!」

 

「痛い痛い」

 

 

 ほっぺを膨らませた先輩に、ぽこぽこと胸元を叩かれる。

 

 少し余裕が出て来てユメ先輩と戯れつつ、ホシノとの合流ポイントへと向かう。

 

 落ち合う場所に使うのは、ここから数分ほどで着くビルの廃墟。

 

 時折、トラブルに見舞われた際などで離れ離れになった時には良く使っている場所。

 

 他にもいくつかあるが、そこが1番近いからホシノはあの廃ビルを指定したのだろう。

 

 にしても暑いなぁ、とため息をこぼすと、腕に抱えたユメ先輩がびくり、と動く。

 

 なんだ? と顔を向ければ申し訳なさそうに眉をハの字に下げていた。

 

 

「どうしたんすか」

 

「……また迷惑かけちゃって、ごめんね」

 

「今回に関しては先輩、そんなに悪くないですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出し、遡るのは朝方の会議での話。

 

 ホシノは自分の愛銃をメンテナンス、俺はボケーっと外を見ていたところ。

 

 ガシャン、とドアが開いて颯爽と元気よく我らが生徒会長様が満遍の笑みで登場した。

 

 

「これ見て!」

 

「「?」」

 

 

 ユメ先輩がどこから持ってきたのかも予想できない、古い紙の束をドンと机に並べる。

 

 なんだなんだ、と俺とホシノが揃って不思議な顔をしたまま書類と思われる紙を手に取って確認してみると。

 

 

「“機密書類”って書いてありますけど」

 

「うんっ! 昔の人たちが使ってた倉庫で見つけたんだ」

 

「へぇ……」

 

 

 中身を読み進めると、なんだか難しい単語や言葉がたくさん並んでいる。

 

 よくわからない部分を飛ばしつつ、要約すれば。

 

 

「アビドスの砂漠に何かすごいものが隠されている、ってことであってます?」

 

「いぐざくとりー!」

 

 

 ドヤ! とした顔で腰に手を当てて誇らしげなユメ先輩。一方、ホシノは真剣に資料を読み進めている。……心なしか目が輝いている気がする。

 

 

「で、これがなんです?」

 

「え? すごいものだよ! きっとお宝だよ!?」

 

「は、はぁ……。で、どうすると?」

 

「決まってるよ!」

 

 

 そのひと言とともに、どこからか出したシャベルを片手に輝いた笑顔で。

 

 

「宝探し! これで借金を返済!」

 

「そんな上手い話ないですって……。行くにしても準備とかしっかり……」

 

 

 と、俺が止めようとした時。ぽん、と肩に手が置かれる。

 

 ……また、このパターン? と少し億劫気味に振り返れば、そこには目をキラキラさせたホシノさん(15歳)が。

 

 

「何を悠長なことを言ってるのですか! ユメ先輩、行きましょう!」

 

「さっすがホシノちゃん! ほらほら、シュウくんは?」

 

 

 前方のユメ先輩、後方のホシノ。ふたりしてワクワクした顔で今にも飛び出しそうな勢い。

 

 ずいっと距離を詰めて“行くよね? ね!?”と懐いた犬のような顔をされては、拒否などできない。

 

 まぁ、うん。俺も興味がないといえば嘘になるし、隠されている財宝なんてロマンがある。

 

 

「……行きますか!」

 

「なら急ぎましょう!」

 

「うんうん! 頑張るぞー、お〜〜!」

 

「「おー!」」

 

 

 こうした経緯があって、3人揃ってシャベルを肩に乗せて出発。

 

 ギンギラギンに照り返るお日様の元で、資料を見ながらひたすら砂漠の砂を掘っていた。

 

 

「あっつい〜……。暑くて干からびそう〜……」

 

 

 デフォルメされたような目で今にも溶けそうになりながら、ひたすら砂を掘り起こすユメ先輩。

 

 汗で制服のシャツが透けてライトグリーンの下着が薄く見えている。

 

 ……うむ、お宝発見!

 

 

「何すけべな顔してるんですか」

 

 

 ひとりユメ先輩を見てニヤけていると、手が止まっている俺に苦言を呈する同級生からの声で、一瞬だけ冷や汗をかく。

 

 

「……いや、お宝は案外近くにあるもんだと」

 

「? ああ、ユメ先輩ですか……」

 

「動きすぎて暑いよぉ〜〜!!」

 

 

 俺とホシノの会話は聞こえていないようで、うがー! と両手を上げながら相手もいないのに、不満と怒りを声に出す先輩。

 

 それ、逆に暑くならない? と思いつつも、俺の目線は固定されたまま。

 

 

「「……おお」」

 

 

 ぷるん。すっごい揺れてる。ゼリーか?

 

 ぶんぶんと手を動かすたびに、ユメ先輩の母性が暴れている。

 

 う〜ん、これはえっち! ……ん? なんか感嘆とした声が横からも聞こえたような。

 

 目線を少し横に動かせば。

 

 

「はぇ〜……」

 

 

 と、間抜けな顔をして驚いた顔をしているホシノが。え、何。君もこっち側?

 

 

「同性でもあの大きさは、中々にクるものがありますから。……私のは、これですし」

 

 

 ため息と共に自分の胸を見下ろす小柄な少女。

 

 ぺたん、とまでは言わないけどユメ先輩と比べるとなぁ。

 

 ……こっちはライトブルーか。良いっすね。

 

 一点に視線が吸い込まれていた俺に気づいたホシノが、シワを眉間に寄せて不機嫌そうな顔になる。

 

 すっと視線を戻す。

 

 

「……ヘンタイ」

 

「なんのことやら。……ユメ先輩そろそろ限界かな」

 

「あれだけ元気よく声を出してるので、まだ余裕あるんじゃないですか」

 

 

 それだけ言い残して元の場所へと戻り、またせっせと砂を掘り返すホシノ。でも、少し心配な気がするけど。

 

 一応、声だけかけようかなとユメ先輩の元へ行こうとした俺にホシノからストップがかけられる。

 

 

「シュウ、ユメ先輩はほっておきますよ」

 

「良いのかな?」

 

「むしろ今、行ったら酷い目に遭います」

 

「え?」

 

「……私は止めましたから。どうするかは任せます」

 

 

 どこか遠い目をして、くるりと背を向ける。

 

 うーむ、ホシノがこう言っているなら平気かもだけど……一応、ひと言だけ聞いておくか。

 

 わんわん言っているユメ先輩の方へと近寄って言葉を投げかけてみる。

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「暑いよ〜! うわ〜ん! 元気でないよ〜!」

 

「めちゃくちゃ元気じゃないですか」

 

「なんでシュウくんはそんな平気そうなの!」

 

「え? まぁ、元々暑さに耐性ありますし。あとこれ」

 

 

 背中に入れておいた保冷剤を見せる。

 

 こんなクソ暑い中なら、これくらいの下準備はしてくる。ホシノもちゃっかり俺から持って行ったし。

 

 俺が取り出したものを見て、ポカンとしたユメ先輩。何度か俺と保冷剤を交互に見て、ぷく〜っと頬を膨らませる。

 

 

「何それ! 私持ってない!」

 

「えぇ……準備しましょうよ」

 

「ずるい! 私も欲しい!」

 

「いやこれが最後で……って、ちょ!?」

 

 

 両手を広げて襲いくるユメ先輩。油断していた俺はものの見事に捕獲される。

 

 汗でべちゃべちゃになった先輩に捕まって、こちらもびしゃびしゃになる。

 

 その上、びっくりするくらいに暑い彼女の体温が俺の体の熱を一気に上昇させる。

 

 

「わぁ……シュウくん冷たいぃ……冷やっこい〜……」

 

「汗でぐちゃぐちゃ! しかもあっつい!」

 

「うへへ、ひんやりだぁ……」

 

「よりくっつくなぁ!!」

 

 

 ぎゅ〜〜っともう離さないとばかりにしがみつかれて、完全に逃げ出せなくなる。

 

 助けを求めてホシノに目線を送れば、“だから言ったのに”と呆れた顔でこっちの様子を見ていた。

 

 まずい、助けがない。自分でどうにかせねばと必死にもがいて声を上げる

 

 

「離れて、マジで離れて!」

 

「体と一緒に言葉まで冷たい!」

 

「アンタのせいだろ!」

 

「でも気持ちいいからいいや〜……」

 

「俺が暑いの! てか汗気持ち悪い! 匂いも……?」

 

 

 あれ、匂いは良いスメル? こんだけ汗かいてるのに、ユメ先輩からはふんわりとした甘い匂いが鼻に入ってくる。

 

 妙だな、とくんくん鼻を鳴らせていると、キョトンとしたユメ先輩の顔とこんにちわ。

 

 

「どしたの?」

 

「先輩、汗の匂いとかしないんですね。なんか、すっごい良い匂いがっ!?」

 

 

 ドンッ! と押されて、直前まで感じていたあっつい体温が離れていく。

 

 尻餅をついて、なんだ? と顔を上げれば目の前には顔を真っ赤にして膨れて恥ずかしそうに怒るユメ先輩が。

 

 両手で体を抱きしめて逃げるように、俺から隠すように身を引いている姿を見てハッとする。

 

 どう考えても、さっきの発言はセクハラでは?

 

 あまりの暑さに、茹った頭から考えていたことがそのまま口に出るとか、どこのラブコメ主人公だ?

 

 少ししどろもどろになりながらも、ユメ先輩へと言い訳じみた言葉を出そうと口を動かす。

 

 

「えっと、あの……違うんですよ?」

 

「えっち!」

 

「も、元を言えば先輩が抱きついてきたんでしょ!」

 

「うぇ!? それはシュウくんを捕まえようとして……!」

 

「だからって異性には抱き付かないよ?」

 

「いつもくっついてるじゃん」

 

 

 確かに。一瞬だけ納得しそうになったが、頭を振るって正気に戻る。

 

 

「ホシノと同じ扱いしてるの先輩です」

 

「う、うぅ〜……だからって匂い嗅がないでよ!」

 

「いや、臭いとかじゃないですし……なんか安心する香りというか」

 

「汗臭く、なかった?」

 

「はい、全く」

 

「そ、そっか。……シュウくんも良い匂い、したよ?」

 

「えと……どうも?」

 

「え、えへへ」

 

「あ、あはは……」

 

 

 口喧嘩していたはずなのに、なぜかお互いに顔を見合って笑い合っていた。

 

 なんだか気恥ずかしい気持ちが出てきていたたまれない。それは俺だけじゃなくて、ユメ先輩も同じようで目線をずっと外したまま。

 

 微妙な空気。まさにそんな雰囲気。

 

 それをぶっ壊したのは、ここまでずっと傍観していたホシノのため息と小さなひと言。

 

 

「何をいちゃついてるんですか」

 

「「いちゃついてない(もん)!!」」

 

「息もぴったりで仲良いですね」

 

「「真似するな(しないで)!!」」

 

「はぁ……」

 

 

 同級生にいいように揶揄われる情けない男がおったそうな。

 

 アビドスの広い砂漠。古い書類を辿ってたどり着いたとある場所。

 

 騒がしくも宝探しをしていた俺たちだったが、異変はなんの前触れもなく突然、発生した。

 

 場所を少しずつ動きながら、ここでもない、あそこでもないと動き回っていたとき、ホシノが唐突にシャベルを投げ捨てて、銃を構えた。

 

 

「——ッ」

 

「ホシノ?」

 

「どうしたの?」

 

「構えてください。……敵のようです」

 

 

 え?

 

 俺かユメ先輩か。

 

 どちらかの口からこぼれ出た疑問の言葉。でもそれは、大きな爆発音で掻き消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い返しても特にユメ先輩が悪いところはない気がする。

 

 きっかけは先輩だが、こうなったのはなぜかわからない。さっきまでこちらを襲ってきていた機械たちも、どこのものかわからないし。

 

 少し引っかかるのは一定の範囲までしか追いかけてこない点。まるで何かを守っているような。

 

 うーん。と考えている俺に、ユメ先輩は申し訳なさそうな顔をしている。

 

 気にしすぎだと思うが。

 

 

「でもでも、私がここにふたりを誘わなければ……」

 

「結果論です。いつものようにどう見ても罠な案件じゃないので」

 

「うー……」

 

「そんなに気を落とさないでくださいよ。よしよし……」

 

「後輩の心遣いが沁みるよぉ」

 

「はいはい。……だからって俺の制服で鼻をかまないで?」

 

 

 ずずーっといい音してるなぁ。とか思ったら気持ち良いくらいの勢いで鼻をかむし、胸で涙を拭ってやがる。

 

 替えはあるし、洗えばいいから構わないけどさ。

 

 割と真面目に落ち込んでいるようで、ちょっと心配に。

 

 

「案外、スリルあって楽しかったですよ俺は。多分、ホシノも」

 

「お宝、見つからなかったよ?」

 

「いいんですよ。思い出も宝みたいなもんです」

 

「……えへへ。ちょっとクサいね?」

 

「人が元気づけようとしてるのに何でそんなこというの?」

 

「もう元気だからだよー!」

 

「なら降りてくださいよ。割と重いっす」

 

「あー! また言ったー!! 罰としてこのまま運べー!」

 

「はいはい……」

 

 

 ぽこぽこ。ぽこ、ぽこ、ぽこ。

 

 正直、全く痛くないパンチを繰り返してくる先輩に苦笑い。

 

 顔は綺麗な人なのに、仕草や表情は子どもっぽくて可愛い。だから何でもかんでも許しちゃうのは、男のサガなのかな。

 

 

「でも、シュウくんたちが楽しかったなら、良かったのかな」

 

「ええ」

 

「ならこうやって、また一緒にいろんなとこ行こうね?」

 

「変なトラブルとかはマジ勘弁」

 

 

 突然、呼び出されたと思ったら闇カジノだった時が一番ヒヤッとしたなぁ……なんて遠い目をしていれば、何を勘違いしたのかユメ先輩が俺の胸元で頷く。

 

 

「それもまた青春の1ページだね!」

 

「俺の青春、借金まみれ?」

 

「頑張ってアビドスを救おう! 私たち3人で!」

 

「そうっすね……。俺たち、3人……で?」

 

 

 違和感。

 

 自分が言った言葉と、ユメ先輩から言われた言葉にとても小さな違和感を感じた。

 

 口の中で今言った言葉を繰り返す。“3人”。

 

 アビドスを守るのは、俺たち3人。自分とホシノ、それからユメ先輩。

 

 当たり前のことだ。“ずっとこうして頑張ってきた”。

 

 ……なんだ、何が引っ掛かっている? 

 

 

「シュウくん?」

 

「……あ、何です?」

 

「急に黙ってどうしたの?」

 

「いえ。なんでも……————っ」

 

 

 不思議そうなユメ先輩の顔を見て、何でもないと口から言葉が出かけた時。

 

 ふと、脳裏に何かがよぎった。

 

 見たことがない教室。アビドス生徒会室に少しだけ似たホワイトボードと机がある、少し古い部屋。

 

 そこで、俺は、“みんな”と——。

 

 

「シュウくん」

 

「ぁ……?」

 

 

 柔らかな手が俺の両頬を掴む。

 

 目の中には滅多に見ない真剣な顔をしたユメ先輩が映る。

 

 俺のことをじっと見て、数秒。

 

 たったそれだけの時間。気づけば心配そうに笑うユメ先輩の顔へと変わっていた。

 

 

「大丈夫? 頭痛いの?」

 

「い、え……大丈夫です」

 

「私、降りるね。肩、貸そっか?」

 

「……あれ?」

 

 

 ジン、とした痛みはどこかに消えて何ともなくなる。というか、俺は。

 

 

「今、何を考えてたんだっけか……?」

 

「えー、何それ? ボケるには早いぞー」

 

 

 笑った先輩に頭をポンポン撫でられて、釣られるように俺も笑う。

 

 暑さで少しやられたのかな。

 

 

「ほら、行こう。ホシノちゃん待ってるだろうし」

 

「はい。って場所わかるんですか?」

 

「……あ、あはは。ついていきまーす」

 

「はぁ……」

 

 

 また、こうして俺の日常が進んでいく。

 

 莫大な借金を返済する。それはいつになるのやら。

 

 

 

 

 






実はTwitter(X)のアカウントを作りました。良かったら絡みにきてね!

@Hosino_sukisuki

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