ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
#解-2.
Vol.2における小鳥遊 ホシノは、Vol.1の小鳥遊 ホシノと“別存在である”。
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活動報告にて、Vol.1のプロットを公開しました。ついでにR-18とか番外編についての話もしているので、良ければ意見をいただけると!
あとツイッターのフォローなどありがとうございます。近い距離で読者さんと話せるの、めちゃくちゃ楽しいです。
「さむっ……」
隙間風が吹き込み、少し身震いする。
時刻は21時過ぎ。30人以上は入ることができるであろう古い教室の中。
4つある電気のうち、1つだけをつけて少し薄暗い自分だけの空間。そこで俺は下半身を布団へと突っ込みながら携帯をいじっていた。
陽が出ている日中は汗をダラダラ掻くくらいには暑いアビドスだが、夜になれば一気に温度は落ちる。
身に纏った寝巻きがわりの学校指定ジャージを擦りながら、窓の方へと移動してみれば当たり前だが、外は真っ暗でひどく静か。
「……ふーむ」
主にユメ先輩によって喧騒ばかりのお昼。真逆でシーンとした夜の学校。
ノスタルジック、という言葉で表現するには意味がだいぶ違うが。ひとりで静かにぼーっと真っ暗な校庭を窓から見下ろすのも悪くない。
みんなと一緒にいるのは楽しいが、ごくたまにこうやって孤独に過ごすのも嫌いではない。誰とも話さずにひとりで考えたいこともあるしな。
何も考えず、ただ頭を空っぽにして青くさい感傷に浸るというのも中々に乙なものが……。
「やっほー、遊びにきたよー!」
「ぐふっ……」
ガララ、と横開けのドアを開いた音がしたと思えば背中に軽い衝撃。首に回された腕、白い布生地に黒い線が入ったそれはアビドス指定の体操服、ジャージのもの。
台無しにされた今の今までの感傷にぶすっとした顔のまま、横を向けば真横にはニコニコのユメ先輩の顔。
背中に当たる感触を必死に無視しながら、やたら高い体温を感じて彼女がシャワーを浴びたばかりだと察する。
鼻に入ってくるフローラルな石鹸剤の匂い、元々あるユメ先輩の甘い香り。
ほんっっっとに、距離感がバグり散らかしてる。
「どしたの? そんな難しい顔して」
風呂上がりでまだ火照った頬のまま、不思議そうな顔をしている先輩。アンタのせいだ、と言いたいところだが。
ここで自分からそんなことを言うのは負けた気がするし、パーソナルスペースがやたら近いのにはこっちも慣れてきている。
変な勘違いを起こさないように、なるべく冷静に。
「なんでもにゃいですよ」
「にゃい? 猫ちゃん?」
「なんでもないですイじるな噛んだだけ!」
「一息ですっごい早口だね」
何が楽しいのか、笑いながらそう言われて無視する。
羞恥で熱くなる身体をドアから離して布団の方へと戻る。
「わ〜。えいっ」
「……っと」
引っ付いたままのユメ先輩は、きゃっきゃと喜びながら俺の背中に飛び乗ってきた。
崩れかけた体のバランスを保っておんぶ状態に。呆れた顔をして横を見れば、いまだに楽しそうな先輩と目があう。
「で、どうしたんですか?」
「ん〜?」
「いや、なんか用事でもあるのかなって」
「遊びにきただけだよ?」
何を言ってるの? と不思議そうな顔をするユメ先輩。
俺は家が無いので、この教室を使わせてもらっているのだが、先輩には普通に家がある。
なのに俺が入学してからと言うものの、ずっと学校に住んでいるのはどうしてなのか。
そんな疑問はあるものの、家庭の事情とかあるかも? と踏み込まずに早くも5ヶ月ちょっと。
寝ている時以外はほぼずっと一緒にいるユメ先輩は、どんどん俺に遠慮がなくなってきている気がする。
たまにホシノも学校に泊まっていく時もあるが、基本はやっぱり帰っている。
……まぁ、俺もずっとひとりは寂しいから寝る前とかに遊びに来てくれる先輩の存在は、嬉しいところであったり。
「複雑そうな顔してるね」
「ユメ先輩がさせてるんですよ?」
「はぇ? 私?」
「はぁ……」
本当に自覚がない様子に少し呆れる。
おっきな子どもを背中に乗せたまま、自分の布団がある場所へと移動する。
なんか疲れたなぁ、と布団に寝転がろうとする前に。
「わーい!」
「ちょっと?」
背中のユメ先輩が俺の布団に飛び込んでいった。ごろごろしたままご満悦な姿に、ついツッコミを入れてしまう。
掛け布団の上で数分転がったあと、枕があった位置にぺたんと座ったユメ先輩は、立ち尽くす俺を見ながらこてん、と顔を横に傾げて。
「来ないの?」
なんてほざいた。バカなの? 本当に勘違いするよ?
「行かないよ?」
「遠慮なく! さ、どーぞ!」
「先輩が遠慮する立場では?」
「いいからおいで〜」
「ちょ……っ!」
手を引っ張られて身体を布団の方へと引っ張られた。こんな形だが力は一丁前で、なす術もなく横になる。
見上げればユメ先輩の顔が目に映り、その表情が変化しているのに気づく。気のせいでなければ、心配しているもの……かな。
「……あの、どうかしました?」
「シュウくん、悩み事ある?」
普段は見ない彼女の表情に、思わず動揺した声が出た。
なぜ自分が動じているか。それはいつもよりも近いユメ先輩の顔とか、頭の下に感じる感触とかではなくて。
気づかれていた、と言うところから来るものだから。
寂しそうに微笑みながら、聞かれた言葉に一瞬だけ息を飲んでしまった。
だから、それが逆にユメ先輩の疑念を確信に変えてしまった。
「やっぱり」
「……そんなにわかりやすかったですか?」
「うん。上手く隠してるつもりみたいだけど、様子がたまに変だったから」
“先輩は可愛い後輩をよく見ているんです”と、いつものような口調で言いつつも先輩の目は真剣だった。
どんな時も真っ直ぐストレート。そんなユメ先輩だから、次に来る言葉も安易に予想できた。
「どうしたの?」
「……なんでもない、って言っても無駄ですよね」
「隠し事は“めっ!”だよ?」
本当に足を踏み入れて欲しくない場所には、一切干渉してこないがこういう時はすぐさま気づいて、話を聞きに来てくれる。
普段のちょっと抜けた人とはえらい違いで、ここには歳上の頼りたくなってしまう先輩がいた。
だから、自ずと口が開いた。
「別に、大したことじゃ無いんです」
「うん」
「いつからか自分でもわからないんですが、今の生活にズレを感じる時があって」
「…………うん」
書類を読んでいる時。ホシノやユメ先輩と話している時。
はたまた会議をしている時や、ひとりで外を眺めている時。
何気ない、ただの日常風景の中で時折、自分の視界に映るものがブレる瞬間があるのだ。
起こるタイミングはまちまち。なんの前触れもなく起きる現象。
それが起きるたびに、少しだけ虚無感が生まれて。そして。
「なんだか凄く寂しくなるんです」
「……そっか」
「はは……。疲れてるんだと思います」
きっとそれだけ。
何かを忘れているような気がしたり、虚しくなるのはきっと思春期特有の現象。
似たような感じで無気力になった人を見たことがある。だから、別に大した悩みでは無いのだ。
けれど、ユメ先輩は違うものを感じ取ったようで。
そっと、頭に暖かなものが当たる。優しく丁寧に、慰めるようにして撫でられる。
「……先輩?」
「シュウくんは、寂しいの?」
「え、いや……」
「すっごく苦しそうな顔して喋ってたよ」
ユメ先輩にそう言われて、ようやく自覚する。
俺、なんだかわからないもの……正体不明の不安に押し潰されそうになってたのか、と。
「大丈夫だよ」
「……」
手を握られて、囁くように。
「絶対、大丈夫。……ごめんね」
「ぇ……?」
安心させる言葉をくれた、そう思ったのに。
目に映る先輩は後悔を隠せない顔をしていて……なぜか謝られた。
でも、瞬きをした次の瞬間には元の表情に戻っていたユメ先輩。
幻覚、とかではないはずなのに。今見たはずの彼女の顔がスッと消える幻想のように、夢のように消えてしまって少し困惑した。
「もー! 寂しいなら言ってくれればいいのに」
「え、あ。……え?」
「しょうがないなぁ〜。一緒に寝る?」
「正気に戻って?」
ひどーい! とぷんぷん怒る先輩に俺も元に戻っていた。
というか、冗談でもそう言うことを言わないでほしい。
「私と一緒に寝るのイヤ?」
「そう言う問題じゃ無いでしょ……」
「?」
「男と女の子が一緒に寝るのは倫理観的に良く無いです」
「え〜、先輩に甘えたくないの?」
不満げに頬をツンツンされるが、本当にそう言う問題では無いのだ。
普段から距離感が近く、いつでも笑顔と元気をくれる優しくて可愛い先輩。
頭ではそういう人だと思っていても、心で感じるのは全く別のもの。
「勘違い、しちゃうと言うか」
「勘違い?」
「……っ」
はて、と頭を傾げるユメ先輩にムッとする。
ただの先輩と後輩。けど性別は男と女。
多感な年頃で否応になく意識してしまう未熟な自分。
弱っていた俺に気づいて、強引ながらも包み込むように慰められて。そんなシチュエーションだったからか。
変な空気と湿った雰囲気に当てられたのもあって、普段なら絶対に言わない言葉を感情のまま、口にしてしまう。
「自覚ないと思いますがユメ先輩はすっごく可愛いんです」
「へ?」
「それで優しくて口には出さずに俺やホシノをいつも気遣ってくれている」
「し、シュウくん……?」
「しかも高頻度で抱きしめてくるし……頬擦りまでされたら俺もおかしくなるっていうか」
「まって、待って。落ち着こ?」
「ホントに勘違いして……好きになっちゃいますよ、俺」
あれ、俺は何を言っているのだろう。
正気に戻ったのは、この数ヶ月間でずっと胸に溜まっていた鬱憤のようなものを吐き切った後。
溜めていたものを全部出して、スッと冷静になった頭。
目の前には、眼をぐるぐるさせて顔を真っ赤にしながら混乱したユメ先輩の顔。
…………あ、やばい。
「へ、え……ふぇ!?」
噴火するように意味にならない言葉を口から漏らす先輩に、やっちまったと後悔。
けど、俺の胸の中はスッキリしていた。なんだか、とても晴れやかな気分だ。
手をぱたぱたさせて混乱するユメ先輩の姿を見て、恥ずかしさもありながらつい笑う。
うん、これは久しぶりに快眠だな。と、少し現実逃避のように思考を切り替える。
使い物にならなくなった先輩をポイっと横にずらして枕をセット。
「ひゃっ……え? え?」
されるがままの先輩はまだ正気に戻っていない。これまでの、あんな勘違いさせるようなムーヴをしてきた先輩にはいい薬だ。
はは、と渇いた笑いが出ながら横になる。布団をかぶって、いまだにどうすればいいのか分かっていないユメ先輩に背を向けて。
「眠いんで俺はもう休みます」
「え? し、シュウくん?」
「じゃ、また明日」
「おやすみじゃないよ! 今すっごく……乙女的にはすっごく大事で、嬉しいことを言われた気がするんだけど!?」
「…………」
「え、嘘でしょ? 本当に寝てる? ……ねぇ、待って! 私こんなんじゃ寝られないよぉ〜〜!!」
ぽこぽこと背中を叩かれるが、もう気にしない。
俺にだって今の発言に思わないところはないが、散々悶々とさせられたのだ。
ユメ先輩にだって少しくらいは同じ思いをしてほしいところ。
騒がしい彼女の声を聞きながらほくそ笑み、意識を深く落としていく。
「う、うぅ〜〜……もう!」
完全に意識が落ちる直前で、何かが布団の中に入り込むような感じがしたが、それを確かめる前には眠ってしまった。
▽
初めは少しで良かった。同じものを体験できればそれで満足。
……でも、少しずつ。ちょっとずつ。
長い時間を一緒に過ごして。寂しい時間が増えて。
儚いこの時間の中で、多くのものを手放せなくなって。
失ったものをもう1度味わうのは、とても酷く甘いもの。
やめよう、と。もうこれで最後と思ったのは何回目か。
けど、やっぱり欲しくなって。
“……ごめんね”
また手を伸ばしてしまった。
だから、これが終わるまで。
どうか、それまでは————。
次回、いろいろおきます。
あと、先に私も謝っておきます。騙してごめんね。