ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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#疑-4.シュウとユメの間に紡がれた絆/縁は“本当に偶然”なのか。



▽読者の方へ
EX-1「私/おじさんで、童貞捨てたくせに……」、  EX-2「クククッ……まさに愛の力、ですねぇ」を読んでおくと、より楽しめると思います。





T.幸福と虚構のユメセカイ
R-01:偶然、或いは必然の拾いモノ


 

 

 

 

 

 

「ぐおぉぉ……!」

 

「もうちょいだ! 気張って押せ!」

 

 

 自分が出せるだけの力を振り絞り、前方へと押す車体の中から励ましの声が聞こえる。

 

 ここはアビドス砂漠。辺りには砂と廃墟しかないこの場所で、運搬のバイトをしているのは俺こと、由九咲シュウ。

 

 運転手である猫のおっちゃんとともに荷物を引き取り、目的地へと運送中に車のタイヤが砂にとられて動けなくなっている、それが今の状況だ。

 

 

「お、少し動いたぞっ!」

 

「うぐぐ……!」

 

 

 ぶぉーん、と耳に聞こえるけたたましいエンジン音。手に伝わってくる太陽の熱であっつあつになった車体の金属。

 

 力を込めるたびに砂に埋もれていく足と、全身から溢れ出てくる汗。

 

 微かに動いた車体に希望を持って、腰に力を入れて踏ん張る。

 

 時間にして数十分ほど。ひたすらに前へと押していた車体がようやく目に見えて動いた。

 

 

「うぐぉぉ!!」

 

 

 もう、これで終わってもいい。だから、ありったけを! 残った体力すべてを投入して、一気に車を押し上げる。

 

 ずさ、ずささ、という音とともにようやく車輪がはまっていた砂から抜けて、車が動くようになった。

 

 それを確認すると同時に腰からへたり込むように砂へと座り込む。呼吸が苦しいし、ろくに力が入らない。

 

 

「よし、抜けたな!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「助かったなぁ……シュウもお疲れさん、ほれ」

 

 

 アクセルをずっと踏んでいたおっちゃんが車から降りてきて、労いの言葉とともに冷えた水を手渡してくれる。

 

 お礼を言う余裕もなく、すぐに受け取って一気に水をあおる。

 

 カラカラになった喉と体に命の恵みが染み渡る。あまりにも美味くて涙が出そうだった。

 

 

「いい飲みっぷりだなぁ」

 

「ふ、ぅ……すんません、助かりました」

 

「気にすんな、こんな暑い中で無理させて悪かったな」

 

「いえ、しょうがないことですし」

 

「俺が近道しようとか言わなきゃ、こんなことにはならなかったろ?」

 

 

 バツが悪そうに謝ってくるおっちゃんに苦笑い。この運搬……いわゆる配達のバイトは何度かしているのだが、この辺りは確かにきたことがない。

 

 普段は使わないルート、ちょっと時間がないからとあまり整備されていない砂漠道を横断しようとしたのが、今の状況につながった。

 

 

「大丈夫っすよ。別に遭難したとかじゃないですし」

 

「けどよぉ、下手したら車のガソリンが切れて干からびてたかも知れないぞ」

 

「この暑さですからね。まぁ、なんとかなったから良いんです」

 

 

 気温は40度は超えていそうなほどに暑いアビドスの砂漠。

 

 ろくに電波も通じず時折、突発的に起こる砂嵐が起きれば遭難してしまうのは、アビドス自治区に住むものなら全員共通の常識だ。

 

 身動きしないでも汗が噴き出すこの場所で、遭難なんてしようものなら……。

 

 

「早いとこ、この辺りから抜けちまいたいところだが……流石にまだ動けないよな」

 

「すんません……」

 

「いや、別に急かしてるとかじゃねぇんだ。少し休んで動けるようになったら行くとすっか」

 

 

 中で待ってるぞー、と言葉を残してタバコを片手に少しだけ先にある車へと歩いていくおっちゃん。

 

 ちょっとだけ申し訳ないと思いつつ、空を見上げて息をつく。

 

 雲ひとつない真っ青な空と、燦々に輝く太陽。少し幾何学模様のようなものが浮かぶ、キヴォトスの見慣れたきった空模様だが、この平穏な日常に欠かせないもの。

 

 ぼーっとして、息を整えて。時間にして5分ほど。

 

 キンキンに冷えていた水が常温に戻ったのに気づいて、重い腰を上げる。

 

 制服のズボンについた砂を払いつつ、チラリと自分がさっきまで踏ん張っていた場所に眼を向ける。

 

 

「……おお」

 

 

 くっきりと残るタイヤの後に、深く掘られたようになった砂。

 

 何も知らない人が見たら何かを掘り起こしていた、とでも思いそうだな。

 

 俺が全力で車を押していた場所なんて、すごい砂の抉れ方をしている。

 

 

「ん?」

 

 

 抉れた砂の中の1点がキラリ、と太陽の光に反射して輝いているのに気づく。

 

 ただの気まぐれ。ふと気になっただけ。

 

 自然と視線がそこへと固定され、足を向かわせる。

 

 砂の中へと手を伸ばして、今なお光を反射する小さなカケラを拾い上げる。

 

 紫、いや薄いピンクに近い色を持つ手のひらよりも小さな石。

 

 濁っているが透けるような感じで、中心部はわずかに小さな緑に近い水色のものが淡く光っているように見える。

 

 

「石……いやガラス? まさか宝石……なわけないか」

 

 

 ところどころに、小さなひびが入った不思議な石ころ。ナニカから砕けて、こぼれ落ちた破片に近い印象を受ける。

 

 じっと見つめていて、不思議と手放すのが惜しくなる気持ちが芽生える。

 

 ただ綺麗なだけのなんの変哲もない……ちょっぴり珍しそうな石。

 

 これをどうしようか、元の場所に戻そうかと考えていると。

 

 

「おーい、もう行けるか?」

 

「あ……すみません!」

 

 

 車から顔を出して声をかけてくるおっちゃんに、脊髄反射で返事をする。

 

 手に持っていた不思議な魅力を持つ石を、自然と胸の内側にしまって駆け出す。

 

 ……ふと、石を入れた胸の辺りが温かくなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうとっくに陽は落ちて、日付が変わる手前の時刻。

 

 自室の冷たいフローリングの上で、顔を下に向けて正座をする男子高校生がいた。

 

 というか、俺だ。

 

 どうして、こんなことをしているかって? はは、そりゃあね。

 

 

「シュウくん」

 

「……はい」

 

 

 柔らかく、甘いトーンの声。ふんわりとしていて、どこかのんびりした耳馴染みのある少女の声。

 

 彼女のことを知らない人が、このニュアンスの説明だけを聞けば、さぞ可憐な美少女を思い浮かべると思う。

 

 ……汗が頬から落ちる。

 

 そっと顔をあげて、俺のベッドの上で足を組んでこちらを見下ろす女の子……ホシノの顔色を伺う。

 

 

「ふふ」

 

「ひぇっ……!?」

 

 

 笑顔、とても良い笑顔。けれど目だけは違う。

 

 優しげな声が真っ赤な嘘かのように、目線は極寒の冷たさを持っていて、つい自分の口から悲鳴が出かけた。

 

 怒っている。しかも激怒に近い、ブチギレだ。

 

 でも理不尽に怒られているわけではないから、俺は何も言い返さずに、ただ正座をして彼女の怒りがおさまることを祈るしかない。

 

 え、なんで怒られてるかって? それは色々とね。

 

 ひとつ目に、ホシノから送られてきたモモトークをつい先程まで返さなかったこと。

 

 ふたつ目は、俺がホシノに嘘をついたこと。

 

 みっつ目は、その嘘……というか隠し事がバレたから。

 

 

「ねぇ」

 

 

 ホシノが再び口を開く。今度は平坦で感情を感じさせない硬い声。

 

 何を聞かれるか、問い詰められるかなど明白で酷く動揺し、脂汗が出てくる。

 

 ……隠していたこと。それはホシノが今、右手に持ってひらひらさせている“黒い名刺”が原因だった。

 

 

「これ、なぁに?」

 

 

 バッチリ、バキバキに因縁があり過ぎる“とある大人”の名前と手書きの連絡先が書かれたソレ。

 

 目が泳ぐ。……なんて答える? ついさっきまで、そいつに誘われて呑気に茶をしばいていた、なんて言えるわけがない。

 

 まずい、全く言い訳が思い浮かばない。

 

 心配した顔で“遅くまでどこ行ってたの?”と聞いてきたホシノに、バイトが長引いたと嘘をついた手前、何を言っても逆効果な気しかしない。

 

 それゆえに俺は。

 

 

「…………あ、あはは」

 

 

 眼を逸らし、笑って言葉を濁した。誤魔化したとも言う。

 

 プチン。

 

 

「え? ……ひぃ!?」

 

 

 なんの音? と聞こえた方向を向けば、そこには近距離まで迫ってきていたホシノの顔。

 

 笑みは完全に消えて、3年前を思い出させる鋭い目付きに思わず威圧されて、情けない声が出た。

 

 

「こ、これはね、違うんすよ……」

 

「先輩、私に隠れて黒服(アイツ)と会ってましたね? 前の時みたいに」

 

「あ、あのホシノさん……」

 

「嫌な予感はしたんです。バイトはとっくに終わっているはずなのに、連絡しても返事なし」

 

「う……」

 

 

 普段、モモトークなどはすぐに返事をするようにしている癖が、ホシノに疑いを持たせてしまったのか。

 

 

「電話してみれば、なぜか電源が切られてる。帰ってきたのは23時前。そしてこれ」

 

 

 ピシッと目の前に出される黒服の名刺。……俺が風呂に入っている最中に、見つかってしまったもの。

 

 洗濯機を貸して欲しいと言われて、ついでに俺の制服(ワイシャツ)なども入れてくれたホシノ。

 

 その際にポケットなどに何も入っていないかをチェックして、見つかったってワケ。……バカ! マヌケッ!

 

 ずいっと数センチの距離で見つめられて、腰が逃げ出す。

 

 0時に男の部屋で迫ってくる女の子。状況だけみればドキドキしそうなシチュエーション。

 

 でも、そこに甘い雰囲気とかは一切はない。文字通り、蛇に睨まれたカエルなのだ。ある意味、ドキドキはしてるけど。

 

 頬に手を当てられて、まっすぐ視線を合わせられる。じっと見つめてきたホシノが、また口を開く。

 

 

「ぜんぶ、話してください」

 

「……え」

 

「アイツと何をしたのか、全部です」

 

「その、えっと」

 

 

Q.何をしていたか。

 

A.仲良く茶をしばいていた。

 

 

 ……いやいや、そうじゃなくて、大本は“ホシノにどうして過去の記憶が残っていたのか”を聞くためだ。

 

 でも、それを話したら次に何を聞かれて、その後にどうなるかなど簡単に想像できる。

 

 どうにか誤魔化そうと考えようとして。

 

 いつの間にか、怒った顔から悲しげな表情に変わっていたホシノが目に映った。

 

 

「……もう、嘘も隠し事も無しって言ったじゃないですか」

 

「ご、ごめん」

 

「謝らなくて良いんです。何があったかを教えてください」

 

 

 確かに約束したが、このシリアスな雰囲気で話すの? 黒服とあっていたことを怒られるのは良いのだ。

 

 それに関しては100%俺が悪い。でも話していた内容が、とってもマズイ。

 

 だって黒服に話したことは、とっても恥ずかしいことで……俺だけでなくホシノにまで、恥をかかせることになる気がする。

 

 

「…………あー、その。世の中には知らない方がいい事もある、みたいな?」

 

「……誤魔化す気ですか? また、どこかに行っちゃうんですか?」

 

 

 あ、まずい。そう思った時には手遅れ。

 

 胸元に置かれたホシノの小さい手がぎゅっと服を掴む。怯えるように震えた声で、涙目でそう聞かれて。

 

 俺も最近になって知った事だったが、過去のあの出来事……ホシノとのすれ違いは、想像以上に彼女のトラウマになっているようだった。

 

 気づけば後輩モードになっていたホシノ。

 

 この顔と声には絶対に勝てない俺は、何があったかを話すことで数十分後に起きるであろう未来を予感して腹をくくる。

 

 意を決して、黒服と何があったか……何を聞いて、何を知ったかを話す。

 

 

「その、さ。聞かなきゃいけないことがあったんだよ」

 

「……」

 

 

 無言で、目線だけで続きを催促される。……ホントに話すの、俺? と脳内のもうひとりの自分が語りかけてきたが、それ以外に選択肢はない。

 

 

「ホシノがなんで俺のことを覚えていたか、思い出したのかってこと」

 

「え……? 私が覚えてたら、迷惑でしたか……?」

 

「ちがうちがう!!」

 

 

 完全にネガティブな思考になっているホシノから、とんでもないことを聞かれて焦りながら即座に否定する。

 

 あんな悲しそうな声、聞いたことないぞ?

 

 どこか疑いつつも、不思議そうな顔をするホシノに、ほっと一息。

 

 

「なら、どうして」

 

「単純に疑問に思ったから。それだけだよ」

 

「……ほんとに?」

 

「ああ」

 

「私のこと、迷惑とか」

 

「そんな訳ないだろ。好きな子に想われて嫌な男はいないって」

 

「……うへへ」

 

 

 恥ずかしそうに、嬉しそうに笑うホシノを見て、ちょっとだけ羞恥心が出てきたが誤魔化したくないことだった。

 

 ほんのちょっとの静寂。気恥ずかしさとむず痒さで俺の方から口を開くことに躊躇っていると。

 

 

「それで、わかったんですか?」

 

「え?」

 

「私がシュウ先輩のこと、覚えていた理由です」

 

 

 ……。まずい、その質問はとってもまずい。

 

 

「……………。まぁ…………うん」

 

「どうして目を泳がせて、バツの悪そうな顔をするんですか」

 

「あー、えー……なんでもない、ヨ?」

 

「絶対、嘘です」

 

 

 キッパリと言い切られて、ひいたはずの汗がまた出てくる。

 

 元々、白状する気ではあったが……いざその瞬間になるとね、怖いというか。

 

 

「早く教えてください。私も言われたら気になってきました」

 

「うぅ……」

 

「教えてくれるまで、ずっとこのままです」

 

 

 逃がさない、とばかりに強く抱きつきながらムッとした顔で迫ってくるホシノ。

 

 やっぱり誤魔化せない。そう悟って、改めて覚悟を決めて重い口を開く。

 

 

「その、な」

 

「はい」

 

「ホシノがさ……の、飲んだから、というか。俺が出したから、と言いますか……」

 

「はい?」

 

 

 思っていた答えと違う、意味がわからない。そんな顔で首を傾げた彼女を見て、乾いた笑いが出る。

 

 濁して伝えても、通じない。ならストレートに言うしかないわけで。

 

 

「別にふざけてるとかじゃなくてね? 今からいう言葉は真面目なことなんだ」

 

「?」

 

「ホシノと、その……えっちな事をしたのが原因、みたいです……」

 

「……? …………??」

 

 

 わぁ。理解できない、したくないって顔してるじゃん。

 

 それもそのはず。だって今、ホシノに伝えていることは“黒服と俺が話した内容”なのだ。

 

 つまりは、アイツに俺とホシノが何をして……ナニをしていたのか、ナニがあったのかがバレているということ。

 

 

「飲んだ、とか出したって言葉の意味はそういうこと……でしてね?」

 

「………………」

 

「その、なんだ。……あの時、ホシノが言った通り本当に“忘れられない思い出”になった、みたいな。はは……」

 

「……!!!!????」

 

 

 びっくりするぐらいに顔が赤くなって、とんでもない声量の絶叫が真夜中のアビドスに響いたことは、俺とホシノだけの秘密だ。

 

 ほんと、この辺りに人が少なくて助かったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




▼作者より


やっほー!久しぶり!!!

……すみません、めちゃくちゃ投稿が遅れました。

感想もたくさんありがとうございます。
そろそろネタバレありの返信もできそうなので返していきます。

感想と言えば、章タイトルやサブタイトルに付けていたアルファベットの意味に勘づいていた人が多くて、私はにっこりしてます。
ただ、もう少しだけ別の意味も混ぜてますが……これは、こじつけ的なものもあるのでわからなくてもしょうがない部分です。

さて、実はこの物語なんですがもうすぐ半分を過ぎる……というか後半パートには入ってます。
もうちょっとだけ続くこの作品、ぜひお付き合いいただけると、私はとっても嬉しいです。














Vol.2以降のお話については、またどこかで告知しますね。ほかヒロインのIFルートはもちろん、やっぱり奇跡が起きる“始発点”とかはやらないとね?

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