ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
#疑-3.この世界における梔子ユメは、Vol.1の世界線における梔子ユメと同一人物なのか?
「シュウ、今日も寝てる」
耳をぴこぴこと動かしながら、無表情ながらもどこか楽しげにふにふにと彼のほっぺたを突くシロコちゃん。
遊ばれている張本人はといえば、だらしなくニヤけた顔でグースカと熟睡中だ。
「シュウ先輩、ここのところ居眠りが多いですよね」
「そうだねぇ」
手元の書類の手を動かしつつも、隣に座っていたアヤネちゃんがちょっぴり心配そうな顔をして、シュウくんに目を向ける。
「シュウくん、昨日はバイト、今日はヘルメット団の襲撃で疲れてるんでしょうね。ホシノ先輩は大丈夫ですか?」
「うん。というかおじさんは何もしてなかったし」
「そういえばそうかも?」
「あ、セリカちゃん。お疲れさま〜」
ぴょこん、と別の部屋にいたセリカちゃんが対策委員会の部室に合流。先ほどまで戦っていたヘルメット団が落としていった武器などを仕分けていたはずだけど、もう終わったみたい。
首を回し、肩を叩きながら空いている席に座ろうとして、机の上に頭を預けたまま熟睡するシュウくんを見つける。
「うわ、すっごくだらしない顔。……さっきまで戦ってた人とホントに同じ?」
「ん。なんか幼い」
「たまに先輩なのかな、って思っちゃう時ありますよね。こうしてシュウ先輩の寝顔を見ていると」
「うーん、私にはいませんがこういう弟とかいたら可愛いんでしょうね〜」
気づけばみんなで寝ているシュウくんを囲んでお話&ちょっかいをかけていた。
みんながほっぺを突いたり、頭を撫でたりと遠慮なくしているあたり、彼への構いたくなる雰囲気がそうさせているのかな、なんて思っている。
そんなことを考えながら、目の前の平和な状況をぼーっと観察していると、みんなと急に目が合った。
なんだかソワソワしたノノミちゃんに、バツが悪そうなセリカちゃん、オロオロするアヤネちゃん、そして急に手を引っ込めたシロコちゃんを見て首を傾げる。
「どしたの?」
「えっと」
言いづらそうな顔をしたシロコちゃん。それを見たアヤネちゃんが慌てたような声を出して。
「ち、違うんですよ! ただ、私たちはシュウ先輩のことを心配していただけで!」
「そうですよ、なので……その」
「ホ、ホシノ先輩……怒らないで?」
「へ?」
怒る、とは。
みんなが言っている意味がわからず、気の抜けた声が出てしまった。私の反応を見たシロコちゃんが、さっきの私のように首を傾げる。
「違うの? ホシノ先輩、不機嫌そうな顔してた」
「え、嘘」
思わず顔に手が伸びる。全員がシロコちゃんの言葉を肯定するように頷くのを見て、自然と確認してしまった。
私が不機嫌に見えるような表情になっていた、というのはみんなの共通認識だったようで、それを察して慌てながら誤解を解く。
「べ、別に怒ってないよ?」
「でもホシノ先輩、ムッとしてた」
「それは……ちょっと最近のシュウくんが心配だったというか」
「なら私たちに嫉妬……ごほん、怒っていたとかじゃないんだ」
「セリカちゃん?」
「言い間違いだから怖い笑顔を向けないで!?」
ヒュンとシュウくんの影に隠れたセリカちゃんにため息をひとつ溢す。一瞬、言いかけた言葉に過剰に反応してしまい、声が硬くなった。
私、そんなに嫉妬深くないし重くないもん。別に可愛い後輩たちがシュウくんと仲良くしてても、ムッとしたりなんか……。
「……するときはあるけどさ」
「ん。ずっしりとした重み」
「シュウ先輩のことになると、たまに目が据わってるんですよね、ホシノ先輩」
「すごい重力を感じるときありますよね〜」
きゃっきゃとみんなしていじってくる。最近、なんだか私の扱いがおかしい気がするのは気のせいかな。
「うぅ……。って、そうじゃなくて」
「シュウ、最近なんか強くなってる。無理してるときもあるし」
「……シロコちゃん、分かってておじさんのことからかったの?」
「それでいてよく寝ていますよね。大丈夫なんでしょうか」
「アヤネちゃん?」
「夜更かしとかしてるんですかね。心配です〜」
「……」
「夜更かしはホシノ先輩関連じゃない? まぁ、最近のお昼寝っぷりも誰かさんに似てる気がするけど」
「うぁ〜! おじさんをからかってそんなに楽しいかぁ〜〜!?」
きゃー、と楽しそうに悲鳴をあげて私の近くから逃げていく後輩たちの姿に、より顔が熱くなる。
私とシュウくんのことになると、先生も含めてやけに楽しそうにからかってくる。そろそろお灸を据えたほうがいいのかな。
何はともあれ、話題は元のものに。
「今日の襲撃、シュウ先輩が真っ先に気づいて、私たちが行ったときはもう終わってましたからね」
「ねー。校門の前でみんな倒れてるヘルメット団にびっくりしたわよ」
「10人以上いましたし、装備もすごいもの多かったのに……」
「シュウ、ハンドガンとホシノ先輩のショットガンだけだった」
「んー、私も一緒にいたんだけどね。“借りるぞ”って銃を持ってかれちゃってさ。うへへ……」
下駄箱の近くで作業していた私たち。そこにもう日常といってもいいヘルメット団の襲来。
ぴくりと何かに気づいたシュウくんが、私の銃を借りて走り出したときは呆気に取られたものだ。
ハッとした時には、近くにシロコちゃんたちが来ていて、一緒に学校の入り口の方へと向かえば。
“大丈夫だ、もう終わった”と肩に私のショットガンを担いで、傷どころか汚れひとつない彼が立っていた。
ここに来た当時はおっかなびっくりで、逃げ回っていたシュウくんはどこに行ったのやら。
ただ、少しだけ気になる点もある。
「ホシノ先輩よりシュウくんが早く襲撃に気づいたんですか?」
「……うん」
驚いた顔でノノミちゃんに言われる。私もそこが少し引っかかっていた。
同じ場所にいて、私が感知できないような場所にいる敵に気づき、奇襲をかけて倒す。
とてもすごいことだし、頼りになる。あと、私も誇らしく感じるけど。
なんだか、シュウくんが……シュウ先輩が。
「ちょっと遠くに行っちゃった、みたいな感じよね」
「ん」
「ま、そんなこともこの顔を見たら忘れるんだけど。えい」
「ふが……っ」
「ふふ」
セリカちゃんに鼻を摘まれたシュウくんが変な声を出して、みんなで笑ってしまう。
そうだよね、別にシュウくんの中身が変わったとかじゃない。
ほんの少しだけ、どこか“私たちのように強くなった”だけだし。
きっとこの日常は変わらない。
▼
「これで今日は終了です。お疲れ様でした」
「おう」
黒服から渡された制服を受け取って、その場で着替え始める。
ここは黒服が持つ研究施設のひとつ。よくわからん機械や器具が多々置いてあり、そこで俺は定期的に検査を受けていた。
どうして素直に黒服からの実験まがいのものに付き合っているかは、ちょっした取引のせいだ。
検査用の服から元のものに着替えている間に、熱心にレポートを読む黒服に話かけて、結果を聞く。
「どうだった?」
「7日前より2倍近く数値が上がっていますよ。クク……神秘だけでなく、他のものも含めて」
「そーかい」
「あまり興味がなさそうですね?」
どこか面白そうな声音でそう聞かれて、適当な返事を返す。
「別に害とかないんだろ」
「ええ。むしろこの世界で生き延びるのなら、ただの人であったシュウさんは弱すぎました」
「なら好都合ってな」
「ですが」
「あん?」
ブレザーを羽織ったところで、意味深に言葉を区切った黒服の方へと体を向ける。
顎に手を当てて考えながらも、納得がいかなそうな顔をする黒服の姿が目に映る。
「この上がり幅は異常です。小鳥遊ホシノとの行為が、貴方の力に繋がっていると私は見込んでいたんですが」
「おい」
「はい?」
「……何でもない、続けて」
急にセクハラされたのかと思って突っ込んでしまったが、どうやらコイツはいたって真面目だったようで、ふざけた様子がないことを感じて黙った。
「もちろん、他の相手との深まりが貴方の力に繋がっているのも承知の上です。しかし、ここまで急速に上がるとは」
「んなこと言われても……」
ぶつぶつと呟きながらまた考え込み始めた黒服。こうなると長いのは分かっているので、無視して用意されていたペットボトルに手を伸ばす。
「接点のみ、絆のみで? いやそれ以外も……」
「聞こえてないと思うけど、これもらうぞー」
「深いつながりがあるのは小鳥遊ホシノだけ。それなのに突然ここまで? ……まさか」
「?」
ペットボトルを仰いだ瞬間、急に顔を上げた黒服と目が合う。その顔は何か確信を持ったようなもので。
「シュウさん、他に誰かと性行為を?」
「ぶっふぅぅぅーーーッ!!!???」
びしゃびしゃと自分の口から水が吹き出る。かかるのはもちろん顔を向けていた黒服の顔面。
「な、何を言って……!? てかゴメン! 顔とかスーツが……」
「いえ、お気になさらず。それで、どうなのですか?」
「してねぇよ!!!」
「そうですか。……別に下でなく口なども」
「やってねぇよ!!!!!」
なんてことを聞きやがるんだコイツは!?
「そうですか」
「なんでそんな真顔なの? ひっどい質問した自覚あるのか??」
懐から取り出した黒いハンカチで顔を拭きながら、“それもそうか”みたいな顔で頷く黒服。
真面目な顔でたまにぶっ込んでくるから油断できないんだよ、この野郎。
「他の要因……ならば、以前のアレのせいですかね」
「アレ?」
「貴方が拾った石ですよ」
言われて“ああ……そんなものもあったな”と頷き、ブレザーの内側から取り出す。
ヒビが入った紫に近いピンク色の石ころ。黒服が興味を示し、欲したことから嫌な予感がして、結局は俺が持ったままになっている。
手のひらに乗せた石は以前と特に変わらず……?
「ん、あれ」
「どうしました」
「なんか、綺麗になっているような……?」
気のせいかもしれないが、ヒビが少なくなっている気がする。あと、中心の青に近い緑の光が強くなっているような。
一応、自分が感じた違和感を伝えると、眉間に皺を寄せて妙な顔をする黒服。
「色、ですか?」
「ああ。この中心のところ」
指を差して再度、黒服の説明するもより険しい顔となる。その姿を見て、なぜか緊張する。
「な、なんだよ」
「シュウさんにはこの石が光って見えるのですか?」
「? 見えるも何も、こうして緑っぽく」
「……ふむ。すみません」
「へ?」
急に謝られても何も返せず、間抜けな声が出る。
じっと石を見つめる黒服に、今度は俺から声をかけようとして。
「私には“紫色の石”にしか見えませんよ」
「……目、大丈夫? 疲れてる?」
「そんな純粋無垢な目で心配されるのは心外なのですが」
▼
「では、また来週に」
「おう」
研究室の前で黒服と軽く言葉を交わし、別れの挨拶を済ませる。
用事も終わったし、とっとと帰ろうと歩き出そうとしたところで、黒服から言葉がかけられる。
「忘れていました。こちらを」
スッと出された黒服の手の上には、細くて黒い腕輪状の装置のようなものがあった。
「何これ」
「以前に伝えた測定器です。どこでもいいので付けて置いてださい」
「そんなことも言ってたな。どこでもいいの?」
「はい。目立たないところがいいでしょう」
「え、なんかあるの?」
そう聞いた俺を見て残念なものを見る目に変わった黒服。な、なんだよ。
「私は別に構いませんが、シュウさんが困るでしょう」
「?」
「……はぁ」
頭に手を当てて、やれやれと首を振る黒服にムッとする。なんだ、喧嘩か?
「いいですか? 他者から見れば、明らかに怪しい装置ですよね」
「ああ」
「そして、それを貴方が付けている」
「うん」
「私と関わりがあった過去を持ち、小鳥遊ホシノや先生と頻繁に接する貴方が、です」
「…………あ」
「ご理解いただけたようで」
指摘されたことでようやく察した俺。
蘇るのは以前に黒服と会っていた事がバレた際のホシノと、次の日にやってきた先生の姿。
「あ、あぶね……っ!」
「シュウさんは間抜けな点が本当に勿体無い」
「……甘んじてその言葉を受け取る」
「はい。……なぜ震えているのですか?」
「ちょっとしたトラウマ、というか……。は、はは」
正座する俺。
見下ろしてくる2人の笑顔なのに圧が強すぎる顔。
呆れる猫耳後輩と心配そうな書記系後輩。
ニコニコと成り行きを見守る同級生1に、痺れた足を突いてくる同級生2。
あの悲劇を、もう俺は繰り返したくない……ッ!
「なら私と会わなければいいだけでは?」
「オメェが取引の条件にしたせいだろ!!」
「ククク……応じたのはシュウさんですが」
「…………」
「おや、降参ですか。それでは敗者の言葉をどうぞ」
「負けました……っ!」
「クククッ」
愉快そうに笑う目の前の大人になんとか一泡吹かせたいが、あまりにも分が悪い。
さっさと撤退しようと踵を返す。
「それではまた。来週か柴関ラーメンでお会いしましょう」
「いや、もう来んなよっ!?」
対策委員会編3章が終わってみんなアビドスロスよな。群缶、更新します。
またよろしくお願いします!