ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
#疑-2. Vol.2における小鳥遊ホシノは、Vol.1の小鳥遊ホシノと同一なのか?
遠くから聞こえる激しい銃声と怒号。
空は暗く曇り、酷い雨が肌にあたる。
体温はどんどんと奪われて、それに比例するように体力も減っていく。
「………お」
ピコン、と携帯からモモトークの通知音が小さく響く。
小走りをやめ、片手に持ったままだった銃をしまって、懐から取り出した携帯の画面を確認する。
そこには今回の事件で被害に遭いながらも、生徒を思い、ただ奔走する先生からのメッセージが届いていた。
先生『ごめん、お願いできるかな』
シュウ『了解。こっちで食い止める』
先生『ありがとう。他のみんなは?』
シュウ『そろそろヒフミのところに合流するんじゃないかな』
先生『わかった。シュウも無理はしちゃダメだよ』
腹に穴を開けながらも動き続けている人が言う言葉とは思えないな、と少し呆れながら笑ってしまう。
アリウスという学校の生徒に撃たれて、数時間前までは意識を失っていたはずなのに。
今はこうして戦場へと戻り、ヒフミたちのため……いや、みんなのために戦うこの大人には尊敬の念しかない。
少しでも力にならなきゃいけない……違うな。
「義務じゃない、力になりたいんだ」
小さく呟き、サッと先生へと返信する。
シュウ『無理しない程度に時間は稼ぐから。それより、ヒフミやホシノたちのこと、頼むよ。……余計な心配かもだけど』
先生『まかせて。これが解決したら、お礼するよ』
返信を確認して携帯をしまう。
まるでそれを見計らっていたかのように、複数の足音……まるで何か予想外のことが起きて、焦ったかのように走るものが耳に入る。
チラリ、と背後を確認すれば遠くだが確かにヒフミや対策委員会のみんなの姿……正確には覆面水着団の姿が確認できた。
「あんななりして、結構有名なんだっけか。……悪い意味で、だけど」
自分が知らない、聞いただけのことだがヒフミとアビドスのみんなは、あの姿で色々とやらかしている。
それにヒフミ……ファウストさんにはホシノを助けてもらったという大きな借りがあったからな。
「……ッ!」
「……なんだ、アイツは?」
「ヘイローがない、生徒?」
困惑するような声が耳に入り、振り向いていた頭を正面に戻す。
俺の視線に映るのは全身が黒く、ガスマスクをつけた知らない制服の生徒たち。
数はざっと6〜9人で部隊を組んでおり、焦りを感じる。
きっと、俺の背後で戦う彼女たちの戦闘へと介入するつもりだろう。
つまり、敵の増援。
「……退け」
ガチャリ、と複数の銃口が向けられる。
最初は俺を見て警戒していた様子だったが、ヘイローがないことや、ロクな装備がないことを確認して、すぐに制圧できると判断したようだ。
まぁ、ロクな装備がないのは俺が焦って準備したからだし、予備の拳銃や防弾チョッキがないのは、シンプルに忘れた……とは口が裂けても言えないんだけどね!
内心、ほんのりと焦っているが。
「退けと言っている!!」
イラつきが混ざった言葉とともに放たれた銃弾。
人が感知できない時間、速度の世界で迫ってくる凶器。
——静かに、ただ手を横に振るう。
「なっ……!?」
キン、と金属同士がぶつかり合う小さくも響く音が、大地を叩く雨の中に響き渡る。
たかが人間。ヘイローもない弱者。
驕りを見せていたアリウスの部隊に所属する生徒たち。
ガスマスクで見えない顔の先は、きっと数秒前まで嘲るようなものだったのだろう。
けれど、確かな動揺が彼女たちから感じることが出来て、虚勢を張る。
「悪いけどさ」
一歩、大きく踏み込む。比例するように、目の前の敵が一歩、後ろへと退がる。
銃弾を弾いたナイフを左手に、使い慣れたハンドガンを右手に携えて、精一杯の強がりな言葉を放つ。
「ここは通行止めなんだ。
大切な友だちなんです、と出来た縁をとても大事にしてくれる自称・個性がない普通の女の子。
初めて事前に頼ってもらえたし、何かあれば言えと言ったのは俺だからな。
微力ながら、助力させてもらうとしよう。
「っ……撃て!!!」
怯んだような仕草を見せながらも、すぐさま切り替えて攻撃に移るアリウスの生徒たち。
よっぽど、酷い訓練をさせられてきたのだろう。一瞬で消えた震えは、並大抵の経験じゃ得られないものだ。
グッと腰を下げて、足に力を込める。
……胸の辺りが微かに熱くなり、腕についたデバイスが僅かに淡く光る。
「———っ」
ズキリ、とほんの一瞬だけ痛みが走る。
何かが内側から溢れて、受け皿が悲鳴を上げるようなイメージが脳内に過ぎる。
戦うたびに、力が強くなるたびに鋭くなって来たこの感覚。
でも、今はそんなことを考えている暇はない。
これは、大きな条約を巡る戦いの裏舞台。
▽
「……やはり、異常ですね」
リアルタイムで映し出される目の前のグラフと数値。
由九咲シュウが戦闘に入る前と入った後で、数倍も変動した羅列に、眉をひそめる。
「確かに、このキヴォトスでただの人間である貴方が生き残るには、その力は大きなメリットになる」
より右上へと上がっていくグラフ、警告音が響くモニター。
「ですが、手を伸ばし過ぎましたね」
数週間前に想定していた数値のはるか上を示した値に、興奮による笑いと、残念に思う苦笑いが混ざる。
「ただの人間が、僅かとは言え“小鳥遊ホシノに迫り得る神秘を宿して、タダで済むワケがない”……当たり前の話です」
一度測定し、短期間とは言えどこの手中に収まったアビドス最高の神秘。
もうひとつのモニターに表示したソレと、目の前に映る由九咲シュウのデータ。
あまりにも酷似した2つ。……ただ、その数値にブレがある点は気になるが。
そこに関しては、あの”とある神秘を宿した無名の神の石“が関与しているのだろう。
「何せ、無差別に縁を結ぶものですからね。それが例え失われた者の”残りカス“だったとしても」
由九咲シュウの身体は既に限界を超えている。
戦闘を重ね、縁を強めてその身に神秘を貯蓄するたびに、小さすぎる器はヒビ割れていく。
私の見立てでは、とっくに崩壊している予定でしたが……今なお戦い続ける彼の姿を見て、口角が大きく上がる。
「クク……始まりましたか」
限界値以上の数値を出していた由九咲シュウの神秘。
だが、暴走とも言えるその値がゆっくりと下がり始める。
まるで溢れた神秘のエネルギーを吸収するように、何処かへと消えていく。
何処かへ、などと言ったが概ね予測はついている。故に、あの装置を彼へと渡した。
「クク……クククッ!!」
想定していた通り。あの砕け、意思が消えたはずの石へと吸収されていくのを確認する。
それもクローン・デバイス経由で。まるで彼を助けようとする意思でも宿ったかのよう。
あの装置に使ったのは、小鳥遊ホシノの神秘。
そして、それを伝って由九咲シュウの生命力と神秘が、失われたモノへと注がれていく。
「あぁ……。シュウさん、今回は私に何を見せてくれるんですか? クク、ククク……!」
活性化していくと同時に再生され、形成され直していく彼が“偶然”拾った石。
しかし、あまりにも強すぎる由九咲シュウと小鳥遊ホシノの神秘によって、必要以上に注がれてしまっている。
アレでは、“ただの石の状態”ではいずれ砕けるのも時間の問題といったところ。
「……ふむ」
少し勿体無いような気もするが。
「あくまで私は傍観者。大きく手を出すのは無粋、ですね」
時系列はお察しです。
さて、Vol.2も後半戦に入ってきました。ようやく伏線が少しずつ回収されていきます。
最後に、感想や評価などありがとうございます!
大変励みになります。また次回もよろしくお願いします!
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