ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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#疑-1.Vol.2における由九咲シュウという存在は、Vol.1と同一の存在か?







R-04:幻影の記憶

 

 

「もうー、本当に減らないわねぇ……」

 

「なー」

 

 

 耳をへにゃんとして、机にほっぺたをつけながら愚痴をいうセリカさん。つい、俺もそれに乗っかり、相槌を打つ。

 

 時刻は午前中、場所は対策委員会の部屋。机の上には見るのも嫌になる程に山となったおびただしい量の紙束。

 

 そこにはこれまたおびただしい桁数の数字。察する人はこれで「あぁ……」となると思うが。

 

 

「借金、返せるのかなぁ」

 

「ま、まぁ」

 

「そこは嘘でも返せるっていうとこじゃないの?」

 

 

 腕を枕にしたまま不満げなジト目。

 

 気の使えないやつ、なんて言いたげな顔でそんなことを言われた俺は脊髄反射で口を動かす。

 

 

「……返せる、ヨ」

 

「ばーか」

 

「痛……くないな?」

 

 

 気の抜けた声で罵倒されたと思ったら、随分と優しく頬を突かれた。

 

 猫パンチでも来ると思っていたが、今日はそんな気力もない様子。ぼーっとしたまま空中を見続けるセリカさんが少し心配になったところで、部室の扉が開いた。

 

 おや、と顔をそちらに向ければそこには、何枚かの資料を胸に抱えたアヤネさんの姿が。

 

 

「あれ、セリカちゃんとシュウ先輩だけですか。柴関ラーメン以外ではあまり見ない組み合わせですね」

 

「アヤネちゃん、おつかれさまー」

 

「おっすー」

 

「ず、随分とお疲れ……というか溶けてますね、2人とも」

 

 

 確かに。と思わず頷きつつ、対面に座ったアヤネさんと他のみんなについて話す。

 

 なお、セリカさんはよほど疲れているのか、ぼーっとこっちを見たままボケっとしていた。

 

 

「ホシノとシロコさん、ノノミさんは郊外の方なんだ」

 

「はい。今日はそちらで————」

 

 

 苦笑いとともに3人が何をしているかを言おうとしたアヤネさん。

 

 ここまで話を聞いて、彼女からの答えを聞く前に自然と口が開く。

 

 

「また宝探しでもしてるのかな」

 

「へ?」

 

「ん?」

 

 

 言いかけた言葉をやめて驚いたような顔になったアヤネさんに、つい疑問の声が出た。

 

 一瞬だけ静寂となった部室。でもすぐに何かに気づいた表情となったアヤネさん。少し笑いながらまた口を開く。

 

 

「ホシノ先輩から聞いていたんですね。言い当てられたみたいで、ちょっとびっくりしました」

 

「いや、聞いてないけど」

 

 

 また、シーンと静かになる部室。え、そんな変なこと言った? と妙に気まずい空気になった部屋の中でひとり慌てていると、ここまで何も言っていなかったセリカさんが口を開いた。

 

 

「なら、なんでわかった……というより、そう思ったのよ」

 

「ですです。宝探しなんて突拍子もないこと、どうして思いついたんですか?」

 

「なんで、って言われてもさ」

 

 

 変なものを見るような顔と好奇心が溢れた視線に晒された中で、自分の認識通りの言葉を口にする。

 

 

「“前に3人で宝探し”したじゃんか。だから、またなのかなーって……え、なに?」

 

 

 じーっと俺の顔を見て、何を言っているの? とでも言いたげな表情になった2人に思わず困惑した声を出してしまう。

 

 でも、困惑しているのは俺だけじゃなかったようで。

 

 

「え、っと」

 

「シュウ先輩、何言ってるの?」

 

「何って……」

 

 

 はぁ、とため息をついたセリカさんが言った内容はどうもしっくりこなくて。

 

 

「私たち、というか先輩がアビドスに来てから宝探しなんて行ったことないわよ」

 

「……む」

 

「寝ぼけてる?」

 

「寝てないわい。というかホシノと一緒にしないで?」

 

「あはは……最近はホシノ先輩より寝ていますけどね」

 

「…………」

 

 

 アヤネさん、急に毒吐くじゃんか……。

 

 でも、妙だなぁ。確かに行ったと思うんだけど。と考えていたのが筒抜けだったのか、まだ疑問を残した顔のアヤネさんが質問を続ける。

 

 

「その、仮に以前に宝探しに行ったとして。シュウ先輩は誰と一緒に……?」

 

「誰と……」

 

「行った記憶があるなら覚えてるでしょ」

 

 

 当たり前のことをセリカさんに言われて、自分でもその通りだと納得して。その時の記憶を思い出してみる。

 

 

「えーと、確か……ホシノと」

 

「ホシノ先輩ですか?」

 

「まぁ行きそうよね」

 

「あと……」

 

 

 あと、1人。確かに誰かいた気がするのだが、パッと出てこない。

 

 

「誰だっけ……2人じゃないし」

 

「はい。違います」

 

「じゃなきゃ聞いてないわよ」

 

 

 ちょっとした話題だったはずなのに、気づけばよくわからないことになり出した。

 

 でも、思い違いとかじゃなくて、確かに行ったはずなんだ。

 

 

「シロコさん、じゃないし。ノノミさん……だっけ? いや、うーん」

 

「やっぱり勘違いじゃないんですか?」

 

「そう、かも? でもなぁ」

 

「何よ?」

 

 

 くっそ暑い真っ昼間に突拍子もないこと言い出した先輩と一緒に砂漠へ行った気が……?

 

 

「あれ」

 

「今度は何?」

 

「えっと、自分でも変なことを聞いてると思うんだけどさ」

 

「はい」

 

「アビドスって、ホシノ以外に3年生っている?」

 

 

 そう聞いた俺を見たセリカさんとアヤネさんの表情は今日の中で1番、怪訝そうなものになって。

 

 

「いるわけないじゃない」

 

「いませんよ」

 

 

 と全く同じ回答をもらってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュウくん、ファイトです〜」

 

「ん、気合いの入れどころ」

 

「うぐぐ……」

 

 

 同級生2人からの声援を受けて力を入れ直し、足を上に上げる。

 

 中サイズのダンボール3つを重ねて登る階段ほど辛いものはない。そう実感している理由は、先生のつてで手に入れた昔のアビドス生徒会の資料が入った箱のせい。

 

 重さにして約10キロ近く。これを持って階段を登るのは一般人の俺にはあまりにも辛いが。

 

 

「よいしょっと」

 

「……」

 

 

 一方は汗ひとつかかない姿で、もう一方は涼しげな顔で俺と全く同じ量を運んでいる。

 

 しかも女の子が、だ。

 

 

「大丈夫ですか? やっぱり重かったですかね〜……?」

 

「ん、私が1個持つよ」

 

 

 心配そうに声をかけ、とろい俺に合わせて待ってくれるノノミさんとシロコさん。しかも、手伝うなんて言われてしまった。

 

 確かにキヴォトスの人たちはめっちゃ力が強いし、すごく丈夫。でも、俺からしてみれば華奢な女の子なわけで。

 

 

「……だ、大丈夫っ」

 

 

 ぶっちゃけ無茶苦茶にしんどいが、男のプライドで見栄を張り、腰に力を入れ直す。

 

 もう手遅れだが、これ以上は情けないところを見せたくないし。

 

 時間にして約15分。たかだか数回の階段の登り降りにかかった時間だ。

 

 ぜぇぜぇと息を切らせながら、対策委員会の部屋にあるパイプ椅子に座り込む。

 

 

「お疲れ様でしたっ。はい、お水ですよ〜」

 

「ん。汗拭くよ」

 

「……ありがと」

 

 

 疲弊した俺に対して元気もりもりなふたりは、こっちを気遣いつつも運んできた資料の整理を行っていた。

 

 

「わぁ、すっごく昔の資料ですね」

 

「これは20年前くらい」

 

 

 休んでて、と言われたものの一応、手元のダンボールを開けて中の資料を時系列順に並べ替えておく。

 

 すっごく昔、それこそ百の単位とか前のものから直近のものまで、さまざまなデータが出てくる。

 

 連邦生徒会とかで保存、管理していたものとかも混じっているからか、状態も綺麗。

 

 当時のアビドスの状況などがある程度はわかるものが多く、如何に今の借金まみれの状況が悲惨的かがわかる。

 

 

「あ」

 

「どうしました?」

 

 

 シロコさんがぽろっと言葉を漏らし、つい視線をそちらに移す。

 

 同じく作業をしていたノノミさんも、気になったのか声をかけていた。

 

 視界に映るシロコさんは、真新しい1枚の紙を手に“へー”と言いたげな顔で中身を読んでいた。

 

 俺たちの反応に気づいた時にはもう読み終えていたのか、ノノミさんが声をかけたのとほぼ同時にこちらへと顔を向け。

 

 

「これ、かなり最近のやつ。私とノノミがアビドスに入る前のものだと思う」

 

 

 ぺらりと手に持った資料を俺たちに見えるように反対側にするシロコさん。

 

 最近のもの、という単語につい興味を惹かれて俺とノノミさんはずいっと近寄って中を確認する。そこには。

 

 

「アビドス生徒会……私たちの前身組織ですね」

 

「うん。ほら、ここ」

 

 

 シロコさんが指差した場所には、学年以外は馴染み深い生徒の名前などの情報が書かれていた。

 

 

「ホシノ先輩が1年生、ということは2年ほど前ですか」

 

「そう。所属しているのもふたりだけ」

 

「ん? ふたりって、ホシノと誰なんだ」

 

 

 ある意味当然の疑問。頭の中ではよく考えずに、ただ出てきた言葉を吐き出しただけ。

 

 この俺の言葉にシロコさんはチラリと資料を見直し、ノノミさんは一瞬だけ気まずそうな顔になった……気がした。

 

 おや、とそちらにも気になってノノミさんに声をかけようとした時、それよりも早くシロコさんの口が開く。

 

 

「えっと……3年生の生徒会長で“梔子ユメ”って人」

 

「……はい。私たちの先輩、に当たる人ですね」

 

「ん。会ったことないけど、ノノミは知ってるの?」

 

「えっと……少しだけですが」

 

 

 どうやらふたりは面識がないらしい。確かに学年的に会うことはないのか。

 

 知らないが先輩、というかOBに当たる人だしホシノの先輩だ。シロコさんは興味深そうに“ユメ先輩”の名前を眺めていた。

 

 

「どんな人だったんだろう。ホシノ先輩に聞いてみようかな」

 

「そ、それは……っ」

 

「ノノミ、どうしたの?」

 

 

 ホシノにユメ先輩のことを聞く、そういったシロコさんをみて急に慌て始めたノノミさん。さっきからどうしたのだろうか?

 

 ちょっと驚いた反応をしているシロコさんと、気まずげなノノミさん。

 

 なんだか空気が少し重くなった気がして、話題をほんの少しだけ変える。

 

 

「まぁ、今のホシノみたいな人だよ。ユメ先輩は」

 

「……そうなの?」

 

「……え」

 

「ああ。やたら気軽だけど優しくて、でもおっちょこちょい。けど、憎めない善性に溢れた……って、なんだよ」

 

 

 シロコさんから受け取った資料を眺めながらユメ先輩のことを話していると、不思議そうな視線と困惑した視線のふたつが俺を見つめていることに気づいて顔をあげた。

 

 そもそもここには俺、シロコさん、ノノミさんの3人しかいないから、誰がこっちを見ているかはわかっているんだけども。

 

 

「シュウ、ユメ会長と知り合いなの?」

 

 

 不思議そうな顔をしたシロコさんからの疑問。

 

 

「……シュウくん、それはホシノ先輩から聞いたことですか……?」

 

 

 大きな困惑を宿した顔、わずかな疑念と恐怖が混じった視線を向けてくるノノミさん。

 

 このふたりの反応に一瞬だけ、今何が起きているかが理解できずにポカンとしたが、ふとひとつの疑問が頭の中に浮かぶ。

 

 あれ、俺……何で“梔子ユメさんのことを知っているんだ”、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うーん」

 

「おやまぁ、随分と難しい顔してる。考え事?」

 

「え、あっ……すみません」

 

 

 机の上にある報告書と睨めっこしながら先日の一件について、つい考え込んでいると先生から声をかけられた。

 

 あいも変わらずクマのできた目元、着崩したスーツ姿。でも、ほんわかな雰囲気と柔らかい笑みが安心感を与えてくれる味方の大人。

 

 今日はシャーレの当番でずいぶんと久しぶりに先生と俺の2人だけ……。

 

 

【寝不足ですか?】

 

「むしろ最近はぐっすりだよ。気遣ってくれてありがとな」

 

【いえいえ!生徒さんの体調管理も大事ですし、シュウさんには先生と同じく無理をするきらいがありますから、当然です!】

 

「……えい」

 

【あわわっ、突かないでくださいぃ〜!】

 

 

 画面の向こう側にいる青いセーラー服に身を包み、水色の髪色をもつ幼い少女の頭をつ突く。

 

 あわあわとしながらも楽しそうな声がシッテムの箱から流れて、俺もつい笑ってしまう。

 

 そんなじゃれあいを眺める先生もつい、といった感じで笑っていた。

 

 

「ふふ。アロナ、久しぶりにシュウと会えて楽しそう」

 

「そういえば最後に話したのって、まだシャーレに住んでたころか」

 

「よく起こされてたもんね」

 

【シュウさんはねぼすけさんですから!】

 

「てい」

 

【うわ〜ん!】

 

 

 画面で俺の指から逃げ回るちょっと間抜けそうなこの子はアロナ。先生の持つシッテムの箱に搭載されたAI、管理者らしいが、あまりにも感情豊かで人間臭い。

 

 本人いわく“どんなことでもおまかせなスーパーAI”らしい。確かに、いちごミルクをねだったりするAIとか見たことないな。

 

 そんなアロナは俺や先生以外の人には視認できないとか。最初に先生とアロナが喋っているとこに入った時はかなり驚かれた。で、警戒もされたっけ。

 

 ま、そんなことが過去にあったけど、今はこうやって気軽におしゃべりするくらいには仲良くなれている。

 

 過去のことを思い出していると、先生が“あ”と声をあげて元の話題に戻る。

 

 

「それでシュウ、悩み事?」

 

「悩み事、うーん……一応」

 

「ま〜〜〜た、ホシノとのことじゃないよね?」

 

「そっち系の話とはまた違いますから、その渋い顔やめてください」

 

【先生が言っていた“夜の悩み事”ですか?】

 

「違う、違うよ? というか先生、何をアロナに話しているんだ」

 

 

 純粋無垢な声で酷いことを言わせているみたいで心が痛む。そもそもアロナに言ったら不味くないですか、先生。

 

 

「私、アロナには言ってないよ? ただ、ほら……前にホシノが相談してきた時に、ね?」

 

【よくはわかりませんでしたが、“こすぷれ”? が効果的なんですよね!】

 

「その節は大変お世話になりました。お願いですから忘れてください……っ」

 

 

 先生とホシノの会話を断片的に聞いていたらしいアロナさんは、内容は理解できずともある程度は把握している様子。

 

 もう、ここにも心の安寧となる人はいなくなったのか、ははは。

 

 目を遠くして笑い出した俺に申し訳なさそうな顔で謝ってくる先生。いや、元を辿れば俺のせいだから。ははは。

 

 

「ご、ごめんね。……えっと、それでシュウは何を悩んでいたの?」

 

「えっとですね————」

 

 

 ここ数日に起きたアヤネさん、セリカさんとのことや、シロコさん、ノノミさんとの一件を最初に話す。

 

 最初は“へー”と聞いていた先生も、話が進むに連れて表情が少し真剣なものになる。

 

 

「——ってな訳で、知らないことを知っているみたいな」

 

「……」

 

「梔子ユメさんって言う人、俺は会ったことない思うんですけど」

 

「シュウ」

 

「はい?」

 

 

 なんだか妄想を人に話しているようで少し気恥ずかしくなりながらも、悩みの種のひとつを明かしていると心配そうな顔をした先生が目に入った。

 

 

「また、何かに巻き込まれてたりする?」

 

「え、特に何も……ないですよ」

 

 

 一瞬だけ黒服とのことが頭に過ぎったが、言葉を濁す。

 

 

「ホント? またホシノの時やこの前のエデン条約の時みたいに1人で動いてたり、無理してない?」

 

「してないですよ。というかエデン条約に関しては、お腹に穴を開けた人が何を言っても説得力ないです。無理しすぎ、ひとりで背負いすぎなのは先生もです」

 

「う……。わ、私は大人だし!」

 

【先生?】

 

「……ごめんなさい」

 

 

 なんだ今の圧のある声。聞き間違えか?

 

 俺が困惑した顔でシッテムの箱を凝視していると、“こほん”と咳払いし、表情をしょんぼりしたものから真面目なものに戻した先生が改めて話し始める。

 

 

「最近のシュウはさ、少し頑張りすぎだと思う。それに……ちょっとおかしくなり始めてる」

 

「え、褒めたと思ったら突然のディスですか」

 

「シュウ」

 

「はい」

 

 

 どうやら真面目な話らしく、ちょっとしたおちゃらけを入れたが硬めな声で名前を呼ばれて黙る。

 

 ……こうなると思ったから、あんまり話したくなかったんだけどなぁ。

 

 

「明らかに強くなってる……けど、体の負担もすごいんだよね」

 

「……」

 

【ヒエロニムスとの交戦後、外的要因無しで突然倒れていました】

 

「あの時、確かにボロボロになっていたけど……シュウだけは4日間も目を覚まさなかった」

 

 

 視線を机の上に置かれたマグカップに移して、あの戦いのことを思い出す。

 

 地下でのヒエロニムスとの戦い。だいぶ苦戦したが先生とアズサさんに助力してなんとか倒した。

 

 でも、戦闘が終わると同時に俺の意識は消えて。

 

 

「まるで糸が切れたみたいだった。前触れなく倒れて……みんな心配してたよね」

 

「……はい」

 

「特にホシノの取り乱し方は……聞いてるでしょ?」

 

「…………ええ」

 

 

 俺の視点ではヒエロニムスを倒して、気づいたら病院で目を覚ましていた、という感じ。

 

 真っ白な病室の中で、泣きじゃくった跡を残したままの酷い顔をしたホシノに抱きつかれた時は、状況が分からなくて混乱したものだ。

 

 今の自分に起きていること。それは身体が異様に強化され、ただの人からまるで……。

 

 

「こっちの子たちと同じになり始めてる。違う?」

 

「どう、なんでしょうね。別に力が強くなったとかはないんですけど」

 

「そこだよ」

 

「へ?」

 

 

 手に持ったペンをピシッとこちらに指して詰めるように、何かを確信しているかのように話す先生。

 

 

「ちょっとだけ様子を見ておこうかなって思ってたんだけど。ここ数週間だけで前のシュウと今のシュウの変わり方は異常なんだ」

 

 

 息をひとつ吐いて、デスクの横から紙束を取り出す先生。そこに書かれた内容を読み上げられて、少し驚く。

 

 ヘルメット団との戦闘、ミレニアムで巻き込まれた謎の機械との戦い、トリニティやゲヘナでのいざこざなど、身に覚えのある厄介ごとの数々。

 

 

「————で、戦い終わるとすぐに意識が落ちる。そうだよね」

 

「えっと……」

 

「みんなから聞いたこと。……シュウ、交友関係が広いから大変だったよ」

 

【本当に疲れました……】

 

 

 げんなりした顔でそう言われて、なんと反応すればいいのやら。アロナもなんか迷惑をかけたみたいでごめんね……?

 

 また少しだけ空気が緩みかけて、でもすぐに戻る。ここまでのことを踏まえた先生の予想としては。

 

 

「多分だけどね。シュウの体は、自分の力に追いつけてないんじゃないかな」

 

「力、ですか」

 

「うん。いくら目が良くても、反射神経が良くても体が追いついてない。でも、それを無理やりやっているから負荷がかかってる」

 

【先生と同じ体のシュウさんが弾丸を避けることは普通できません。お腹に穴が空きます】

 

「あ、アロナ?」

 

「はは……。まぁ、普通はそうですよね」

 

 

 そう言われて……いや、気づいてはいたけど目を逸らしていた自分の変化を俯瞰する。

 

 外の人間、普通のはずの俺が迫ってくる弾丸を予測して避けたり、数百メートル先から迫ってくる敵を感知できるのはおかしい。

 

 視線をシャーレの天井に向け、深く息を吸って吐き出す。

 

 色々と自覚し直した俺を見た先生も、ふぅと息を吐き、少し優しくなった声で。

 

 

「私が言えるのはね」

 

「はい」

 

「何かあったのなら、大人の私を頼って欲しいってこと。大丈夫だよ、絶対に助けるから」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレの当番を終えて。まだ陽が出ている帰り道を歩く。

 

 頭で考えているのは、先生には話していないもうひとつの悩み事。

 

 それは昨日の話。セリカさんやアヤネさんとのことや、シロコさんとノノミさんとの会話で出来た、思い出せないことと、知らないはずなのに知っている人について。

 

 特に後半の梔子ユメさんについては、ホシノと関わりがあることは察していた。だから、気軽にホシノに聞いた……聞いてしまった。

 

 

 

え、シュウくん……今、なんて?

 

なんで知ってるの!?

 

どこで……?

 

……ごめんね。少し時間が欲しい、かな

 

 

 

 見たことがないほど動揺し、詰め寄ってきたホシノ。

 

 酷く取り乱したかと思えば、泣きそうな表情になって……でも、無理をした顔で笑って。

 

 あれから連絡がつかないし、話せていない。

 

 気づいたら乗っていた電車を降りて、見慣れてしまった寂れた道を歩く。だんだんと砂に埋もれていくコンクリートを踏みしめながら想いを馳せるのは。

 

 

「梔子ユメさん、ってホシノにとって大事な人……なんだろうな」

 

 

 夕日となった太陽。

 

 静かな住宅街。

 

 虚しく響く自分の独り言。

 

 この数ヶ月で起きたさまざまな事件と、自分に起きた変化を遡るように振り返っていき、自然と手が制服のブレザーに伸びる

 

 

「……」

 

 

 右の胸内側ポケットから取り出したのは、小綺麗な水色と薄緑色に光る石。元は全体が紫色だったが、だいぶ変色している。

 

 同時に石の内側にあったはずの光が弱くなってきている気もする。

 

 …………あ。

 

 

「そういえば……」

 

 

 自分の体が強くなったキッカケ。それはホシノとのつながりがあるから、というのは黒服がきっかけで知っている。

 

 彼女との絆が深まると同時に自分が少しだけ強くなっていく。でも。

 

 

「変なことが起き始めたのは、この石を拾ってから……だっけ」

 

 

 じっと手のひらに乗せた石を見て、色々と思い出す。……黒服に妙なことを言われたことも。

 

 

“……随分と珍しく、厄介なものを拾いましたね”

 

 

「……どこだっけ」

 

 

 別に何か深い考えがあったとかじゃない。

 

 

「えっと」

 

 

 ただ、この石を拾った場所を思い出して、そこに向かってみようと歩き出しただけ。

 

 昔の線路沿いを歩いた先にある、あの1度しか行ったことのない砂漠の地。

 

 そこに何か、今の自分に起きたことの手がかりがある気がしたから。

 

 

 

 





お久しぶりの本編更新です。大変お待たせいたしました。

そしてまずはここまで読んでくれた方へ。このVol.2ですが、時系列が少し特殊です。

R-01

D-02

R-02

D-02

R-03

D-03
.
.
.


と言った感じです。理由やらはあえて言いません。なぜ前書きでアンサーと疑問が逆だったのか、とかで察している人はいるはず。

そして、あと数話で完結だったりします。でもVol.1と同じで今回のように文字量がかなり増えます。

もしよろしければ、引き続きお付き合いください。

最後に次回のタイトルだけ告知して締めます。では、またどこかで!









次回『■■-00:ユメウツツ/セトの憤怒』





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