ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
————ッ!!!
怒り狂うような激しい咆哮。
それは、この場に現れた因縁ある相手への憎悪が込められた呪いの音。
「ノノミちゃん!」
「はい!」
青い稲妻を手に持つシールドで弾き、後方で構えていた後輩へと攻撃指示を出す少女、ホシノ。
そして、彼女に引き続きこの場へと駆けつけてくれた仲間たちが、目の前に現れた巨大な怪物へと果敢に立ち向かっていく。
俺はその光景を尻餅をついたまま、呆然としたまま見つめていた。
「ホシノ先輩、また来る……!」
「シロコちゃんとアヤネちゃんは下がって! 先生!」
「うん! セリカ、右からくる赤いのを撃ち落として! アヤネは左の塔に!」
「「わかった(りました)!」」
————ッ!!!
山のような腕を振るい、狂うような雄叫びをあげる化け物……セトの憤怒。
一切の余儀なく降り続ける雷だが、まるで先が見えているかのような先生のサポートを受けて、瞬時に避けていくみんな。
まだ、理解が追いついていないが少しずつ、周りの光景に頭が追いついてきた。
思わず、口から言葉がこぼれ落ちる。
「なん、で」
「“なんで”も何もないでしょ」
ぽん、と優しく後頭部を叩かれる感覚と、砂を踏み締めた足音が聞こえて横を見上げる。
「先生……?」
呆れたような、“しょうがないな”とでも言いたげな顔でこちらを見下ろす先生と目があう。
「まぁ……思ったよりもボロボロだけど、まだ無事でよかったよ」
「……すみません、また迷惑を」
【もう! 私もおこですっ!】
頭を小突かれたシッテムの箱から聞き覚えのある声が聞こえて、つい反応する。
画面には頬を膨らませていかにも怒ってます、と言わんばかりの顔をしたアロナが。
「あ、アロナ……」
「アロナも私も……みんなも怒ってるよ?」
「……」
「でも、それ以上に間に合ってよかったよ」
ちょっぴり安心した顔で笑いかけられて、少しだけ心が落ち着く。
同時に大きな爆発音が響いて、瞬時に視線をその方向に向ける。
目の先に映ったのは。
————!!??
「……ふぅ。とりあえず1本、もらったよ」
ショットガンとハンドガンを両手に持ち、盾を背中に携えたホシノの低い声。
普段はおろしている髪をひとつにまとめあげ、心なしかどこか怖い雰囲気になった少女の視線の先には、左腕を失ったセトの姿があった。
「ホシノ先輩、ナイス」
「グッジョブよっ!」
「とは言え、まだ襲ってきます……!」
「油断せずに行きましょう〜」
戦闘中、しかも相手は自分たちの何倍もの大きさがある化け物。そんなものを相手にしているのに、アビドスのみんなは“いつも通り”。
崩れていくセトの腕を呆然としたまま見ている俺に、先生はどこか得意げな声で。
「あの子たち、すっごく強いんだから」
なんて、先生までいつも通りの生徒バカを発揮してた。
でも、油断しているように見えてそんなことは一切ない。だって、今まさに。
「うへ、でもまぁ……」
————ッ!!!!
「——すぐに、終わらせるよ」
よそを向いていたはずのホシノ。でも、後ろから迫ってきた雷を瞬時に展開した盾で弾き、その上でカウンターまで決めていた。
『流石は暁のホルス、といったところです』
「っ! 黒服……?」
耳につけていたインカムから突然流れた声に驚きつつも、見知った相手ですぐに反応できた。
『ご無事のようで。こちらでも状況は把握しています』
「え、え?」
「今回だけは黒服も味方、みたいなものだよ」
困惑したまま先生に視線を移すと、ムッとした顔で簡単に状況を説明してくれた。
この場所へ向かう際に連絡があり、俺の“今の状態”やこれまでに黒服と何をしていたかを共有。
目の前に現れたセトの憤怒についての情報の提供、わずかだが武器などの支援など色々としてくれていたようだ。でも……。
「なんで、お前が」
『前にも申しましたが、私が貴方のファンだからですよ』
「は?」
『ククク……冗談、だと思われましたか?』
確かに以前、そんなことを言われた気がするがそんなものを真に受けるほど愚かじゃない。
けど……今目の前の状況は。
「まじ?」
『もちろんそれだけではないですが。今回に関しては状況を甘く見ていた私の落ち度もあります』
話が見えて来ずに混乱していると、みんなの指示をしていた先生が目線を戦況に向けつつ。
「シュウ、黒服に私も通信を繋げるように言って」
と、こちらの通信にインカムで入ってくれた。
『先生、セトの憤怒は』
「うん。黒服から聞いてた通り、不完全だね」
「……?」
不完全、とはどういう意味だろうか。
会話の内容がわからずに黙っていると、“ああ”と黒服が気づいたようで、補足してくれる。
『顕現したセトは完全体なら、もうとっくに貴方たちは倒れているはずですから。本来はたった5人で相手できるような脅威ではないのです』
「アレが出てきたのは、シュウの中にあるものに引っ張られて、無理に顕現したらしいよ。……自分から来たみたいだけど」
「俺の中にあるものって」
また知らない情報が出てきて思わず言葉が詰まる。
自分に、俺に変化が起きているのは自覚しているが、その正体なんて知らない。
『セトが憎み、妬み、存在しているだけで怒りが溢れる神秘……それが今のシュウさんに宿ったものの正体です』
「えっと、外の世界の知識でわかりやすく言うと“オシリス”って聞いたことある?」
「はい」
『豊穣、植物を司り、死後に冥界の神となったもの。それが貴方と同調しています』
そこまで説明されて、頭によぎるのはあの石。
懐から取り出すとそれは、拾ったときのヒビが一切なく完全に再生されていた。
「これの影響……?」
『それは、とある生徒が残したカケラ。死に伏した際に砕け散った神秘の一抹です』
「それって」
「うん、たぶんシュウが思い付いた子の残したモノだよ」
先生の言葉に答えるように儚く光る石に、自然と口が開く。
「梔子ユメ、さんの遺品……?」
『はい。貴方が拾った際にはすでに消えかけていたものでしたが……シュウさんの神秘によって再生され、同化していたようですね』
「え」
「待って、それは初耳だよ?」
『おっと。……とにかく貴方の持つ“縁を紡ぎ、奇跡を起こす”力が作用したのは間違いありません』
一度言葉をくぎり、今度は疑問を込めた質問が黒服からとんでくる。
『ですが、貴方の神秘は大前提として縁が紡がれてから起きるモノです。シュウさん、貴方はオシリス……いえ、梔子ユメとどこかで?』
俺の力は黒服が言っていた通り、発動するには縁が必要。
例え死んでいようが、紡がれた縁が過去であろうが未来であろうが、会っていなければいけない。
そこまで考えて、ホシノとの一件を思い出す。
今のホシノと自分の関係は、過去に起きていた事象が元。でも、それは起きていない時間軸があったから起きた矛盾を孕んだもの。
……なら、俺は梔子ユメさんとすでに、もしくは“いつか出会う”ということか?
「あの、先生」
「?」
「梔子ユメさんの外見がわかるものとかあります?」
戦闘の指示をしている中でこんなことを頼むのは、かなり申し訳ないが聞いてみる。
すると、すぐに自分の端末へ1枚の画像ファイルが送られてきた。
変に緊張しながらも、送られてきたファイルを開くと、そこには“見覚えのある”1人の女の子が写った写真が表示された。
“じゃ、またね! もしアビドスに来ることがあったらよろしくね〜!!”
「ぁ」
『その反応、やはり?』
「……会ったこと、あるよ」
脳裏に蘇った記憶。
過去の世界でボロボロになった自分を助けてくれようとした、あのアビドスの生徒。
初対面なのにやたら気軽で、どこかホシノのような雰囲気を持った人。
すっかり今の今まで忘れてしまっていたけど、間違いなく会ったことがある。
まさか、あんな一瞬の出会いが今に繋がっているのか、と驚いた瞬間。
————!!!!
「っ!」
「ぅう……!」
思わず耳を塞いでしまうほどの強烈な叫び。
砕かれた腕に雷を纏わせ、振りかぶるように激しい攻撃を行い続けるセトの憤怒。
ボロボロになったみんなと、常に前線で戦い続ける冷たい眼をしたホシノ。
……気のせいでなければ、時間が進むにつれてホシノの雰囲気が鋭く、別の何かになり始めている感じがする。
————あんな顔をさせちゃいけない、もうさせるわけにはいかない。
それを見て、すくんでいた足と心に力が入る。
「先生。俺、行きます」
「……大丈夫なの?」
「はい、もう十二分に休みました」
まだ……いや、本音を言えば震えるほどに怖いけど。
ホルスターのハンドガンを取り出し、黒服の物資からショットガンを選んで持ち上げる。
状況は優勢でも劣勢でもない。だからこそ、消耗しているみんなをこのまま見ているわけにはいかない。
『ですが、今の貴方がまた神秘を行使すればどうなるかは、私にも未知ですよ』
「でも、行かなきゃいけない。怖いからって逃げられない」
予備の弾倉をありったけ装備して、しっかりと固定。
『……あれがセトである限り、今のテクスチャがオシリスである貴方は』
「それでも、立ち向かわなきゃいけない!」
『クク……クククッ!』
思い切り力を足にこめて走り出す。
いつかの砂漠での戦いを思い出す。
あのときも訳が分からず、でも行かなきゃと銃を片手に走り出した。
「シュウ! 前から2発、その後に上へ攻撃!」
先生からの指示通りに前方から迫ってきた雷をステップを踏むように避ける。
さっきまでの重かった体が、ほんの少しだけ軽い。
『ああ、そうです。それでこそ貴方だ』
上空から迫る瓦礫をショットガンで撃ち落とし、大きく跳躍する。
目に映る景色が加速していく。同時に何かが体から抜けていく感覚。
後方で狙撃をしていたセリカさんに迫った砲撃を、ショットガンの射撃で押し殺しつつ、手を引いて回避する。
「きゃっ……! あ、え?」
「平気か?」
「……もう、こっちのセリフなんだけど。そっちこそ、もう平気?」
「ああ。支援、頼めるか?」
前方、今も近距離でセトとせめぎ合っているホシノの方を見て、そう聞けば。
「上等。とっとと片付けて帰りましょ!」
「サンキュ!」
「帰ったらラーメン奢りなさいよー!」
そんな声を背中に、また走り出す。
弾切れを起こしたショットガンをリロードしつつ、手榴弾のピンを抜く。
「シュウ、次は左右から同時! 3秒後に柱へ!」
インカムから聞こえた声、それとほぼ同時に迫ってきた左右からの攻撃。
右へと手榴弾を投げ込み、左はショットガンを連射。
それに合わせて手榴弾へとハンドガンを打ち込む。威力が低いハンドガンだけでは雷を落とせないが、先に爆発を誘発させてどちらも落とす。
柱へと到着すると同時に、ノノミさんと合流して銃の装填を行う。
セリカさんと同じく、ノノミさんにも支援をお願いしようと声をかけようとして。
「むぅ」
「うぇ!?」
頬を膨らませ、怒った顔をしたノノミさんを見て、つい情けない声が出た。
「え、と?」
「今はこんな状況なので何も言いませんが!」
ガトリングを連射しながら、今まで聞いたことのない怒りがこもった声。
「もう隠し事は無しですよ!」
「……ごめん」
「許しませんっ」
「う」
ぷい、とよそを向いてしまったノノミさんにバツが悪くなる。……でも、しっかり全部セトに弾が命中しているあたり、すごい。
「ですが」
ガチャン、と銃を持ち直して向き直るノノミさんの顔は多少の怒りはあるものの。
「仲間、ですから。次はしっかり頼ってください」
「……うん」
「はい。なら、行ってください!」
「ありがとう!」
精一杯の応援をもらったのと同時に柱から飛び出す。
銃を連射しつつ、滑り込むように回避。でも、あの激しい攻撃全てを避けるのは不可能だ。
最小限の被弾を受けつつ、少しずつ確実に前へとがむしゃらに走り続ける。
痛みには慣れている。死ななきゃやすい、とひたすら前のめりに攻撃を繰り返している最中で、ドローンから救援物資が送られてきた。
「これ……ありがとう、アヤネさん!」
『いえ! まだ目標まで距離があります。落ち着いていきましょう』
「他のみんなは?」
「こちらで状況を把握しつつ、適時サポートしています!」
時折、みんなの元に届けられている回復薬などは確認していたが、やっぱりアヤネさんがサポートしてくれていたようだ。
心強い、と感謝を伝えていたところでアヤネさんの声音が変化する。
「シュウ先輩、また黒服と関わっていましたね?」
「え、なんで?」
「先生との通信、こちらとも繋がっているので」
……それはつまり。
「もちろん、私たち全員です」
「……」
「……ホシノ先輩、怒ってますよ」
「…………うん」
激しい爆発と地が砕ける音。
酷い砂嵐の中で、トリガーを引く手を止めずにはいたものの、さっきまでとは別の恐怖が背中に駆け巡る。
「はぁ……私たちも言いたいことはたくさんありますが、まずはホシノ先輩の元へ」
「う、うん……」
呆れたような声音で応援? をもらって若干重くなった足をまた動かし始める。
「もちろん、私もホシノの後にお説教するからね? 右から迂回して、そのまま前進」
「……ハイ」
身を隠すことができる障害物を使って、被弾を抑えつつ、さらに奥へと向かう。
そして。
「シロコさん、右の方を頼む!」
「ん」
左右の柱から放たれた電撃をシロコさんとともに撃ち落とす。
背中合わせにほぼ同時に打ち込んだ攻撃は全てヒットし、多少の傷だけで済む。
「シュウ」
「え? うおっと!?」
名前を呼ばれて振り向くとアサルトライフルをこっちに向けたシロコさんが目に映り、一瞬だけ動揺したが。
「後ろ、来てた」
「さ、さんきゅ……」
迫っていた攻撃から守ってくれたようだった。
一瞬、撃たれるかも、なんて思ったが彼女がそんなことをするわけない————
「シュウへの罰はこんなのじゃ済まさない」
「やっぱ狙ってた?」
「……」
「ちょっと?」
不穏な言葉を呟かれて思わず突っ込むが、現状がやばいのでそこまでに。
というか、まぁ。
「……お手柔らかにお願いするよ」
それだけの事態になっている自覚はあるし、普段は怒らないノノミさんがアレだから覚悟はしていた。
「ん。しばらくは覚悟して」
「…………」
「……ふふ」
冷たく笑う姿なんて初めて見たんですけど。やっぱりしなくても、激おこか?
————!!!!
ちょっとだけやわらかくなった空気も、もう目の前に迫ったセトの姿と咆哮で消え失せる。
「ここから先、もっと激しくなる」
「ああ」
「ホシノ先輩、多分だけど我を失ってるから」
「……」
視線の先には閃光のように動き続け、自身へのダメージを無視して戦い続けるホシノがずっと見えていた。
黒服はホシノのことを“ホルス”と呼んだ。“今の俺”がセトへ酷く恐怖するように、セトも俺に狂おしいほどの怒りを向けている。
それは他の相手へと攻撃している際もずっと感じていた。
なら、ホルスと呼ばれたホシノはセトへどのような感情を向けているのか。
————!!!!
「——うるさいッ!」
初めて見るような冷たい瞳、荒れた口調。何より、ドス黒い殺気。
戦いが進むほど、ホシノが別の何かになっていく感じがする。
まるで、セトの怒りが伝播するように荒々しくなっていく姿。
あんなふうになったのは、きっと自分のせいであり————“私”のせいだ。
「……行ってくる」
先生の配置でそれぞれが最適の位置で戦闘を行い、迫る攻撃を撃ち落としているシロコさんたちは下手に動けない。
配置が変われば、それだけで全滅の可能性がある。
でも、ホシノは途中から前に出過ぎている。彼女のあまりある戦闘力で大きな支障は出ていないが、想定以上にホシノは消耗している。
想定されていない駒がなければ、ホシノへの助力は見込めない。だから、俺が……救出対象で動くことを前提とされていない自分が行けばいい。
「ん。後ろは任せて」
「頼りにしてる!」
セトから発せられた青い光が円状に、まるで自分の領域だとでも言いたげな範囲へと足を踏み入れる。
「っ」
痺れるような痛みが靴を貫通して地面から己が身を突き刺す。
セトの間近では電撃が絶え間なく発生しているようで、ここでは常にダメージが発生していた。
そんな中でずっと戦い続けているホシノは、すでに服の一部は焦げつき、血も流れている。
けれど、本人はまるで気づいていないかのように一心に攻撃を続けていた。
————ッ!!!
「ぁぁあああッ!!」
狂ったように雄叫びをあげ、セトの肉体を打ち抜き、迫る剛腕をかすりつつ無理やり避けて。
ゼロ距離となった胴体に両手で持ったショットガンとハンドガンを撃ち続ける。
近づくにつれて、自分の鼻に皮膚が焦げた匂いや、鉄臭さが鋭く感じられるようになってきていた。
一種のアドレナリンが出ているのか、ホシノは自分の傷に気づかず、ただ戦い続けている。
急がねば、そう思うのと同時に俺とセトの目が確かに合う……合ってしまう。
————、————!!!!!
セトが手を胸部に構えて何かを溜め始める。これまでにないほどの警戒音が脳裏で鳴り響く。
まずい、あれはまずい。焦り、足へ込める力をより大きくする。
セトの巨大な身体が激しく発光する。それに呼応するように中心にためた電撃の塊がバチバチと荒れ狂う。
よく見ればセト自身が込めたエネルギーで己も傷がつき始めている。
つまり、あれは自爆覚悟の技。自分が滅んででも、こちらを滅ぼすという意思の表れ。
「っ!!」
アイツが狙っているのは俺だが、その射線上はホシノやシロコさんたちがいる。
意識せずに胸元を握りしめ、走る。
速く……速く! まだ足りない……!
『ッ! シュウさん、それ以上は!』
「————」
手につけた装置、クローン・デバイスが酷く高い警告を発している。でも、関係ない。
腕を動かす。空気中に走る稲妻で皮膚が切り裂かれる。
足を前に出す。地に撒かれた雷で足の裏が血まみれになる。
それでも目線はただホシノの背中を見続ける。
遠い、とても遠い10メートル。
足掻いて、ボロボロになって。
「ホシノ!!」
「ッ!?」
やっとのことで、その背中に触れる。
我を失ったようだった怒りの表情は、俺を見て困惑に染まり……正気になったことが理解できる。
「あ、え?……っう!」
同時に自分の体についた傷の痛みを自覚したようで、一瞬だが膝をつきかける。
労わりたい、謝りたい。でも、今は時間がない。
「ホシノ、これ借りるぞ」
「これって……え。ま、まって……!!」
すでに満身創痍のホシノの背中から、了承をとる前に盾を借りる。
瞬時に展開し、前方へと構える。大丈夫だ、これの使い方は“よく知っている”。
それと同じタイミングで、少し申し訳ないがホシノをなるべく遠く後方に押すようにして遠ざける。
「まって、だめ!!」
背中から聞こえる声に反応しようとして。
————————!!!!!
「————ぁぁぁあああ!!!!」
燃えるように激しく襲いくる光。芯に突き刺さる痛み。それが手に構えた盾から伝わってくる。
視界は真っ白で何も見えない。ジリジリと後ろに下がっていく感覚だけが、自分が今ここで踏ん張っていることを理解させてくれる。
でも、このままじゃ耐えきれない。
足りない、もっと、もっと!!!
「————、————!!」
『————!』
何かを叫ぶ声、耳元のインカムからの音声。どちらも全く聞こえない。
今はとにかく守ることだけを考えろ。俺の、自分自身の持てる全てを使い果たしても……!
俺の中にあった思考はそれだけ。
だから、自分の体とそれを通して滲むように溢れた碧と青の光に気づかず、ただ力を行使した。
そして、激しい衝撃と青く染まった光の中で、俺は意識を手放した。
▼
「思い出しましたか?」
膝をついて頭を押さえていた俺。
それを腕を組み、眉をさげて……少しだけ微笑んだ顔で見つめているホシノ。
「……」
本当はわかっている、でも、もしかしたら。
複雑で多くの想いをごちゃごちゃに混ぜたような顔で俺を見つめるユメ先輩。
ゆっくりと立ち上がり、静かに頷く。
「……はい。全部、思い出しました」
“D-05:終わりの物語 ”につながるお話でした。
次回、真相編です。そしてその次がエピローグ。
長かったVol.2も残り2話です。
……おまけのEXもあったりしますが、シリアスのシの字もないのでそこはご留意ください。