ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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その答えはきっと誰にもわからないし、定義することも不可能だ。








τ...IFルート[トリニティ]:燃ゆる熾天使の檻の中で
問.「真に人が人を信頼することはできるのか?」


 

 

 

————初めに。

 

 手を差し伸べた相手から言葉による裏切りを受けた。

 

 

「あれです! あれが“シュウ”です! 早く捕まえてッ!!」

 

 

 名も知れぬトリニティの生徒である彼女の目に映っているのは、薄汚い欲の色。

 

 権力による支配、今以上の立ち位置を欲した醜い感情。

 

 己の利己のみを考え、ただ目の前の獲物を狙い、見つけた自分への喜び。

 

 

————次に。

 

 感謝を伝えられ、何気ない会話を日常的にしていた相手から虚偽の提案を受けた。

 

 

「きっとこのままでは貴方はずっと閉じ込められてしまいます。私と一緒に戻れば前のような生活が————」

 

 

 普段とは打って変わり、憎たらしいほどに饒舌となった少女の目に、宿るのは汚れ切った野心。

 

 承認欲求、他者からの感謝の言葉。それは麻薬のような中毒性と甘美な蜜の味。

 

 俺ではなく、そのあとに訪れる自分への褒美、賛美を見つめ、ただ喋り続ける彼女の目は獣のようだった。

 

 

 

 

 虚偽と欺瞞に満ちたこの問答を何度、何人と繰り返したのだろうか。

 

 あの日から変わってしまった自分の立場と価値。

 

 外交、政治面において有用と判断されたが故に起きた事件。

 

 キッカケは些細で単純なもの。たったひとつの勘違い。

 

 不幸だったのは、それを目撃されたタイミングが最悪だった。

 

 だから。耐えて、逃げて、信じて。

 

 人の善性を信じて、それでも俺は、と足掻いた。

 

 けど、もうたくさんだった。

 

 

 

 

————そして。

 

 今ある彼女との友好関係が疑念と嘘に塗れたものだと知った。

 

 

「……っ! ち、違うんです! はじめは、きっかけは確かに貴方という存在に興味を持ったことからでしたが……!」

 

 

 立場を隠し、存在を偽り。果てには、出会いまでがすべて仕組まれ、作られたものだった。

 

 

 相談に乗ってもらった。 / 裏では何を考えていたのか。

 

 気さくに声をかけてもらった。 / 全て俺を信用させるため。

 

 心が落ち着く友人だと言ってくれた。 / 側においておくことで他の学園に奪われる心配がないと思った。

 

 

 嘘、全てが嘘。

 

 かろうじて保っていた正気と大切なものが、ぼろぼろと朽ち果てるように崩れていく。

 

 違う、そんな言葉を口にするが、だったら何故。

 

 

「なんで……言ってくれなかったんだ」

 

「そ、れは……」

 

 

 先ほどまでの必死な言い訳はどこにいった?

 

 なぜ、痛いところをつかれたかのような顔をして、言い淀むのだ。

 

 そもそも、このトリニティ総合学園において代わりとはいえ、最高権力を持つ彼女が俺という存在を気にする、という事実が答えだ。

 

 俺からの視線に耐えられなくなったのか、胸に手を置き、視線を切られた瞬間。

 

 ぷちり、と最後のモノが完全に途切れたのを理解した。

 

 

「————ああ」

 

 

 そこに、真の友情などはなく。

 

 ……ひび割れるような音が内側から聞こえる。

 

 

「本当は」

 

 

 そこに、信頼という言葉はなく。

 

 表から裏に、反転する感覚。

 

 

「ぜんぶ、全て……」

 

 

 そこに、真実などはなく。

 

 己の芯、根幹。

 

 ついぞ知り得ることはなかった“(自分)(他人)の絆、縁によって生まれる奇跡”の力は。

 

 

「この世界はウソまみれだったんだ」

 

 

 この世界にあるのは、裏切りと絶望で作られた()という名の箱庭。

 

 そこに来てしまった自分への失望、怒り、悲しみ。

 

 知りたくはなかった真実に対する黒い感情は、燃えるような感情と共に。

 

 全て燃やし尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「自己の根である神秘、それを否定したことで起きた擬似的な反転」

 

「惜しい。実に惜しい」

 

 

 モニターに映るのは、一瞬で廃墟と化した教会。

 

 黒く燃ゆる炎で埋め尽くされ、果てることを知らないかのように広がり続ける天災とも言える光景。

 

 地獄の炎。疑いと嘘で埋め尽くされた、かの学園を浄化するようにただ燃え続ける歪なもの。

 

 今、あの場所にあるのは“信じたかった”と嘆く、子どもの苦しみと声を薪にした恐怖で染まった焔の渦。

 

 自分すらも燃やして、全てを否定した姿はあまりにも痛ましく、嘆かわしい。

 

 それを見つめ、手に入れることができなかった最高の素材を惜しむ、ひとりの大人。

 

 

「彼の真価は誰かと繋がり、真に絆を深めた際に起きる現象です。それをこのような……」

 

「全くもって人というのは度し難い。そして、残念という言葉以外が見つかりません」

 

「トリニティを選んだが故の末路。こればかりは彼自身の責任です。ですが————」

 

 

 もうひとつのモニターに映るのは、この場にいる大人とは違い、真に子どもたちを想い、愛しむ先生と呼ばれる存在と。

 

 

「完全に反転していないのは……。きっと、まだ“信じている”相手がいるからでしょう」

 

 

 頬から血を流し、埃だらけとなったトリニティの制服。見た目はボロボロという言葉が当てはまる、ひとりの少女。

 

 髪は乱れて呼吸も荒く、すぐにでも休ませる必要があるような姿。

 

 だが、その目は強い意志を宿し、何かを必死に先生へと伝えて、走り続けている。

 

 

「この怨嗟で燃える檻の中で、彼を真の意味で救えるか。ククク……実に見応えがある」

 

 

 達観した視線の中にあるのは、まだ見ぬ可能性の姿。

 

 果たして。縁を否定した少年と再び、絆を結ぶことができるのか。

 

 

 

 

 これは裏切りと疑念、陰謀に策謀が渦巻く、決して綺麗とはいえない物語。

 

 血生臭く、泥だらけ。

 

 誰かを信用する、それはいちばん難しい人類の難題。

 

 けど、それを乗り越えることができる人たちがいるのだとしたら。

 

 きっとそこには、かけがえのない美しいものが生まれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 






ということで、アンケートの結果から“IFルート[トリニティ]”がスタートです。

この章は、今までのお話とは違って難しいものは一切なし。ただギャグ要素は少なめで、めっちゃシリアスです。

描くテーマはタイトル通り「真に人が人を信頼することはできるのか?」というものです。

ドロドロ、裏切り、疑念、虚偽、欺瞞。

多くの負の感情が集まるこの章で、主人公は大きな傷と大切なものを見つけていくことになります。

更新はどのくらいの頻度になるかは分かりませんが、もしよろしければお付き合いください。


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