ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
短いヨ。
トリニティ総合学園へと転入して2週間。
当初のドタバタは完全に落ち着き、真新しい学ランチックな制服にも慣れてきた今日このごろ。
ここのコミュニティにも少しずつ馴染んできて、男の生徒と言うだけで注目されることも少なくなってきていた。
同時に、俺と言う人間を理解してくれた人も少しずつ増えてきて、友人といえるような間柄の人間も増えてきた。
ちょっと特別感があった日常が普通になり、異色のようだった光景が見慣れたものへと変化していくのは、ほんの少し寂しいけど。
「シュウくん、おはよー」
「はよー」
朝の登校時は、こうして挨拶をされるくらいには顔を覚えられていることに嬉しさを覚えているので、プラマイ的にはだいぶプラスだ。
それと、もうひとつ。
「シュウさん、またお願いしてもいいですか?」
「構わないよ、どこ?」
申し訳なさそうな顔で頼み事をしてくるクラスメイトへ気軽に返事をする。
俺がここに来てからというものの、多くの助けごとをしてきた。
それは探し物だったり、簡単な設備の修理だったり。たまに宿題の手伝いなんかもしていた。
これによって俺の存在は、便利なお助け屋さんみたいなものになっていて、何かあれば接点のない初顔の相手も相談に来てくれるように。
争いごとは残念ながら自分のスペック的に力になれないけど、それ以外ならおおよそは手を差しのべることができた。
ちょっと大変なものもあるけど、まだまだ狭い友好関係を広げるにはぴったりだし、俺もイヤイヤやっているわけじゃないから、かなりお得な気分だ。
人によっては損な立ち回り、と見えるみたいで昼食をとっていたときにヒフミからは。
「シュウくん、自分の時間を大切にしてもいいと思いますよ?」
なんて心配そうな顔で言われた。でも、さっきも言った通りこの行動は自分のためでもあるし、好んでやっていることだから、と伝えた。
そんなことを数日続けていた、とある日。
トリニティ・スクエアにある噴水の近く。芝生が生い茂る広場であぐらをかいて、むしゃむしゃとコッペパンを齧っていると、隣でおにぎりを食べていたヒフミが、おずおずと声をかけてきた。
「あの」
「んぁ?」
モゴモゴと咀嚼しながら顔を横に向ければ、なんとも聞きづらそうなことを尋ねようとする直前……みたいな表情のヒフミが目に入った。
でも気まずさみたいなのはなく。単純に気になっていることがある、みたいな感じで、声自体は特に緊張の色もなかった。
「シュウくん、さっきも誰かに頼られていた……と言いますか」
「おん」
おや、見てたのか。とまた言い辛そうな顔をしたヒフミを見ながら、思い出すのは30分ほど前のこと。
なんか次の授業に使うものの設置をお願いされて、その子の代わりに引き受けただけのよくある話。頼られたなんてたいそうなものじゃない。
そんな俺の内心を読み取ったのか、ちょっと困った表情になったヒフミが力を込めたように口を開く。
「あまり遠回しな言い方が思いつかないので、ストレートに聞いちゃうんですけど」
「うん?」
「私から見ている限り、あれはシュウくんの優しさに漬け込んで、良いように使われているだけのように見えました」
「……ま、まぁ」
悲しげに眉を下げられて、そう言われる。薄々は自分でも察していたけど、目を背けていた部分を的確に指摘されるのは、なんとも痛いなぁと。
「さっきのことだけじゃないです。……みんな、シュウくんがなんでも頷いちゃうから、甘えすぎなんです」
「そんな悪意とかはないと思うぞ? ちょっとサボりたい、くらいだろ」
「でも、それで大変なのはシュウくんです。す、すぐに頼っちゃうのは私もですが」
頬をかきながら目線をずらしてバツの悪そうな顔をするけど、別に気にしていないんだがなぁ。
あ、でも。
「ブラックマーケットはしばらく禁止だぞ」
「うぅ……ごめんなさい……」
「うむ。また今度な?」
「は、はいっ」
なんだかんだヒフミに付き合って遊ぶのは嫌いじゃないし、普段はちょっぴり厳しいトリニティが息苦しくなるのも理解できる。
だが、流石に週4はやりすぎ。何が悲しくてあの変な鳥のグッズのために、毎回死にかけなきゃいけないのか。
これでこの話はおしまい、と思っていたのだけれど。
「でもシュウくん」
「んー?」
「どうして、誰彼かまわずに助けちゃうんですか?」
「ヒフミだってお人好しのくせに」
「わ、私のことはどうでも良いんですっ! 今はシュウくんのことですよ?」
「なんで、って言われてもな」
別に大した理由とか、信念があるわけじゃない。なんなら、この世界に来る前は“厄介ごと”が目の前にあれば、そっとスルーしてたし。
……今の俺が誰かに手を差し伸べる理由、ねぇ。
目線を空に上げて、ちょっとだけ考える。答えはわかっているから、自分自身への問いかけと、再確認のために。
「損得勘定なしで、ただ手を差し伸べることができる大人がいた……からかな」
「へ? ……あ」
「憧れとかに近いのかもね。ちょっと先生とは長くいっしょに過ごしすぎた」
困っている誰か、子どもが居たら助けるのは当然のこと。それを俺は知っているし、近くで見ていたから。
何より俺自身が助けられたひとりだし、“こんな大人になりたいな”と思ってしまうのは、割と順当だった。
「だから、これは真似してるだけ。別に俺の性分とかじゃないんだ」
「……」
「え、何その顔」
一瞬だけポカンとした顔になったかと思えば、微笑ましいものを見るかのような表情に変わったヒフミ。
気のせいでなければ、生暖かい見守るような視線になっている気がする。なんか、酷い勘違いというか、思い込みをされた気がするんだけど。
むず痒い視線に当てられて、何かを言わなきゃと俺が口を開いたとき。それよりも早くヒフミが、優しいけどどこか、からかったような声音で。
「シュウくんって、結構可愛いところあるんですね」
「男ってさ。可愛いとか言われるのが一番しんどいんだよ?」
ニマァ、と口角を上げて背伸びする子どもを見るかのような顔と言葉に、つい言い返すけど。
「えへへ。頭、撫でても良いですか?」
「良くないよ? 良くないのに勝手に撫で始めてるよね」
逆にそれがヒフミの何かを刺激したようで、ずいっと近づいてきて勝手に俺の頭を撫で始めた。
むかつくのは、その撫で方がイヤに上手でかなり恥ずかしいけど、ちょっと嬉しくなっている自分という状況。
「シュウくんは良い子ですね〜」
「……………」
「なんだかんだと拒否しないところも、優しくて私は好きです」
「俺はこの状況にすっごく不満だけど」
「私はとっても楽しいのでオッケーですっ」
あら、良い笑顔ですね。……はぁ。
「……そーかい」
「お試しで私のことお姉ちゃん、って呼んでみてください!」
「舐めんな!」
この日以降、俺が人助けをするごとにニコニコと見守るヒフミと視線があったり、やたら褒めてきたりして、鬱陶しくなるのはまた別の話。
▽
「シャーレの所属生徒?」
「はい。それがトリニティに転入したようですね。情報部やあっちも忙しないわけです」
「……面倒なことにならなければ良いけど」
「先生のお抱え、しかも唯一の男子生徒ですから。……もう既に動き始めているようです」
「余計なことを……。ミレニアムの方は?」
「あちらもですね。何せシャーレへのカードですから。政治的な意味合いで重要です」
「あの条約までもう時間もない。荒事にならなければ良いのだけれど」
「委員長、私たちはどうします?」
「