ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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α-1:シュウはアリスの従者ですっ!

 

 

 

 

 

 爆走。まさに、これこそがスピード。

 

 天気は晴れ。時刻は午前10時、気温は24度。

 

 ミレニアムの所持する実験用の広場にて、時速150キロのバイクで風になる男がいた。

 

 

「うおおぉぉぉ……!!」

 

『グッドっ! もっとあげれるかな!?』

 

「これ以上はまずいんじゃないですかぁ!?」

 

『何言ってるの、ここから』

 

『ですですっ! 速度の極致にロマンはあるんですよ!』

 

「怒られても知りませんからね!?」

 

 

 制服の上にきた白いパーカーは風によって真横になびき、ヘルメットで狭くなった視界は、コンクリートの地面と正面に広がった道のみを映す。

 

 耳に装着させられたインカムからは、開発のロマンに取り憑かれた先輩と後輩×2の興奮した声が聞こえる。けど、そんな声よりも魔改造されたバイクの唸るようなエンジン音が怖すぎて、ブルブル震えている。

 

 速度を示すメーターはすでに170キロを超え、横目に映る景色はとんでもない勢いで消えていく。

 

 

『よし!いけ!』

 

『うんうん、まだまだ』

 

『このエンジンの凄さはこんなものではありません! 説明しましょう、このニュートロンアラクトロ————』

 

「むり! もう無理だってぇ!!」

 

 

 まだ行けると言われても、これ以上は……! 誰か止めてくれ!

 

 そんな儚い願いが叶ったのか、インカムには先ほどまで喋っていた3人以外の声が突如入ってきた。

 

 

『ちょっと!? ものすごい速度で走行する、轟音のバイクが暴走してるって苦情が来てるんですが!』

 

『くっ!?』

 

『まずいね』

 

『つまり水素を使った爆発を極限に、ってゲ!』

 

『やっぱりエンジニア部ね! あれをすぐに止めなさい!!』

 

 

 この声は……! 助かった!

 

 

「は、早瀬さん!」

 

『え、この声って……ここから? もしかしてシュウが乗ってるの?』

 

「助けて! もう限界なんです!」

 

『はぁ……。ま〜た巻き込まれたのね? とっとと速度を落として降りなさい』

 

「はいっ!!」

 

 

 まさに天の一声。ようやくこの実験の手伝いを終わることできると、ゆっくりとスピードを落としてみんなのいる方へとバイクを走らせる。

 

 

「いやぁ、助かりました」

 

『もう、これで何度目よ。前回は……光の剣? の量産型とかで酷い目に遭ってたのに』

 

「今回で懲りました」

 

『かっこいいものに憧れるのはいいけど、泣くのはシュウなんだからね』

 

「はい!」

 

 

 時速も40キロを切り、視界には白石さんたちエンジニア部と早瀬さんの姿が視認できた。

 

 ふぅ。救世主・早瀬ユウカさまのおかげで俺は無事に……。

 

 

『ところで』

 

「はい?」

 

『シュウ、バイクの免許って持ってるのよね』

 

「…………」

 

 

 当たり前のことだけど、なんて。前置きをされた質問を聞いて、ピシリと体が固まる。

 

 チラリと横のエンジニア部を見れば、全員が目を逸らしていた。……あ、白石先輩が顔を背けたまま、サムズアップしてる。

 

 つまり、逃げろと?

 

 

『いくらミレニアムの施設、私有地でも安全面的に無免許なんてことないわよね』

 

「……………」

 

『……ねぇ、シュウ?』

 

 

 だんだんと声が低くなり、何かを確信したかのように問い詰めてくる早瀬さんの声。

 

 ……この時、俺は脳裏にふたつの選択肢が生まれていた。

 

 ひとつは土下座で謝る。死ぬほど怒られるだろうけど、これがきっと一番マシなはず。ならば、そうするしか——

 

 

『先生に言いつけるわよ?』

 

「……………」

 

 

 先生。この単語を聞いた瞬間、俺の選択肢はグーンとふたつ目の方へと方向転換した。

 

 

『ちょっと、何か返事を』

 

「…………ふ」

 

『え、何? ふ?』

 

「フルスピードで走るのが俺の人生だった!!」

 

『は?』

 

 

 右足を軸にグルン、とバイクを転換させて真反対に向き直り、フルスロットル。

 

 あばよ、俺の青春。あばよ、優等生への道。

 

 さっきまでの怯えはなく、ただひたすらに全力で走り抜ける俺。そしてその背中を見て、まさか逃げるなんて思っていなかった早瀬さんは、一瞬だけ言葉をなくして。

 

 

『そんなの別れの言葉じゃないわよ!!!!』

 

 

 100点のツッコミをインカム越しに放ってくれたとさ。てか、早瀬さんその映画知ってるんだね。

 

 

 

 

 

 

 

「……終わり、ました」

 

「……はい。こちらで大丈夫ですよ」

 

「ふへぇ」

 

「ふふ。お疲れ様でした」

 

 

 時刻は15時手前。セミナーの部室に完備されたデスクの上で、伸びる俺に労いの声をかけるのは生塩ノアさん。

 

 かれこれ何度目かの反省文と報告書の提出。毎回ノルマの枚数が伸びていて、今回は合わせて20枚。

 

 2時間近くかけて書いた血と涙と鼻水の結晶は、生塩さんによってほんの5分程度で確認されていた。

 

 痛い、痛いよ腰が。あと捕縛された時に縄で締められた手首が。

 

 悶えている俺を見てクスクスと笑う声が聞こえ、その主の方に顔を向ける。

 

 

「ユウカちゃん、カンカンでしたよ? シュウくんは随分と楽しそうな経験をしたみたいですが」

 

「ですよね。ブチギレてましたね、ははは」

 

「あら。反省の色はなし、と」

 

 

 いつの間にか手に持っていた手帳に、とんでもないことを書き始めた生塩さんを見て焦る。

 

 

「勘弁してください……! もう逃走劇は懲り懲りなんですよ!」

 

「そうなんですか? 随分と手を焼いた、と聞きましたけど」

 

「う……」

 

 

 結局、捕まってしまったようですが。と、なぜか残念そうな生塩さんに怪訝な目線を送りつつも、今日起きた怒涛の逃走劇を思い出す。

 

 別に盗んだバイクではないが、違法そうな改造を施された二輪に跨り、追ってくる早瀬さんから逃げた俺。

 

 まだ詳しくないミレニアムサイエンススクールの中を直感だけで走り抜け、気づけば人が誰もいない場所に出たんだけども。

 

 そこで待ち伏せを食らった俺は、見覚えのあるメイド集団にあれやほらやと気づけば縄でぐるぐる巻きにされていた。

 

 

「まさか、C&Cまで引っ張ってくるとは思わなかったんですよ……」

 

「皆さんに担がれてここに来たときは、私もびっくりでしたよ」

 

 

 びっくりという割にはニッコニコの笑顔でしたよね、貴女。などと言えるはずもなく、ただ無言で目線を切る。

 

 俺の幼稚な反応になぜか気を良くした様子の生塩さんは、笑みを浮かべたあとで“そういえば”と話題を切り替える。

 

 

「ユウカちゃんから伝言を預かってたんですが」

 

「え。……俺、まだなんかやらかしてる?」

 

「最初にその発想に至るのは、何か後ろめたいことがあるからですね」

 

「黙秘で」

 

「うーん……。まぁ、いいでしょう」

 

 

 つまらなそうな顔をしながら、手元の手帳へと一度目を落とす生塩さんにホッとする。

 

 

「えっと、それで伝言っていうのは?」

 

「シュウくんを探している子がいたそうですよ。確か————」

 

 

 生塩さんから出た名前と用件を聞いて、“おや”と頭にハテナが浮かぶ。

 

 面識がない相手とかではない。知っている相手、というかミレニアムに転入する前からの友だち……パーティーメンバー? だったが、特に約束もなかったはず。

 

 でも、ここのところは会っていなかったなぁ、なんて思って。このまま小さな勇者さまに会いに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、シュウ?」

 

「へ? ……ゲッ!」

 

 

 あくびをして、人の少ない廊下をちんたら歩いていた俺の背中に聞き覚えのある声がかけられた。

 

 振り向き、その姿を確認するのと同時に脊髄反射で口から飛び出た言葉は、彼女の癪に触ったようで。

 

 

「何よ、その失礼な反応は」

 

「いや……。あ、あはは……」

 

 

 両手を腰につけて、俺の顔を覗き込むようにジト目を送る目の前の少女。

 

 体が勝手に、なんて言い訳は通じない相手に苦笑いで誤魔化す。

 

 ムッとした顔をした菫色の髪をツーサイドアップの同級生・早瀬ユウカさん。

 

 シャーレに居た頃から何かと気にかけてもらっていて、ミレニアムに転入した際は“よろしくね”なんて優しげに微笑んでくれたのは、まだ記憶に新しい。

 

 ただ、ミレニアムでの生活では何かと怒られることが多く(おおむね俺が悪いんだけどさ)、反射的に身体がびくつくと言いますか。

 

 加えて今日はしっかり、エンジニア部の件でしっかりと絞られた後だった。結果、今みたいな反応になったわけだ。

 

 

「もう……人の顔を見るなり、そんな反応して」

 

「ご、ごめんて……。コーヒーでいいか?」

 

「んー。今日は甘いものの気分かな」

 

「おっす」

 

 

 早瀬さんと並んで歩きながら近くの自販機で、いちごミルクとコーヒー牛乳を購入して手渡す。

 

 

「ほんとご迷惑をおかけして……」

 

「そんなペコペコしなくても。でも、もう迷惑はかけちゃダメよ? ここ、ただでさえトラブルだらけなんだから」

 

「ここ数日ですごい実感してるよ」

 

「……そ、そう」

 

 

 あまりにも遠い目で同意すると、何故か引き気味の反応が返ってきた。

 

 ああ、そっか。俺が巻き込まれた案件って、大体が早瀬さんもいたっけ。

 

 音を立てて、人工甘味料たっぷりな甘ったるいコーヒー牛乳を啜っている中で、ふと自分が今ここを歩いている理由を思い出す。

 

 横に目を向ければ、たぶん同じ件で俺に声をかけようとした早瀬さんと目があった。

 

 

「シュウ、ノアから聞いてると思うけど」

 

「うん、今向かってるとこだよ。早瀬さんも?」

 

「ええ。私は別件だけど、目的地はゲーム開発部よ」

 

 

 ため息混じりに頭を抱えた早瀬さんを見て、ちょっと察する。

 

 こりゃ部費がらみか、はたまたトラブルか? 何せセミナーの会計さまがわざわざ出向く案件だもんなぁ。

 

 

「なんかあったのか」

 

「別にいつものことよ。部費の申請に不備があったの」

 

 

 ほら、と呆れた顔で見せられた紙にはずらっと数字が並んでいた。……部外者だけど、俺見ていいのかな。

 

 内心ではちょっと心配だったが、好奇心はあるもんで。つい目はセミナーに提出されたであろう資料を読んでしまった。これは……。

 

 

「おぉ……」

 

「シャーレで先生の手伝いをしてたシュウならわかるでしょ。こんなの通せないのよ」

 

 

 どうして、もっと上手くやらないのよ……。そんな明らかに贔屓目で見ている感じの早瀬さんの独り言は、聞かなかったことにしておき。

 

ゲーム開発費〇万円。これはわかる。

参考資料費〇万円。これも……ちょっと高いけどわかる。

活動用交通費〇万円。うん、ここから怪しい。

新作購入費〇万円。はい、アウト。

 

 素人目で見ても“ダメじゃない?”と言われそうな内容だな、これ。実際ダメらしいし。

 

 

「書いている子が素直すぎるというか」

 

「そこが可愛いところでもあるんだけどね」

 

「え?」

 

「何よ?」

 

 

 なんかおかしな言葉が聞こえて、思わず資料から早瀬さんの顔に視線が映ったが。そこには不思議そうな顔をする、冷酷な算術使いさんしかいなかった。

 

 ……深くは触れるまい。

 

 

「い、行こうか」

 

「?? ええ。あ、ごちそうさま。次は私ね」

 

「今回のはお詫びなんだけど……。まぁ、よろしく」

 

「はいはい」

 

 

 何故か交互に飲み物を買いあって雑談するくらいには、仲が良かったりするがそれは別のお話。

 

 目的であるゲーム開発部の部室へと向かうなかで、早瀬さんとは俺を探している勇者さまの話に。

 

 

「で、シュウはアリスちゃんといつ知り合ったのよ」

 

「んー、最初はゲーセンだっけかな」

 

「ゲームセンター?」

 

「冒険中だったらしいぞ」

 

「ああ〜」

 

 

 これだけで伝わるあたり、早瀬さんもアリスと仲良いのか。

 

 気のせいじゃなきゃ、アリスの話になった途端に上機嫌になったし。

 

 

「それで?」

 

「え、まだ聞くの?」

 

「当たり前でしょ」

 

 

 当たり前、とは。

 

 妙に興味を持った早瀬さんを見て、少し面倒だったが簡単にアリスとの出会いから今日に至るまでを話していく。

 

 

「アリスと出会ったときは……確か、なんかのシューティングゲームやってたんだけどさ」

 

「うんうん」

 

「“うわーん! すぐに落ちちゃいます!”って何度もコンティニューしてて」

 

「うんうん!」

 

 

 なんかテンション高くない、きみ?

 

 言葉には出さず心の中でツッコミつつ、話しながら思い返すのはアリスと出会った日。

 

 やたら苦戦しているゲームを、根性で必死に攻略している小さい子。何度も同じ弾幕で撃墜される姿を見て、ついアドバイスをしたのがきっかけ。

 

 

『それ、安置あるぞ』

 

『!?』

 

 

 一言目はそんなロマンのかけらもない攻略の助言。これを聞いたアリスは、凄いショックを受けていた気がする。

 

 で、気づけば隣に座ってステージクリアまでアドバイスしつつ、一緒に遊んだ。

 

 お互いに名も知らない間柄で、始めは言葉数も少なかったけど、

 

 

『シュウ、シュウ! 来てます! 凄い量です!』

 

『えっと。ここは右端に寄って、下から上にゆっくり移動してみて』

 

『全部避けれました!』

 

『ナイス』

 

 

 難しい場面では泣きそうになるくらい落ち込んで、でもそれを潜り抜けたら飛び跳ねるように喜んで。

 

ゲームでここまで感情豊かに、そして楽しそうに遊ぶアリスが微笑ましくなってしまい、つい最後まで付き合ってしまった。

 

 天真爛漫、純真無垢。そんな言葉はこの子のためにあるんだろうなぁ、なんて思いながら見守って。

 

 

『! クリアですっ』

 

『お、GG』

 

『じーじー?』

 

『え、ああ……。グッドゲーム、って意味だ』

 

『じーじー……GG……はい、アリス覚えました!』

 

 

 なんか余計な言葉を教えて、また会ったら遊ぶ約束をした。連絡先の交換なんてしてないし、ミレニアムの生徒ということしかわからなかったけど、縁があれば会えるだろう、くらいに考えていた。

 

 それで、再会は偶然というか必然というか。

 

 

『シュウ、今日の当番のアリスだよ』

 

『!』

 

『お』

 

『あれ、知り合い?』

 

『レア隠しキャラとエンカウントですっ』

 

『まぁ、はい』

 

 

 なんの巡り合わせか、数日後にシャーレで顔を合わせたってわけ。

 

 

「先生はマスコット、なんて言ったときは思わず吹き出したなぁ」

 

「ふふ。アリスちゃんらしいわ。本当に可愛いんだから」

 

「なんで早瀬さんが自慢げなんだ?」

 

 

 娘自慢する母親みたいな顔してるぞ、この人。

 

 にしても、話していて思い出したけど。アリスが言うマスコットとかってどういう意味だったんだろうか。

 

 

「アリスちゃん、RPGが大好きだから会う人に役職を付けるのよね」

 

「ナチュラルに心読んだよね、今」

 

「アリスちゃんは勇者だし、モモイたちは……何だったかしら」

 

「早瀬さんは魔王だっけ」

 

「は゛?」

 

「ひぇ」

 

 

 どっから出したんだってくらいドスの効いた声が返ってきた。冗談のつもりだったんだけど。

 

 不機嫌そうな顔で迫るように威圧されては、情けない声も出るものでして。

 

 

「そういうシュウは、アリスちゃんになんて言われてるのよ!」

 

「え、俺?」

 

「魔王の下っ端? スライム? 村人A?」

 

「なんか悪意ない?」

 

「いいから答えなさい!」

 

 

 別にそんな変な称号はもらってないけど。単純に(ゲームとかで)助言する役割で、それが勇者の付き添いって意味で……そう答えようとする前に、たったったーと軽快に走る音が聞こえてきて。

 

 俺と早瀬さんは無意識で音の方角へと顔を向けた。

 

 

「シュウ〜〜〜!」

 

「ぐふぉっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 

 みぞおちに衝撃。耳には可愛らしい声と、驚く早瀬さんの悲鳴。

 

 廊下に尻をつけて座り込んだ状態になった俺は、痛みを無視して涙目のまま、数週間ぶりに会うちっちゃな勇者さまに挨拶をした。

 

 

「ひ、久しぶり。アリス」

 

「パンパカパーン! アリスの従者がパーティーに再合流しましたっ」

 

 

 陰の者ならば、すぐに浄化されちゃうくらいの眩しい笑顔とともに、勇者パーティーの主人公と俺は再会した。

 

 

 

 

 

 

 

 






なんだこのコメディは……? これ私が書いたのか……?

……はい。ミレニアムルートはこんな感じです。たくさん言いましたが、まじでこの空気です。

え、ケイちゃん? そのうち出てくるはずだよ!

ということで、次回、“α-2:アリスの過去と落とし物と謎のAI”でお会いしましょう。

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