ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
「アリス、シュウと結婚します」
「いいぞー」
「ええ〜、私も結婚したいんだけど……」
「重婚っていいんだっけ。俺は構わんが」
「ラッキー! なら赤ちゃんも作っちゃう?」
「おう」
「モモイずるいです! アリスが先ですっ」
「お姉ちゃんもアリスちゃんも声おっきいよ……」
「あ、貴女たちはナニをしているんですか!? アリスに手を出すことは許しませんよッ!」
「「え?」」
「お、ケイ」
「……あ、れ?」
「こんにちは、ケイちゃん。いっしょにやる? 人生ゲーム」
「………。……………? ………〜〜〜〜!!」
「なんで俺にコマを投げてくるんだよっ!」
ちょっと先の未来で起きた、恥ずかしい勘違いをしたケイの一幕。
【貴方にも事情はわからないのですか】
「はい……」
6畳ほどの部屋に設置された青いシーツがかけられたベッドの上に正座している男子生徒。
先ほどまでのハイテンションはどこへやら。
まるで興奮しすぎて柄にもないテンションでセクハラまがいのことをやってしまい、初対面の女の子に罵詈雑言を浴びさせられたかのような落ち込みよう。
一方で、そのベッドの枕に丁寧に置かれたひとつのゲーム機“ゲームガールズアドバンスSP”。
先ほどまでの困惑と戸惑いはどこへやら。
まるで突然豹変した男子生徒にセクハラまがいのことをされ、ブチギレ倒したあとに冷静になり、“なぜこんな男相手に感情的になっているんですか、私”と、後悔して澄ました顔でしゃべるような文章を画面に表示していた。
あくまで“まるで”なので、詮索はしないように。
【何を独りで百面相しているのです】
「お構いなく……」
【? まぁ、いいでしょう。そんなことよりも現状です】
「うん。なんでキミ、この中にいるんだろうね」
【知りませんよ。急に王女の中からこちらに転送されたのです】
何度も説明させないでください。ピロピロ、という電子音とともに真っ暗な液晶に文章が羅列されていく。
欲を言えば音声機能も欲しいが。突然のことで対応できていないとかで、アドベンチャーゲームのような文字だけでのやり取りになっている。
うーん、ここに立ち絵まであったら俺はまずかったかもしれんなぁ。でも、こうやって会話できるだけで夢が叶った気分だ。
顔は冷静、内側は狂喜乱舞。同じことは繰り返さないと、常にさっきまでの失態を思い出しながらKey? ケイ? さんと状況を確認しているところ。
【何を喜んでいるのですか】
「なんのこと?」
【口元がひくついてます。罵倒されて喜ぶ趣味でも?】
「……むぅ」
【……真剣な顔で悩まれるとこちらとしても身構えるのですが】
おっと。
パンッ。両手で頬を叩いて真顔に戻る。意図しないところで欲望がはみ出してしまっていたようだ。
俺は正気に戻った!
【なぜ、なぜ私がこのような男と……】
「え、なになに。なんかあったのか?」
【くっ……。いえ、なんでもありませんが。というより、なぜ貴方は私に興味を示しているのです】
「ちょうどさっき君の……えっと」
【呼び名はなんでも構いません。どうでもいいことです……が、ケイでお願いします】
「それはやっぱりアリスが呼んだから!?」
【な、なぜ興奮しているのですか……?】
別に王女は……と小さくなる文字を見逃さず、さらに興奮する俺。ただ、この真っ暗な画面に文字だけとは味気ないな。
引き気味な顔をしている目が赤いアリスを脳内で想像し、ゲーム画面に当てはめて会話を進める。
うんうん、こんな感じだな。そんなことを考えながら、ケイさんの反応の解釈一致により強くうなずく。
先生から聞いていた限り、アリスとは敵対していたらしいが、ケイさんの事情などを考えるに“王女”と呼ぶくらい大事な相手のはず。
呼び名だってアリスが口にしたものを大事にしているに決まっている。王道だっ!
【私の名や王女のことを知っているあたり、おおよその事は把握しているようですね】
「ケイさんのことだよな。さっき先生から概ね聞いたぞ」
【貴方に名を呼ばれると虫唾が走ります】
「でも、こんなに嫌われてるのは知らない。俺たち初対面だよね……?」
【ハッ】
「鼻で笑ったよね。文章でもわかるぞこのやろう」
なんかいくら憧れのAIでも、ここまでの態度を取られると俺でもおこなんだが。いや、嫌いになることとか絶対になさそうなんだけども。
もう敬称とかつけなくてよくない? このAI娘。てか、聞いていたより感情豊かなんですけど、どうなってるの先生。
「んで、俺がケイさんのこと知っているのになんか問題あるのか。……関係ないけど、ケイさんって呼ぶと計算みたいだな」
脳裏に同級生で計算は完璧〜な会計の人が浮かんできて、思わず頭で思い浮かんだ言葉がそのまま出る。
【ゴミみたいな感想で私のメモリを圧迫しないでください】
「ゴミみたいな感想」
【なぜ喜ぶのですか。はぁ……ケイでいいです】
「呼び捨てでいいのか?」
【構いません。その程度、トロイの木馬に感染するのと同じくらいの嫌悪感で済みます】
「めっちゃ嫌がってない?」
【あの。話が進まないので、真面目に話していただけませんか】
「はい」
まずいまずい。自制しているつもりだったが、完全に舞い上がっていた。
声がわからないから、実際にはどうか不明だが。明らかに疲れたような雰囲気がゲーム機から漂ってきている。
これ以上は嫌われたくないし、なんなら仲良くなりたい身としてはなるべく機嫌を悪くするようなことは避けたい。なので、ケイからの反応を待って黙ったまま画面を見つめる。
【先生から聞いた、と言いましたね】
「うん」
【では話が早いですね。私のことについて王女には】
「ああ、アリスには」
【絶対に黙っていなさい】
「すぐに会いに行こう!」
「【え?】」
画面の文字と自分の言葉が見事にシンクロ。
ケイのしたいことを察して口に出したはずが、なんか真反対の意見が出てきたような。
ハテナを浮かべた俺に困惑したような文章が表示される。
【何を言っているのですか。シュウ、貴方はあの大人から私と王女のことを聞いているのでしょう】
「おう。だから会いたいのかなって」
【……? え、なぜ?】
うわ、すっごい素だ。きっと声があれば無茶苦茶に平坦なものだろう。こいつは何を考えているんだ、そんな混乱が文字だけなのに読み取れる。
うーん、なんか間違ってたかなぁ。俺としては。
「喧嘩別れしたらしいし、謝りたいのかなって」
【け、喧嘩別れ……? 待ちなさい、貴方は先生からどんな内容を聞かされたのですか】
「どんなって……アリスに拒絶されたAIの子の話?」
バチン。電気が迸るようなそんな音。それが目の前のゲーム機から聞こえた。
あれ、また俺やっちまった……?
【……殴ります、絶対にこの男は殴ります。グーでぶん殴ります】
「あ、あの」
【貴方には言いたいことが山ほどありますし、必ず殴りますが今はそんなことはおいておきます】
「は、はいぃ……」
ぷしゅ〜と煙が出始めたゲーム機をみて声が震える。なんか地雷を踏んだのは明白。
先生から聞いたことを要約したつもりだったが。もしかしなくても虎の尾を踏んじゃったね、これ。
【ひとまずですが、貴方はデリカシーという言葉を覚えなさい】
「よく言われます」
【そのザマが
「猛省します……ッ!」
ただならぬ怒りの気配を感じて、再び姿勢を正して座りなおす。第三者が見ればゲーム機に説教される男の図が完成だ。笑えよ。
しょうがないじゃん、怖いんだもん。バイブ機能で震え出したゲーム機に恐怖を覚えたのは、珍妙なことが多いキヴォトスと言えど、俺が初めてなんじゃないか。
ブルブル布団の上で震える俺を見たケイが何かを考えたのち、呆れた言葉が表示される。
【はぁ……。どう解釈したかなど知りませんが、私は王女にとって危険な存在。そんなものを近づけるなど言語道断でしょう】
「え、いやでも」
【私がやったことですが、王女の身体を乗っ取った犯人を相手に何を考えてい】
「もうする気ないだろ、ケイ」
【るのです、か……?】
「アリスのこと、心配してるみたいだし。何より大切なんじゃないのか?」
【————】
え、あれ。急に画面が固まっちゃった?
文字が出なくなり、焦った俺は軽くボタンを押してみるが特に反応が帰ってこず、本格的に慌て始めた。
……かと思えば、急に何事もなかったかのように文字が出現した。
【なぜ、そう思ったのですか】
「え」
【貴方が……その愚かな考えに至ったわけを端的に説明しなさい」
「うーん……? 単純なことだけど。まず、ずっとアリスのこと気にかけてたじゃん」
【……】
黙って続きを促しているのか、何も表示されない。別に深い考えがあったわけではないが、絶対の確信があった自分の考えを、少しの恥ずかしさが出始めながらも語っていく。
「次にケイが言っていたことだけど。あの事件から“ずっとアリスの中にいた”のに、今日まで何もしてない」
【それは……】
「もし完全に乗っ取るつもりなら、その事件の時にアリスのデータを消していたはずだし」
【そんなことをするはずが……ッ!】
「ほらな?」
【……】
例え話ですら激昂して素早く言葉を返すケイに苦笑い。
聞いた話的に、ケイはアリスの仲間……というか仕える立場? だったみたいだし、“アリスのことを大切に思ってた気がするんだよね”と子どものことに関しては観察眼SSSランクの先生が言っていた。まず間違いないと確信している。
「で、そこに加えて」
【ま、まだ何かあるのですか】
「アリスのことになると文字の出る速度がすっごい早いぞ、ケイ。アリスのこと好きすぎない?」
【…………………】
「無自覚だったか」
俺の脳内では真っ赤にした顔を両手で隠すケイのイメージが鮮明な形で想像できていた。ごちそうさまです。
そもそも、“自分がアリスを乗っ取るかもしれない”とか敵の可能性がある俺に警告するわけない。本当にアリスのこと大事なんだろうねぇ。
ついニヤニヤしてゲーム画面を見てしまう。薄々察してはいたが、ケイってツンデレ属性まで持っているな? 素晴らしいぞ。
【……と、とにかく。私はアリスに会うつもりはないです】
「話題の切り替えが強引すぎるぞ、ケイちゃん」
【次にちゃん付けしたら切り落とします】
「お、おっす」
目にも止まらない即レスでケイの“ガチ”を感じた俺は、すぐにからかうのをやめる。今のは本気も本気、読み方は本気と書いてマジだ。
……ちゃん付け、かわいいと思うんだけど。
「で、なんで会わないんだ。話したいこととかあるんじゃないのか」
【ありません。私はただ王女を……私たちが迎える運命の時まで、側で見守れればそれでいいのです。貴方とのこの邂逅も予想外のものですから】
「そうなの? てっきり、本音では会いたいけど照れ隠しでゲーム機に入ったもんだと」
【ブチ転がしますよ】
「ブチ転がす」
意外と口悪いのか、ケイって。
でも、これは本当にケイにも予想外だったのか。アリスと会いたい、でも……みたいなツンツンなことはないのね。
個人的にはアリスと話し合って仲良くなってほしいし、そんな姿を見たい気もするがそれは俺の勝手な望み。
こうは言っているが、ケイが突然現れたことを知ればみんな混乱するだろう。そしてどんな理由があるにしても敵対し、決別した過去は消えない。
ケイ本人に“アリスたちと話したい”という意思があれば、なんとか協力しようと思っていたけど、嫌なら俺が何かをするのは野暮だ。
「だったらケイがアリスの中に戻れるようにしなきゃな」
【意外、ですね】
「ん?」
ただただ不思議そうな雰囲気。それとともに映し出された文章。
そこには大きな困惑が混ざっている気がする。また俺からの言葉と態度に戸惑った様子も。
【予想としては、私を先生たちに突き出すものだと】
「なんでさ」
【…………貴方、本当になんなのですか。知識として知っているとしても、初対面の私に何故そこまで好意的な対応をするのです】
「いや、俺ケイと仲良くなりたいし」
【は、ぁ……?】
「え、なに?」
【何を……私は……ただのAIで、世界を滅ぼす敵で……】
うわ、すごいラグい感じになってる。大丈夫か……?
しばらく文字化けが混ざったみたいな文字列が出たり、点滅したりと忙しなく画面が動いていたが5分ほどで収まる。
心配していたが特に問題ないようで、またケイの意思が表示され始めた。
【何を勘違いしているのか不明ですし、理解する気もありませんが。これだけは言っておきます】
「なんだ?」
【私は、貴方が嫌いです】
「おぉ……。ストレートな言葉って案外傷つくな……」
【傷ついた顔をしてから言ってください】
「してるよ? めっちゃ落ち込んでるよ??」
【本当に……本当に理解不能、です】
ただの文章。でも、そこには初めにあった時ほどのトゲは、あまりないように感じた。
嫌悪や怒りから、混乱と戸惑いに切り変わっただけだが、この数時間の会話で少しはマシになった気がする。
ちょっとだけ嬉しくなって、小躍りでもしたいところだけど。ひとまずは、ケイをどうにかすることを考えるのが先だ。
「前はどうやってアリスの中に入ったんだ?」
【……Divi:Sionに由来するものに接触した際、私からアリスの身体を……その、乗っ取る形で】
「それはさせられないし、する気もないだろ」
【くっ……。は、はい。そのニヤけ面、いつか絶対に歪ませます……!】
「はいはい。で、アリスたちには気づかれたくないんだな」
【あの大人……先生も含めて誰にもです】
予想していたが先生の手も借りられないと。うーん、困った困った。
まさかツンデレ属性持ちの敵アンドロイド美少女に秘密で協力することになるとはなー、本当に困ったなー!
正直に言ってかなり浮かれていた俺。でも許してほしい。こんな経験をリアルでできるなんて、もう2度とないはずなのだから。
そんな俺に対して。
【ですが、いいのですか】
「何が?」
【仮にも……いえ。敵である私を秘匿し、先生に黙っているということについてです。シュウ、貴方には大きな罰則などがあるのでは?】
「………………」
【真顔で汗だけ吹き出していますが、それより回答をいただけますか】
“あんまりやり過ぎちゃ、ダメだよ? って私言ったよね”
笑顔なのに目だけは笑っていない先生。そんな修羅の姿が不思議と脳裏に浮かぶ。
さ、流石にまずいかも……でも、こんな機会は……!
揺れる思考と決断。普段は全く使わない脳をフル回転させて、俺が出した答えは。
「ケイ」
【はい】
「バレなきゃ犯罪じゃないって言葉知ってる?」
【……不本意ながら助けられる私が言うのも違う気がしますが。どうなっても知りませんよ】
「その時は一緒に謝って……?」
【イヤです】
はい。
まぁ、そんなわけで俺はケイをなんとかするために一時的に協力することになった。
けど正直に言ってしまえば、解決方法がなんも思いつかない。
だってさ、名もなき神々の王女とか、Divi:Sionなんて言う一般男子高校生には縁もゆかりもない未知の技術だぞ。
これをミレニアムの人たちに相談できるなら、まだ何かしらの手段が見つかるかもだけど。
【断固拒否します】
らしいので、手詰まりもいいところ。何かないかな……と頭を捻り、手がかりになりそうなものを記憶と知識から探し始める。
…………。
…………………。
「うーん、なーんも浮かばないや!」
【役に立ちませんね】
「だろ」
【誇らないでください】
「って言われてもなぁ、安直な考えしか出てこなくて」
【言うだけならタダです】
「それもそっか」
【で、なんですか】
「ちょっと待ってて」
ケイからの言葉によいしょ、と立ち上がって机に向かう。
横にかけてあるリュックサックを引っ張り上げて、懐中電灯やハンドガン、その他もろもろ役に立ちそうなものを放り込む。
数分で準備が終わり、制服の上にパーカーを着てゲーム機を持ち上げた。
【何をしているのです】
「考えるより行動というかさ。確かケイとアリスってミレニアム自治区郊外の廃墟に眠ってたんだろ」
【はい。……まさかとは思うのですが】
俺のしようとしていることを察したのか、訝しげな言葉が表示される。だから安直な考えって言ったじゃんか。
「おう。そこ行ってみようぜ」
【本気ですか? まずは他の可能性や議論なども】
「こういう時は考えるより、まず行動。ケイはまだしも俺が考えても時間の無駄だろ」
【それもそうですね】
「……否定してくれないと、それはそれで落ち込むなぁ」
【シュウは面倒ですね】
23時手前の真夜中。やたら鋭い言葉を向けてくるゲーム機を片手に、俺はケイの目覚めた場所へとこっそり向かうことにした。
なお、この時点で先生や早瀬さんたちに怒られそうなものは、山盛り。バレないことを祈り、バレた時は未来の自分に任せることにした。
これにてストックゼロ。次回の更新はいつになるか分かりませんが、多分来週あたりかなぁ。
投稿の際はTwitterとかで報告します、それではまた!
次回、“α-5 ぶったね……2度もぶった!? あ、3回目は勘弁して……?”。
ケイちゃん、やっとシュウを殴れるってよ。