ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
「なぁ、ケイ」
【はい】
「あのふよふよ浮いてるロボットなに……?」
【……。さぁ?】
崩れ果てた大きな建物が数多く並び、機械の残骸がそこらかしこに落ちているこの場所。その名の通り“廃墟”と化したここは、ミレニアム自治区郊外の立ち入り禁止区域。
前文明の墓場、なんて表現が似合いそうな景色。深夜ゆえに包まれた暗闇と冷たい空気。気のせいでなければ、どこかから視線まで感じる。
……あれ、俺って肝試しにでも来てたんだっけ。
つい数時間前に、ミレニアムの寮から監視カメラなどを掻い潜って抜け出した俺は、ゲーム機を片手に意気揚々と目的の場所に出発。
ロマンに包まれた秘境、なんて。王道RPGのマップ的なイメージで来た俺の目の前には、ガチガチのホラゲーみたいな場所が現れたわけ。
「……」
【怖いんですか?】
「いやー、別にー? ちょっと休憩してるだけだよー?」
【声どころか手まで震えてますが】
寒さのせいだ。これは寒いだけだ。
決して幽霊だとか、そんなオカルトじみた非科学的なものに怖気付いているわけではない。俺はミレニアム生だぞ。
「気のせい気のせい。とりあえずこっそり移動するけど、アリスとケイがいた場所ってどこなんだ?」
【……はぁ。ひとまず直進してください】
「あれ、教えてくれるのか」
【癪ですが、私の目的のためですから。……あの者たちから隠れたいのであれば、赤いセンサーに見つからないようにしなさい】
「…………」
【なんです】
「やっぱ、ケイってツンデレなんじゃ————」
【二度と助言しません】
「嘘、嘘だから見捨てないで……!」
ここでケイに黙られたら俺、ほんとに死んじゃうから。必死の謝罪と懇願でヘソを曲げた彼女の機嫌を戻して、移動を始める。
崩れたビルの影や徘徊するロボットの背後をこっそり移動しつつ、なんとか目的地への入り口になる建物内に入ることができた。
【このまま進んでください】
「はいよ」
ケイの指示に従ってただ先へと足を進める。
時間が夜中というのもあって、真っ暗だと思っていたが。崩れた天井からの月明かりと、なぜか電気が供給されている足元の薄暗い光で、視界はそこそこ安定している。
ボロボロの廊下を進むと、コンクリートの床が鉄製のものに代わり、扉もどこか近未来的なものに。
だんだんと未知の研究所、もしくは工場らしき場所に変わっていくと同時に、恐怖心は薄れていった。気づけばキョロキョロと周りを見渡しながら、いろいろなものに目を惹かれていた。
「具体的には言えないけどさ。凄そうなところだな、ここ」
【そう、でしょうか】
「こう……なんていうのかな。ロマン……そう、ロマンが眠ってる……みたいな」
【はぁ……?】
俺の言いたいことが上手く伝わらないようで、困惑してそうな文章を表示するケイ。
うーむ、人間とAIだと感性とかも違うのかな。そんなことを頭の中で考えつつ、この感覚をどう伝えようかと足を一歩先に進めた瞬間。
“侵入者を確認”
「うぇ!?」
【……この場所で反応した? しかし、ここには何も……】
突如、短い電子音とともに無機質で機械的な音声が、嫌な予感を覚える単語を部屋の中に響かせた。
侵入者って言ったのか? え、それってどう考えても……。
「俺たちのこと、だよな」
【そうでしょう。“貴方”のことです】
「え、それって」
俺だけを指すようなことを言ったケイに“どういう意味だ”、と聞こうとしたが。その前に、また機械音声が流れ始める。
“対象の身元を確認。検索......け...んsa..ク...”
「……なんかバグってない?」
【……?】
急に音声にノイズが混じり、壊れた音声データのようなものになり始めた。気になってケイに聞いても、どこか困惑したような雰囲気を感じるだけで返信がない。
逃げたほうがいいのかな、俺の思考がそれに切り替わり始めたタイミングで。
“承認しました。....対象は□□□□□及びKeyと確認”
「あれ、なんか許された?」
【は……え? ……ま、待ちなさいっ!】
なら逃げなくても平気か、と引けていた腰を戻したのと同時に焦ったかのようなケイの文字が目に入る。
ただならぬ雰囲気のケイに“やっぱりピンチなのか”、と背中に冷や汗が流れたが。そんな俺たちのことなど関係ないとばかりに音声が続く。
“条件一致、特例権を確認。プラント
【操作権限が反応しない……? 私のデータにない
「ぷ、ぷらんとあるふぁ? ケイ、これって」
何かを考え込むケイに俺も状況を確認したくて、焦って声をかけたが。
“封鎖エリア解錠、下部扉A〜Fを解放します”
「……下部?」
【……シュウ】
「あの、ケイ。ケイさん? 俺、すごい嫌な予感がするというか」
【リュックサックを下に。私が殴るまでは死ぬことを許しません】
「こ、心の準備とかって……」
がちゃん。これは俺が立っていたはずの床が急に消えた音。
「ないよねええぇぇぇぇ…………」
虚しく響く情けない悲鳴。これは俺が絶叫したもの。
急激に遠くなっていく苔で緑に変色した天井へと叫びながら、無意識にリュックをクッション代わりにして————
……。
…………。
………………。
「……まじ、いてぇ」
【その程度で済んでいるのなら、良い方では】
約15〜20メートルほど落下した俺は、つい先ほどまで衝撃で意識を失っていた。
目を開けると薄暗いが、どこかの部屋……まるで研究室のような場所で、大の字になって伸びていた。
死んでもおかしくない高さからの落下だったが、運よく生き延びたようで痛む体をなんとか持ち上げる。
「なんなんだ、ここ」
【…………】
微かに電力供給が行われている様子のあるPCや、作りかけのガジェット、何かのパーツを生産する工程が描かれた写真などが散らばった部屋。
明らかにヤバそうな匂いがするんだけど、ここもケイやアリスに関係した場所なのかな。
「うーん……」
足元に落ちていた何かの資料を拾い上げて見てみるが、知らない言語で書かれていてさっぱり。
微かに振動し、音を発する機械も下手に触ったらまずそうな気がする。
どうしたものか、と悩んだが。ひとまずはこの場所に詳しいであろうケイに声をかけてみよう、そう思ったのだが。
「ケイ、なんかあったのか? やけに口数が少ないけど」
【……いえ、問題ありません】
「なら良いけどさ。……その、やっぱりケイもこの場所のこと知らないのか」
【はい。私のデータベース上に記録されていない場所です】
「だよなぁ……とりあえず、探索してみるか」
【未知のエリアですよ。何が潜んでいるか、私にもわかりません】
遠回しに下手な動きはするな、と言われているんだろうけど。
天井を見上げると自分が落ちてきたであろう扉は閉まっているし、部屋を見渡せば扉はひとつしかない。
携帯を確認しても圏外で助けも呼べないなら、脱出するためにもここを見回るしかない気がする。
【貴方の考えもわかりますが、危険です】
「……」
【なんです、じっと見つめて】
「いやその。意外と心配してくれるんだなぁ、って嬉しくなってた」
【してませんが? 貴方の勘違いですが??】
「ははは……。とりあえず、ゲーム機のカメラにも映るように歩くから、何か気になるものがあったら教えてくれ」
【……わかりました】
どこか不服そうなケイを片手に、改めて部屋の中を歩きながら確認していく。
散らばったコードに、古めかしいコンピューター。デスクの上にはボロボロになって、ろくに読めない書類。
ほっぽり投げられたようなデバイス、外で見たロボットの組み立て途中のもの。
そんなこんなで30分ほど部屋の中を物色してみたわけだが。
【ロクなものがありませんね】
「そうなのか。素人目線だとよくわかんなくて」
【この部屋にあるものはすべて壊れている、もしくは破棄されたものでしょう。……ただ】
「ただ?」
【Divi:Sionの
聞き覚えのある単語が出てきた。確か、名もなき神々の王女とかそっち関連のワードだったよな。
解体途中のような長い足を持つ目の前のロボット。これは起動こそしていないが、外で動いていたものにそっくり。
「けど、何も手掛かりなしか」
【はい。この場所ははるか昔に放棄され、放置されていたのでしょう】
「でも、ケイでも知らないような場所に何で急に入れたんだ?」
【私が聞きたいくらいです。そもそもなぜ貴方に資格が……】
「?」
【いえ、何でもありません。ひとまずですが、この部屋には脱出するための手がかりはないようです】
「そうなると……」
視線をケイから外して、数メートル離れた先にある鉄製の扉に目を向ける。
ほとんどの機能が停止しているこの場所で、明確に生きている電子端末が設置されたSFモノに出てきそうなひとつの扉。
「アレ、やっぱりなんかあるよな」
【おそらくですが。ただ開くことはないでしょう】
「なんでわかるんだよ」
【すでに試しました。アクセスは可能でしたが、強固なロックが施されています。拒絶している、とも言える状態です】
ケイからの言葉に改めて扉に近寄って確認してみる。高さは約3メートル、幅は2メートルほど。
少し錆びた鉄製で、ところどころ赤い光る線が走っており、電気が通っていることが確認できる。
右横には小さなモニターと黒い板……こっちも液晶? のようなものが付いている。
【この先についてのデータも不明です。そもそも扉が開かないので、確認する必要もないですが】
「うぅむ。本当にびくともしないな、これ」
【……シュウは臆病なのか、それとも図太いのか。はぁ……私には貴方が本当にわかりません】
「え、何の話?」
【危険かもしれない
度胸がありすぎるのも考えものですね、と呆れた感じの文章を送られて何だか恥ずかしくなる。
いや、だって脱出しないと寮を抜け出したのバレちゃうし……。
とにかく、この先に進まないことには話にならない。なら、やれることをするだけ。そんな考えで動いていたのだが。
【貴方、後先を考えないと言われませんか?】
「ホントになんでわかるんだよ……?」
【それがわからないのでしたら、もう重症です】
「んなこと言われても……」
行き詰まった状況下で焦ってたのもあるんだけど。そんな言い訳を聞いたケイが、より呆れた視線を向けてきた気がして、何となく視線を明後日の方向に向ける。
「と、とにかくもう1回調べてみようぜ。ほらこのパネルとか」
たぶん扉を動作させるために使う、コンソール的なものであろう液晶に触れてみる。
【先ほども言いましたが、その端末は外部からのアプローチを拒絶————】
Pi....Pii....
「あれ」
【は?】
沈黙したまま真っ暗だった扉の端末は、俺が触れた瞬間に起動したかのような音が。
素っ頓狂な声と文字がハモるように流れるが、そんな俺たちにお構いなしとばかりに端末上部の画面が緑色に光り出した。
「え、何か反応したけど」
【は? え? は?】
「そんな理解不能みたいな反応しなくても……」
困惑したように、ひらがな一文字だけで反応するケイが少し心配になりつつも、なぜかアクションがあった扉に再度顔を向ける。
物静かだったはずの機械扉は、急に活発化してガチャガチャと音を立て始める。
同時に俺が触れていた端末にも変化が起きた。暗い液晶に光が灯り、白い文字が表示される。
“確認...照合...基準値99%.....適正AIを確認”
「適正AIって……」
【…………】
思わず手元にあるゲームガールズアドバンスSPを見つめてしまう。この扉、俺だけじゃなくてケイにも反応してる、よな。
何はともあれ、停滞した状況は動き始めた。ただ楽観視はできないし、ひとまず様子を見るために扉を観察していると。
“解錠承認”
「おぉ……」
【……開きましたね】
ゆっくりと開いていく扉に息を飲みつつ、その先を確認する。
開いた扉は暗い廊下につながっており、奥にはほのかに光を確認できた。
「行ってみるか?」
【それしかないですね。……どのみち、私が何を言おうとも貴方は先に進むつもりでしょう】
「まぁ……うん」
【なら私に聞かないでください】
「うす」
軽口を交えつつ、カビと鉄の匂いが充満した廊下を歩き始める。
視界は悪めだが、前方の扉から淡く漏れ出した光で何も見えないわけじゃない。
あたりにはものがあまり無いからか、コツコツと自分の歩く音がやけに大きく響く。
歩いたのは、時間にして約5分ほど。思ったよりも長かった廊下の先になったのは、またしても扉。
だが、今度は特にロックのようなものがかかっている様子はなく、触れれば開きそうな気がする。
「先に進むけど、なんかわかったりする?」
【扉を開けるのは確定事項なのですね。……少し妙な反応はありますが、特に何も無いかと】
「さんきゅ」
ケイへ確認だけしていざ、扉に触れてみればまるで自動ドアのように横へとスライドする。
気になる扉の先は、先ほどよりも少し広い部屋。いくつかの扉と床に散らばった資料は、まるで何かから逃げる直前だったかのように散乱している。
ほかにも無作為に放り投げられた工具や何かの部品がそこらじゅうに落ちている。
これだけならば、直前までいた謎の研究室となんら変わりないが。問題は中央に堂々と設置されている培養器のような装置。
「……え、と」
【…………これは】
俺とケイが言葉を無くした目の前の大きな機械。大きさは縦が2〜3メートル、横は1.5メートルほど。
前面はカバーのようなガラス状の蓋が付けられていて、中には、ほのかに光る薄緑色の液体が満たされている。
目の前の“これ”に驚いた理由は単純なもの。その液体の中に漂う……いや、眠っているかのように目を閉じた存在が原因。
長い黒髪、精巧で人形めいた美しく幼い顔。それはどう見ても。
「アリス、だよな。え、どゆこと」
【…………】
引き攣る頬を無視して、ゆっくりとアリスと思われる少女が入った機械へと足を進める。
機械の横には理解できないメーターや、謎の数値が表示されており、きっと中身の少女のバイタルを示すものだと予測できる。
じっと謎の少女を見ていると手に持っていたゲーム機がバイブし、ハッとして画面を確認する。
【何を集中して見ているのです。変態ですか貴方は】
「そういうつもりは全く無いんだけど」
【裸の女性を真剣な表情で見ていた男の言葉を信じられるとでも?】
「う……。そ、それより! このアリス……アリスなのかな……よくわからないけど、この子って一体……?」
【……観測したところ、これは王女の体に酷似したものです】
何やら複雑そうな雰囲気を醸し出しながらケイから説明を受ける。
ケイはこの馬鹿でかい機械をすでに調べ終わっているようで、目の前の存在についてもある程度は把握していた。
「酷似ってことは、別にアリス本人ではないんだよな」
【はい。身体の基礎構造などは同じようですが、出力なども含めて大幅に低下しています。頑丈なだけですね】
「へぇ……クローンみたいな?」
【予備ユニット、ですかね。ただいくら見た目を寄せても中身が無い状態ですから、動くこともないでしょう】
「中身?」
俺の疑問を聞いたケイが、ゲーム機のモニターに簡単なドット絵を表示しながら説明してくれる。
【コンピューターと同じです。これにはCPUなどがないのです】
「ほーん」
【いくら強固なケースやメモリーなどがあっても、それを扱うOSやAIがなければガラクタと変わりませんから】
「だから中身がない、ってことなのか」
いわゆる魂がない状態なのが、目の前のものの正体と。
少し曇ったガラスを手で拭き取り、改めて中に入った少女の顔を見つめる。どう見ても生きている女の子が寝ているようにしか思えないけどなぁ。
【ここにも何も手掛かりはありませんね。……あまりジロジロ見るのはやめて欲しいのですが】
「別に変な目では見てないけど。なんか気になるのか」
【……むぅ。その、なんとなく嫌、と言いますか】
「?」
【いいから離れてください。私もその機械を完全に把握したわけではありませんし、下手に触れては何が起こるかわかりません】
「触れるって言っても……」
特にボタンがあるとかでもない。あえて挙げるなら、この横に設置されているパネルくらいだが。これは変な数列やグラフが常に変動する様子が表示されているだけで。
考えもなく、ただ目の前にあったパネル……のちにコンソールだとわかる液晶画面に触れてみる。
すると画面の数字が消えて、新たな文字が出現した。えっと、なになに……?
「……あ」
【なんですか、その“やばい”みたいな声は】
「あー、いや。その」
【なんです】
「な、なんか表示されたんだけど」
【はい?】
ゲーム画面のカメラを“コンソールの前に持ってきて”、ケイに見えるようにする。表示されている文字は。
“適正AIを検索中.....”
【貴方はバカなんですか!?】
「ご、ごめんなさい……!」
きっと音声があればすごい大きな怒声だったのだろう。見たこともない速度で、あらゆる罵詈雑言が羅列されていくゲーム画面に頭を下げ続ける。
たった数秒のやり取りだが、それが中断することになった理由はコンソールに表示された文字が変化したから。
“...適正AIと判断。メモリデータおよびCPUを起動、同期。....■■■を開始します”
「適正AIって、え。あの、ケイさん」
【ちょっとま————!】
プチュン。つい今の今まで表示されていた文字がゲーム画面から消えて、電源が落ちる。
同時にアラートのような頭に響く大きな音が目の前の機械から流れ始めて、俺の顔は真っ青&冷や汗がダラダラ。
白い煙が排気音とともに排出、機械の中から液体がゆっくりと減っていく。それを見ながら、なぜか頭の中は冷静な俺は。
俺、知ってる。こういうの、ゲームで見たことあるもん。なんなら一番好きなジャンルのやつで経験している。
なんて。趣味でやったことがある
ガチャン。機械のガラスカバーのロックが外れる音が耳に入る。自動で開いた扉の中から、重力に逆らうことなく“中身”がこぼれ落ちるように俺の方へと倒れかかってくる。
それを傷つけないように抱き留めて……俺自身も座り込むように地へ腰を落とす。……そして一瞬だけ目に映ったのは、消え掛かったコンソールの文字。
“Take Responsibility?”
ノイズが走り、一瞬で消えてしまったが、そんなことよりも問題は目の前の存在。
まだ、液体で体全体が濡れている人形のような美しさを持つ女の子。だがそれが人形などではなく、人であるのは呼吸によって動くお腹や肩で理解できてしまう。
この数分間で起きた怒涛の展開に、すっかり頭の中が真っ白になってしまった。
どう、しよう。漠然としたそんな思考の中で、目の前の存在の後頭部に見覚えのあるヘイローが現れた。
そして、同じタイミングで抱き留めた少女の目が開き、機械的な幾何学模様と赤紫色の眼が俺を映す。
「け、
「……………」
俺の言葉が聞こえているのか、そうではないのか。
ケイと思われる少女は、半分ほど開いた瞳を左右に動かしたり、手を持ち上げてグーパー。
次に頭に触れたり、何かを考えるように目を閉じて数秒。
「……貴、方に……は言いたい、ことが…たくさ、ん…ありま、す」
まるで何年も使っていなかった喉を、無理やり開いて出したかのような掠れた声。
アリスと似た声の色、けれどどこか低くて冷たさを感じる。……あとすごく、ものすごく怒ったような雰囲気も。
「あ、あの……」
「言、葉は…言いたい、こと……はたくさん…ありますが」
だんだんと声が出始めていた様子に加えて、ケイと呼んでも否定しないし、明らかに俺を知っている感じなので安心……したいのだが。
ケイのこめかみにできた漫画のような怒りマークと、超不機嫌そうな表情。
でもって。
「なんで右手をグーにしてるの……?」
左手でしっかりと俺の胸元を掴み、手をグーにして後ろに持っていく姿に声と顔が引きつる。
そんな俺を見たケイは、怒りを全く隠さない満面の笑みで。
「まずはぶん殴りますッ!!」
「ぶうぉッ!?」
まっすぐ鋭い右ストレートが頬に直撃して体がのけぞるが、胸元をぎゅっと掴まれた俺の体は吹っ飛ぶことなく。
「これは王女に不埒な知識を植え付けた分です。そして、これは」
「ちょ、ちょっとま————」
「私に現在進行形でセクハラした分ですっ!」
「ぐぼぁ!?」
全裸のケイから割と容赦はないけど、理由はあるし理不尽じゃない全力パンチのおかわりが降り注ぐ。
ぶ、ぶたれた……? 俺、親父にもぶたれたことないのに……!
「まだです、まだ……!」
「さ、3回目は勘弁して……!?」
「何を甘ったれた……っ」
「あ、え……?」
洒落にならない痛みに慌てて、ケイを止めようとしたのだが。先にケイが力が抜けたかのように俺へ体を預けてきた。
「だ、大丈夫か?」
「く……起動したばかりで不調、とは……!」
「なんで俺、そんな敵を見るような視線を向けられてるのさ……?」
「自覚がないのならば、まだ追加です……!」
その言葉と同時にまた手を振りかぶったケイに、一瞬身構えたが。
ぽこ。
撫でるような衝撃が胸に響いて、俺はなんとも言えない顔になる。
目の前のケイはというと……あぁ、悔しそうな表情に……。
「……」
「…………」
とても、とても居た堪れないような空気が流れて。きゅっと俺の制服を握りしめたまま、ぷるぷる震え出したケイが可哀想になって、つい気を遣った言葉を出してみた。
「あー。……い、いたーい」
「……っ! ……っ!!」
「い、痛い。すっごい痛いー……」
「屈辱……屈辱です……ッ!」
深夜2時を超えた真夜中。
謎めいた廃墟のさらにその奥に隠された秘密の部屋にて。
16歳の男子高校生が、元敵な全裸のアンドロイド美少女にポコポコと殴られていた。
とりあえず、出口探して帰ろっか。……いや、そんな涙目にならなくてもいいじゃんか。
裏設定はありますが、ミレニアムルートに難しいことは不要! 気にせず復活したケイちゃんとのラブコメをお楽しみください。(いずれ番外編などでは書くかも)
α(アルファ)とは。始まり、未知数を意味する単語。