ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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ゴッドフィールドでちくりんちょされたので初投稿です。







α-6:疑惑+隠し事+発覚+勘違い= フ ェ ス テ ィ バ ル 開 幕

 

 

 

 

 

 

 

「シュウ、何か隠してるでしょ」

 

「っっ! …………。…………別に?」

 

「オレンジジュースを吹き出したまま、真顔になってもムダよ?」

 

 

 とある日のお昼休み。

 

 中庭にある影がかかったベンチで、ボケーっとジュースのストローを咥えていた同級生を発見。

 

 それを見た私は、油断している様子を含めてちょうどいいと、雑談を交えて“この10日間”で気になっていたことを唐突に聞いてみた。

 

 結果は目の前の通り。見事に口と鼻から勢いよくオレンジ色の液体を吹き出して、取り繕うように真顔になった。

 

 制服までびちゃびちゃにしちゃったのは、ちょっぴり申し訳ないな、とは感じている。

 

 

「ち、ちが! これはちょっと別のことを考えていて!」

 

「へぇ。それで何を隠してるのよ」

 

「な、何も隠してない、ヨ……? あ、あと近いっす……!」

 

 

 私が少し詰め寄っただけで、あたふたと手振り身振りで慌て出し、顔色も面白いくらいに変わっていく。

 

 これで本人は必死に隠しているつもりだというのだから、思わずため息と苦笑いが出てしまうのも共感してほしい。

 

 “そういったところを含めて、シュウくんはとても面白いですよね”と、ノアが言っていたことを思い出す。……うん、今なら頷いちゃうかも。

 

 目線すら明後日の方向を向けて、逃げるように立ち上がったシュウの腕をスッと掴んで引っ張れば。

 

 

「ちょ、強っ……!」

 

 

 ストンとベンチへと腰を落とすことになる。ほとんど力も入れずにちょっとだけ手を引いた、それが私の認識なのだけれど。

 

 あまりにも簡単に力負けした男の子の姿に、意識外でつい思い浮かべた言葉が口から漏れてしまう。

 

 

「……弱」

 

「泣くよ? そんな心底“小動物か何か?”みたいな哀れみを含んだ顔で言われたら、男の子は泣いちゃうよ?」

 

「で、何を隠してるの?」

 

「スルー……?」

 

「シュウのペースに付き合ってたら逃げられちゃうじゃない」

 

「うぐ……!」

 

 

 この男は大きな面倒ごとや抱え込んだものがある時、何か別の話題やおふざけで話を流そうとする。

 

 シャーレに居た頃からそれは変わっていない。むしろさっきから今の反応までで、疑いが確信に変わったところだ。

 

 基本的に手に負えないことや事件については、すぐに先生や私たちに相談や共有するはずのシュウ。でもごく稀に、何か事情がある場合はそれを隠す。

 

 それで、そういう時は決まって。

 

 

「ま〜〜た大きなトラブルを抱えてるでしょ?」

 

「く……! な、何を根拠に」

 

「何ってここ最近の様子よ」

 

「え、俺なんかしたか?」

 

 

 本当に心当たりがない、そんな不思議そうな表情で聞いてきたシュウに、ひとつため息。

 

 

「逆よ」

 

「はい?」

 

「むしろ、アンタがおとなしいことがおかしいの」

 

「今すっごく失礼なこと言われてないか、俺」

 

「あら、思い当たるふしがないとでも?」

 

「…………ご、ごめんなさい」

 

 

 目を閉じてそっと頭を下げたシュウを見て、もう何度目かわからないため息が口から出てくる。

 

 彼がミレニアムに来てからというものの、報告書や反省文などでシュウの名を見ない日はほとんどない。

 

 エンジニア部からヴェリタス、C&Cに私たちセミナー。そのほとんどが何かしらでシュウを毎日のように目にしている。

 

 例えばドタバタの実験。これは反省文。

 

 例えばミレニアム内で起きたトラブルの仲裁。これは報告書。

 

 例えば、例えば、例えば……。

 

 少し記憶をさかのぼるだけで、シュウがここに来てから……たった2ヶ月ほどで起こした数多くのことが浮かんでくる。

 

 元より騒がしいミレニアムがより忙しなくなった。セミナーのひとりとして、そこには色々と思う部分はあるけど。

 

 全部が全部悪いことではなかった。面倒ごとの解決や書類の手伝い、ちょっとした息抜きにも付き合ってくれる彼には感謝している。

 

 けど、それとこれとは話が別だ。

 

 

「ここのところ、誰に何を誘われてもすぐに帰るわよね」

 

「なんで知ってんの……?」

 

「夜はこっそり抜け出している時もあるみたいだし、やたら校外に出てるのも知ってるわよ」

 

「なんで知ってんの……!?」

 

 

 発端はエンジニア部。ウタハ先輩が“シュウはどこか具合でも悪いのかい?”と尋ねられたことがきっかけ。

 

 なんでもここ最近、どんな発明品を見せても興味ありそうな顔はするが“先約がある”と逃げられてしまう、そんな相談を聞いた。

 

 ほかにもモモイたちから、遊びに誘っても来てくれないーとか、そういったプライベートのことも。

 

 フットワークが軽く、バイト以外ではほとんどオッケーとひとつ返事で頷くシュウを知っているからこそ、この辺も気になった部分。

 

 はじめは珍しいな、くらいだったけど。それが何日も続いて、あまりにも大人しいシュウをこっそりと観察してみたら……実に怪しかった。

 

 

「すぐに寮へ戻っているし、みんなの誘いは断ってる。でも、アリスちゃんとはやたら会ってるわよね」

 

「……え、えと」

 

「アリスちゃんと話したけど、廃墟やあの事件のことを聞いてるって言ってたわよ」

 

 

 “アリスの好きな食べ物や制服のサイズを聞かれましたっ!”とも聞いている。

 

 正直、まさか? とは思ったけど。特にそっちの趣味はなさそうだし、アリスちゃんにそういう雰囲気を見せなかったので、そこは疑っていない。

 

 

「ぐぐ……」

 

「……“口止めしとけばよかった”、ってところね?」

 

「心読むのやめよ?」

 

「それ、白状してるみたいなものだけど」

 

「…………」

 

「目を逸らして下手な口笛とか漫画の読みすぎよ」

 

 

 ベタベタな反応をするシュウに呆れてしまう。やっぱり隠し事が下手すぎる。

 

 嘘をつけば露骨に言葉や表情に出るし、何かを隠すときはひどく狼狽える。天性の正直者でわかりやすい、シュウをそう表現した先生をふと思い出した。

 

 たぶん、今彼が抱えているものを隠しているのは何かの事情がある。そう思って、少しの間は見てみぬふりをしていたのだけれど。

 

 最近は考え事が増えているし、疲れが溜まっているのかぼーっとしたり、居眠りも増えている。もう流石に口を出すしかなかった。

 

 だからこうして問い詰めているわけだが、なんとか言い逃れようとしているのか、シュウはずっと目線を右往左往させている。

 

 

「いい加減に口を割りなさいよ、もぅ……」

 

「その……あの……」

 

「別に恥ずかしいこととかじゃないんでしょ? またトラブルとか」

 

「恥ずかしい、こと?」

 

「え、なに?」

 

「あ、いや……」

 

 

 私の言葉を聞いたシュウが急に何かを考えるように、視線を落として。それで今度は頭を抱え始めた。

 

 

「うぅ……背に腹は変えられないし……」

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

「…………ああ、大丈夫」

 

「そんな顔してるのに……?」

 

 

 眉間に皺を寄せて、苦しそうな顔になりながら断言するシュウ。これを見て少し心配になるが。

 

 

「えっと、最近俺が色々と忙しかった理由だよな」

 

「へ? え、ええ」

 

 

 あれほど逃げようとしていたのに、急に白状しようとした姿にびっくりする。

 

 どこか誤魔化す雰囲気や、何かを画策するような様子を感じたけど、表情は覚悟が決まったみたいに真面目で真剣。

 

 まるで自死すら覚悟した戦士のような、異様なもので動揺してしまう。だからこそ、この次に出たシュウの“嘘”に私は混乱させられることになる。

 

 

「好きな子ができたんだ」

 

「……………はぁ!?」

 

「だから、自分磨きをしてるんだ。……というわけで、じゃあ」

 

 

 辛そうで後悔がたっぷり詰まった表情でそう言い切ったシュウは、すぐに背を向けて小走りで去っていく。

 

 私はというと、聞いた言葉に驚きすぎて目を見開いたまま、口をあんぐりと開けていた。

 

 なんだろう、出来は悪いけど可愛がっていた弟がカミングアウトした、みたいな……とにかく驚きと混乱が頭を占めていた。

 

 シュウが恋をした、そんな言葉。それを聞いて私の頭に浮かんでいたのは、アリスちゃんのこと。

 

 ここ最近、アリスちゃんの何かを探るようなことをしていたシュウ。それは、見方を変えればまるでアプローチをするための計画を練っているようで。

 

 

「…………!」

 

 

 そこまで考えた私は、すぐさまスマホを取り出してシュウの保護者のような相手であり、信頼できる大人に連絡を取った。

 

 

「せ、先生! あのシュウについてなんですが————」

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、私のことを誤魔化すために嘘を吐いて心が痛んでいると」

 

「うん、まぁ……。あと、明日から早瀬さんとどんな顔で会えばいいのかなって」

 

 

 時刻は19時過ぎ。場所は、やたら防音対策が施されたミレニアム寮にある自分の部屋。

 

 1Kの部屋のため、メインとなる洋室にはデスクにベッド、本棚、絨毯、小さめのローテーブルと、まさに学生のひとり暮らしと言えるものになっている。

 

 そんなローテーブルの上には2人分の夕食が準備されている。片方には俺があぐらの格好で座り、反対側には座布団の上にぺたん座りで箸を持ったまま、呆れた目線を送ってくる少女がいた。

 

 白いTシャツの上に軽いジップパーカーを羽織り、ハーフパンツでラフな格好。長い髪はアリスと同様にカチューシャでおさえている。

 

 そう、ケイだ。あの夜以降、他の人には知られないようにと俺の部屋で寝泊まりしている。

 

 服はなんとか駆け回って用意したけど。ここから出るわけにはいかないケイに、ぴったりなサイズの服を探すのは骨が折れた。

 

 アリスになるべく怪しまれないように色々と聞いたり、変な噂が流れないようミレニアムの外まで買いに行ったり。

 

 服屋の店員から“え、女性の方……ですか?”と、疑いや困惑を含んだ質問をされたときは泣きそうだったよね。

 

 

「別に気にするほどでもないでしょう。貴方の年頃でそんな話題が出れば、人によっては噂が流れそうですが」

 

「早瀬さんは言いふらしたりしない、よな。うん、ある意味信頼してるからの嘘なんだ」

 

「はい。……その恋の相手が偽りとはいえ、私というのが非常に……非常に! 気に入りませんが」

 

「ケイがそう言うと思ったけど、マジで苦渋だったというか」

 

 

 あの雰囲気の早瀬さんから逃れるには、大きな混乱を与えるしかなかった。そうしなきゃ、マジで話すまで解放されなかっただろうし。

 

 

「ちょっと気まずそうだったから、しばらくは疑われないかなって」

 

「……シュウが良いのであれば、私からは何も言いませんが」

 

 

 何やら申し訳なさそうな物言いで、ポリポリと胡瓜の漬物をかじるケイ。まだ身体はしっかり馴染んでいない、とか言っていたが器用に箸は使えるようになっている。

 

 どこか落ち込んだ雰囲気になっているのは、どうやら俺の友好関係にヒビが入るのではないか、と心配してくれているみたいだ。

 

 珍しく語気が落ち込み、棘がない言葉を聞いて。俺はちょっとだけ普段よりも明るく、なんでもないように本音を交えてケイに話しかける。

 

 

「そんな気にしなくていいぞ。早瀬さんと俺、仲良いし。そんな簡単にケイが思っているようなことにはならないよ」

 

「私は、別に」

 

「こんなことで嫌われてたら、とっくに俺と早瀬さんは友達じゃなくなってるだろ」

 

「それは確かに」

 

「おい」

 

「なんですか、デリカシー皆無の覗き魔」

 

「まだそれ擦るの!? 本当にわざとじゃないんだって!」

 

 

 俺のことが嫌い。はっきりと告げられたことで、こっちとしてもそれは受け止めている。それこそ、ここでの匿ったような生活を始めた当初はだいぶな態度だった。

 

 やれ“貴方を信用できません”、“なぜ私を匿うのですか”、“それ以上近づかないでください”、“……なぜ、貴方が私の服のサイズを知っているのです”などなど。

 

 警戒カタメ、敵意マシマシ、目線カラメ。それでもどうにか“仲良くなりたい!”と気合い&根性でアピールし続けた結果。目を合わせて、真顔で会話してくれるくらいまでに漕ぎつけた。

 

 ……まぁ、数日前にたまたまお風呂に上がったばかりで下着姿のケイと鉢合わせて、俺の努力が水の泡になりかけた、なんて話もあるが割愛。

 

 ともかく。あいも変わらずよく怒られるし、嫌われているようだけども。

 

 

「……」

 

「ほい、醤油」

 

「ぁ……。ありがとうございます」

 

 

 手が触れ合っても拒絶されない、言葉を返してくれる。小さいことだけど、ちょっとずつ、一歩ずつ嫌っていても信頼はしてくれているみたいだ。

 

 

「素直にお礼を言えて偉い」

 

「ぶち飛ばしますよ」

 

「ぶち飛ばす」

 

 

 当初の冷徹で表情が凝り固まった機械は何処か。

 

 悔しそうにお礼を言ったり、不満げに文句を言ったり、青筋を立ててキレた口調で怒るなど。負に寄っているものの、表情が増え始めたケイの姿に、俺は内心で喜んでいたりする。

 

 あと、これは余談だけど。

 

 

「それ、うまい?」

 

「? はい、好みですが。……なぜ満面の笑みを浮かべているのです」

 

 

 もぐもぐしながら、質問の意図が分からず不思議そうに首を傾げるケイを見て、“やっぱり好物もアリスといっしょなんだなぁ”とニコニコしていた。アリ×ケイ、ケイ×アリ……あると思います。

 

 そんな楽しい夕食後。問題の入浴についてだが。

 

 

「あの、ケイさんや」

 

「なんです」

 

「流石に全身はやり過ぎだと思うんだ」

 

「は?」

 

「な、なんでもないです……!」

 

 

 椅子の上に座った俺は、両手を後ろに回されてタオルでガッチリと縛られている。もちろん足や腰、果てに太ももまで。

 

 そこに加えて目もぎゅーっと隠されていて。これを第三者が見たらどっかのテロリストに拉致でもされたのか、と勘違いしそうな格好になっている。

 

 

「ふぅ」

 

 

 一息ついて、ぱんぱんとまるで大仕事を終えたように手を鳴らしたのはケイ。もちろん俺を縛ったのもケイ。

 

 今度は“え、そういう趣味?”と別の意味で危険な発想に行き着きそうな情報だな、と見えない視界の中で遠い目をする。

 

 これは俺が、もう何があってもケイとの事故を起こさないように自主的に提案したもの。

 

 ……いや、俺は目隠ししか言ってないんだけど。“なら両手足も拘束します”と幾つものタオルを持って、鬼気迫った顔で言われたから思わず頷いた結果、こうなった。

 

 背後からは“ゴゴゴ……”なんて効果音が聞こえてきそうで、反射的に頷いたけど流石に酷くないか。疑われ過ぎだろ、俺。

 

 

「言っておきますが、これでも足りないです」

 

「ちょっとは信じてくれよ!」

 

「私の太ももをたまにチラ見している不審者がいまして。本人は無意識のようですが」

 

「ゆっくりお風呂入ってきて! 俺はこのまま瞑想してる!」

 

「はぁ……。では、大人しくしていてください」

 

 

 煩悩退散、煩悩退散。同じ言葉をひたすら脳内で唱え続けながら、ケイを見送る。いや、見えてないけど。

 

 あまりにも心当たりがある指摘に冷や汗が出るくらいには焦ったし、めっちゃ早口になってしまった。

 

 なんというか、そういう気がなくても自然に目が吸われると言いますか。……これも煩悩か。

 

 

 ピンポーン。

 

 

 やっぱりか、正解を示す幻聴が聞こえる。

 

 煩悩退散、煩悩退散。ただ言葉を繰り返す。心を透明に、頭の中を真っ白に……。

 

 無心、まさに無心だ。なんか水の音が聞こえるが、なにも考えない。聞こえてくるシャワーの音から想像しかけた姿を消し去る。

 

 

 ピンポーン、ピンポーン。

 

 

 そう、俺はなにも見ていない。何も見ていない!

 

 ……静かな部屋の中に、ただシャワーの音が小さく聞こえてくる。

 

 あの夜に目に入ったケイの裸体。動揺して大きく見開かれた瞳、湯浴み後で火照った顔、反射的にバスタオルで隠そうとした、まだ少し濡れている……。

 

 

「煩悩退散!!!」

 

 

 ピピ……ピピッ……!

 

 

「なんぞ!? って、え?」

 

 

 目はタオルで塞がれているから見えないけど、音は聞き覚えのあるものだった。

 

 あと音の出ている位置は俺の真横、つまり机の上。そこには携帯がある。

 

 誰かからの着信を知らせるものに、今は出られないと諦めるがなんだか嫌な予感がする。

 

 何せこの時間に俺へ電話をする相手なんてほどんど居ないし、緊急の用事がある先生くらいしか思い浮かばない。

 

 加えて。

 

 

 ピンポーン。コン、コン。

 

 

 インターホンと部屋のドアをノックする音。それはまるで俺が部屋にいることを把握しているかのように、何度も繰り返し行われている。

 

 まずい。直感的にそう感じるや否や。ガチャリと洋室のドアが開く音と、ドタバタと慌てたような足音が聞こえた。

 

 音の正体にすぐ気づいた俺は口を開く……と、同時に目隠しが外れた。目の前には予想した通り。

 

 

「け、ケイ?」

 

「はい。まずいですね、誰か来ているようです」

 

「お、おう……」

 

「誰かと会う約束などはしていますか?」

 

「し、してないっす……」

 

「……あまりじっと見ないでください。今の状況をわかっているのですか」

 

 

 濡れた長い黒髪に、火照った頬、薄いパジャマ姿。あまりにも目に毒。

 

 焦っているのは本当だが、普段はしっかりと俺が見ても問題ない姿になってから目隠しが解放されるわけでして。

 

 まがりなりにでも、仲良くなりたいと頑張っている女の子のそんな姿は、ちょっと冷静を保てないと言いますか。

 

 拘束された俺の足のタオルをなんとか必死に急いで外すケイ。やたら強く縛ったせいか中々上手くいかないようで、激しく動いている。

 

 ……あ、今チラッと。

 

 

「あとで1発殴りますから……!」

 

「は、はい……」

 

 

 ようやく外れた足のタオルを放り投げつつ、ジトっとした目で睨まれた俺はしばかれるのが確定した。

 

 次に太もものの拘束を外し始めたタイミングで、ガチャリと外からドアの鍵が開けられた音が聞こえた。

 

 それを把握した瞬間、扉の外にいて俺の部屋に訪れた相手が一気に絞られたわけで。

 

 目線を横のスマホの画面に向ければ、そこには不在着信の表示。名前は……それを確認して心臓が大きく跳ねる。

 

 同時に。ガチャリ、と洋室のドアが開いた。ここに来るまでに聞こえた足跡はふたつ。

 

 

「もう、なんで開けない、の、よ……?」

 

「こんばんは、シュウ。ごめんね、ちょっと話を聞きた、く……」

 

「……あ」

 

「……………は、ははは」

 

 

 不在着信の相手は、“先生”。そして寮の合鍵なんてものを、借りれるほどの信頼と権限があるのはセミナーくらい。

 

 部屋のドアを開けて、剥れた表情で文句を言おうとした同級生・早瀬さんは一気に驚愕の顔となり。

 

 ものすごく申し訳なさそうな顔で、謝罪の言葉とともに早瀬さんの後ろから顔を出した先生は、凍りついたようにピシッと表情が固まっていた。

 

 一方で俺とケイ。

 

 俺は全身をなぜか何重もタオルで拘束されていて、首元には目隠し。

 

 ケイはまだ濡れてハンパに着た寝巻き姿で、俺の腰元に抱きつくような形でタオルを外している。

 

 ……これを事情など知るよしもない先生と早瀬さんが見たらどう思う?

 

 

「は、え。あ、アリスちゃん……?」

 

「ふ、ふふ……いやぁ、手がはやい、というか」

 

「いや、あの……!」

 

「…………っ」

 

 

 目を白黒させる早瀬さんに、乾いた笑いの先生。

 

 必死に言い訳を考える俺に、不安そうにギュッと服を掴んでくるケイ。

 

 まずい、非常にまずい。

 

 なんて言えばいいのか、そう考えていた俺へ先生がにっこりと目以外は笑った顔で問いかけてくる。

 

 

「シュウ」

 

「は、はひ……」

 

「アリス……いや、ケイかな。その子に“何を”させているの?」

 

 

 問いかけだが、もう答えはわかっている。素直に言え。

 

 暗にそう言われている気がするが、どう答えるのが正解か。

 

 考えろ、考えろ、考えろ! この場を上手く、的確に乗り切るには……!

 

 極度の焦りと混乱は俺の中の発想力に、とんでもない爆発と冒険を————

 

 

「これは、その。……違うんですよ」

 

「とりあえず、お説教ね」

 

 

 生むはずもなかった。

 

 

 

 

 

 

 








このケイの態度や言葉を聞いて、まだ本気で“嫌われている”と思っている男がいるらしいですよ。



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