ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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実はユウカルートが一番なんの危険もなく、どきどきで甘くて切ない普通の青春ができたりします。






α-閑話:人は“気づき”の生き物だからね

 

 

 

 

「シュウがアリスに手を出すって……流石に考え過ぎじゃない?」

 

「でもでも……!」

 

「確かに最近は連絡つかないけど」

 

「しかも何かを必死に隠してます! 前の時みたいに死にかけちゃったら……」

 

「そっちは心配だね……。またひとりで突っ走ってるのかな」

 

「とにかく心配で……先生、シュウに話を聞いてみませんか?」

 

「うん、とりあえず電話してみるよ」

 

 

……………。

 

 

「ごめんね、“忙しいから”って切られちゃった」

 

「やっぱり……。明らかにはぐらかしてますよね」

 

「うーん、ここまで意固地になってるなら直接いかないと何も教えてくれないかも」

 

「先生の都合がついたタイミングで行きませんか?」

 

「ユウカが良ければ今日の夜とかかな」

 

「私は大丈夫です、行ってみましょう」

 

「急だけど平気かな」

 

「? 私、シュウの部屋に突発で遊びに行っているので、平気だと思いますよ」

 

「……そ、そっか」

 

「??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことんと小さな音をたてて、手に持ったマグカップを机の上に置く。

 

 一息入れたのちに、反対側に座るふたりの生徒から聞いた話を頭の中でまとめたのちに、ユウカと顔を見合わせる。

 

 私の目に入るのは、困惑しながらもどこか安心した顔になったユウカの姿。

 

 

「えーっと、つまり簡単にまとめると」

 

「モモイから借りたゲーム機の中に急に現れたケイを連れて、夜中にこっそり廃墟に行ったらたまたま身体ができて」

 

「アリスちゃんや先生たちに迷惑をかけないように秘密で動いていた。で、シュウの本音としてはただケイちゃんと仲良くなりたかったから」

 

「ってこと?」

 

「はい……もうホント、すごい簡潔に言うとですが」

 

「…………」

 

 

 頬をかきながら、ばつの悪そうな表情で頷くシュウ。彼の背に隠れるようにして、じっとこちらを見ているケイも小さく頷く。

 

 危惧していた命の危険がありそうなことは特にない……いや、ケイとの接触は少し危なそうな雰囲気はあったけど。

 

 ひとまずはこれといった怪我などはないようで、私もホッとした。

 

 

「うーん、秘密にしていたのはケイの事情だったのかぁ」

 

「俺も先生から色々聞いていましたし。急に“ケイが復活しました、もう危険はないです!”とか言っても信用されないかなって」

 

「まぁね……」

 

「でも私にくらい話してくれても……」

 

「早瀬さんに言ったらアリスにすぐ話がいくでしょ」

 

「い、言わないわよ!」

 

「アリスにおねだりされてダメって言えるか?」

 

「むぐ……」

 

 

 ほら、と笑うシュウ。図星なのか恨めしそうに言葉をなくして睨むユウカ。

 

 あいも変わらず仲良しで先生は安心だよ。……なんか以前よりも距離感が近くなっているのは、気になるところだけど。

 

 大まかな事情を聞き終えて、シュウの事情は概ね把握できた。つまり次は、いよいよこの話題の主役である子の話になる。

 

 

「ケイは、どうしてシュウの元に来たのかわからないんだよね」

 

「……はい」

 

 

 知っている顔、アリスと同じ身体を持つケイ。でも声のトーンや雰囲気、表情は全く違うもの。

 

 あの事件でアリスの体を乗っ取った際に顔を合わせたが、その時と同様に物静かで人とは違うような印象を与える。

 

 この世界を滅ぼす。それが生まれた時に与えられた使命であり、そのための鍵である。

 

そう語ったケイの言葉は、今でもしっかりと私の記憶の中に刻まれている。

 

 彼女だって子どもであり、生徒。危ないことをするなら絶対に止めなきゃいけない、そう思っていた。

 

 ……でも、なんだか。

 

 

「別に取って食われたりしないって」

 

「怖がってなどいませんが」

 

「不安そうな顔して何言ってんだよ」

 

「ぶちますよ」

 

「もうぶってるじゃん」

 

「……おやおや」

 

「先生、これ……」

 

 

 またか、そう顔に出ている呆れた表情のユウカ。私もニコニコな笑顔で頷くと、手を頭に当ててため息を吐いていた。

 

 今回ばかりは本当に私とユウカの杞憂だったようで、どうやらシュウはすでに……。

 

 急に黙ってふたりを眺めていた私に気づいたのか、不思議そうな顔になったシュウがケイから向き直って口をひらく。

 

 

「なんすか、そんなじっと見て」

 

「ふふふ、なんでもないよ」

 

 

 こっちは多分無意識で、ただ善意で動いているのだろう。何か考えがあったり、企みもないまっすぐで馬鹿正直にケイのために走っている。

 

 一方でその善意を一身に受けているケイは、アリスと違ってここまで身近に人と触れ合ったことがない。加えて、あの状況からずっとアリスの中で流れる人々の営みを眺めていただけ。

 

 一般的に悪と分類される目的のために生まれ、それを実行しようとして……失敗して。アリスに拒絶された瞬間のケイは確かに“傷ついた”顔をしていた。

 

 そんな子が、滅ぼす対象のはずの相手に無償の好意を受けて、多くの混乱と困惑を味わったのだろう。

 

 悪意から生まれた無垢の子が、ただ“仲良くなりたいから”なんて言う理由の好意からくる態度と言葉を受けてしまったら……まぁ、うん。

 

 

「毒、だねぇ……」

 

「毒ですね……」

 

「「?」」

 

 過程や知っていることは違うだろうけど、きっと同じような結論に至ったであろうユウカと言葉がかぶる。

 

 ケイも無意識で、まだ自覚はないのだろうけど……すでに。これはなんとも、ケイの生まれた理由を考えるとシュウがしていることは、業が深いというか、なんというか。

 

 知らない相手だが、彼女の生みの親が与えた役目(呪い)とも言うべき願いは、ごく普通の男子高校生に解かれそうになっている、とは。

 

 つい、じーっとケイを見つめてしまった私に気づいた彼女は、たじろぐような仕草をして恐る恐る問いかけてくる。

 

 

「な、なんですか」

 

「ああ、いや……。聞きたいんだけどね」

 

「なんでしょう、か?」

 

 

 怯えているわけではないけど、きっと私を敵のようなものだと思っている。ちょっと悲しいけど、あれきり話すどころか会ってすらいなかったのだから仕方がない。

 

 なりたいものには、好きになっていい。私はそれをアリスに伝えたけど。ケイはきっと言葉や単純なものだけでは納得しない。特に私のものでは。

 

 それなら純粋で愚直な真っ直ぐストレートの好意をぶつける、シュウに任せた方がいいかもしれない。

 

 だから、これは私のちょっとしたわがまま。気づくことでより良いものを見つけて、大切な何かを得ることができる……かもしれない、そんなきっかけになればいいな、なんて願いを込めて。

 

 一瞬だけシュウを見て、首を傾げる姿を確認して。なんでもないように、普通の声の大きさとトーンで。

 

 

「ケイ、シュウのことお気に入り?」

 

「は、はい……!? わ、私はそもそもこの男のことなんて————」

 

 

 ちょっとだけ、ぶっ込んでみた。うん、面白いくらいに動揺してとてもいい反応で、これにはシュウも……。

 

 

「いや俺、ケイに嫌われてるんですって」

 

「………………はい。“やっぱり”私は貴方が大嫌いです」

 

「はは……ね?」

 

「……はぁ。もうシュウは全く……」

 

「こういう最初きっかけの思い込みは、仕方ないことではあるんだけどね……。あはは……」

 

「え、え?」

 

 

 それから少しだけ話して、ケイの今後についてを明日以降に決めることに。とは言っても、もうミレニアムの生徒として所属してもらうのは決まったようなもの。

 

 あとは、ケイとゲーム開発部のことだけど、そこは私やシュウがフォローしていこうと思っている。あの場では、シュウが何かとゲーム開発部やアリスの話題を出したがらなかったし、何か考えているのかな。

 

 そんなこんなで、夜も遅くなる前に私とユウカはシュウの部屋を出た。少し歩いた先で、どこか不安げなユウカから声がかけられる。

 

 

「その、よかったんですか?」

 

「ん、何が?」

 

「もう危険性はなさそうですが、ケイちゃんは仮にも……」

 

「ああ、そう言うこと」

 

 

 ただの人間であるシュウとケイがふたりで平気なのか、あと男女で寝泊まりなんて。そんな意味があるのだろう。

 

 まず前者については。

 

 

「平気だと思うよ。何せ誰も知らないところで、10日も生活してたみたいだしね」

 

「む、確かにそうですね」

 

「あとね。ケイだけど」

 

「はい?」

 

 

 思い出すのは、私とユウカがシュウの部屋に訪れてから別れるまでのこと。

 

 言葉や態度は強気なものだったし、きっとケイは周りのもの全てを警戒しているつもりだったのだろう。

 

 何せここにいるのは、アリス以外は全て敵のキヴォトスの人々。けど、それに含まれているはずのシュウの側を離れる様子はなかったし。

 

 ず〜〜っと彼の裾を無意識にちょこんと摘んでいたのに気づいた時は、思わず悶えそうになった。

 

 意識とは別の勝手に動いた体の動きと態度は、あまりにもわかりやすい。あれは心の色、気づいていない感情が漏れ出した結果なんだろう。つまりは。

 

 

「もう、お互いに絆されちゃってるみたいだしね」

 

「……あの、やっぱりシュウってそっちの趣味とか」

 

「さぁ? あ、でもシャーレでやってたゲームには————」

 

 

 ここに来る前までの不安や心配はどこへやら。

 

 気づけば本人が聞いたら泣いちゃうかもしれないような、そっち方面の話をユウカとしていた。

 

 意外だったのは、案外ユウカはそう言うことに寛容的で。

 

 

「あー。あれでシュウも隠しているつもりですもんね」

 

「え、知ってたんだ」

 

「はい。男の子ですし、別にいいんじゃないですか? それに」

 

 

 何かを思い出したかのようにくすくすと笑うユウカを見て、好奇心が膨れてくる。

 

 元からシュウと仲が良い、相性が良さそうなふたりだったけど、同じ学校に通うようになってからはどうなったのかを知らない。

 

 だから、言葉を区切ったユウカに気になった話の続きを促してしまう。

 

 

「なになに?」

 

「ふふ。シュウがゲームとか好きな物のことを話すとき、結構可愛いんですよ」

 

「……お母さん?」

 

「はい? なんの話ですか」

 

 

 

 

 

 






保護者×2の視点でお送りしたαルートの番外編でした。

あまりにも無茶ばかりするおバカの心配をするふたりの心情。きっと胃痛がすごいんだろうなぁって。

それはさておき、ここで一旦ミレニアムのお話は一区切りだったりします。

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