ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」   作:群缶

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α-7:Badに見えてPerfectだったコミュニケーション

 

 

 

 

 

「意外と窮屈なものなんですね、制服というのは」

 

 

 真新しいミレニアムの制服を着たケイの一言目は、文字だけを見ればご機嫌斜めな感じ。

 

 だが背や腕、ブレザーからスカートまでを部屋の鏡の前で何度も確認する姿、いつもよりほんのワントーンだけ高い声から存外に気に入っているように思える。

 

 たぶん、アリスの体ではない今の体で自分の制服を得たのが、思ったよりも嬉しかったのだろう。

 

 ただ制服が窮屈だと言ったのは本音で、それには少し共感もする。でも制服は着慣れちゃえば結構、便利なものだと思っている。

 

 

「慣れたら楽だぞ」

 

「そうなんですか」

 

「おう。着るもん考えずに済むし、毎日制服でいい」

 

「貴方の私服がジャージばかりな理由がわかりました」

 

 

 “だらしがないです”なんて言いながら、咎めるような視線をぶつけてくるケイに笑って誤魔化す。

 

 なにぶん、生まれてこのかたオシャレなんてものには縁がないし、興味もないわけで。

 

 Tシャツやジーパンくらいはあるけど、基本的に普段着で着ているのはジャージばかりだったりする。

 

 

「服なんて小綺麗で着れればいいんだよ。あんま興味も湧かないし」

 

「別に、貴方の好きにすればいいと思いますが……」

 

 

 呆れた顔で腕を組んだまま、ひと息ついてベッドの上に腰をかけたケイ。自分の制服姿を眺めるのは満足したようで、少し落ち着いた様子に戻る。

 

 俺はというと、ずっとデスクに備え付けられている椅子に座ったまま、ボケーっと(雰囲気だけ)楽しげだった彼女の姿を眺めていた。

 

 あと数時間後にはミレニアムを案内しなきゃいけないし、制服に着替えてもらったわけだが。……う〜ん、目の保養と癒しはもらえたなぁ。

 

 くるっと回って、自分の姿を夢中で見ている時とかニヤニヤしてしまった。俺がいたことをハッと思い出して、怒ったところまで含めてごちそうさまです。

 

 己のことながら、なんとも酷い思考でケイを眺めていたことに若干の罪悪感を覚えたところで。ケイが普段着として使っている服と俺の顔を何度か見比べて、腑に落ちないような表情をしていた。

 

 

「なんだよ?」

 

「服に興味がないとは言いますが」

 

「全くないぞ、これっぽっちも」

 

「それはそれでどうかと思いますが……。あの、私の物を選んだセンスはどこから?」

 

「へ? どこからって言われても」

 

 

 そこまで言ってふと疑問が湧く。会話の流れを思い出して、ケイが聞きたいこととその裏に隠れた言葉が浮かんでくる。

 

 質問に対して何も考えず脳死で答えるなら、俺の趣味。でも、服に興味がない俺が選んだもののセンスについて、そう質問してきたケイの思ったことを想像するに。

 

 

「もしかしてその服、結構気に入ってくれてんのか?」

 

「……………………はい」

 

「なっがい間だな、おい」

 

 

 苦虫を噛み潰したような顔で、不服そうに頷いたケイに思わずツッコミを入れてしまう。

 

 癪です、そんな言葉が飛び出してきそうな表情だが、毎回綺麗に畳んで大切に着てくれているのは知っている。

 

 そっか、枚数が少ないから大事にしているだけじゃなくて、服自体を好んでくれてたわけか。

 

 

「ま、お気に召したのならよかったさ」

 

「そのにやけヅラに一発入れてもいいですか」

 

「おっかないこと言うなよ。最近、どんどん攻撃的になってないか?」

 

「貴方だけの特別待遇です」

 

「うっわ、嬉しくねぇ……」

 

 

 ふん、と鼻を鳴らしてそんなことを言われる。俺はケイに随分と悲しい、例外的な扱いを受けていることを知った。

 

 

「それで、何を基準に選んだんですか。……王女から何か聞いたとか」

 

「アリス? サイズとかは聞いたけど」

 

「セクハラです」

 

「それは流石に理不尽だと思うんだ、俺」

 

 

 誘導尋問にも程がある。そもそもアリスと全く同じ体格というのは、ケイ本人が言っていたことなんだぞ。

 

 ……でも勝手にそれをアリスに聞いて、服とか下着を調達したのは不味かったのでは? 俺は自分自身を訝しんだ。

 

 ひとりで眉を寄せて考え込んでいた俺に、“なんだ、勘違いか”みたいな顔をしたケイが、安心したような……でもどこか残念そうな雰囲気になる。

 

 

「なら、これは貴方が適当に選んだだけなのですね」

 

「ぶっちゃけると。なんかごめん」

 

「なぜ謝るのですか。むしろ貴方が考えて選んだら、とんでもない格好をさせられていた可能性があるので」

 

「前から思ってたんだけど、俺への偏見すごくないか」

 

「あんな下品なゲームを王女に教え込んだ男を私がどう思っているか、もう1度説明しましょうか」

 

「本当に申し訳ございませんでした」

 

 

 椅子からそっと立ち上がり、そのまま崩れるようにベッドの方向に土下座。足を組んで絶対零度の表情となったケイ様に誠心誠意、心からの謝罪を行う。

 

 いやはや。まさかアリスだけにこっそり教えていたと思っていた萌え萌え講座に、もうひとり生徒がいるとかシュウ先生びっくりしちゃったよね。それはもう、羞恥で吐きそうなくらいに。

 

 頭を下げた俺の上から大きな、それはもう大きなため息が聞こえてきた。ケイに呆れられるのは何度目か。本当に情けないこと、この上ないよ。

 

 悔いを改めて、もう少し真人間になろう、そんな心意気になったタイミングで。

 

 

「……全く、もう」

 

 

 初めて聞くケイの楽しげな声音が耳に入って、思わず顔を上げる。でも、そこにはむすっとしたおこモードのケイしかいなくて、首を傾げる。

 

 

「……? 気のせいか?」

 

「何がですか」

 

「いや、今」

 

 

 笑った? そんなことを聞こうとしたのと同タイミングで携帯のアラームが鳴り響く。

 

 思ったよりも大きな音を鳴らす携帯に、慌てて立ち上がってタイマーをきる。確認した時刻は朝の8時、もうそろそろ出なきゃいけない。

 

 

「時間ですか」

 

「あ……うん」

 

 

 聞きそびれた質問は個人的にかなり気になったものだが、時間は時間だし。もうタイミングも悪いので、残念に思いながらも喉の奥に飲み込んだ。

 

 すでに準備を終えているケイを見て、少し焦り気味にリュックを背負って後を追う。玄関の前で靴を履いて待機していたケイは、先ほどまでとは変わって、ちょっと不安げ。

 

 

「今一度確認しますが、今なら王女たちに出会うこともないんですね?」

 

「うん。早瀬さんくらいにしか会わないんじゃないかな」

 

 

 ケイが気にしているのは、アリスたちと顔を合わせてしまう可能性。元々会う気がなかったケイを無理やりアリスと顔合わせさせるのは、俺としても反対だったし、先生たちもそこは調整してくれた。

 

 そもそもあの事件以降、アリスの方もケイと一切接触していないし、突然出会うようなことがあれば激突することも考えられる。

 

 だから、ゲーム開発部全員がいない今日にケイを連れ出して、簡単にミレニアムを案内しようとなった。

 

 でも、いつかは……いや、近いタイミングでアリスと言葉を交わす約束をしているから、今は心の準備をしてるみたいな段階。

 

 どの道ミレニアムに所属することになったケイは、アリスと会うことになる。なら、それが少しでも悪くないようにサポートしなきゃいけない。

 

 

「……ふぅ」

 

「ケイも緊張とかするんだな」

 

「シュウは私をなんだと思っているのですか」

 

「怖いけど可愛いAI?」

 

「か、可愛いは余計です。……私はAIです、緊張などという無駄な機能はありません」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 お昼が過ぎたころ、私はひとりミレニアムの中央広場にあるベンチで待機していた。

 

 正確な時刻は……12時55分。あの大人、先生から与えられたスマートフォンに表示された数字を確認して、まだシュウが去ってから数分しか経っていないことに少し驚く。

 

 モモトークに通知が来ているはずもなく、手持ち無沙汰になった状態。だがこの身体を長期稼働させるのは、想定以上に疲労が溜まるようで、落ち着いて座ることができているのは助かっている。

 

 ひとりになったことで、先ほどまで巡っていたミレニアムの施設を再度脳内データで確認し、インプットすることもできる。

 

 巨大な開発施設、使用用途が不明の機械、爆発する生徒、騒がしい学食。

 

 この世界の人々が言う日常という名の風景は、知識やアリスの中で見た映像として知っていた。だが、こうして生の肉体で見て聞いて触れる、というのは初めてだった。

 

 たった数時間だが、だいぶ疲れてしまっているのを自覚する。これをほぼ毎日のように繰り返している、というのは。

 

 

「……王女、貴女は随分と騒がしい世界で生きているのですね」

 

 

 私以外に誰もいないベンチで、自然と言葉がこぼれ落ちる。

 

 意識体としてキヴォトスを眺めていた際は、“この騒がしさに何の意味、意義があるのだろう”という漠然とした疑問と、“無駄なエネルギーを使っている”、そんな見下した感想を持っていた。

 

 今でもそれの根っこは変わっていない。私は私自身のロジックを見失っていない……が。

 

 

「笑っていた、楽しそうだった……なんて」

 

 

 罵詈雑言や、怒声も響いてた……けれど。彼女たちの表情や感情を観察するに、あれらは全て“幸せ”というもの。私の中で類似したデータは、確かにそれを示していた。

 

 データ、なんて言い方をしているが。あの彼女たちの営みを見た時に、私が感じた感情でもある。

 

 

「はぁ……」

 

 

 自己を認識した瞬間にはなかったはずのもの。生まれたきっかけは、きっとあの時。王女から拒絶され、役割を見失い、私自身の生まれた意義が消えたタイミング。

 

 だが、それは小さな小さな燈だった。きっと、時間とともにゆっくりと消えて、二度と感じることがなかったはずのもの。

 

 けれど、それに薪をくべた大馬鹿者のせいで日に日に大きくなるのを感じている。

 

 “このでっかい銃がレールガンでな!”

 

 おおよそ人が扱えるはずのない、リソースを無駄にしたとしか言えない無骨な武器を、輝いた目で説明してきた大馬鹿者(あの男)を思い出す。

 

 途方もない広さをもつこの学園で、一際楽しそうに紹介されたマッドサイエンティストたちの巣窟。

 

 頷くか、適当な相槌しかしていなかった私をいちいち気遣って……楽しませようとしてくれた、純粋な善意を確かに感じてしまって。

 

 

「なんなんですか、貴方は」

 

 

 わずかな風の音しか聞こえない広場で、その質問の答えは返ってくるはずもない。ただ、私が言った言葉が虚しくこだまする。

 

 あんなにも拒絶しているのに、苦笑いで頭を掻くだけ。

 

 あんなにも罵倒しているのに、ただただ優しくされて。

 

 

「理解、不能です」

 

 

 今日のことを振り返るはずが、気づけばシュウと出会ってからの日々を思い出している。

 

 彼と話して、不本意ながら共同の小さな部屋で過ごす時間は、私の中にある小さなバグ(余計なもの)を大きくしていく。

 

 理解できない彼の行動と理論的ではない今の私に、言い表せない燻りが胸の中を侵食されていく。

 

 だって、私は彼らの敵だ。そのはずだ。

 

 なのに……どうして、私は流されるままここにいるのだろうか。

 

 

「……敵、というのも今では怪しいですが」

 

 

 今思ったことに、つい自嘲気味に笑ってしまう。

 

 私はあくまで鍵。けれど、それを使うはずの……仕えるべき相手には拒絶されてしまった。

 

 ————なら、私はなんのためにこの世界に存在しているのだろうか。

 

 あの日からずっと考え続けて、いまだに答えの出ない疑問。回答を探すたびに、王女を想うたびに痛んだのは、一体なんだったのだろうか。

 

 自分がここに在る意味、失った存在意義。きっと、求めているのはそれなんだろう。

 

 苦しい、というのはきっとこの感情。まさか私が感情なんてものを理解し、得てしまうとは。

 

 

「…………」

 

 

 得た、といえば。

 

 私が次に現実で、自分の意思を表示できる環境で何かをくれたのは。

 

 そこまで考えて。メモリから抽出されたデータを認知した瞬間、忘れるように頭を振る。

 

 

「………………気の迷いですね、ええ」

 

 

 “なら、帰ろうか”なんて。

 

 不気味で壊れかけの瓦礫だらけの中で、手を伸ばしてくれたあの夜を思い出したのは、何かの故障だ。……絶対に。

 

 寒いだろうからと渡されたパーカーの暖かさも、敵のはずの私をずっと守ってくれたのも、不器用な嘘で秘密を守り続けてくれたことも。

 

 ……“俺ケイと仲良くなりたいし”なんて。初めて、誰かから好意的な言葉を貰ったことなんて。

 

 全部、彼の気まぐれ。そんなものに振り回されるなど、“私らしくない”。

 

 そこまで考えてハッとする。何を私は……!

 

 

「人間のようなことを考えているのですか……!」

 

 

 苛立って思わず声が荒いものになってしまう。いないのに、こうも私をかき乱すシュウへまた理不尽なヘイトが溜まっていく。

 

 あんな、がさつで馬鹿でデリカシーのない男に対して、少しでも絆されそうになっている自分がいることが余計に怒りを生む。

 

 朝だってそうだ。少し、ほんの少しはセンスのいい服を選んできた、そう感心していたのに。まさか適当に選んだだけで、偶然の産物とは。

 

 私のことなど考えず、ただ着れそうなものを選んだという答えに、なぜか不快な気持ちになったのを思い出して立ち上がる。

 

 

「文句のひとつでも言いたくなるのは、しょうがないことです。ええ、間違いありません」

 

 

 誰にするものでもない、言い訳じみた言葉を並べて、彼が向かったセミナーの部屋へと足を進める。シュウには先に帰っていていい、と鍵を渡されていたが、そんなものは関係ない。

 

 早瀬ユウカに呼ばれ、何かの資料と私に関する報告を書いているとかだが、時間がかかり過ぎだ。

 

 

「……えっと」

 

 

 まだ慣れない外の世界。ひとりと自覚した瞬間から溜まり始めている、この言いようもない不安(感情)に駆られて、ただ足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう俺、文章嫌いになりそう」

 

「たかだか10枚程度じゃない……」

 

 

 目の前にあるのは、もう少しで書き終わるミレニアムとシャーレへの報告書。

 

 内容はケイと出会ってから今日までどんなことをしていたのか、彼女の様子についてなど。

 

 一応、危険人物扱いではあるケイの安全性を、もっとも近くにいた俺が書いているわけなんだが。

 

 

「だってこれ、形だけじゃんか」

 

「それを言われると私も弱いんだけどね」

 

 

 数日の観察と俺の説得、あとはまぁ……色々と頑張った結果。ケイはミレニアムサイエンススクールに所属扱いとなった。

 

 でも、彼女の存在や安全性については形として残さないといけないとかで、彼女についてをまとめた報告書を書くことに。

 

 結論だけ言ってしまえば、あんまり意味もない無駄な文章を長ったらしく書かされているというのが今の状況。とどのつまり。

 

 

「やる気出ないよね、ははは」

 

「もう……。でも終わらなきゃ、こっちもシュウを帰せないのよ?」

 

「早瀬さんいるし、雑談には困らないじゃん」

 

「ばか。私は帰りたいの」

 

 

 仕事もあるし、とか口で言いながらテキパキと手元の書類を片付けている優等生さま。

 

 マルチタスクってレベルじゃないよね、それ。

 

 早瀬さんが超スピードで何かの書類を片付けていく姿を、ぼーっと眺めていると目が合ってしまう。

 

 

「手を止めないで、さっさとやっちゃいなさいよ」

 

「モチベをくれ」

 

「ご褒美なんてないわよ。ノアじゃあるまいし」

 

「なら、やる気スイッチを入れてくれ」

 

「えぇ……。う〜ん」

 

 

 手元でくるくるとペン回しをしながら、脳死で早瀬さんに無理難題を言ってみたが。

 

 なぜか真面目に考え始めた。いや、ただのおふざけだからスルーしていいのに。

 

 数十秒してもずっと唸って考えている早瀬さんを止めようとしたタイミングで。俺よりも早く彼女が何かを思いついたような顔で、口を開く。

 

 

「ケイちゃんが寂しがっちゃうでしょ」

 

「はは」

 

「乾いた笑い……?」

 

「前も言ったけど俺嫌われてるんだぞ。最近はマシになってるから、ちょっとは仲良くなれたと思うけど」

 

 

 あいも変わらず、ずっと“嫌い”って言われ続けている。でも、何日か前からはわずかに優しくなった気が……しなくもない。

 

 小さな変化だが、朝の挨拶とかも返してくれるし、少しずつ仲良くはなれている……はず。

 

 そう話したところ、早瀬さんは呆れたような顔に。

 

 

「最初の印象に引っ張られ過ぎじゃない?』

 

「……その、他にも嫌われる理由がある、と言いますか」

 

「そうなの?」

 

「色々と心当たりは……」

 

 

 主にアリスのこととかね。目を逸らしてそう話すと、俺が話したくないと察したのか深くは追及が来なかった。

 

 けど、代わりに唐突な質問が飛んできた。

 

 

「そんなに嫌われてるって思った相手なのに、シュウはどうして手助けしてるの?」

 

「え? なんでって言われてもなぁ」

 

「……好きなの? ケイちゃんのこと」

 

「うん」

 

「え、マジ!?」

 

「うわぁ!? 急にでかい声!?」

 

 

 手を机について、飛び上がるように立ち上がった早瀬さんは、驚きと恐ろしいものを見るような表情になっていた。

 

 

「薄々は思ってたけど、シュウってやっぱり……!」

 

「あんな理想的な悪タイプのアンドロイド属性の女の子とか、応援したくなるじゃん」

 

「ロリコ……え?」

 

「アリスと仲良くゲームでもして、楽しく過ごしてほしいよ。ほんとに」

 

 

 ケイを知らず、ただ聞いた話だけであの子に会ってみたい、話してみたいと思ったのは事実。実際、好きな属性てんこ盛りだしな。

 

 けれど、世界を滅ぼすやら、神々のうんぬんなんてかっこいいけど、あんな普通の女の子が持つには重いだろうし。

 

 何より、本人があれだけアリスと仲良くしたそうなのに、それを作り主の与えた勝手な事情で縛られているなんて。

 

 

「ケイはずっと自分は悪者って思ってるみたいだけど。話してみればただの可愛い女の子だしな」

 

「……そんなケイちゃんにシュウはどうしてほしいの?」

 

「別に何かを強制する気はないけど。でも、あえて言うなら」

 

 

 生まれは普通じゃない、育ちや境遇も特殊。結果的に、あのアリスたちと対立してしまう悲しい事件が起きた。

 

 だから、何かをケイに願うとすれば。

 

 

「まずは学校に通って友だちでも作って、思うがまま自由に遊んでほしい……とかかな」

 

「……先生みたいなこと言うのね」

 

「だろ。数ヶ月も一緒にいたら考えも移るもんだ」

 

「だから、あんな必死に私たちを説得してきたのね」

 

「土下座とか慣れたもんだぜ!」

 

「そんな情けない姿を見せたら、余計にケイちゃんから嫌われるわよ」

 

「猛省します」

 

 

 情けないですね、そんな言葉をケイに何度も言われたことを思い出して反省する。これ以上は好感度を下げたくない。

 

 頭を上げた俺に“なんだかなぁ”みたいな表情になった早瀬さんの質問攻めは続く。

 

 

「ほんと、お節介なんだから。なら、今のこの作業もケイちゃんのためじゃないの?」

 

「確かに。……やる気出すか」

 

「大好きじゃない……」

 

「だから俺はケイのこと好きだって。友だちになれるのがいつになるかは未定だけど」

 

 

 悲しいことに。本当に悲しいことに。

 

 あ、まずい。なんか落ち込んできた。このことを考えるのはやめよう、精神的に来る。

 

 8割ほど書き終えている報告書を仕上げるべく、頭を捻って苦手な難しい言葉を並べていく。

 

 こんなのはそれっぽく書いておけば通るもの。嫌と言うほどシャーレで書いてたなぁ、とか思いながらペンを動かしていたが、また早瀬さんの口が開いた。

 

 

「はぁ……。ねぇ」

 

「んー?」

 

「そのあたりのこと、ケイちゃんにしっかり伝えてる?」

 

「あんな小恥ずかしいこと言えるわけないじゃん。早瀬さんだから言ってるだけ」

 

「まぁ、そうよね。はぁ……」

 

「なんか今日、ため息多いな?」

 

 

 気にしないで、と言われたから頷いてパッパと文章を組み立てていく。

 

 うーん、まとめとかどうしよ。

 

 

「ケイちゃんと仲良くなりたいのよね」

 

「できることならな。別に無理ならしょうがないし」

 

「一緒に遊びに行ってみたら?」

 

「………結構前だけど、もう数回ほど誘っては断られていますが」

 

「ご、ごめんね……?」

 

 

 気を遣った提案がすでに失敗済み。落ち込む俺と気まずそうな早瀬さん。地獄か?

 

 すでに何度か外へ行ってみないか、と誘っている。“なんの意味が?”と本気で意味がわからないという顔で断られるのは、あまりにも心にクるもんで。

 

 

「け、けど今なら行ってくれるかもしれないじゃない?」

 

「……む」

 

「シュウも自分で言ってたじゃない。“仲良くなり始めたかも”って」

 

 

 一理ある、のかな。確かに最初のころ、服を買うために誘ったりしたが、あれはまだお互いを全く知らなかったから……かもだし。

 

 結果的にどんな誘いも蹴られたから、アリスに服のサイズを聞くはめになったけど、今はもう気にしていない。

 

 うーん、もう1回誘ってみようかな。そう考え始めた時、早瀬さんが何かを思い出したようにジト目で声をかけてくる。

 

 

「でもせっかく遊びにいくなら、シュウはジャージ禁止よ」

 

「え、なんで?」

 

「そこで“なんで?”なんて聞くから、デリカシーがないって言われるのよ!」

 

「う、うっす」

 

「少なくとも……妥協に妥協を重ねても制服にしておきなさいよ」

 

 

 すごい剣幕なんですけど、なんで早瀬さんこんなに必死なんだ……?

 

 手を机にバンバンと叩きながらキツく言い聞かせるように言われて、少し怯む。

 

 別に友だちと遊ぶくらいならジャージでも良いと思うんだけど。

 

 

「少なくともケイちゃんはあんなに可愛い服を着てるのよ? 貴方が服に興味ないのは知ってるけど、一緒にいるならシュウも————」

 

「お、あれって早瀬さんから見てもケイに似合ってたのか」

 

「ちゃんとした服を……って、なんでそんな誇らしげなのよ」

 

「俺が選んだんだよ、あの服」

 

「……。…………? …………!?」

 

「おい、その反応は流石に失礼だろ」

 

 

 首を傾げてから、視線を外してからもう1度俺の顔を見て。最後に驚愕した早瀬さん。

 

 なんで俺が服を選んだってだけで、そんな顔するんだよ。

 

 

「え、え? あんな可愛くてケイちゃんに似合ったのをシュウが?」

 

「本当に失礼だな、キミ」

 

「私と服を買いに行った時は、適当にスマホ見ながら“それで良いんじゃない?”とか言ったシュウが?」

 

「その節は大変失礼いたしました……!」

 

 

 いつの日だったか、別件で早瀬さんと出かけた際に秋ものの服を買うとかで付き合ったんだが……今思えばクッソ失礼なことしてたね、俺。馬鹿野郎です、マジで。

 

 頭を下げた俺を見た早瀬さんは、慌てて笑いながら気にしていないと顔を上げるように言ってくれる。

 

 

「もともと期待してなかったし、気まぐれで聞いただけだから」

 

「フォローのつもりだろうけど、その答えが一番傷つくよ?」

 

「そんなことはどうでもいいのよ。それで、なんでシュウが選んだのにあんなピッタリの服になったのよ……?」

 

「本気で困惑してるじゃんか……」

 

 

 先ほどまでの内容よりもよっぽど気になったのか、聞いてくる言葉のスピードが若干早いし、なんなら圧もある気がする。

 

 どうしてって言われてもなぁ。本当に適当に選んだというか。

 

 

「単純なことだぞ?」

 

「その単純なことができないじゃない」

 

「うぐ……いや、さ。服を見てた時は正直、一般的な基準とか可愛いみたいなの、よくわからなかったんだけど」

 

「うんうん」

 

「これを着たケイは絶対可愛いだろ、ってのを適当に選んだだけだよ」

 

 

 服はよくわかんないけど、ケイに着てほしいって願望だけで選んだ、というあまりも単純で欲塗れな回答。

 

 できればメイド服とか、巫女さんみたいな格好をしてほしいという願望もあるが。

 

 気軽に着る私服ということを自分に言い聞かせて、脳内にイメージしたケイに衣装チェンジしてもらっただけだ。

 

 だから、服を選んだというよりは。

 

 

「ケイの魅力が出そうなシンプルなものにしただけなんだよ」

 

「ふぅ〜〜〜ん? へぇぇ〜〜〜?」

 

「今度はすっごい笑顔で俺、怖いんだけど」

 

 

 やたらと機嫌が良くなった早瀬さんの姿に、思わず身を引いてしまう。なんでそんなニコニコなんだ、この人。

 

 奇妙なほど笑顔な早瀬さんをひとまず放っておき、残りわずかとなった報告書を仕上げるべく、俺はペンを握りなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんですか、それ」

 

「……」

 

「もう、本当に……意味がわかりません」

 

「……………」

 

「……………………」

 

「……………………………はぁ」

 

「……別に。言ってくれれば外出くらい、なら……」

 

 

 

 

 

 

 








ここでストック終了です。溜まっている感想の返信は直近のどこかで。(いっぱい感想来てて嬉しい限りです。執筆のモチベになります!)

次回は、またストックを作ってからになります。たぶん、3月の中旬くらいかな。

そろそろゲーム開発部、アリスたちとの話になります。ええ、シリアスなんてありませんとも。






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