ホシノ「私で童貞捨てたくせに……」「童貞ですけど!?」 作:群缶
ケイちゃんルートのエンディング後のエピソードです。
ミレニアムルートが待ちきれない、エンディング後の話でも読みたいという方に向けたお話です。
時系列は原作・パヴァーヌ2章のあとです。
とある寮の一室にて。
ピコピコとコントローラーを連打する音と、苦戦するような声が響いている。
絨毯の上に座り込むミレニアムの制服を着たふたりの生徒。彼と彼女がテレビ画面に向かって一喜一憂しながら、とあるゲームを遊んでいた。
映し出されているのは、ゲームセンターでもプレイ可能な格ゲーと呼ばれるジャンルの作品。
つまりは対戦をしてるということ。
約5分ほどの時間をかけて、画面に大きな文字列が2つ出る。
ひとつは“You Win!”。もうひとつはもちろん、“You Lose...”。
勝ちと負けを意味するこの言葉の羅列が表示されたあと、それを見たふたりの表情は随分と違うものだった。
一方は。
「ん。俺の勝ちだな」
ふぅ、と息を吐きながらキャラ操作で疲れた手を振りつつ、コントローラーを手放す少年。その顔には、ほんのり喜びが現れていた。
一方で、そんな少年と対戦していた外見は少し幼い少女はというと。
「むぅ……」
長く伸びた黒髪、特に目立つのは前髪で顎下まで伸びており、かき分けなければ眼が隠れてしまうほど。
髪の間から除く赤紫色の眼は、機械的な幾何学模様みたいでどこか普通の人間とは違うような印象を持たせる。
ミレニアムの制服を几帳面に着つつ、白いパーカーを羽織った姿。口調は丁寧かつ、感情を感じさせないもの。
この外見的特徴を持った少女は、この学園にもうひとりいるが、そのほかが全く似つかわないためか、もう誰も間違えることはない。
名前を
少し前まではキヴォトスを滅ぼす……くらいのことは出来るし、しかねないような危険な存在だった少女。
詳細は省くが、機械的で冷徹そうな雰囲気を持っていたはずのケイは、とあるキッカケから多くのことを知り、自己認識を変化させ、感情と心という名の
その結果。
「今のはボディパーツに不具合があったからです。……シュウ、もう1度です」
ぺたんと可愛らしい女の子座りをしつつ、コントローラーを握り直し、眉をぐっと顰めて、抗議するような顔で少年を睨みながら再戦を申し込む。
これで何度目か。時刻はすでに22時過ぎで、対戦回数は30を超えてから数えていない。
勝敗は少年ことシュウが勝ち越している。これにザ・負けず嫌いを発揮したケイが何度も勝負を仕掛けている……というのが今の状況だ。
「今のが最後って言ったじゃん……。というかケイ、もう勝率的に巻き返せないだろ」
「は? 言ってませんが?? 私はまだ負けてません……!」
「はぁ……。負けず嫌いめ」
「うるさいです、早くボタンを押してください」
それだけ言ってテレビの画面へと向き直ったケイの横顔を見ながら、呆れつつも笑ってしまう。
事故的な出会いから戦闘へと発展し、解決後の対話では全く感情を見せずに淡々としていた……そんな子が今や。
「? なんです、じっとこちらを見つめて」
「いーや、なんでも。ゲーム、好きなんだなって」
「……別に、そういうわけでは。
「ふーん、へぇ〜〜?」
「今すぐそのムカつく顔をやめないと酷い目に遭わせますよ」
不機嫌そうなジト目でそんなことを言われて、“はいはい”と画面に向き直る。……照れているせいで顔が赤いのは触れないでおこう。
お世辞にもケイの感情表現は豊かとは言えない。けど以前と比べれば別人と言えるほど。
仕草や声のトーン、何より特徴的な彼女の眼を見ていれば、親しい仲にあるなら、すぐにケイが今何を思っているかくらいは察せるだろう。
また、ともにピコピコとゲームをしている中で、“ぐぬぬ……”と苦戦しているケイにちょっとした雑談をふってみる。
「その体は慣れたのか?」
「ひゃっ……くっ……! はい、だいぶ……あぁ……」
「く、ふはは……。そ、そりゃ良かったな」
「ええ。ぁ、ちょっと……くぅ……」
コマンドを押すたび、釣られて体まで大きく動かし、苦悶の声をあげるケイの姿がちょっと可愛らしくて、つい笑いがこぼれつつも話を続ける。
意外な一面というか、なんというか。
普段のケイは素直じゃない部分が多い。よくあることだが、彼女から言われた言葉は裏まで読まないと、ちょっぴり怒らせてしまうなんてざらだ。
けど、ゲームに集中している時、特に苦戦しているタイミングに話しかけると驚くほど素直なのだ。
場合によっては、大きな勘違いを生むコミニュケーションをしてしまうケイを知っていると、より驚くと思う。
きっと素直じゃない部分を出す余裕もないのだろう。ただ律儀に返事をしてくれるあたり、普段のツンツンしている姿を知っていても、彼女の根の良さ、優しさは隠しきれていない。
知らぬは本人ばかりとはよく言ったものだ。
「アリスとは仲良くやってる?」
「仲良くも何も……や、あぁ……喧嘩することなど……く……あり得ません」
「そーかい。……えい」
「あ……あぁ……!」
ゲージの残りが少なくなり、ガードに徹していたケイのキャラにブレイク技を決めて、そのまま決着。
うーん、別に俺が特別ゲームが上手いとかではないと思うのだが、ケイの動きが素直すぎるというか。
「そりゃ、モモイにも負けるか」
「…………言ってはならないことを言いましたね?」
「ありゃ、図星か」
「いいです喧嘩です上等ですっ!!」
「ははは、落ち着けって」
コントローラーを置いて腕を捲り、ずいっと迫ってきたケイを“どうどう”と両手で鎮める。
これがあの怖い機械兵団を率いていた、とか。彼女に出会った当初の俺自身に言っても絶対に信じないだろうなぁ。
「決着はこれで決めます。手を抜いたら承知しませんから」
「はいはい。ほんとにこれでラストだぞ?」
結局、このあとに3戦ほど戦って。時刻が23時を過ぎた。
流石にそろそろまずいかな、と心配になってきて改めてケイにそろそろ終わりにしよう、と伝える。
「下手すると日が回っちゃうし、流石に終わろうか」
「はい?」
俺のいる寮からケイ、アリス、モモイ、ミドリが住んでいる場所までは、そこまで離れているわけではない。
でも、いくら身体がアリスと同じで特別と言っても、見た目は女の子。あまりにも遅すぎる時間に帰すのは良くない。……手遅れだけどさ。
俺の言葉を聞いたケイは最初、疑問を浮かべた表情をしていたが目線を時計に向けて驚いた顔をする。
どうやら彼女もこんなに時間が経っているとは気づいていなかった様子。
「明日も学校あるし、今日の特訓の成果を見せるんだろ?」
そもそも今日ケイが俺の部屋に来た理由は、アリスたちにゲームでやられてばかりで相手にならないのが悔しい、特訓したいというもの。
明日にやるというソフトを片手にケイが部屋を訪れたときは驚いた。
まだゲーム開発部に慣れていなかった初期の頃を思い出して、少し微笑ましかったし、自分からみんなとより仲を深めるキッカケを作ろうとしている姿を見れて嬉しかった。
だから“いいよ”と昼過ぎくらいからずっと付き合っていたんだけど、流石にこんな長時間になるとは思っていなかった。
そんな俺の言い分を理解しているようだし、納得もしてるみたいだけど。ケイは何かが胸に引っかかっているみたいで。
「それも、一理ありますが……。でも……その……」
後半に連れて言葉が小さくなりつつ、顔には別の感情が灯っていた。
そんなケイを見て、俺はどこか寂しげに見えたけど……別にまた明日も会えるし、なんならアリスたちがいるよなぁ、と。
だから冗談気味に。
「なんだよ、寂しいのか?」
と、笑いながら言ってみたんだ。その結果。
「…………」
「…………え、まじで?」
頬に赤が彩り、眉を八の字に下げて目線を逸らしたまま。
言葉ではなく頷きだけで反応されて、思わず素っ頓狂で間抜けな声で確認してしまった。
いや、だってさ。
「家にアリスたちはいないのか?」
「……います」
「なら喧嘩してるとか?」
「……いいえ」
「???」
「…………」
ならなんで寂しいのか、と本気でわからない顔をしていたであろう俺をみて、ケイは小さな……それこそ物音ひとつでかき消えてしまいそうな声で。
「シュウとふたりでいる時間、最近はなかった……ので」
一瞬だけ目を合わせてから、そんなことをいじらしく言われて気づく。
ケイと仲良くなる前は、色々とあってなんとか心を開いてもらおうと一緒にいた時間が多かった。
多かった、というか。俺が一方的に話しかけたり、ちょっと強引に遊びに連れて行ったりとケイからすればいい迷惑だったことだと思っていた。
何せ、初めの頃は本当に、ほんっとうに塩対応。何度心が折れかけたことかと思い出すのも億劫になるほど。
いつからか、俺が誘えば口では“嫌”みたいなことを言いつつも、着いてきてくれるようになり。
そして、アリスたちとの関係が大きく進展した際は、もう平気かなと身を引いて、しばらくは遠くから様子を見ていたときは。
“なぜ、誘ってくれないのですか”
と、拗ねた顔で言われて目を丸くした。
だから定期的には遊んでいたのだけれど、最近のケイはゲーム開発部の子たち以外とも交流している時間が多くなってきている。
何よりアリスとの時間を大切にしてほしいと思っていたから、前のようにふたりだけ、というのはかなり減っていた。
「そういえば……そっか」
「……だから、ですね。あの————」
「なら、またどっか一緒に行くか。と言っても今日は流石になぁ」
いつが空いてたかな、と携帯でバイトのスケジュールを確認していると。
「……………むぅ」
ものすごく不満げな声が聞こえて、そちらに視線を向ける。
俺の視界に映ったのは、むくれて機嫌を悪くしたケイさんのお顔。
この顔をするときは大抵、ケイの真意や言葉の意図に気づかなかったときだ。つまりは、あの“寂しい”という言葉には、俺に何かを察してほしいという意味も込められている……のだと思う。
……まずい、何もわからないぞ。と、眉に皺を寄せて、ケイの顔をじーっと見ながら考え込んでしまう。
そんな俺に痺れを切らせたのか、ケイの口が開く。
「………わからないんですか」
「え? ああ、うん」
「………………」
「いや、そんな睨まれてもね?」
もう不機嫌の最高潮。察しの悪い俺に腹が立っているのか、顔も赤くなり出しているし。
どうしたものか、と頭の後ろをかいてとりあえず何かを言おうと口を開いた瞬間、俺よりも先にケイがまた小さな声で言葉を発する。
「私は……貴方と一緒にいたい、と言ってるんです」
「え? 今がまさにそうだけど」
なんならずっとゲームしてたよね? と言いかける前に、俺の言葉を遮ったケイは珍しく言葉に詰まりながら、続きの言葉を口に出す。
「で、ですから……! 端的に、言いますと」
「言いますと?」
「……今夜は、ずっといっしょがいい、です」
「……へ?」
緊張した面持ちで、目をギュッとつむったまま言われた彼女の言葉の意味を、噛み砕いて咀嚼する。
それは言葉の通りの意味、でいいのかな。……まさか男女としての意味ではない、よな。
「あ、あの」
ちょっと考え込んでいたようで、ケイから声をかけられて顔を上げる。
自分の目に映った彼女の表情は緊張していて、どこか居た堪れないような印象を受ける。
「あ、ああ。ごめん、何?」
「無言のままは、やめてほしいです。……緊張します、から」
そういったケイの顔は今までに見たことがない類いのもので、よく見れば緊張で微かに手が震えていた。
「私もそれなりの勇気を振り絞ったので……その、何も言われないのは不安になります」
「……ぁ、え?」
ギュッと手を掴まれて、熱でもあるのではないかと疑うほど高いケイの体温が伝わってくる。
座ったままとはいえ、そこそこの身長差があるゆえ、上目遣いで顔を見つめられる形になる。
な、なんだ。急に俺の方まで緊張してきた。
というか、この雰囲気とさっきの言葉の意味をしっかりと考えると。
「も、もしかしてというか、さ」
「……は、はい」
「寂しいとか、一緒にいたいって……友だちとかの意味じゃなくて。……い、異性としての意味、的な?」
「…………は、い」
「………………まじ?」
「……やっぱり、気づいてなかったんですか」
まだ緊張は残っているようだけど、頬は染めたまま見覚えのある少し呆れた笑みを浮かべていた。
俺はというと。驚きが心を支配していて、珍しすぎる乙女な顔となったケイに反応できなかった。
何せこのかた人生16年の間、他人の色恋沙汰を見ることはあっても、自分がそこにいた例がなかったわけでして。
何が言いたいかというと。
「は、はぇ……?」
この状況に自分でもビビるくらい動揺してます、はい。
だって、あのケイだよ? 俺に対して普段は“情けない人”とか、“それでも男ですか?”とか。
はたまた“何をボケっとしているんですか”、“しゃんとしてください”みたいな、俺をしょうがない弟でも叱るような感じで接してくる子だよ?
ほぼ毎日のようにそんなやりとりをして、他の子に聞いても俺だけをやたら………?
……あれ。……え? も、もしかして。
「普段から、よく俺のことに気づいたり、叱ってくるのって……それだけ俺のことを見てる、から?」
「そのことですら、今気づいたんですか。流石に少し呆れます」
不服そうに言われて、確かになんで気づかなかったのか、とつい自問自答してしまう。
よくよく考えてみれば、ケイが俺のことを明らかに気にかけてくれていたタイミングや、男として意識していそうな場面がちらほらと脳裏によぎるのだ。
けど疑問は残っている。
「え、と。とりあえず、ありがとう……?」
「何故、疑問系なのかは聞きません。……その顔は、聞きたいことがありそうな表情ですね」
「……ほんとによく俺のこと見てるのな」
「だめ、ですか」
「い、いえ。お構いなく……」
こくり。ただ頷いたケイと俺の間にあるこの空気感。
ふわふわでほよほよ。ふんわり、ぽわぽわしているこれまでに感じたことのない、ムズムズする感覚。
なんかすっごい恥ずかしくなってきたけど、聞きたいことはしっかり口にする。
「それで、なんですか」
「えー、と。その、なんで?」
「主語がないとわかりません。……私が貴方を異性として
「わかってるじゃん……心通じ合ってるじゃん……」
「ふふ。それほどでもないです」
随分と可愛くて、彼女らしくないドヤ顔が披露される。今日だけで、いくつ知らないケイの表情を見たのだろうか。
そんな俺の心情は置いておき、本題は今のケイが抱いている感情のもと。何がきっかけだったのか。
正直に言って彼女から好かれていた理由が一切わからない俺としては、とても驚き、気になる点だった。
でも、ケイからすればそれこそ不服かつ、逆に驚いたところだったらしく。
「むしろ、私としては“なぜシュウだけ気づいてなかったのか”と問いたいくらいです」
「そうなの? ……まって、俺だけってなに? あ、やっぱり————」
なんか、絶対に気づかなくて良い部分に触れた気がして、言葉を撤回しようとする。でも先にケイが口を開いた。
「そのままの意味です。私の
「………ゲーム開発部」
「全員知っています。むしろ焚き付けられましたよ、私」
「……早瀬さん、生塩さん」
「シュウの察しの悪さにイラついていました」
「……し、C&C」
「ええ、知っています。ついでにメイド服を応援代わりと言って渡されました」
「……もう、お腹いっぱいです」
「満足そうで何よりです。私も胸の内がスッとしました」
「……顔、赤いけど」
「…………恥ずかしい、という感情はやはり不要だと思います」
お互いに大きなダメージを受けたところで、話を元へと戻す。
かなり横にそれたけど、俺が気になっているのは“いつからケイが俺に好意を向けていたのか”だ。
「ケイって元々、人間のこと嫌いだったじゃん」
「嫌いとは……いえ、滅ぼすべき対象としていたので、間違いではないですね。そこを否定する気はありません」
難しい話なので詳しくはわかっていないけれど、ケイ……Keyはとんでもない兵器の鍵だったらしい。
大方は先生や、ケイと深い関わりがあるゲーム開発部メンバーから聞いた話だけど、アリスを中心として一悶着あったのは記憶に新しい。
俺が彼女たちゲーム開発部と関わりができたのは、事件のあとだったから実際には見ていないけどな。
脳内でケイについての情報を思い出しつつ、彼女の言葉に耳を傾ける。
「モモイ、ミドリ、ユズ、先生によってアリスは変わり……私は自分の存在意義、意味を失いました」
「……そうなのか」
「あのときの私には、おおよそ感情というものはなく。アリスの影響で芽生えた程度でした」
どこか懐かしむような口ぶり。元は感情がなかった、っていうのはケイがAI的な存在だから、だっけ。
「何よりアリスに“私”を否定されたことで、大きなショックを感じました。今思えば、あそこが初めて感情を得た瞬間だったのかもしれませんね」
少し苦しそうな表情になったケイ。彼女の役割とはキヴォトスの滅亡。
俺たちからすれば、絶対に阻止しなければいけないようなものだが……そのための鍵として生まれたケイにとっては、きっと辛いもので。
その上、鍵としてその目的を共にするはずだったアリスから否定された……だもんなぁ。
今はというと。
“ケイ! 次はあっちへ冒険に行きましょう!”
“あ、アリス! そんなに走っては危ないですっ!”
どう見ても仲良し姉妹なんだけども。振り回す元気で天真爛漫な妹と、危なっかしいと口で言いつつ必ず付き合っちゃう面倒見の良い姉って感じで。
めっちゃ尊くて、先生と一緒によくウォッチングしているのは秘密だ。
「何かよからぬことを考えていますね?」
「だからなんでわかるの??」
「だらしない顔で笑っていたからですけど」
「……はは」
「はぁ……。話を戻します」
じっとりとした視線に冷や汗を流したが、スルーしてくれたようで胸をなで下ろす。
「とにかく。生まれたばかりの感情という名のバグ。初めて得たのが傷心だったわけです」
感情、心は人を人たらしめる物のひとつ。
喜び、悲しみ、怒り……多くのものがあるけれど、どれも大切でなくてはならないパーツ。
俺たちはそんなもの生まれた瞬間から持っているが、突然そんなものが芽生えたケイはきっと困惑しただろう。
しかも、初めてのものが負の感情だ。ひどく傷ついたはず。
当時のケイの心を想って、少ししんみりしていた俺。
無論、この過去の出来事を話していたケイも少し悲しそうな顔だったのだが。
「そんな状態の私に、痛み以外の多くの感情を無理やり押し付けてきた不届き者が現れたのです」
「随分とひどいことをする奴もいるな……」
「……………。ええ、本当に……本当に。今でも酷いと……そう思っていますよ?」
「なんで怖い顔してるんだ……?」
マジのガチで怒った顔、口調になったケイに、つい体がこわばる。
こんなフラットな声音、初対面のとき以来な気がする。
「自覚がない、察しが悪いと先ほど伝えたばかりですが」
「? うん」
そうだね、と頷いた俺を見て一瞬だけ目を見開いて、頭を抱えたケイ。
なんだ、すごく馬鹿にされている気がする。
「……察しが悪い貴方にわかりやすく言いますね」
「おお、助かる」
「泣きそうなくらいボロボロな私の心に、ズカズカと土足で踏み入って……たくさんの感情を教え込んだ“シュウという不届き者”のことを話しています」
「………あれ。あれれ?」
おっかしいなぁ。その不届き者、偶然にも俺と同じ名前だぞぅ!
と、冷や汗が背中に滝のように流れ始めた俺を見た不機嫌そうなケイは、真顔で口を開き。
「身に覚えがない。もし、そんなことを言ったら」
「い、言ったら……?」
あれ、不思議だな。なんか体が揺れてる、地震? 現実逃避しながら、震える声で続きを聞く俺。
一方で、ケイは真顔から一転して。
「キヴォトスではなく、貴方を滅ぼします」
「ひぇ……!?」
とびっきりの悪い笑顔で、末恐ろしいことを言った。
見たことがないほど満遍の笑み。すっごくキュートだけど、言葉が全く可愛くないどころか怖すぎて、俺ちびりそうだよ。
「それで、どうなんですか? まさかわからないのですか?」
笑顔からいつもの無表情に近いものに戻り、ずいっと顔を近づけられて問い詰められる。
……。
…………いや、さ。
「言われてみれば、みたいな心あたりはあります……」
「具体的には」
「廃墟の工場の件とか、ゲーム開発部とアリスの件とか……」
「他には」
より近づいて、“まだあるでしょう”と詰めるように、食い気味に聞いてくる。
その目には決定的な“あの件”を忘れていないだろうな、という脅迫じみたものも感じる。
う、うぅ……あとは、その。
「で、デートの件……っすかね……?」
「せ、正解です」
残った選択肢からそれっぽいものを言ってみたが、当たったようで満足げながら恥ずかしそうな顔をして、ゆっくりと離れていくケイをみて安心する。
……まさかとは思ったが、あれがきっかけなのか。
心の内側で色々な意味で驚いていると、それを察したのかケイが目を逸らし、口を尖らせて聞いてもいないことを喋り始める。
「別に良いじゃないですか。“あんなこと”でも、私は嬉しいと感じたんです」
「え」
「自分でもちょろいと思いますし、生み出されたばかりの私が“今の私”をみれば鼻で笑うでしょう」
「いや、あの」
「ですが、初めて向けられた真摯でまっすぐな優しさは
「ストップ! 聞いてない、そこまで聞いてないよ!?」
目がグルグルにして、明らかに正気でなくなったケイを必死に止めるが。
この世界・キヴォトスにおいて、俺は貧弱であまりにもよわよわな一般高校生。
対して相手は予備とはいえ、アリスと同じとんでもパワーを秘めたボディの持ち主。
そんな相手に俺が力で勝てるはずもなく。
「
気づけば、押し倒されていたってわけ。
……。
…………。
………………。
それから数日後。
また場所は同じく俺の部屋。
違うのはここにいるのが俺とケイに加えて、ゲーム開発部が全員いること。
最近、ちょっとだけ変わった俺とケイの関係性に目ざとく気づいたアリスとモモイは、ミドリとユズを連れて部屋に乗り込んできた。
そのタイミングが最悪で、ちょうどケイとふたりきりだった。
現行犯と言わんばかりに現場を抑えられ、今は質問攻めに合っている最中。
でも、別に誰かに言うようなことではないし、何より察しているだろうと無言を貫いていた俺。
けど、直接本人たちから経緯などを聞きたいようで、モモイさんがこんな提案をしてきた。
「ならゲームで勝負だよ! 私たちが勝ったら全部教えてもらうからね!」
「えぇ……。普通に嫌だけど」
「なんでぇ!?」
「それでシュウくんが勝負に乗ると思ったお姉ちゃんが心配だよ……」
「ぷ、プライバシーだよ……?」
「シュウ、ゲームしないんですか?」
「あ、アリス……今はその……」
わーわーと騒がしいみんなを見つつ、あくびをひとつ。
別にゲームをするのはいいが、ぶっちゃけメリットもないし。
何より、遊びとは言えどケイの前でモモイはともかく、ユズにボコられたら格好がつかない。
「俺、少し寝不足でさ。ちょっと寝かせてくれ。部屋とここのゲームは好きに使って良いから」
「良いんですかっ!」
「おう、アリスは良い子だからおまけにおやつも食べていいぞー。……ふぁ」
あ、やばい。本格的にふらっときた。
「ってことでおやすみ。片付けは後でやっておくから、そのままでいいぞ」
ベッドに入り込み、そのまま目をつぶれば一気に眠気がくる。
そこそこの声量で騒いでいるみんなの声が遠くなるほどだ。
「ちょっと待ってよ! 勝負は!?」
「しないって……」
もうほとんど意識が寝かけながら、聞こえてきたモモイの声に反応する。
けど、本当に限界で意識が完全に………。
「ふーんだ! どうせケイの前でユズに、こてんぱんにされるのが怖いだけでしょー!」
そんなモモイからの挑発的な言葉と“ケイの前で”と言う単語が耳に入り、意識が夢の世界から現実へと一気に引き戻される。
は? 誰が勝負を投げ出すといった。
眠りかけていた脳を起こし、寝そべっていた体を起き上がらせてテレビの前に座る。
横に座る苦笑いをしたユズを一瞥し、反対に座っている呆れた顔をしているケイにひと言。
「勝つさ」
「はぁ……」
大きなため息を吐かれて、頭を抱えるケイ。その表情は諦めの色が宿っていた。
どうした? 何でそんな顔をするんだ。
大丈夫。俺、強いから。
「アリス、知ってます! 目覚めの勝利宣言は負けフラグですね!」
「アリスちゃん、言わぬが花だよ」
後ろの野次馬たちの声を無視し、いざ戦いのフィールドへと行かん。
これは意地だ。男のプライドをかけた絶対に負けられない戦いであり。
「……負けたら、承知しませんから」
ちょっぴり恥ずかしいこの前の夜の思い出を守り、隠し通すための
なお。
このあと、トラウマになるくらいユズにボッコボコのフルボッコにされて。
結局、全部話すことになり、ケイに赤い顔のまま無言で睨まれ続けたのは……また別のお話。
……手加減って言葉、ご存知ではない?
ミレニアムルートは、ゴリゴリのラブコメとしてプロットを組んでいます。
他の章とはうって変わって、青春! 恋愛! ラブコメ! って感じです、だいぶギャグもあるヨ。
AIなケイちゃんが色々教え込まれて、感情を得て、脳を焼かれる……みたいな。
そんな過程を経た後のお話でした。では、またね!
【マル秘情報】:群缶はホシノと同じくらいケイちゃんが推し。