ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

ゲーム開発部パーティーVSC&C
ネルブチギレ


EP-12 00(ダブルオー)

ネルが私へと飛び掛かる。

 

それと同時に、残る三人のメイドも動き出した。

 

「こうなっては仕方ありませんね…!私たちも応戦しますよ!」

 

「あっはは!りょうかーい!」

 

「…致し方無しだ」

 

HGと大型のシールドのようなものを携えたメガネのメイド、ARを持った長髪のメイド、SRを構えた褐色のメイドがそれぞれ、ゲーム開発部へと向かう。

 

「えぇっ!?なんでこっちに!?」

 

思いがけない襲撃に、モモイが慌てふためく。

そこに、(すべ)るような(なめ)らかな動きでARのメイドが迫る。

 

そこに私はHGで牽制を入れる。

 

「おっとぉ!」

 

躱されるが問題ない。時間は稼げた。

その間に、アリスがモモイの前に立つ。

 

「あっ!この間の私を痺れさせた子だね!今度は手加減しないよー!!」

 

私の牽制のお蔭で、モモイ達は体勢を整え、戦いに臨めるようになった。

 

「──余所見して他人の心配してる場合かよ?」

 

気付けば、美甘がすぐ目の前まで肉薄していた。

その両手の二丁のSMGを私へと向ける。

 

「あたしを前にして余裕だなァ!!」

 

美甘のSMGが火を噴く。

 

だが、その射線は視えている。

幾筋もの線となって、私の“眼”に映っている。

 

それらをステップで潜り抜ける。

 

「チッ…勘の良い野郎だ──いや、違うな。テメェ、見えてんな?」

 

すっかり怒り心頭に突っ込んでくるだけかと思いきや、意外にも美甘は冷静な様子で私を分析している。

 

「さぁ、それはどうかな?」

 

私はあえてシラを切る。

肯定しているようなものだが問題ない。

今の一瞬の交錯で、相手の美甘は、ホシノに比肩し得る存在だと理解した。

このレベルの相手では隠そうとしてもどの道、確信される。

 

「なるほどな。ウチの“アスナ”みたいなもんか」

 

アスナ、というのは、今、ゲーム開発部と交戦している三人のメイドの誰かだろう。

そして、それは恐らく、最前線でアリスと対峙しているAR持ちの長髪のメイドだろう。

アリスの相手をしつつ、その背後からのモモイやミドリ、ユズの攻撃を巧みに躱し続け、攻め立てている。

 

「攻撃が全然当たんない!?って言うか、見切られてる!?」

 

最前線のアリスは、アスナ(?)を相手に、防戦一方であり、その特大の武器を盾代わりにして攻撃を防いでいる。

 

「このままじゃアリスが持たないよ!」

 

「ッ!」

 

タイミングを見計らい、アリスが攻撃をしようにも、引き金を引く前に妨害される。

 

「おっと、その銃の威力は聞いている。そう簡単には撃たせないよ」

 

後方でSRを構える褐色メイドの狙撃がアリスの近くの床を砕き、威嚇する。

 

「はい、撃たせません」

 

メガネのメイドが、HGの銃撃と共に、大盾と思っていた箱の中から爆弾を取り出し、放り投げる。

 

「それなら、後ろの人たちを狙えば…!」

 

爆炎の中、ユズがメガネのメイドに狙いを定める。

スナイパーの褐色メイドは遠すぎて当たりそうにない。

 

「あらあら、私も舐められたものですね──お嬢様方♪」

 

メガネのメイドのHGによる銃撃がユズの動きを阻害し、頬を掠める。

 

「…っあ…!?」

 

驚いたユズはその場に尻餅を着いて転んでしまう。

 

「ユズちゃん!」

 

美甘を抜きにしても、やはりゲーム開発部とC&Cでは地力が違い過ぎる。

 

「そんなにあいつらが心配かよ?」

 

そして、そのC&Cのリーダー、美甘が私に再び接近戦を仕掛ける。

私に向かって、無数の線が走る。

それは弾道の予測。

直後、その線に従って、銃弾が発射される。

 

咄嗟に身を(よじ)り、美甘の銃撃を躱す。

 

「ハッ!よく避けやがる!ド至近距離でここまであたしの攻撃を躱しやがったヤツはお前が初めてだ!レイヴン!──だがなァ!!」

 

しかし、美甘はその小柄な体躯を活かし、私から距離を決して離さず、逃さない。

 

「この間合いであたしに勝てる奴なんざ、一人もいねぇ」

 

再び、私は至近距離での銃撃に晒される。

身を翻し、飛び退く。

頬や肩、手脚を銃弾が掠める。

それでも直撃は許さず、ダメージは軽微だ。

 

ちらりとゲーム開発部に視線を向ければ、アリスがその特大の鉄の塊を振り回していた。

 

「うわっと!危なー!」

 

アスナは咄嗟に飛び退き、アリスの鉄塊を躱す。

どうにか一瞬、アスナを引き離すことに成功したゲーム開発部は立て直す。

だが、そこに狙撃手の銃弾が襲い掛かる。

 

「きゃあっ!?」

 

直撃はしないが、その銃撃は地面を打ち砕き、四人を怯ませる。

 

「ねーねー“アカネ”、この子たちどうする?」

 

「リーダーが用があるみたいですが、この状況では致し方ありません。少し大人しくさせましょう」

 

アカネ、と呼ばれたメガネのメイドは、妖しくレンズを光らせる。

 

「りょーかい!それじゃあ、ちょっと悪いけど寝ててもらおうかな!」

 

再びアスナが動き出す。

だが、その速度はこれまで以上だ。

 

「スピード上げるね?」

 

だが再び、その前にアリスが立ちはだかる。

 

「させません!」

 

武器を盾代わりにして、アスナの銃撃を防ぎ、その背後からモモイたちが攻撃する。

だが、その何もが容易く潜り抜けられる。

 

[“イヴ!アリス!”]

 

突如、先生の声が届く。

 

[“パーティーチェンジだ!!”]

 

“パーティーチェンジ”という言葉、そして、それを私とアリスにだけ言った意味。

思考を巡らせ、そして、結論に至る。

今は信じるしかない。

先生と、そして、ゲーム開発部を。

 

「何か知らんがさせるかよ」

 

当然、美甘はその意味を理解出来ずとも、私たちの行動を止める為に攻めの手を強める。

 

──それでいい。

 

「はぁ!?」

 

私はあえて、美甘の攻撃を躱さずに、その身で受ける。

とは言っても、流石に全弾命中される訳にはいかないので、最小限に留める。

 

驚愕する美甘。

その先で、私は攻撃を受けた衝撃と、それを最小限に留める為の後退によって飛び退いた。

 

その近くには、同じくアスナの攻撃によって追い詰められたアリス。

背中合わせになるように、私たちは立つ。

 

「アリス、行けるか?」

 

「はい!やりましょう、イヴ!」

 

その直後、私たちは反転し、立ち位置を入れ替えた。

つまりは、私がアスナ、アリスが美甘へと向かう。

 

「えっ!?」

 

アリスを追い、迫って来ていたアスナは、私へと切り替わり、驚愕と困惑の表情を浮かべる。

 

「はっ!まさかそう来るとはな。だが、どのみち、あたし相手でもそのデカブツは──」

 

その一方で、アリスは銃を構えたまま、美甘を迎え撃つ。

だが、そのままではアリスが光弾を撃つ前に美甘に潰されてしまう。

 

だからこそ──。

 

「させないよっ!」

 

「アリスちゃん!お願い!」

 

「…やっちゃえ!」

 

モモイ、ミドリ、ユズが美甘を妨害する為に、攻撃する。

 

モモイの広範囲攻撃、ミドリの精密狙撃、ユズの範囲爆撃が、アリスを避け、美甘へと殺到する。

 

「チッ…だが、この程度!!」

 

美甘は弾幕の中を駆け抜ける。

例え、弾丸が掠めても、それをものともせずに。

 

一方で、私を相手取ることになったアスナは、咄嗟に飛び退いた。

アカネも警戒し、様子を窺っている。

 

その二人の間を通って、狙撃が飛んで来る。

とは言っても、端から当てる気がないのは分かっている。

余波に巻き込まれないようにしながら、私は右手のARでアスナを撃つ。

 

当然、私の攻撃は躱される。

反撃にアスナも私を攻撃するが、それを躱し、互いに膠着状態。

横のアカネが、私へと爆弾を投擲する。

銃弾が躱されるのであれば、爆弾の範囲攻撃でなら。

そういう考えだったのだろうが、私はその爆弾を蹴り返す。

──それと同時に、アスナが私に飛び掛かり、蹴りを繰り出して来た。

 

爆弾はデコイ。

本命は、アスナだった、ということだろう。

ここで、どうにかアスナの蹴りを躱したところで、その後隙の一瞬をあの褐色メイドの狙撃手は見逃さないだろう。

 

アスナの背後で、私が蹴り返した爆弾が爆ぜる。

アカネは巻き込まれたようだ。

アスナは、仲間を犠牲にしてでも、勝つことを優先した。

ここで私がアスナの攻撃を食らい、ダウンすれば、もうゲーム開発部だけではどうすることもできない。

だからこそ、アカネも自身を犠牲にしてでも仲間の勝利を優先した。

 

見事な覚悟、という他ない。

 

──これが無ければ、私は負けていたかもしれない。

 

“鴉の眼”を見開く。

アスナの蹴撃が、私の頭部を打ち据え、意識を刈り取る瞬前。

 

──重い銃声が轟く。

その出所は、私の左手のHG。

 

「──っあ…?え…?」

 

その直後、蹴りを放つ途中だったアスナは、上体を仰け反り、膝を突いていた。

アスナ自身、何が起こっているのか理解できないようで、膝を突いたまま、驚愕、困惑の表情を浮かべていた。

 

レンカ製のHGは特別製で、その一瞬の強い衝撃によって、相手の動きを止める。

その代わり、衝撃残留は一瞬で消えてしまうが。

普通に立っている相手や移動する程度の動きであれば、怯ませて足を止めさせる程度の効果は検証済みだ。

以前は《廃墟》の小型のスイーパーだった為に吹っ飛ばすだけに終わったが、その真価はどうやら、攻撃などの行動中の相手の行動を中断させ、体勢を崩させることにあるようだ。

 

その直後、私の右腕へと弾道の予測が線となって注がれる。

それは紛れもない、褐色メイドの狙撃手だろう。

例え、腕であっても、彼女の持っていた対物ライフルを受ければ、ただでは済まないだろう。

 

だが、視えている以上、軌道が読めているのであれば、回避は可能だ。

 

腕を上げ、狙撃の軌道から外す。

直後、腕の真下を銃弾が通り過ぎる。

そのまま、右手の銃をSGへと持ち替え、体勢を崩したアスナに散弾を浴びせ、吹き飛ばす。

 

美甘がアリスへと肉薄するのと、私がアスナを吹き飛ばしたのは同じタイミングだった。

 

「はっ!この距離じゃ照準は合わせらんねぇだろ!?」

 

美甘がアリスへと猛然と飛び掛かり、二丁の銃口を向ける。

アリスは銃を構え、その姿を真っ直ぐ、見据えている。

 

「照準が無くても山勘で当てるつもりか?それも悪くねぇ」

 

「魔力充填100%」

 

二人の銃口が火を噴くのは、同時だった。

 

「──光よ!!」

 

美甘の二丁のSMGから放たれた銃弾がアリスへと殺到し、対するアリスのレールガンの光弾は美甘──ではなく、床に向けて放たれた。

 

「!?」

 

美甘の表情が驚愕に変わる。

その直後、爆煙と粉塵によって、二つの影は掻き消された。

 

「アリスちゃん!うっ…煙で視界が…!」

 

その凄まじい威力の余波が暴風となって吹き荒れる。

解き放たれたエネルギーの余波は、天井の一部分までをも破壊し、崩落させる。

 

《廃墟》での戦闘の時点で、途轍もないエネルギーの潜在性は感じていた。

だが、まさかこれほどとは──。

エンジニア部製と言うだけで納得の威力だが、同時にそれを取り回すアリスの戦闘適性の高さも窺える。

アリス、やはり貴女は──。

 

「床がほぼ崩れて…見つけた、アリス!」

 

いまだ砂煙が舞い上がる中、特徴的なシルエットが浮かび上がる。

 

「ぅ…うぅ…こ、後退を…望みま…」

 

瓦礫の中からフラフラと歩いて来たアリスは、そのまま先生に倒れ込む。

 

「アリスちゃん!」

 

それを見たユズが悲痛な声を上げる。

 

[“大丈夫。気を失っただけだよ。私が背負うから”]

 

気を失ったアリスを先生が背負う。

 

「お願いします!」

 

「イヴさんは!?」

 

ゲーム開発部が撤退しようとする中、私は背中を向けたまま、肩越しに顔を向ける。

 

「私にはまだやることがある。先に行っててくれ」

 

「で、でも!」

 

ミドリとユズは、この場に残る私を案じているのだろう。

 

[“行くよ!ミドリ!ユズ!”]

 

「今はイヴさんを頼ろう!ミドリ!ユズ!」

 

そこに、先生とモモイが声をかけ、二人を連れていく。

 

ゲーム開発部が居なくなったところで、私は舞い上がる砂煙を見据え、その奥へと意識を向ける。

 

足音が聞こえる。

それは徐々に私に近付いて来ていた。

 

砂煙が晴れた先に立っていたのは、少し煤と砂に汚れただけの美甘の姿だった。

 

「良かったのか?この場に残って」

 

私たちは互いに一定の距離を維持したまま、向かい合う。

 

「私は依頼を受けてここに来た訳だから。その成否が分からない内は帰れないよ」

 

釣りではあったが、ヴェリタスは仲介役であり、真の依頼者はC&C──美甘ネルとなる訳だ。

釣りだろうと依頼は依頼。

その成否が確認できなければ、帰るわけにはいかない。

 

「はっ、変なところで真面目なヤツだ。それならこっちも報酬金でも払った方が良いか?」

 

真面目なのはどっちなんだか。

いや、お互い様と言うべきだろうか。

 

「それは別にいらない。それで今回の依頼、どうだった?満足した?」

 

私が訊ねると、美甘は真顔で黙り込む。

今回の依頼──というより、美甘の目的は、私と先生、ゲーム開発部について、興味が湧いて確かめたいことがあると言っていた。

それが果たされたのかどうか。

 

「そうかよ…まあ、目的は概ね達成した。それに、一通り暴れたらすっきりしたしな」

 

そう告げる美甘の表情は、その言葉に偽りがないことを示していた。

心からの晴れやかな表情をしていた。

それならば、こちらとしても甲斐があったというものだ。

 

「そう。それは良かった。じゃあ、改めて、依頼達成ってことで良いんだね?」

 

私が訊ねると、美甘は真剣な表情に戻る。

 

「ああ、それで構わねぇよ──だが、一つだけ言わせてもらうぜ」

 

鋭い、闘志が宿った視線が私に注がれる。

 

「今回は“引き分け”だ。こっちが勝ったとは言わねぇが…だが、負けたとも認めねぇ」

 

今回の戦いの勝敗についてか。

どちらかが全滅した訳でもなく、かと言って全員無傷という訳でもない。

私としては、勝敗などどうでも良いのだが…。

 

「──()()()()()()()()()()()()()、とか思ってんじゃねぇだろうな?あたしらC&Cはプロフェッショナルの集団。その中でもコールサイン《00(ダブルオー)》は絶対勝利の証だ。あたしは、勝敗に何よりも意味を求める。あたしにとって、勝利は誇りと矜持なんだよ」

 

・・・そういうことならば、どうでもいいとは言っていられないか。

それならば最低限、相対した好敵手として、敬意を払っておこう。

 

「分かった。それなら、その“引き分け”、敬意を以て、受け入れよう」

 

私の言葉に、美甘は好戦的な笑みを浮かべる。

 

「忘れんじゃねーぞ?いつかあんたとは、どっちがツエーか白黒はっきり付けるんだからな」

 

これはまた厄介な因縁を押し付けられたものだと内心で困り果てる。

いや、むしろ好都合か?

勝負と称して、歯応えのある的ができたと考えれば…。

 

「…望むところだ。その時が来るのを楽しみにしているよ」

 

私たちは互いに獰猛な笑みを向け合った。

その後、会話はなく、私は美甘に背を向けて歩き出した。

 

そのまま階段を降り、私は旧校舎を出るのだった。

 

****************************

 

イヴが立ち去った旧校舎で、ネルは呆然と立ち尽くしていた。

それは戦いの余韻に浸っていたのか、それとも今後のレイヴンとの戦いに胸を躍らせていたのか。

 

そこへ近付く、複数の影。

 

「…リーダー…」

 

C&Cの残る三人だった。

褐色の狙撃手、角楯(かくだて)カリンがネルに声をかけた。

 

「おーお前ら、カリンはいいとして、アカネとアスナはこっ酷くやられたな」

 

カリンは後方狙撃手故に、負傷はしていないが、アカネとアスナは互いに肩を貸し合わないと歩けない様子だった。

 

「…面目ありません、リーダー…」

 

アカネは申し訳なさそうに目を伏せ、顔を俯く。

 

「構いやしねぇよ。相手はあのレイヴンだ。そうなっちまうのも無理はねぇ」

 

ネルはむしろ、この程度で済んで良かったとさえ思っていた。

この程度で済んだ要因は恐らく、ゲーム開発部の存在だろう。

 

「あっはは!凄かったね、あの子!私、今でも足ガックガクだもん!」

 

アスナは特に酷く負傷した様子で、HGに加えて、SGを直に浴びている。

 

「ビックリしたなぁ。キックしようとしたら、あの子のハンドガンをお腹に受けて、気付いたら体勢崩れてるんだもん!ガクンって!」

 

行動を強制中断させる攻撃。

当然だが、攻撃中はある意味、最も無防備だ。

銃での射撃なら兎も角、近接攻撃は前後と最中も隙を晒していると言える。

その隙を突き、更には体勢まで崩させる攻撃。

随分と面白い攻撃を持っているとネルは内心で奮い立つ。

 

「笑いごとじゃありませんよ、アスナ先輩。ボロボロじゃないですか…」

 

アスナに肩を貸すアカネは、その底抜けの明るさに呆れ果てる。

 

「リーダー、この後はどうする?」

 

カリンの問いは即ち、追撃するか否かの選択だろう。

アスナとアカネは戦闘不能だが、ネルとカリンだけでも続行は可能だ。

それでも──。

 

「いや、今日はもう良い。戻る。“リオ”がゲーム開発部に興味を持つ理由も分かったしな」

 

目的は達成した。

レイヴンに告げたその言葉に、嘘は無い。

これ以上、彼らと戦う理由は、今日のところは無い。

 

「…そうか、分かった」

 

カリンも納得した様子で引き下がる。

 

「それにしても、アリスちゃんの攻撃でリーダーの姿が見えなくなった時は焦ったなー。リーダー、ちっちゃいからペシャンコに──」

 

「誰が小っちゃいってぇ!?」

 

「あっはは!でもこの通り、元気ピンピンで安心したよー!」

 

「ったく…まあいい、行くぞお前ら。撤収だ。さっさと終わらせて飯でも食いに行くぞ」

 

C&Cもまた、旧校舎を降りていく。

 

その最中、ネルは背後のメンバーの雑談を聞きながら、思考を巡らせる。

 

「…レイヴン、先生、それにゲーム開発部、か…」

 

レイヴンについては言わずもがな、ゲーム開発部もアリスを筆頭に潜在性を感じている。

だが、同時に先生についてもネルは興味を惹かれていた。

 

レイヴンとゲーム開発部が敗色濃厚な土壇場で、状況をひっくり返したのは他でもない、先生による指示だった。

 

「…噂は大袈裟じゃなかったみてぇだな…」

 

思えば、この旧校舎に至るまでの道中の戦闘でも、先生はゲーム開発部を状況に合わせて指揮し、上層のレイヴンの元にまで逃れた。

 

先生もまた、只者ではない存在感をひしひしと放っている。

 

「はっ」

 

だが、それらも結局のところは些事に過ぎないと笑い飛ばす。

 

「楽しみにしてろよ。あたしをチビ扱いした償い、絶対にさせてやっからな」

 

*****************************

 

旧校舎を出た後、すぐに先生に連絡し、ゲーム開発部──特にアリスの安否を確かめる。

 

思いの外、アリスはあっさりと回復し、既に会話が出来るようになっていた。

安堵しつつ、しっかり休むように言い聞かせると、今度はC&Cの話題へと移る。

 

あの後の顛末について問われ、私は普通に、戦闘はなく、依頼の後始末をしたとだけ告げた。

 

釈然としていない様子のモモイを除いたゲーム開発部の三人だったが、ひとまずは一件落着に落ち着いたということで納得させた。

 

通話を切り、端末をコートのポケットに仕舞う。

 

ミレニアムの敷地内を出口に向かって歩きながら、ふと空を見上げる。

色とりどりの星々が瞬く濃紺の夜空には、青とも緑とも付かぬ蒼の月が浮かんでいた。

 

《廃墟》の工場の深奥で眠っていた《アリス》。

そして、アリスがいた工場で私をイレギュラー(例外)と呼んだ正体不明のAIが探し出して欲しいと言っていた一方で、二度目の《廃墟》探索の終盤で《ゴリアテ》と共に現れた謎のAIが何者も近付かせないと言っていた《廃墟》に眠るという古代の遺産──《聖剣》。

 

ルビコンの技研都市並のパンドラの箱に思えてならないが、あの場所は一体なんなのか。

ルビコンでの経験から、とんでもない事件や異変の前触れのように感じるが、今はまだ、どうすることもできない。

 

以前のアビドスの鋼鉄の大蛇もそうだが、コーラルやエア以前に、キヴォトスはキヴォトスで、厄介事を秘めていそうな気配を感じてならない。

 

だが、何が現れようと関係ない。

私は私の“選択”に従って、戦い続けるだけだ。

コーラルだろうと、何だろうと、この世界で悲劇は起こさせない。

──絶対に。




パヴァーヌ一章編はゲーム開発部のお蔭か、あまり殺伐とせずに楽しく描けてとても良かったです

出来るならこのままゲーム開発部編で通したいくらいですが…
それでも他の章も魅力的で描きたいシーンがたくさんなので終わるのもやむなしって感じですね

次のパートが実質、エピローグです
原作に倣ってエピローグ表記じゃないですけどね
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