原作に倣って、エピローグだけどエピローグ表記にしていませんが、そういうもんだと思って頂ければと思います!
C&Cとの激闘から数日後。
私は再びミレニアムを訪れていた。
場所はゲーム開発部だ。
だが、そこに行く前に、私はユウカと遭遇した。
「あ、イヴさん、こんにちは。今日はどうしたの?」
「こんにちは、ユウカ。聞いたよ、ゲーム開発部がミレニアムプライスで受賞したって」
その日は珍しく入った依頼で立ち会うことは出来なかったが、後から先生にゲーム開発部の結果を聞いた。
ゲーム開発部の《テイルズ・サガ・クロニクル2》は、残念ながら大賞や上位入賞を果たすことは出来なかった。
それでも、特別賞を授与され、晴れてゲーム開発部は、存続を許されたのだと。
「耳が早いわね」
「四つ付いてるからな」
そう言って私は犬耳と人耳をそれぞれ指差す。
「そーゆー意味じゃないわよ」
だが、ユウカには不評で冷めた視線を向けられる。
おかしいな…シロコ相手にやった時は良いと思う、とサムズアップ付きで太鼓判を押されたのだが…。
「まあでも、ユウカも一安心じゃないか?ゲーム開発部が続いてくれて」
私がそう言うと、ユウカは不機嫌そうに眉根を潜め、腕を組む。
「そんな事ないわよ。相変わらずここ数日でやりたい放題だし、好き勝手にされてこっちは良い迷惑よ。でも──」
だが、ユウカはすぐに穏やかな微笑みへと表情を変えた。
「あの子たちが悲しむ顔を見ずに済んだことはまあ、良かったかもね」
相変わらず、憎まれ口を叩きながらも、性根はまるでやんちゃな子供を宥める母親のようだ。
もしくは、歳の離れた妹の面倒を見る姉か。
「…相変わらず、ユウカは甘いな」
小さく溢すと、ユウカの耳に届いたようで、頬を赤ながらも再び眉根を
寄せ、不満そうに頬を膨らませた。
「なっ、そんなことないわよ!言っておきますけど、ゲーム開発部を認めたのだって、一時的なものに過ぎないんだから!いつでもあの子たちは廃部の危機に瀕しているんですからねっ!!」
必死になって否定するユウカの地獄耳に、これ以上変に呟いて絡まれたら厄介だ。
この場はお暇することにする。
「あっ!今、私のこと面倒って思いました!?」
おっと、これは本当に面倒なことになりそうだ。
早く逃げなくては。
「イヴさ〜ん!?」
ユウカに追いかけ回されながらも、私は遠回りをしてゲーム開発部へと向かうのだった。
****************************
どうにかユウカを振り切り、私はゲーム開発部に辿り着いた。
思いの外、ユウカの追跡はしつこく、後半は向こうも躍起になっている様子だったが、なんとか逃げ仰ることができた。
次にまた会った時に、今日のことで何か小言でも言われそうだが、それはさておき。
「イヴさん!いらっしゃい!」
事前に連絡していたこともあって、モモイが出迎えてくれた。
「こんにちは、イヴさん」
「イヴさん、こんにちは…」
「イヴ!こんにちはです!」
ミドリ、ユズ、アリスも変わらない様子だ。
と言っても、意外と私は、この部室で四人全員に出迎えられたのは初めてだったりするのだが。
四人は思い思いに部室で寛いでいたようで、テレビ画面には一時停止中のゲームが映っていたり、テーブルには菓子の袋が広がったりしている。
因みに、この場に先生はいないが、先生は仕事が立て込んでシャーレに留守番だ。
「みんな、聞いたよ。ミレニアムプライスで受賞したって。おめでとう」
私の言葉に、モモイは当然とでも言いたげに胸を張り、ミドリは素直に喜び、ユズは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにし、アリスは満面の笑顔を向けてきた。
「はい!アリス、これからもみんなと一緒にいられて、嬉しいです!」
ゲーム開発部の廃部は即ち、この部室からの退去であり、それは恐らく、このメンバーの解散を表していたのだろう。
会おうとすれば会えるのかもしれないが、きっとそれは違う。
ユウカも、それを危惧していたのかもしれない。
四人それぞれが別々の場所になっても、会って笑うことは出来る。
それでもきっと、それは心からの笑いではなく、心の何処かにはずっと後悔がしこりのように残り続ける。
アビドスの対策委員会の五人が、あの学校に拘ったように、この四人もまた、この部室とゲーム開発部という名前が、彼女たち四人にとっての“居場所”だったんだろう。
この四人は、自分たちの“居場所”を守り抜いた。
そして、きっとこれからも守り続けるのだろう。
この部室と、ゲーム開発部というものを。
私は自然と、満面のアリスの頭を撫でていた。
すると、アリスは不思議そうな顔で首を傾げた。
「イヴ?どうしました?」
アリスに声をかけられて我に返った私は、思考を切り替える。
折角、めでたい時だというのに、センチメンタルな気分になってしまっていた。
「いや、何でもない」
最後にアリスの頭をぽんぽんと叩き、手を離す。
その手を突然、アリスに掴まれた。
「アリス?」
色白な私の手を更に白く小さなアリスの両手が包む。
「大丈夫ですよ、イヴ。あなたは、“独り”じゃありません。なんと言っても、私たちの“仲間”なんですから!」
唐突なアリスの言葉に、私は面食らってしまう。
「…ありがとう、アリス」
その言葉だけで、私は救われる。
戦う意志を奮い立たせることができる。
それと、ごめんなさい。
貴女を私は、危険性のある兵器だという可能性を抱いていた。
そんなことはない。
世界を滅ぼす魔王のような存在ではない。
アリスはきっと、勇者のような、多くの人々を助け、救い、勇気を与える者になるはずだ。
魔王のような、世界を破滅に導く存在がいるとすれば。
『これは警告だ、イヴ。“力”に呑まれるな。目的を見失い、戦いに酔えば、お前の力は、お前自身だけでなく、この世に破滅を齎す。そうなれば、この世界は火の海だ』
『…くれぐれも忘れるな。そして、注意しろ。お前を“死”に
きっとそれは──。
「あっそうだー!イヴさん、テイルズ・サガ・クロニクル2はプレイしてくれたー?」
私を現実に引き戻してくれたのはモモイの声だった。
「ああ、勿論。カオスな世界観だったけど、新鮮で中々、楽しかったよ。受賞するのも頷ける作りだった」
ゲーム開発部の作ったゲームは、仕事を終わらせてすぐに、シャーレのPCを借りてプレイした。
モモイらしい混沌としながらも、どこか魅力的な世界観と勢いのあるストーリー、ミドリの描いた可愛らしいドット絵、ユズのプログラミングによる精細なシステム周り、そしてアリスが何度もテストプレイを重ねて改良していったのであろう努力を感じられるゲームだった。
このゲームがどれほどの出来であるのか、普段、ゲームをしない私には分からないが、それでも、何か芯に訴えかけるような快作だったように思える。
少なくとも、私にとっては、良いゲームだったと思う。
私が感想を伝えると、四人それぞれが思い思いに喜んでいた。
「私は是非とも、新作がプレイしたくなったよ?モモイディレクター?それとも、ユズプロデューサーに言った方が良かったかな?」
私の揶揄い半分の言葉に、二人は嬉しそうに目を見開く。
「私が…ディレクター!?」
「わたしが…プロデューサー…!」
自身の役職名を反芻し、噛み締める二人。
「せっかく、ファンが待っているんだから、新しく企画進めないとね?モモイディレクター?」
ミドリがそれを上手く使ってモモイを追い詰める。
「うぐっ!?」
モモイはバツが悪そうに言葉に詰まる。
どうやら新作は遠そうだ。
「アリスも!アリスも何かジョブが欲しいです!」
こっちはこっちで、精神年齢に見合った駄々をこねるアリス。
「アリス…役職には責任が伴うの…アリスは責任を持てる?」
そんなアリスをユズが優しく諭していた。
「うっ…責任…アリスの苦手な言葉です…」
アリスは頭を抱えてしゃがみ込む。
「うぅ…ユズがなんだか大人に見えてきました…」
「えへへ…先輩らしいところ、見せられたかな…」
ユズは珍しく自慢げだ。
そんなある意味でゲーム開発部らしい、混沌とした空間の中で、私はこの場所に訪れた当初の目的に立ち返る。
「ところでゲーム開発部のみんな、私が今日、ここに来た用件なんだけど、みんなにご褒美をあげたいんだ」
“ご褒美”、という言葉を聞いた四人が目を輝かせる。
「うおぉぉぉぉっ!何何!?新型ゲーム機!?話題の人気ソフト!?」
「こら!お姉ちゃん!ハードル上げない!そして乞食しない!」
すまない、モモイ。
そんな高価なものじゃないんだ…。
「それでみんなはこの後──」
そこで私は、アリスが視界に入り、改めて気付く。
はた、と私は思い至り、すっかり失念していたことを思い出した。
「モモイ、ミドリ、ユズ、ちょっと来てくれ」
アリスを除いた三人を呼び、アリスに背を向けるように並ぶ。
「え?えっ!?急にどうしたんですか、イヴ?アリスだけ仲間外れは嫌です!アリスもパーティーに入れて下さい!!」
涙目で懇願するアリスの姿に凄まじい罪悪感と苦痛を感じながらも、どうにか堪える。
「ごめん、アリス!少しだけ待ってて!すぐに終わるから!」
「…はい、分かりました…」
アリスは渋々、といった様子で俯いたまま、受け入れた。
アリスの為にも、早急にこの状況を解決しなくてはいけない。
「それでどうしたんですか?急に…」
「こうやって話すってことは、何かアリスちゃんに聞かれたらマズいことなんですか…?」
察しの良いユズの言葉に、私は頷く。
この条件をクリアしなければ、せっかくの私の彼女たちへのご褒美が崩れ去ることになる。
「三人に聞きたい──」
私は意を決して、三人に訊ねた。
「アリスって、食事はどうしてるの?」
私の問いに、三人はキョトンとした表情を浮かべた後──。
「あはははっ!なーんだ!そんな事かぁ!」
モモイには笑われ、
「あー、まあ、普通はそうなりますよね…」
ミドリには納得して貰い、
「わ、分かります…!わたしも最初は同じでしたから!」
ユズには共感された。
「???」
因みに、蚊帳の外のアリスはこの光景を見て、困惑の表情だ。
「はー、笑った笑ったー。えーと…あ、あったあった」
すると、ひとしきり笑いこけたモモイが立ち上がり、部室内のテーブルに近付く。
そこに散らばる菓子の中から、スティック状の菓子を一本、手に取り、アリスに近付いた。
「アリス、はい、あ〜ん」
「えっ?えっ?これはどういう状況ですか?」
「良いから良いから。はい、アリス、あ〜ん」
「あ〜…はむっ」
アリスはそのまま、菓子をぽりぽりと小さな口で咀嚼し、飲み込み、首を傾げた。
だが、私は一連の行動で答えを得ていた。
「イヴさん、アリスはこの通り、私たちと同じものを食べれるよ」
そして、それをモモイが直接、口頭で説明してくれた。
「…実演ありがとう、モモイ…」
どうやら、私の心配は杞憂だったらしい。
私は先入観で、アリスがロボットだからと、そのエネルギーは特別なものだと考えていた。
いや、エネルギー源そのものは変わらず、その可能性があるが、少なくとも、アリスも私たちと同じものを摂取することができることが分かっただけで十分だ。
「アリスちゃん、はい、あ〜ん」
「アリスちゃん、わたしのも…あ〜ん」
先程のモモイの行動に触発されたのか、いつの間にやらアリスの餌付けが行われていた。
「ミドリ?ユズ?どうしたんですか、いきなり?」
左右からミドリとユズがアリスの口元に菓子を運ぶ。
その二人は何やら様子がおかしい。
アリスは二人に挟まれながら、困惑していた。
「うわーん!イヴ!二人が“混乱”のデバフに掛かってしまいましたー!助けてくださいー!」
二人の状態はどちらかと言えば“魅了”のデバフに近いと思うのだが、それはさておき。
私が救いを求めるアリスを救出すると、二人の状態異常は解除された。
「それでイヴさん、私たちへのご褒美って?」
モモイがアリス達に一切、無関心で私に問いかける。
今の一連の混乱の元凶なのだが、私としてはそれに助けられた事もあり、一概に否定できない。
「ああ、うん、みんな──」
「ちょっと遠くに、美味しいものでも、食べに行かない?」
****************************
そうして、私たちは電車に乗り、ある場所へと向かった。
アリスはミレニアムの外は《廃墟》を除いて初めてであり、見るもの全てに目を輝かせていた。
ユズも不慣れな様子で、覚束ない足取りだったが、意外にもモモイとミドリが小慣れた様子で助けていた。
目的地最寄りの駅に降りた私たち四人は、そのまま市街地に出て、徒歩でその場所へと向かう。
「うわぁ〜、私、この辺まで来たの初めてかも!ねっ、ミドリ!」
周囲の繁華街を見渡しながら、感心したようにモモイは話しかける。
「うん、そうだね。普段はあんまり…というか殆んど、ミレニアム自治区から出ないもんね」
私たちは今、ミレニアムとは違う自治区に訪れている。
「二人も初めての場所なんだ…な、なんだか緊張するかも…」
ユズは目新しい場所で不安そうにしながらも、好奇心を帯びた視線を辺りに行き交わせる。
「パンパカパーン!アリス達は新マップを開放しましたー!えーと、この場所の名前は…?」
何だっけ?、とでも言う風に首を傾げるアリスに、私はこの自治区の名前を教えた。
「
私が案内していたのは、アビドスだった。
「ここがアビドスかぁ〜、なんかどの建物も新しくて綺麗だね!」
久々に訪れたアビドスは、先のカイザーPMC兵器襲撃異変の影響から、すっかり復興していた。
モモイが新しいと言う建物も、破壊されたものから修復、或いは立て直したものなのだろう。
「あ、そう言えば、アビドスって少し前に何か事件があったような…」
ミドリが思い出せそうで思い出せないといった風に唸る。
元理事の不祥事や指名手配に関するものは、連日、ニュースでも取り上げられていたように思える。
兵器襲撃異変についても、少なからず、ニュースに取り立たされていたはずだ。
「うん、カイザーコーポレーション関係の軍事会社だったかな?そこの偉い人が不祥事で指名手配になったり、あと兵器が市街地を襲ったりしてたみたい。SNSで一時期、すごい話題になってた…」
ミドリが抱いた疑問をユズが解消する。
なるほど、SNSか。
人の口に戸は立てられないというように、SNSでの情報の広がりも、容易く止められるものではない。
カイザーの慎重な立ち回りも、それを危険視してのことだったのだろう。
有る事無い事を広められ、火を熾されては堪ったものではないと。
「あ、もしかして、イヴさんも関わってたりする!?」
モモイが興味津々といった様子で詰め寄って来る。
「さて、どうだったかな?」
私はそれを適当にはぐらかす。
「あー!その反応、何か知ってるでしょー!?」
私は何も言わずに、そよ風のようにモモイを受け流す。
「まぁ、イヴさんはシャーレの関係者だしね…」
「うん、間違いなく、事件の渦中に関わってるよね…」
ミドリとユズは一歩引いた場所から冷静に分析していた。
「アリス知ってます!陰謀渦巻く事件に下手に首を突っ込んだ人間は消されます!『知られてしまったのなら仕方ない。お前には消えてもらう…』、です!モモイも消されちゃいます!」
アリスの言葉を受け、駄々をこねていたモモイが止まる。
「そういうことだ、モモイ。もしモモイが余計なことを知ってしまったら、私はモモイを消さなきゃいけなくなる」
更に私が追い討ちをかける。
冗談交じりであり、決してそんなことはないのだが、一応、念の為だ。
私が脅すと、モモイはすっかり大人しくなった。
「さて、そろそろ目的地に到着だな」
私の視線の先には、既に目的地が見えている。
「確か、美味しいもの、でしたよね?それって…あっ」
「なんだか美味しそうな良い匂いがします!」
「これって…ラーメン?」
ミドリ、アリス、ユズが答えに辿り着き、私は満を持して、ネタバラシをする。
「そう。私のお気に入りなんだ。みんなの口にも合ってくれるといいんだけどね」
私は四人を引き連れ、その店──ラーメン屋台に近付く。
「屋台!?すっごい本格的じゃん!」
復活したモモイが涎を垂らしながら目を輝かせた。
その様子に思わず口元が緩む。
私は暖簾を上げ、カウンターの奥に立っていた犬の獣人に声をかけた。
「柴大将、こんにちは。また来たよ」
私が声を掛けると、この屋台の店主、柴大将は快活に笑って出迎えてくれた。
この屋台は、柴関ラーメンの屋台だった。
「おぉ!イヴちゃん!また来てくれたのか!いらっしゃい!」
「悪いね。もっと頻繁に来たいんだけど、中々、タイミングが…」
「良いってことよ!またこうして来てくれたんだからな!今日は一人…じゃなさそうだな?他校の生徒さん達かい?」
私の後ろに立っている四人の気配を察してだろう。
柴大将が訊ねる。
「まぁね。ミレニアムで会った子たちなんだけど、ここの美味しさを広めたくて。何せ、柴関ラーメンのラーメンは絶品だから!」
「くぅ〜!嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!こいつぁ、いつも以上に気合い入れて作んねぇとだなぁ!」
柴大将は腕を捲り、気合いを入れる。
久々の柴関ラーメン、楽しみで仕方ない。
「そんでイヴちゃん、何名様だい?」
「私含めて五人で。そう言えばセリカは居ないのか?」
屋台の周辺を見渡すが、バイト服姿のセリカは見当たらない。
「あぁ〜セリカちゃんは今日は夕方からのシフトなんだよ。悪いな」
そういう事なら仕方ない。
私達は屋台横のテーブル席に案内された。
そこの三人掛けの長椅子に、モモイとミドリ、ユズと私とアリスという組み合わせで座る。
「あ、あの…イヴさん、もし良かったら隣に座ってくれませんか…?」
私がユズとアリスに挟まれた形になっているのは、ユズからの懇願によるものだ。
「あ、それなら私もイヴの隣に座ります!ユズと一緒にイヴをサンドイッチです!」
アリスは完全に便乗によるものだが。
「随分とまぁ可愛らしいお客さん達だな!イヴちゃん!」
モモイたちの姿を見て、柴大将は快活に笑う。
「可愛らしいだなんてそんな…えへ、えへへへへ…」
「お姉ちゃん…」
褒められてだらしなく笑うモモイに、ミドリは冷めた視線を向ける。
ユズは人見知りを発揮し、横で縮こまっていた。
「アリス、インスタントやカップのラーメンは食べましたが、お店のラーメンは初めてです!楽しみです!」
アリスにとっては、この空間の全てが目新しく、新鮮なのだろう。
とても楽しそうにしていた。
その後、私たちは各々、メニューを眺めて気になる品を選び、注文する。
「あいよぉ!注文、承ったぜぇ!少々、待ってくれよな!!」
柴大将は気合いを迸らせ、屋台へと引っ込んでいった。
注文した品が届くまで、雑談をしながら時間を潰す。
そんな中──。
「おっ!ここだここ!よぉ、大将!また来たぜ!」
「わぁ〜お、すっごくいい匂い〜」
「おぉ!この間の!今日は大人数だねぇ!」
「おうよ!ここのラーメンが気に入っちまってな!こいつらにも食わしてやりたいと思ってよ!」
「そいつは粋だねぇ!ちょっと待ってな!席に案内するからよ!」
どうやら他の客が来たようだ。
だが、その客の声に、どこかで聞いた覚えがあった。
そっと振り向く。
「あ」
視線がぶつかる。
「あん?」
そこには見知った顔があった。
「テメェは…レイヴン…!」
「美甘ネル…」
C&Cの美甘ネル、そして、そのメンバーたちが勢揃いしていた。
因みに、以前のようなメイド服姿ではなく、制服姿だ。
「あっ、レイヴンやほやほ〜。あっ、ゲーム開発部のみんなもいるじゃん!こんにちは!」
アスナと呼ばれていた少女は気さくに挨拶するが、当の四人は完全に面食らっている。
「な、なんでここにC&Cがいるの!?」
「私だって知らないよ!」
モモイとミドリはまだ大丈夫そうだが、ユズと、そして特にアリスは、すっかり怯え切って左右から私にしがみ付いている。
まさかこんな場所で出会うことになるとは…。
私は溜め息混じりに言葉を返す。
「今はプライベートだからレイヴンじゃなく、本名の渡鳥イヴで呼んでくれ」
「そうでしたか、これはすみません。イヴさん、そしてゲーム開発部の皆さん、こんにちは」
アカネと呼ばれていた眼鏡の少女が丁寧に言い直し、それに四人もおずおずと頭を下げる。
「あーっと…ここのみんな、知り合いなのかい?」
「知り合い、というか、なんというべきか…」
褐色の少女が、どう表現するべきか言葉に悩む。
因縁浅からぬ仲、というべきだろうが、それを無関係の柴大将に言ったところで…。
ひとまず、C&Cメンバーも席に着き、柴大将は屋台の方へと引っ込む。
私たちのテーブルと向こうのテーブルは隣り合わせの位置関係だ。
気まずい沈黙が流れる。
だが、その沈黙は破られる。
意外にも、美甘ネルによって。
「あ〜、チビども、まぁ、なんだ。あたしらも今日は見ての通り、完全にプライベートだ。今日のところは、何かする気はねぇ。あたしが言うのもなんだが、取って食う訳でもねぇし、そんな警戒して怖がんな」
言葉遣いは相変わらずガサツだが、四人に歩み寄ろうとする気持ちは私でも理解できる。
「ここのラーメンは本当にうめぇんだよ。だから、そんな怖がってたら、美味いもんも楽しめねぇ。過去のことは水に流せ、とまでは言わねぇが、せめて今は、この店のラーメンを楽しもうぜ?」
そう言って、美甘はぎこちないながらも笑顔を向ける。
その顔を見て、四人から怯えの様子が和らぐ。
「よく言えました〜!リーダーは偉いでちゅね〜!」
「茶化すんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!?」
「リーダー、そんなことを言っていたらまたあの子たちが怖がる」
「誰のせいだ誰の!?」
そんなC&Cのやり取りをモモイ達は物珍しそうに眺めていた。
「意外と…そんな怖い人達じゃないのかも?」
「うん…なんか、ちょっと親しみやすさも覚えるような…」
モモイとミドリは大丈夫そうだ。
ユズは…人見知りが相乗効果となっているだけで、初対面で面と向かって欺くだけあって、それほど恐怖は大きい訳ではなさそうだ。
一方でアリスは、美甘が完全にトラウマになってしまっているようだ。
先程までの震えるほどの怯えは感じさせないが、その表情からは不安を覗かせている。
「取り敢えず、事情はだいたい見えたぜ!」
そこに現れたのは柴大将。
「柴大将?」
「仲良くなるにゃあ、美味いもんを一緒に食うのが一番よ!同じ釜の飯じゃねぇけどよ、一緒に飯を食えば、互いに見えてくるモンもあらぁ!そっちの小っちゃい嬢ちゃん!」
「誰が小っちゃいってぇ!?」
「すみません、大将。ウチのリーダーに『小っちゃい』、『チビ』、『背が低い』はNGなんです。申し訳ありません」
「アカネてめぇわざと言ってねぇだろうなぁ!?」
「おぉ!そいつは悪かった!許してくれ!」
「チッ、しゃーねぇ、美味いラーメンに免じて許してやるよ」
「そいつぁ、ありがてぇ!そんじゃ、机、くっ付けてくれ!すぐに作って持って来るからよぉ!!」
その後、隣同士のテーブルを合わせ、席を近付けた私とゲーム開発部は、C&Cと共に柴大将のラーメンに舌鼓を打った。
その間、思いの外、モモイが美甘に絡みに行き、それに便乗する形でミドリも美甘と言葉を交わしていた。
ユズとアリスは自分からは声をかけられない様子だったが、アスナとアカネ、そして、カリンが積極的に話しかけ、たじたじになりながらも交友を深めた。
食べ終わり、屋台を離れる頃には、最初の険悪な雰囲気はすっかり払拭されていた。
C&Cのメンバーと別れ、帰路に着く。
その電車の中、私はゲーム開発部の四人に訊ねる。
「今日はどうだった?」
「柴大将のラーメンは美味しかったし、C&Cの人たちとも仲良くなれて良かった!ネル先輩、ボケるとめっちゃ面白かったよー!」
「そんなこと言ってるとまた怒られるよー?…私もすごく楽しかったです。C&Cの人たちと会った時はびっくりしましたけど…。連れて来てくれてありがとうございます、イヴさん」
「わたしも、こうしてイヴさんと、みんなとちょっとした日帰り旅行みたいで楽しかったです。ラーメンも美味しかったですし、C&Cの人たちも思ってたより怖くなかったです」
「ミレニアムの外は知らないことだらけでびっくりの連続でした!いっぱい実績トロフィーを解除できた気がします!C&C遭遇イベントは怖かったですけど…でも皆さんとフレンド登録できたので良かったです!ラーメンも美味しかったので、また連れて来てください、イヴ!」
思わぬアクシデントもあったが、みんなに喜んでもらえて良かった。
・・・私が、こうして誰かに何かを施したり、与えたりすることはかなり珍しいと自分でも思っている。
何かを与えられ、そのお返し、或いは償いをすることはあっても、最初から私自身が何かをするようなことは、滅多になかった。
けれど、こうしてゲーム開発部の四人に、私はご褒美という形で今日、様々な体験をさせてあげることができた。
最初は、ただラーメンを一緒に食べて帰ってくるだけだったのだが、C&Cのお蔭で、良くも悪くも、強い印象を残すことが出来たようだ。
四人の恐怖の払拭に一役買ってくれた柴大将にも、後で感謝を伝えるとしよう。
「私も、変われるのかな…このキヴォトスで…戦うだけじゃなく、誰かに何かを与えられるような…そんな風になれるのかな…」
ふと、四人に視線を向ければ、仲睦まじく、寄り添って寝ていた。
自然と、口元に笑みが浮かぶ。
夕暮れ時の陽が差し込む電車の中、私はそんな四人を見守りながら、ミレニアムへの到着を待ち、外の景色を眺めるのだった。
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ミレニアムの《廃墟》。
キヴォトスのあらゆる時代の忘れ去られたものが集まり、地層のように積み重なった領域。
──その奥深く。
深い深い、地の底。
廃墟を超えて遺跡が眠っている区画。
しかし、その場所は、大きく天井が崩れ、昇ったばかりの月の光が差し込んでいた。
建物の残骸が散乱しつつも、開けた広大な空間。
その奥に、台座が鎮座し、そこには古びた剣のようなモノが突き立っていた。
月明かりが降り注ぐ中、《聖剣》はただ、静かに待つ。
選ばれし担い手を──。
書きたいものを好きなだけ詰め込んだら文字数が過去最長になってしまったぜ…。
でも後悔はしていない。
如何でしたでしょうか?
これにて、全体的に見ての第二章、パヴァーヌ編は、
まとめのFileシリーズを挟んで、次回からはいよいよ、第三章、エデン条約編へと突入します
こちらは恐らく、話数が過去最長になるかと思いますが、どうかお付き合いくださればと思います
次からの更新も気長にお待ち下さい
それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました
また、次のお話でお会いしましょう!