セイアと夢の中でお茶会
前のページでミカの苗字を“聖園”ではなく“美園”と表記していたことをここにお詫び申し上げます…
なーんか違和感あると思っていたんですが、その理由が氷解しました!
速攻で直しました
せめて生徒の名前は間違えないようにしないと…
『シャーレ直属特務戦闘員、レイヴン。
お久しぶりです。ゲヘナ風紀委員会、
今回は、多忙なヒナ委員長の補佐の為に席を外しているアコ行政官に代わって、私の方から、風紀委員会を代表し、貴女に依頼したい内容があります。
今後も、アコ行政官に代わって私が貴女への窓口を務めることが多々、あると思いますが、どうかご理解ください。
早速、依頼内容に移りたいと思います。
目標は、ゲヘナ自治区内でデモ活動を起こしている過激派生徒たちと、それに便乗する形で暴れ回るヘルメット団の鎮圧です。
エデン条約が差し迫り、どうしてもそういったものを受け入れられない血の気の多い人達は出て来てしまいます。
しかし、そういった不穏分子の台頭を許せば、肝心な時に、最悪なタイミングで思わぬ障害になりかねません。
貴女には、この不穏の芽を摘んで頂きたいのです。
風紀委員会からは斬り込み隊長であるイオリが出撃します。
彼女と連携を取り、迅速に目的を達成してください。
内容は以上です。
エデン条約が目前となった今、この依頼はその締結の成否にも関わる重要案件です。
確実な遂行をどうかよろしくお願いします。』
ゲヘナ風紀委員会からの依頼。
エデン条約が間近に迫っているからか、すっかり鳴いていた閑古鳥は飛び立ち、毎日のようにこのような鎮圧、制圧依頼が舞い込むようになった。
だが、その一方で、同じくエデン条約を控えている当事者であるトリニティからは、こうした依頼は今のところ確認できていない。
一応、トリニティに於いても、ゲヘナの風紀委員会のような《正義実現委員会》や、それに加えて《自警団》も存在している。
それらで対処できているということであれば納得はできる。
トリニティはゲヘナ程、治安が悪い訳でもないだろうし。
何はともあれ、届かないのであれば私が勝手に杞憂して気を揉むこともないだろう。
私は私の仕事を熟せばいい。
朝食を取り、歯磨きを済ませ、後はいつでも出発できるというところで、私は地下室へと向かう。
地下室──つまりは、レンカの元へと。
工房兼研究室兼実験場という役割を与えられた地下室は、コンクリートや重い金属製の扉など、非常に無機質で重苦しい雰囲気を漂わせている。
私自身は既に慣れたものだが、それでもこんな空間にずっといれば気が滅入ってしまうかもしれない。
そんな中でずっと機械や武器と向き合い、日々を過ごすレンカはやはり、異常者に違いないだろう。
まあ、異常者だろうと武器を作ってくれるのであれば、私としては何でもいいし、どうでもいいのだが。
研究室への扉を開くと、その先でレンカは椅子にもたれかかり、ぐったりと俯いていた。
ほんの一瞬、ヒヤッとするが、直後、頭上に彼女のヘイローが浮かび上がる。
「…ぁあ…イヴさん…おはようございます…お待ちしていましたよぉ…」
仮眠を取っていたのだろうが、それでも消えないクマが浮かび上がった表情で目を見開き、口角を吊り上げ、まるで見下ろすかのように仰け反る。
おそらく、初見の人間が見れば度肝を抜かれるような表情だろうが、私はもう既に慣れてしまった。
向こうも別に驚かせるつもりもないだろう。
研究室内の作業台の上には、一丁の銃が置かれていた。
銀色のフレームから構成されたアサルトライフルだ。
以前まで、風紀委員会からの代用品で繋いでいたものが、ついに完成した。
「ご要望通りに調整してあります。試射が必要ですか?」
銃そのものは、少し前に組み立て終わっていた。
それでも、私に合わせた微調整の為に、今朝まで時間を要した。
風紀委員会に借りていた銃は、既に清掃、メンテナンスを施した上で返却済みだ。
「ああ、頼む」
私は試し打ちの為に、実験場を借りる。
実験場には、無数の的が用意されていた。
その的へ、新しいARの銃撃を試す。
実験場の入口で、レンカは壁に背を預け、腕を組んで、その様子を眺めつつ、新しいARについて説明する。
「イヴさんの要望通り、威力を極力抑えつつ、有効射程距離を伸ばした調整にしてあります。射程距離そのものは変わりありませんが、十分な銃撃の威力を保証できる距離は伸びた…といったところですね。あぁ、それから、例の機能も着いてますよ。操作は以前、教えた通りに」
私はその機能を試す。
そうして放たれた銃撃は、先程よりも速くなっていた。
「《速射機能》、ですね。秒間当たりの発射数を増やして速く撃っているように
速射機能付きのAR。
それが私がレンカに依頼した、新しいARだった。
その速射機能とは、二発撃つ間に四発、四発撃つ間に八発撃つようなイメージで頼んだ。
そして、それは思い通りに完成した。
レンカの言った通り、威力よりも取り回しの良さを優先した。
どの道、火力に関してはショットガンやスナイパーライフルで十分に補える。
ARは起点だ。
SGの起点がHGであるように、ARもまた、その後に続く攻撃の重要な布石なのだ。
新しいARを携え、私はレンカに向き直る。
「改めて、ありがとう、レンカ」
私が感謝を告げると、レンカは面食らったように唖然とする。
「…別に構いませんよ。私もここでは好き勝手させて貰っていますし。貴女の武器を作ることが、私の仕事ですから」
驚いた表情から穏やかな微笑みへと顔を変え、レンカはそう告げた。
「それでも言わせて。感謝は、言わなきゃ伝わらないから」
私が戦えるのは、彼女という存在だけではないにしても、それでも彼女という要因も大きな割合を占める。
「…そういうことなら有り難く受け取っておきましょう」
私たちは実験場から研究室へと移動した。
ひとまず、これで私の用件は済んだ。
「あ、そうだ。イヴさん、何か他に作って欲しいものとかあります?」
正直に言ってしまうと、今のところは無い。
現状、武器は腰の左右のSGとAR、背中のSRに、懐のHGと、大方、埋まってしまっている。
これ以上、武装を増やしたところで、逆に効率が落ちてしまう。
それならば、どこかの武器と交換して運用するような武器を作ってもらうか。
だが、私の戦闘スタイルからして、残り使える武器と言ったらサブマシンガンくらいだ。
他の武器…例えば、マシンガンやロケットランチャーでは、私の機動力が下がってしまう。
それなら正直、今の武装で充分だと思ってしまう。
「…今のところは大丈夫かな。とりあえず、手榴弾は今後もよろしく」
手榴弾は牽制、追撃に非常に便利だ。
今後も使っていくことになるだろう。
「分かりましたー。あ、そうだ。手榴弾で思い出した」
するとレンカは、奥の工房に引っ込み、暫くすると何かの箱を二つほど持ってきた。
「イヴさん、もし良かったら、これ使って感想聞かせて貰えません?まあ、持って行ける手榴弾の数を食っちゃいますけど」
とりあえず私はレンカが持ってきたものの説明を受けつつ、受け取った。
「それでは!しばらくは自由に好きなものを作って良いということで!よろしいんですよね!?」
両眼を爛々と輝かせ、頬を紅潮させ、口の端から涎を垂らしながら騒ぎ立てる。
普段から自由に好きなものを作っているだろうに…。
「家を壊さない程度の加減はしろよ?」
さすがに、レンカも家が無くなっては困ってしまうだろうから、そんな極端には走らないと思うが、念の為。
「分かってますよぉ〜!──イヴさん」
今度こそ研究室を出ようというところで、レンカが先程までの態度を改め、神妙な様子で声をかけてきた。
「《エデン条約》、近付いているんですよね?」
幾ら地下室に籠っているとは言え、ある程度は情勢を把握しているようだ。
「…そうだね」
最近、風紀委員会からの依頼で、帰りが遅くなることもしばしば。
そこから察しているのやもしれない。
「気を付けてくださいね。ゲヘナの獰猛性にも、トリニティの悪意にも…」
「…分かった」
私はレンカの警告とも考えられる言葉を噛み締めながら頷き、研究室を後にした。
地下から地上へと上がり、他の武装も身に纏い、道具を詰め込むと、私は家を出る。
そして、今日の依頼の目的地であるゲヘナへと走り出した。
****************************
トリニティ総合学園、ティーパーティーの現ホスト、桐藤ナギサは陽が降り注ぐ中庭が望めるテラスで、紅茶のカップを手に、優雅なティータイム──ができず、頭を悩ませていた。
その原因は、《補習授業部》について。
補習授業部とは、先の学力試験に於いて、一定の得点を得られなかった生徒──要するに、赤点の生徒を集め、再試験に向けて補習授業を行う、という文字通りの部活だ。
部活と言うには少々、不名誉だが、
ナギサが何に悩んでいるのかと言えば、赤点生徒の点数が酷過ぎる訳でも、多すぎる、という訳でもない。
いや、確かに、一桁点数や10点前後の者はいたが、そんなものは瑣末な問題だ。
悩みの原因は、その補習授業の担当──監督役を誰に頼むか、ということだ。
現在、トリニティ内は、エデン条約間近ということもあって、各所が多忙に追われている現状だ。
何処の組織も、赤点の生徒の為に、時間を割ける余裕はない。
だからこそ、ナギサはどうしたものかと、優雅なティータイムを楽しんでいるかのように見せかけて、頭の中はいっぱいいっぱいだった。
これでは、紅茶の味も分からない。
そんな中、ナギサへと近付く足音が耳に届く。
ティーパーティーの現ホストであるナギサに、簡単に近付ける者はそうそういない。
ましてや、小気味良いステップを響かせながらなど、一人しか存在しない。
「ナーギちゃんっ♪そんなにしかめっ面でどうしたの?また紅茶じゃなくて昆布茶でも届いちゃったの?」
《聖園ミカ》。
ナギサの幼馴染にして、ティーパーティーの中でも、《パテル分派》の代表の生徒。
ティーパーティーは、《パテル》、《フィリウス》、《サンクトゥス》の三つの分派から構成され、それぞれの派閥から代表となる生徒を選出し、交代制でホストに据え、トリニティ全体を運営している。
ナギサは《フィリウス》分派の代表だ。
もう一つ、《サンクトゥス》分派の代表は──。
「ごきげんよう、ミカさん。大したことではありませんよ。それと、ちゃんとした紅茶です。そんなに酷い顔でしたか?」
意識してからではもう遅いが、ナギサは眉間を揉みほぐしつつ、リフレッシュする為にも紅茶を一口、含む。
「うん☆それはもう、びっくりするくらいに!それで?何に悩んでたの?」
ミカはわざとらしく、体を横に折り、視界に入ってくる。
ナギサはどうすべきか迷い、紅茶の水面を見詰める。
そこには、当たり前だが、自身の顔が映っていた。
「……補習授業部についてです」
「あー!例の赤点の子たちの!それの何に悩んでるの?」
いつものことであるが、ミカは無遠慮にグイグイと詰め寄ってくる。
物理的にではなく、精神的に。
いや、物理的にもそれなりに近くはあるのだが。
「担当…と言いますか、監督役をどうすべきか悩んでいまして…」
「あー、今はどこも忙しそうだもんね〜…あ、じゃあさ、じゃあさ!」
ミカは無邪気な子どもが何か良いことを思い付いたかのように、笑顔を弾けさせる。
「頼っちゃえばいいんじゃない?外の人に☆」
何を言うのかと思えば…。
ナギサは自然と溜め息が出ていた。
「外の人と言いましても…一体、誰に頼ると言うのですか?ミレニアム?百鬼夜行?まさか──」
その先の言葉は、寸でのところで飲み込む。
流石にミカでも、ゲヘナに頼るなどとは言い出さないだろう。
「違うよーナギちゃん。そもそも、私は他の学校の生徒に頼むだなんて言ってないよー。こんな時にちょうど良さそうな人がいたじゃん!大人の人で☆」
このキヴォトスにおいて、“大人”という言葉が示す範囲はそう広くない。
更に言えば、限定されると言っても、過言ではない。
「“シャーレ”の“先生”…ですか…」
生徒の悩みを聞き、駆け付けてくれる大人など、彼をおいて他にいない。
「そうそう☆その先生?に頼めばいいじゃん!かんぺき〜☆」
ナギサ自身、思い浮かばなかった訳ではない。
確かに、彼であればきっと、困っていると言えば駆け付けてくれるだろう。
話を聞き、要望を請け負ってくれるだろう。
だが、ナギサとしては先生──シャーレには頼りたくない事情があった。
「…できれば、その手は使いたくはありません」
先生、そして、その直属のレイヴンには、以前、協力要請を受け、力を貸した借りがある。
ここで、その切り札を切りたくはないという思いがあった。
ナギサの言葉に、ミカは困ったように唸る。
「う〜ん、でもナギちゃん。それなら先生以外に宛てはあるの?補習授業部の担当を任せられるような人、他にいるの?」
きっと、ミカはミカなりに自身を助けようとしてくれているのだとナギサは考える。
確かに、ミカの言う通り、信用と信頼という点において、先生の右に出る者はいない。
そして、きっとナギサが内心で燻らせている想いを告げられる人物も、先生以外にはいないだろう。
──補習授業部。
その内に込められた秘密。
それを明かし、補習授業部の本当の正体と、それにまつわる頼み事ができる人は先生だけだ。
そう、自分に言い聞かせ、ナギサはミカに向き直る。
「──分かりました。それでは、ミカさんの助言に従って、先生を補習授業部の顧問として招くとしましょう」
ナギサがそう告げると、ミカは嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた。
これで先生への借りは無くなってしまうが、まだレイヴンの借りは残っている。
また何かあれば、それを使うとしよう。
「おっけー☆それじゃあ早速、シャーレ宛に依頼メッセージ送ってくるねー!」
ミカは意気揚々とテラスから立ち去り、一人残されたナギサは、静かに紅茶に口を付けるのだった。
エデン条約を前に、嵐の前の静けさとはならず、混迷に荒れるゲヘナ、トリニティ両学園
そこにどのようにシャーレ、もといレイヴンが関わっていくのか…
お楽しみに!!