暴走パワーローダーくん現る
…も速攻撃破…
「お二人が遭遇した特殊なパワーローダーですが、似たような事例が、数件、確認・報告されています。本当に少数ですが…」
ゲヘナ学園、風紀委員会本部に帰投した私とイオリは、応接室でアコと対面し、今日の仕事についての報告をした。
その中で、例のパワーローダーについても報告すると、数枚の資料と共に、アコは先程の言葉を発した。
資料には写真が掲載されており、そこには例のパワーローダーと似た雰囲気のオートマタが映っていた。
「倒しても残骸は残らず、塵となって消えた、とのことですが、残念ながら、それに類する報告はありませんでした」
戦闘、撃破の記録がないということだろうか。
それも納得ではある。
資料に付属する写真はいずれも、遠くから撮影したものばかりとなっている。
アコの言葉と、資料を眺めていると、横から芳しい香りと共に紅茶が置かれた。
「どうぞ、今回はお疲れ様でした」
チナツだった。
「あぁ、ありがとう」
チナツは、イオリとアコの分も置くと、ふと、資料の写真に視線を向けた。
「…なんだか、最近流行ってる噂みたいですね…」
「噂?」
チナツが置いた紅茶のカップを口に運びながら、イオリが聞き返す。
「ええ、私もSNSで見ただけで詳しいことはわからないのですが…」
チナツは、手に持っていたトレーを近くの机の上に置き、改めて向き直る。
「…これは、そのSNSに載っていたお話です…題して、《ユートピアの怪》」
声のトーンと声量を落とし、チナツは無表情になって語り始めた。
その姿に、隣のイオリが固唾を飲む。
「あの、モモフレンズで有名なモモグループが以前、テーマパーク…いわゆる、遊園地を建設したことがありました。それが、《ユートピア》…。初めの頃は、話題性があって多くの観光客が訪れ、一大的な観光地となりました」
「ですが、順調だったのは出だしだけ。少しずつ客足が遠のいて行き、ユートピアは経営不審に陥り、やがて話題に上がることもなく、廃業してしまいました…」
「しかし、その施設は取り壊されることはありませんでした。当たり前ですよね。撤去にも費用がかかってしまいますから。ユートピアはそのまま放棄され、いつしか人々から忘れ去られ、廃墟となって残り続けました…」
「…と、ここまではよくある悲しいお話なんですが、ここからが本題です。ユートピアは多くの人々の記憶から消えてしまいました。ですが、どこにも物好きというものはいるもので、廃墟となったユートピアは、今度はオカルト好きや心霊スポット好きの目に止まり、そういった界隈の中で、密かに注目を浴びるようになったのです」
「それと同時に、テレビ関係者やネットの配信者もまた、今度はホラー系の企画で情報を発信し始め、ユートピアは
「その頃からでしょうか…廃墟となったユートピアの敷地内で、不可思議な現象が度々…いや、続々と確認されるようになったのです…。青白い光を見た、だとか、子供のような笑い声を聴いた、だとか、人形が動いていた、とか…」
「それらはどれも主観的な、客観的には見間違いとも取れるようなものばかりでした。今となっては、どれが真実で、どれが尾ひれだったのかは証明しようがありません…」
「ですが、ユートピアにまつわる話は、徐々に大きくなり、信憑性を増していきました。まるで、人々の話を取り込み、具現化するかのように…」
「電気が通っていないのに夜になると遊具が一人でに動き出した、とか、近付いた生徒が行方不明になる、といった、より具体的で、ともすれば実害のありそうな噂までが行き交うようになったのです…」
「今では、このテーマパークの廃墟は、人々に《スランピア》と呼ばれ、恐怖の対象になっているのだそうです…」
ひと通り語り終わったのだろう、チナツは無表情から照れ臭そうに微笑んだ。
「ふ、ふんっ!なんだ!そんなのよくある都市伝説じゃないか!下らない!」
そう言いながらも、イオリはまるで縋るように私のコートを掴んでいた。
怖かったんだな…。
「そ、それで?今の話のどの辺りが、これらの目撃情報と同じなのでしょうか?」
アコも努めて冷静に口元に紅茶のカップを運ぶが、手が震えているのか、カチャカチャと音を立てている。
「この写真の青白いロボット達が映ってる場所、どこも廃墟っぽくないですか?」
非常に紛らわしいが、ミレニアムの《廃墟》ではなく、従来の意味での廃墟のことだ。
確かに、資料に添付された写真の場所はいずれも、アスファルトが割れて建物が崩れていたり、朽ちた橋梁のような場所ばかりだった。
確かに、人が寄り付かない、廃墟に現れる青白い影というのは、如何にも心霊系の噂話のようだ。
「じゃあ何?このロボット連中も、私達が出会ったパワーローダーも、そういった幽れ…お化けってこと?」
どうやらゲヘナ風紀委員会斬り込み隊長様でも幽霊は怖いらしい。
色々と気になることはあるが、本当にそういった死者が何らかの形で現れるのだとしたら、私などは真っ先に化けて出て来られそうだ。
何せ、多くの人々を殺した末に、星系を丸ごと焼き払ったのだから。
どれだけ多くの者が無念の死を遂げたか、それは計り知れない。
そういった者たちの怨嗟が降り積もり、形を成して現れても、何ら不思議ではない。
何せ、キヴォトスは、人智を超えた“神秘”を内包する世界なのだから。
・・・いや、実際に現れているか。
《廃墟》で出会った、死んだはずのテスターACのパイロット。
あれはもしや、この謎のロボット達と何らかの関係があるのだろうか?
それは分からないが、あの現象が、あの一回だけで終わるとは、到底、考えられない。
「それは分かりませんが…」
イオリの問いに、チナツは言い淀む。
現状では、青白く発光し、塵となって消えるロボットの正体も、それと《スランピア》の関連性も不明瞭なままだ。
しかし、そういった何らかの精神的エネルギーが形を成すことは、このキヴォトスでは容易に想像することができる。
とは言っても、キヴォトスは死の概念が非常に薄いこともあって、死者の霊魂である幽霊や亡霊が現れることは無さそうだが。
「…取り敢えず、現状の判明している情報だけでは結論は出せませんね。一応、今後も要注意ということにしておきましょう。何か分かったら、ぜひ教えてください。こちらでも引き続き、情報の収集は続けますが。それと、念の為、ヒナ委員長にも共有はしておきますね」
アコは報告をまとめ、場を畳みに入る。
私も異論はなく、イオリも同様のようだ。
「そう言えば、今日はヒナは?」
ヒナの姿が見えないのが気になった。
また多忙に追われているのだろうか?
「本日はヒナ委員長は午後は休暇を取って
ワーカーホリックのヒナの為に、アコが無理矢理、休ませたのだろう。
ヒナも余裕がないのだろうが…体を休ませ、体調を整えるのも大切な仕事だ。
「そうか。静養してくれていると良いな…」
真面目なヒナのことだ。
暇を持て余しているかもしれないな。
「あなたのお蔭です。レイヴン…いえ、イヴさん」
アコは珍しく、私に穏やかな微笑みを向ける。
普段はヒナのことで捲し立てながら噛み付いてくるのだが、こういった表情を向けてくるのは初めてかもしれない。
「あなたが私たちに協力してくれるお蔭で、委員長を休ませる余裕ができ、委員長もあなたがいるからと、渋々でも、納得してくれました」
まあ、結局はヒナのことだが、それでも構わない。
それで役に立つことができ、アコやヒナの一助になれているというのであれば。
「…そうか。私も、力になれているのなら嬉しい」
アコはにっこりと微笑んだ。
「で・す・が!勘違いしないでくださいね!?あくまでも委員長は信用できる相手としての思いを抱いているだけであって、別にあなたに特別な感情がある訳ではありませんからね!?良いですね!?」
少しだけ感心したのだが、やはりアコはアコだった。
むしろ安心感さえ覚える。
いつもの調子に戻ったアコを受け流しつつ、私は出口へと向かった。
「あ、そうだ。アコ、ちょっとシャワー室、借りてもいい?」
「だから──え?あぁ、別に構いませんよ」
「それじゃあ、ありがたく借りさせてもらうね」
私は応接室を後にし、シャワー室へと向かった。
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これまでも何度か使用させてもらったが、この風紀委員会本部がかなり規模の大きな建物ということもあって、シャワー室も三十人程度が入れる程度には広い施設だった。
また、その内装も色合いなどは落ち着いてはいるものの、タイルや壁の装飾等から豪華さが滲み出していた。
脱衣所で髪を解き、衣服を脱ぎ、シャワー室に入る。
シャワー室内は、仕切りと扉で個室ごとに区切られている。
その一つに入り、ぬるま湯で汗や汚れを洗い落とす。
特に酷く汚れた訳でも、大量に汗をかいた訳でもない。
それでもシャワーを借りたのは、特に理由はなく、強いて言えば、好きだからだろう。
私はキヴォトスで新しい肉体となり、入浴とシャワーで洗い流す心地良さを知った。
無理に理由もなく一日に何度も入浴するようなことはないが、こうして体を動かして汗をかいた時などの機会があればシャワーなり入浴で、洗い流すことが細やかな楽しみになっている。
それに、小綺麗にしていて損はない。
体が汚れたままでは、いつか心も汚れてしまうかもしれない。
温かいお湯を頭から浴び、その心地良さに浸っていると、入口の扉が開く音が聞こえた。
どうやら、私以外にも、誰かがシャワーを浴びに来たようだ。
まあ、だからといって、私が気にする必要もない。
そのままシャワーを浴び続けていると、裸足であろうペタペタという足音が私の方へと近付いてきた。
「…レイヴン、いる?」
個室の扉越しに声をかけられる。
その声はイオリのものだった。
声をかけられては無視する訳にもいかない。
シャワーを止め、扉を開けば、そこには当たり前だが、生まれたままの姿のイオリが立っていた。
シャワーを浴びるためか、ツインテールにしている銀の長髪も下ろしている。
こうして見ると、かなり雰囲気が変わるものだ。
「あ…えっ、と…その…」
イオリは私が姿を現すと、気恥ずかしそうに目を泳がせる。
確かに今は互いに裸だし、隠せるものもなく色々と晒し合っているが、女同士だし気にすることでもないと思うのだが…。
何を恥ずかしがっているのだろうと困惑し、首を傾げる。
「きょ、今日はありがとな…助けてくれて…その、お礼を言いそびれていたから…」
何のことかと思えば、そんなことか。
どうやら、裸を見られて恥ずかしがっている訳ではないようだ。
仕事中のマンホールに落ちたイオリを助けた時のことだろう。
確かにあの時はすぐにイオリが不機嫌になってしまって、お礼を伝えられるような雰囲気ではなかったな。
「別にいいよ。それよりも、イオリが無事で良かった」
最初、私はもっと最悪の状況を考えていた。
それを思えば、笑い話で済んで良かったと思う。
「そうか!それならよかった!今回は情けない姿を見せてしまったが、次はそうはいかないからな!でも、次も頼りにしてるぞ!レイヴン!いや、イヴ!」
イオリはいつもの調子に戻り、笑顔を弾けさせる。
それにつられるように、私も思わず口元が緩む。
「それにしても…イヴは本当に細いな…肌も真っ白だし…」
イオリが興味深そうに私の身体を眺める。
そんなに細いだろうか、とも思ったが、確かにイオリの褐色の身体は、よく鍛えられているのだろう、引き締まりつつ、それでいて筋肉もしっかりと乗っている。
それでいて、その…女性的な部位には程良く肉が付いており、イオリはいわゆる、スタイルが良いと呼ばれる部類の体格をしている。
それに比べて私は……。
・・・最初の頃に比べて、最近は少しずつ肉が付いてきてはいるが、それでも細い──華奢な部類と言える。
背は高めではあるが、それに比べて、各部位が細い。
一応、キヴォトスに来てから、マトモな食事は取れているのだが…。
さすがに目の前のイオリや、制服の上からでも分かるアコやチナツに比べたら私は貧相なものだろう…。
・・・まあ別に私は一向に構わないが。
余計に脂肪が付いても、邪魔になるだけだし…。
「この身体であれだけの脚力を…?いや、意外と腰回りはしっかりしていそうか?なら体幹が強いのか…」
イオリに意識を向ければ、いまだに私の肢体を見詰めていた。
普段からそれほど恥じらいが無い私でも、真っ裸を見続けられたら流石に恥ずかしさを意識せざるを得ない。
「…イオリ、そんなまじまじと局部を見られたら流石に私でも恥ずかしい…」
私は両手で胸元と下腹部を隠す。
「えっ!?あっ、ごめ…じゃない!きょ、局部は見てないから!」
まあ流石に局部は冗談なのだが。
少しだけイオリをイジってみたくなった。
何と言うかイオリは反応が良い。
「分かってるよ。もちろん冗談──」
その瞬間、シャワー室の扉が勢い良く開け放たれた。
「えっ!?イオリがイヴさんの局部をまじまじと!?」
現れたのは全裸のアコだった。
「なんでアコちゃんがいるんだよ!?」
すかさずイオリがツッコミを入れる。
さすがの反応速度だ。
「この後の仕事の前に、一旦汗を流そうかと。それよりもイオリ!さっきの話は一体全体どういう事ですか!?局部を見たんですか!?まじまじと!?それとも見せ合いっこしたんですか!?局部を!?」
全裸のアコが全裸のイオリに詰め寄って掴みかかり、両肩に手を置いて揺さぶる。
「その単語を連発するな!誤解だしイヴの冗談なんだって!!」
アコの暴走にイオリは羞恥で真っ赤になっていた。
それにしてもすごい食い付きようだ…。
「部活内恋愛なんて許しませんよ!不純です!不健全です!風紀が乱れてます!!」
風紀が乱れているのは現在進行形だな。
イオリにアコが急接近しているから。
色々ぶつかりそうと言うか、もうぶつかってると言うか。
「なんでそういう話になるんだ!?違うから!そもそもアコちゃんだって委員長にベッタリじゃないか!そこんところはどうなんだよ!?」
イオリの反論に、アコはイオリの揺さぶりを止める。
「…私の場合は、一方的なものだからいいんです。崇拝に近いものなので」
先程とは一変、アコは言い訳がましく自論を展開する。
「屁理屈じゃん!」
そこにイオリがキレの良いツッコミを差し込む。
「私のこの想いは一方通行なんです。委員長は意にも介されないでしょう…。委員長が私に振り向くことはないでしょう……それが良いんです!!」
アコはまるで何かの演劇ように大袈裟に芝居がかった動きをする。
かと思えば、いきなり目を見開き、強烈にアピールしてくる。
目が完全に座っている。
「…歪んでるなぁ、アコちゃん」
そんなアコを眺め、もはやツッコミを入れる気力すらないのだろう。
呆れと諦めが入り混じった呟きをこぼす。
「どこがですか!?立派な片思いでしょう!?」
「そういうところが」
「はぁっ!?」
そんなやり取りを経て、二人は分かれ、私の使っている左右の個室にそれぞれ入っていった。
すっかり身体が冷えてしまった。
再び温め直そうと、シャワーを浴び直す。
温かいお湯を全身に浴び、身体が温まっていくのを感じつつ、私はずっと聞きたかったことを二人に訊ねた。
「二人は…エデン条約をどう思ってる?」
私の唐突過ぎたかもしれない質問に、さすがの二人もすぐには答えられず。
暫しの間、シャワーが床を叩く音だけが響き渡った。
沈黙の後、シャワーのバルブを閉める音と共に聞こえてきた声は、イオリのものだった。
「うーん…どうって言われてもなぁ…そんな小難しいことはあんまり考えたことなかったな。仕事が減ればいいくらいの感覚だ」
イオリらしい感想というか、率直な願いだ。
「私もイオリと大して変わりません。強いて言えば、仕事が減る対象が、委員長に、特に重きを置いているというくらいでしょうか」
こちらもまたアコらしいというか、普段通りのアコの延長線だ。
本当にアコはヒナを大事に想っているのだろう。
普段はそれをわざわざ話に上げられて噛み付かれるが、それも大切な相手への心の現れと捉えれば、分からなくもない。
歪んでいるが。
「エデン条約は、ヒナ委員長の悲願です。私はただ、その成就を祈るだけです。私の出来る、最善を尽くしながら」
アコもエデン条約が実現が困難であろうということは理解しているようだ。
理解し、承知の上で、ヒナの為に、その実現を祈り、日々、奔走しているのだろう。
「イヴさん…いえ、レイヴン、貴女には期待していますよ。私の委員長の悲願成就の為、今後もたっぷりとこき使わせていただきますから。よろしくお願いしますね?」
もはや、今更すぎる宣言だ。
逆にこちらから望むところだ。
「もちろん。その分、給料には色を付けてくれよ?」
今後も装備には色々と金がかかるだろう。
先立つものは必要だ。
「ふふ…ええ、もちろん。貴女が相応の働きを熟してくだされば」
「嫌な会話だ…」
その横で、イオリが辟易するような呟きをこぼした。
「──そして、その暁には!これまでの多忙で失われた時間を取り戻すように!ヒナ委員長との日々を過ごすのです!ショッピングに行ったり、美味しいものを食べに行ったり、映画を観に行ったり、遊園地に行ったり…ふふふ…デートプランは幾らでもありますから!!」
個室から出たアコは、虚空を見詰め、意気揚々と宣言した。
一切の恥じらいのない全裸で。
「早く乾かさないと風邪引くよアコちゃん」
お風呂…ならぬシャワー回
お色気(?)回には何の違いもありゃしませんが
イヴは細くはありますが、ガリガリの骨と皮という訳ではありません
そんな体では戦えませんからね
最低限の筋肉は付いてますが、脂肪がほとんど乗ってないので、スレンダーという表現が合ってるでしょうか…
あと別にまな板という訳でもありません(大事)
華奢で控えめというだけ(重要)