ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

108 / 165
あらすじ

シャワー回

ゲヘナと言えば、この場所は外せません!


EP-4 万魔殿からの刺客

その後、数日間に渡り、私は風紀委員会からの依頼を受け、業務に協力し続けた。

 

一応、不測の事態に備え、以前にヒナと交わした約定に従い、アビドスの対策委員会や便利屋68から助っ人を募るか進言してみたが、却下となった。

 

だが、幸いなことに、あれ以来、あの青白い機体のロボットは現れなかった。

デモ部隊もそれなりに鎮圧したが、あの時の部隊だけの異常性だったようだ。

 

そこで、青白いパワーローダーについて、捕縛していた初日のデモ部隊のリーダーをアコが情報部を使って尋問した。

 

アコから伝えられた情報曰く、あのパワーローダーは偶然、出会った謎の人物から与えられたのだそうだ。

人物とは言っても、そのリーダーは人とは思えなかったのだという。

失敗作だとか、在庫処分だとか言って、半ば押し付けられる形で引き受けたらしい。

その人物は大人の男性の声であり、まるで、()()()()()()()()()()()()()を発していたという。

因みに、夜に暗がりから声をかけられた為、姿は見ていないのだとか。

 

大人の男の声というと、先生を除けば、後は思い付くのはロボットの住民となる。

ロボットで暗躍しているとなれば、真っ先にカイザーの連中が思い浮かぶ。

連中がまた碌でもないことをし始めたのかと勘繰るが、“木材が擦れ合う音”という情報が気になる。

当然だが、ロボットからは木材の音は発されない。

 

・・・何か、カイザーとも異なる第三勢力が暗躍しているのだろうか。

 

何はともあれ、私は今日も風紀委員会の依頼を熟し、帰路に着く。

 

だが、ゲヘナの敷地内から出る前に──。

 

「シャーレ直属特務戦闘員、レイヴンですね?」

 

そんな声が背後からかけられた。

振り向いた先には、豊かな赤毛の少女が立っていた。

 

その制服は、ゲヘナの一般生徒とも、風紀委員会とも異なるもの。

私はその制服に見覚えがあった。

ゲヘナの生徒会的組織、《万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)》。

 

「万魔殿の方が私に何の用でしょう?」

 

聞けば、風紀委員会と万魔殿は仲が悪く、犬猿の仲なのだとか。

わざわざ万魔殿が風紀委員会に嫌がらせをすることも多く、それによってアコやヒナも苦労しているらしい。

 

とは言え、別に私自身は万魔殿に対して何の感慨もない。

ただし、難癖でもつけて危害を加えようとして来た場合には、相応の()()はさせてもらうが。

 

しかし、目の前の赤毛の少女からは一切、そういった敵愾心のようなものは感じられない。

だからといって、友好的という訳でもないが、気怠げで覇気がない。

 

「ご存知の通り、私は万魔殿の戦車長、《(なつめ)イロハ》です。お帰りのところ非常に申し訳ないんですけど、付いて来てもらうことってできます?あぁ、別に、帰りたければそれでいいです。無理に引き留めはしません」

 

本当にやる気が感じられない。

全てが面倒臭そうな様子で、赤毛の少女──棗イロハは告げた。

彼女がこの様子ということは、私に用事があるのは彼女自身ではなく、何者かの頼みだろう。

また、面倒くさがりながらも渋々でもこうしてその頼み…いや、指示か命令と読むべきか。

それを聞いているということは、彼女よりも上の人間。

 

「…用件は?」

 

ひとまず、棗イロハの様子から、危害を加えられるようなことはなさそうだ。

面倒くさがっている彼女には悪いが、話だけは聞いてみよう。

私に用がある彼女の上司が、何を求めているのかを。

 

「はぁ…別に帰ってくれて良かったんですけどね…。ウチの()()が、レイヴンと話をしたいそうです。今からでも断ってくれても構いませんよ?」

 

「私はそれでもいいけど、今後、私がここに来る度にあなたはその議長さんに私を呼び込むように指示されるかもしれませんよ?」

 

彼女の言う議長がどのような人物かは分からないが、この面倒くさがりな性格を知って尚、こうして使いを出しているとすれば、かなり自我が強そうだ。

一度断った程度では折れないだろう。

ここはお互いの為に、早々に話を付けるのが正しい選択だ。

 

「…それは面倒ですね。仕方ありません。それじゃあ、着いてきてください」

 

棗イロハは心から面倒くさそうに溜め息を吐き、私を案内するべく、歩き出した。

私はその後ろに追随する。

 

「あなたも物好きですね。万魔殿の議長からの呼び出しだなんて、普通であれば断るのが正解ですよ」

 

歩きながら、棗イロハが話しかけてくる。

まあ確かに、風紀委員会への嫌がらせといい、あまりいい噂は聞かない。

大抵は、関わり合いになりたくない者たちがほとんどだろう。

 

「…まあ、その通りですね。私も面倒事はお断りではあります。ですが、面倒だからと降りかかる火の粉をそのままにして焼かれるのはごめんですから」

 

わざわざ面倒事に首を突っ込む趣味はないが、それが自身に降りかかる厄介事であれば、後手に回っては手遅れになりかねない。

対岸の火事をわざわざ火消しする気は起きないが、降りかかる火の粉くらいは払った方が得策だ。

 

「…なるほど。あなたは面倒でも逃げずに最低限の対処は(こな)すんですね…。私は逆ですかね。面倒なものは面倒なので。逃げることだらけです。仕事もまあまあサボりがちですし」

 

仕事をサボる、と後ろめたい内容ながら、棗イロハは肩越しに振り向き、得意げな笑みを浮かべた。

この様子だとサボりの常習犯のようだ。

 

「…それに私は、棗イロハさん…貴女にも興味があります」

 

微笑む棗イロハに返すように、私も笑顔を向けた。

 

「え?私ですか?」

 

思わぬ反撃だったのだろう。

棗イロハは面食らった様子で僅かに困惑する。

 

「えぇ、面倒くさがりで仕事もサボりがちな貴女が、やんわりと断るように勧めつつも、議長の指示に従っている。その心境が気になります。更に言えば、そんな貴女が指示を聞いている議長がどんな人物なのかも、含めて、非常に興味深く思います」

 

ここまで話してきて、棗イロハは単なる上に忠実な駒ではなく、自身で考え、行動できる思慮深い人物ではないかと感じつつある。

まあ、その考えて行動した結果がサボりなのだが、それはさておき。

そんな彼女であれば、ただ横暴なだけの愚劣な上司の傀儡に成り果て、ただ従うということは考えられない。

反旗を翻すようなことは面倒くさがりな性から無いだろうが、それこそ指示を実行に移さずに、その辺で適当に時間を潰して誤魔化す程度のことはやりそうだ。

それでも、彼女はこうして面倒くさがりながらも、私の前に現れ、指示を遂行している。

それはつまり、彼女の上司──つまりは議長が、ただの愚物ではないという証拠なのだ。

なんだかんだ、きっと棗イロハは、その議長のことを気に入っているのではないかと私は推測している。

 

「……」

 

私の言葉に、棗イロハは無言のまま進んでいく。

建物の中に入り、カーペットが敷かれた広く長い、廊下を進んでいく。

 

「…買い被りすぎですよ。私のことも…議長のことも…」

 

廊下を進みながら、棗イロハは小さく呟く。

 

「私はただのサボり魔で、議長はただのバカです」

 

その言葉に、私は小さく吹き出す。

上司をバカ呼ばわりなんて、普通は考えられない。

やはり、なんだかんだ言いつつ、仲が良いのだろう。

 

「──まあ、それはいいとして」

 

すると、棗イロハは急に私に振り向いた。

 

「貴女とは仲良くなれそうです。案外、私たちは相性が良いのかもしれません」

 

そして、後ろ手で大きく一歩踏み出して距離を詰め、身体と身体が触れ合いそうな至近距離で、下から覗き込むように上目遣いでニヤリと笑みを浮かべる。

ふわり、とほのかな甘い香りが届く。

 

「どうです?もう議長に呼び出されたことなんか忘れて、一緒にサボりません?」

 

不覚にも、思わず心臓が跳ね打った。

一気に距離を詰められたこともそうだが、いとも容易く私の警戒をすり抜けてきた。

言い訳がましくなるが、敵意を感じられず、警戒が緩んでいたこともあるのだろう。

だが、それとはまた別に、彼女──棗イロハには、まるで心の隙間に滑り込む、それを許してしまう妖しさがあった。

危うく、腰の銃を抜くところだった。

 

「…非常に魅力的な提案ですが、今回はお断りさせていただきます」

 

彼女への警戒心を引き上げる。

 

私が断ると、棗イロハは不思議そうに首を傾げていた。

やがて、すり寄せていた体を引き、離れる。

 

「…おかしいですね。私の色仕掛けに一切動じることがないどころか、逆に警戒心が強まるだなんて…」

 

納得できないという風に棗イロハは眉を(ひそ)める。

 

「そもそも、女性相手に色仕掛けというのは如何なものでしょう?」

 

そういうのは普通、男相手に行うものだと思うのだが。

 

「おや、別に不思議なことではありませんよ?このキヴォトスでは。特に、貴女のような美しく、強い人であれば尚更。私も、貴女のような方が相手なら満更でもありません」

 

確かに、生徒はみな、女性ばかりであり、残りは動物かロボットの住人が殆んどだ。

先生は例外的に男だが、彼は外の世界から訪れた人間である為、例外だ。

それならば確かに、生徒同士の恋愛となれば、必然的に女性同士となり、女性同士の恋愛もおかしくはないのか。

それならば子供はどうするのか、という問題はあるが、そこは神秘溢れるキヴォトス。

気にするだけ野暮といったものだろう。

 

「先程は色仕掛けと言いましたが、半分くらいは本心です。一緒にサボりたくなったら、いつでも言ってくださいね?」

 

そう言い、棗イロハは唇に人差し指を添え、ウィンクする。

 

「…お茶のお誘いで良ければ、また立ち寄った時にでもさせていただきます」

 

「お茶ですか…あぁ、そういう隠語ですね?」

 

「違います」

 

キッパリと断っておき、そうこうしている内に、私たちは大きな二枚扉の前に辿り着いた。

この先に、件の“議長”が(おわ)すのだろう。

緊張している訳ではないが、襟を正す。

 

棗イロハは、特に前置きもなく、その扉を開いた。

 

「“マコト”先輩、レイヴンをお連れしましたよ」

 

棗イロハに続き、私も室内に踏み入る。

その先では──。

 

「すまない!ほんっとーに申し訳ない!“イブキ”のプリンだとは思わなかったんだ!」

 

必死な様子で土下座する銀髪の生徒。

 

「ふん、だ!マコト先輩なんて知らないっ!」

 

そして、目元に涙を浮かべながらも、ご立腹なご様子の金髪の幼い少女。

 

それを目にした棗イロハは、呆れた様子で額に手を当てていた。

 

「…お取込み中のところ申し訳ないので、今日のところは帰らせていただきますね」

 

私は背を向けて帰ろうとするも、そのコートの裾を棗イロハに掴まれ、止められる。

逃げられないか…。

 

「まーたイブキのプリン食べたんですか?マコト先輩」

 

棗イロハは私の服を掴んだまま、土下座する推定議長に歩み寄る。

 

「あぁ!イロハ!丁度いいところに!聞いてくれ!私はイブキのプリンを食べるつもりはなかったんだ!イロハのプリンなら良いと思って!」

 

「私のプリンも食べないで下さい。そんなんだからイブキのプリンも食べちゃうんでしょうが」

 

棗イロハは怒りを露わにしてプリン盗み食いの現行犯を咎める。

 

「イブキ、またマコト先輩にプリン食べられたんですか?」

 

棗イロハが金髪の少女──イブキに話しかけると、少女はこれまで堪えていたでろう涙を浮かべて、彼女に抱き着く。

 

「うわぁあん!イロハせんぱーい、()()マコト先輩がイブキのプリン食べたぁあ〜!」

 

棗イロハはイブキを抱きしめ、その頭を優しく撫でる。

 

「ヨシヨシ、全く、マコト先輩はひどい先輩ですね〜」

 

棗イロハの言葉に、その後ろで土下座する議長──もとい羽沼マコトは、苦しそうな呻き声を上げた後、勢いよく顔を上げた。

 

「また新しいプリン買ってくるからっ!!」

 

「先輩、そういうことではありません。反省して下さい」

 

イロハは肩越しに羽沼マコトを睨み付ける。

 

「ぐっ…はぁ…まさかイブキのプリンだったとは不覚…。だが、こればっかりは避けようのない事故。貴様もそうは思わないか?」

 

そう言って立ち上がった羽沼マコトは、そばにいた私にそう声をかける。

 

「……誰だ貴様はっ!?」

 

もう帰ってもいいだろうか?

ここに来るまでは乗り気だったが、これまでのやり取りですっかりその気が失せてしまった。

極め付けは、呼んだ本人がこの様だ。

これは棗の提案に乗っても良かったかもしれないと、今更ながら後悔するのだった。

 

*****************************

 

「キキキッ!そうかそうか!貴様がレイヴンだったか!だが仕方あるまい!このマコト様は、イブキのことで頭がいっぱいだったのだからな!許せ!」

 

「…こういう人なんです。どうか私に免じて大目に見てあげて下さい」

 

豪勢な椅子に座って足を組む羽沼マコトの横に控えた棗が、疲れた様子で言葉を付け足す。

それは最早、懇願に近かった。

その隣で、イブキと呼ばれた金髪の少女は、頬を膨らませて羽沼マコトを睨んでいた。

食べ物の恨みは恐ろしい。

ましてやそれが、何度も繰り返されているのであれば。

 

私は小さく溜め息を吐き、早速だが本題に入る。

こっちは仕事終わりなのだ。

早く帰りたい。

だが、ここまで乗りかかった船だ。

最後まで行くしかない。

 

「それで?私に何の用件でしょうか?」

 

私が訊ねると、羽沼マコトはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「噂は聞いているぞ、レイヴン。シャーレ専属の傭兵として、方々で活躍しているようじゃあないか」

 

「先輩、直属戦闘員です。傭兵ではありません」

 

私としてはどっちでも良い。

だが、棗は私の気に触ると思ったのだろう。

逆に傭兵の方が馴染みがあるほどだ。

 

「そこで、だ。レイヴンよ…このマコト様の(もと)に着く気はないか!?あの忌々しい風紀委員会を打ち倒し、ゲヘナを牛耳り、果てはキヴォトスの覇者として君臨する、このマコト様の下に!!」

 

一歩間違えば連邦生徒会に反旗を翻すクーデターのような危険なものだが、まあゲヘナの特色を考えればこういう思想も普通に受け入れられているのだろう。

その尊大な野望も、ゲヘナの生徒──ましてや、生徒会長ともなれば、そこまで肥大するのが普通に思える。

むしろ、そんな環境であれだけ善性を保てているヒナを筆頭とした風紀委員会が例外のように思える。

だからこそ、羽沼マコトは風紀委員会を目の敵にするのだろうが。

 

「お断りします」

 

私は丁寧に、丁重に身を引いた。

 

「…ん?なんだ?何か不満でもあったのか?ああ、当然、働きに応じて報酬は払うぞ?」

 

「いえ、例え十分な報酬を頂けるとしても、私はあなたの下には着きません」

 

「バカなっ!?何故だっ!?このマコト様直々に言っているというのに!?」

 

この尊大な自信はどこから出てくるのか。

私は思わず、苦笑いを浮かべる他なかった。

 

「…ハッ!そうか!それなら支配したキヴォトスを半分やろう!」

 

ミレニアムのゲーム開発部が作ったテイルズ・サガ・クロニクル2に出てきたボスもそんなセリフを言っていたな。

それを思い出して、私は思わず笑ってしまう。

 

「…いえ、それも結構です」

 

「それならば何だ!?何が貴様をそこまで繋ぎ止めるんだ!?」

 

「…そうですね。強いて言えば…選ぶ権利、でしょうか。私は自分で選び、選択する生き方が性に合っていまして。誰かの下に付くような生き方は出来ません。今、所属しているシャーレも、先生とは対等な立場ですし」

 

先生もまた、その生き方を尊重してくれている。

たまに、必要以上に干渉して来ることもあるが、それも私のことを本気で心配してのことだ。

無碍にはできない。

 

自ら選び、選択する者。

それが私であり、“レイヴン”。

自由意志の表象なのだ。

例えその結果、自由の代償を課せられるとしても。

好きなように生き、理不尽に死ぬ。

死に方を選ぶことは出来なくても、私はその生き方を受け入れている。

 

「…なるほど。意志は固いようだ」

 

羽沼マコトは、困ったように溜め息を吐き、椅子の背にもたれ掛かる。

暫しの間、天井を見つめていた羽沼マコトが、ふいに言葉をこぼす。

 

「そうまでして…貴様は何を得る?」

 

背もたれに身を預けたまま、羽沼マコトは私を見下ろす。

その視線は、まるで何かを試すようなものだった。

 

何を得るか…そんなものは考えたこともなかったな。

 

「…さぁ、それは分かりません」

 

ルビコンでの戦いでは、私は何を得たのだろう。

 

力?金?名声?

 

失ったものが大き過ぎて、それらが霞んで見える。

私はこのキヴォトスで、何を得るのだろう。

戦った先で、戦い抜いた果てに、私は何を見るのだろう。

 

「…ならば、貴様のその力は、何の為のものだ?」

 

私の力。

その答えは既に出ている。

 

『理由なき強さほど、危ういものはない』

 

私の力には、しっかりとした理由がある。

 

「──私には、このキヴォトスで為すべきことがある。これは、その為の力だ」

 

真っ直ぐと羽沼を見据え、答える。

私と羽沼の視線がぶつかり合う。

 

「…為すべきこと、か…それは使命か?」

 

使命ではない。

元はウォルターの使命だったものを私が受け継ぎ、役目を果たした。

──果たしたと、思い込んでいた。

 

「そんな高尚なものじゃない。ただのやり残したことに決着をつけるだけだ」

 

再び、このキヴォトスでコーラルと…エアと(まみ)え、それは誓いになった。

必ず、今度こそ、コーラルを滅ぼすという誓約に。

 

「…そうか」

 

羽沼はそれだけ呟くと、視線を伏せた。

彼女にも何か、思うところでもあるのだろうか?

 

「…キキキッ!」

 

すると羽沼は突然、勢いよく立ち上がった。

 

「そういうことであれば、今日のところは引き下がってやろう!」

 

そして、先程までの調子に戻るのだった。

先程の羽沼の様子は何だったのか。

彼女も彼女で、また何かを抱えているのだろうか。

 

「それでは、もう用は済んだということでよろしいですか?」

 

とは言え、彼女はどこか満足そうだ。

 

「ああ、今日のところは、な。イロハ!彼女を外まで送ってやれ」

 

羽沼の指示に、棗はげんなりとした表情で溜め息を吐く。

 

「はぁ…はいはい。まったく、人使いが荒いんだから…」

 

そうは言いつつも、彼女は読んでいた本を閉じ、扉の方へと向かっていく。

 

「イブキもお見送りする〜!」

 

棗を追いかけて、イブキと呼ばれていた少女も走り出す。

私もその後を追うように、羽沼に一礼して立ち去る。

その背中に、羽沼から声が飛ぶ。

 

「──最後に一つ。レイヴン、貴様…いや、貴公はこのエデン条約をどう思っている」

 

相変わらず尊大な態度で足を組んだ羽沼が私へ問いかける。

貴様呼びから貴公呼びはどんな心境の変化だろう。

 

「…部外者の雇われの身からは何とも。ただ──」

 

私の脳裏に浮かぶのは、風紀委員会の面々。

 

「それによって救われる者もいるということは間違いありません」

 

そう言い残し、私は部屋から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「お姉さん、シャーレの人なんだよね?」

 

外への道中、棗の隣から金髪の少女──イブキが声をかけてきた。

 

「うん、そうだよ」

 

「それなら…レイヴンさん?レイヴン先輩?」

 

「レイヴンって名前は、仕事上のあだ名で、本名じゃないんだ。本名は渡鳥イヴ。好きなように呼んでくれて構わないよ」

 

私がそう言うと、イブキは目を輝かせる。

 

「じゃあねじゃあね!イヴ先輩って呼んでいーい?イブキは《丹花(たんが)イブキ》ってゆーの!」

 

「うん、それで良いよ。よろしくね、イブキ」

 

イブキの頭を優しく、丁寧に撫でる。

 

「えへへ〜、なんか、イヴ先輩とイブキって、名前そっくりだね!」

 

「ふふっ、確かにそうだね」

 

そんなやり取りをしながら、万魔殿の外に出る。

 

「また遊びに来てね〜!イヴ先輩!」

 

「次は先輩無しで、もっとお話しましょうね?レイヴン…いえ、イヴさん?」

 

二人に見送られ、私はゲヘナを後にした。

空はすっかり日が落ち、濃紺の夜空が広がっていた。




おかしい…イロハとイヴの会話はあっさり流すつもりだったのに、気付いたらイロハが色仕掛けをしていた…

尚、イヴの純真鋼鉄ハートには響かなかったどころか逆効果だった模様…

マコト様は最初こそ痴態を晒しましたが(自業自得)、後半はカリスマを出せましたね
やはり、イヴ同様、マコトも“追うもの”ですから、何か思うところがあったんでしょうね…

イブキちゃんは癒し(天下無双)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。