ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

シロクロ最終段階


EP-9 スランピアの恐怖、シロ&クロ

黒紫のオーラを纏ったクロは、その場にカラスの群れだけを残し、突如として姿を消した。

 

否、いなくなった訳ではない。

私の背後に移動していた。

だが、それと同時に、残されたカラスの群れが、クロを追いかけるように、その間に立っている私へと突っ込んで来る。

 

それを私は、身を翻すような捻りを加えたクイックステップで、背後のクロに向き直りつつ、回避する。

クロと共に、シロも消えていたからだ。

私の背後に移動したクロの左右には、コーヒーカップが二つずつ、回りながら、待機していた。

その内の一つに、シロも乗っている。

 

オーラを纏うクロが私を指すように杖を振えば、それらのコーヒーカップが、真っ直ぐ私へと突撃してくる。

シロが乗っているのもお構いなしと言った様子だ。

 

突っ込んでくるコーヒーカップは一つひとつに僅かに時間差があり、同時ではなく、交互に突っ込んで来た。

それらを私はクイックステップで回避していくが、シロが乗ったコーヒーカップを回避した直後、それは背後で盛大に爆発した。

シロが乗っているコーヒーカップは爆発するようだ。

 

それを確認した私は、地面を蹴り、クロへと突進する。

クロへと肉薄し、蹴りを叩き込もうとするが、クロに近付くと同時に、従えているカラスが私を嘴で突く。

 

「ッ!?」

 

それはまるで研ぎ澄まされた刃物のように、私の肌を切り裂く。

服の上からでもお構いなしだ。

 

「それが──どうしたッ!!」

 

カラスに切り裂かれるのも厭わず、私は渾身の蹴りをクロへと叩き込む。

怯み耐性は上がっていないようで、私の蹴りを受けたクロは、たたらを踏む。

怯んだそこへ、更にSGの連射を浴びせる。

三連射を惜しみなく叩き込み、更にダメージを加えるが、再びクロは瞬間移動で姿を消す。

今度は、カラスも一緒に。

 

直後、私の“猟犬の耳”が、背後から危険を察知する。

先程と同じように、私の背後を取っていたクロだったが、先程と違うのは、周囲を飛ぶカラスが、全て私の方を向き、オーラを纏っていたことだ。

クロが杖を振るえば、それらは一塊となって、私へと特攻して来る。

無数のカラスが、大きなカラスを形づくり、迫る。

それは翼を広げている為、範囲も広く、また、威力もバカにならないだろう。

 

だが、幸いなことに、縦方向への範囲はそれほど広くない。

私は特攻して来たカラスの群れをジャンプで回避する。

そして、着地と同時に私は、クロへと駆ける。

今ならば、厄介なカラスの壁もない。

無傷で攻撃するチャンスだ。

 

SGをHGへと切り替え、蹴りを叩き込む。

怯んだところに、HGを惜しみなく撃ち込む。

途中、カラスが戻ってきて全身を切り裂かれつつも、HGの装填分を全て撃ち込み、ARの狼騎士の旋回で飛び退く。

 

全身がジワジワと痛む。

血が滲み、滴る。

一つ一つのダメージは軽微だが、擦り傷も積もり積もれば重傷だ。

ましてや、私は他のキヴォトスの連中に比べて、そこまで肉体が強靭という訳でもない。

だが、この傷に見合うだけのダメージは与えられているはずだ。

 

クロに視線を向ければ、今度はメリーゴーランドの馬を四体、呼び出していた。

その内の一つには当然、シロが乗っている。

先程、コーヒーカップに乗ったまま爆散したと思ったが、やはりそう上手くはいかないようだ。

 

メリーゴーランドの馬が私へと突撃する。

コーヒーカップと違い、直線ではなく、追尾しながらカーブしつつ、突っ込んでくる。

だが、その軌道は予測となって見えている。

四体のメリーゴーランドの馬が次々と突撃してくる。

 

最後はシロが乗った馬。

ギリギリまでホーミングして来るが、難なく躱す。

──その刹那、私の目に映るのは、周囲を吹き飛ばす爆発の予測。

その直後、シロが大玉の爆弾を取り出す。

それをすれ違いざまに私に放り投げて来た。

 

咄嗟に大きく飛び退く。

大玉の爆発範囲からは間一髪で逃れることができた。

視界の端で、シロを乗せたメリーゴーランドの馬が爆発するのが見えた。

 

すぐさま、私は立て直し、クロへと向けば、カラスを突撃させる攻撃の予備動作。

間も無く、カラスが放たれる。

今度は、先程、私にジャンプで躱されたことを活かし、高い位置でカラスを突撃させる。

しかし、今度は真下が空いている。

 

カラスの群れの真下を潜り抜け、クロへと駆ける。

突進から蹴りを叩き込む。

どうやら、あの瞬間移動は無制限には使えないらしい。

まぁ、使えてしまったら倒しようがないのだが。

蹴りによって、クロを怯ませ、更に空中で身を捻りつつ、回し蹴りを叩き込む。

カラスが戻って来たタイミングで普通に飛び退いてSGをリロードし、カラスのダメージが届かない位置から、SGの銃撃を浴びせる。

 

クロが瞬間移動を使う。

カラスは残したまま、私の背後へと。

カラスが近くにいることが瞬間移動の条件か?

クロを追うように、その中間にいる私へと突進する。

クイックステップで躱し、クロへと向けば、そこには回るコーヒーカップが私へと狙いを定め、待機していた。

これまで通り、シロも乗っている。

 

真っ直ぐ突っ込んで来たコーヒーカップをクイックステップで次々と躱していく。

目が回っているからか、それとも単純に回転が早すぎてそんな暇がないのか、コーヒーカップの時はシロは爆弾を投げて来ない。

 

コーヒーカップを難なく躱し、クロを見据える。

クロの周囲にはカラスが飛んでいる為、先程のような近接での攻撃には

リスクが伴う。

その代わり、私はSGをSRに切り替え、狙撃を狙う。

 

私のSRの威力を理解しているのだろう。

クロは妨害しようとカラスを突撃させる。

だが、それはこれまでのようなカラスを模したものではなく、一斉に飛ばすだけの単純な攻撃。

威力もカラスを模した時よりも高くはないだろう。

それでも、威力よりも命中を優先した攻撃は、私のような防御力がなく、回避型の者にとっては脅威だ。

 

放たれたカラスは、扇状に拡がり、それは私を攻撃範囲に巻き込んでいる。

無傷では済まない。

だが、最小限に留めることはできる。

飛んでくるカラスの弾丸を見極め、最小限の被弾で済むように回避を行う。

頬を嘴が切り裂き、制服の上から手脚の肌を突き破るが、コラテラルダメージとして割り切る。

 

カラスの弾幕が止むと同時に、私はSRを構え、チャージする。

だが、クロがわざわざ、こちらのチャージが完了するまで待つ訳もなく。

その場にカラスを残して、クロは瞬間移動で姿を消す。

私の銃口の先には、カラスの群れだけが残った。

そして、この後、そのカラスは私へと突撃して来るだろう。

私の背後にいる、クロの元へと辿り着く為に。

 

──そう。

別に見る必要はない。

何なら、気配でも背後のクロは捉えている。

だから、私はそのまま後ろに撃てば良いだけだ。

私は正面に向けていたSRを腕を回して背後に向ける。

 

その直後、正面のカラスの群れが、私へと突撃する。

弾丸よりも大きなカラスが、弾丸の速度で射出される。

あれに巻き込まれれば、これまで積み重なったダメージも相まって重傷で済めばいい、といったところだろう。

だが、それよりも早く、私はチャージが完了したSRの引き金を離した。

 

「動くことは出来ないけど、別に方向転換が出来ない訳じゃない」

 

蒼雷の閃光が、背を向けていても分かるほど、鮮烈に届く。

突撃したカラスが目の前まで迫り──私の眼前で羽根を舞い散らして霧散する。

どうやら、カラスの攻撃は失敗に終わったようだ。

それを確認して、私はクロへと振り返れば、チャージレーザーを食らったであろうクロは、倒れて伸びていた。

そのそばでは、メリーゴーランドの馬の残骸と共に、同じく伸びているシロの姿があった。

どうやら私の背後でシロと共にこの馬を突撃させようとしていたようだ。

 

「…これで終わり」

 

クイックリロードを挟み、クロの元へと歩み寄りながらSRをリチャージする。

クロから少し離れた場所で足を止め、フルチャージのレーザーを倒れたクロに撃ち込んだ。

 

これまでと違い、レーザーはクロの体を貫いた。

貫いた箇所からクロは炭化するように黒ずみ、塵になっていく。

 

消えていくクロの横で、シロもまた塵になっていく。

 

もしかすると、二体で一体の存在だったのかもしれない。

片方が消えてしまえば、存在を保つことができない。

だからこそ、倒されそうなシロをクロは助けたのだろう。

 

「…強敵だったなぁ…」

 

“歯車”は使っていないとは言え、それでも私の戦闘技能や勘、身体能力の出力が向上している面を含めれば、十分に強力な敵だったと言えるだろう。

 

頬に触れれば、乾きつつある血が指にこびり付く。

これほどの負傷も久しぶりだ。

出血という意味では初めてかもしれない。

 

左腕に嵌めた、ゴシック風の赤と黒の色合いの腕時計で時間を確認する。

相変わらず空は星が瞬いており、宵闇に染まっている。

時刻は日を跨いだ1時過ぎ。

 

クロとシロが消えても、相変わらずスランピアの明かりは消えない。

夜が明ければ消えるのか、それとも私がいるから灯り続けるのか…。

取り敢えず、クロとシロが元凶だった訳ではなさそうだ。

それならば、もう少し見て回る必要がありそうだ。

 

夜の寒さに身が縮こまる。

白い息まで出て──。

 

いや、おかしい。

いくら夜とは言え、気温が下がるとしても、息が白くなる程の寒さに至るはずがない。

ましてや、今のキヴォトスは真逆の夏だ。

これほど冷えるはずが──。

 

視界に何かが散らつく。

それは無数に舞い散る、白い粉のような──。

手に乗せれば、それは私の体温でたちまち、溶けて消える。

 

──雪が降っている。

だが、それも納得してしまうほど、周囲の気温は下がっている。

 

雪は徐々に多く、激しくなって行き、それは次第に吹雪へと様相を変える。

吹雪は、まるで意思を持っているかのように、私を包み込み、渦巻く。

吹雪は竜巻のごとくうねり、荒れ狂う。

私はただ、手を前に翳して堪えるしかない。

 

ふと、その中に雪ではない何かが待っていることに気付く。

氷でもないそれは“カード”。

模様が描かれた、ぱっと見では“トランプ”に見えるもの。

 

次第に、吹雪の中にトランプが多くなって行き、トランプが渦を巻く。

やがて、何の前触れもなく、そのトランプの嵐はかき消えた。

そして、気付けば私は、アトラクション乗り場のような場所に立っていた。

 

ここは、ジェットコースターの乗り場だろうか。

すると、正面にある二つのトンネル内、左側の暗闇が光り、何かが飛び出して来た。

それは正しくジェットコースターの車両だった。

相変わらず、奇抜なデザインだが、問題はその座席に何者かが乗っていたことだ。

 

それは、デフォルメした丸い猫と、シルクハットに燕尾服、黒のステッキという、奇術師(マジシャン)の要素を合わせたようなキャラクターだった。

そのネコの奇術師は、ジェットコースターの座席から降りると、私にニヤニヤとした笑みを見せながら前を通り、正面に立つと、深々と礼をした。

 

こいつが私をこの場所に移動させた張本人だろうか。

どんな手品を使ったのかは、この際どうでもいい。

周囲を見渡せば、このジェットコースター乗り場には、雪が降り積もっていた。

相変わらず、この場所の気温は低い。

 

頭を上げたネコの奇術師は、薄ら笑いを浮かべたまま、背中のマントを翻し、自らを誇示するように両手を広げる。

すると、何処からともなく、クラッカーと共に、無数の青黒い影が飛び出す。

それは、私が最初に出会した着ぐるみが、青黒く染まったものだった。

 

──やはり、というべきか。

戦いはまだ終わっていない。

 

まるで、ネコの奇術師を守るように、隊列を組んだ着ぐるみ達は、両手の腕を展開し、その奥から銃身を飛び出し、銃口を向ける。

その様は、正しく兵士。

“恐怖の奇術師”が従える、“スランピアの兵士”を迎え撃つべく、私は身構えた。

 

****************************

 

イヴが奇術師と戦闘している頃。

 

スランピアの近くの廃墟に、二つの影があった。

片方は双頭の人形──マエストロ、もう一人は、コートに身を包み、遺影のような額縁を携えた杖を突く人物。

コートに身を包んでいると言っても、それは頭部は無く、側から見れば、コートが虚空に浮かんで杖を突いているようにしか見えない。

だが、そこには確かに、“何か”がいた。

 

二人──否、三人は、廃墟の窓が外れた四角の隙間から、青白い光を放って妖しく賑わうスランピアを眺めていた。

 

「この遊園地のある区画には、マジックショーを行っていたアミューズメントドールがいたそうです。大勢の観客の前で様々なトリックを披露し、人気を博していたようですが……」

 

「今はたった一人の為にショーを披露している、という訳だな。運が良いのか悪いのか…いや、彼女にとっては後者か。脅威には変わりないのだからな」

 

「ええ。複製(ミメシス)によって、顕現した存在には、我々であっても、操作はできませんからね。彼らはただ、元となる感情に従って、いつも通りの行いを──ショーを続けているだけに過ぎませんから」

 

「そういうこったぁ!!」

 

「だが、そこには少なからず、恐怖(テラー)の属性の影響が現れる。恐怖という“本質”に導かれるままに、人々に恐怖を振りまき、齎すように振る舞う、という訳だ。言わば、“恐怖のショー”とでも言ったところか」

 

「それならば、さしずめ、あのマジシャンは、“恐怖の奇術師(マジシャン)”とでも呼ぶべきでしょうか?」

 

「“恐怖の奇術師”、か…。上手いことを言うな、《ゴルコンダ》よ」

 

「あのマジシャンは、元々は観客がいなくなった今もなお、ショーを続けていました。彼女を自らの元に呼び込むまでは。しかし、呼び込んだということは、やはり、かのマジシャンもまた、観客が欲しかったのでしょうか?観測されなければ、芸術は境地に至ることはなく、意味もないのでしょうか?」

 

「…ふむ、実に興味深い難題だな。芸術とは観測されるからこそ芸術たり得るのか、それとも、観測されずとも芸術は芸術であるのか、か…芸術家である私に対して、随分と挑戦的な問い掛けだな。だが、面白い」

 

「多くの者の目に止まる大衆性と、一部の者にしか理解されない芸術性。対極に位置する、この相反した二つが融合した、“大衆芸術”は──成立するのでしょうか?」

 

「誰からも理解され、多くの者の目に止まる芸術、か。矛盾した、破綻とも言えるものだがはてさて──ゴルコンダよ、そなたはどう考えている?何か考えがあるのだろう?」

 

「おや、よろしいのですか?マエストロ。あなたの前で、芸術について意見を申し上げても」

 

「当然だとも。芸術家とは、他人の意見も聞くこともある。自身の殻に閉じ籠っているだけでは、見えてこないものもあるからな。周囲の取り巻く世界に触れて、インスピレーションが湧き上がることもある」

 

「そういうこったぁ!!」

 

「…ふふふ。そういうことであれば遠慮なく。

──私はただ、こう告げるだけです」

 

「例え観客のいないパフォーマンスであっても…観測されることのない芸術だったとしても──」

 

ショーは継続されるべき(The show must go on)

 

「そういうこったぁ!!」

 

「──であると」

 

「…ショーは継続されるべき、か。実にそなたらしい答えだな、ゴルコンダよ。ならば、我々も見届けようではないか──」

 

「この戦い(ショー)の行く先を。このショーが何処に至るのかを。そして、彼女を…何処に運ぶのかを、な──」

 

三人の会話はそこで途切れ、二人は再び、スランピアへと意識を向ける。

彼らは虚空を見詰めている。

しかし、それでも目に見えぬ眼で、彼らはきっと視ているのだろう。

 

多くの者たちが知らぬ戦いを。

 

この場にいる者たちだけが観ることができる、舞台(ショー)を。




シロクロに続き、ゴズとの連戦となります

当然、レイヴンに合わせた強化仕様となっております

満身創痍のレイヴンは、ゴズを倒し、スランピアに積もる恐怖を祓うことができるのでしょうか?
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