シロクロ撃破
連戦ゴズ
そう言えば、イヴが見る銃弾の線の予測や敵の攻撃範囲の予測は、イメージ的には隻狼の危険表示やAC6の警告赤マーカーが近いですね
ブルアカの戦闘のような、余裕をもって事前に表示される訳ではなく、攻撃が来る直前に出るようなイメージです
スランピアの兵士は十体。
そして、それらを相手している間に、ネコの奇術師が何もして来ない訳がない。
スランピアの兵士を倒しつつ、ネコの奇術師を相手取らなければならないが、そこで問題になってくるのが各武器の残弾数だ。
大通りでの着ぐるみの群れ、広場から次の通りでのビックリ箱の群れ、そして、シロとクロとの戦闘を経て、弾薬の残数は減少傾向にある。
SRは50%以上を保っているが、その他、AR、SG、HGは50%を切っている。
特に、牽制や追撃に用いるHG、一回当たりの使用数と使用頻度が高いARは30%程度しか残っていない。
SGは40%といったところか。
これらの残リソースを考えなしで使うことはできない。
出来ることであれば、その全てをネコの奇術師に叩き込みたいところだ。
そういう訳で、取り巻きの兵士には極力、銃を使わずに立ち回る必要がある。
緊急回避用の狼騎士の旋回が使用できないが、それはクイックステップで代用するしかない。
クイックステップは、取り回しがしやすく、使い勝手は良いものの、通常の回避よりも集中力を削り、また大きく体力を消耗する。
体力の消耗は、疲労の蓄積に繋がり、息切れを起こしやすくなる。
シロクロ戦でかなりの頻度で連続使用してしまったが、あれは今思えば、かなり迂闊だった。
とは言え、まさか新手が現れるとは…いや、これは言い訳でしかない。
とにかく、長期戦になれば、ジリ貧で色々と消耗している私が不利だ。
割といつも通りな気もするが、短期決戦で仕留めに掛かるしかない。
その為の、使えるリソースは全て使い切る。
クマ型の兵士が距離を詰めてくる。
数は四体。
残る六体のウサギ型は後方から支援射撃を飛ばし、私の動きを阻害して来る。
クマ型は普通の着ぐるみと違って、両腕を展開して中から飛び出した銃による射撃を行ってきた。
悪いが、お前たちに構っている時間はない。
私は懐から手榴弾を取り出す。
青い持続する炎を放つ、雷光弾。
それをクマ型へと放り投げる。
それはたちまち炸裂し、青白い炎がクマ型兵士を燃やす。
だが、耐久力が高い為、倒しきることは出来ない。
ネコの奇術師が指を鳴らす。
それを合図とするように、クマ型兵士は炎に燃やされながらも、腕を顔の前で交差する構えを取る。
すると、兵士の体にエネルギーのようなものが収束し、アサルトアーマーのようなものが放たれた。
しかし、それは周囲に拡散せず、私へと球体を保ったまま、飛んで来た。
無数のエネルギー球が迫り、更にはウサギ型も追い詰めるように連装ミサイルを放つ。
出来るだけ温存しておきたかったが、やむを得ず、クイックステップによってそれらを躱し抜ける。
更に、青い炎に燃やされたクマ型にトドメの手榴弾を投擲する。
通常のものだが、手負いにはそれだけで十分だ。
追撃の手榴弾の爆発を食らったクマ型兵士は、塵となって消える。
続けて残るウサギ型兵士を片付ける。
だが、その直前で、ネコの奇術師が横槍を入れて来た。
手足の付いた爆弾のようなものを放り投げ、それが私へと走り寄ってくる。
ウサギ型は構わず…むしろ好機とでも見るかのように、銃撃や連装ミサイル、グレネードを飛ばして来た。
ある程度は最小限の動きで躱しきる。
だが、“鴉の眼”に映る爆発の範囲から逃れる為には、クイックステップを使う他なかった。
だが、それを逃れれば、次は私のターンだ。
ウサギ型の兵士の隊列を組んでいるところへと突っ込み、蹴りで中央の二体を吹き飛ばす。
残る四体が銃口を向けてくるが、両脇のウサギ型の腕を掴んで引き寄せて衝突させ、そのまま頭を掴んで地面に叩き付けつつ、しゃがんで左右奥の兵士からの銃撃を回避する。
回避中、地面に叩き付けている兵士の頭を膝で押さえ付けつつ、素早く
銃撃が止んだところで、地面に押さえ付けていた二体の兵士の顔面を掴み、それぞれを遠心力を付けて左右の兵士へと立て続けに投げ付ける。
その先で、青白い爆発が起きた。
先程の“作業”とは、手榴弾の仕込み、だった。
その後、最初に蹴り飛ばした兵士の元へと駆け、起き上がっているところの一体に踵落としを見舞って潰し、残る一体を回し蹴りで横の壁に叩き付ける。
ずり落ちるところを再び頭を掴んで壁に叩き付けると、振り回して遠心力を付け、ネコの奇術師へと放り投げる。
ネコの奇術師は、手に持っていた爆弾を投げて、飛んで来た兵士を爆破した。
先制攻撃は失敗したが、その爆煙に紛れ、不意を付くように、私は背中のSRを握る。
取り巻きのいない今の内に、全てを叩き込み、倒す。
チャージし、爆煙が晴れると同時に、フルチャージのレーザーを見舞う。
レーザーは直撃するが、リアクションが薄い。
ネコの奇術師は、シロやクロよりも体格がいい。
それに応じて、怯みにくさも強いのだろう。
私の武器の中でもかなり強力なSRのレーザーで怯まないとなれば、基本的に怯まないと考えた方が良さそうだ。
攻撃の中断も難しいと思われる。
回避を意識しながらの攻撃が必要だ。
私は地面を蹴り、ネコの奇術師へと突っ込み、勢いの乗った蹴りを叩き込む。
やはり怯まない。
それどころか、豊満な腹肉によって跳ね返された気さえしてくる。
反撃に、ネコの奇術師はハットから手足の生えた爆弾を取り出し、それを投げると、一人でに走り出し、私の元へと特攻してくる。
だが、単体であれば問題ない。
ARを使った狼騎士の旋回で、ネコの奇術師を攻撃しつつ飛び退く。
ARの弾薬が更に減るが、ここは使い時だっただろう。
飛び退いた私は、ネコの奇術師の正面から向かって右側の線路の上に着地し、SRによる狙撃を見舞う。
チャージはせず、電撃弾を撃ち込み、更にクイックリロードを挟んでもう一発撃ち込む。
理想はSRの攻撃は全て、チャージしてレーザーで攻撃したいが、それに固執して取り巻きの増援が追加され、長期戦からジリ貧に持ち込まれては本末転倒だ。
それに電撃弾も決してダメージは悪くない。
ネコ奇術師の耐久を着実に削っているはずだ。
三発目を撃ち込んだところで、ネコの奇術師に違和感を覚える。
ネコの奇術師は、爆弾を投げることもなく、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。
──それを目にした直後、私は強烈な危機を察知する。
それは、私が立っている線路の奥、トンネルの中の暗闇の中に、光が見える。
私は咄嗟にクイックステップによって、線路上から外れた。
その直後、私が立っていたところをジェットコースターが通過する。
危うく轢かれるところだったが、どうにか逃れることができた。
ネコの奇術師の怪しい笑みは、今の攻撃を暗示していたのだろう。
しかし、良いことばかりではない。
ジェットコースターが通過した後、取り巻きの兵士が追加された。
先程よりも少ないが、それでも邪魔であり、脅威であることは違いない。
クマ型が三体、ウサギ型が五体。
更には、ネコの奇術師は爆弾を投げ、それが私へと向かってくる。
・・・なるほど。
取り巻きを処理しても、一定の間隔でジェットコースターが通過し、取り巻きが追加される。
そういった仕様になっているようだ。
それならば──。
「お前から先に始末してしまえば良いだけだな」
私は懐から手榴弾を取り出す。
高火力広範囲だが、神秘の属性は宿していない黒火炎弾。
それを向かってくる兵士と爆弾の中、爆発範囲にネコの奇術師を巻き込むように投げる。
盛大な爆炎が迸り、兵士を吹き飛ばす。
ネコの奇術師の爆弾は誘爆し、だが、兵士には影響が無いようだ。
よく出来ているものだ。
兵士が吹っ飛び、ネコの奇術師への道が開けたところで、私は真っ直ぐ突っ込んだ。
その勢いのままに蹴りを叩き込み、その反動で空中で身を翻し、左手のSGで二連射、着地と同時にクイックリロードを挟んで、更に二連射を浴びせる。
そこでいち早く立ち直ったクマ型兵士が、アサルトアーマーを飛ばしてくるが、それらをクイックステップではない普通のステップで躱し、無視してネコの奇術師へと向かう。
だが、ネコの奇術師も応戦し、爆弾を取り出す。
取り出した爆弾を投げる前に、ARで撃ち、爆発させる。
ダメージは無いだろうが、それでも、攻撃は止めた。
爆弾が無くなった手元を見て驚くネコの奇術師へと、ARの装填分を速射で叩き込む。
撃ち終わったところに、背後から銃撃が飛んでくる。
爆弾で吹き飛ばした兵士たちが体勢を立て直し、再び私へと攻撃して来る。
飛んでくる銃撃、ミサイル、グレネードを回避して行く。
だが、流石に全てを回避することはできず、銃弾が顔や手脚を掠め、爆炎の熱が肌を焼く。
兵士の攻撃は、青白いエネルギーだが、それらは全て、冷たかった。
凍ることはない。
だが、冷たい炎とでもいうべき冷気が、まるで炎のように肌を焼く。
その冷たさが、この一帯の気温を下げ、雪を降らせている原因なのか。
そんなことは一旦、どうでもいい。
この冷たさは、身体が動かなくなる。
このままでは戦えなくなる。
私は強硬手段に出る。
兵士の攻撃を回避する中、私は最後の雷光弾を取り出し、それを
青白い炎が迸り、爆炎によって吹き飛ばすことはなく、炎が広がり、残り続ける。
相手と同じ青白い炎だが、こちらは冷たいということはなく、しっかりと熱を生じている。
そして、それは私をも焼く。
熱く、苦しいが、これで冷えた身体が温まった。
また、拡がった神秘の炎は、兵士の元にまで届き、燃やしていく。
向こうは神秘に弱い特殊装甲。
一方、こちらは、耐性がある訳ではないが、ダメージを抑えられる軽装備。
互いに炎に炙られ続けるデスマッチ。
生が蝕まれ、死へと近付いていく。
──それだというのに、私は。
「どっちが先に倒れるか、我慢比べと行こうかァ!!」
生命の危機に瀕し、気が昂っている。
生を渇望する本能が、内なる獣の牙を剥き出しにする。
自然と口角が吊り上がり、目が見開かれる。
“猟犬の耳”も“鴉の眼”も、全てが私の命を繋ぐ為に、発揮される。
私の裡で熱く滾る“ソレ”は、生存本能というには、あまりに荒々しく、猛々しい。
──闘争本能。
生きる為に、敵を殺すという攻撃的防御機能。
ヒトという生物の原初に刻み込まれた、ケモノの
神秘の炎は、ネコの奇術師も巻き込んでいる。
こちらもダメージを負ったが、相応の恩恵も得ていると思いたい。
兵士は神秘の炎に燃やされている。
今はネコの奇術師に畳み掛ける。
SGをリロードし、ネコの奇術師へと駆ける。
爆弾は先程、破壊したばかりだ。
すぐには取り出せない。
それとも、取り出さないのか。
どうだっていい。
今はただ、コイツにありったけを叩き込む。
疾走からの蹴りを打ち込み、続けて、SGを二連射。
至近距離で、SRを食らわせる。
その間にSGをクイックリロードで装填数を増やし、更に二連射。
SRをクイックリロードして近距離で撃ち込む。
それだけの熾烈な攻撃を浴びせても、ネコの奇術師は一切、動じない。
だが、着実にダメージは蓄積させているはずだ。
そこで、背後から銃弾が飛ぶ。
どうやら兵士連中が立ち直ったらしい。
数は減っているが、四、五体ほど残ってしまっている。
ジェットコースターもそろそろ、二回目が来る頃合いだ。
ここに先程と同じ数だけ追加されれば、十二、三体ほどになるか。
厄介だが、リソースが限られる今、纏めて吹き飛ばした方が早い。
今は取り敢えず放置だ。
銃撃と爆撃が飛び交う中、私はネコの奇術師を攻め立てる。
クイックステップで銃撃を躱し、SGをリロードしつつ、HGにチェンジする。
SGは暫く温存だ。
ここからは、HGとSRの神秘属性で攻め立てる。
そこで、足元にグレネードが飛んでくる。
ウサギ型兵士のものだろう。
咄嗟に回避するが、冷たい爆風に煽られる。
「……っぐ!!」
口から呻き声が漏れる。
しかし、その後すぐに、口角が吊り上がることを感じた。
私の意志に反して、身体は悦んでいる。
この激闘の中。
命が危うい死闘の中、それを愉しんでいる。
意志に反して……いないかもしれない。
心の奥深くでは欲している。
より強く、濃い、死線を求めている。
それが現れているからこそ、口元が悦びに歪むのかもしれない。
口の端から、唾液が垂れる。
それはまるで、獲物を前にした獣が舌を垂らすように。
それを舐め取り、私は倒れぬように、地面を踏み締める。
「…もっとだ…もっと私を追い詰めろ…!もっと私を──楽しませろッ!!」
地面を蹴り、ネコの奇術師へと特攻する。
ネコの奇術師は、一つ覚えで手足の生えた爆弾で攻撃しようとする。
──つまらない。
お前も仮にも猫なのならば、もっと牙を剥き出しにして喰らい付くくらいしても良いだろうに。
取り巻きの数とチャチな横槍だけか。
所詮は人形。
人に作られた被造物──紛い物に過ぎないという訳か。
私は奇術師人形が取り出した爆弾を蹴り上げる。
爆弾は天井にぶつかって爆発する。
脚を振り上げた体勢から、私は体を捻って回し蹴りを叩き込む。
その直後、先程とは反対側の線路をジェットコースターが通り過ぎる。
思った通り、取り巻きが追加される。
その数は先程よりも増えた十体。
残っていた取り巻きも含めれば、兵士の数は十五体といったところだ。
クマ型の兵士の球状のアサルトアーマーが、私の着地を狙って飛んでくる。
それを咄嗟のクイックステップで回避するが、そこへ銃撃と爆撃が殺到する。
全ては回避し切れない。
ダメージを最小限に留める努力をして弾幕を潜り抜ける。
私の身体に傷が増え、冷たい炎の冷気が蝕む。
「…ッ!!あァァぁぁぁぁああああああアアアッ!!!」
痛みと冷たさでの身体の鈍りを振り払うように裂帛の咆哮を上げ、私は地面に強く脚を叩き付ける。
懐から手榴弾を取り出し、食い千切るようにピンを抜くと、兵士の群れへと放り投げた。
黒火炎弾の爆発は、取り巻きを吹き飛ばし、散らす。
攻撃が止んだ中、一人佇む私は、肩で息をしつつも、胸を反らす。
「あはっ…アハハハハハ…!ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
いつぞやのように、私は昂る感情を抑え切れず、笑い出してしまった。
──楽しい。
追い詰められているのに、絶望的な状況なのに、死ぬかもしてないというのに。
かつてのルビコンでの数々の激闘、死闘を呼び起こさせる現状が、酷く愛おしく、心地良い。
全身に突き刺さる死の予感すら、快感を感じる。
それと同時に、私は思ってしまう。
嗚呼…私は結局、何処に居ても、戦いを求める人間だ…。
私の本質は、どうしようもない戦闘狂いなのだと…。
だが、逆にそれに気付いたお蔭で、今はとても清々しい。
透き通る青空のような、晴れやかな気分だった。
お蔭で──。
「あなたの攻撃も良く見える」
私が背を向けていることを良いことに、奇術師人形が飛ばして来た爆弾。
しかし、晴れ渡り、透き通るような研ぎ澄まされた感覚の中、私はそれを捉えていた。
特攻してきた爆弾の背後を取る。
爆弾は私の背後で空しく爆発した。
「もう、終わりにしましょう。この戦いも、あなたの
名残惜しいが、私の限界も近い。
それに、どんなものにも、いつかは終わりが訪れるものだ。
永遠なんてものは存在しない。
それならば、私自身の手で終止符を打つ。
取り巻きが体勢を立て直しつつあるようだが、関係ない。
その前に畳み掛ける。
地面を蹴り、奇術師人形へと肉薄する。
蹴りを打ち込む。
更に、蹴りを叩き込む。
立て続けに、回し蹴りで畳み掛ける。
奇術師人形は動じないが、そんなことは関係なしに、両手の銃の弾丸を叩き込む。
SRの電撃弾を撃ち込み、HGを連射する。
その間にSRをクイックリロードし、HGが撃ち終わった後に撃ち込んだ。
すると、これまで一切、動じることがなかった奇術師人形が初めて、尻餅を付くように倒れる。
倒したのか?
そう思ったのも束の間、周囲が暗くなり、その中で奇術師人形の顔のパーツだけが怪しく浮かび上がり、暗闇の中で嗤う。
強風が荒れ狂い、無数のトランプが舞う。
その間に、私は落ち着いて銃をリロードする。
風が収まり、闇が晴れると、また場所が変わっていた。
どこかの建物──城の屋上と思われる場所は、深い青と黒の石材で床や壁が作られており、相変わらず雪が降り積もっている。
私の八方を囲うように、仕切りの壁を設けた舞台が並び、その一つひとつに奇術師人形の姿が現れる。
つまりは、合計八体の奇術師人形に囲まれている。
だが、こんなものは所詮、子供騙しだ。
一体だけが本物で、他すべてが幻術なのだろう。
しかし、私の本能は捉えている。
幻術に隠れたつもりの本体を。
奇術師人形は、シルクハットから先程までと同じように手足付きの爆弾を取り出している。
本体も偽物も、全く同じタイミングで同じ動きをする為、八つの爆弾が現れたことになる。
それら全てが、私の元へと特攻する。
一つだけが本物──という訳でもなく、私の本能は全てに危険判定を示している。
私は特攻してくる爆弾を飛び越え、本体の元へと向かう。
背後で無数の爆発が発生した。
いつも通り、突進からの蹴りを叩き込み、HGで装填したありったけの銃弾を叩き込む。
すると、奇術師人形は、背中のマントで体を多い、姿を消す。
HGをリロードしつつ、周囲に目をやれば、どうやら転移したようだ。
なるほど。
こうやって逃げながら移動し、幻術の中に隠れて、攻撃する訳か。
まあ、そういう戦い方もあるだろう。
卑怯だなんだと喚くつもりはない。
戦いなのだ。
どんな手段でも使うべきだ。
私としては、全く面白くないが。
再び現れた奇術師は、今度はシルクハットを巨大化させる。
一つだけが当たりのコイン、その他は全てハズレの爆弾。
それらをハットで隠し、シャッフルする。
ようやく手品らしいことをし始めたな。
八つのハットがシャッフルされ、中身がお披露目される。
私はしっかりと目で追ってコインのハットの前に立っている。
コイン入りのハットは本体の前に来ていた。
このまま攻撃しても良いが、折角だし、見てやろう。
開かれたハットは、間違いなくコインだった。
そして、その他のハズレは、爆弾が爆発するどころか、電撃、大玉、バネ付きグローブというラインナップ。
因みに、ハットの真ん前に居れば、真後ろから飛んできた大玉もギリギリ当たらずに止まって消える。
手品も見てやったことだし、と私は心置きなく攻撃に移る。
突進からの蹴り、HGをありったけ叩き込む。
これでHGは完全に弾切れ、残弾ゼロだ。
奇術師人形が再び姿を消し、転移する。
さて、次は一体、どんな攻撃を仕掛けてくるのか、と思えば、奇術師人形たちの正面の広場に、八色のスポットライトが当たる。
ただのスポットライトである訳もなく、その内の七つからは本能が危機を察知している。
一つだけが“当たり”──ダメージを受けないというもののようだ。
広場のスポットライトの色に対応するように、同じ色のライトで照らし出される奇術師人形。
その中の本体に対応した色のスポットライトが“当たり”、といった仕様のようだ。
私は、本体と同じ色の青色の中に踏み入る。
それと同時に、SRのチャージを始める。
私が踏み入ったスポットライトが照らし出す地面以外が爆発する。
凄まじい衝撃と振動、爆風だ。
これに巻き込まれれば、私などは万全でも最悪、死の可能性も十分にあり得る。
だが、そうはならなかった。
私の本能が、死を嗅ぎ分け、遠ざけた。
爆煙が晴れたところで、本体へとチャージレーザーを撃ち込む。
それによって、奇術師人形は、その場に尻餅を付き、行動不能となる。
これで片を付ける。
クイックリロードしたSRをチャージし、レーザーを撃ち込む。
青白い雷光が収束した閃光が、奇術師人形を打つ。
それでも倒れない。
だが、SRは二度のチャージレーザーによってオーバーヒート状態。
使うことは出来ない。
──いや、使うことは出来る。
ただし、間違いなく、銃身がイカれることになる。
それでも、今は目の前の敵を倒すことが先決だ。
武器は、あくまでも道具。
本当に必要な時には、活用するべきだ。
例え、壊れてしまうとしても。
私はクイックリロードを挟み、三度目のチャージを開始する。
銃がカタカタと震えている。
青白い稲妻と共に、各部から火花が散る。
やがて、僅かな振動と共に、稲妻が収まる。
フルチャージが完了した合図。
その瞬間、私は引き金から指を離した。
収束したエネルギーが、真っ白な一筋の閃光となって迸る。
奇術師は、避けようともしていなかった。
避けようがなかったと言えばそれまでだが、私と銃口を見詰めたまま、相変わらずの笑みを浮かべたその姿は、まるで満足気なようにも見えた。
それは、私という観客の前で、ショーをやり切った満足感、或いは達成感からだろうか。
高熱と破壊の奔流が、奇術師の姿を掻き消す。
背後の建物をも貫いたところで、ようやく収まるが、代わりに今度は立っている建物が揺れ始める。
地震かと身構えるが、そうではなかった。
建物ではなく、空間そのものが揺れていた。
それに気付くと同時に、周囲の建物の景色が真っ白に染まる。
その眩しさに手を前に翳し、目を細める。
光が収まると、そこは元のシロとクロと戦った広場だった。
私はずっと、彼の幻術──いや、マジックの術中にいたようだ。
私は戦闘中、彼を紛い物と評した。
人の被造物に過ぎない人形だと侮った。
訂正しよう。
彼は紛れもない、一人の
例え、それが複製されたものだったとしても。
私はそうだと、信じたい。
辺りには、朝日が差し混んでいた。
戦っている内に、夜が明けてしまったようだ。
あのマジシャンを倒したからか、それとも夜が明けたからか、スランピアはすっかり、元の寂れた遊園地の廃墟へと戻っていた。
一先ずは、これで異変は解決、と見て良いのかもしれない。
要経過観察ではあるが、暫くは心霊騒ぎは鳴りを潜めるだろう。
終わったと感じた瞬間、私はドッと疲労に包み込まれ、その場にへたり込んだ。
負傷の影響もあって、身体中が内外から痛み、一歩も動く気にもならない。
ここは、私に全てを丸投げした依頼主に頼るとしよう。
端末を取り出し、その依頼主へと連絡した。
「おはようモモカ。一晩丸々、私に仕事を丸投げして呑気に安眠を貪って、翌朝の日の出と共にモーニングコールで起こされた気分はどうだ?…取り敢えず、任務完了だ。一歩も動けないからヘリを手配してくれ。座標は送るからピッタリで頼む」
その後、事の顛末を話し、慌てふためくモモカが手配したヘリに救助され、私は連邦生徒会へと帰投した。
これにてスランピア編終了となります
次回からは、引き続きエデン条約編の内容に入っていきます
…が、しばし更新が途絶えるかと思います
ご理解の程よろしくお願いします
では、禁足地での試し狩りが終わった頃に、またお会いしましょう