スランピア攻略
お久しぶりです
本日から、また更新を進めていきます
という訳で先ずは導入から!
スランピアでの依頼から数日後。
私はミレニアムのエンジニア部に訪れていた。
「これはまた…」
「派手に壊しましたね…」
目的は、スランピアでの依頼中に壊れて──壊してしまった装備品の修理を依頼する為だ。
本当なら、依頼終了の当日に少し休んでから来たかったのだが、報告が行ったであろう先生から要静養を言い渡され、仕方なく数日、自宅で大人しく休んでから、ようやく、こうして歩き回ることを許された。
確かにかなりの大怪我だったが、少し休めば回復するというのに、先生は大袈裟だ。
今も、歩き回るのは許されたが、依頼やら戦闘に関しては、少なくとも今日一日は禁止されている。
風紀委員会にも先生から話が通っているのか、安静にするようにとのお達しがヒナ直々に出ている。
そういう訳で、暇を持て余した私は、装備のメンテナンスの為に一日を費やすことにした。
SR以外にも、先の依頼で酷使したショットガンやアサルトライフルも、レンカに整備を頼んでいる。
今、私の手元にあるのはハンドガンだけだ。
HGだけは、私の静養中に整備を終えている。
SRだけは、エンジニア部製の為、こうしてミレニアムに赴く必要があった。
散歩のついでにはむしろ、丁度いい。
エンジニア部を訪ね、SRを出した時に、それを覗き込んだウタハとコトリは、顔を青ざめさせる──ということもなく感心したように、先の言葉を呟いた。
「レイヴンさんが武器を犠牲にしなければならない程に追い込まれるとは…余程の強敵だったようですね!」
コトリは武器を眺めながら、その身に刻まれた激戦の痕跡を読み取る。
「直せそう?」
SRを覗き込む二人の後ろから声をかければ、ウタハが唸りながら口を開く。
「直す、か。それよりかは、“
そう言ったウタハは、自身に満ちた顔を向けて来た。
「……」
私は無言でウタハを見詰める。
「おっと、そんなしかめっ面で睨まないでくれ。以前と同じような轍は踏まないさ。順当に真っ当な、このSRの改良案が進んでいてね。それを元に、
そういうことならば、と私は一先ず納得する。
「それでは、早速作業に取り掛かりますね!」
コトリはスナイパーライフルを抱え、奥の作業スペースに向かった。
「だけど、その為にも暫しの間はこの子を預かる必要がある。代用銃は必要かな?」
私は暫し考え込み、首を振る。
「いや、問題ない。他の武器はすぐに整備を終えるだろうし、仕事も無いからね。当分は間に合う」
静養の件で、当面の仕事はキャンセルとなった。
お得意様の風紀委員会が少しばかり心配だったが、元々、私が風紀委員代行として暴れ回っていた影響もあって、ゲヘナの治安は現状はさほど問題無いのだそうだ。
あの問題児筆頭の美食研究会も最近は鳴りを潜めているという。
何かを画策している可能性もあるが、何もしていない現状では、風紀委員会と言えど、手出しは出来ない。
「ああ、例の専属技師か。実に興味深いね。レイヴンのお眼鏡にかなう技術士であれば、是非とも一度、言葉を交わしたいものだよ」
レンカと会話、か…。
どうだろうな。
アイツは調子の良い時は絶好調だが、悪い時はとことん最悪だ。
絶好調の時であれば、以前のシロコの時のように誰が相手でも一切の物怖じを見せないが、最悪の場合だと誰かの気配を感じ取っただけで小動物のように姿を隠してしまう。
ブラックマーケットでのマーケットガードに追われていた生活の影響なのだろう。
「気難しいヤツでね。一応、提案はしてみるけど、あまり期待しないでくれ」
そもそも、アイツは根っからの頑固職人気質だ。
他人との交流を積極的に望むとは思えない。
況してや、外出──自身から赴くなど、以ての外だろう。
「そうか。それは残念だ」
ウタハは心底から残念そうに肩をすくめる。
ふと考える。
エンジニア部とレンカ。
もし、この組み合わせが一堂に会してしまったら…。
いや、流石に考え過ぎだろうか?
そうとも言い切れないことが不安を増大させる。
この一組と一人は、出会わせてはいけないのではないだろうか。
「レイヴン、お待たせ」
そんなことを考えていたところに声を掛けてきたのはヒビキ。
その手には私の制服が乗っている。
エンジニア部を訪れたもう一つの理由が、破けた制服の修繕だった。
以前、ヒビキは裁縫に明るいと聞いていた為、その腕を見込んでの依頼だった。
本来なら、連邦生徒会の制服である為、この制服を作成したところに持っていくべきなのだろうが、それには元の依頼者の先生を通す必要があるとのことで、今はそれが難しい為、ヒビキを頼ってみたのだった。
当然だが、制服──というより、布物の修繕はレンカの専門外だった。
因みに、今の私は予備の制服を着ている。
「破けたのを直すだけなら私でも問題なさそう。この制服も預からせてもらうことになるけど良い?」
私はほっと胸を撫で下ろす。
ヒビキがダメとなれば、忙しいであろう先生を頼る他なかった為、これは朗報だった。
「うん、この通り、予備はあるから」
予備を確保しておいたことが功を奏した。
一応、私服でも戦えないこともないが、やはり制服とは所属を表す記号だ。
仕事は出来るだけ制服で行いたい。
それに、制服は上下とも肌が出ない長袖の上着とパンツスタイルである為、肌をある程度は保護する役目もある。
制服で動けるメリットは非常に大きい。
コトリとヒビキは、それぞれ、仕事に取り掛かり始めている。
とは言え、彼女たちにも他にも色々とやる事はあるはずだ。
そう直ぐには完成しないだろう。
気長に待つことにしよう。
「それじゃあ、私の装備をどうかよろしく頼む」
今日のところは、一先ず帰ることにする。
長く居座って、彼女たちの作業の邪魔をすることも忍びない。
「任せてくれ。最高の仕上がりにしてみせるよ。──ところでレイヴン」
自信に満ち溢れたウタハの笑顔を横に、背を向けようとしたところで、ウタハは続けて話題を振ってきた。
「ん?」
私は足を止めてウタハに振り向く。
「君はここの所、ずっと仕事詰めだったんだろう?今日くらいはゆっくり羽を伸ばしたらどうだろう?まあ、生憎と天気予報は雨のようだが…」
確かに、明日以降はまた依頼が届き始め、仕事に追われる事になるだろう。
羽を伸ばすのであれば、今日しかその機会はない。
「そうだな…何かオススメの場所とかはある?」
だが、せっかくの休日に家に籠るというのも違う気がする。
せっかくなので、外を歩き回りたい。
ただし、ウタハの言う通り、今日一日はキヴォトスの広範囲で雨雲が発達して雨の一日だ。
ミレニアム周辺はまだ小雨程度だが、トリニティは酷い雷雨に見舞われているという。
夕方から夜にかけては晴れるらしいが。
「オススメの場所と言われると迷うが…あっ、そう言えば、今、トリニティのアクアリウムでは珍しい黄金のマグロが展示されているらしい。入場料はそれなりに高いが、一見の価値はあるんじゃないか?そうじゃなくても、水族館であれば、天候もあまり関係ないだろう。屋外のショーとかは観れないだろうけど…」
どの道、私では他に良い場所も思い付かないし、雨では行ける場所も限られる。
それに、アクアリウム──水族館は前から興味があった。
水族館で休日を過ごすのも悪くない。
折角の休日なのだから、普段は出来ないことをやるのも良いだろう。
「ありがとう、参考にさせてもらうよ」
どうせなら、雨が上がった頃に到着するようにゆっくり向かうとしよう。
トリニティはあまり訪れたこともない。
観光には持って来いだ。
「参考になったのなら何より。折角の休日だ。存分に堪能してくれ」
私はエンジニア部に別れを告げ、外に出た。
雨足が強まりつつある。
雨が上がるという夕方まで、今から出発してもまだ時間がある。
時間潰しもかねて、私はゲーム開発部に顔を出すことにした。
「あれー!?イヴさんじゃん!久しぶり〜!」
「こんにちは、イヴさん。今日はどうしたんですか?」
「どうせなら一緒にゲームでもしましょう!イヴ!」
「えへへ…イヴさんが相手でも手加減しませんからね…!」
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思いの外、ゲーム開発部での対戦ゲームが盛り上がってしまい、予定よりミレニアムを出発する時間が遅れてしまった。
だが、そのお蔭で雨はすっかり上がり、地面は濡れているものの、雨上がりの澄み切った空の下、私はトリニティへと発つことができた。
トリニティに到着した頃には、日もすっかり落ちていたが、星が瞬く夜空の下で煌々と光を放つトリニティの街並みは、ミレニアムやD.Uとも違う美しさだった。
ゲヘナと同じく、エデン条約の当事者であり、目前に控えているとは思えないような、落ち着いた雰囲気だった。
治安も悪くなさそうで、街中の通りを歩く人々の様子は穏やかだ。
トリニティには、ゲヘナの風紀委員会のような正義実現委員会と自警団の二つの治安維持組織があるらしいが、それらの努力の賜物だろうか。
この様子であれば、確かにシャーレに届く依頼が少ないことにも頷ける。
そもそも、ゲヘナのように生徒の気性も荒くないだろうし。
今日は落ち着いてゆっくり羽を伸ばせそうだ。
私はアクアリウムまでの道すがら、カフェで少し遅めの夕食を取る。
トリニティらしく、他の自治区に比べて良い値段をしているが、折角の観光なのだし、そういうものだと割り切って、値段は頭の片隅に寄せ、料理の味を楽しむことにした。
そう言えば、先生の仕事の進捗はどんなものだろうか?
以前、シャーレで聞いた話は中々に不穏な空気を漂わせていたが、上手くやれているのだろうか?
心配、と言うよりは興味に近い感情だ。
私が先生の仕事の心配をするなど、おこがましいにも程がある。
まあ、強いて言えば、生命の心配くらいか。
先生は割と生徒の為と言って、無理をする
厄介事に巻き込まれるどころか、自分から首を突っ込んでいくだけに、どんな連中に目を付けられているか分からない。
今、先生の周りにどんな生徒たちがいるのかは分からないが、ホシノやヒナとまではいかなくとも、シロコやイオリくらいには戦える生徒がいて欲しい。
私としても、先生に怪我をされては寝覚めが悪い。
ましてや、その生命が失われるなど、以ての外だ。
「……はぁ、いけないな…」
眉間を押さえながら、小さく独り言ちる。
羽を伸ばすつもりだったのに、すっかり仕事に関連することで頭の中を支配されている。
先生なら大丈夫だ。
これまでも、どんな危険の中でも先生は切り抜けて来たのだから。
頭を切り替え、仕事の考えを振り払う。
そう言えば、トリニティと言えば、ヒフミはどうしているだろうか?
彼女も先生がトリニティに来ていることを知っているはずだ。
案外、先生が面倒を見ている生徒の中に彼女も含まれているかもしれない。
彼女が先生のそばにいるのであれば安心なのだが。
とは言え、彼女もいまだに明かされない謎が多い。
トリニティの生徒にも関わらず、ブラックマーケットを彷徨いていたり、その環境に詳しかったり、それにヒフミはどうやらトリニティのトップであるティーパーティーと関わりがあるようだ。
彼女は自身をいち生徒に過ぎないと言っていたが、その真偽は不明だ。
「……」
考え過ぎだ。
それに、仮にヒフミが只者ではなかったとしても、ブラックマーケットで協力し、その後のカイザーPMC理事との戦いでも応援に駆け付けてくれたことは紛れもない事実。
そんな恩人を疑うなど、ルビコンであれば兎も角、このキヴォトスに於いては不要だ。
これ以上は考えを深めるだけ無駄だ。
私は思考を上書きするように、端末でアクアリウムを調べながら、その情報を眺めつつ、目の前の料理に舌鼓を打った。
デザートのケーキまで堪能し、会計を済ませると、私は改めて、黄金のマグロ──幻の魚と銘打たれた《ゴールドマグロ》に少しだけ胸を躍らせ、アクアリウムへと向かう。
──その途中、ゲヘナの風紀委員会から緊急依頼が舞い込んできたことで、私の短い休日は幕を閉じるのだった。
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ゲヘナ風紀委員会からの依頼は、ヒナ直々のものだった。
『こんばんは、レイヴン。
静養中のところ、ごめんなさい。
これは私達ではどうにもできない、あなたにしか出来ない依頼。
本当に心苦しいのだけれど、あなたを頼る他なかった。
これは、どうしても看過できない問題なの。
このエデン条約を控えた今は、特にね。
だから、どうか力を貸して欲しい。
いつも助けてもらっておきながら、本当に情けないのだけれど…。
依頼の内容に入るわ。
ついさっき、情報部から入った情報なのだけれど、美食研究会がトリニティ自治区内のアクアリウムを襲撃したらしいの。
連中は、展示されていた《ゴールドマグロ》を奪って逃走中。
正義実現委員会に追われながらトリニティ内を《給食部》の車両で走り回っているそうよ。
ゲヘナの生徒がトリニティの自治区内で問題を起こした…これは下手をすれば後に控えたエデン条約にも影響しかねない問題よ。
とは言え、
その行為そのものが問題になってしまうから。
だから、そこでレイヴンに力を貸して欲しい。
申し訳ないないのだけれど、レイヴンがトリニティ自治区内にいることは把握している。
あまりにもタイミングが良過ぎだと思うだろうけど、これは本当に偶然、情報部がレイヴンの姿を見つけたことがきっかけなのだけれど…常に見張っているとかではないわ。
まあ信じるか信じないかは貴女次第。
現場の正義実現委員会に協力して、美食研究会の連中を捕縛して。
その後は、私たちが捕縛した連中の身柄を引き取るから。
ただ、あくまでもゲヘナの風紀委員代行としてではなく、シャーレの特務戦闘員として振る舞って欲しい。
要求が多い依頼だけど、どうかお願い、レイヴン。』
依頼に一通り目を通し、私は考え込む。
美食研の連中か…。
最近、大人しいと思っていたが、よりによってこんなタイミングで、しかもトリニティで問題を起こすとは。
エデン条約を控えている手前、風紀委員会も気が気ではないだろう。
私を見付けた件については、本当に偶然だったのだろう。
普段から協力している私を今更、わざわざ監視する必要は無いだろうし、組織的にもそんな余裕があるとも思えない。
そもそも、本当に私を尾行して監視しているのであれば、私の“耳”が捉える。
美食研を追っていて、その最中で私を見付けたのだろう。
疑う必要は無さそうだ。
依頼に関しても、私としては、協力することには吝かではない。
元より、退屈凌ぎの暇潰しの観光であり、その目的地が襲撃されたとなっては、現場は混乱状態でゆっくり見て回ることはできないだろう。
どの道、依頼を受けなくとも、帰る以外の選択肢はない。
だが問題は、私の装備だ。
装備品の殆んどを各所に預けたままで持っておらず、最低限のHGのみという武装。
本来の武器を入れ替える立ち回りが封じられている。
HGだけでも戦うことが出来ない訳ではないが、私本来の実力は十全には発揮できない。
そこで重要になってくるものがやはり、正義実現委員会との連携だろう。
とは言え、風紀委員会との協働とは違い、正義実現委員会と連絡を取る手段はない。
一先ず、正義実現委員会に追い回されているという美食研究会の連中を見付ける必要がある。
そこにはきっと正義実現委員会も何人かはいるだろう。
シャーレからの協力者であるということをその場で示せば、向こうも無碍にはしないハズだ。
可能であれば、おそらく正義実現委員会にも知り合いがいるであろう先生の口添えがあればスムーズに事が運びそうだが、巻き込む訳にはいかない。
案外、この街のどこかにいて、巻き込まれているか、自分から首を突っ込んでいる可能性もあるが、まあそれは別として。
私は周囲を見渡し、近くの路地裏に入る。
建物と建物の壁を蹴って屋上へと駆け上がると、気配や戦闘音を探りながら、屋根伝いに街中を巡り始めた。
次回、美食研捕獲作戦です
美食研は問題児だらけですが、みんな魅力があって憎めないです
まあ、それはそれとしてレイヴンの前に立ちはだかったら容赦はしませんけどね!