ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

美食研捕縛


EP-13 新たな視点、異なる視座

美食研の面々を捕縛し、この夜の騒動は鎮まった。

その連絡が来ると、私は簡易なショートメッセージでヒナに事態の収拾を報告した。

すぐに返信が届き、了承の旨だけが簡潔に纏まっていた。

 

その後、私は先生の連絡を受け、指示された場所に向かえば、そこには先生とヒフミを初めとした、あの場に現れた生徒たちが揃っていた。

 

「お疲れ様でした。先生、それから、“補習授業部”の皆さん。そして、はじめまして、レイヴン。私は正義実現委員会“副委員長”、《羽川ハスミ》です。先生と補習授業部の皆さんの協力、そして何より、レイヴンの足止めのお蔭で、無事に収拾することができました」

 

長身の黒髪の生徒改め、羽川ハサミは腰を折って丁寧に頭を下げる。

 

「…頭を上げてくれ。むしろ、助かったのはこちらだ。助力、感謝する」

 

HG一つで、あの時の美食研を相手取るとなったら、こちらにも余裕がなく、加減できずに暴れ回るハメになっていたかもしれない。

風紀委員会の依頼を受けた私がトリニティでそのような悪目立ちをするのは、好ましくなかった。

結果的に、先生たちが来てくれて良かったのは私の方だ。

 

「あ、あはは…途中からはもう、無我夢中という感じでしたが…。イヴさんが相手の方々を追い詰めてくれていたお蔭ですかね…」

 

聞いた話によれば、あの後も美食研は諦めずに先生と補習授業部、正実を相手に最後まで抵抗を続けたのだそうだ。

最終的には、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに逃げ始め、各個撃破もとい捕縛されたんだとか。

 

「正義実現委員会の戦術を目の前で見ることができて、良い勉強になった。できれば、噂に聞くレイヴンの戦い方も見てみたかったけど」

 

白銀の髪の少女が私に熱い視線を向けてくる。

髪色も相まって、どこかシロコを彷彿とさせる。

私の戦い方など、人に見せるようなものではない。

 

・・・シロコが私を真似て戦闘中の足癖が更に悪くなったとホシノが愚痴っていたが、そればかりは私ではどうすることもできない。

 

私は取り敢えず、その少女に微笑み返しておいた。

 

「や、役に立てたかどうかは分かりませんが…!」

 

正実の制服を着た小柄な少女がオロオロとしながらも嬉しそうにしている。

正実の制服だが、彼女は他の委員と違って補習授業部の一員のようだ。

まあ、色々と事情があるのだろう。

 

「ところで、あの方々はこの後どうなるのですか?」

 

そう訊ねたのは、補習授業部最後の一人、桃色の長髪の生徒。

おっとりとした口調で、思慮深そうな落ち着いた雰囲気からは、彼女が補習授業、ひいては、以前に先生がこぼした、裏切り者の疑いをかけられるような人物にはとても見えない。

しかし、間違いなく、この四人が今、先生が面倒を見、救おうとしている生徒なのだろう。

或いは、本当にこの中に、トリニティの裏切り者がいるのかもしれない。

 

「本来ならば私たちの方でこの後の処遇を決めるのですが…今回は時期が時期ですので、ゲヘナの風紀委員に託そうかと」

 

トリニティ──ひいては正義実現委員会も今回の件をこれ以上、大事にはしたくないのだろう。

ヒナも依頼で美食研の処遇は自分達に任せて欲しいといった旨の内容を言っていたし、ちょうど良い。

 

「そこで、先生、それからレイヴンにも、もう一つお願いしたいことがあります」

 

[“うん、何をしたらいい?”]

 

おおよその検討はついているが、私も先生に並び、羽川の言葉を待つ。

 

「エデン条約のことを考えると、ここから先も私たちが能動的に動くのは少々避けたいところです。ですので、風紀委員への引き渡し…この部分をお二人にお願いできませんでしょうか?“シャーレ”が生徒を引き渡す、この形でしたら、私たちにとっても、ゲヘナ側にとっても、政治的な憂慮がだいぶ減るのです」

 

考えていた通りの内容だった。

エデン条約を控えているトリニティ、ゲヘナの両陣営にとって、今は互いに、非常に神経質にならざるを得ない時期だ。

そんな時に起こったトリニティ自治区内でのゲヘナ生徒の騒動。

生徒の引き渡しという単純な行動に於いても、些細なキッカケで“破綻”が起こりかねない。

しかし、シャーレという中立の第三者であれば、その心配も必要ない。

引き渡しはスムーズに完了されるだろう。

 

[“分かった、任せて。イヴも良いかな?”]

 

「うん、問題ないよ」

 

むしろ、現場への立ち合いはこちらにとっても好都合だ。

仕事の完了をこの目で確認できるのだから。

 

「はい、何から何までありがとうございます、先生、レイヴン。それでは、私たちは一旦、退いた位置にいますので…よろしくお願いいたします」

 

その後、私と先生は、美食研の身柄引き渡しの為、トリニティとゲヘナの自治区の境界に位置する大橋へと向かった。

 

****************************

 

大橋に降りると、先んじて私が報告していたからか、ゲヘナ学園の校章が刻まれた一台の車両が停まっていた。

救急車を思わせる、後部座席が広々としている車両だった。

 

その中から、一人の生徒が降りてくる。

 

「お待ちしていました。死体はどこですか?」

 

[“…え?”]

 

開口一番、思わぬ言葉を告げられ、先生が困惑する。

私は報告に手違いがあったのかと内心で不安に駆られるが、それはすぐに解消された。

 

「…失礼。死体ではなく負傷者でしたね。たまに混同してしまって」

 

制服から、おそらく救急医学部かと思われるが、さすがはゲヘナ。

医療従事者に至るまで普通ではないようだ。

 

「えー…納品リストには、新鮮な負傷者4名と人質1人…と書かれてましたが」

 

“納品”だの“新鮮”だの、不穏な単語が次々と飛び交い、先生の困惑が加速する。

私はもう、キヴォトスはそういうものなのだと諦めの境地に至っていた。

 

[“新鮮な…?”]

 

「…ところであなた方は?正義実現委員会ではなさそうですが…?」

 

[“えっと…”]

 

一応、私は風紀委員代行の腕章がある為、それを見せればいいかもしれないが、この場には相応しくない。

そして、その必要はなかった。

ゲヘナの車両の扉が開き、誰かが降りてきた。

 

「その方が“シャーレ”の先生。それと、特務戦闘員のレイヴンよ」

 

聴き覚えのある声と共に姿を現したのは、他でもないヒナ自身だった。

 

[“ヒナ!”]

 

「久しぶりね、先生。それと、レイヴンもお疲れ様」

 

多忙の身でありながら、わざわざ委員長自ら出向くとは。

他の委員…例えばイオリなどでも良いだろうに。

或いは、私に依頼した手前、自ら出向かなければいけないとでも思ったのだろうか?

それとも、何か別の用事があるのか。

 

「知り合いでしたか、風紀委員長」

 

「うん…まぁ、そうね……なるほど、このタイミングでお互い政治的な問題にしない為に先生が、ということね。考えることは向こうも同じという訳」

 

[“それじゃあ、ゲヘナも?”]

 

「えぇ。だからこそ、公的には今回こうして風紀委員会ではなく、こっちの“救急医学部”が来たってことになってる。私は基本的に、ただの付き添い」

 

「救急医学部の部長、《氷室セナ》です。以後、よろしくお願いします、先生、レイヴン。死た…いえ、負傷者がいたらいつでもお呼びください。配送料はいただきませんので」

 

[“よ、よろしくね…”]

 

「…よろしく」

 

負傷者を死体呼びや、荷物のような扱いは彼女なりのユーモア…なのかもしれない…。

 

「“救急医学部”はゲヘナの中でも、特に政治的な部分に関わりが浅い立場にいる。だから今回、こうしてお願いしたの」

 

「政治ごっこは風紀委員長にお任せします。私は死体以外に興味ありませんので」

 

発言は完全に狂気のマッドサイエンティスト的な危険人物そのものだ。

 

「“負傷者”、でしょう?それに、本物の死体を見たことないでしょうに」

 

ヒナはすっかり呆れた様子で溜め息を吐く。

氷室セナはきっと、普段からこの調子なのだろう。

 

「はい、負傷者でした。ですが、そのことについては風紀委員長も同じでしょう?」

 

キヴォトスでは、“死”という概念が極めて希薄だ。

死体を見るような機会はそうそう無いだろう。

 

「とにかく…美食研究会はこの中?じゃあ、こっちに移してもらえる?」

 

・・・気のせいだろうか?

今のヒナはまるで、話をはぐらかしたような、そんな違和感を私は感じた。

きっと気のせいだろう。

 

美食研究会の面々が乗った輸送車の扉を開ける。

真っ先に現れたのは、黒舘ハルナ。

 

「ふふっ、ヒナさん、お久しぶりですわね」

 

「ハルナ…相変わらず…いや、詳しい話は帰ってからで」

 

何度も鎮圧、制圧し、捕縛しても行動を改める気配を毛頭感じない黒舘の様子に、ヒナも呆れを通り越して気が滅入っている様子だ。

 

次に輸送車から現れたのは鰐淵アカリ。

腕があらぬ方向に捻れており、見ているだけで痛そうなのだが、本人は変わらずニコニコと笑みを浮かべている。

コイツも大概、黒舘に並ぶ狂人だ。

 

「あら、やはり救急医学部の方でしたか★ちょっと私の腕の角度があり得ない方向に曲がっているのですが、診ていただけます?」

 

続けて、赤司ジュンコと獅子堂イズミ、最後に人質の愛清フウカが現れる。

 

「うぇっ、酔った…吐きそう…」

 

赤司の顔は青ざめ、前のめりな体勢だ。

このままではゲヘナへの輸送中に車内で吐き戻してしまうのではないだろうか?

 

「ジュンコ大丈夫?」

 

そんな赤司を気遣って獅子堂はその背中をさするが、それは逆効果ではないだろうか。

それとも吐いてスッキリさせようとしているのか。

 

「さするな!吐いちゃうでしょうが!!」

 

「あ、大丈夫そう」

 

そんなやり取りをする赤司と獅子堂の横を愛清が通り過ぎる。

その表情は心の底からの安堵に満ちたものだった。

目元には涙が浮かんでいる。

 

「た、助かった…車は助からなかったけど…」

 

・・・後で改めて謝って、弁償…というか、何か償いをしよう。

このままでは彼女はあまりにも不憫だ。

 

「あら、給食部の…今日一日見てないと思ったら、こんなところに。今、学園で“ジュリ”が…いえ、やっぱり説明は帰りながらで」

 

救急医学部の輸送車に乗る前に、黒舘が改めて私と先生に振り返る。

 

「色々と配慮していただきありがとうございます、先生。今度、ゲヘナにいらした際には、何か美味しいものでおもてなし致しますね。それから、レイヴンさん。有耶無耶になってしまいましたが、マグロの件、許した訳ではありませんので、貸し一つ、ということで覚えていてくださいね?」

 

ゴールドマグロを丸焦げにした件についてだろう。

食べ物の恨み──逆恨みも甚だしいが、それはとても恐ろしいとはよく言ったものだ。

だが、今回は個人的に敗北したと思っている私には好都合の朗報だ。

 

「望むところだ。いつでも相手になろう」

 

私がそう返せば、黒舘ハルナは満足そうに微笑んだ。

 

「では、先生もレイヴンさんも、また今度〜★」

 

「…うるさい。早く入って」

 

[“えっと、じゃあまた、気をつけてね…”]

 

ヒナが美食研の全員を輸送車に押し込む。

 

「…積載完了しました。出発の準備もできてます」

 

「…少し待ってて」

 

すると、ヒナは先生と私の方へと歩いてきた。

 

「……」

 

ヒナは私と先生を交互に見比べる。

 

「…先生はトリニティ、レイヴンはゲヘナ…なるほど、シャーレはあくまでも中立の立場ということね…私の心配は杞憂だったか…」

 

ヒナのこぼした杞憂と言うのは、恐らくだが、このエデン条約を控えている今、シャーレという超法規的組織が、当事者であるゲヘナとトリニティ、片方に入れ込むことを危惧してのものだろう。

先生というシャーレの“権力”と私という戦力──否、“武力”が片方に集中してしまっては、私たち当人は兎も角、周囲から見れば、好ましいものではないだろう。

最悪、それをキッカケにエデン条約反対派の過激な者たちを刺激しかねない。

だが、結果的に先生はトリニティに、私はゲヘナにそれぞれが分かれて協力している現状は、その危惧を解消している。

 

[“えっと…?”]

 

とは言え、それを考えて先生が動いたかと言えば、多分そうではない。

ヒナが危惧した事態が杞憂に終わったのも、単なる偶然に過ぎないだろう。

先生はただ、目の前の生徒を放っておくことが出来なかった。

そうして選んだ結果が、偶々、こうした現状に至っているのだろう。

 

先生は何か深い考えがあった訳ではない。

その答えにヒナも行き着いたのだろう。

溜め息を吐く。

それは、重く考え過ぎた自嘲か、はたまた、お人好しな先生への呆れか。

 

「…いえ、気にしないで先生。単なる独り言だから」

 

[“そっか。ところで、もしかして、イヴがいたのはヒナが依頼したからかな?さっきもヒナがお疲れ様って言ってたし…”]

 

私とヒナは互いに視線を交わす。

まあ、先生であれば隠す必要もないだろう。

 

「うん。でも、私がトリニティにいたのは本当に偶然。ヒナがその状況を上手く使ってくれただけだよ」

 

「ごめんなさい。イヴが要静養中なのは分かっていたのだけど…場所が場所だけに他に頼る方法がなくて…先生も忙しいようだったし…」

 

[“ううん、別に怒っている訳じゃないよ。お礼を言おうと思って。お蔭で、騒動が鎮められたから。二人とも、ありがとう”]

 

「…先生の力になれたのなら…良かった…」

 

ヒナは嬉しそうに羽を羽ばたかせた。

 

[“話は変わるんだけどヒナ、こっちからも一つ聞きたいことがあるんだ。良ければイヴも聞いてて欲しい”]

 

先生は穏やかな微笑みから一変、真剣な表情へと変わる。

 

「うん?聞きたいこと…?」

 

「…分かった」

 

その後、先生は自身が置かれている状況とこの先の展望について説明し、それを踏まえてエデン条約について、ヒナに考えを聞いた。

補習授業部とその裏に隠された桐藤ナギサの疑念、先生に密かに接触した聖園ミカの助言と願望、そして水着パーティー…──ん?

 

「なるほど…先生も結構、複雑な状況にいるのね…──いや、待って。何か今、変な場面が混ざってなかった?」

 

[“気のせいだよ。間違いなく気のせい”]

 

何をやっているんだ先生は…。

たまに先生は突拍子のないことをする。

今回は不可抗力だったようだが。

 

「…まぁ、それは兎も角。──“トリニティの裏切り者”、ね…数多くの言葉が飛び交い、誰の言葉が真実なのか、誰が嘘をついているのか分からない状況…」

 

[“色んな見方がありそうだなって。その見方によって、真実は変わるかもしれないから”]

 

自身の状況をそう判断するのは、生徒一人ひとりを尊重する先生らしい考えだ。

 

「慎重なのか楽観的なのか、ほんと分からないわね…」

 

ヒナも溜め息と共に、呆れ果てている。

 

「…ところで、イヴは兎も角、こんな大事なことを私にまで話して良いの?」

 

[“うん。ヒナのこと信じてるから”]

 

その肯定に、一切の迷いも躊躇いもなかった。

本心から、先生はヒナを信用…いや、信頼しているのだろう。

 

「……」

 

その思いが伝わったのか、ヒナは顔を赤くして視線を逸らす。

 

「…そういうところが…先生の悪いところ…」

 

ヒナは小さく呟く。

私の“耳”は捉えているが、どうやら先生には聞こえなかったようだ。

 

[“…?”]

 

私も聞かなかったことにしよう。

 

ヒナは気持ちと思考を切り替える為か、咳払いを一つ挟む。

 

「エデン条約が軍事同盟、ね…興味深い見方ではあるかもしれない」

 

そして再び、話の内容は元に戻る。

聖園ミカが先生に告げた内容の一つだ。

彼女は、どうやらエデン条約によって生まれる《エデン条約機構(ETO)》を巨大な武力組織として捉えているとのことだ。

そして、それによって桐藤ナギサは、莫大な武力を手にしてしまうのではないかと危惧している。

武力を手にした桐藤ナギサが、何をしでかしてしまうのか、と。

 

・・・夢の中の茶会で、百合園セイアと出会った時にも、エデン条約についての話を少しだけした。

彼女はエデン条約を平和条約だと断言するに近しい口調だった。

 

同じティーパーティーの中でも、認識が異なるのか、それとも。

 

「ただ、少なくとも私はそうは思わない。あれはれっきとした平和条約。私はそう考えている」

 

[“なるほど…”]

 

「条約によって生み出されるエデン条約機構(ETO)…あれを武力集団と捉えたところで、あれは単身でナギサが統制できるようなものじゃない。万魔殿のリーダーであるマコトも、ナギサと同様の権限を持つことになる」

 

「それだけじゃなく、他のティーパーティーや万魔殿のメンバーに対してもある程度の権限が分割される。だからETOが誰か一人の意思で本来の目的を失って暴走するようなことは考えにくい」

 

「もちろん、その全員が協力するなんて事態になれば、理論的にはあり得ることかもしれないけれど…。そもそもの話として、もしそんなことができるのなら、初めから両学園の統合でもしておけば良いだけのはず」

 

「それに、マコトは誰かと協力するだなんてことはできない(たち)だから…」

 

ヒナの言葉に、確かに納得できてしまう。

数日前、私は万魔殿に招かれ、その場で羽沼マコトと言葉を交わしたが、確かにアレは、誰かと対等に協力すると言うよりは、誰かの上に立ち、支配、利用するといったことの方が好みそうな様子だった。

それは、私をシャーレから引き抜こうとしたことからも窺える。

正しく、天上天下唯我独尊を地で貫く──その割には、明らかに年下である丹花イブキには頭が上がらない…というよりは大事にしている様子だったが、きっと身内には甘いのだろう。

 

[“…じゃあ、どうしてマコトはエデン条約に賛同しているの?”]

 

万魔殿に招かれた帰り際、羽沼マコトは私に問いを投げかけた。

私が、エデン条約に対して、どう思っているのかを。

その質問の真意は分からない。

私はただ、ありきたりな答えを返した。

それによって救われる者もいる、と。

返事はなかった。

私の答えは、彼女に何らかの解を齎したのだろうか。

そして、彼女自身は、エデン条約に対して、何を思っているのだろうか。

 

「…賛同というか多分、何も考えてないんじゃないかしら。そもそも、ゲヘナ側でエデン条約を推進していたのは私だったから」

 

[“ヒナが…?どうして?”]

 

アコも言っていた。

少し表現は強いが、エデン条約はヒナの悲願だと。

そして、その成就をアコ自身も祈っていた。

 

「…色々面倒だし、引退するのもアリかなって。ETOができたら、今よりも遥かにゲヘナの秩序はマシになるはず。そうなったらもう、私が風紀委員長じゃなくてもいいでしょう。仕事が減っちゃって、イヴには申し訳ないけどね」

 

ヒナは知らないだろうが、私もアコに協力すると言った手前、それを無碍にはできない。

 

「…平和なのはいいことだよ」

 

確かに、風紀委員会からの治安維持の依頼は減少するだろうが、その結果、ヒナや他の風紀委員会の心労が改善されるのであれば、それはそれで良いと思っている。

私の仕事など、少ないに越したことはない。

 

[“そっか…”]

 

「風紀委員長、まだですか?」

 

痺れを切らした氷室セナが運転席からヒナを催促する。

だいぶ話し込んでしまった。

かなり待たせてしまった。

 

「…ええ、今行く」

 

それに応え、ヒナは体の向きを変える。

 

「じゃあ、お疲れ様、先生。また今度…。イヴはまた明日、かしらね…明日からもよろしく…」

 

ヒナは背を向け、輸送車の助手席の方へと向かう。

 

「うん、また明日」

 

武器の調整はものによってはまだかかるだろうが、私自身はもう問題ない。

明日からはいつも通り、依頼解決の為に奔走することになるだろう。

そして、その中には風紀委員会からのものも含まれていることだろう。

 

「…補習授業部のことは先生が守るのよね?」

 

ヒナはふと足を止め、半身を振り返りながら問いかける。

 

[“うん、もちろん”]

 

それに先生は疑いも迷いもなく、力強く頷き、答えた。

 

「…そう。じゃあ、またね」

 

そう短く告げたヒナは、今度こそ輸送車の助手席に入っていった。

 

私と先生は、その車が消えるまで見送ると、後ろで待機していた正義実現委員会に引き渡しの完了を報告するのだった。




ここからはテンポよく進んでいきます

ストーリー外で描きたいものはだいたい描き切ったのでね!
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