ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

美食研の話が終わったら美食研の話はじまる
レイヴン、ゲヘナに侵入する補習授業部を見付ける


EP-15 三つ巴の大騒ぎ

[“美食研究会のみんな!”]

 

新調したであろう給食部のトラックを近くに停め、黒舘と鰐淵が顔を出す。

赤司と獅子堂の姿は見当たらない。

とは言え、美食研究会はまだ、風紀委員会に捕まっていたはずだが。

 

「あ、あれ!?この間戦った…!?」

 

「あら、あの水族館を襲撃した…」

 

「え、えっと…?もう何が何やら」

 

黒舘が車から降り、私に視線を向けてくる。

 

「こうして私たちの姿を見ても捕まえようとしないところを見ると、どうやらレイヴンさんも訳アリのようですわね?」

 

私は一応、風紀委員代行としてゲヘナにいるが、今だけはそれも意味を為さない。

風紀委員として、美食研を捕らえる必要はない。

何より、この状況での美食研の参入は、正しく渡りに船と言える。

 

「…まぁね。今回だけは、互いに休戦としようか」

 

向こうにも、私に対して色々と思うところがあるはずだ。

それを見越しての提案。

 

「…そうですわね。ゴールドマグロさんの借りを返して頂きたいところですが、そうも言っていられない状況のようですから」

 

黒舘はあっさりと納得し、私の提案を受け入れる。

 

「呉越同舟ですね★」

 

[“えっと…それじゃあ、イヴもハルナも協力してくれるみたいだし、美食研究会のみんなにも状況を説明するね。ジュンコとイズミの姿が見えないけど…”]

 

「お二人とは別行動中ですわ。分かりました、お聞きしましょう」

 

先生は補習授業部の置かれている状況と、これからについてを簡潔に説明した。

 

「…なるほど、状況は概ね理解しました。とにかく、この場所に行かねばならないのですね?」

 

[“うん”]

 

「事情は分かりましたが、タイミングが悪かったですね…この辺りは今、大きな騒動になっていまして…風紀委員代行のレイヴンさんからもお話はあったかと存じますが」

 

先生に説明しながら、黒舘はチラリと私の方へと視線を向ける。

 

「そう言えば、レイヴンさんは騒動鎮圧の方にはお声がけされなかったんですね★」

 

鰐淵が痛いところを突いてくる。

日中に暴れ過ぎて外郭の巡回に左遷されたという事情は、自分の口から語るには少し躊躇いがあった。

 

「…私のことはどうでもいいだろう」

 

だから私は自分のことを棚に上げるが、鰐淵は妖しい笑みを浮かべて『ふ〜ん♪』とだけ呟いていた。

 

「まぁ、そんな訳で風紀委員会も慌ただしいご様子でしたので、その機に乗じて私たちも牢屋から抜け出せたのです。ふふっ♪」

 

美食研の連中がこの場にいる理由に納得した。

委員の殆んどがこちらに回され、警備が手薄となったその隙を突いて脱出したという訳だ。

 

「そうですね。それに非常事態ということもあって、またしても偶然その場に居合わせた給食部のフウカさんが、部の車を快く貸してくれました★」

 

「んんっ!?んーっ!んんーっ!!」

 

そして、給食部の車に乗っている理由も、そういうことだった訳だ。

新調したばかりだっただろうに、運悪く美食研の脱走に利用された愛清が不憫でならない…。

しかし、今の私にはどうすることもできない。

可哀想だが、彼女には犠牲になってもらうしかない。

 

「新しく買ったばかりの車を貸してくれるなんて…これぞ美しい友情というやつですね★」

 

愛清と美食研の間の認識に重大な齟齬があるようだが、それが果たして必然か偶然か。

 

「んんっ!んっ、んんんんっ!」

 

猿ぐつわで話せないようにしている辺り、前者である気がしてならないが。

 

「…その友情のお相手、縛られたままトランクに積まれてません?」

 

「問題ありませんわ、フウカさんはこういったことに慣れていますから」

 

本気で心の底から言ってそうなところが黒舘の怖いところだ。

 

「もはや専門家と言っても過言ではありませんね★」

 

多分こっちは分かっていて悪ノリで便乗している。

 

『ハルナ!アカリ!今どこ!?こっちも包囲網を破ったけど、合流できそう!?』

 

そこへ、タイミングよく赤司の通信が入る。

先程、黒舘は別行動中と言っていたが、どうやら単純に脱走に際して二手に分かれたようだ。

 

『ぎゃーーーーっ!!風紀委員会がまだ追いかけて来てる!?』

 

赤司の後ろから、獅子堂の悲鳴が届く。

どうやら彼らは風紀委員会に追い回されている最中のようだ。

 

「ジュンコさん、脱出作戦は取り消しです」

 

『えっ、何で!?』

 

「ふふっ、あの時のお礼ということで。先生とトリニティの皆さんのことは、私たちが責任を持ってご案内しますわ。それでよろしいのですよね、レイヴンさん?」

 

美食研の足が加われば、よりスムーズに目的地に辿り着けるだろう。

それでも、風紀委員会と温泉開発部という障害は分厚く高い壁ではあるが。

 

「…ああ、恩に着る」

 

正直、美食研への借りなど出来る限り避けたいが、今は形振り構っている場合ではない。

 

「貴女の為ではありませんわ。ただ、先生の為、という互いの目的が一致しただけ…そうではありませんこと?」

 

しかし、ハルナは律儀、と言うことが正しいか分からないが、その申し出を断る。

 

「…確かにその通りだ。だが、貴女たちが私に協力してくれたことに変わりはない。()()()()()()()()、この恩は忘れない」

 

それは、シャーレや先生といった関係を抜きにした、私個人としてのケジメだ。

傭兵は恩を忘れない。

借りはきっちり返させてもらう。

 

「あら、思っていたより律儀な方なんですね★」

 

「…それでは、その恩を返していただける時を楽しみにしていますわ」

 

黒舘は納得し、静かに微笑んだ。

 

「ああ、必ず返す」

 

「それでは皆さん、乗っちゃってください!」

 

話もひと段落といったところで、鰐淵が乗車を促す。

 

[“ありがとう、よろしくね”]

 

先生から順に、ゲヘナ給食部の車に乗り込んでいく。

 

「え、えっと…それではよろしくお願いします…?」

 

「…ホントだ、給食って書いてる…」

 

「では、失礼しますね〜」

 

「…給食部のあなたは本当にそのままで大丈夫か?」

 

補習授業部が全員乗り込み、しかし、それで車内は満員となる。

 

「ん、これだとレイヴンが乗れないな」

 

そのことに気付いた白洲が困ったように呟く。

 

「詰めたら座れますかね?あっ、コハルちゃん、私の膝の上に座ります?♡」

 

「座らないわよっ!!」

 

「私なら大丈夫だ」

 

「えっ、ですが…」

 

[“みんな、大丈夫だよ。イヴは車と並走出来るくらい足が速いから!”]

 

先生の一言で、一瞬、場が凍り付く。

 

「さすがはレイヴンさんですわね」

 

気にしていないのは、日々追いかけ回され慣れている美食研の二人くらいだ。

 

「どのくらいまで出せます?」

 

「私の事は気にしなくていい。飛ばせるだけ飛ばしてくれ」

 

「分かりました♪それでは皆さん、ちゃんと掴まっていてくださいね★出発です!」

 

エンジンを唸らせ、タイヤが甲高く鳴り響き、鰐淵が運転する車が発車する。

それに合わせ、私も地面を蹴った。

 

*****************************

 

おそらく、二時間が経過しただろうか。

 

補習授業部、シャーレ、美食研究会の合同部隊は、陽動部隊と隠密部隊の二手に分かれ、目的地を目指した。

私は、白洲と浦和の二人と共に、少数での陽動部隊を請け負った。

しかし──。

 

「うーむ…これは…」

 

状況を冷静に整理しながら、白洲が唸る。

 

「作戦失敗、だな…」

 

そこに私が結論を付け加える。

 

「どうしてこうなったんでしょう?」

 

困ったように浦和が呟く。

 

「「……」」

 

しかし、私と白洲の怪訝な視線が浦和へと集中する。

 

「いやん♡そんな熱い視線を向けられたら恥ずかしいです♡何せ私、今は水着一枚なんですから♡」

 

その通りで、浦和は今、学校指定と思しき紺色の水着一枚の姿だ。

何故、このようになったのかと言えば──。

 

「…ハナコが良い案があるとか言って任せたら、まさか水着で気を引くとは思わなかった…。すまない、レイヴン…」

 

そう、陽動として、どう動き出すかを相談していると、急に浦和が良い案があると言い出し、任せてくださいとまで言うものだから、任せてみれば、なんと彼女は急に飛び出したかと思えば、脱ぎ出して水着姿を相手に見せ付けた。

その結果、私たちは今、温泉開発部に追いかけ回されている。

 

「…いや、うん…まぁ、白洲のせいじゃないと思う…」

 

私はその程度のフォローで精一杯だった。

 

「上手くいくと思ったのですが…」

 

納得できないとでも言いたげに、浦和は首を傾げる。

 

「アレで気を引けるのはコハルくらいだ。仕方ない、向こうに連絡を──」

 

その直後、私たち三人の行手を阻むように、足元の地面を銃撃が走る。

私たちは、足を止めざるを得ない。

 

背後から迫る温泉開発部ではない。

新手──それも、出来れば出会いたくなかった相手だった。

 

周囲の路地から整然とした並びで姿を現したのは、黒を基調とした制服──風紀委員会。

更には、その委員たちを引き連れるように、二房の銀髪を靡かせる生徒までもが姿を現した。

 

「…これはどういう事か、説明してもらおうか、レイヴン!」

 

銀鏡イオリ。

よりによって、彼女が前に立ち塞がった。

しかも、怒り心頭、といった様子だ。

それも無理はない。

信頼して仕事を任せた私が、それをほっぽり出して、トリニティの侵入者に協力しているのだから。

 

「ふっふーん、ようやく追い詰めたよー!いや、観念したのかな?まぁ、どっちでも良いや!」

 

後方からは温泉開発部が追いつき、その先頭には他とは雰囲気が異なる赤毛の生徒。

火炎放射器の口から火炎を吹き、こちらを威嚇する。

完全に進路も退路も塞がれた。

前門の風紀委員会、後門の温泉開発部。

退くことも、進むこともできない。

 

だが、ここで大人しく倒れることも、捕まることも出来ない。

 

「こちらチームブラボー、チームアルファ、応答せよ」

 

イオリが現れたところで、素早く白洲が向こうの隠密部隊に連絡を入れる。

 

『あ、アズサちゃん!?』

 

どうやらヒフミに連絡を入れたようだ。

 

「名前を言われると隠語を使った意味がない…それはそれとして、ごめん、作戦は失敗した。こっちは包囲されてる」

 

『はいぃ!?』

 

「後方には火炎放射器を持った温泉開発部、前方はやたら強そうなツインテールの風紀委員。進退もままならない。私たちもどうにか切り抜けるから、後で落ち合おう。幸運を祈る」

 

それだけを一方的に告げ、白洲は通信を切った。

ヒフミの方からも、爆発音や下江の悲鳴が(しき)りに聞こえていた。

向こうは向こうで上手くはいかなかったらしい。

それでも、きっと大丈夫だろう。

向こうには、美食研のフルメンバーが付き添っている。

奴らなら、必ずヒフミと下江、先生の三人を目的地に導いてくれるはずだ。

 

だからこそ、私も白洲と浦和の二人を何が何でも、この場から逃がす。

その為にはまず、イオリをどうにかする必要がある。

彼女であれば、後ろの温泉開発部よりは話が通じるはずだ。

 

「答えろ!レイヴン!お前は何をしているのかって聞いているんだ!」

 

痺れを切らしたイオリが私を強く責め立てる。

背後からも温泉開発部迫って来ている。

早くしなければ、二人を戦闘に巻き込んでしまう。

 

「…私は、この二人をある場所まで送り届けなきゃいけないんだ。だからイオリ、そこを通して欲しい」

 

私は努めて普段通りに、穏やかで親しげな口調でイオリに話しかける。

私の様子に、イオリもほんの少し落ち着き、漂う雰囲気から険が取れる。

 

「その二人はトリニティの生徒じゃないか。別に、私はトリニティに偏見がある訳じゃないが、この大事な時期に、見過ごすことは出来ない。それは、お前も分かっているだろ!?」

 

やはり、そう簡単には通してくれそうにないか。

そうなれば、こちらも覚悟を決める必要がある。

だが、その前に。

 

「白洲、浦和、私がこいつらの気を引く。その間にどうにか先に進んでくれ」

 

この二人をこの場から逃さなくてはならない。

 

「レイヴンさん…」

 

「…貴女を心配する必要はないと思うが、それでも答えてくれ。大丈夫なのか?」

 

私の規格外なところをこれまで散々、見せて来たにも関わらず、二人は私の身を案じてくれる。

それはきっと、先生やこれまでの多くの生徒たちと同じく、私を一人の人間として見てくれている証左なのだろう。

 

「ああ、私の心配はいらない。それよりもごめん。最後まで付き添えなくて。どうやら、私はここまでみたいだ」

 

温泉開発部に、イオリのいる風紀委員会。

この二つの足止めは、そう簡単にはいかないだろう。

ここから先は、二人だけで進んでもらうしかない。

 

「謝る必要なんてない。レイヴン…いや、()()、ありがとう。ここは頼んだ!」

 

その名前呼びは、信頼の証だろうか。

 

「──ああ、任せてくれ、アズサ。ハナコも、ヒフミとコハル、それから先生に、よろしく伝えておいてくれ」

 

一瞬、面食らうが、その想いに応えるべく、私も頷き返す。

 

「はい、もちろん♡ありがとうございます、イヴちゃん♪」

 

「それじゃあ──行くぞ!!」

 

私は手榴弾を取り出し、後方──温泉開発部へと放り投げる。

間もなく、爆炎が迸り、温泉開発部は混乱に陥る。

これで一瞬だが、温泉開発部側の動きが止まる。

 

「今だ!アズサ!ハナコ!走れ!!」

 

二人は後ろに、私は前──風紀委員会へと駆ける。

二人であれば、どうにか温泉開発部の包囲網を破り、逃げる事が出来るはずだ。

その間、私は風紀委員会を止める。

 

「それが答えか!レイヴン!」

 

私とイオリは、互いに銃口を向け合いながら、対峙する。

 

「悪いが、道を開ける気がないなら、私が相手になろう」

 

私は左右の手に握った銃の内、右手のARの銃口を向けていた。

 

「お前は今、自分が何をしているのか、分かっているのか!?」

 

風紀委員代行でありながら、トリニティの侵入者に加担し、更には風紀委員会に敵対している。

 

「理解せずに、ここに立っているとでも?重々、承知しているよ」

 

それでも、私は成し遂げなくてはならない。

生徒を守ろうとする先生の祈りと、ヒフミの願いの為に。

 

「…お前がそこまで肩入れするなんて…もしかして、先生が絡んでるのか?」

 

イオリは少しばかり、落ち着いた口調で訊ねる。

理由もなく、私が歯向かっていないと考えたのだろうか。

 

「…あぁ、だから、後でアコとヒナにも私の方から報告する。迷惑をかけた責任は取るさ」

 

これに、先生は関係ない。

頼みを断ることも出来た。

美食研に任せて、身を引くこともできた。

だが、私はそうしなかった。

私自身の我が儘で、選択を貫き通した。

自身の選択の責任は、私自身で受け入れ、背負う。

 

するとイオリは、まるで納得できないというように、歯を噛み締める。

 

「…バカか!?たかが代行風情が、これだけのことをしておいて、簡単に責任を取れるハズがないだろう!?」

 

確かに、この事態はかなりの問題になりそうだ。

私が思っているよりずっと、重大な事件なのかもしれない。

 

「……」

 

そう簡単には、私は償い切れないかもしれない。

それでも、その結果、補習授業部が救われるなら、私は甘んじて受け入れよう。

 

「…だから!私も一緒に謝ってやる」

 

思いがけない言葉が放たれた。

それと同時に、イオリは銃を下ろしていた。

 

「…協力してくれるの?」

 

私も銃を下ろし、訊ねると、イオリはそっぽを向いた。

 

「勘違いするな!先生が絡んでいるなら、どれだけ足掻いても無意味だからだ!だから別に、お前の為なんかじゃないんだからなっ!!」

 

言葉は強いが、明らかに照れている様子のイオリは、その言葉の節々から私への気遣いと優しさが滲んでいた。

 

「…ありがとう、イオリ」

 

だからこそ、私はそんなイオリに礼を返した。

ここで断っては、彼女の想いを無碍にしてしまう。

だから私は、イオリの助けを受け入れた。

 

「…ふんっ。それに、まずはこの騒動の元凶である温泉開発部が最優先だ!妨害した分、お前にはしっかりと働いてもらうぞ!イヴ!」

 

イオリは私の方へと歩み寄り、隣に並ぶ。

その後ろには、他の風紀委員も追従している。

 

「ああ、もちろん」

 

私たちは、温泉開発部と向かい合う。

 

「え?何?貴女たち和解しちゃったの?まあ、何でも良いけどね!私たちの温泉開発の邪魔をするなら、風紀委員だろうと何だろうと、撤去だよ、撤去!」

 

リーダー格と思しき赤毛の生徒が、火炎放射器を振り翳す。

 

それを眺めながら、私はアズサとハナコに思いを馳せる。

二人は無事に目的地に辿り着けただろうか?

ヒフミとコハル、先生の三人と合流出来ただろうか?

 

不条理と理不尽が重なり、追い詰められている彼女たちは、無事に目的を果たすことができるだろうか。

 

「…不幸な貴女達の幸運を祈るよ」

 

そっと、心の中で祈りを捧げ、私は地面を蹴った。

傍らの風紀委員会たちと共に、私は温泉開発部との戦闘に臨むのだった。




補習授業部を見送り、レイヴンは戦地に残る

果たして、補習授業部は無事に試験を終えることは出来るのか

次回もまた、場面が飛びます
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