ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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事後検証、的な意味合いだそうです

ブルアカは勉強になりますね…


ポストモーテムⅠ

目を開くと、そこは夢の中だった。

 

セイアがいるトリニティのバルコニーではなく、今回はルビコンの衛星軌道上の廃棄ステーション──つまりは私の夢だった。

 

目の前には、鴉羽の装束に身を包んだ黒い私──“レイヴン”が立っている。

 

「…久しぶり、元気にしてた?」

 

どう声をかけるべきか迷い、当たり障りのない挨拶になる。

そんな私の内心を聴いて、“レイヴン”は鼻で笑う。

 

「…ああ、お陰様でな」

 

夢の世界では、この世界の住人である“レイヴン”たちには考えていることは筒抜けになる。

最初こそ戸惑ったものの、慣れれば案外、便利に思えて来た。

 

「…猟犬(ハウンズ)は──」

 

周囲に視線を巡らせれば、少し離れたところで、“猟犬”は丸くなっていた。

その機械仕掛けの体は、変わらず錆に覆われている。

最近は、“歯車”も“残り火”も使っていない。

“猟犬”の身体の錆は、“歯車”と“残り火”の代償を私の代わりに肩代わりすることで生じたものだ。

その為、以前に出会った時と錆の侵蝕具合は変わっていない。

 

だが、今の私は“歯車”と“残り火”を使っていないにも関わらず、別の代償に苛まれている。

最近になって唐突に覚えるようになった好戦的な欲求。

闘争を渇望する衝動──“餓え”。

 

「──お前の“餓え”についてだが」

 

私の心を読み、タイミングよく話題を振られる。

話が早くて非常に助かる。

 

「…やっぱり、“レイヴン”は知っているんだね」

 

“レイヴン”が知らないはずもない。

彼女は彼女自身であると同時に、私でもあるのだから。

或いは、やはり彼女自身も苛まれているのだろうか。

私が感じている“餓え”を──。

 

「…お前はここ最近ずっと、“歯車”も“残り火”も使わず戦ってきた。その辺の不良を蹴散らす程度であれば、問題は無かったんだが──《スランピア》の一件」

 

キヴォトスに来て以来、あれ程に窮地に立たされた戦いも無かったように思う。

基本的に、私が優位であり、“歯車”や“残り火”がそれに拍車をかけていた。

 

「……」

 

それと同時に、相手がコーラルが絡まない相手だったということもあるだろう。

“誓約”が絡まない戦い。

だからこそ、私は少し遊んでいたように思う。

“歯車”や“残り火”に頼らない自身の限界、自分が何処まで戦えるのか。

それが、私を窮地に陥らせた。

とは言え、最後の“ゴズ”との戦いは、完全に不可抗力。

相手の領域に引き摺り込まれる形での、避けようのない戦いだったが。

 

「力を封じ込めた制約による極限状態での戦闘の中で、お前は死に近付いた。それにより、奥底に眠っていたモノが刺激され、目覚めてしまった」

 

それでも私は“歯車”すらも解禁することはなかった。

自爆紛いの自傷に等しい行為で相手だけでなく、自らを追い込んだ。

だが、あの時はああするしかなかった。

しかし、その結果、どうやら良くないモノを起こしてしまったらしい。

 

「…眠っていたモノ?」

 

それが恐らく、私を苛む“餓え”の原因…或いは、正体なのだろう。

 

「…それは闘争本能の根幹、その最奥の原初に刻まれた本質」

 

「──“獣性”だ」

 

「……」

 

“獣性”…それこそが、私に“餓え”を齎している──いや、“餓え”そのものなのかもしれない。

 

「だが、スランピアの時点では、完全なものではなく、一時的なものだった。しかし──」

 

その後については、私は身に覚えがあった。

 

「…美食研の」

 

あの時も、私は制約を負っていた。

そして、美食研究会もまた、強敵だった。

あの時の美食研究会は、私にとって極上のご馳走に見えていた。

結局、お預けを食らったが、今思えば、それも良くなかった気がする。

 

「そう。その時の戦いで、獣は水面下まで浮上した。その時点で、もう崖っぷちギリギリの状態だった。そして──」

 

先日の、アリウスの襲撃。

ナギサの暗殺を企てたアリウス部隊の迎撃。

 

「…アリウス、だね」

 

今でも明確に覚えている。

あの時の私は、アリウス部隊の蹂躙に“悦び”を感じていた。

銃撃で逃げ惑い、倒れる姿、蹴り飛ばし、顔面を掴んで壁や地面に叩き付ける感触、悲鳴や怒号、悔恨や憎悪の声…。

それら全てが私に心地良い快楽を齎す。

それは、“餓え”とは正反対の満たされていく感覚。

だが、それが完全に満たされることはなく、次の獲物を求めて戦いを続ける。

ある種の快感に溺れていた。

 

「そこで、獣は完全に水面から飛び出し、“獣性”が顕在化するようになってしまった。それが、お前が感じている“餓え”の正体だ」

 

目覚めた獣は覚えてしまったのだろう。

闘争という、ご馳走の味を。

獣は私にせがんでいるのだ。

もっとご馳走を寄越せと。

 

「…抑制する方法は?」

 

「生理現象のようなものだ。抑制するようなものじゃない。逆に、抑制するほど、その“衝動”は強くなる」

 

なるほど、押さえ付けるほど、反動は大きくなる、というものだろう。

だが、かと言って“衝動”に身を委ねる訳にもいかない。

 

「…ままならないな」

 

「私自身も困っているところだ。“獣性”は闘争本能を刺激する。私もその対象になるんだ」

 

まさか“レイヴン”にも影響があるとは。

だが、“レイヴン”は私の闘争本能の具現化でもある。

“猟犬”は、私が抱く誓いを全うしようとする意志、“レイヴン”はそれを後押しする闘争心。

そんな“レイヴン”が“獣性”の影響を受けるのは道理であり、必然と言える。

 

「…迷惑をかける」

 

「謝る必要はない。お前自身の選択の結果だ。文句はない」

 

“レイヴン”は前にも似たようなことを言っていた。

私自身の選択であれば、拒否も拒絶もしないと。

 

「とは言え、このままでは互いに獣に飲み込まれる」

 

“獣”に飲まれた果てに、私たちは一体、どうなってしまうのか。

“レイヴン”は以前、“黒い鳥”の末路を暗示した。

全てを黒く燃やし尽くし、死を告げる鳥。

“獣”は、それとはまた違う結末なのか──。

 

『貴女自身も気付かれているハズ。貴女の内に巣食う、()()の存在を』

 

ふと、狐坂ワカモの言葉を思い出す。

“修羅”──。

確か、嫉妬や激しい恨みといった怨嗟の現れ、果てしない闘争を象徴する悪鬼だったか。

端的に私を現す言葉としては打って付けな気がする。

 

「そう言えば、その獣は具象化していないの?“レイヴン”や“猟犬”みたいに」

 

以前、“レイヴン”にそうしたように、その“獣”も屈伏させることが出来れば、マシになるのではないだろうかと思い付いた。

 

そんな私の提案に、“レイヴン”は僅かな間を空けて口を開く。

 

「…残念だが、“具象化”にはその受け皿が必要だ。私の場合は、“ブランチ”の“レイヴン”の機体──ナイトフォール。猟犬(ハウンズ)の場合は、ウォルターのローダー4。機体である必要はない。だが、具象化の対象と結び付けられるものでなければ、具象化させることはできない」

 

「…そっか」

 

いい案だと思ったが、どうやら、そう事は単純ではないらしい。

 

「だが、お蔭で一つ、獣性を制御する為の案が浮かんだ。正直、一時凌ぎにしかならんと思うが、何も無いよりはマシだろう」

 

怪我の功名と言うには大袈裟だが、どうやら“レイヴン”にはそれがキッカケで何かしらの光明が見えたらしい。

 

「それは?」

 

「…イヴ、お前の武器に“名前”を付けろ。自分の力であるという証を示せ」

 

「武器に、名前…?」

 

思いがけない提案だった。

そう言えば以前、先生に聞いたことがあった。

多くの生徒たちは自らの愛用する銃火器に名前を付け、固有の愛用品にしていると。

 

「“名付け”は、最も簡単かつ分かりやすい制御方法だ。武器というのは、言わば“力”や“強さ”の象徴だ。それに名を与えることでお前自身の支配下に置く。“名”で縛ることで、お前自身の意志との結び付きを強くする。お前が仮に、獣に飲まれることがあっても、お前の意志が宿っていない攻撃は、完全に力を発揮できない、ようになるはずだ。万が一のセーフティのようなものだが、今はこうするしか方法がない」

 

以前の私は、武器を壊すことや代用品を拝借したりすることもあって、中々武器が固定されることがなかった。

しかし、最近では改良や改造こそすることもあるが、基礎となる銃そのものが変わることはなくなった。

それならば、自分自身の固有武器として名前を付けることも悪くない。

ましてや、効果は不明だが、それが“獣性”を制御する可能性を秘めているのだとすれば、名付けをしない道理はない。

 

「…分かった。考えてみよう」

 

「私自身も引き続き、獣への対応策を考えてみる。何か思い付いたら、また夢の中で話そう」

 

「うん、よろしく頼む」

 

****************************

 

イヴが居なくなった夢の世界で、“レイヴン”は一人佇んでいた。

 

やがて、倒壊した柱の下で丸くなる“猟犬”の傍に歩み寄り、腰掛ける。

“猟犬”の背を撫でながら、“レイヴン”は口を開いた。

 

「…アイツが、“獣”に苦しむのは私のせいだ」

 

まるで、告解するかのように“レイヴン”は呟く。

 

「私が、アイツに(狩人)であって欲しいと願ったから…祈ったから…迂闊だった。この世界(キヴォトス)では、そういった想いが具現する得体の知れない力が存在しているというのに…」

 

ふと、“猟犬”が目を覚まし、“レイヴン”を見つめる。

 

「…分かっている。スランピアの戦いが最初のキッカケだっていうのは。だが、私の“祈り”も要因の一つであることに違いはない」

 

「私の祈りが、“呪い”となってアイツに降りかかってしまった。聖園ミカにまで、獣を纏う者(ベルセルク)呼ばわりだ」

 

「アイツに獣を纏わせたのは…“獣の呪い”をかけてしまったのは私だ。その結果、アイツは“餓えた狼(血に酔った狩人)”になろうとしている」

 

先程、イヴは狐坂ワカモの忠告を思い出していた。

そして、彼女の言った“修羅”と自分を重ねていた。

 

「…もし、そうなってしまった時には──私が全てを燃やし尽くす。アイツを“修羅(怨嗟の鬼)”になどさせない。そうさせるくらいなら、私が“黒い鳥”にしてやる」

 

“レイヴン”がそう言うと、“猟犬”が頭を押し付ける。

それは、何かを強く訴えていた。

 

「分かってる。“黒い鳥”にするのは最終手段だ。ギリギリまでは待つさ。私だって、アイツの意志を尊重したいのは一緒だ」

 

「アイツも、ギリギリまで堪えるだろう。それまでは見守るさ」

 

“レイヴン”は“猟犬”を撫でながら、ふと空を見上げる。

かつて621が目にしたルビコンの夜空を映したまやかしの風景。

偽りの星空。

偽りのものであっても、星空には違いなく、星々が瞬いている。

 

「──だから、イヴ。頼む、私にお前を“黒い鳥”になどさせないでくれ」

 

****************************

 

早朝。

トリニティ学園シスターフッドの伊落マリーは、大聖堂に訪れていた。

 

聖園ミカの事件から一週間ほどが経過した。

そんな今でも、その時の爪痕はトリニティに残ったままだ。

ティーパーティーも、正義実現委員会も、そして、マリーが所属するシスターフッドも、毎日、忙しなく、朝から晩まで動き回っている。

まだ完全終息と言うには程遠い。

 

マリーはまだ一年生ということもあって、出来ることは少ない。

それでも、ジッとしてもいられず、今日もこうして、朝早くに大聖堂に足を運んだ。

 

シスターフッドの生徒専用の勝手口から入り、通路を通って広大な空間に出る。

“大聖堂”の名の由来にもなった、或いは、その名に相応しいものとして建造された建物。

奥行きと高さに長けており、中央を通る通路の左右には多くの長椅子が配置されている。

奥に進めば、他生徒が出入りする為の大扉があり、本来は閉ざされているはずが、今朝は何故か開いており、朝日が差し込んでいた。

聖堂の左右はガラスの窓が並び、そこからも無数の日の光が差し込み、聖堂内を明るく照らしていた。

 

ふと、マリーは人の気配を感じた。

その気配の主は、大扉の正面、聖堂の中央を通る通路を進んだ先の教壇の前に立っている。

その人物は、教壇の奥の壁の朝日が差し込むステンドガラスを見上げていた。

 

マリーは、その人物に見覚えがあった。

 

赤みを帯びた白の長髪、同色の頭頂の犬科の動物を思わせる三角耳、ロングコートのような黒の制服。

 

「──おはようございます」

 

その生徒──シャーレの特務戦闘員、レイヴンは窓から差し込む光に照らされ、微笑みながらマリーに挨拶を告げた。

 

****************************

 

トリニティに立ち寄ったのは、ほんの気まぐれだった。

 

特に用事があった訳でもなく、この日は珍しく早くに目が覚めてしまい、依頼まで時間もあった為、先生に挨拶でもしようかと、ふらりと足を運んだ。

トリニティの敷地なを歩いていると、ふと大きな建物に目が止まった。

 

それが大聖堂だった。

誰かが締め忘れたのか、扉が半開きになっており、つい興味本位で内部に足を踏み入れてしまった。

 

大聖堂の内部は、空気が違ったように私は感じた。

 

月並みな表現だが、正しく荘厳、という言葉が当てはまるような内装だった。

明かりは付いていないのに、まるで計算されているかのように、窓から差し込んだ日の光が内部を照らし出し、神々しく光を放っていた。

 

私が特に目を惹かれたのは、正面のステンドガラス。

まるで聖堂の左右の窓から差し込んだ光が集約されたかのように、一際眩く輝いていた。

素直に、美しいと思った。

 

そんな風に見惚れていると、私は遅れて人の気配を感じた。

見れば、そこにはシスターフッドの生徒が立っていた。

オレンジに近い金髪と碧眼、頭の上を覆うヴェールは二つの突起──耳の形を模っている。

 

「おはようございます」

 

聖園ミカの騒動の時に加勢してくれたシスターフッド。

その時にもいた、名前は確か──。

 

「伊落マリーさん、で合っていますか?」

 

「えっ!?あっ、はい!おはようございまひゅ!」

 

伊落マリーは盛大に噛んだ。

 

「……」

 

気まずい沈黙が流れる。

 

「…はぅ…」

 

彼女も居た堪れなくなったのだろう。

顔を両手で覆い隠す。

 

どう声をかけてあげるべきか迷う。

 

「…そう言えば、聖園ミカさんとの戦いの時は助かりました。ありがとうございます」

 

そこで私が思い出したのは、聖園ミカとの戦いの最中、彼女が齎してくれた恩恵だった。

どういう原理か、彼女は私にパルスアーマーのような障壁を付与してくれた。

 

だが、そこは神秘が満ちるキヴォトス。

深く考えるだけ無駄だろう。

 

「あっ…いえ、私は私の出来ることをしたまでですから…私は皆さんのようには戦えないので…」

 

そう言って、伊落は、可愛らしくはにかんだ。

 

「…勝手に入ってしまってすみません。扉が開いていたので、思わず入ってしまいました」

 

そこで私はようやく、不法侵入についての謝罪を告げる。

 

「それでしたら大丈夫ですよ。確かにこの場所は私たちの管理下にありますが…そもそもは、この場所を必要としている皆さんの為の場所でもありますから…」

 

伊落は、一切気にしていないというように微笑んだ。

その柔らかく、落ち着いた雰囲気は、こちらの気分すらも落ち着かせるようだった。

 

「この場所を必要としている人、ですか…」

 

今は早朝ということもあって、この場にいるのは私と伊落だけだが、日中などは多くの生徒が訪れるのだと聞いている。

 

「はい。何か迷いがある方、悩みを相談したい方…そういった方々が胸に秘めた苦悩を吐き出す…そういう場所です」

 

生きていれば、誰しもが悩みを抱くものだ。

それを自力で解決出来る者もいれば、そうでない者もいる。

ここは、そういった者たちの場所なのだろう。

何か助言を貰えることもあれば、聞いてもらうだけで、肩の荷が降りる者もいるはずだ。

 

「その他にも、祈りを捧げる場所でもあります。もし、何かあれば、私で良ければ聞きますよ?」

 

そう言って伊落は絶えぬ微笑みを私へと向ける。

 

悩みがない訳ではない。

むしろ、正しく私は、悩みを自力で解決できず迷っている者と言える。

だが、さすがにその悩みをそのまま彼女に打ち明けても、困らせてしまうだけだ。

 

「…私のせいで、誰か…不特定多数の人々が傷付くかもしれない。そうした漠然とした不安がありまして…何か解消する方法は無いかと、考えているんですが、中々、いい方法が見付からず…」

 

私がそうオブラートに包んで打ち明けると、伊落は真剣な表情を浮かべていた。

 

「…そうだったのですね。強い方なりの悩みなのかもしれませんね…すみません、未熟な私では解決策が思い付きそうにもありません…」

 

伊落は、申し訳なさそうに俯き、ヴェールに隠れた耳を垂らす。

 

「いえ、大丈夫です。こうして聞いて頂いただけでも、少し気が楽になりました」

 

それは本心だった。

完全な内容では無い、オブラートに包んだものだったとは言え、彼女が聞いてくれたこと、真摯に向き合ってくれたことだけで、私は十分に励まされた。

 

「少しでも力になれたのであれば良かったです。──レイヴンさん」

 

伊落は苦笑いを浮かべた後、間を置いて元の柔らかな微笑みで私を見つめる。

 

「あなたの話を聞いて、私は一つ、思ったことがあります」

 

「それは、あなたが優しい方だということです」

 

伊落の思いがけない言葉に私は思わず固まる。

 

「あっ、いえ、これはあくまでも私の主観ですので、どうかお気を悪くしないで頂ければ…!」

 

そんな私を見て、マリーは慌てて取り繕う。

 

「…いえ、大丈夫です。少し、驚いただけです。自分では、自分を優しいとは、思っていなかったものですから…」

 

「それは…仕方のないことだと思います。優しさというのは、受け手が感じるものですから…中々、自分では気付きにくいと思います。それに、私は優しさにも種類があると思っています」

 

「種類、ですか?」

 

私が聞き返すと、伊落は頷き、長椅子が並んでいる方へと視線を向ける。

 

「はい。私はシスターフッドで、多くの方々の苦悩を聞いてきました。それでよく考えるんです。優しさは、人それぞれで変わるのではないかと」

 

「……」

 

私は無言で伊落の言葉を噛み締めるように聞き入る。

 

「さまざまな優しさがあって、色んな人がそれぞれの優しさを持っていて、そして受け手側が求める優しさも変化する…」

 

伊落は、まるで想いを込めるように胸の前で両手を重ね、その後、私の顔を見上げる。

 

「ですから、レイヴンさんのような、自分が優しくないと思っている方でも、自分が気付いていないだけで、優しいところがあると思うんです」

 

顔を上げた伊落は、正しく慈愛の微笑みと言うべき笑顔を浮かべていた。

 

「少なくとも私は、レイヴンさんが優しい方だと思いました。だから、きっとレイヴンさんの悩みも解決する方法があるはずです」

 

「誰かを傷付けてしまうかもしれない。でも、誰も傷付けたくないという、その優しさがあれば、その祈りは届くと思います」

 

「…ありがとうございます、伊落さん」

 

優しさ、なんて私には勿体なさすぎる言葉だ。

だが、ありがたく受け取る。

これがきっと、いつかの私が戦う為の原動力になる筈だから。

 

「…はい。微力ですが、私も祈っています。レイヴンさんの悩みが晴れますように」

 

そう言って、伊落は両手を組み、祈りの動作をしながら、私へと微笑む。

 

話を聞いてくれた上に、言葉を貰い、祈りまで捧げてくれる。

そんな彼女に、何か返したい。

 

私は柔らかく微笑みを返し、口を開く。

 

「…渡鳥イヴです。どうか、名前で呼んでください」

 

私は今できるせめてもの恩返し…友好の証に、名を告げる。

友愛を示すことが、私が今、彼女に返せる、思い付く限りの恩返しだった。

 

「…はい、分かりました。それでしたら、私のこともどうか名前で呼んでください、イヴさん」

 

「…分かりました。改めて、よろしくお願いします、マリーさん」

 

「あら〜、良い雰囲気ですね〜♪ちょうど良い感じです♡」

 

唐突に現れた第三者の気配と声に、私とマリーは揃って肩を跳ね上げさせる。

 

声が聞こえた方を向けば、そこに立っていたのは、補習授業部の一人、浦和ハナコだった。

 

・・・そして何故か、その姿はスクール水着だった。




マリーを思い浮かべながら書いたんですけど…

いや、マリーがえっちすぎる…(シュタ◯ク並感)
それ以外で言えば、正しく聖女といった感じですね…

浦和フラワーはいつも通り…
むしろ、補習授業部を経て、のびのびしている事でしょう
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