ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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エデン条約前の前置きのようなものです

追記:すみません、明日公開の予定が日付けを間違ってしまって今日公開になってしまったので、このページはこのまま公開したままになりますが、後で内容に軽微な修正が入るかもしれませんが、どうかご了承ください


EP-21 それから

トリニティ、シスターフッド管轄の大聖堂の中。

 

そこでは複数の生徒が、作業に当たっていた。

その中で、怪しい動きをする生徒が一人。

 

浦和ハナコ。

彼女は、ニコニコとした微笑みを浮かべながら、一人の生徒──若葉ヒナタの後ろに付き纏って纏わり付く。

その際に、ハナコの胸部の弾力装甲がヒナタの背中に触れる。

 

ヒナタはその感触に驚き、慌てて距離を離すが、そこにハナコは追い付き、胸を押し付ける。

そういったやり取りを何度か繰り返し、耐え切れなくなったヒナタが困惑に震える声を絞り出した。

 

「あ、あの、ハナコさん…?」

 

「はい、どうかしましたか、ヒナタさん?」

 

ハナコはニコニコ笑顔で胸を押し付けたまま、何ともない様子で首を傾げる。

 

「あの、背中に何かが当たっているような…?」

 

「そうですねぇ、困りましたねぇ♡」

 

しかしハナコはヒナタに指摘されても、押し付けることをやめない。

 

「あうぅ…」

 

一切、ブレることのないハナコに、ヒナタは困り果てて何も言えなくなってしまう。

 

「えっと、ハナコさん?何かお辛いことでも?」

 

見かねたマリーが、助け舟を出すべく声をかける。

 

「いえいえ、何もありませんよ。お出かけしたいタイミングにこうして頼みごとをされて、何日も資料整理という“大切な”お手伝いに従事させられているだけですから。まあ全員一緒ではありませんでしたし…何一つ問題はありません♡」

 

マリーが小耳に挟んだ話では、元補習授業部のヒフミとアズサが、正義実現委員会の戦車を奪って海に向かったのだとか。

それにハナコは同行したかったが、タイミング悪くシスターフッドの手伝いを頼まれてしまい、それは叶わなかった。

幸いだったのは、同じタイミングでコハルが体調を崩して休んでいる為、彼女ひとりを置いてけぼりにせずに済んだことだろう。

 

だが、それはそれとして、ハナコはその鬱憤をセクハラという形でヒナタに押し付けている訳だ。

 

「うぅ…ごめんなさい…ハナコさんが怖い…」

 

マリーもまた、頼んでいる側の立場であり、特に文句を言うことなく仕事自体はこなしてくれている為、強く出ることもできない。

ヒナタもそれは同じだからこそ、指摘するくらいしか抵抗することができないのだった。

 

「そのくらいにしてあげなよ、ハナコ」

 

そこに現れた、二人にとって救世主とも呼べる存在は、他でもない、イヴだった。

 

だが、その服装は、いつものロングコート風の制服ではなかった。

 

「あら、とってもお似合いですよ、イヴちゃん♡」

 

イヴの格好は、ヒナタやマリーと似たシスター風の衣装──修道服だった。

頭にヴェールを被っている為、マリーと同じく頭頂の耳によって布が三角形の二つの山を形作っている。

普段はポニーテールにしている長髪を解き、纏める為のシュシュは手首に付けていた。

構造的にはマリーの制服に近いロングスカートタイプであり、袖はヒナタの制服のように袖口に向かって広くなっている。

機動性を重視して、ロングスカートには左脚のところにスリットが入っており、その隙間からはイヴの白い脚が覗く。

ブーツとグローブには変わりはない。

 

その他には、背中の武器を吊るす為に袈裟懸けにベルトが一本、更に腰回りにも交差するように二本のベルトを備え付け、そこに武器がそれぞれ固定されている。

腰には他にも、複数のケース付きのベルトを取り付けていた。

この中に手榴弾が入っている。

内側に道具を忍ばせることが出来るコートではなくなった為の工夫だ。

更に言えば、スリットが入った左脚には、太ももにガンホルダー付きのベルトを巻き付けており、そこにハンドガンを忍ばせている。

 

基本的にはシスターフッドの制服を踏襲しつつも、その意匠はシャーレひいてはレイヴンとしての特色を反映したものになっている。

その為、黒を基調としつつも白のフリルや金の装飾、トリニティの校章等はなく、胸元とスリットの入っていないスカートの右側に翼を広げた鴉の刺繍がレイヴンの象徴として銀色で描かれている。

イヴのシスター風衣装は、武装の物々しさを除き、全体的に見ればシンプルに纏まっていた。

 

「それはどうも」

 

イヴはこのシスター衣装を試着する為に今日、トリニティを訪れていた。

 

イヴが現れると、ハナコはヒナタへのセクハラをやめた。

 

「イヴさん、ありがとうございます…!」

 

窮地を救われたヒナタが、イヴに何度も頭を下げる。

 

「私も、よく似合っていると思います」

 

状況が落ち着いたことに安堵しつつ、マリーもイヴの格好を見て感想を伝える。

 

「ありがとう、変じゃないなら良かった」

 

「うふふ、スリットから覗くおみ足がとってもセクシーですよ♡」

 

頬を赤らめながら、ハナコは嬉しそうに微笑む。

 

「ヒナタの次は私か?」

 

見境のないハナコを責めるようにイヴは怪訝な視線を注ぐ。

 

「うふふ、ただの私の感想ですよ。それともまさか、ご所望なのですか?」

 

「やめてね」

 

イヴはにっこりとした笑顔をハナコに向ける。

ただし、その目元は笑っていない。

 

「それは残念です。イヴさんのツッコミも中々、クセになる感覚でしたのに…」

 

そうは言いつつも、ハナコは満足げに笑みを浮かべていた。

 

「ところで、イヴさんはこの後、何かご予定があるのでしょうか?」

 

ハナコから解放されたヒナタが、イヴに訊ねる。

 

「あ、うん。ここにはこの衣装を試着する為に来ただけだから、この後すぐにゲヘナに行かないといけないんだ」

 

今日も今日とて、ゲヘナの不良連中は元気いっぱいだ。

風紀委員会から治安維持の要請依頼が届いている。

 

イヴはシスターフッドに協力する取り決めにはなったものの、日常の中でレイヴンとして活動することはない。

あくまでも、有事の際に戦闘要員として協力するという手筈だ。

ただし、レイヴンに要請できるのはシスターフッドの長たるサクラコだけとなっている。

 

「それはお忙しいですね…お手伝いすることはできませんが、イヴさんの無事をここでお祈りしていますね」

 

話を聞いたマリーが、イヴに向かって両手を組む。

 

「…うん、ありがとう」

 

イヴはマリーの祈りを感謝して受け入れる。

 

「そんな忙しいのに私たちにわざわざお見せになられたんですか?もしかして見て欲しかったとか?」

 

そこに訝しむようにハナコが口を挟んだ。

興味津々といった様子でイヴに問い詰める。

 

「…そんなんじゃない」

 

だがイヴは少しだけ無言の後、そっぽを向いて否定する。

 

「今の間は!?今の間は何ですか!?やっぱり見て欲しかったんですね!?」

 

ハナコはイヴの態度から疑念が確信に変わったことで更にイヴを問い質す。

その裏でイヴは心底から辟易した表情を浮かべていた。

 

「これ以上、余計なことを喋ったら強制的に黙らせるぞ」

 

イヴは低い声でハナコを睨み付け、脅す。

 

「うーん…そこはもっとこう、壁際に追い詰めて、顔を近付けてから、『うるさい口だな、塞ぐよ?』といった感じでマウストゥーマウスで──」

 

だがハナコはそれすらも受け流し、寧ろヒートアップする。

 

「物理的に口を縫い合わせてやろうか?」

 

口による脅しでは効果がないと悟ったイヴは、一歩ずつハナコに近付いていく。

 

「…あー、ちょっとやりすぎましたね、ごめんなさい。さすがにかつての《聖徒会》がやっていそうなことは勘弁して欲しいです…」

 

さすがにハナコも懲りたようで、ようやく大人しく引き下がった。

 

「ん?“かつての生徒会”?」

 

ハナコが発した意味深な単語にイヴが疑問を浮かべて食い付く。

 

「ティーパーティーの前身、ってこと?」

 

「あ、いえ。そちらの“生徒”、ではなく、神聖な信徒を合わせて()()、です」

 

ハナコの訂正と解説にイヴは納得する。

 

「“聖徒会”、か。それでそれは何なの?」

 

「聖徒会というのは…どうせならシスターフッドのお二人に説明してもらいましょうか。私よりもお詳しいでしょうし♡」

 

「えぇ!?」

 

説明を振られ、マリーは困惑と共に驚く。

 

「丸投げするのか…」

 

「適材適所です♡」

 

「えーと、そうですね。聖徒会というのは──」

 

解説を始めたのはヒナタだった。

 

「言ってしまうと、数百年前に存在したシスターフッドの前身です。イヴさんが言った、生徒会というのもあながち間違いではないと思います。分派の分かれていたかつてのトリニティを統合する時に行われた《第一回公会議》をきっかけに発足した武力組織でして、“戒律”を破った者への処罰の為の存在でもありました。だから、“戒律の守護者”とも呼ばれていたそうです」

 

「その戒律の守護者が、拷問の際にかなり過激な…血なまぐさい意味の方で、そういったことを行うような方々だったそうです。爪を剥いだり、それこそ、先程イヴちゃんが言ったようなこともしていたかもしれませんね」

 

最後に、ハナコが補足を付け足す。

 

「…随分と闇が深い場所だったんだね。トリニティは…」

 

今のキヴォトスからは想像も付かない話だとイヴは感じていた。

何せ、今のキヴォトスは余程のことがない限り、出血するようなことはない。

今のキヴォトスも決して治安が良いとは言えないが、昔に比べれば改善した方なのかもしれない。

 

「そうですね。今でこそ、そんな血なまぐさいことは滅多に無くなりましたが、昔のキヴォトスはどこもそんな場所だったみたいですよ?」

 

ハナコの言う通りならば、トリニティやゲヘナに限った話ではないのだろう。

ミレニアムは最近出来たばかりと聞くから除くとして、今では砂に飲み込まれたアビドスも、そういった時代があったのだろうか。

 

「…貴重な話が聞けた。ありがとう」

 

「楽しいお話ではなかったと思いますが、そう思っていただけたのなら良かったです」

 

ヒナタは嬉しそうに微笑んだ。

 

「もう行かれるのですか?」

 

ハナコが名残惜しそうに訊ねる。

 

「うん、手伝い頑張れ」

 

ただでさえ、補習授業部の他のメンバーがいなくて退屈なのだろう。

それをヒナタや、偶然、居合わせたイヴで解消していたが、そのイヴがいなくなって残念がっている。

要はおもちゃを取り上げられてつまらない子供のような心理状態だった。

 

「残念です…イヴちゃんともう少しお話していたかったのですが…」

 

はあ、とハナコは心底、残念そうにため息を吐く。

 

「ハナコは私で退屈凌ぎをしたいだけだろ…」

 

「あら、そんなことありませんよ♡お仕事、頑張ってくださいね」

 

「イヴさん、またのお越しをお待ちしていますね」

 

「イヴさん、ありがとうございました…!」

 

ハナコ、マリー、ヒナタに見送られ、イヴは着替えの為に奥に入っていった。

 

着替えを終えたイヴは、そのままトリニティを後にし、ゲヘナへと向かった。

 

****************************

 

すっかり日課のようになってしまった風紀委員会の依頼を終え、ゲヘナの出口へ向かう道中。

 

「おやおや!?そこにいるのはもしや!シャーレのレイヴンさんではありませんかぁ〜!?」

 

そんな声を投げかけられ、振り向いた先には、三人の生徒がいた。

 

一人は長い黒髪と同じ色合いの滑らかに捩れた一対の角を持つ赤眼の生徒。

もう一人は、淡い赤髪で赤い宝石のような歪な双角を持つ高身長で…胸部が豊かな生徒。

最後の一人は──。

 

「あー!イヴ先輩だー!久しぶりー!!」

 

万魔殿の生徒の一人、イブキだった。

一緒にいるところと、そして似たような制服を着ていることから他二人も万魔殿の生徒であることが窺える。

 

「イブキちゃんとお知り合いでしたかー!あっ、初めまして!私、《元宮チアキ》と申しますぅ〜!万魔殿の書記を担当しております!以後、お見知りおきを〜!」

 

そう自己紹介して来たのは、黒髪赤眼の生徒の方だった。

背は私と同じくらい。

 

何というか、裏を勘繰ってしまうような底抜けの明るさを感じる。

 

「イブキ、久しぶり。それと、丁寧な自己紹介ありがとうございます。ご存知の通り、シャーレのレイヴン、渡鳥イヴです。チアキさん、よろしくお願いします……えーと、そちらの方は…」

 

私の視線は、残る三人目、赤髪高身長の生徒に向く。

 

「ふふっ…初めまして、レイヴン。話には聞いてるわよ」

 

その生徒が、妖しい笑みを浮かべながら、近付いてくる。

その容姿に相応しい、大人びた妖艶さのある声だった。

 

「私は万魔殿の情報部長、《京極サツキ》よ。あなた、マコトちゃんの誘いを断ったらしいわね?」

 

京極サツキは、笑みを絶やさぬまま、私に問いかける。

キヴォトスの支配とかのことだろうか?

 

「…ええ、まあ、はい。残念ながら、考え方の違いというか、方向性の違いで断らせていただきましたが?」

 

私は誰かの下に着くような生き方は合わない。

そういった理由で断ったはずだ。

 

「…そう。それなら、“最後に”、もう一度だけ聞くわ。拒否を撤回して、私たちの手を取る気はない?」

 

そう言って京極サツキは私に手を差し出してくる。

最後に、という文言が気になるが、私の心は変わらない。

何かしらの強硬手段に出るつもりなのだろうか?

 

「…残念ながら、何度誘われたところで、私の意志は変わりません。あなた方万魔殿の下に着く気はありません。何か依頼であれば、内容を精査した上でお受けしますが」

 

私は京極サツキの手を取らずに断った。

すると、京極サツキは静かにため息を吐き、手を引っ込める。

 

「……それは残念ね…。出来れば、この手段は取りたくはなかったけど──取らざるを得ないようね…!」

 

京極サツキが何かを企んでいるかのように、笑みを浮かべる。

それは、彼女の口の中の鋭く尖った犬歯を覗かせる。

 

何をするのか、何が来ても良いように咄嗟に身構えると、京極サツキは優しく、傍のイブキを持ち上げた。

 

「うん?サツキ先輩?どうしたの?」

 

何も分かっていないのか、イブキは純粋無垢な表情で首を傾げる。

 

「…レイヴン、今なら──」

 

「万魔殿に入れば、イブキちゃんと一緒に毎日一緒に遊べるわよっ!?」

 

 

 

 

 

 

「……えっ…?」

 

予想外と言うか、予想の斜め上過ぎた内容に、理解と反応が遅れてしまった。

 

「わぁ〜!イブキもイヴ先輩と毎日遊びたーい!」

 

京極サツキの両手の中で、イブキが無邪気にはしゃぐ。

 

「良かったねぇ!イブキ!」

 

そのイブキをカメラで撮りながら、元宮チアキが便乗する。

 

「どう?良い条件だとは思わない?これなら断る理由も──」

 

「いや、断りますが」

 

イブキを前に突き出し、自慢げな京極サツキの言葉を遮り、私は一刀両断する。

 

「そんな…!?嘘でしょ…!?イブキちゃんと毎日遊べる権利を捨てると言うの!?」

 

まるでこの世の終わりかのように、心底から信じられないとでも言うような驚愕の表情を浮かべている。

 

「……あうぅ…イヴ先輩、イブキと遊びたくないの…?」

 

京極サツキの手に持ち上げられたまま、イブキは目元を潤ませる。

 

「イブキちゃんも泣いちゃったわよ!?」

 

…少しだけ罪悪感を感じないこともない。

 

「あちゃー…断られちゃったねぇ、イブキ…でもレイヴンさんも忙しいだろうし仕方ないよ…それに大丈夫!私が代わりに遊んであげるから!」

 

意外にも、元宮チアキは私ではなく、イブキの方を説得する方に入った。

彼女は案外、万魔殿の中でもマトモな生徒なのだろうか…?

 

「…イブキ」

 

私は京極サツキの手の中のイブキに近付く。

京極サツキが高身長なのもあって、屈む必要はない。

 

「私もイブキとは遊びたい。でも、万魔殿にはいられないの。私には、やらなきゃいけないことがあるから。イブキは賢いから、それは分かるよね?」

 

「……うん…」

 

「だから、毎日遊ぶのは無理だけど、暇な時には遊びに来てあげる。もちろん、イブキが呼んでくれた時にも、ね。だから、泣かないで。笑おう?」

 

私がそう言うと、イブキは目元の涙を拭った。

 

「…うん、分かった!」

 

イブキは頷いて、満面の笑顔を見せた。

 

「…良い子だ」

 

私はイブキの帽子を取り、頭を優しく撫でてあげた。

イブキの頭には、金髪に紛れるように小さな角が生えていた。

 

「くっ…やるわね…!イブキちゃんが泣いちゃうのは予想外だったけど、これでも動じないなんて…!」

 

京極サツキは優しくイブキを下ろしてあげた。

どうやらイブキを使った方法は終わったらしい。

 

「だけど、こっちにはまだ秘策があるのよ!」

 

そう言って京極サツキは不敵な笑みを浮かべる。

 

だが、私の中での警戒度は最底辺にまで下がっている。

彼女がどんな手段を用いて来ようと、茶番レベルのものでしかないだろう。

 

「ふっふっふ…恐れ慄きなさい…これが私のとっておきの秘策よ!!」

 

そう言うと京極サツキは、その豊満な胸の谷間に手を突っ込み、何かを取り出した。

 

…まさか本当にそんな場所に物を隠す人間がいるとは思わなかった。

前にゲーム開発部のモモイに聞いたことがあったが、その時はフィクションだろうと共に笑ったものだ。

 

…まあ、少なくとも私には縁のない話であることは間違いない。

 

京極サツキが取り出したのは…穴の空いた硬貨に紐を通したものだった。

 

「さぁ、これを見なさい!!」

 

そう言って京極サツキは紐を持ち、硬貨を離す。

硬貨は紐によって宙に留まり、振り子のように揺れる。

 

「あなたはだんだん万魔殿に忠誠を誓いたくなぁ〜る、私の言うことを聞きたくなぁ〜る」

 

──催眠術。

それも、アナログ式の、陳腐なやつ…。

 

「あっははっ!出ましたね!サツキ先輩の十八番!」

 

元宮チアキにまで笑われている始末…本人に悪意はないのだろうが…。

 

「どう?だんだん、私たちの言うことを聞きたくなって来たんじゃない?」

 

…なっていないが。

残念ながら、私の精神には何の影響もない。

 

「ふっふっふ…こうして、見続ければ…だんだんと…あれ…?」

 

早く終わらないかと思って眺めていたら、硬貨の向こう側の京極サツキの様子がおかしい。

 

「あれ…?何だか…目が回って…?何か…変?」

 

術者が自分で術中に嵌るのか…。

 

もう何というか、どう反応すれば良いのか分からない…。

 

「あー、やっぱりこうなっちゃいましたかぁ〜」

 

自ら催眠に掛かってその場に座り込んでしまった京極サツキを見ながら、元宮チアキは困り果てたように笑った。

 

「レイヴンさん、お付き合いくださってありがとうございます!先輩は私たちが連れて行くので、どうかお気になさらず!」

 

元宮チアキが私の前まで駆け寄り、朗らかに笑う。

どうやら、万魔殿は後輩の方が先輩よりもしっかりしているようだ。

風紀委員会とは真逆だ。

…こんなことを言ったら、アコが怒りそうだが。

 

「サツキ先輩大丈夫〜?」

 

元宮チアキの背後で、地面に座り込んだ京極サツキにイブキが声を掛けていた。

 

「んん〜?イブキちゃん…?イブキちゃんが一人…イブキちゃんが二人ぃ…?」

 

まるで泥酔しているかのようだ。

 

「うん?イブキは二人じゃないよ〜?」

 

イブキの方がよっぽどしっかりしているように見える…。

その様子を元宮チアキと共に眺めていると、彼女ははたと何かを思い出す。

 

「そうでした!レイヴンさん、良ければこちらをどうぞ!」

 

そう言って元宮チアキは何かを差し出してくる。

それは雑誌だった。

表紙には、“週刊万魔殿(ぱんでも)”と記載されている。

 

「趣味で刊行しておりまして、良ければ暇な時にでも読んで感想を聞かせてください!あっ、お金は頂きませんのでどうかご安心ください〜!」

 

私は受け取ってパラパラと捲りながら流す。

 

「えっ、無料?」

 

個人が趣味で作っているとは思えない出来栄えだ。

これを無料と言われても、きっと誰でも私のように困惑する筈だ。

 

「はいっ!好きなことを好きなようにやってるだけなので!あっ、もし定期購読したくなったら、いつでもご連絡ください!そうじゃなくても、遊びのお誘いとかでも、いつでもお待ちしてますよ〜!それでは、失礼しますね!」

 

そう言って元宮は一礼すると、京極サツキとイブキの元に行く。

 

「ほら、先輩立ってください!帰りますよー!」

 

「えぇ〜?帰るぅ〜?レイヴンはぁ〜?」

 

「レイヴンさんはお忙しいですから!それに、私たちの負けです!」

 

その様は完全に酔っ払いの介抱だ。

 

「イヴ先輩、またね〜!!」

 

元気を取り戻したイブキが、手を振ってくる。

 

私も手を振り返し、戻って行く三人の姿を見送った。

 

思わぬ邂逅だったが、まさか万魔殿にあのような人物たちがいるとは…。

 

元宮は生粋の根明。

あれは間違いなく、素なのだろう。

京極はポンコツが目立つが、節々から優しさのようなものが目立つ。

悪ぶった態度の時もあるが、完全にハリボテだ。

素は間違いなく優しい人間に違いない。

 

二人とも、あの羽沼マコトの下にいるのが不思議なくらい良心的だ。

それにはもちろん、イブキも当て嵌まる。

きっと、私には窺い知れぬ理由があるのだろう。

 

イロハに関しては、清濁併せ呑む強かさを感じる。

羽沼マコトの下に着く者としては適任に思える人材だ。

 

そんな考えがひと段落したところで、ふと、手の中の雑誌に目を落とす。

 

内容を見てみないことには詳しいことは分からないが、出来は良さそうだ。

後で先生にも勧めてみよう。

 

そんなことを考えながら、私は帰路に着いた。

 

****************************

 

それから時間は流れ、ついにエデン条約の調印式。

その当日が訪れた。




せっかくなので、チアキとサツキを登場させてみました
二人ともとても可愛いです癒しです
イヴちゃんも言ってますが、この二人が万魔殿にいるなんて信じられないくらい良い子ちゃんたちですね…

因みに私はチアキはお迎えしましたが、サツキはまだ入手できておりません…
周年ガチャで来てくれるハズ!!

そして、ついに次回からはエデン条約編の山場の一つ、調印式当日に突入します!
更新が遅れたら構成に四苦八苦していると思ってください…
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