エデン条約調印式
会場大爆発
大惨事
爆発、燃焼によって舞い上がった灰燼が空を覆い、暗雲によって影を落とす。
暗くなった世界で、燃え盛る炎だけが煌々と辺りを照らす。
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
「こっち、こっちにも怪我人が…!」
「けほっ、けほっ!だ、誰か…」
人々の悲鳴が一帯に響き渡る。
混乱、錯乱、狂乱──。
多くが逃げ惑う中、助けを求める者を助けようとする者もいるが、混乱の渦中でそれは叶わない。
そして、その光景は中継によってキヴォトス中に発信されている。
『緊急事態です!古聖堂が、正体不明の爆発によって炎に包まれ…!』
『これは一体…せっ、尖塔が崩れていきます!』
その光景をトリニティの檻の中の聖園ミカもまた、目にしていた。
「…ナギちゃん?」
また、古聖堂から離れた街中でも、混乱は人々に伝播していた。
「きゃあぁぁぁぁっ!?」
「気を付けて!そっちは…!」
混乱に陥った街中を補習授業部の三人もまた、目の当たりにしていた。
喫茶店から出た三人は、逃げ惑う人々と爆発の余波で破壊された街並みを前に立ち尽くしていた。
「な、何ですか、これは…」
先程まで、歓喜に溢れていた街が、今では見るも無惨な姿に変貌してしまっている。
ヒフミは言葉を失っていた。
「あっ、アズサちゃんはどこに…!?」
爆発が起こる直前、アズサは喫茶店を飛び出した。
今では、周囲を見渡してもその姿は見付けられない。
ヒフミは後悔した。
あの時、一緒に行っていれば、着いて行けば、と。
「せ、先輩たちが…!」
コハルも今にも泣き出してしまいそうな表情で、駆け出そうとする。
爆発が起こった古聖堂には正義実現委員会もいた。
コハルが気が気でないことは、十二分に理解できる。
「コハルちゃん、ヒフミちゃん!待ってください!」
それでも、ハナコはヒフミとコハルを引き止める。
「状況が把握できるまで、動くのは得策ではありません!」
ここで散り散りになってしまっては、更に混乱を加速させるだけだ。
せめて自分たちだけでも、落ち着いて行動するべきだとハナコは考える。
「で、ですがアズサちゃんが…!」
ハナコ自身、コハルやヒフミの気持ちも痛いほど理解できるが、こういう時に恐ろしいのは、下手に行動して発生する二次被害だ。
「アズサちゃんも正義実現委員会も、少なくとも自分の身は守れます!今はそれよりバラバラに散らばることの方が危険です!」
「で、でも…」
「ハナコちゃん、コハルちゃん…私たち、どうすれば…」
コハルもヒフミも、不安に押し潰されそうになっている。
自分がしっかりしなくては。
自身に言い聞かせ、ハナコはこれから何をするべきか、考えを巡らせた。
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黒煙と炎が揺らめく古聖堂──否、古聖堂跡地。
より爆心に近いところに、瓦礫の中に横倒しで転がる一台の車があった。
そこから這い出て、瓦礫の上に立ち、変わり果てた調印式会場を眺める人影が一つ。
その人物──少女は、全身が痛々しく傷付いていた。
身の丈もある程の重量型の銃を手に、豊かな白髪を揺らすその生徒は、ゲヘナの風紀委員長、空崎ヒナだった。
(──何が起きた?)
ヒナは車での移動中に爆発に巻き込まれ、状況を把握する間もなかった。
(爆発…攻撃された?状況は?)
爆発に巻き込まれたダメージで鈍る思考の中、ヒナは辛うじて掴んだ情報を纏めて推測する。
(さっきの、何かが高速で飛んでくるような音…それにこの被害状況…)
古聖堂全体が爆発によって吹き飛び、その余波は周辺広範囲に及んでいる。
生半可な兵器ではこれほどの被害には至らない。
(巡航ミサイル…それも、対空防御システムが迎撃できないほどの速さで?)
対空防御システムによる迎撃が間に合わないほどの兵器となれば、更に限られる。
問題は、そんな代物を誰が何処で手に入れたのか、という話だ。
(…ラムジェットエンジン?キヴォトスで、そこまでの技術を持っているところは……いや、それだけじゃこの規模の爆発にはならないはず…初めから古聖堂に爆薬が…?)
まとめると、対空防御システムが迎撃できないほどのミサイルが古聖堂に撃ち込まれ、それによってあらかじめ仕掛けられていた爆薬が誘爆し、この惨状を作り上げた、ということになる。
それはつまり、この惨状は仕組まれたものだった、という事実だ。
(一体、どこからが罠だった?それに、誰が…トリニティ、シスターフッド…?)
あらゆる疑念、疑惑が泡のように浮いては消えていく。
その中で、ヒナは明瞭になっていく思考の中で、ある結論に辿り着く。
(…違う。今考えるべきことは…!)
犯人探しをしている場合ではない。
ヒナは周囲に視線を巡らせる。
(アコは…無事。だとすると…)
アコはひとまず自分よりは軽傷のようだった。
あれならば心配いらない。
(次に動くべきは…)
直後、ヒナは弾かれたように顔を上げる。
「…っ!先生…!?」
古聖堂付近には先生もいたはず。
先生がこれだけの爆発に巻き込まれて無事でいるのか。
それを確かめなくてはならない。
連想して、イヴのことも思い浮かぶ。
先生よりかは大丈夫だと思いたいが…続々と他の者達の安否も気になってくる。
風紀委員会のイオリやチナツ、他の委員たち。
それに救急医学部のセナ。
ヒナはその者達の下へと向かうべく、駆け出そうとする。
その瞬間、ヒナは背後で地面を踏む音を聞き取る。
「ひ、ヒナさん、まだ立ってますねぇ…」
そこにいたのは、アリウスの生徒を引き連れたヒヨリだった。
「ど、どうしましょう…あれを受けてまだ立っているなんて、すごいですねぇ、強いですねぇ…まだまだ戦うなんて、どうして…痛いはずなのに、苦しいはずなのに…」
古聖堂付近にいた多くの生徒は、先程の爆撃で気を失って動けなくなっているはずだ。
それでもこうして立っているヒナは、それだけ強い存在であることを意味している。
『やれ。特にヒナだけは逃すな』
スクワッドのリーダー、サオリから指示が飛ぶ。
「は、はいっ!」
ヒナは立っているとは言え、万全とは程遠い。
「そ、そういうことみたいでして…すみませんね、えへへっ…」
ヒヨリとアリウス部隊であっても、勝ちの目があるかもしれない。
(…アリウス、分校)
先のトリニティのティーパーティークーデターの情報はヒナ──風紀委員会情報部も掴んでいた。
クーデターを引き起こした主犯である聖園ミカが引き連れていたという生徒の姿に目の前の部隊の姿は合致している。
「あ、あなたを先に行かせないように言われてるので…すみませんが、これも命令でして…」
一刻も早く、先生の安否を確認しなくてはならない。
「……」
ヒナは無言で愛銃、終幕:デストロイヤーを構える。
「…どきなさい」
ヒナは最終警告を告げる。
相手が、従わないと予想できて尚。
「やっぱり、辛いことばっかりですねぇ…」
ヒナの銃口から、黒紫の破壊の奔流が放たれた。
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崩壊した古聖堂の上空、黒雲の中を漂う飛行船は、唯一健在であり、地獄絵図となった会場を見下ろしていた。
「キキキキキッ!!」
その中で、万魔殿の議長、羽沼マコトは高笑いを上げていた。
「成功だ!これぞ計画通りっ!キヒャヒャヒャヒャッ!!」
その姿に、イロハはたじろぐ。
「マコト先輩、いったい何を…?」
「これで邪魔者は全て消える。ティーパーティーも、あの目障りだったヒナも!
分かるかイロハ、これぞ一石二鳥ってやつだよ」
「何を隠そうこのマコト様は、トリニティを恨んでいるアリウスと前々から結託していたのさ!
ティーパーティーの内紛も、クーデターも、私は最初から知っていた。全ては今日の計画のために!」
「クーデター?いつの間にそんなことを…つまり先輩は、最初からエデン条約を結ぶ気はなかったと?」
「ああ、そんなことこれっぽっちも興味ないね!
私の関心はずっと、邪魔者どもを片付けることだけ!
いつまで経っても姿を現さないティーパーティーの奴らをおびき出すため、あくまでそのために条約に同意する振りをしていたのさ」
「そのついでにヒナまで片付いた。こんなラッキーなことはない!キキキッ!
その為にアリウスは多大なサポートをしてくれた。この飛行船だって私たちの友好の証としての贈り物…敵の敵は味方ということだよ、キキキキッ!!」
「さぁ、アリウスに連絡を。本格的にトリニティの壊滅戦を始めようじゃないか。
ヒナにナギサ、私を邪魔する者は誰もいない!今こそトリニティをキヴォトスの地図から消し去る時だ!」
「それとも…レイヴン、貴公が私たちの前に立ち塞がるか?
貴公はあの時、『為すべきことを為す』と言っていた。自分の力はその為のものだと…。
ならば見せてみるがいい!貴公の力を!それが、できるというのであればなぁっ!!」
「マコト先輩…そのアリウスが下手したらトリニティ以上に憎んでいるのが、私たちゲヘナなんですよ。どうして私たちと手を組むと思ったんですか?」
「……何ぃっ!?」
「ねぇねぇ、このたくさん置いてある箱って何?“取扱注意”、“可燃性”って書いてあるけど…」
「まぁ、つまりは…またマコト先輩が騙された、と。はぁ、レイヴンが出るまでもなかったですね…」
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火と灰に包まれる会場から少し離れた建物の上に立っている人影があった。
その視線の先では、万魔殿の面々が乗っている飛行船が爆発し、炎上しながら墜落していく姿があった。
「チームⅡ、報告を」
その様子を眺めながら、建物の上に立つ人物──サオリは通信を入れる。
『チームⅡ、古聖堂に侵入した。そっちは?』
「ああ、こっちも用事は終わった」
『ち、チームⅢ、現在ヒナさんと交戦中です!チームⅤは予定通り、地下に侵入中…!』
「了解、すぐに合流する」
短く告げ、サオリは通信を切った。
「トリニティ、そしてゲヘナよ…これまでの長きに渡る我らの憎悪、その負債を払ってもらう時だ。
我々アリウスが楽園の名の下に…
貴様らを審判してやろう」
サオリは不敵な笑みを浮かべ、建物から移動し始めた。
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『全ては虚しいもの。それが予知夢から私が導き出した、この世界の真実だ』
何も見えない暗闇の中で、声が聞こえる。
『だから、エデン条約もあり得ない、と?』
それは夢の記憶。
以前、夢の中でセイアと話した、記憶の残滓。
『そう言えば、君には問いを投げかけたままだったね。どうだい?答えは出せたかい?“楽園に辿り着きし者の真実を証明することはできるのか”……夢物語のような
夢の中で夢の記憶を想起するというのは奇妙なことだ。
『…そうだね。答えと言って良いか分からないけど、私は──』
その先を告げる前に、私は意識を取り戻す。
唐突に現実に引き戻された朦朧とする意識の中、目を開く。
霞む視界では全てが霧がかったようにぼやけ、明瞭でないが、とにかく起き上がる為に力を入れる。
体の節々が痛む。
その痛みが、意識を鮮明にしていく。
それと同時に、私は自分が何故、こうして地面に倒れているのか、その記憶が徐々に蘇ってくる。
何の因果か、感じ取ってしまったアリウスの悪意。
それと同時に察知した飛来物──ミサイル。
先生をどうにか逃がそうとして古聖堂に飛び込み、先生を見付けたまでは良かった。
その後、私はコーラルを検知した。
そこで行動が遅れた。
何かが古聖堂の外壁にぶつかる微かな音と振動の直後──。
私は、先生に突き飛ばされた。
お蔭で、私は爆発には巻き込まれたものの、倒壊には巻き込まれなかった。
先生が咄嗟に突き飛ばしてくれたお蔭で、私は“奇跡的”に出口と一直線の位置に立ち、爆風によってそのまま古聖堂の外まで吹き飛ばされた。
先生は無事なのか──そのことが気掛かりだ。
もちろん、あの場にいた他の生徒もどうでも良いという訳ではないが、どの生徒よりも先生が肉体的に弱い。
負傷する可能性も、何より死ぬ可能性も。
爆発の影響か、足元が覚束ないながらも立ち上がる。
一時的なものだ、じきに元通りなるだろう。
全体的なダメージは、ACのAPで例えるなら、三割減少といったところだ。
倒壊に巻き込まれず、爆発を直撃で受けたが、そこは制服によって緩和された。
以前、ミレニアムに持ち込んだ制服は、丈夫な生地と特殊な繊維によって編み直された。
重装甲に匹敵する頑健さがあり、爆発の影響を和らげる。
反面、貫通型の攻撃には弱くなってしまったが、それは仕方ない。
もう一着の、軽装備型の制服と状況に応じて使い分けるしかない。
そんなことはさておき、私は選択しなくてはならない。
先生を探す為に、古聖堂の内部へと向かうか、それとも…今も私の“耳”が捉え続けている、コーラルの気配を辿るべきか。
コーラルの気配は、古聖堂とは反対側から漂って来ている。
それはまるで、私をおびき出そうとしているかのように、私をこの場から引き剥がそうとするかのように。
エアがアリウスに関わっているのか、それともこの機会を好機と見たエアの火事場泥棒か…。
仮に関わっているとして、ゲマトリアも同時に絡んでいるのか…。
周囲には爆発の前よりも気配が多くなっている。
アリウスの部隊に違いないだろう。
ブラックボックスだった古聖堂の地下に潜み、そこから出て来たのだろう。
そのアリウス部隊が私の手で潰されないように、エアが仕組んでいるのかもしれない。
十中八九、罠に違いない。
これは誘い──釣り餌だ。
だが、それと同時に、私への脅しでもあるように感じる。
『他の生徒をコーラル侵食兵器によって襲わせたくなければ、こちらに来い』、といったところか。
そこでふと、私は疑問を覚える。
アリウスの目的は何だ?
エデン条約を中止させるため?
それなら、最初の爆撃だけで十分に思える。
爆発に巻き込まれたとは言え、ここには風紀委員会や正義実現委員会、特にツルギやヒナもいるはず。
そんな連中とぶつかるリスクを冒してまで、この場に現れる理由はなんだ?
アリウス・スクワッドの戦力は依然不明だが、ヒナとツルギを相手取って、無事に勝利を収められるのか…それほどの実力を持っているのか?
或いは、その二つの組織を今の内に潰そうとしている?
だが、それであってもアリウスは分が悪いようにしか思えない。
アリウスの企みは…エアとゲマトリアは何を狙っている?
だが、これ以上、この場に残っている暇はない。
早くしなければ、痺れを切らしたエアが、コーラル侵食兵器を投入して来るかもしれない。
ミサイル爆撃で大ダメージを受けている今の風紀委員会や正義実現委員会にそれが襲い掛かれば、下手すれば死人が出る可能性がある。
私が行くしかない。
例え罠だとしても、私一人であれば、どうとでもなるはずだ。
この場の混乱がこれ以上、悪化しないように、この場は他の生徒に任せるしかない。
先生のことも、アリウスのことも。
後ろ髪引かれる思いを抱きながらも、私は軋む身体に鞭打ち、地面を蹴った。
コーラルに誘われるままに、その先へと──。
****************************
『──い!』
「先生、目を覚ましてください!」
アロナの声が聞こえ、先生は意識を取り戻した。
目を開けた先生の目の前には、涙目のアロナが立っていた。
[“アロナ…?”]
「先生、大丈夫ですか!?気を確かに…!」
[“いったい何が…”]
古聖堂内で、ヒナタに内部を案内され、サクラコが到着するということで入り口の方へと向かえば、切羽詰まった様子のイヴが現れて腕を掴まれ──。
「古聖堂が爆破させられて…何とか先生を守ろうとしたのですが…」
アロナも様子がおかしい。
まるで、落ちそうな意識を必死に繋ぎ止めようとしているかのような。
「もう、これ以上は……しっかり…力が…」
声も絶え絶えになり、アロナは気を失って倒れてしまう。
[“アロナ…!?”]
地面にぶつからないように抱き止めるが、先生は“外”へと弾き出されてしまう。
そこで──。
炎が赤く照らし、黒煙が立ち昇る暗い空の下で、先生は
燕尾服に身を包んだ、双頭の木彫り人形。
(“今のは──!”)
その情報は、以前イヴからの報告にあった。
イヴが、連邦生徒会の依頼で廃墟となったアミューズパークの調査を行った際に、イヴが接触したというゲマトリア…《マエストロ》と名乗ったその存在と同じ特徴を有している。
だが、先生は声が出せず、声をかける前に木彫り人形──マエストロは姿を消してしまった。
「──先生!」
突如、声をかけられた。
その声には聞き覚えがあった。
爆発が起こる直前まで共にいたヒナタのものだった。
「せ、先生…けほっ、こほっ…ご無事でしたか!」
ヒナタも爆発に巻き込まれたのだろう。
擦り傷と煤汚れに塗れた姿は、煙に咳き込む姿と相まって痛ましい。
(“身体が動かない…”)
先生は倒壊した古聖堂の瓦礫の間に挟まってしまっているようで、身動きが取れない状況だった。
「良かったです。辛うじて瓦礫の隙間に…」
下手をすれば爆発からは逃れても、瓦礫に潰されていた可能性もあった。
奇跡的に、助かったらしい。
或いは、アロナのお蔭か。
「待っててください、すぐに私が…!」
ヒナタは先生の身動きを封じている瓦礫を力任せに押し退ける。
「これだけの力があることに感謝します…先生、立てますか?」
ヒナタが差し伸べてくれた手を取り、先生は立ち上がる。
[“ありがとう、ヒナタ…ヒナタは大丈夫?”]
「あ、はい、私は何とか。力と同じで、頑丈な身体のお蔭でこの程度で済んだみたいです。先生のお怪我は…無さそうですね。あの爆発に巻き込まれてほとんど傷一つ無いだなんて、本当に奇跡のようです…」
こうして普通に話せていることからも、ヒナタは大丈夫そうだ。
後の懸念は、他の生徒──特に、爆発の直前に慌てた様子のイヴ。
爆発の直前、彼女を咄嗟に突き飛ばしたことは先生も覚えていた。
あれが功を奏し、無事にいてくれれば幸いなのだが──。
[“ヒナタ、私を助ける前に、イヴを見なかった?”]
突き飛ばしたとは言え、それほど遠くには行ってないはずだ。
まさか、瓦礫の下敷きになっている、なんて事は──そんなことは決してない、と先生は心の中で否定する。
「イヴさんですか…すみません、私も見ていないんです…それほど遠くには行っていないと思うのですが…」
ヒナタも心苦しそうに首を横に振る。
イヴの安否が不明で不穏な空気の中──。
「先生!ご無事でしたか!」
「せ、先生…!」
声が聞こえ、そちらへと振り向けば、そこにはハスミとツルギが向かって来ていた。
彼女たちもまた、全身が擦り傷と煤に塗れてしまっている。
「正義実現委員会の皆さん!」
[“みんな、すごい怪我…”]
三人とも平然と動いているが、傷だらけで動いている姿に先生は心苦しくなる。
「これくらい大したことありません。ですが先ほどの爆発で、正義実現委員会のほとんどは戦闘不能になってしまいました。
それにナギサさんやサクラコさん…それ以外にも多くの方が見当たらなくって…」
爆発に加えて建物も倒壊し、多くの生徒の安否が不明なこの状況。
ヒナタに見付けて貰えたのは運が良かったと思える。
だからこそ、イヴも含め、残りの生徒たちも早く見付け出してあげなければならない。
「…ゲヘナ側もほとんど見当たりませんね。これは一体どういう…」
「っ!!」
突然、ツルギが向きを変え、身構える。
ツルギが向いた方角から現れたのは──。
「作戦地域に到着…正義実現委員会の残党を発見…。──いや、訂正。残党じゃなく、正義実現委員会の真髄だ」
アリウス分校の生徒で構成された部隊。
率いている生徒は、周りの生徒とは明らかに雰囲気が違う。
まさか、彼女は──。
「ツルギにハスミか…兵力をこっちに回して。これより交戦に入る」
ミカやアズサが言っていた、《アリウス・スクワッド》なのではないかと先生は思い至る。
「アリウス分校…!?
どこからこれほどの兵力が…!?どうやって、周辺地域は全て警戒態勢だったのに…!」
アリウスがこの姿で街中を歩けるはずがない。
少なくとも、地上は見張りの眼がアリウスを逃すことはない。
「ま、まさか…!地下から…?古聖堂の地下にある、あのカタコンベから…!?」
そうなれば自ずと、地下に限られる。
地下であれば、監視は届かない上に、奇襲には打って付けだ。
古聖堂の地下にはカタコンベ──つまり地下墓が広がっている。
大規模なものであり、その区画は具体的な範囲は分かっていない。
そこをアリウスが利用したということになる。
「……なるほど。つまりこの状況、あなた達アリウスの仕業だと考えて良いでしょうか?」
ハスミが怒りを露わに、問い質す。
アリウスは答えない。
無言を貫く。
「…許しません。その代償、今ここで…っ!」
突っ込みかけたハスミを引き止めたのは、意外にもツルギだった。
「…ハスミ」
ツルギに引き止められ、ハスミは我に返る。
「…!」
「落ち着け」
更にツルギが落ち着かせるように声をかけ、ハスミは深く呼吸する。
「ありがとうございます、ツルギ。今は先生の安全が最優先…先生を連れて、ここから離脱します」
ハスミが冷静になったところで、ツルギは銃を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべる。
「あぁ…暴れるのは、私の役目だ」
アリウス部隊の前に立ちはだかるように、ツルギは前に出る。
脱力し切ったような前傾姿勢で右手の銃を担ぎ、もう片方の銃を握った左手は垂らす。
そうして、ツルギはアリウス部隊──それを率いる黒マスクの少女──ミサキへと
好戦的で、獰猛な、相手によっては恐怖で震え上がってしまうような“笑顔”を。
「くひひひひっ…さぁ──」
「相手してやるぜ、虫けらども!かかってきなぁっ!!!」
「ひゃっははははああぁーーーっ!」
二丁の銃を手に、ツルギが猛然とアリウスへと突っ込む。
「先生、行きましょう!」
ハスミの声を合図に、ツルギに殿を任せ、ヒナタと共に先生は駆け出した。
前回から今回辺りの原作での「これからどうなるの…?」感やばいですよね…
まさに絶望、って感じで…
こっちにはレイヴンがいるし大丈夫でしょう!
なんかコーラルも生えて来ましたけど、レイヴンならきっとどうにかしてくれるはず!多分!