レイヴン無双
だいぶお待たせしてしまってすみません!
納得の行く内容に出来ず、悶々としておりました!
納得は全てに優先されると言うことでね…
エアは、自らの幻影──ホログラムを通じて、イヴ──レイヴンの戦闘を観察していた。
攻撃を嗅ぎ分け、見切る感覚、的確に回避を行う体捌き、隙を見極め正確な反撃を繰り出す技巧、更には、レイヴンの切り札──或いは奥の手とも言える、コーラルを焼く真紅の火。
それによって、レイヴンの戦闘技術は更に拡張され、
元より、さして期待していなかったコーラルミメシスの軍隊であるが、こうも容易く蹂躙されるとは──。
相応に調整したクルセイダーとパワーローダーのコーラルミメシスすら、瞬く間に壊滅させられ、残すはパワーローダー一体となっている。
レイヴンは、明らかに以前、アビドスの砂漠で対峙した時よりも強くなっている。
──だが、それもまた、エアは承知の上であり、覚悟していたことだった。
だからこそ、エアは
相手はレイヴン。
こちらの予測を斜め上に超えてくる事は分かっている。
その上で、何重もの策を用意しておく。
第一の策を抜けられれば、第二の策を。
第二の策を越えられれば第三の策を──。
だが、エア自身、今現在の策でレイヴンを倒せるとは思っていない。
この戦いもまた、エアにとっては実験であり、研究の場であった。
視線の先では、残り一体のパワーローダーが手も足も出ず、レイヴンに倒される寸前だった。
『──さすがですね、レイヴン。お見事です』
エアはレイヴンに心からの称賛を贈った。
これで、“第一の策”は尽きた。
次は、第二の策へと移行する番だ。
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残る一体のパワーローダーのコーラルミメシスは、横槍が無かったこともあって、特に苦戦せずに倒すことができた。
SGによる銃撃を浴びせて膝を突かせ、その上に乗って胴体にトドメとなる変形からのSMGの連射を叩き込めば、パワーローダーは無数の小爆発を起こしながら倒れ、大爆発して塵となる。
爆発に巻き込まれないように飛び退いて着地した私は、消費した弾薬をリロードで補う。
『さすがですね、レイヴン。お見事です』
そこへ、エアが声を掛けてくる。
『コーラルミメシスをこうしていとも容易く処理してしまうとは…やはりあなたは恐ろしい存在です』
「……」
正直に言うと、私はエアを警戒していた。
アビドスの時に比べて、今のエアからは必死さが感じられない。
間違いなく、まだ何かを隠していると。
これで終わったとは、到底思えなかった。
『──ですが、さっきも言った通り、今のは所詮、“在庫処分”に過ぎません。レイヴン、本当の戦いはこれからですよ』
「…何をする気?」
崩れた歩道橋の上に腰掛ける、女性の姿のエアを私は睨む。
美しくも、だが、無機質で人形じみた姿のエアは、微笑みを浮かべながら立ち上がり、私を見下ろす。
『レイヴン、私は、これまでのあなたのこれまでの戦いを全て見てきました。ルビコンにおいても、そして、このキヴォトスにおいても』
ルビコンにおいては、一部を除いて言わずもがな。
ウォッチポイント・デルタ以前の戦いに関してはエアは見ていないが、まあその辺りは後々の激戦を考えれば誤差の範囲だろう。
また、エアはゲマトリアに所属している。
これまでのキヴォトスでの戦いを見てきたというのも、荒唐無稽な話とも言い切れない。
ましてや、エアは人型にもなれるが、基本は粒子なのだから。
『それらの戦いからあなたの情報を分析し、そして、私の現状での技術の粋を集めた結晶。《対レイヴン想定戦闘兵器》──』
私は、地面の揺れと同時に、何か大きな気配がこちらに近付いて来ているのを感じていた。
そして、
『そして、《変異コーラル対応特異C兵器》でもあるこれは現段階での私の最高傑作です』
地面から真っ先に突き出たそれ、長くしなる、“尻尾”だった。
滑らかに動くそれは、黒い装甲に覆われており、先端には歪な形状の“棘”のようなものが生えていた。
尻尾に続いて、地面を割り、本体が地上に現れる。
尻尾同様に、全身を重厚な装甲に覆われ、側面からは堅牢そうな“歩脚”が対照的に並んでいる。
更に、正面には分厚く力強い“鋏”──“爪”が大部分を占める“触肢”を備える。
大きさ…体長は尻尾をもたげた状態でも20メートル程であり、その姿は正しく──。
『《スコーピオン》、それがこの兵器の名前です。さぁ、レイヴン。あなたの底力、見せて下さい』
私を威嚇するかのように、大きく鋏を広げた蠍型のC兵器は、頭部の複眼を深紅に煌めかせた。
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黒紫に揺らめく破壊の奔流が聖徒会のミメシスの軍勢を押し退け、吹き飛ばす。
「はぁっ、はぁっ…」
一見、優勢に見えるが、その銃撃を放った張本人、ヒナは頭部から流血しているほどの満身創痍の状態であり、そんな中の体力の消耗によって息を切らしてしまっている。
先生も指揮によってヒナを最適に立ち回らせるが、それでも損耗は避けられない。
「先生、もう少し耐えて。ここを抜ければ…」
だが、そんなヒナの淡い期待を踏み躙るように、ミメシスの軍隊が追加で現れる。
その中には、アリウスの生徒──ヒヨリも混ざっていた。
「ひ、ヒナさん、また会いましたね…!」
彼女──ヒヨリもまた無傷という訳ではないが、ヒナよりも遥かに状態は良好と言える。
「っ、性懲りもなく…!」
再び現れた敵を前に、ヒナは銃を構える。
先生もヒナをもう一度指揮するべくタブレット端末を手にするが、ちらりとヒナを横目に見る。
ヒナは立っていられるのが不思議に思えるような重体だ。
ほぼ、気力で保っていると言っても過言ではない。
だが、その気力もいつまでも続く訳もなく、いつ倒れてしまっても不思議ではない。
それでも、先生はヒナをサポートする。
彼女が命懸けで自分を守ってくれるように、自身もヒナを守る為に。
……遠くから爆発音が響いている。
他にも生徒が戦っているのだろう。
先程も、遠くの爆発音と共に地面が揺れ、爆風の残滓と思われる強風が届いた。
古聖堂のハスミたちや目の前のヒナだけでなく。
戦闘に携わっている者だけでなく、誰かの為に何かを行なっている生徒たちもいるはずだ。
それは救助であったり、捜索であったり、混乱の収拾であったり。
各々の形で、自分がやれる戦いをしているはずだ。
彼らの為にも、自分がこの場でやられる訳にはいかない。
[“…私も戦うよ、イヴ”]
今、この場にはいない、安否も不明な彼女に思いを馳せる。
先生は一層、気を引き締めて、ヒナの指揮にかかった。
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変異コーラルによって稼働する蝎型兵器──“スコーピオン”は、まるで機械とは思えない滑らかな動きで私へと攻撃する。
片方の触肢の爪を地面に突き立ててアンカーにし、そこを支えに前へと跳ぶ。
そうして、前方に立つ私へと、もう片方の爪を振り下ろしてくる。
スコーピオンは常時コーラルを纏っており、その影響か全身の黒い装甲がまるでラメのように赤い煌めきを纏っている。
それは全体的に一定だが、攻撃に際して、それは激しく明滅する。
目の前のスコーピオンの爪もまた、ギラギラと光を放っていた。
それを私はクイックステップによって、スコーピオンの側面に回り込むように回避する。
回避の勢いを利用し、ARによる反撃の銃撃をすれ違い様に浴びせる。
直後、私が立っていた地面にスコーピオンの爪が叩き付けられ、地面が砕け散る。
だが、それだけでは終わらず、突き立った地面を中心に血管のような、葉脈のような深紅の網目模様が広がる。
それは側面にいる私の足元にまで伸び、暗い赤からたちまち明るい赤へと色が変わり、追加の爆発を起こす。
逃れる余裕がない私は、枝分かれする模様の空白の隙間を見極めて爆発をやり過ごす。
それでも、完全に無傷とはいかず、立ち昇る爆炎の余波に炙られる。
「…っ!」
どうやら、近接攻撃には単なる威力だけでなく、変異コーラルによる侵食と追加の爆発も付属しているようだ。
反撃の銃撃も、真紅の火を付与しているが効果は薄いように見える。
アビドスでの変異コーラル侵蝕体に加え、エアは本当に碌でもないものを作ってくれたものだ。
エアはコレを“変異コーラル対応特異C兵器”と呼んでいた。
なるほど確かに、目の前のスコーピオンからは、コーラルの気配は変わらずするが、以前の侵食体とは違って、全身の表面に這う血管のような模様が浮かび上がっていない。
あれが侵食体の証明であり、また弱点でもあった。
侵食体であれば、その模様を狙えば良かったが、目の前のC兵器はそうはいかないようだ。
私は試しに、真紅の火を付与したSMGを飛び退きながら放つ。
SMGの銃弾は、真紅の火を纏い、火の塊となってスコーピオンへと収束するように着弾する。
追憶の再現──大型武装機の誘導弾だ。
放たれた銃弾がミサイルとなって相手を爆砕するものだが、やはり以前のような決定的なダメージを与えたようには感じられない。
ARをリロードする私に対し、スコーピオンの尾部──その先端の歪な針が怪しく動く。
私に狙いを定めるかのようにこちらを向いた針が、私を貫くべく飛んでくる。
私はクイックステップで躱すが、やはり先程の爪攻撃と同じく、地面を穿った針を中心にコーラルが広がり、爆発を起こす。
「くッ…!」
先ほどのように、コーラルの侵食速度──私の足元まで届く速度が尋常ではなく、私は直撃を受けないようにするだけで精一杯だった。
そして、明らかにその範囲は爪攻撃よりも広くなっていた。
私は爆炎が収まると同時にスコーピオンの背面に移動する。
……これだけの兵器をエア一人で生み出せたとは、到底考えられない。
間違いなく、他のゲマトリアも関わっているはずだ。
何が何でも、これは破壊しなくてはならない。
だが、問題はどうやってダメージを与えるか。
コーラル特効の真紅の火でも、コーラルが剥き出しで露出していない為、決定打を与え難い。
──だが、先ずはやれるだけのことはやってみよう。
私は左手の銃をSGに変形させ、真紅の火と共に背後から近距離で散弾を浴びせる。
銃撃そのものが爆ぜるような勢いで弾丸と火炎を放ち、スコーピオンを焼く。
散弾の銃弾そのものもまた、真紅の火の影響で小爆発を起こして、追加のダメージを与える。
しかし、スコーピオンはそれをものともせず、SGをリロードする私へと攻撃を繰り出す。
スコーピオンの次の攻撃は、体側の装甲の間からの連装ミサイルの発射。
それは僅かにホーミングし、私へと襲いかかる。
何処となく、シースパイダーを彷彿とさせる攻撃だった。
ARの狼騎士の旋回で攻撃しつつ飛び退くが、尚もミサイルは私に追従する。
降り注ぐミサイルを私はその軌道を“鴉の眼”で見極め、爆発のタイミングと範囲を“猟犬の耳”で読んで掻い潜る。
駆け回る私の背後や側面でミサイルが地面に撃ち込まれ、爆発する。
幸いなことに、ミサイルには地面を侵食して広がり爆発するような効果はない様子だった。
その間にスコーピオンが地面に突き刺した爪を軸に体を反転させ、私へと振り向く。
スコーピオンは別段素早い訳ではないが、鈍重という訳ではない。
ある程度の小回りも利き、かなりの機動力がある。
私を正面に捉えたスコーピオンと、ミサイルを掻い潜った私の目が合う。
向こうもこちらも、一瞬にして相手に詰め寄れる距離だ。
ふいにスコーピオンが顔を上げる。
それは、人間で言えば大きく息を吸うようなものだったのだろう。
スコーピオンの口元──鋏角の間に深紅の光が収束する。
直後、私の“眼”に映るのは、真っ直ぐ一直線に伸びる軌道を示す赤い射線。
それは、“耳”が感知した危険であり、それを即座に理解した私は射線上から逸れるように斜め前に跳んだ。
スコーピオンの口元に収束した深紅の光が、光線となって空間を貫く。
遅れて、暴風が私の全身を叩く。
私の真横を通り過ぎた深紅の光線は、遠くの建物を貫き、根本からその建物を倒壊させた。
恐ろしい程の破壊力の奔流。
──だが、それと同時に、私の“鴉の眼”は示していた。
光線の直後、スコーピオンの空いた口が弱点であり、攻める好機だと。
私は地面を蹴り、スコーピオンへと突っ込む。
スコーピオンは光線の反動もあって、すぐには動けない様子だ。
私はクイックリロードでSGを装填すると同時に、クイックチェンジで右手のARをSRに持ち替える。
スコーピオンへと肉薄し、その口元の鋏角目掛けて、真紅の火を纏わせた散弾を最大の三連射を見舞う。
爆ぜる勢いで放たれた散弾が至近距離で撃ち込まれる。
光線の熱で軟化していたのか、それとも元々、外殻に比べて内部は脆いのか、爆炎の散弾を打ち込まれたスコーピオンが大きく仰け反る。
──仰け反ったところから、スコーピオンに変化が生じる。
バキバキという音を立て、口元から何かが伸びる。
それは、スコーピオンの中に収納されている一対の鋏角だった。
まるでノコギリクワガタの大顎のように、内側に無数の棘が並んだ鋏角が伸び──否、口内から展開されていた。
スコーピオンの鋏角もまたコーラルを纏っており、深紅の煌めきを放ち、私を挟み込もうと襲い来る。
「…ッ!!」
私は後方宙返りで咄嗟に回避する。
背中の方からガキンッ!という金属同士が激しく擦れる音が聞こえ、背筋が冷たくなる感覚を覚えながら着地する。
あんなものに挟まれれば、タダでは済まない。
更には近接攻撃。
爪や尻尾の攻撃のようにコーラル侵食による追加爆発の可能性もある。
着地した私の目の前には、空を切って交わるように重なった鋏角が伸びていた。
その伸び切った鋏角もまた、“鴉の眼”は弱点であることを看破していた。
危機から一転、好機を掴み取る。
私はスコーピオンが鋏角を収納する前に、伸び切った鋏角に反撃を叩き込む。
クイックリロードからのSGによる爆炎散弾。
更に変形させて装填分のSMGの弾丸を真紅の火を乗せて叩き込む。
完全に鋏角を収納し切る直前に、口元にダメ押しの黒火炎弾を投げ付ければ、スコーピオンは火花を散らして動きを止める。
そこへ、ハーフチャージしたSRでの単発光線を撃ち込む。
真紅の光線が無数の小爆発を起こしながらスコーピオンの背面を通過する。
その間に変形させたSGをクイックリロードし、単発光線後に再び爆炎を伴う散弾を撃ち込む。
無数の爆発が無防備なスコーピオンの装甲を歪める。
更にSRをクイックリロードしてチャージで撃ち込んだ直後に、私は蹴りを叩き込み、最後に黒火炎弾を投げ付けて飛び退く。
黒煙を立ち昇らせながら、スコーピオンがスタッガーから立ち直って動き出す。
そして、私が身構えながら見据える視線の先で、その全身は“黒い結晶”に覆われ始めた。
その“黒い結晶”は、以前、“廃墟”で現れたスイーパーの集合体の変異コーラル侵食体──それが形態変化した時のものに酷似していた。
“黒い結晶”は重なり合って装甲の上に外殻を形成し、不可侵の鎧となってスコーピオンの全身を保護する。
『…ふむ、もうこの段階まで追い詰められてしまいましたか』
不意にエアの声が届く。
エアは、黒い結晶の鎧に覆われたスコーピオンの背後に浮いていた。
『やはり、あのルビコンでの死闘を潜り抜けたレイヴンには、この程度でも追い詰めることは出来ませんか。──ですが、レイヴン』
『“その状態”は、
その言葉と共に、スコーピオンを覆う黒い結晶の鎧の内部に、深紅の血管のような模様が浮かび上がった。
私は頬を伝う冷たさを振り払うように、地面を蹴った。
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「はぁ、はぁ…はぁ…」
ヒナの銃から、黒紫の光が消える。
だが、彼女と先生の前には、無尽蔵に生み出される聖徒会のミメシスと、そしてアリウスの
「くっ…」
ヒナは銃を落とし、地面に倒れ臥す。
[“ヒナっ!!”]
巡航ミサイルによる重大なダメージを受けながらも、ここまで歯を食い縛って戦い続けたヒナだったが、ついにその気力も尽き果ててしまった。
その一方で、アリウスの生徒たちは、ようやく障害となる者が力尽きたことで安堵の息を吐く。
「ゲヘナの風紀委員長、ようやく倒れた」
そう呟いたのは、ハスミ達が食い止めていたはずのアリウスの生徒──ミサキだった。
それは即ち、彼女たちもまた、力尽きて倒れたことを意味している。
「や、やっとですか…痛かったですよねぇ、よくあの傷でここまで…」
この中で誰よりも安堵した様子なのは、度々ヒナの前に立ち塞がったヒヨリ。
彼女は自身の任務を遂行することができたこともあって、心から安心した様子だった。
「……」
無言で倒れたヒナを見つめるのは、顔全体を覆うマスクを被った少女。
先生は初めて出会う、アツコだった。
「トリニティとゲヘナの主要人物は片付いた。残りはもう貴様だけだ、シャーレの先生」
口元を隠すマスクを付け、銃口のような冷たい光を宿す視線を先生に向ける黒髪の生徒──サオリ。
彼らは、先生から見ても明らかに他のアリウスの生徒とは一線を画す雰囲気を纏っていた。
それだけでなく、ヒナの前に立ち塞がったヒヨリとミメシスの戦いに於いて、他の三人が加勢したことで、ヒナが辛うじて優勢だった均衡が崩れた。
結果、攻めあぐねたヒナの限界が先に来てしまい、ヒナは倒れた。
[“…君たちがアリウス・スクワッド?”]
ヒナが倒れ、他からの応援は絶望的。
先生は今、窮地に立っている。
それでも、先生は我が身を顧みずに対話を試みる。
先生は決して、生徒との理解を諦めない。
理解し合えると、信じているから。
「……」
「ふぅ…」
「えへへ…」
「……」
サオリとアツコは無言。
ミサキは他の面子に会話を任せるようにそっぽを向き、ヒヨリは割と話が通じそうな様子だ。
「…ああ、そうだ。私たちが《アリウス・スクワッド》。ようやく会えたな、先生」
そんな中で、先生との対話に応じたのは、サオリだった。
[“…!”]
「アズサが世話になったと聞いた。あいつには今から会いに行く予定だ」
その口調は、どことなく親しみを感じられるようなものだった。
「…我々はトリニティに代わり、この《通功の古聖堂》で条約に調印した」
思いがけず、サオリはこの状況についての説明を始めてくれた。
「……」
条約に調印したのはアツコ。
だが、それについてはわざわざ説明する必要はなかった。
[“どういう意味?”]
「私たち“アリウス・スクワッド”が、楽園の名の下に条約を守護する新たな武力集団──
《
[“!?”]
そこからサオリが先生に語ったのは、この条約への調印が元々はアリウスの義務であり、本来ならば第一回公会議の際にアリウスが行使すべき当然の権利であること。
しかし、かつてのトリニティがそれを許さず、紛争の原因である、“鎮圧対象”として徹底的に弾圧を行ったことだった。
それは、以前ミカが先生に教えてくれたトリニティの歴史についての内容と一致する。
「…これからは“アリウス・スクワッド”が
アリウスが条約に調印してしまったことで、その決定にトリニティやゲヘナが介入する余地は存在しない。
「ゲヘナ、そしてトリニティ。この両校こそエデン条約に反する紛争要素であり、排除すべき鎮圧対象だ」
[“それはつまり…”]
「トリニティとゲヘナをキヴォトスから消し去る。文字通りにな」
「──この条約の戒律、その守護者たちと共に」
アリウスと、そして聖徒会のミメシスの力は先の戦いで嫌と言うほど見てきた通り。
誇大妄想と切り捨てるには、あまりに現実を突き付けられ過ぎた。
ましてや、今はトリニティとゲヘナの両校のトップは不在。
先生はサオリが言っていることは実現し得るものだと理解する。
「貴様らは第一回公会議以来、数百年に渡って積み上げられてきた恨み──私たちの憎悪を確認することになるだろう」
そう言うとサオリは、右手に握ったアサルトライフルを持ち上げる。
「──だが、その前に貴様を処理しておくとしようか」
サオリのアサルトライフルの銃口が先生へと向く。
(“銃口が──”)
無慈悲な銃声が、響き渡った。
この辺の絶望感は原作でも半端ないッスよね…
レイヴンがいればどうにかなるかと思いきや、その為のエアちゃんだった訳ですね