ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

イヴがキヴォトスで繋がったもの、結び付いたもの

対策委員会編から見続けて嬉しくなるシーン
こういうの好きですねぇ…


EP-33 集う者たち

空には相変わらず暗雲が漂い、冷たい雨が降り注ぎ、地面を叩く。

 

瓦礫の山となった通功の古聖堂は、雨によって火の海は消えていた。

その代わり、長く降り続いている雨が、地面に泥を生み、それが泥濘(ぬかるみ)を作っていた。

 

その泥濘に足を取られないように、少女──アズサは走っていく。

 

走るアズサは、元の美しい白銀の長髪も、花の飾りに彩られた翼や制服も汚れてしまっていた。

それでも、前を向く双眸は一切の澱みも、濁りも映ってはいなかった。

 

例え、その手を汚し、穢れたとしても、大切な人たちと大切な場所を守るために。

大切な人たちと訣別し、大切な場所に帰ることが出来なくても。

 

アズサは、戦い、殺す覚悟を胸に、地面を蹴る。

 

連戦と負傷による、肉体に蓄積したダメージと不安定な足場で、何度も躓き、転びそうになりながらも、アズサは()()()()へと辿り着く。

 

通功の古聖堂──その跡地の瓦礫の山。

 

そして、その場所にはアズサの他にも来訪者があった。

 

アリウス・スクワッド──。

その四人だった。

 

向こうもまた、アズサと同じかそれ以上に満身創痍といった出立ちだ。

 

それもそのはず。

アズサとスクワッドは、二度の激闘を経ていた。

 

一度目はミサイルが古聖堂に直撃した後、アズサが目の前で先生がサオリに撃たれる瞬間を目の当たりにした時。

その時は惨敗で、ティーパーティーと風紀委員会の横槍のお蔭で逃れることが出来た。

 

二度目はスクワッドが襲撃の際の臨時拠点として使用している廃墟。

スクワッドの留守の間にアズサは忍び込み、罠を仕掛け、四人が帰って来たところで得意のゲリラ戦を仕掛けた。

その際に、ヒヨリとミサキの撃破には成功するが、サオリには尚も敵わず、追い詰められた。

それでもアズサは最後まで抵抗し、置き土産を置いて退散した。

その置き土産とは、アズサがセイア暗殺の際に使用するはずだった《ヘイローを破壊する爆弾》。

アズサはそれをヒフミに貰った大切なはずのぬいぐるみに仕込み、置いていった。

結果としては、サオリに加えて庇いに入ったアツコを巻き込むことに成功するが、ヘイローを壊すには至らなかった。

アツコの身に付けているマスクが、アツコの命を守った。

 

アズサはその答えを弱まりつつも消えない聖徒会のミメシスから導き出し、立ち上がった。

 

今度こそ、サオリを殺す為に。

サオリを殺せば、エデン条約の調印に結び付いている聖徒会のミメシスは消える。

そうなれば、トリニティもゲヘナも、もう脅かされることはない。

 

その為に、アズサはヒフミを呼び出し、決定的な訣別を告げた。

 

自分は人殺しになる。

だから、ヒフミたちとはもう、一緒にいられない、と。

 

ヒフミは泣いていた。

いや、その顔は見ていない。

見たら、覚悟が揺らぎそうだったから。

それでも、アズサを呼び止めようとするヒフミの声は震えていた。

 

一方的に別れを告げ、アズサはヒフミの前から姿を消した。

 

全ては、ヒフミの為に。

ヒフミと、ハナコ、コハルといった補習授業部の元仲間たち…他のトリニティの生徒、ゲヘナの生徒たちが、安心してまた穏やかな生活が送れるようにする為に。

更には、先生やイヴといった外部の被害者や巻き込まれる人間をこれ以上、出さない為に。

 

そうして今、アズサはアリウス・スクワッドと三度目の邂逅を果たし、相対していた。

 

「はぁ、はぁ…」

 

だが、アズサはほぼ、休息を挟むことなく、この場に立っている。

精神的にも、肉体的にも、ほぼ気力だけで繋ぎ止めている状態だ。

 

「くっ…」

 

精神的疲労による眩暈か、或いは肉体的疲労による手脚の不調からか、アズサはその場に膝を突いてしまう。

 

それでも尚、アズサの視線は真っ直ぐサオリを見据え、その闘志が折れる素振りを見せない。

 

「…何故だ、アズサ」

 

だからサオリは、そんなアズサに疑問が浮かぶ。

冷たい雨がその降る中、満身創痍の状態にあって尚、そこまでして食い下がるのか、と。

 

「何故そこまで足掻く。そこに何の意味がある?何を証明しようとしている」

 

雨よりも冷たい視線をサオリが注ぐ中、それでもアズサは立ち上がろうとする。

 

「思い出せ。全ては──」

 

「…たとえ虚しくても、足掻くと決めた」

 

サオリの言葉を遮り、立ち上がったアズサは真っ直ぐと見据える。

その姿が、サオリの中の“何か”を逆撫でし、苛立たせる。

 

「そこに、何の意味がある!!!」

 

岩漿の如く噴き出した激情のままに、アズサに銃撃を浴びせる。

アズサを認める訳にはいかない。

それだけは、何としても赦し難かった。

 

「ぐっ…!!」

 

銃撃を受けたアズサは、その衝撃とダメージに耐えられない。

アズサは仰向け倒れ、冷たい泥濘に身を浸す──。

 

そうなるはずだった。

 

アズサの背後の瓦礫の蔭から何者かが唐突に現れ、アズサの体を優しく受け止め、支える。

アズサは受け止められながら、どうにか顔を上げ、支えてくれた人物の顔を見る。

 

「…!?」

 

アズサは驚愕のあまり、目を見開いた。

アズサの視線の先、その体を受け止め、支えていたのは、彼女が決別してでも、守りたいと思っていた少女──阿慈谷ヒフミその人だった。

 

「……」

 

ヒフミは雨に濡れながら、驚愕に目を見開くアズサの顔を無言のまま見つめる。

髪の毛先から雨水を滴らせるヒフミの表情は、真剣、ともすれば不機嫌とも取れるような、眉根を僅かに顰めたものだった。

 

「ヒフ、ミ…?」

 

何故、ヒフミがこの場所にいるのか。

何故、あれだけ言って傷付けたはずの自分を助けているのか。

それをアズサは理解ができなかった。

 

「増員、ですね…数は4、いえ、後ろにそれ以上…」

 

アズサの後方をレンズ越しに見ながら、ヒヨリが言葉を洩らす。

 

「あれは…」

 

ミサキもまた、視認できる範囲で新手の増加を目にしていた。

更に、アズサの元にはヒフミだけでなく、ハナコとコハル、そして先生が現れる。

 

補習授業部がこの場に揃った。

 

だが、ヒフミ以外の三人は、一歩引いたところから、二人を見守っていた。

 

「…なんだ、お前は?」

 

一方で、サオリはそれを意にも介さず、ヒフミを睨む。

 

「普通の、トリニティの生徒です」

 

ヒフミも負けじと真剣な眼差しを向ける。

だが、その手は僅かに震えていた。

その震えは恐怖心からか、それとも──。

 

「ヒフミ、ダメだ…どうしてこんなところに…」

 

今すぐにでも、ヒフミをこの場から離れさせなければいけない。

だが、ヒフミを想うあまり、アズサは強引な手段が取れない。

自ずと、言葉での説得、懇願となってしまう。

 

「ここはヒフミみたいな、普通の人が来るべきところじゃ…」

 

だが、アズサの言葉を遮るように、ヒフミが声を発する。

 

「……はい、確かに私は普通で平凡です」

 

「先日、見せてくれたガスマスクの姿が、本当のアズサちゃんなのだと。そのことも理解しました」

 

「そんなアズサちゃんは本当なら、私なんかには手の届かない世界に生きているのだと…そう言いたいのも分かりました」

 

ヒフミは淡々と、だが普段よりも力強く、言葉を紡いでいく。

 

「ヒフミ…?」

 

これまで見たことのない雰囲気を纏うヒフミの姿に、アズサは僅かに戸惑いを抱く。

先日までのヒフミとは、まるで別人のようだった。

 

「でも!!!」

 

「アズサちゃんは一つ、大きな間違いをしています!!!」

 

「…!?」

 

アズサは、そのヒフミの雰囲気と勢いに圧倒され、為すがままになっていた。

 

「今ここで、私の本当の姿をお見せします!!!」

 

ヒフミはおもむろに背中のリュックから何かを取り出した。

それは、一見するとただの紙袋のように見えた。

 

「私の正体、それは…」

 

そしてヒフミは、それを広げ、頭から被った。

ヒフミが被った紙袋は、綺麗に目の部分が切り取られ、額部分に“5”の数字が大きく手書きされていた。

 

そんな奇妙な紙袋を被った姿のヒフミが、声高く言い放つ。

 

「《覆面水着団》のリーダー、ファウストです!!」

 

「…え?」

 

その奇妙な姿と、突拍子もない意味不明な発言に、アズサは戸惑いを超えて困惑する。

 

「見てください、この恐ろしさ!アズサちゃんと並んだって、全然見劣りしないほど不気味でしょう!こっちの方が恐ろしくて怖いと言う人だっているはずです!」

 

アズサのすぐそばで、ヒフミは己の姿を見せ付けるように両手を広げる。

アズサにとっては、恐怖よりも困惑が勝った。

 

「ひ、ヒフミ…?」

 

そんな二人のやり取りをサオリをはじめとしたアリウス・スクワッドは眺めていた。

 

「……」

 

「…!?」

 

「……」

 

情緒が解りやすいヒヨリを除き、その胸中は窺い知れない。

 

「ヒフミ、何を──」

 

「だからっ!!」

 

ヒフミの取った行動の理由が分からず、戸惑いの中、直接聞こうとしたアズサ。

そのアズサの言葉を遮り、ヒフミは再び力強く、言葉を発する。

 

「だから私たちは、違う世界にいるなんてことはありません!」

 

「……」

 

「同じです!隣にだっていられます!」

「だから世界が違うだなんて、一緒にいられないだなんて…そんなことを言わないでください!」

「拒絶されても、すぐ近くに行ってみせます!私は…」

「…私はアズサちゃんのそばにいます!」

「こうやって、すぐ触れられるところに…!」

 

ヒフミは、アズサへと手を差し出す。

繋いでいた手を離し、離れていったアズサへ、再び。

 

「ヒフミ…」

 

アズサはそのヒフミの手と紙袋の穴から覗く両眼を交互に見ながら、迷う。

下げられていたアズサの手がゆっくりと持ち上げられ…しかし、胸の高さで止まる。

 

「でも、私のためにそんな嘘を言ってくれたところで──」

 

「誰が嘘だって!?」

 

その声は、ヒフミではなかった。

当然、アリウス・スクワッドであるはずもなく、また、二人の後ろから見守っていたハナコやコハルでもなかった。

 

全員の視線が、声が聞こえてきた方向へと向く。

そこに立っていたのは──。

 

覆面を被った、謎の生徒たちの集団。

しかし、ヒフミ、そして先生には、見覚えがあり、また馴染みのある者たちだった。

 

ヒフミは紙袋の中で静かに微笑む。

そして、改めてアズサと相対すれば、その後ろに覆面の生徒四人が並ぶ。

 

「いや〜、何だか大事なところみたいだね?」

 

気の抜けたような声と共にそう発したのは、四人の中でも最も小柄な、覆面に1の数字が記された生徒。

 

「あの覆面、まさか…!?」

 

その姿を目にしたハナコが物知り風に狼狽える。

 

「!?」

 

アズサの混乱は更に加速する。

 

「っ!?」

 

ついでにコハルも困惑していた。

 

1番の生徒は続ける。

 

「目には目を、歯には歯を、無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く…」

 

自慢げに1番の生徒が言い放つ。

 

「ん、良いモットーだと思う。さすがはホシ──ピンク先輩」

 

そこに賛同するのは、青い覆面に2の数字が記された、白い犬耳が出た生徒。

 

「普段はアイドルとして活動してますが、夜になると悪人を倒す副業をしているんです♧」

 

更に、緑色で3番の覆面生徒が便乗する。

 

「何それ!?私知らない!初耳なんだけど!?変な設定付けないで!」

 

そこに黒い猫耳が出た4番の赤い覆面生徒が堪らずツッコミを入れる。

 

「覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!」

 

続けて、ホログラムが現れ、そこに映るのは赤縁メガネを掛けた0番の黄色い覆面生徒。

 

「私もいるよ、ヒ──ファウスト」

 

そんな覆面生徒集団改め、覆面水着団の五人と共に、赤みがかった白髪を揺らし、イヴが現れる。

 

「イ──レイヴンさん!──ってその格好は…?」

 

現れたイヴにヒフミは声をかける。

だが、いつもとは違う様子に、ヒフミは首を傾げた。

 

イヴは、いつものロングコート風の黒い制服ではなく、黒いヴェールと身体のラインが浮き出るような黒いワンピース型かつスカート部分に深くスリットが入った修道服風の服装を身に纏っていた。

一見するとシスターフッドのようにも見える出立ちだが、細部の意匠は異なり、またイヴらしい多くの武器を携えている。

 

「ああ、この服装は気にしないで。着れる服が無かっただけ」

 

ボロボロになったシャーレの制服の代わりに、イヴはシスターフッドの即応戦闘員としての制服を選んだ。

一応、もう一着、シャーレの制服はあったのだが、こちらのシスター服を選んだのは完全にイヴの直感だった。

こちらを着ていくべきだと、彼女の勘が訴えた。

 

普段は長い髪を纏めてポニーテールにしているが、ヴェールを着ける関係からか、珍しくイヴは髪を解いている。

因みに、髪を纏めるためのシュシュは左の手首に巻いている。

髪を解いたイヴは、また違う印象を周囲に与える。

以前とは異なる赤と黒のオッドアイもまた、それを助長させていた。

 

「……」

 

「え、えっ!?」

 

「じ、実在したんですね…それにイヴちゃんも知り合いだったとは…」

 

怒濤の思わぬ展開に、アズサとコハルは半ば混乱状態にあった。

ハナコは辛うじて状況を受け入れつつあるが、単なる噂や都市伝説だと思っていた覆面水着団と、その中にいるヒフミとイヴの姿を目の当たりにして、驚きを隠せない様子だった。

 

「あいつらは…」

 

その一方で、アリウス・スクワッドもまた、そんな覆面水着団たちに意識を向けていた。

 

「…分からない。詳細なデータは無し。それに、まさかレイヴンまで来るなんて…」

 

半ば都市伝説的な存在であり、詳細なデータがあるはずもない。

それに加えて、ルナシーが正面衝突を避けるように念押ししたレイヴン。

 

「ふ、覆面水着団…噂に過ぎないと思っていましたが、本当にいたんですねぇ…」

 

名前にしても見た目にしても、そのふざけているような、奇妙なとも言える様は、とてもではないが脅威には見えない。

 

「…リーダー。レイヴンもだけど、あいつらもヘラヘラしてるけど注意した方が良さそう。少なくとも舐めてかかると痛い目に遭う」

 

しかし、アリウススクワッドは感じ取っていた。

彼らもまた、歴戦の猛者たちであると。

 

「……」

 

サオリが険しい視線を向ける中、それに気付いた1番──ピンクが振り向く。

 

「なーにうちのリーダーを泣かせようとしてるのかな〜?ねぇ、そこの君たち?」

「どこの誰なのか知らないけど、知らないよ?うちのファウストさんは怒ると怖いんだから」

 

「何せファウストちゃんは最終的に、カイザーコーポレーションの幹部を倒しちゃったようなものなんですよ♧」

 

「ブラックマーケットの銀行も襲える。朝飯前みたいに」

 

「それにこの間なんて、カイザーPMCを砲撃で吹っ飛ばしたんだからね!」

 

「これは後から聞いた話だけど、巡航戦車でPMCの基地に乗り込んだらしいぞ?こんな無鉄砲なのはキヴォトス広しと言えど、ファウストくらいだろうな」

 

覆面水着団に加えて、イヴまでもが便乗していく。

 

「そうだよ、恐ろしいんだよ〜?生きて動く災いと言っても過言じゃないし、暗黒街を支配するボスみたいなものなんだから」

 

「うん、それがファウスト」

 

「「「「「ファウスト!ファウスト!!ファウスト!!!」」」」」

 

覆面水着団とイヴは、一丸となってファウストの名を叫びながら、片手の拳を上に突き上げる。

 

「……」

 

当のファウスト──ヒフミは、想像以上に持て囃され、尾鰭を生やされまくり、担ぎ上げられた結果、居た堪れなくなって紙袋を外した。

 

紙袋を外したヒフミの表情は、羞恥と困惑が入り混じった複雑なものだった。

 

「ああっ、ファウストちゃんが紙袋を取ってしまいました!?」

 

「あ〜、流石に恥ずかしかったのかなー…?」

 

そう言いながらピンク──ホシノは覆面を脱いだ。

 

「せ、せっかく乗っかってあげたのに!」

 

覆面を脱いだレッド──セリカもまた、羞恥で頰が赤く染まっていた。

 

「確かにセリカが乗るのは珍しいね」

 

そんなセリカを見ながら、イヴは感心したように呟く。

 

「言わなくて良いから!自分でも分かってるわよ!!」

 

『フシャー』と言わんばかりにセリカがイヴに言葉で噛み付く。

 

「私は何も恥ずかしくないけど」

 

ブルーは何ともなさそうに、むしろ堂々と自らを見せ付けるように誇示していた。

 

「シロコ先輩も、堂々としてないで早く取って!」

 

「んー…イヴ、取った方が良いと思う?」

 

「私はそのままでも良いと思う」

 

「だよね」

 

シロコとイヴはしたり顔で固く手を握り合う。

 

「シロコ先輩!!イヴも便乗しない!!!」

 

シロコは満足げに覆面を脱いだ。

 

「ま、まあ、とにかく、改めて…」

 

そこで覆面を脱いだアヤネがまとめに入る。

 

「対策委員会、今度はヒフミさんのことを助けに来ました!!」

 

「私は対策委員会に付いた安いおまけだよ」

 

控えめにイヴが主張する。

 

「ありがとうございます、対策委員会の皆さん、それにイヴさん!」

 

ヒフミは心底から嬉しそうに、満面の笑顔を見せた。

 

****************************

 

古聖堂跡地には、補習授業部や対策委員会だけでなく、他にも多くの生徒が続々と集まって来ていた。

 

「わ、私でも少しでもお力になれれば…!」

 

「はい、私も先生や皆さんの為に、お祈りします」

 

トリニティ、シスターフッド。

 

「ひひひひひひ…」

 

「正義実現委員会、助けに参りました」

 

「い、委員長、怪我は…?」

 

「完治した」

 

「さ、さすがです!」

 

「私はツルギほど丈夫ではないので、まだですが…とは言え少しは役立つはずです。力になると、約束しましたから」

 

正義実現委員会。

 

「この間はよくも…!無事に帰れると思うなよ!」

 

「…委員長は?」

 

「……」

 

ゲヘナ、風紀委員会。

 

しかし、イオリ、チナツ、アコ、その他、委員は居ても、委員長のヒナの姿は見当たらなかった。

 

アコだけは、何か心当たりがあるかのように、目を伏せて俯く。

 

そんな中、ふと、コツコツという足音がアコの耳に届く。

半ば反射的に顔を上げたアコの視線の先には──。

 

「委員長…!」

 

「…待たせてごめん、アコ。みんなも無事で良かった」

 

いつもと変わらない──否、何か憑き物が落ちてスッキリしたようなヒナの姿があった。

 

「いえ…はいっ!!」

 

アコにとっては、それが小さな奇跡のように感じた。

こうして、親愛なるヒナと再び、並ぶことができることが、心底から嬉しかった。

 

「準備は出来てるわね。先生の指示を待とう」

 

ヒナはそう告げて、風紀委員会の最前線に立つ。

 

ヒナは、一度折れかけた。

いや、完全に折れたのかもしれない。

 

先生が目の前で撃たれた、その瞬間に。

その一瞬にして、ヒナの中の心の支え、決定的なものが崩れた。

 

それまで、どれだけ辛くても、苦しくても、耐えて、堪えて、忍んできた。

全てが終わったと思った。

 

その後、気を失ったヒナは、どこかの病院のベッドで目を覚ました。

どこだったかは記憶は定かではない。

だが、その時のヒナにとってはどうでも良かった。

何もかもが、嫌になった。

 

完治もままならない内に、ヒナは自室に籠った。

先生を守れなかった自責の念に苛まれ、布団に包まった。

 

このまま、人知れず朽ち果てたい──。

そんな考えも、一瞬だけ過った。

 

そんな中で思い浮かんだのは、ホシノのことだった。

ホシノは、大切な先輩を亡くしている。

それも、その遺体を最初に発見した張本人。

 

どれだけの負の感情がホシノに襲いかかったのか、ヒナには想像もつかない。

 

でも、それでもホシノはアビドスにいる。

アビドスで、学校と後輩を守るために戦っている。

 

強いと思った。

それと同時に、自分には真似できないとも。

 

自分は、ホシノのように、大切な人を失って戦うことはできない、と。

 

そんな中、ヒナの自室に先生が訪ねて来た。

 

最初は、無事な先生の姿を見て安堵した。

それと同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

先生はきっと、自分に助けを求めに来たと思った。

だから謝罪した。

先生の要求に、応えることは出来ない、と。

 

でも、先生の用件は違った。

 

先生は、お礼を言いに来たのだと告げた。

先生を助けるのは当たり前だと言うヒナに、先生は日頃の感謝と、もう頑張らなくても良い、と言った。

ヒナは、ずっと頑張っていたから。

 

そして最後に、あとのことは、何とかする、とも。

 

きっと、それは出来ていたかもしれない。

ヒナがいなくても、他の生徒がいる。

 

何より、先生にはイヴがついている。

 

イヴ──レイヴン。

出自は不明であり、突然、シャーレの下部組織として特務戦闘員という役職を与えられた人物。

戦闘力の高さは、出会う前から耳にはしていた。

 

初めて出会ったのは、ブラックマーケット。

考えうる限り、というほどでも無いが、最悪の出会いには違いなかった。

一目見て、強いと思った。

戦ったらきっと負けてしまうと、心が弱音を洩らす程度には、初見時の圧倒的にして鮮烈な威容は脳裏に焼き付いている。

 

見たものを威圧し、竦ませる闘志と言うには熾烈過ぎる殺気。

どれだけの修羅場を潜り抜ければ、それだけの鬼気迫る気迫を宿すことができるのか。

 

そんな彼女を説得──言いくるめ、契約を結ぶことができたのは、自分でも信じられなかった。

それから彼女──レイヴンは、風紀委員会に良く尽くしてくれたと思う。

時には立場が悪くなるような場合でも、彼女は仕事を遂行してくれた。

そんな彼女が先日、風紀委員会を裏切ったと聞いた時は耳を疑うと同時に肝を冷やしたが、先生が関わっているということを聞いて納得した。

 

レイヴン──イヴは、ヒナにとって、都合が良い言い方かもしれないが、友人だと思っている。

 

大きな恩があるとも、それを返したいとも。

 

ヒナがいなくても、きっと先生はイヴと、他の生徒と共に、本当に何とかしてしまうかもしれない。

 

ヒナの知らない、ヒナがいないところで。

 

そうなったら、いよいよヒナ自身、自責の念に押し潰されて、身も心も腐り果ててしまいそうだ。

 

それは嫌だと思える程度には、ヒナにはまだ理性があった。

だが、それと同じくらい、目の前で先生が撃たれたショックは大きかった。

 

ヒナはもう、どうすれば良いのか、分からなかった。

 

その想いが、口をついて出た。

 

『私だって頑張った』、と。

 

一度堰を切ったように溢れた言葉に歯止めは効かず、流れるように思いの丈を先生にぶつけた。

そして、気付いた時にはもう遅く、ただ謝るしかなかった。

 

しかし、そんな痴態を見せたヒナに対して、先生は真摯に受け止め、謝罪する。

 

そして、ヒナに提案を持ちかける。

補習授業をして、好成績ならたくさん褒める、とか、水着パーティーをする、とか、そこからは先生が半ば暴走していた。

 

そんな先生を見ている内に、ヒナは心が軽くなった気がした。

ため息と共に、笑みが溢れる。

 

──先生のために、もう少しだけ、頑張ってみよう。

 

ヒナは、そう思った。

 




ヒナちゃんはよう頑張ってる

補習授業部にアビドスの対策委員会、トリニティのシスターフッドに正義実現委員会、ゲヘナの風紀委員会が続々と集まるこのシーンのワクワク感

次回はついに私がブルアカの中でもトップクラスに好きなシーン!…のはず…(このページに収まるカナーとか思ってたら余裕で溢れた)

それでは次のお話でお会いしましょう!
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