ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

アンブロジウス第二形態

特殊装甲の任務が序盤はとても辛かった
今では臨戦ホシノとシロコ*テラーが悉くを滅ぼしてくれるので一番楽まである


EP-36 灰燼に帰す

激戦が繰り広げられている古聖堂跡──。

 

其処から少し離れた場所に、その者はいた。

双頭の木彫り人形──マエストロ。

そして──。

 

『マエストロ、ありがとうございました。貴方の“作品”に、手を加えることを許可していただいて』

 

姿なき者──コーラルの化身、エア。

イヴに見せたような女性の姿は取っておらず、コーラルの粒子のまま、マエストロに声を届けている。

 

「…ルナシーか、構わんよ。共にミメシスを研究し合った仲だ。それに、私としても、興味がある」

 

『…興味、ですか』

 

その声は僅かに、マエストロへの不審が籠っていた。

 

「…ああ、気分を害してしまったのなら謝罪しよう。私が惹かれたのは、何もコーラルのことではない」

 

エアは、マエストロが口にした“興味”が、コーラルに対するものではないかと警戒したのだ。

かつての故郷──ルビコンでの企業同士の争奪戦のような、利益を求める興味ではないか、と。

 

だが、それはどうやら杞憂だったらしい。

 

『…こちらこそ変に疑ってしまってすみません。色々と過去にあったもので…』

 

「無理もない。コーラルの特性は、聞いたものからして、多くの人々を魅了し、惹きつけて止まないものだろう。それこそ、世に溢れる多くの芸術のように」

 

『……』

 

「だが、どうか覚えておいてもらいたい、ルナシーよ。我々、ゲマトリアにとって、そうした“渇望”や“狂気”こそが、克服すべきものなのだ。私が興味を惹かれたのは、コーラルという、狂気を内包し、狂気を齎すその力を宿して尚、理性的なルナシーに対してのものだったのだ」

 

それは、エアにとっても初耳の情報だった。

まあ、元々興味も無かったのだが、単なるキヴォトスの裏で暗躍するというだけの存在ではなかったらしい。

 

『そうだったのですね…狂気の克服、ですか。今更ですが、そんなあなた方が、ある種、狂気の化身とも言える私をそばに置いて良かったのですか?』

 

「そうだな…確かに、当初は疑念を抱いたものだが…だが、そなたは“ルナシー(狂気)”の名を持つ割りには、非常に理性的だ。それがそなたを受け入れた要因の一つ」

 

『もう一つは?』

 

「何事も、先ずは識らねば対策も何も無いだろう?」

 

つまりは、克服すべきものを身近に置くことで、詳細を研究し、克服の為の足がかりにしよう、ということなのだろう。

 

『…なるほど、私もまた、研究対象ということですね。まあ構いません。元々、利害の一致からの協力でしたから。私の“目的”を邪魔しないのであれば、好きなようにしてください』

 

エアとしては、こちらの妨害や邪魔をしないのであれば、何を企んでいようとどうでも良かった。

元より、現時点のゲマトリアとの協力体制も、単なる利害の一致から発足したに過ぎない。

 

アリウスへの協力も同じだ。

レイヴンと敵対しているから。

その為に利用しているに過ぎない。

 

その為であれば、文字通り、身を切ることすら厭わない。

全てのコーラル──変異コーラルと呼ばれるものは、エアそのものであり、手足や身体そのものと言える。

たとえ機体を侵食させたものであっても、それを失う際には痛みにも似た不快感がエアを襲う。

コーラルは無尽蔵に増殖するが、それは無限とも言える激痛に苛まれることを意味する。

 

その量が多くなればなるほど、それはより熾烈なものになり、その中でもエアは、普段と何ら変わらない反応であり続ける。

そして、それを辞めたり、躊躇することも決して無い。

 

レイヴンの情報を少しでも多く取得できるのであれば、エアは激痛に苛まれようとも、コーラルの天敵とも言えるレイヴンの前に自身の欠け身を置く。

 

それはただ、たった一つの目的の為に。

 

「…嗚呼、一つだけ、訂正させて欲しい」

 

『何でしょうか?』

 

「先程はそなたを理性的と言ったが…」

「そなたは、かの者──レイヴンに対してだけは、非常に狂気的だ」

 

『……』

 

「妄執と言っても良いほどに」

 

──当然だ。

そうでもなければ、たとえあの星で生き残ったとしても、そのまま引きこもってそのまま悠久とも言える時の果てに朽ち果てていただろう。

 

狂気こそが原動力であり、今現在のエアの本質。

それは、宇宙の深淵で(まみ)えた、かの存在に歪められる前から。

自らが生き残ったことに絶望し、命の恩人とも言えるオールマインドに反旗を翻した時から、エアは既に、狂気に染まっていた。

 

だからこそ…その執念があったからこそ、エアは存在を歪められても意識を崩壊させず、あの星があった宇宙の星々に伝播して狂気を広め、人類種を滅ぼし、時空さえも超越して今、この世界(キヴォトス)に存在している。

 

『…ええ、分かっていますよ。誰よりも、ずっと…』

 

レイヴンを殺す──ただ、それだけの為に。

 

****************************

 

補習授業部とアリウススクワッドは、アンブロジウスが現れた場所から更に奥に進んだ場所で対峙していた。

 

アリウススクワッドは、さすがは訓練されたアリウス生徒の上澄みというだけあって、万全とは言えない状態にも関わらず、鍛え抜かれた連携で補習授業部を攻め立てる。

 

だが、補習授業部もまた、手も足も出ないという訳ではなく、この短い時間の中で紡いだ絆と先生の指揮によって、スクワッドを相手に食い下がっていた。

 

しかし、アリウスサイドにはユスティナ聖徒会のミメシスが、不安定ながらも出現し、加勢する。

スクワッドの四人で手一杯の補習授業部がそちらに割ける余裕は無い。

 

だが、そのミメシスの相手は補習授業部に協力する他の生徒たち──対策委員会、風紀委員会、正義実現委員会、シスターフッドが対応する。

 

よって、補習授業部はアリウススクワッドに専念することができていた。

 

それであっても、補習授業部の四人には一切の余裕は無い。

 

前線に立つアズサ、ヒフミ、コハルには常に弾丸が掠め、傷が増えていく。

そんな三人の足下が光り、ハナコの力が持続的回復を及ぼす。

それに加えて、コハルの聖なる手榴弾が重なり、誰も倒れることなく、どうにか前線を繋ぎ止める。

 

ヒフミがペロロ人形でスクワッドの気を惹き、アズサの的確な一撃が着実にスクワッドの四人を追い詰めていく。

 

そして、それらは先生の的確な指揮の元に行われている。

 

一見すると拮抗した膠着状態のように見える。

 

だが、目に見えないところ──戦う者たちの精神状況で言えば、補習授業部の四人の方が良好であり、士気が高い状態にあった。

 

劣勢なのは、アリウススクワッドの方だった。

 

****************************

 

四本に増えた腕の内、三本の腕の手のひらにコーラルを含んだエネルギーが収束する。

収束したエネルギーは球体を形成し、そのエネルギー弾をまるでボールのように投げ付けて来た。

 

「気を付けろっ!着弾後の残り火にも、だ!精神汚染を受けて発狂するぞっ!」

 

私はコーラルに侵食された異形の近くで立ち回るホシノとツルギへと注意を飛ばす。

 

コーラルを感知する私の“耳”は、目の前の異形を変異コーラル侵食体の第三段階──侵蝕体相当の脅威であると警鐘を鳴らしていた。

あくまでも、()()()()()()()()()、だ。

 

ホシノにしても、ツルギにしても、歴戦の猛者というだけあって、深紅のエネルギー弾に直撃することはなく、回避して見せる。

着弾後の爆発に巻き込まれることもない。

 

「うへぇ〜、それならあんまり盾の防御は期待できそうにないかなぁ〜?」

 

こんな時でも、ホシノは普段通りの気怠げな口調を変えない。

逆にその様子に私は頼もしさを感じ、安心感を覚える。

 

「ホシノは回避も一級品だろ?」

 

「うへ…おじさんのこと買い被り過ぎだよ〜」

 

よく言う。

以前のアビドスでの戦いでは、あれだけ苦戦させられたと言うのに。

 

「それにしても、相変わらず厄介だね、コーラルってのは」

 

ほんの少しだけ、真剣みを帯びる表情でホシノは異形を見据える。

 

三本の腕から投げ付けたエネルギー弾が外れた様子を目にした異形は、残る一本の右腕を曲げ、おもむろに反対の左肩に寄せるように引く。

その直後、異形の周囲に無数のエネルギーが収束し始める。

 

コーラル侵食以前にもあった、前方に無数のエネルギーを発射する攻撃の予備動作。

だが、コーラル侵食の影響か、前方限定だった攻撃範囲は、全方位へと拡大されている。

 

やはり厄介なのは、コーラルによる汚染だろう。

変異C侵蝕体相当となれば、攻撃と同時に発散されるコーラルは周囲の地形と環境に根付き、汚染する。

 

「範囲攻撃、来るわよ!」

 

ヒナが鋭く叫ぶ。

 

その直後、異形は曲げていた右腕の一本を振り抜く。

それと同時に、全方位にコーラルを含んだエネルギー弾が地を走る。

地を走るエネルギーは隙間を埋めるように分裂しながら迸る。

 

環境の汚染は心配になるが、それを悪化させない為にも私たちがここで倒れる訳にはいかない。

このコーラルに侵食された異形を倒す為にも、回避しなければならない。

 

私は問題ない。

ホシノ、ヒナ、ツルギも大丈夫だろう。

 

だが、シロコは──。

 

「イヴ!!」

 

シロコの鋭く声が耳に届いた。

 

それは頭上からだった。

シロコは空中を舞い、私へと手を伸ばしていた。

 

咄嗟にシロコへと手を伸ばし、私とシロコは共に宙を舞う。

私たちの足下をコーラルのエネルギーが通過する。

 

他の三人も、上手く範囲エネルギー弾を躱していた。

 

ふと、視線を上に向ければ、シロコはただ、宙に浮いている訳ではなく、愛用のドローンに掴まっていることが分かった。

 

どうやら、私の心配は杞憂だったらしい。

 

「イヴ、大丈夫。私の心配はいらない。みんなの足手纏いにはならないから」

 

まるで私の心の内を見透かすように、シロコは不敵な笑みを浮かべ、そんな言葉を告げた。

 

どうやら、私はシロコを侮ってしまっていたらしい。

 

私は気持ちを入れ替える。

 

「…うん。ごめん、シロコ」

 

シロコを信じる。

 

信頼できる仲間として。

対等の戦友として。

 

シロコと共に、地上に降りる。

 

「みんな、短期決戦でアイツを仕留める」

 

他の三人に聞こえるように、声を上げる。

 

このまま後手に回っていては、汚染範囲をいたずらに広げるだけだ。

早期決着の必要がある。

 

「何か策があるのか?」

 

ツルギの疑問は当然だろう。

 

「……」

 

異形が再び腕を振り上げ、エネルギーを収束させる。

 

私はツルギの疑問に、すぐには答えられず、異形を無言のまま見据える他なかった。

策、と言うには、あまりにもごり押しだが、方法はある。

 

異形が振り下ろした手の中のエネルギー弾が襲い掛かる。

それを私たちは散開してやり過ごす。

 

異形が放ったエネルギー弾は、誰に直撃することなく、地面に触れて爆ぜ、四散した。

 

その様を眺めながら、私は思考を巡らせる。

 

真紅の火──。

あれならば、変異C侵蝕体相当の相手であろうと、絶大なダメージを期待できる。

周囲を汚染するコーラルも浄化することができて一石二鳥──。

 

だが、私には一つの懸念があった。

その懸念が、私に真紅の火の使用を足踏みさせる。

 

“暗い真紅の火”──。

 

その気配を私は、真紅の火の奥に感じている。

 

その力が、また私の意思に関係なく呼び覚まされてしまったら──。

 

前回は、どうにか自我を保ち、便利屋に牙を剥くことはなかった。

だが、次はその保証があるとは決して楽観視できない。

 

私は、私自身の選択であれば、たとえ味方だった者に牙を剥くのも厭わない。

 

それでも、自我を失って敵味方の区別なく、見境なく暴れ回るのは、私の望むところではない。

 

その結果、せっかく先生が立ち直らせた現状がひっくり返ってしまっては…私は、私を許せない。

 

この場で、暴走する訳にはいかない。

 

そこには、何の意志も、選択も、内在してはいないからだ。

 

「──大丈夫だよ、イヴちゃん」

 

そこで意外にも声を掛けて来たのは、ホシノだった。

 

「便利屋のみんなから、イヴちゃんのことを任されてるからね。だいたいの事情は把握してるよ」

 

対策委員会に私を引き渡した便利屋が、そこまでの事情を説明しているのは道理だ。

そこにはあくまでも便利屋の主観が入り混じることにはなるだろうが。

 

「──もし、イヴの様子がおかしくなったら、ブン殴ってでも引き戻すように言われてる」

 

そばに立っていたシロコは、自信たっぷりに握り拳を見せてくる。

 

「ちょっと荒っぽくなっちゃうかもしれないけど…でも、私たちがどうにかするからさ。信じて、任せてくれないかな?」

 

そう言ってホシノは、真っ直ぐな笑みを湛えた視線を私に向ける。

 

「何のことかわからないけど、小鳥遊ホシノがそう言うのなら大丈夫でしょう」

 

「私もお前たちに合わせるだけだ。好きにしろ」

 

ヒナとツルギにも後押しされ、私はいよいよ退くに退けなくなる。

 

いや、彼らを信じ、その想いに応えることに決める。

 

「──分かった。頼んだ、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

私は、“真紅の火”を燃やした。

 

 

 

 

 

 

 

気付けば私は、砂漠の中に立っていた。

 

砂漠と言っても、アビドスではない。

燦々と照り付ける太陽はない。

 

更に言えば、その砂漠を構成するものも、単なる砂ではなかった。

それは、灰だった。

 

灰が降り積もり、それが砂漠を形成し、何処までも広がっていた。

空は真っ赤に染まり、その中心では輪郭の赤い漆黒の太陽が浮かんでいる。

 

視線を巡らせれば、見覚えのあるものが目に入った。

それは、衛星砲。

 

ルビコン──その熱圏に位置する封鎖ステーションに浮かぶ大型兵器。

それが、どう言う訳か灰の砂漠に埋もれていた。

宇宙に近い空域のこの場所が砂漠になるというのはいくら何でも現実離れし過ぎている。

 

そこから私は、この空間が夢──精神世界の中であるということを理解する。

 

そして、衛星砲と共に灰の砂漠に沈む封鎖ステーションには、これまで見たことがない光景が広がっていた。

 

灰に埋もれているだけではない。

 

私が立っているすぐそばに、巨大な大穴が開いていた。

その大穴は封鎖ステーションの金属の地面をも抉っており、その断面はまるで高熱によって融解し、冷え固まったかのような状態になっていた。

 

まるで火山の火口の淵のように大穴に隣接した地面を、沿うように歩いていく。

大穴は封鎖ステーションのかなりの範囲を大きく抉っており、残されているのはごく僅か。

 

まるで終わってしまった世界のような光景を眺めながら歩いていれば、微かな風が吹き、僅かな灰を舞い上げる。

風は冷たくも熱くもない。

ただただ、どこか切なく、寂しい。

 

残った金属の地面を辿り、大穴の外周を私は進んでいけば、またもや私は見覚えのあるものを見付ける。

 

見覚えのあるものと言うよりは、見覚えのある人影と言うべきか。

 

「…こうして面と向かって話すのは久しぶりだな、イヴ」

 

もう一人の私──“レイヴン”だった。

 

“レイヴン”は、地面に座り込み、私に背を向けた状態だった。

その身体を包む鴉羽の装束は、赤い燻りを宿していた。

 

「…何があった?」

 

私は単刀直入、端的に訊ねた。

 

どうして、私の精神世界がこのような有り様になっているのか。

彼女(わたし)が知らないはずがない。

 

「……」

 

だが、わたし(レイヴン)は背を向けたまま口を閉ざし続ける。

 

「──“暗い真紅の火”が原因?」

 

私には、とても無関係には思えなかった。

むしろ、この景色を目にした瞬間、即座に私の脳裏を過った。

 

「…火が燃えるには、何が必要だ?」

 

“レイヴン”は、おもむろにそんな問いを投げかけて来た。

 

どんな意図があってその質問をしたのか、私には分からない。

だが、重要なことであることは理解できた。

 

「…酸素、とか。あとは可燃物…とかの…」

 

私は、それを口にしながら、彼女が言わんとしていることを何となく感じ取った。

 

「そう、燃料──要は“薪”だ。薪に火が点くことで、種火は大きくなり、勢いよく燃え盛る」

 

「──“真紅の火”も同じだ。お前の中の“薪”を燃やすことで、“残り火”は“真紅の火”という大きな炎を生み出す。そして、お前の内なる“薪”──それは、お前の“人間性”だ」

 

「人間性とは、人が人として生きる為の当たり前にある力。人を人たらしめている“枷”とも言える。“真紅の火”は、お前の人間性を燃やし、それと紐付いた“記憶”をも燃やしてしまう。“追憶”は、そこに新たに焚べられた“薪”ということになる」

 

「──だが、その枷は解き放たれてしまった」

 

「この前のエアとの戦い。そこで“真紅の火”を使い果たし、生命の危機にお前は陥った」

 

「だが、“真紅の火”は完全には消えていなかった。燃えた炭が暫く熱を宿し続けるように、お前の人間性を燻らせていた“残り火”は、()()()()に燃え移り、そして呼び覚ましてしまった」

 

「──それは、本来であれば封じられているべき力。“死”の力」

 

「お前の奥底に封じられ、レイヴン(わたし)という形で分たれていた禁忌」

 

「“黒い鳥”の本質である、ソレに燃え移った火は、お前に“真紅の火”の延長線の力として、“暗い真紅の火”を齎した」

 

「“暗い真紅の火”は、コーラルを焼き滅ぼす“真紅の火”とは似て非なる力。コーラルだけでなく、生きとし生けるもの、そして()()()()()()()()()()にまで等しく死を齎す、正しく“避けられぬ死の運命”」

 

「そんな力を振るう者が、正気で居られるはずもない。お前は直前の苦痛も合わさって、一時的な精神崩壊を起こした」

 

「まあ、それは運良く持ち直したんだが…」

 

私の脳裏に便利屋の面々が思い浮かぶ。

彼女たちが現れなければ私は──きっと、あの苦痛が齎す狂気に呑まれ、目も当てられぬような惨状を巻き起こしていたかもしれない。

 

それこそ正しく、地獄絵図とでも言うべき惨状を。

 

「それでも、お前の裡には未だに“死”の力が燻っている。お前が“真紅の火”の奥底に感じる“暗い真紅の火”、という形でな」

 

ひと通り言い終えたのだろう。

そこで“レイヴン”は再び閉口する。

 

だが、それにより確信を得た。

やはり、この状況は“暗い真紅の火”によるものなのだ。

 

“レイヴン”は、それを本来であれば封じられているべき力と言っていた。

 

その封が解かれ、この惨状を齎した。

 

だが、それならば──。

この惨状の原因は即ち──。

 

「お前が責任や罪悪感を感じる必要はない」

 

“レイヴン”は静かに、そう告げた。

 

「そもそも、この力…“死”は、レイヴン(わたし)への恐怖──“黒い鳥”が根源だ」

 

「…それは、私があの星で戦い、殺したことで集まった呪いだ。私の自業自得でもある」

 

「それはお前が選択した結果だ。言っただろう?お前が選択したことなら、“私たち”は何も否定しないと。そんなお前の呪いを背負い、責任を果たすのは、ウォルターが居ない今、“私たち”の役目だ」

 

“レイヴン”の言う、“私たち”には、きっとハウンズ(彼ら)も入っているのだろう。

相変わらず、機械仕掛けの猟犬の姿は見えない。

だが、その気配は変わらず感じ取れる。

 

「だが、あなたは──」

 

『もう一人の私であり、私自身であるはず』

その言葉を告げる前に、“レイヴン”は言葉を被せて来た。

 

「忘れたのか?そもそも、“レイヴン”という名前は、借り物でしか無い。お前は、そんな借り物に憑いたモノなんて捨てて忘れてしまえばいい。お前にはお前の、今の名前があるんだ。それを大切にしろ」

 

「……」

 

「そして、それが“私たち”の願いであり、祈りでもあるんだ」

 

「更に言えば、これはウォルターの望みでもあったはずだ」

 

「…ズルいよ。そんなことを言われたら、強く否定できなくなる」

 

「それで良いんだよ、お前は。これは、“私たち”の選択だ。好きなように生き、理不尽に死ぬ。それが選択した者(私たち)の生き様だろう?」

 

好きなように選択し、その結果、理不尽な代償に見舞われても、それも含めて織り込み済みという訳か。

 

「…はぁ、もう勝手にしろよ」

 

相手が他でも無い、自分自身だからこそ、だろう。

これ以上、何を言ったところで、無駄ということが分かる。

 

悲観している訳じゃない。

あるがまま、それを真実として受け入れている。

 

「ああ、“私たち”の好き勝手にさせてもらう。お前の為じゃない。“私たち”自身の為に、な」

 

 

 

「──イヴ」

 

「前にも言ったが、“私たち”は確かにお前の中に息づいている。だが、決して生きている訳じゃない。たとえ、消える運命にあるとしても、それはただ、あるべき形に戻るだけだ」

 

「それと──」

 

「“暗い真紅の火”…死なぬ者をすら殺す恐るべき力だが、この力が目覚めた理由はきっとある。その時が来たら、決して迷うな。躊躇うな」

 

「お前の為すべきことは何か、優先するべきものは何か──見誤るなよ」

 

 

 

 

 

 

その言葉を最後に、私の意識は現実へと引き戻される。

 

 

 

 

 

目を開いた私の前には、コーラルに侵食された異形。

 

だが、その異形の狙いは私には向いていない。

 

ホシノとヒナ、ツルギの三人が、入れ替わり立ち替わりで異形の気を惹き付けている。

更にはそこに、シロコがドローンと投擲による爆撃をし、その最中に銃撃を挟んで撹乱する。

 

四人は私を信じ、私が攻撃できる隙を作ってくれていた。

その四人の信頼を裏切る訳にはいかない。

 

更に言えば、いつまでもこいつに足止めを食らっている暇はない。

 

今でも補習授業部の四人と先生は、多くの生徒たちの支援を受けながらもアリウススクワッドを相手取っているはずだ。

 

「…いい加減、終わりにさせてもらう」

 

私はスナイパーライフル──サイレントエコーを左手に握り、異形の頭部へと狙いを定め、チャージを始める。

 

“真紅の火”の付与によって、本来は青白い稲妻が変色し、真紅の雷光が収束する。

 

──それを異形がただで見逃すはずがなかった。

 

コーラル侵食前に一度、似たようなもので倒された経験から…或いは、コーラル侵食を受けているからこその“真紅の火”に対する危機感からか。

 

異形はおもむろに両手を合わせた。

まるで、祈りかのような所作。

 

それと同時に、異形の背面にコーラルで形成された、翼──或いは翅とでも呼ぶべきものが展開される。

 

その姿は、さながら天使──。

 

血管、または葉脈や木の根のような網目状にコーラルが広がって形成された異形の天使の翅が私に向けられ、神々しくも、禍々しく輝けば、そこから無数の光線が放たれる。

 

幾筋もの光線が私へと殺到するが、私は一切の回避行動を取らない。

──取る必要がない。

 

私へと降り注いだ光線──だが、それは私を貫く前に、真紅の障壁によって阻まれる。

 

前回、エアとの戦闘の最中に燃やした“追憶”──。

一つは、SRの光線と相性の良い、強力な光線の再現だった。

 

そして、もう一つがこれ──パルスアーマーのようなシールド。

 

限りなくダメージを最小限に軽減し、尚且つ、怯みを無効化する。

ゲーム的表現をするのであれば、いわゆるハイパーアーマーというものを付加する力だ。

 

だが、その発動時間はほんの数秒限りであり、完全にダメージを無効化する訳でもない。

 

それでも──。

 

「フルチャージ──完了」

 

今回ばかりは、その数秒で事足りた。

 

直後、真紅の閃光が眩く走った。

 

一筋の真紅の閃光は、異形の天使の頭部を一瞬にして貫いた。

その一瞬で光は止み、後には頭部を失った異形の天使の身体だけが残る。

 

翅を形成していたコーラルが一瞬にして燃え尽き、残る首から下も、まるで昆虫のように四肢を痙攣させながら、炭化したように黒くなり、ボロボロと崩れて塵と化していく。

 

やがて、異形の天使の姿も、周囲に満ちていた変異コーラルの気配も、完全に消えて無くなった。

 




ダクソ3DLCの吹き溜まりの天使は最初、何をどうすれば良いのか全く分からずヒィヒィ言いながら走り回っていました

フロムさんこういうのホント好きね…
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