ヒエロニムス第二形態
イヴの手の中の光の剣
禁足地で狩人になってました
ひと段落したのでボチボチ復帰します
「お、おぉ…!これはまさか…!?まさか本当に、存在していたのか…!?“導きの月光”──《月明かりの聖剣》…!!」
マエストロは目に映る光景に狼狽していた。
エアもまた、コーラルを通じて、マエストロが目にしているであろう光景を見ている。
復活したヒエロニムスによって、窮地に追い込まれたレイヴン。
そんな彼女の前に現れた、月の光を宿すような剣。
『…マエストロ、あれは一体、何なのです?』
そう言いながらも、エアはあの光の剣が、ただならぬものであるという予感をヒシヒシと感じていた。
「…キヴォトスに古くから伝わる伝承。歴史ある学園であれば、内容はピンキリではあるが必ずと言って良い程度には存在し、名を変え、姿を変えて伝わっている、“聖剣”の伝説」
「
「それでいながら、かの聖剣は、そのものが知性を宿し、使い手を選ぶといわれている。起源も出自も由来も、一切が不明であり、先生が持つ、かの“不可解な箱”と同じ、現存する技術では解析することができない、言わば“未知数の力”にして太古の神秘…!」
「まさか、こんなところでお目に掛かれるとは…!」
興奮した様子のマエストロを他所に、エアはコーラルを通じて見える“聖剣”、それを手にしたイヴを見つめる。
『…未知数の力──聖剣、ですか…』
そう呟くエアの表情は、とても険しいものだった。
それもそのはず。
ただでさえ天敵であるレイヴンが、更なる力に見初められたというのだから。
『…厄介なことになりましたね』
人知れず、エアは溜め息を吐いた。
そして、コーラルを通じて見える先の光景──ひいては、“聖剣”を手にしたレイヴンへと意識を集中するのだった。
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手の中の“光の剣”と形容すべきモノ。
それは確かに握った感覚を私の掌に伝えるが、とても実体があるような代物ではなかった。
言うなればそれは、光だけで形成・構成された剣であり、エネルギーブレードのようなものだった。
パッと思い浮かんだのは、かつてルビコンにて愛用していたパルスブレード。
それに似通ったものだと解釈した。
だが、パルスブレードと異なるのは、そのエネルギーの
エネルギーそのものがブレードを形成し、その形状を維持し続けている。
それはまるで──ファンタジー世界に登場する、魔法の剣のようだった。
それ以外にも気になることがある。
この剣が手の中に現れるキッカケとなった暗闇と月明かり。
そして、その直前に聞こえた何者かの声。
疑問と疑念は晴れない。
──だが、それよりも今は優先すべき事柄がある。
目の前の怪物を倒すこと。
それが今の最優先事項だ。
その為に、この剣はせいぜい利用させてもらうとする。
[“イヴ…”]
先生の声が聞こえ、肩越しに振り向く。
その視線の先で、先生は複雑な表情をしていた。
心配をしているのか、それともまた別の思いを抱いているのか。
「先生、あとは任せて。多分、何とかなる──いや、何とかしてみせる」
思いの外、先生は反抗しなかった。
先生も感じているのだろうか。
私の手の中にある、この剣の異様さ、異質さに。
「だから先生は、補習授業部のみんなを頼む」
補習授業部の四人もまた、各々が多様な表情をしていた。
困惑、疑念、焦燥。
[“…分かった。でも、気を付けてね”]
奇しくも、状況は
先生が導き、私が戦う。
補習授業部がこの場に現れたのは予想外だったが、先生であれば、任せて大丈夫だ。
私は、私の役目を全うすれば良い。
──つまりは、目の前の怪物を倒す、ということ。
怪物──白の異形は、不思議と攻撃しては来なかった。
かの存在もまた、この光の剣の特異性に気付き、警戒しているのだろうか。
暗闇の中に差し込んだ月の光。
それと同じ色の光を放つ剣。
ますますもって、この剣が一体何なのか、気になるところではあるが、それは全てが終わってから探れば良い。
改めて、手の中の光の剣を軽く握る。
初めて手にするはずだが、不思議と手に馴染む。
白の異形を前に感じていた絶望感のようなものは、すっかり払拭されていた。
光の剣が、心地良い甲高い音を発する。
それはまるで、私に『行こう』とでも言うかのように。
私は、その“導き”に従い、地面を蹴った。
白の異形へと疾駆する。
私が動き出した直後、白の異形もまた、思い出したかのように動き始める。
左の杖で、地面を突く。
それは私の足元に赤黒いエネルギーの渦を生じさせるが、クイックステップによって軽く振り切れる。
背後で奔流が噴き上がるのを感じながら、私は白の異形へとさらに距離を詰め、肉薄する。
そして私は、パルスブレードの要領で、両手で握った光の剣で白の異形へと斬りかかる。
軌跡が交差する、袈裟斬りの二連撃。
斬撃と同時に光の粒子が弾けて舞い、私の手に確かな手応えを伝える。
異形が纏う白衣を斬り裂き、その断面は光の剣と同じ蒼色に染まっていた。
それは白の異形に対し、確かなダメージを与えられていることの証左だった。
銃撃も、強化手榴弾も、真紅の火でさえ効果が見られなかった以前とは違う。
この光の剣は、白の異形に通じる──!
その確信を得ると同時に、白の異形が黄金の光を纏う右の杖を地面に突く。
私の足元に黄金の亀裂が生じ、直後に光柱が立ち昇るが、先ほどよりもずっと猶予を持って回避に成功する。
その直後、私を包み込むように、剣と同じ色の光の粒子が球状の障壁を形成し、何かを弾く。
白の異形は、何の行動も起こしていない。
そうなると、思い当たるのは渇きと熱を覚える不可避の激痛だろう。
あれを光の剣が防いでくれたのだろうか。
それとは別に、白の異形が赤黒い光を帯びた左の杖で地面を突く。
直後、私の足元に赤黒いエネルギーの渦が生じる。
これまで通りの、足元から噴き上げるエネルギーの奔流だろう。
たとえ白の異形の近くに立っていても使って来て、巻き込んだとしても本体にダメージは無い。
今もまた、私は白の異形の足元にいるが、たとえ巻き込んでもダメージは期待出来ない。
ただ回避すると言うのも悪くはないが、それとは別に、試したいことがある。
私は、光の剣に対して、既視感というか、見覚えがあった。
それはルビコンにいた頃。
コーラル争奪戦も終盤に差し掛かり、私はルビコンの地下に広がる廃都市──技研都市に足を踏み入れた。
その技研都市の廃墟の一角に安置されていた技研の遺産。
一風変わったその武器は、エネルギーをブレード状にして放つことができる機構を持っていた。
カテゴリは唯一無二の“光波ブレード”であり、その名も《IA-CO1W2:MOONLIGHT》。
そのエネルギー光波をイメージしながら、私は“狼騎士の旋回”で飛び退く。
剣を振り上げながら飛び退くと同時に、思った通りの光の刃が飛び、さらに続けて、着地の際に身を捻りながら剣を振り抜き、追撃の光波を放つ。
元はアサルトライフル専用戦技だったが、元が元だけに、光の剣にも応用することが出来た。
それにより、反撃と追撃、二連撃の光波が白の異形に直撃する。
白の異形、その巨躯が揺らぐ。
更に畳み掛けようと地面を蹴る。
その瞬間、白の異形の足元に暗い光の魔法陣が浮かび上がる。
暗い光の呪い──その前兆。
そして、暗い光の呪いは回避不能──。
だが、その時、光の剣が甲高い音を鳴らす。
私の意識が剣に向き、そして、一つの可能性を見出す。
確信は無い。
だが、今はそれ以外に方法はない。
私は思い付いた可能性──光の剣を信じ、足元に生じた呪いの予兆に、逆手に握った光の剣を突き立てた。
直後、月の光と同じ光の柱が、私を囲うように立ち昇った。
私の足元で渦巻いていた呪いの予兆は、その月の光に打ち払われ、掻き消される。
光の剣が、呪いを完全に打ち消した。
その確信と同時に、私は光の剣を順手に持ち直して刀身を寝かせ、身体の左側に引くように構える。
ルビコンの光波ブレードのチャージを意識しながら、その腰だめの構えで溜めれば、光の剣はその輝きを更に増す。
輝きが最高点に達すると同時に、光の剣を真一文字に振り抜く。
弦月の如き光波が奔り、白の異形を撃つ。
白の異形はまるで倒れそうになるのを堪えるように、右手の杖を振り上げる。
その杖の上方に黄金の光が生じ、それが棚引く光と共に下へと移動していく。
足下では眩く魔法陣が展開されていた。
白の異形が杖を突けば、黄金の光がゆっくりと舞い落ちてくる。
それが地面に触れると同時に、部屋全体にまで広がるほどの黄金の魔法陣が展開され、その眩い光は地に足を着けている者全てを浄化せしめる──。
だが、私は光が地面に触れる前に跳んでいた。
ただの跳躍ではなく、白の異形へと飛び込むように、前方宙返りの要領で空中に身を躍らせる。
宙を舞う中、両手で握った光の剣を振り上げる。
剣を振り上げた私と、顔を上げた白の異形の虚無の暗黒、その不可視の視線と交差する。
「はぁあッ!!」
落下の勢いを乗せ、その顔面へと光の剣を叩き込む。
振り下ろした剣が白衣を斬り裂くと同時に、一際、激しく光の粒子が弾ける。
まるで分厚い粘土を切り分けるような手応えの果てに、私は剣を振り下ろした体勢で着地する。
即座に白の異形を見上げれば、その巨躯を揺らし、体勢を崩していた。
だが、まだ撃破には至っていない
今の宙返り叩き付けはかなりの手応えがあったが、それでも倒し切れないとは。
途轍もない強大さを感じる。
幸いな事に、体勢を崩している今が絶好の攻撃の機会だが、生半可な攻撃ではこのダウン中に倒し切れるか分からない。
先程のチャージ光波──いや、それよりももっと強力な一撃が必要だ。
そんな中、再び光の剣が何かを訴えるような音を奏でる。
言葉がある訳ではない。
だが、どう使えば良いのか、明確なビジョンが脳裏に浮かび上がる。
そのビジョンに従い、私は光の剣を切先を前に向けたまま顔の高さに構え、引き絞るように構える。
チャージの時と同じように、刀身の輝きが増し、収束して行く。
体勢を崩した白の異形、その胴体に狙いを定め──。
「今度こそ、これで終わりだ──!!」
寝かせた刀身を捻るように返し、光の剣を突き出す。
突きと共に放たれた光波──奔流は、眩い光と共に白の異形を撃ち抜いた。
白の異形の巨躯が大きく揺らぎ、仰け反る。
変貌前と同じように、両手から杖が離れる。
だが、今度は油断しない。
いつでも復活しても良いように、油断なく身構える。
白の異形は、もう一組の組んだ手を決して離すことなく、虚空を見上げる。
それはまるで、何かを祈るようであり、何かに縋るようでもあった。
白衣の裾から徐々に解けるように崩れ、塵と化していく。
それはやがて全身にまで及ぶが、その間、白の異形が祈りの所作を解くことはなかった。
白の異形が完全に消え去る。
そうしてようやく、場に満ちる緊張感は消え去った。
それは、白の異形の完全消滅を意味していた。
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白の異形──再誕したヒエロニムスの消滅は、マエストロもまた、目にしていた。
その近くには、既にエアの姿は無い。
彼女はヒエロニムスが倒されるよりも前に姿を消していた。
この場にいるのはマエストロだけだ。
「…まさか、まさかこれほどまでの大舞台、傑作になるとは思わなかった。全ては先生、そして、レイヴン。そなた達のお蔭だ」
その口調は、晴れやかであり、満足げなものだった。
それは、マエストロの心からの本音なのだろう。
「さらには、まさか“かの聖遺物”に見えることすら出来るとは思っていなかった。その力の一端をこの目で見ることができ、光栄の至りだ」
「この出会いは、私に更なるインスピレーションを齎してくれることだろう。楽しみで仕方がない」
「……では、先生、レイヴン。そなた達にまた出会える時を心待ちにしている」
「願わくば──再び、月明かりと共に」
その言葉を告げると、マエストロは廃墟の暗がりの中へと姿を消した。
此処に彼らがいたことは、誰も知る由もない。
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『──今回はここまで。今回だけは特別大サービスです』
『“あの人”からのお願いで仕方なく、ということをお忘れなく』
『
『私、待ってますから』
白の異形が消滅した直後、光の剣もまた、役目を終えたように光の粒子となって消えていった。
その時に、消えていく粒子の中で微かな声が聞こえた。
取りに来い。
待っている。
最初のキッカケは、ミレニアムでゲーム開発部のモモイとミドリの護衛のために先生と踏み入った廃墟での出来事。
他の三人と分断された私は、廃墟内の自動音声──そう言って良いものなのかも怪しいモノから、ある頼み事をされた。
廃墟の奥深くで眠る古代の遺産──聖剣を探し出して欲しい、と。
これまでは得体が知れないこともあって有耶無耶にしていたが、こうして本人(?)から直接、お願いされてしまったら無碍にするのも寝覚が悪い。
本格的に腰を上げて調査するべきかもしれない。
だが、今はまだ、その時ではない。
優先すべき事柄が残っている。
白の異形を倒し、先生と補習授業部と共に、私たちは地上へと戻った。
その最中、アリウス・スクワッドもそれとなく探ったが、彼らは姿を消していた。
先生と改めて探してみたりもしたが、とうとう見付けることは叶わなかった。
逃げたのだろうことは疑うべきもない。
古聖堂には幾つもの地下通路がある。
そのどれかを使用したのだろうが、特定には至らなかった。
さらに言えば、問題はその行き場。
アリウス自治区に戻ったのか。
或いは──。
『…逃げよう』
『この場から、アリウスから』
『いつの間にか植え付けられた、私たちのものじゃないはずの憎しみから』
脳裏に浮かび上がるのは、スクワッドの一人、アツコの言葉。
任務を失敗した彼らは──主の期待に応えられなかった猟犬たちは、何処に行くのか。
私の主、ウォルターは、たとえ私が任務に失敗しても、許してくれる人だった。
私を責める事はなく、受け入れ、労い、励ましてくれた。
だが、彼らスクワッドの主はどうだろうか。
それについては、ウォルターと比べるまでもないことが、アツコとサオリの口から語られている。
『彼女は私を生かしておくつもりはなかったはず』
『帰ったところで、私たちは殺されるだけ』
ゲマトリアということも含め、スクワッドの言う
そうして、居場所を失った
殺されると分かって尚、主に従い続けるのか。
それとも、アズサのように、自分の大切なもののために抗うのか。
彼らは──サオリは、どんな選択を選ぶのか。
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「げほっ、げほっ…!」
ヒヨリに肩を貸してもらったまま、サオリは咳き込む。
命に関わるほどの重傷──という程ではないが、決して軽くはない。
咳き込むということは、何かしら内臓に負荷がかかっているのかもしれない。
「だ、大丈夫ですか、リーダー…」
そんなサオリに肩を貸して支えつつ、心配そうにヒヨリは覗き込む。
そういうヒヨリも、他のミサキとアツコも、万全とは決して言いがたい。
多かれ少なかれ、負傷し、消耗している。
「…で、どこに行く?」
それでも涼しい顔──或いは無表情とも言える顔を崩さないまま、ミサキはサオリに訊ねる。
この先、どうするべきか。
何処に向かうべきなのか、を。
「…自治区には戻れない。
俯き、翳った表情でそう呟くサオリに、ミサキはふうと溜め息を吐く。
「…まあ、そういう終わり方も悪くはないけど」
「そ、それは苦しそうですね…そうでなくても、この先もずっと…」
自治区に戻っても苦痛、戻らなくても苦痛。
それをヒヨリは悲観でも卑屈でもなく、あるがままの現実として見据えていた。
「うん、それが人生だから」
それを肯定するように、ミサキも頷く。
「あの…ルナシーさんが助けてくれたりは…」
一縷の望みに縋るように、ヒヨリは一つの提案──希望を見出す。
ルナシーは一時、スクワッドに手を貸してくれた協力者だ。
レイヴンというスクワッドに対しての脅威を足止めする為に、知恵と力を貸してくれた。
その経験から、ヒヨリが彼女に希望を抱くのは…この場の誰も責めることは出来ない。
「……」
だが、それに対しサオリの表情は苦く、重苦しい。
「期待しない方がいいだろうね。あの人から私たちを直接害するようなことはないと思うけど、私たちを助けてもメリットがないどころか立場を悪くするだけ」
そのサオリが内心で思っていそうなことをミサキが代弁する。
結論は、ルナシーを頼ることは出来ない。
「そ、そうですよね…あはは、すみません…」
ヒヨリはサオリに肩を貸したまま、共にトンネルの暗闇へと足を踏み込む。
その後に、ミサキとアツコも続く。
「……」
トンネルに踏み込む直前、その入り口でアツコがふと、足を止める。
何かを思い出したように振り返ったアツコは、その顔を覆うマスクを外し、頭部を隠すフードを脱ぐ。
大人しさと大人びた雰囲気が同居した均整な顔立ちが露わとなり、薄紫の髪が流れ落ちる。
何かを祈るかのように、その赤い瞳を閉じたアツコは、穏やかな微笑みを湛えたまま、再びフードを被った。
そして、他の三人を追うように、トンネルの暗闇へと消えていくのだった。
壺なんてなかった()
まあ原作でもストーリー上はありませんが!
色んな意味で長かったエデン三章もついに終了!
話数で言えば第一章の方が多いですが、あの頃に比べて1ページ当たりの文字数が増えてるので、単純な比較は出来ませんね…。
とりあえず、描きたいことは大体書けたので満足です!
あとはエピローグでひとまずの区切りとなります!
それでは次回!
エデン三章エピローグでお会いしましょう!!