ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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エピローグその2

古書館を訪れたイヴ、サクラコ、セイア、ハナコ
紆余曲折あって、四人は古書館の主に(まみ)える


エピローグ-Ⅱ

「すみません。色々と立て込んでまして、すっかり忘れていました。それについては謝ります」

 

「で・す・が!!」

 

「アレはさすがにやり過ぎです!文句の一つでも言う権利は私にもありますよねっ!?」

 

古書館の中に招き入れられた私たちは、その主である黒髪の生徒に、そのように詰められた。

全くもって、おっしゃる通りであり、申し開きもない。

 

とりあえず、セイアにはこれ以上、暴れられないように、私が脇に抱える形で拘束する。

意外にも、本人は満更でも無さそうだ。

 

「申し訳ありません、“ウイ”さん。悪気は無かったんです。どうかお許し頂けないでしょうか?」

 

私たちを代表して、サクラコが“ウイ”と呼ばれた黒髪の生徒に謝罪する。

 

「…まあ、良いです。忘れていた私にも非はありますから」

 

『はぁ…』という溜め息と共に、ひとまず古書館の主の機嫌を取ることは出来たようだ。

 

落ち着いた様子の古書館の主たる生徒は、順に私たちに視線を巡らせる。

 

「シスターフッドのサクラコさん、ティーパーティーのセイアさん、そして、貴女が例のレイヴンですね?」

 

「あら♡私にはノータッチ♡なんですか?ウ・イ・さん♡」

 

「事前の連絡には貴女の名前は無かったので。今すぐ追い出しても良いんですよ?」

 

「そう言いつつも、すぐには追い出さない当たり…やっぱりお優しいですね、ウイさんは♡そ・れ・と・も♡ヒナタさんの方が良かったですか?」

 

「どうしてそこでヒナタさんの名前が出てくるんですか!?それ以上余計なこと言ったら本当に追い出しますよ!?」

 

声を荒げる古書館の主は、だが、その頬を赤く染めていた。

ハナコの言葉は的を射ており、羞恥を感じているのか。

 

古書館の主をいじり倒したハナコは、満足した様子で後ろに引っ込んだ。

 

「えーと、急かすようですが、早速本題に入りたいのですが…」

 

息を切らせる古書館の主に、サクラコはおずおずと声をかける。

古書館の主は、ハナコに弄られた余韻で険しい表情をサクラコに向けるが、咳払いを挟んで呼吸と冷静さを取り戻す。

 

「そうですね。では、こちらへどうぞ」

 

古書館の主の案内の元、私たちは古書館の奥、テーブルを挟んで向かい合ったソファーの元へと通される。

ソファーには、私とセイア、サクラコとハナコという組み合わせで座る。

 

「飲み物をお持ちしますから、その間はこれでも見て待っていてください」

 

そう言ってテーブルの上に載せられたのは、数枚の用紙からなる資料。

それらを手に取り、各々で目を通す。

 

無言のまま、資料に目を通す時間が過ぎ去り、やがて飲み物を持った古書館の主が現れる。

 

「結果から言えば、“聖剣”に纏わる情報は、この古書館の中でも極めて少なかったです」

 

そう言いながら、私たちの前には、グラスに入ったコーヒーが置かれていく。

 

「改めまして、この古書館の…まあ司書のようなものをやっています。《古関ウイ》です」

 

そう言って古書館の主改め、古関ウイは私に向き直って、挨拶をしてくれた。

 

「ウイさん、ですね。渡鳥イヴです。よろしくお願いします。それと、今回は協力ありがとうございます」

 

私は一応、初対面ということもあって敬語口調で返事を返す。

 

「…無理に敬語を使わなくても良いです。話しやすいように。私のこれはクセなのでお気になさらず」

 

そう言って古関ウイは、近くのデスクから椅子を引っ張り、私たちが座るテーブルの横に置いた。

そして、グラスのコーヒーを一口飲む。

 

「…そういうことなら。じゃあ、ウイ。一つ聞きたい。“聖剣”の情報は少なかった、ということだけど、具体的には?」

 

私たち──私がサクラコに声をかけ、こうして古書館を訪れているのは、“聖剣”についての情報を集める為だ。

セイアについては、彼女もまた、夢の中で聖剣に言及していた、というのもあるが、ティーパーティーとして、シスターフッドの監視、立会人としての意味合いが大きい。

 

それにしては立ち振る舞いが自由奔放過ぎるが。

 

ハナコは想定外の乱入枠だが、彼女もまた、聖剣について知っていてもおかしくはないだろう。

 

「“聖剣”に纏わる言及をしている書物は、古文書も含めて思いの外、多くありました。ですが、どれもその肝心の内容は似たり寄ったりで、更に言えば具体的な情報がなく、曖昧な表現のものばかりでした」

 

ウイは浮かない表情で一旦、そこで言葉を区切り、アイスコーヒーを一口、含む。

 

「冒険譚や英雄譚、はたまた、歴史的・文化的な内容を綴ったものにまでその概念が登場しますが、はっきりとしたことは何一つ描かれていませんでした」

 

幅広い書物の中に、その存在が書き記されていたということは、それだけ多くの人に認知されていた、ということだと思うのだが、それにしては現代ではその存在感は薄い。

或いは、あまりにも“幻想”として浸透し過ぎているのだろうか。

過去の事象など、現在では知りようがなく、現実離れしたものはフィクションとして扱われる。

それと似たようなことが、“聖剣”にも適用されているのだとしたら。

絵本になるようなお伽噺と同じ、それはもう、目新しさはなく陳腐化され、多くの人が興味を抱く対象にはならない。

 

「強いて言えば、どの文献でも、“聖剣”とは、望む者の声に応え、迷える者を導き、“月”に紐付けられていたことでしょうか」

 

「月、ですか…私も、シスターフッドに古くから伝わる文献に少し目を通してみましたが、確かにそのような概念が見受けられましたね」

 

「なるほど。夜の闇に、進むべき路を照らし出す月明かり──“導きの月光”という訳か」

 

セイアの言葉を聞き、私の脳裏を過ぎるのは、古聖堂の地下で戦った怪物──《ヒエロニムス》を完全討滅するキッカケとなった事象。

因みに、“ヒエロニムス”の名は、シスターフッドが古文書などから名付けた名だ。

 

ヒエロニムス戦の終盤。

周囲を覆う暗闇、そこに差し込む一筋の光。

その中に手を伸ばし、闇が晴れた時には握られていた、光の剣。

 

「イヴ、ハナコ。君たちは実際に見たのだろう?その“聖剣”を」

 

セイアの問いかけを受け、私とハナコは互いに視線を交わす。

 

「…はい。確かにあれは、月の光と言うべきものでした。辺り一面、夜のような暗闇の中に差し込む、一筋の月明かり。それはイヴちゃんの手の中に剣の形を成して、現れました」

 

ハナコの証言を後押しするように、私は頷く。

 

ただ、戦いが終わった後には、跡形もなく消えてしまったが。

それでも、“聖剣”の凄まじい力はハッキリと鮮烈に、私に刻み込まれている。

手から体に伝わる感覚としても、眼と耳に残る記憶としても。

 

「それではやはり…!」

 

推測が確信に迫ったかのように、サクラコが鋭く声を洩らし、それにウイも頷く。

 

「はい。イヴさんとハナコさんが見たという“聖剣”は、伝承上の“聖剣”の可能性が極めて高いかと」

 

「なるほど。つまりは、“聖剣”は幻想でも、虚構でもなく、実在していた、という訳だ。──そうなると、非常に厄介なことになる」

 

セイアの言う、“厄介なこと”。

それを私は何となく予想していた。

 

「…もし、この情報が広まれば──“聖剣”を狙おうとする者が、必ず出てくるだろう」

 

私の脳裏に浮かび上がったのは、他でも無い、カイザーの連中だった。

 

「ただ興味に釣られた生徒程度であれば大した脅威にはならないだろう。だが、このキヴォトスは生徒だけの世界ではない」

 

企業──特にカイザーの連中が放っておくとは思えない。

“聖剣”の力は連中も知っているかどうかは分からない。

だが、貪欲に力を求めるような連中であることは間違いない。

そして、その為にはどんな手段も厭わないだろう。

 

セイアも、直接的な言及こそしないが、暗にその事を示しているのだろう。

 

或いは、“ゲマトリア”。

セイアがゲマトリアを知っていることは、夢の中の記憶で私も知っている。

 

未だ、どんな連中の集まりなのかは不明だ。

 

今のところ明確に確認出来ているのは、私が追っているエア、私がスランピアで出会ったマエストロ、そして、先生がアビドスでの騒動の最中に出会ったという、自らを“黒服”と名乗った人物。

 

ゲマトリアの全員の内情が(つまび)らかに明かされていない以上、どんな危険人物が潜んでいるかも不明だ。

 

もしかしたら、カイザーの連中のように、直接的な危害を加えてくるようなことをする者がいる可能性も考えられる。

 

「…ひとまず、今日は協力ありがとう。“聖剣”については、私の方で引き続き調べておく。何かあったら共有するから、みんなは極力、これ以上の深追いはしないようにしてくれ。せめて、学園内に留める程度で」

 

だからこそ、彼女らを巻き込まない為にも、これ以上の深追いはさせないようにしなければならない。

企業にしろ、ゲマトリアにしろ、もし誰かが目を付けられたら、ただでは済まない。

 

それに、何も当てが無い訳ではない。

 

「ふむ…そうだね。私たちはイヴのような高い戦闘力を持っている訳ではない。下手に首を突っ込み、それが虎穴だった場合、ただでは済まないだろうからね」

 

「イヴさんがそれで良いのであれば、そうしますが…」

 

サクラコはどこか釈然としていない様子だ。

もしかすると、()()()のことを考えてのものだろうか。

 

「イヴちゃんには何か当てがあるみたいですね?」

 

当てとは言っても、決定的な情報を得られるという確証はない。

それでも、きっと()()()()であれば、何か知っているはずだ。

 

“聖剣”について、情報を知っている可能性がある人物。

一人は以前、ミレニアムで出会った、自らを“全知”と名乗る車椅子の少女──明星ヒマリ。

 

彼女とはあれ以降、会話どころか出会ってすらいない。

連絡先を交換はしたが、彼女から連絡が届く事はなく、また私からも特に用事がなかった為、連絡することはなかった。

 

明星ヒマリ──彼女は、ミレニアムの“廃墟”に私と先生、ゲーム開発部が忍び込んだことを知っていた。

そして、それを臆面もなく、私に告げた。

“廃墟”のことは勿論、アリスについても、その正体を知っている可能性は非常に高い。

アリスが生徒ではない存在だということ。

それを知っていて放って置いている。

或いは、泳がせているのか。

 

何にせよ、彼女が“廃墟”の奥深くにあるという“聖剣”について、何か情報を掴んでいる可能性は高い。

 

そして、もう一人は、裏世界いちの情報屋であり、ミレニアムの廃墟に眠る“聖剣”について言及していた“鋼鉄”のパッチ。

 

パッチのヤツとは、細かい情報のやり取りをあれからも度々、継続している。

情報のやり取りと言っても、あくまで仕事上の関係ではあるが。

その他には、以前から継続して、レンカが開発品を売り付けていたりしている。

 

どちらも、非常に親しいという訳ではなく、信用性については不安が無い訳ではないが…。

ヒマリは兎も角、パッチの場合はまた吊し上げれば良いだけだ。

何にしても、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。

多少のリスクは覚悟しなくては、何も進展しない。

 

「…まあ、何か知っていれば良い、って程度だけどね」

 

私はウイが淹れてきてくれたアイスコーヒーに口を付ける。

 

──一つ、気になることがある。

ヒエロニムス撃破後、聖剣が消える際に聞こえた声。

 

その中で言及された、“あの人”。

 

関係があるかは分からないが、ミレニアムの“廃墟”で私に“聖剣”を探し出すように依頼して来た謎のAI。

 

もしかすると、あのAIをあの場所に仕込んだのは、“あの人”と呼ばれた人物なのではないだろうか?

 

そうだとするなら、その“あの人”というのは──。

 

「それはそうと、今回の協力のお礼は何をすれば良い?」

 

憶測でしかない思考を振り払い、頭を切り替える。

 

私は改めて、サクラコたちに向き直った。

大きな収穫は無かったものの、多忙な中、便宜を図って協力してくれたのは確かだ。

ならば、そのお返しをするのが筋というものだろう。

 

「はい、そのことについてなのですが…」

 

何を頼むか、事前にセイアやウイと話を付けていたのだろうか。

サクラコが代表のような形で、私に向き直る。

 

「イヴさんのその実力を見込んで、お願いしたいことがあるんです」

 

「実力?」

 

私の得意なことなど、荒事以外に考えられない。

 

「はい。イヴさんは、古聖堂の地下に広大な遺跡が広がっていることはご存知かと思います」

 

エデン条約調印式の舞台となった──なるはずだった古聖堂。

その地下には古代の地下墓の遺跡が迷宮のように広がっている。

 

そして、その地下遺跡を通じて、アリウス達は古聖堂に集ったトリニティとゲヘナを奇襲した。

 

「その地下遺跡の調査、探索にご協力いただきたいのです」

 

確かに、アリウスは地下遺跡に精通しているとは言え、こちらからすれば未知の区域だ。

どんな危険が待ち受けているか分からない。

そこで私に声がかかるのは、今回の用件を除いたとしても、必然と言える。

 

「ああ、心配には及ばないよ。古聖堂地下遺跡の調査は、ティーパーティーにとっても重要案件だ。別途、謝礼は用意する」

 

ナギサ暗殺未遂の際も、アリウスは地下遺跡を通った可能性がある。

それを考えれば、またいつアリウスの襲撃がトリニティを襲うか分からない。

もしかすれば、アリウスの自治区とも繋がっている可能性があるのだから。

 

私としては、謝礼が無くても良いのだが、彼女らはそうはいかないだろう。

 

何せ、サクラコにしろ、セイアにしろ、遺跡調査の依頼は個人的なものではなく、それぞれ、シスターフッドとティーパーティーという立ち位置からのものだ。

 

ならば、私はシャーレの特務戦闘員として、相応の仕事を果たすまでだ。

無論、手を抜くつもりなど毛頭ない。

 

「そんなことで良ければ私は構わないけど…ウイはそれで良いのか?」

 

一見すると、今回の一番の功労者とも言えるウイには何のメリットも無さそうだが。

 

「ああ、それについては心配には及びません。調査の際に地下遺跡で発見された遺物を頂く取り決めになっていますので」

 

なるほど、ウイにとっては、その遺物が報酬となる訳だ。

 

私が調査に協力し、構造が明確化し、安全性も維持できるようになれば、ウイが求める遺物もより多く、彼女の元に流れるようになるだろう。

 

「ウイさんは《古書館の魔術師》なんて呼ばれてますけど、考古学の分野にも造詣があって、出土品等遺物の取り扱いもちょくちょくなされているんですよ♡ね?こ・ぜ・き・せ・ん・ぱ・い♡」

 

「そうですけど!それ、やめてくれません!?」

 

「あら♡何のことでしょう♡」

 

……何にせよ、彼女にもきちんと見返りがあるのであれば、私から言うことは何も無い。

 

「えーと、他に何かある?」

 

遺跡調査の他に、何か要求はあるかを訊ねるが、サクラコは微笑みのまま首を横に振る。

 

「いえ、これだけで十分です。調査についての詳しい内容は後日、説明いたします」

 

「ふむ。では、今日のところは解散、といったところかな」

 

セイアがまとめに入ると、全員が席を立つ。

 

「改めて、今日は協力ありがとう」

 

私は心からの感謝を込めて、今日、協力してくれた者たちに頭を下げる。

 

「いえ、あまりお力になれず、申し訳ありません。それなのに、こちらのお願いだけは通すような形になってしまって…」

 

「いや、新しい知見は得られた。この場を用意してくれただけで、十分に助かったよ。それに、遺跡調査はまた別だ。報酬まで貰えるのであれば尚更」

 

『分からない』ということが分かることもまた、確実な一歩だ。

何の憂慮もなく、別の手段を取れるようになる。

 

「私としては、友人と共に語らうことが出来て楽しい時間だったよ。こちらの事情にもよるが、状況が落ち着いたらまた来てくれ。その時は私が直々にもてなそう」

 

「私もセイアと直接話せて楽しかったよ。もてなしは楽しみだけど、あんまり無茶してナギサを困らせるのも程々にな?」

 

「分かっているとも。君も含め、私の体を案じてくれているのは理解しているからね。休む時は素直に休むさ」

 

「…あんまり騒がしいのはごめんですけど、一人で本を読みに来るくらいであれば歓迎しますよ。まあ、今日みたいにアイスアメリカーノくらいしか出せるものはありませんが」

 

空になったグラスをトレーに載せながら、ウイが顔を伏せがちに言う。

 

「今日はありがとう。飲み物もご馳走様。そういうことならまた来るよ。今度はプライベートででも」

 

ウイにも感謝を告げると、私たちは古書館を後にした。

 

セイアとサクラコとも別れ、残るは私とハナコだけとなった。

 

「二人きりになっちゃいましたね、イヴちゃん♡」

 

「そうだね。ハナコは良いの?帰らなくて」

 

「もう少しだけ、一緒にいても良いですか?」

 

「そういうことなら、もちろん」

 

私とハナコは、二人並んで、トリニティの敷地内を歩いてゆく。

陽はすっかりと落ち、空には星々が瞬いている。

それでも、街灯の温かなオレンジ色の光が、明るく周囲を照らしていた。

 

「…ハナコは、何か考えがあって、混ざって来たんじゃないの?」

 

ハナコがどこから私とサクラコ、セイアの会合を知ったのかは分からない。

聖剣に見えた時、あの場にはハナコもいた。

そこから推測して導き出したのかもしれないし、本当に単なる偶然で、見かけたから声をかけて来たのかもしれない。

 

「…買い被り過ぎですよ。ですが、そうですね。強いて言えば、イヴちゃんが少し心配だったから、というのはあるかもしれません」

 

「心配?」

 

「はい。不当な要求をされないか…。私は色々と…考え込んでしまうタチですから。サクラコさんがそんな悪いことをするとは思えませんが…お二人が歩いているのを見かけて、イヴちゃんのことが気になってしまったんです」

 

それが、ハナコが唐突に乱入して来た理由なのだろう。

 

不当な要求、か。

正直、否定は出来ない。

 

自分でも、そう言った交渉方面には疎い自覚がある。

ハナコからも、そうした隙が、私に見えたのだろう。

 

「イヴちゃんはお強いですから。私が心配する必要など無いかもしれませんが…」

 

ハナコはそう言って、自嘲するように微笑みを浮かべ、振り向く。

 

「…いや、そんなことで無いよ。みんなには、助けられてばかりだから」

 

精神的支柱とでも言うのだろうか。

ヒエロニムスとの戦いの最中、補習授業部が現れた時は、非常に焦ったものだ。

だが、今考えれば、あれで良かったのかもしれない。

“聖剣”だけではない。

補習授業部が現れたことで、私にとって、いつものように戦える土壌が出来上がったのだから。

先生が導き、私が戦う。

その結果に至ったのは、きっと補習授業部があの場に居てくれたからだ。

 

「そうなのですか?」

 

「うん」

 

きっと、そうなのだと私は信じたい。

 

或いは、補習授業部が居たからこそ、“聖剣”も現れたのかもしれない。

私たちにとって、都合の良い事象──“奇跡”が。

 

全ては何の根拠も無い、憶測に過ぎない。

 

それでも、私はそうであって欲しい。

そう祈りたい。

 

「イヴちゃんの力になれたのであれば、良かったです」

 

そう言って、ハナコは自嘲ではない、心からの穏やかな微笑みを浮かべた。

 

と、そこでハナコの携帯端末が震える。

 

ハナコは携帯端末を取り出し、画面を眺めた後、ハナコは私へと顔を向けた。

 

「イヴちゃん、この後、ちょーっと時間ありますか?」




エピローグですが、もうちょっとだけ続きます

私の描きたいものに、どうかもう少しだけ、お付き合いください
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