ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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エピローグその3

サクラコ、セイアと別れ、イヴはハナコと共に日が暮れた学園を歩く
そこでハナコの携帯端末が震え…?

今度こそ、エピローグ最後です


エピローグ-Ⅲ

特に差し迫った用事は無い私は、ハナコからの提案に乗り、その後に着いて行くことにした。

 

そうして私と、制服に早着替えしたハナコは、トリニティの学園を抜け、夜の街へと繰り出した。

 

街灯が明るく照らし出す街中は、通りに面した多くの店から溢れる明かりによって、煌びやかに彩られていた。

人通りも多く、多くの生徒たちで賑わっていた。

 

そうして街中を進むこと数分。

 

「こちらです、イヴちゃん♡」

 

一軒の店の前で、ハナコが振り返る。

そこは、喫茶店だった。

 

喫茶店に足を踏み入れれば、その中は多くの人々で賑わっていた。

生徒は勿論、ロボットや動物の市民もいる。

 

そんな中をハナコと共に進んで行けば、聞き馴染みのある声が耳に届いた。

 

「あっ!ハナコちゃん!こっちです、こっち!」

 

聞こえて来た声の方へと顔を回せば、そこにはヒフミを筆頭に、アズサとコハルという、補習授業部の馴染みの面子が揃っていた。

 

「皆さん、お待たせしました♡」

 

「いえ!私たちも今来たばかりなので!イヴさんもようこそ!」

 

どうやらハナコから連絡が行っていたらしく、補習授業部のメンバーは私を見ても驚いた様子はない。

 

「うん、ありがとう。それで、この集まりは一体どういう?」

 

ハナコと共に、ヒフミが場所を取っておいてくれた長椅子へと腰掛ける。

ヒフミは、テーブルを挟んで私とハナコの対面に移動し、コハルとアズサと共に並んだ。

 

「えーっと…その…」

 

私の問いかけにコハルが苦い表情を浮かべる。

それは他の二人も同じだった。

 

唯一、ハナコはいつも通りにニコニコ笑顔だった。

 

そこで私は、はたと気付く。

 

思えば、補習授業部は、ティーパーティーのナギサが、裏切り者を炙り出す為に利用したものであり、このメンバーも、補習が必要な生徒に見せかけた、裏切り者候補者の集まりだった。

 

だが、それに纏わる事件は落着し、収束した今、この四人は補習授業部でいる理由はない。

 

それぞれ、各々の持ち場に戻っていく事だろう。

 

元通りの部活、或いは、日常へと──。

 

そこから導き出される答えとしては、“送別会”…そうした意味合いの場なのではないかと考え付いた。

 

「…すまない。私の気が利かなくて…無理に言葉にしなくても良い」

 

私は謝罪した。

 

先程の私の発言は、あまりにも無神経だった。

 

折角の送別会という場に呼ばれておきながら、そこに水を差すような発言をしてしまったことを反省し、それを胸に謝罪する。

 

今は、言葉は必要ない。

ただ、この場を楽しめば良い。

 

「…ん?何故、イヴが謝る必要があるんだ?」

 

私の謝罪に、アズサが首を傾げながら問う。

 

伝わらなかったか…。

自身の言葉足らずさ、語彙の貧弱さに嫌気が差す。

 

私はどう説明するべきか迷う。

 

「そうよ!辛気臭いわねっ!もう!ただでさえ、()()()()()()()()なんてことになって、ウンザリしてるのにっ!」

 

コハルの決定的な発言に、私は唖然と硬直する。

 

補習授業部が、継続…?

 

「あら♡コハルちゃんはまた私たちと一緒で嫌なんですか?悲しいです…私はコハルちゃんのこと、お友達だと思っていましたのに…」

 

「べ、別に嫌とまでは言ってないでしょ!?わ、私も一応、ハナコのことは…と、友達だと思ってるし…」

 

「うふふ♡そう言っていただけて嬉しいです♡これからもオトモダチとして、よろしくお願いしますね、コハルちゃん♡」

 

「なんかヤらしい!死刑!」

 

この感じは、どうやらコハルの言ったことは事実のようだ。

 

だが、どうして…?

 

「えっと…ヒフミ、“補習授業部が継続”って…」

 

コハルとハナコのやり取りに苦笑していたヒフミに訊ねる。

 

どうして、補習授業部が継続することになったのか、その理由を。

もちろん、四人が一緒にいられて、その上、嬉しいのであれば問題はない。

 

だが、私にはどうして継続することになったのか、その経緯が気になった。

 

「はい…あっ、でも、何かあった訳じゃないですよ?その、単純に私たちの前回の試験の成績が悪くて…まぁ、私の場合は、試験そのものをすっぽかしてしまったんですが…あはは…」

 

ヒフミが試験をすっぽかす…その理由については、おおよそ見当が付いた。

ヒフミが座っている横に置いてある、彼女がいつも背負っているリュックに自然と視線が向いた。

 

他のメンバーも似たり寄ったりだろう。

 

「なっ、ちょっとヒフミ!適当なこと言わないで!私は三年生の範囲の試験を受けたからだからっ!別に私の頭が悪いだけじゃないからっ!」

 

ハナコと言い争って(じゃれあって)いたコハルが、聞き捨てならないと言わんばかりに噛み付く。

 

それは何というか…頭が悪いどうこう以前の問題──いや、これ以上はやめておこう。

 

「私は、まだ習っていない範囲の内容だったからな。無理もない」

 

アズサは淡々と自身の現実を受け入れていた。

だが、その表情はどことなく嬉しそうだ。

 

私の視線は自然とハナコへと向いた。

 

ハナコもまた、普段の成績が悪いようには思えない。

何か想定外のアクシデントか、事情が──。

 

「私だけ放置プレイだなんて、寂しいじゃないですか♡」

 

──まぁ、そんな気はしていた。

 

何はともあれ、この四人は今後も、補習授業部という形で共にいられる事になった訳だ。

 

その経緯はさておくとして。

 

「…そうか、その…おめでとう?」

 

つまり、この場は、補習授業部が解散し、四人の送別会などではなく、再出発を果たした四人の歓迎会?のようなものなのだろう。

 

何にせよ、喜ぶべき祝いの場だ。

 

だが、だからこそ、私は疑問を浮かべる。

 

「でも、私が一緒でも良いの?」

 

この場所には、私の存在は不釣り合いではないだろうか?

 

「あっ、はい!大丈夫です!前に、みんなでこのお店に来たいね、って話したことがあって、その時の念願が叶ったような感じなので!」

 

そう言って、ヒフミは満面の笑みを浮かべた。

 

「そっか。そういうことなら、ご一緒させてもらおうかな」

 

再び補習授業部として、一緒になった四人を眺めながら、私は自然と口元が緩むのだった。

 

その後、本日の業務を終えた先生も合流し、私達は楽しいひと時を過ごした。

 

 

 

 

 

 

アリウススクワッドによる最悪の結末を回避し、目先の脅威を払い除けることは出来た。

 

だが、スクワッドの結末を含めて、不完全燃焼という感覚は否めない。

 

それもそのはず。

アリウス自治区には、いまだにゲマトリアが残っており、スクワッドはその駒に過ぎなかった。

 

脅威はまだ、残り続けている。

 

アリウススクワッドにしろ、アリウス自治区に潜むゲマトリアにしろ、いずれ決着をつける時が来るだろう。

 

それでも今は──今だけは、どうにか掴み取ったこの一時の安寧(日常)に、身を浸すのも悪くはないだろう。

 

****************************

 

『……』

 

『あなたはこれからも、たくさんのことを学んでいくでしょう。これからもずっと、友人たちと一緒に』

 

『勉強し、努力をし、様々な可能性を見つけるのでしょう』

 

『…あなたは強いから』

 

『例えすべてが虚しくても、この世界が暗く寂しいものでも…』

 

『たとえ、コンクリートの隅であっても…』

 

『…アズサ』

 

『あの時見せてくれた花のこと…今は少し、理解できたかもしれない』

 

『もう二度と会うことは無いかもしれないけれど』

 

『どうか、幸せに』

 

****************************

 

宴もたけなわ、夜も深まり、補習授業部再結成の祝いの場は、今日のところはひとまず解散という運びとなった。

 

それぞれが各々の寮や職場に帰っていく中、私にはまだ、トリニティで行きたい場所があった。

 

私は真っ直ぐ、トリニティの学園へと来た道を戻っていく。

 

宵の深い紺色の空の下、トリニティの通りは人はまばらで、寂しげな印象を覚える。

街灯の橙色の光だけが、闇の深まった道を照らす。

 

そうして私は、再びトリニティの校門を潜る。

当然、その敷地内には、生徒の姿は見当たらない。

 

無人の敷地を進んで行き、私は“とある場所”に辿り着く。

 

そこは、二名の見張りの生徒が立たされ、厳重に管理された校舎の一角。

 

私は見張りの生徒に所属を明かして通してもらい、そこから更に目的の場所へと向かう。

 

とは言え、そこまで遠い訳ではない。

 

この場所は言わば、“牢屋”──“牢獄”として扱われている場所であり、見張り役の二人は言わば、看守や獄吏と言った意味合いが強い。

 

であれば、万が一の有事の際に、異変やその兆候を見逃さないように、ここに封じ込められた人物の近くに置いておく必要がある。

 

トリニティらしい、豪華絢爛な様式はここでも変わらず。

 

だが、それには不釣り合いな冷たく無骨な鉄格子が、この場所が牢獄である事を物語っていた。

 

そうして、私は目的の場所──ある人物の元へと辿り着く。

 

「ふぅ〜ん…これは思わぬ来客ってやつだね」

 

鉄格子の奥、牢獄とは思えない、トリニティらしい私室にいる人物が、声を発する。

 

当然、それは私へ向けたものだった。

 

「私に何の用かな?──レイヴン」

 

閉じ込められた人物──聖園ミカは、部屋の奥から、私に問いかけた。

 

「それとも、“今”は、渡鳥イヴ、って呼んだ方が良いかな?」

 

聖園ミカは、言葉使いこそ柔らかいが、その表情と声色は、とても私を歓迎しているようなものではなかった。

 

「…レイヴンで構わない。私は、貴女と話をしたくて来たんだ」

 

「話?尋問ってこと?私が知ってることは全部話したんだけど…聞いてないの?シャーレに報告とか行ってない?先生とか。困ったなぁ…また一から全部説明しなきゃいけないの?面倒くさいんだけど」

 

「いや、トリニティからの報告書はシャーレにも届いているし、それには私も目を通した」

 

「それなら尚のこと、私と貴女が何を話すの?お友達でもなく、敵対していた者同士で。貴女は私の計画を潰した上に、こうして私が捕まるキッカケになった相手でもあるんだよ?それに、私前にも言ったよね?貴女が嫌いって。その上で、貴女は私とどんなお喋りがしたいのかな?」

 

随分と嫌われたものだ。

とりつく島もない。

 

「…聖園ミカ、貴女から見て、今後のアリウススクワッドは…錠前サオリは、どうなると思う?」

 

彼女たちは、任務に失敗した。

 

そして、恐らく、彼女たちはアリウス自治区への帰還を許されない。

仮に許されたとしても、それは一時的なものでしかなく、その先に待っているのは、失敗に対する罰であり、償い。

 

その結果、彼女たちがどうなるのかは…容易に想像できる。

 

ましてや、その裏にゲマトリア──先生とは違い、相手が生徒であっても容赦しない、自身の利だけを求めるような大人であれば、尚更。

 

「え?何それ。そんなの、私の知ったことじゃないし、アズサちゃんとでも話せば良いじゃん。補習授業部とも仲良いんでしょ?…あー、でもアズサちゃんには言えないのか。そんな気遣いも出来るんだね。それで、私のところに来た、と。…え?私に対しての気遣いとか無いの?無いか。無いよね。はぁ…まぁ良いや」

 

ふと、私は先程から漠然と抱いていた違和感に気付く。

 

「…今日は随分と口が回るな、聖園ミカ。何をそんなに取り繕っているんだ?」

 

今日の聖園ミカは、やけに答えが長い。

 

元々、口が回る方ではあるだろうが、今日の様子は、以前、目にした時よりも饒舌に映った。

 

それは何か、言い訳をしているような。

 

私の言葉に、一瞬だけ、聖園ミカは剣呑な表情を見せる。

 

その後、聖園ミカは我に返るように目を閉じ、苦笑を浮かべた。

 

「取り繕ってる?何を言ってるの?貴女に、私の何が分かるの?それほど長い付き合いでもないのに。付き合いが長くても、他人のことなんて分からないのに。私を知った風な口を利かないで欲しいかな☆」

 

確かに、私が感じた聖園ミカへの“違和感”は確証がある訳ではない。

言わば、憶測に過ぎず、先程の私の発言は、釣り餌のようなものだ。

 

だが、聖園ミカはそれには釣られなかった。

 

あからさまな反応はさて置いて。

 

このまま追及したところで、聖園ミカが口を割ってくれるとも思えない。

ひとまず、今日のところは、この件については触れないことに決める。

 

「悪かった。気分を悪くしたのなら謝るよ。それとは別に、さっきの問いには答えてもらいたいのだけど」

 

「錠前サオリとアリウススクワッドについてだっけ?そんなの、それこそ私が知るはずないじゃん」

 

「そんなの分かってる」

 

「おちょくってるのかな☆」

 

「貴女の憶測というか、想像で構わない。アズサの他に、彼女たちと接触した事があるのは、貴女しか居ないから」

 

私は真っ直ぐと聖園ミカへと視線を向け、その瞳を見つめる。

 

「……」

 

「……」

 

無言のまま、互いに視線を交わし続ける気まずい雰囲気が流れる中、不意に聖園ミカは視線を外し、溜め息を吐く。

 

「…はぁ、やっぱり私、貴女のことが嫌いだよ、レイヴン。まぁ良いや。不愉快ではあるけど、暇潰しにはなったし。わざわざ、嫌われてると知りながらここまで来たご褒美はあげなきゃね…」

 

たとえ建前だとしても、嫌っている相手に対し、ここまで真摯に向き合える聖園ミカもまた、その人柄の良さが出ている気がする。

 

「…ありがとう、聖園ミカ」

 

「まだ何にも言ってないんだけど?ホント、いちいちムカつくなぁ…」

 

こうして臆面もなく憎まれ口を叩けるのも、それだけ彼女が素直であり、根の性格が善良である証拠だろう。

 

「…任務に失敗したあの子たちがどうなるのか、か……失敗の責任を問われて、私みたいに拘留されるだけならマシ、最悪、何処に行っても追われ続けることになるだろうね。そのくらい、アリウスの環境は劣悪だったから。それで捕まったら──この先は言わなくてもレイヴンになら分かるでしょ?」

 

生徒には人権は無く、あったとしても最低限。

 

人を人とも扱わない、そういう環境だということなのだろうか。

 

そして、それを放置──或いは加速させているであろう、ゲマトリアは、生徒の命など何とも思っておらず、それを奪うことにも躊躇が無い、と言ったところか。

 

だが、そんな場所であっても、多くのアリウス生とスクワッドにとっては、唯一の居場所であり、スクワッドは、その唯一の居場所すらも失った。

 

居場所を失った猟犬は、果たして何処に向かうのか──。

 

私は、カタカタヘルメット団に救われ、先生が居場所を用意してくれた。

 

だが、アリウススクワッド達は──。

 

彼らは、今後、どうなるのか。

 

「…そうか、ありがとう」

 

とりあえず、質問に答えてくれた聖園ミカには、お礼を言っておく。

 

「別に良いよ。単なる暇潰しだから」

 

聖園ミカは溜め息混じりにソッポを向く。

 

それは、セリカやコハルのような素直になれない喜びの表現などではなく、私の感謝を拒絶するようなものだった。

 

「…礼と言っては何だけど──」

 

私は懐から取り出したメモ帳にボールペンで文字を書き連ね、そのページを一枚、破り去って折り畳むと、鉄格子の隙間から部屋の中の床の絨毯に置いた。

 

「何?それ」

 

「私の連絡先。“レイヴン”に何か頼みたいことがあったら、ここに連絡してくれ」

 

「私の頼み事を聞いてくれるってこと?貴女が?」

 

「そう」

 

「冗談でしょ?それなら、ここから出るのを手伝ってってお願いしたら、手伝ってくれるの?」

 

「貴女がそれを本気で望めば、だけど」

 

「…ふーん、そう。ま、あんまり期待せずに覚えておくよ」

 

それを最後に、私と聖園ミカの会話は終了した。

 

私は牢獄を後にし、トリニティの学園内からも立ち去った。

 

****************************

 

『私に何の用でしょうか』

 

エアは、とあるゲマトリアの一人に呼び出され、その人物の元に訪ねていた。

 

『──“マダム”』

 

“マダム”──そう呼ばれて振り返ったのは、大人の女性らしい輪郭の姿をしていながら、無数の羽が重なった間に無数の眼を持つ、おおよそ人からかけ離れた異形だった。

 

「ああ、来てくれましたか、ルナシー」

 

エアは、変異コーラルによって、白いドレスに身を包んだ女性の姿で、“マダム”の前に立っている。

 

「おおよその経緯は貴女も既知のことでしょうから、細かい説明は省きます」

 

彼女が言っているのは、おそらく、トリニティでの騒動を指しているのだろうとエアは理解する。

 

「スクワッドが逃げました。他はどうでも良いのですが、《ロイヤルブラッド》の彼女だけは、私の計画に必要なので連れ戻さなくてはなりません。そこで、貴女のコーラルの兵隊を貸して頂きたいのです?持て余しているのでしょう?ああ、“例の部隊”でも良いですが」

 

彼女は、ゲマトリアの中で唯一と言っても良い、計画を順調に進めている人物であり、アリウスの実質的支配者だ。

アリウスの生徒は彼女の兵隊であり、そこには先日、《エデン条約》として掠め取った《ユスティナ聖徒会》の複製(ミメシス)部隊をも保有している。

 

他のゲマトリアのメンバーの協力もあるにはあるが、あくまでも主導は彼女。

 

だからだろうか。

 

彼女には驕り高ぶった、傲慢さが見受けられる。

 

『…マダム、いえ──《ベアトリーチェ》。私は確かに貴女方ゲマトリアに協力しています。ですが、それはあくまでも、利害の一致という、一点における同盟に過ぎません。友誼は結んだつもりは一切、ありません』

 

エアの言葉に、ベアトリーチェは機嫌が悪そうに眉根を寄せる。

 

「それはあまりにも恩知らずではなくて?誰が貴女をゲマトリアに受け入れたと──」

 

『勘違いも甚だしいですね。ゲマトリアは貴女の私物でも所有物でもありません。その権利の一角を担っているに過ぎない。それに、恩着せがましいにも程がある。私は居場所が無かったのではなく、此処に価値を見出して、私の意思で此処に居るのです。それをお忘れ無く』

 

「新入りの分際で随分と口が回るものですね。誰のお陰でレイヴンをあそこまで追い詰められたと思っているのですか?あの場所を用意したのは他でも無い、私なのですよ?口の利き方が──」

 

『新入りだろうと古参だろうと関係ありません。そんなものへの執着に何の価値があるというのですか?それと、私が何を言おうと私の勝手です。それを縛るような権限は貴女にはありません。誰にもありません』

 

このままベアトリーチェに答えを求めても、延々と話題を逸らされて無駄に言い争うだけになりそうだと判断し、エアは続けて自身の意思を示す。

 

『話題が逸れたので戻しますが、私は、コーラルを誰かに預ける気はありません。()()()()()()、です。これは貴女や他のゲマトリアに限った話ではありません。もう二度と、誰にもコーラルを悪用させはしない。企業はもちろん、それに類する組織の悪辣な人間であれば、尚更』

 

コーラルは、ずっと人間の良いように利用されて来た。

 

その結果が、あのルビコンでの戦いに収束する。

 

コーラル争奪戦に臨んだ企業は、ベイラムも、アーキバスも、コーラルを資源として貪ることしか考えていなかった。

その貪欲な、人間の尽きぬ欲望に、コーラルは振り回された。

その果てに、エアの同胞たるコーラルは焼き尽くされた。

 

《レイヴンの火》によって。

 

だからこそ、エアはもう、人間には期待しない。

コーラルと人の共生は、あり得ない。

 

人の欲望は無尽蔵で底が無い闇に等しい。

共生を望んだところで、良いように利用されるだけだ。

 

だから、エアは人類種を滅ぼした。

 

狂気と共に全宇宙に伝播し、一人残らず、人間を駆逐せしめた。

 

ただ、一人を除いて。

 

『もし、その一線を超えるような“敵”が現れれば、私は例え、敵対しているレイヴンとも一時停戦、協力してでも、その対象を排除します。徹底的に、容赦無く。この世から消し去ります。それは、例え貴女が相手であっても、ですよ?ベアトリーチェ』

 

釘を刺すように、エアはベアトリーチェに視線を向ける。

 

『…せいぜい、身の程を弁えることです。狂気と恐怖の果てに、滅ぼされたくなければ』

 

エアはベアトリーチェに背を向ける。

 

それは、これ以上、話すことはないというエアの意思表示だった。

 

『ああ、協力の申し出であればいつでもどうぞ。レイヴンの足止めはいつでも引き受けます。ただ、指図を受けるつもりはありませんが。私は、私のやりたいようにやりますので』

 

それだけを言い残し、エアはベアトリーチェの元から立ち去った。

 




随分と長くお待たせしてしまって本当に申し訳ない…!

百花繚乱二章とナイトレインでモチベーションも出て来たので、ここからきっちり更新していきたいですね…(願望)

とは言え、本編は少し先になって、次からはちょっとした短編を挟む予定です

本編に関係するかもしれないし、しないかもしれない

その後の本編は、ちょっと流れが変わります
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