ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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短編第二幕でございます

基本的に当作品はメインストーリーが主軸となっているのはご存知かと思います

それでもやはり、他の学園も絡ませて行きたい!

そんな理想でこの短編の構想を考えてはみましたが…

少しでも楽しんで頂ければ幸いです


短編:戦いに必要なもの-前編

──《山海経高級中学校》。

 

キヴォトスには、そう呼ばれる学園がある。

 

独特な雰囲気のある自治区であり、アビドスやミレニアム、ゲヘナやトリニティとはかなり風変わりな印象を覚える。

 

以前、野暮用で訪れた《百鬼夜行連合学院》、その雰囲気に似ているようで、また異なる、ユニークな学園だった。

 

その《山海経》の自治区に今、私はいる。

 

今回、なぜ山海経に訪れたのか、については、依頼などの仕事関係ではなく、完全なプライベートだ。

 

とは言え、完全な観光、という訳でもなく、“目的”があって訪れていた。

 

その“目的”については…ある意味では仕事の延長線にあると言っても過言ではないが、少なくとも、シャーレが関係している訳ではない。

その為、服装もいつものシャーレの制服ではなく、私服となっている。

 

そんな複雑な事情を抱えて、私は今、山海経の自治区にいるのだが──。

 

「そこのお姉さん!この辺りじゃ見ない顔だね!どうだい?ウチで自慢の料理、食べてかない?」

 

「おっと!そっちよりもウチのが良いよ!一度食べたらヤミツキだよ!」

 

「ちょっと待った!ウチの料理だって負けてないんだから!腹も膨れて大満足になること間違い無し!だよ!」

 

少し大通りを歩いていただけで、通りに軒を連ねる料理屋の店員からのアピールが後を経たない。

 

引っ張りだこ…というのはちょっと違うか。

 

なんにしても、料理屋からの食欲を唆る香りに加えて、そんな風に声をかけられては、出発前に膨らませて来た腹も空きを覚えてしまうというものだ。

 

引く手数多…も少し違うか。

 

こうなって来ると、次は何処の店を選ぶか、という難題が突き付けられる。

 

大通りに店を構えるだけあって、どの店のどの料理も美味しそうだ。

 

そうして誘惑に揺られながら彷徨っていると──。

 

「うわぁ…どれも美味しそー…」

 

見覚えのある赤髪ツインテールが目に入った。

 

私の気配に気付いたのか、それとも偶々だったのか。

 

そのツインテールの生徒と目が合った。

 

「ゲッ!?レイヴン!?なんでここに!?」

 

その生徒は、美食研究会所属、赤司ジュンコだった。

 

 

 

 

 

その後、私はジュンコに腕を掴まれ、その辺の適当*1な店に連れ込まれた。

 

カウンター席とテーブル席がある店で、私たちは共に並んでカウンター席に座った。

 

いかにも老舗の料理屋といった雰囲気の店内は、食欲を唆る香りが溢れんばかりに充満していた。

 

私とジュンコはそれぞれ、メニューを眺めながら、互いに山海経に至る境遇について訊ねる。

 

「…それで?なんでアンタがここに居るのよ?因みに私はまだ何もやってないわよ?」

 

メニューをチラ見しながら、ジュンコは抑え気味の声量で私を詰める。

 

とは言え、店内は厨房から聞こえる料理中の音や他の客の会話の喧騒もあって、そこまで抑えずとも聞き取るのは難しいだろう。

 

ならば、なぜジュンコは声を抑え気味なのか。

 

そう言えば、ジュンコは先程の邂逅の時点から今に至るまで、やたらと周囲を気にしている上、服装も帽子とサングラスで変装(?)している様子。

 

とはいっても、彼女のチャームポイントである赤いツインテールで私からしてみればバレバレではあるのだが…。

 

何か事情があるのだろうか。

 

「…野暮用だよ。プライベートの。別に美食研を追って来たとか、そういうのじゃない。だから、今の私は風紀委員会代行レイヴンじゃない」

 

注文内容が決まり、私はメニューを指定の場所に戻しながら自身の目的を告げる。

 

ジュンコは周囲への警戒もそうだが、私に対しても警戒している。

 

それは間違いなく、散々、ゲヘナ自治区において、私が風紀委員会代行として他の美食研メンバー諸共、彼女を追いかけ回していたことが起因だろう。

 

だが、今の私は風紀委員会代行でもなければ、そもそもシャーレのレイヴンですらない。

 

「あっ、そうなんだ。なら良かった〜。あ、店員さん呼ぶわね」

 

誤解が解けたようで、ジュンコは心底からの笑顔を見せた。

 

と、そこでメニューが決まったらしいジュンコが店員に声をかける。

互いの身の上話は一時中断し、私たちはそれぞれ気になった料理を注文した。

 

店員が厨房に引っ込んだのを確認し、私は改めてジュンコに訊ねる。

 

「それで?ジュンコはなんで山海経に?」

 

ジュンコを疑っている訳では無いが、彼女が所属する美食研究会はゲヘナでも温泉開発部と並んで二大巨頭と言えるようなテロリスト集団だ。

確認だけでもしておくべきだろう。

 

「私もプライベート!休みの日はこうして美味しいもの巡りしてるの!」

 

なるほど、と得心がいった。

 

ジュンコが山海経にいる理由も、他の美食研メンバーの姿が見えない理由も。

 

そもそも、ジュンコは美食研の中でも比較的マトモな方だ。

暴走するメンバーにツッコミながらも止めはしないが、自分から暴れ出すようなことはあんまりない。

 

全く無い訳ではないが…。

 

一度だけ、空腹が限界を超えたジュンコが暴れ回っていたところに止めに入ったことがあったが、その時はまるで不死身になったかのような暴れっぷりだった。

 

中々に厄介…ともすれば、他の美食研メンバーよりも手が付けられないとも思える状態だった。

 

此処ではそんなことが起こらないことを願うばかりだ。

 

「そう。それなら、私から言うことは何も無い。思う存分楽しんでくれ」

 

「言われなくてもそうするわよ!まあ、私はアカリみたいに大食いじゃないけど!」

 

それから他愛の無い話を挟み、頼んだ料理が運ばれて来た。

 

思ったよりも多かった料理に私とジュンコは舌鼓を打ち、ある程度落ち着いたところで、ジュンコがふと神妙な様子で声をかけて来た。

 

「…ねぇ、イヴ。気付いてる?」

 

レンゲの手を止め、皿を見つめたまま、ジュンコは告げる。

 

「…何に?」

 

私は口のものを飲み込んだ後、その真意を問う。

 

「山海経の生徒の視線、っていうか…雰囲気っていうか…」

 

ジュンコの言葉に、私もまた食事の手を止め、誤魔化すように飲み物を飲む。

 

私には、ジュンコの発した言葉に、身に覚えがあった。

 

ジュンコが言っている“山海経の生徒”とは、こうして私たちに料理を提供してくれている生徒たちではない。

同じ組織──部活に所属する生徒なのだろう。

明るく声をかけてくれる彼女らは皆、朱い衣装に身を包んでいる。

確か、《玄武商会》と言ったか。

 

彼女達は、私たちを…少なくとも“表面上は”、歓迎してくれている。

 

真意が分からない為、“表面上”とは言ったが、本心から歓迎してくれている可能性も勿論ある。

 

ジュンコが言っている生徒は、そんな料理を振る舞ったり、店に呼び込もうとしている《玄武商会》の生徒たちではなく、店の外にいた時に、遠巻きから眺めていた生徒たちのことだろう。

 

朱い衣装ではなく、恐らく一般の制服を身に付けていると思われる、一般の生徒たち。

 

そんな彼女たちからの視線、雰囲気は、良くて好奇心や物珍しさ。

悪いと、排他的な…拒絶的な意識が感じられた。

 

それは、私やジュンコ個人と言うよりは、部外者に向けられたもの、だろうか?

 

その良し悪しについて、私には語れるようなことは何もないが、キヴォトスに於いては、かなり珍しい傾向にあるという印象を抱いた。

 

これまで訪れた学園はいずれも、物珍しい好奇心を私に向けることはあっても、ここまで閉鎖的な疎外意識を向けることは無かったように思える。

 

強いて言えば、トリニティでそれに近しい視線を感じたことはあったか。

 

それでも、それはごく一部であり、学園全体から見れば少数だ。

 

ミレニアムは正しく好奇心そのものであり、ゲヘナはそもそもそれどころでは無い。

百鬼夜行はむしろ歓迎ムードであり、アビドスは言わずもがな、だ。

 

私個人としては、攻撃して来ない分、幾分かはマシに思えるが…。

 

ジュンコはあまり良い印象を抱いた様子ではないようだ。

 

「私もそこそこで切り上げるけど、アンタもあんまり深入りしないようにね。ま、レイヴンなら心配いらないかもだけど」

 

それだけ言うと、ジュンコは再び目の前の料理に向かい始めた。

 

「…うん。忠告、肝に銘じておくよ」

 

 

 

 

 

その後、デザートまで堪能した私たちは、店長と思われる頭頂の獣耳の大きな生徒に見送られ、その店を後にした。

 

「それじゃあ、私の目的地はこっちだから」

 

私たちは店から少し歩き、そこで解散の流れとなる。

 

「あ、うん、分かった。何の目的でここに来たのか知らないけど、気を付けてねー」

 

私の目的地は、山海経の自治区の中でも奥の方だ。

グルメ巡りのジュンコは浅いところを彷徨くことになる。

 

「そっちこそ。こんなところに来てまで騒ぎを起こさないでくれよ?」

 

「分かってるわよ!ていうか、私だって起こしたくなんてないわよ!それと!今日のことは他の連中には言わないでよね!私一人美味しいものを食べてたって知ったら、アイツら絶対うるさいから!」

 

「分かった分かった」

 

最後に釘を刺されつつ、私はジュンコと別れ、目的地へと向かう。

 

相変わらず、通りには料理屋が連なり、食欲を唆る香りと売り子である生徒の喧伝が四方八方から浴びせかけられる。

直前に腹を膨らませたのもあって、その効果は最初に比べてだいぶ大人しくなっている。

それでも、魅力的な料理の数々は、満腹であることを忘れさせるような魔性の魅力があった。

山海経、恐るべし、だ。

 

売り子の声をどうにかこうにか躱しつつ、通りを進んでいる中。

 

「お姉さん、こっちこっち」

 

ふと、横から声をかけられる。

 

そこには、一人の山海経の生徒が裏路地から手招きしていた。

《玄武商会》の生徒ではない、一般生徒の姿の人物だった。

 

先のジュンコとの会話もあって躊躇いがちになるが、逡巡の後にその生徒の元へと向かう。

 

私が向かうと、生徒は背を向けて奥へと進み、更に私を路地裏へと誘う。

 

ある程度進んだところで、生徒は足を止める。

 

「ここまで来れば、もう大丈夫でしょう」

 

路地裏は、通りの喧騒から遠ざかり、すっかり静けさに包まれていた。

 

「すみません、彼女たち《玄武商会》の方々も悪気は無いんです。ただ、お姉さんのような観光客の方を手厚く歓迎したい一心でして…」

 

長い前髪で目元は隠れているが、私を路地裏に案内した生徒は申し訳なさそうに口元にぎこちない笑みを浮かべている。

 

「ええ、大丈夫です。私もそれは分かっていますよ」

 

《玄武商会》の生徒のことについては、さして気にしていない。

あのまま引っ張りだこで遅々として進行せず、目的に支障があったかもしれないが、それはさておき。

 

私の興味は、目の前の生徒に向いていた。

 

私やジュンコといった部外者に対して、排外的だった一般生徒たち。

当然、全ての生徒がそうという訳ではないだろう。

中には単なる好奇心で眺めていた者もいると思われる。

 

この生徒もまた、そうした好奇心に駆られた生徒の一人であり、思わず私に声をかけて来たのか…。

 

それにしてはだいぶ落ち着いているようにも見えるが…。

 

「ひとまず、ありがとうございます。どなたか存じませんが、お蔭で助かりました」

 

取り敢えず、今のところはお礼だけでも言っておくべきだろう。

 

このまま見逃してもらえればそれまでだし、そうでなければ──相手の意向次第だ。

 

「お役に立てたのであれば良かったです。観光…という訳ではないのでしょう?山海経の何処かに、用があるのでは?」

 

…私に探りを入れている、というのは考え過ぎだろうか?

そうかもしれないし、そうではないかもしれない。

ただ、こういったことに前例がない訳でもない。

 

ミレニアムで、道に迷っていた私に声をかけて来た明星ヒマリ。

 

彼女のように、一般生徒に扮した生徒が私に接触を図っている可能性も…。

 

その理由については…心当たりがあり過ぎる。

シャーレだとか、レイヴンだとか、色々。

 

とは言え、確信がある訳ではない。

 

今のところは様子見に徹するとしよう。

 

「…ええ、まぁ、はい」

 

「どちらでしょうか?宜しければ案内しますよ?慣れぬ土地です。案内役がいた方が円滑に目的も果たせるかと存じますが…如何でしょう?」

 

相手が何を考えているのか、そこに悪意の有無があるのかは窺い知れないが、敢えて流されてみよう。

何か掴めるかもしれない。

 

「…《錬丹術研究会》の方に、少々…私としては助かりますが…本当に宜しいのですか?」

 

「《錬丹術研究会》ですか。ええ、構いませんよ。それでは、こちらに」

 

私は促されるままに生徒の後について行く。

 

生徒は迷いの無い足取りでドンドンと路地を進んで行く。

その行く末に、本当に私の目的地に辿り着けるのか。

 

「ところで、《錬丹術研究会》にどのような用向きで伺うのか、聞いても宜しいですか?」

 

先を進む生徒は、歩きながら私へと肩越しに振り向き、問いかける。

 

まあ、このくらいであれば答えても問題ないだろう。

 

「…はい、もちろん。《錬丹術研究会》には、“負傷時に使用する薬品”を求めて、ですね」

 

「それは…傷薬、という事でしょうか?」

 

「広義の意味ではそうですが…私が求めているのは、より即効性の高い、瞬間的なものですね」

 

「なるほど…それはまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を想定しているかのようですね。例えば──“戦闘中”、とか」

 

彼女の指摘は、正しくその通りだった。

 

私が山海経──ひいては錬丹術研究会を訪れるのは、戦闘時の即効性の薬品──分かりやすく言えば、回復アイテムのようなものを求めてのことだ。

 

理想としては、AC戦において、ACのAPを回復させる《リペアキット》のようなものだ。

 

以前までは、その必要性を感じてはいなかった。

 

それを感じたのは、トリニティでのエデン条約にまつわる騒動の最中──これまでに無い強敵として立ちはだかった《ヒエロニムス戦》での事だ。

 

あの戦いの中で、私は先生が《例のカード》を使用して生み出した生徒の幻影に回復を受け、窮地を脱した。

 

ヒエロニムス戦もそうだが、キヴォトスでの戦闘は日々、激化している。

エアとの戦いもそうだが、ヒエロニムスをはじめとした、ゲマトリア…ひいてはキヴォトス由来の脅威との戦いもまた、同じだ。

 

回復手段の有無が、今後の戦闘の結果を左右する可能性は十分に考えられ、そうでなくとも、安定感が段違いだ。

 

回復手段を手に入れることは早々に決まった。

問題は、その経路だった。

 

真っ先に思い浮かんだのは、ゲヘナの《救急医学部》やトリニティの《救護騎士団》。

 

特に後者は、私が回復手段の有用性に気付くキッカケとなった生徒が所属する部活と聞いた。

 

ならば、そこを選ぶべきとの考えも浮かんだが、あえなく却下となった。

 

理由としては、現状、トリニティが非常に慌しく、不安定な時期だから、というものがある。

 

先のエデン条約は、トリニティとゲヘナ、両陣営に深い爪痕を残した。

 

救護騎士団には、長らく不在だった《団長》が帰還したという噂も聞いたが…真偽は不明だ。

少なくとも、私は今のところ出会ってはいない。

 

両陣営共に、いまだに後処理に奔走する毎日だと聞いている。

 

そんな中、私の為に時間を割いてもらうのも気が引ける。

 

そういう事もあって、救急医学部もまた、似たような状況である為、却下となった。

むしろ、主要部員が少ない分、救護騎士団よりも厳しい。

 

だが、その結果、私の伝手では回復手段の入手経路が断然してしまった。

 

やむを得ず、そのことを先生に相談すると、紹介して貰ったのが、この山海経であり、錬丹術研究会だった。

 

ただ、その時の先生はあまり気が進まない様子だったが。

 

腕は確か(?)らしいのだが、何かとトラブルが絶えないらしい。

 

そう言えば、先生が一時期、変に眩しい(物理)状態だったことがあったが…まさかその時の犯人が…?

 

脳裏にミレニアムのエンジニア部が過ぎる。

まさか彼女らの薬品バージョンのような相手なのか…?

 

ここまで来て今更、一抹の不安が胸に去来するが…引くに引けない。

 

振り出しに戻るにしても、やれるだけの事はやってみるべきだろう。

 

「──探りを入れるような言動、申し訳ありません。不快な思いをさせてしまいすみません」

 

私は特に気にしていなかったのだが、生徒は私を気遣ってか、謝罪を述べた。

 

「…いえ、構いません。自らの自治区に、見慣れない部外者が居れば、探って当然のことです。私のような黒ずくめの不審者であれば、尚更」

 

私なりにフォローしてみたつもりだったのだが…彼女の気が晴れた様子はない。

皮肉に捉えられてしまっただろうか?

そんな気は微塵も無いのだが…。

 

「…現状、お姉さんにとって、山海経はどのように映りますか?」

 

路地を抜け、それなりに開けた通りに出たところで、生徒はそんな質問を投げかけて来た。

 

「…良いところだと思います。料理も美味しく、景色も自然が溢れ、美しい」

 

通りを進んでいると、幼い子供たちを引率する生徒とすれ違った。

 

 

 

 

 

「はーい、皆さーん、ちゃんと手を繋いでついて来てくださいね〜」

 

「はーい!」

 

「だってさ、ココナちゃん」

 

「ココナちゃんじゃなくてココナ教官!ちゃんと前見て歩く!危ないよ!」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

引率する生徒を含め、子供たちは皆、笑顔だった。

それはきっと、この場所が良いところである何よりの証拠だろう。

 

子供たちを見送り、私の案内をしてくれている生徒に目を向ける。

 

「──それに、貴女のような優しい方も居ますからね」

 

「──ふ……ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです」

 

 

 

 

 

その後、間もなく私は無事に目的地の錬丹術研究会に辿り着いた。

それまでの道中、私と先導する生徒の間に会話は無かった。

 

だが、それでも不思議と気まずさはなかった。

私は静かに山海経の自然と調和した景色を楽しんでいた。

 

「──此処が、錬丹術研究会になります」

 

私たちの目の前には、正しくその名を冠した看板が掲げられた建物が建っていた。

 

「案内、ありがとうございます。お礼は──」

 

「気にせずとも構いません。単なる暇潰しですので」

 

「…そうですか…では、良ければ恩人の名前だけでもお聞かせ願えませんか?」

 

「構いませんよ。私の名は──“サキ”です」

 

「サキさん、ですね。改めて、ありがとうございました」

 

「はい。それでは、また…()()()()()お逢いしましょう──“鴉”のお姉さん」

 

口元に微笑みを湛え、生徒──サキは軽く会釈した後、背を向けて立ち去っていった。

 

サキ──彼女が単なる一般生徒でないことは明らかだ。

一体、何者だったのか──。

 

彼女は別れ際、私のことを“鴉”と言った。

 

それはつまり、私のことをレイヴンと知っての発言であることに違いはない。

今日の私は私服姿であり、レイヴンとしての証明になるものは一切、身に付けていない。

容姿が割れているのかもしれないが、たとえそうだとしても、彼女が私がレイヴンだと知って接触して来たことに違いはないはずだ。

 

しかし、私は彼女に悪印象は抱かなかった。

 

単なる勘のようなものに過ぎないが、不知火カヤという前例もある。

この勘は信用しても良いだろう。

 

それで言うと、彼女──サキは、私を見極める為に接触して来たのかもしれない。

 

ここ《山海経》には、《玄龍門》という、他の学園で言うところの生徒会の役割を持つ組織があると聞く。

 

そこに所属する諜報員のような人物だったのかもしれない。

 

「…考えても仕方ない、か…」

 

私は単なる憶測に過ぎない思考を振り払い、錬丹術研究会に向き直ると、その門戸を叩いた。

 

 

*1
適切に妥当の意




サキ……一体何者なんだ……。

冗談はさておき、公式で変装のレパートリーの中にキキちゃんに続いてサキちゃんが出たら私は爆散します。

せめて、自分が描いたような一般生徒への変装の際の仮名であることを願います。



あ、続きます。
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