ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

エデン条約を巡る騒動の謎
ミカと聴聞会
先生の元に現れたサオリ




EP-2 折れてしまった羽

不吉な赤紫に染まった空間の中。

 

「……それでは、次の議題を」

 

「そういうこった!」

 

「異論はない……が、その前に確認しておきたいことがある」

 

環状のテーブルを前に、ゲマトリアが一堂に会していた。

 

「マエストロ、何か気になることが?」

 

「…ルナシーの姿が先程から見えないが…彼女は何処に?」

 

マエストロの言うように、その場にはルナシーの姿はなく、また単に人型を保っていないという訳でもなかった。

本人そのものがこの場にはいなかった。

 

「…クックック…彼女でしたら、来たるべき時に備えて、調()()()とのことで、今回は欠席する、と」

 

黒服は事前に欠席する旨の連絡を受けていた。

 

「…ふむ、そうだったか」

 

「…ふん、身勝手なものです。新入りの分際で」

 

しかし、それに不快を示し、鼻を鳴らすベアトリーチェ。

()()()()()のこともあって、ルナシーのことを快く思っていなかった。

 

「…身勝手、か。それは貴下が言えたことではないと思うがな──ベアトリーチェ」

 

「…はい?」

 

マエストロの指摘を受け、ベアトリーチェは更に不快感を滲ませる。

 

「…要請によって、私は自分の力を貴下に貸したのは覚えているな?

戒律を守護せし者たちを複製(ミメシス)して、そちらの計画に付き合わせた件だ」

 

「ええ、とても感謝していますよ、マエストロ。私は領地でさらに大きな力を得ることができました」

 

「私は貴下がそれを利用する事を許可した覚えはない。そも、私の作品をそのように使うことは許可していないはずだ」

 

「あの現象はあなたの所有物ではないはずですよ、マエストロ。それに、私は知っていますよ。あなたが裏で、コソコソとあの娘と妙な研究をし、その産物をレイヴンに兵力として当てがうことを許した事実を。それと何が違うというのでしょう?」

 

「…不躾だな。私は所有権を主張している訳ではない。ルナシーの件にしても、彼女は私に対して許可を得た上であって、貴下のように無断で身勝手な判断によるものではない。それは──」

 

「不躾?身勝手?よくもまぁ…私にそんな口を」

 

「まぁまぁ…お二人とも落ち着いてください。事を荒立てないでくださいよ」

 

「そういうこった!」

 

「…失礼しました。マエストロはきっと、普遍的な現象を通じて独創的な解釈をすることは自分なりの表現方法だと考えているのでしょう」

 

「……」

 

「しかし、それはマダムの立場では別段考慮する必要がない部分かもしれません。私たちは皆、この世界を解釈する方法が違いますから」

 

「…つまり、私がマエストロの武器を勝手に奪ったことが気に食わない、ということですよね?」

 

「…貴下が行うのは芸術ではない。そこには美学も何もなく、ただ兵器を生み出すだけの行為だ」

 

「ええ、そうです。何か問題でも?それはあの娘も同じでしょう?レイヴンを殺すという目的の為だけに、動いているのですから。

それに、あなただけではありません。私は黒服が提供した技術力も、ゴルコンダが解釈したテクストも、そのように使っています」

 

「……」

 

「……」

 

「私はあなた達の芸術に興味はありません。ゲマトリアの一員になる時から主張してきた話だと思いますが」

 

「クックック…その通り、それはそれで良いのではと、私はそう思っています。

仲間同士で争う必要はないかと。

マダムはキヴォトスに自分だけの領地を確保しています。私たちの計画に最も必要な存在ですから」

 

「アリウス自治区ですね。あそこの全ての生徒と学園を自分の支配下に置くなんて、確かにそれは異形です。

黒服のアビドスは残念でしたが…おっと、失礼。皮肉を言っているつもりではありません」

 

「ククッ…お気になさらず。確かに惜しかったですが…あの先生、そしてレイヴンという存在は、私の計算に入っていなかったので」

 

「…《シャーレ》。あの者たちですね。私たちの敵対者と、例外(イレギュラー)

 

「そういうこった!」

 

「いいえ。ルナシー嬢は兎も角、我々はあの者たちとは対敵してはいけません。レイヴンを狙っているルナシー嬢も、先生とは対敵するつもりはないようですし……彼はむしろ、仲間に引き入れた方が良いでしょう」

 

「私としても大変気に入っている。あの者は、私たちの理解者になってくれるかもしれない。レイヴン──《黒と白の狭間で燻る者》…かの者については、ルナシーが狙っていることもあって、我々が関与すべきではないだろう」

 

「レイヴンに関しては私も同意見です。あの者は“例外”。未知の爆弾のようなものです。下手に手を出して、何かがあってからでは遅い。専門家に任せるべきでしょう。先生については…私はまだ判断を保留していますが…もしベアトリーチェのように私たちの一員になってくれるなら……」

 

「愚かで怠惰な思考ですね。レイヴンはあの娘に任せておくというのは良いとしても、“先生”は必ず排除しなければなりません」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「説明が必要なようですね。ええ、せっかくですので一つずつ順を追っていきましょうか。

聖園ミカがアリウスを訪れて以降、彼女に多くのことを手伝って頂きました」

 

「そう…いわば聖園ミカは私にインスピレーションを与えてくれる…ミューズとでも言いましょうか。

エデン条約を利用して太古の威厳を復活させるというアイデアも、予知夢の大天使を真っ先に処分すべきだという判断も、彼女のおかげで実現できたのです」

 

「預言者だなんて厄介な存在はさっさと排除するに限りますからね。珍しい技術を提供してくれたデカルコマニー…いえ、ゴルコンダに感謝します」

 

「そういうこった!」

 

「私はテクストを提供しただけで、形にしたのはマダムですよ。

それに、むしろその技術がマダムの足を引っ張っていませんでしたか?」

 

「ええ…ですが、生贄の体にあらかじめ植えておいた防御システムのおかげで助かりました。感謝します、黒服」

 

「…クックック。無名の司祭たちの技術が役に立ったようで何よりです」

 

「そして、聖園ミカが最後にくれたインスピレーションが…まさにシャーレの先生についてのことでした。

彼女が先生をトリニティに招待したので、私はその存在について認識し、考察できたのです」

 

「私がアリウス自治区をターゲットにしたのは、純粋にそこが秘匿された場所であるからで、それ以上の意味はありませんでした。

トリニティやゲヘナ…それらに向けられた怒りと憎悪など…私にとってはどうでもいいこと」

 

「“憎悪”は子ども達を統制する為の手段に過ぎず、“エデン条約”は守護者の力を得るための方法に過ぎず、“スクワッド”は使い捨ての駒でしかない。

聖園ミカが先生をトリニティに連れて来なかったら、私はあの者のことなど歯牙にもかけなかったでしょう。ですが…あの活躍をこの目で見てしまった……」

 

「アレが介入すると、私が持っている全ての意味が変わってしまいます。あの者は危険です」

 

「……」

 

「そこで気付いたのです。私の計画を果たす為には、真っ先に“先生”を消さなければならないということに」

 

「まさに敵対者(アンタゴニスト)ですね……」

 

「ふむ……」

 

「私の決定が気に入らないようですが──どうせ私たちは各々の目的を追求するだけの存在。あなた方に私を妨害する権利はないでしょう」

 

「…えぇ、そのような権利はありません。思うままになさってください、ベアトリーチェ」

 

「……」

 

「……」

 

「しかし、あなたの計画というものが何なのか、私たちに具体的に教えてくれたことはありませんでした。マダム、あなたはアリウス自治区で何をしているのですか?」

 

「祭壇を用意しています」

 

「祭壇…?」

 

「あなたがアビドスでしようとしていたことと本質的には変わりません。ただ、私は契約をするつもりはありませんが」

 

「ほう、契約の代わりに儀式ですか……本来その二つは変わらないと考えることもできますが……。

それを実行する上で、先生の存在が邪魔になると?」

 

「ええ、そうです……既に手は打ってあります。

“スクワッド”が先生を処理してくれることでしょう」

 

「……」

 

「…なるほど、“スクワッド”ですか」

 

「廃棄にしようとしていた消耗品ですが、先生を殺せば許す機会を与えると伝えました。彼女たちによっては断ることができない提案ですから」

 

「──…どうやら、ネズミが入り込んでいるようですね」

 

「…!!」

 

「ここに?ここには我々以外誰も……」

 

「少々話し過ぎたようです。私はこれで帰るとします──ああ、そうです。黒服、あなたにお願いがあります」

 

「はい、何でしょう?」

 

「あの娘──ルナシーに、“例の部隊”で“カラス”の足止めをするように伝えてもらえますか?」

 

「…わかりました。伝えておきましょう」

 

「……」

 

「……」

 

ベアトリーチェが一人立ち去り、後には黒服たち三人がその空間に残った。

 

****************************

 

「…はぁ、はぁ……はぁ、はぁ、はぁ…はぁ……」

 

夢から目覚めたセイアは、苦しそうに呼吸を繰り返す。

 

その顔は青ざめ、冷や汗が伝っていた。

 

(先程の光景は…一体……)

 

セイアは、先生との会話の後、ミカが部屋に来る間に少しだけ休むつもりで横になった。

だが、セイアは眠ってしまったようで、気が付くと夢の中にいた。

 

その夢の中で、セイアは予想だにしない光景を目の当たりにする。

 

それは、ゲマトリアが一堂に会し、会議をしている様子だった。

 

セイアはその一部始終を見聞きし、ゲマトリアの会議が終わると共に、現実に引き戻され、目覚めた。

 

目覚める直前、ゲマトリアの一人が自分に気付き、目が合ったような気さえして、恐怖が湧き上がる。

 

「う、うぅっ……!」

 

恐怖と共に、気分が悪くなり、吐き気まで湧き上がる。

 

「ゲホ、ゲホゲホ…!」

 

激しく咳き込み、その苦しみから目尻に涙が浮かぶ。

 

それでも、セイアの思考は、夢の中で見聞きした内容に囚われていた。

 

(アリウス自治区は、既にゲマトリアに支配されていた…!?)

 

アリウスの背後にゲマトリアがいるであろうことは予測できていた。

 

だが、まさか支配にまで及んでいたとは、己の見通しの甘さ、如何に希望的観測だったかを思い知る。

 

「ゲホ、ゲホッ…」

 

苦しい咳は止まらず、体の感覚が鈍い。

 

(…体が、言うことを聞かない。意識が…でも……)

 

薄れ、暗闇に落ちそうになる意識を歯を噛み締め、拳を強く握り、どうにか堪える。

 

(アリウスの生徒たちの“教育”も、自治区の位置を今まで見つけられなかったことも…あの正体不明の技術も…ヘイローを壊す爆弾も…すべて……ゲマトリアと関係があるとしたら…すべて辻褄が合う……)

 

元は、単なる推測に過ぎなかった。

だが、こうして夢を通して事実を目の当たりにして、それが現実であるということが最悪の形で実証されてしまった。

 

(“スクワッド”が先生を追っているのであれば……。

先生が危険だ……早く知らせなければ……彼女たちは既に一度、先生を攻撃している…恐らく、このキヴォトスで最も危険な……)

 

一度殺そうとした以上、その引き金は最初の時よりも容易く弾かれるだろう。

前回は奇跡的に助かったが、二度目も同じように助かるという確証は無い。

 

(それに、彼女が言っていた“カラス”……あれがイヴの事だとしたら、イヴにも何かが……。

イヴを足止めして、何かを…何をしようと……)

 

イヴもまた、これまで何度も足止めされ、その中で死線を潜り抜けて来た。

 

イヴの高い戦闘力はセイアも周知しているが、だとしても、イヴが無敵という訳では決してない。

彼女もまた、有限な命ある者であり、その命を狙われているのだから。

 

──かつてのセイアのように。

 

(…ヘイローを壊す爆弾。

私の命が狙われて…エデン条約が決裂して…みんなが怪我をして…先生が危険にさらされたのも…すべて……)

 

朧げな意識の中、これまでの情報が、()()()()へと収束していく。

今のセイアに、その思考を止められる余裕はなかった。

 

(そのすべての…始点があるとしたら…それは……)

 

それとほぼ同時に、セイアの部屋の扉が開く音が耳に届き、思考の収束が一時中断される。

 

コツコツと軽い足音と共に、セイアの部屋の中へと足を踏み入れた人物は、恐る恐るといった様子で声をかけるのだった。

 

「えっと…その、こんにちは。セイアちゃん……」

 

悪夢的恐怖の光景を見る前に、セイア自ら呼び出したミカが、そこには立っていた。

 

「…ミカ」

 

セイアがその名を呼ぶと、ミカは少しだけ緊張しつつ、しかし嬉しそうに表情を緩ませた。

 

****************************

 

コツコツ……。

コツコツ…と、靴が床を叩く音が通路内に響き渡る。

 

窓も無く、日の光すらも届かぬ、閉塞的で無機質な通路の先に辿り着くと、鉄扉が出迎える。

 

その鉄扉を超えた先は──広いガレージか格納庫のような剥き出しのコンクリートの広場になっており、その奥で、“その人物”は作業をしていた。

 

その人物は、部屋に入った人物の気配に気付き、浅く肩越しに振り向く。

 

『黒服ですか…私に何か用ですか?』

 

部屋の中の人物はエア──もといルナシーであり、訪ねた人物は、ゲマトリアの一員、黒服だった。

 

エアは人型を形成しており、周囲にコーラルを漂わせていた。

 

エアが軽く手を振れば、空中に舞っていたコーラルは収束し、エアの手の中に集まる。

 

「クックック…お疲れ様です、ルナシー。マダムから言伝を預かって来ました。レイヴンの足止めを頼みたい、と」

 

『そうでしたか。分かりました。承ります』

 

「……」

 

『…?まだ何か?』

 

「いえ、理由はお聞きにならないのかと……」

 

『彼女が何を企み、何を為そうとも私には関係ありませんから。この程度の頼みくらいであれば協力しますが』

 

「ククッ…あのレイヴンの足止めを()()()()で済ませるのは貴女くらいでしょうね…その結果、ベアトリーチェがレイヴンに手を出す可能性があったとしても、ですか?」

 

『彼女程度がレイヴンを害せるのであれば、もうとっくにレイヴンは死んでます。まあ、レイヴンに手を出して不快にさせることくらいは出来るでしょうが…それが関の山でしょうね』

 

「クックック…末恐ろしいものですね…そんなレイヴンを相手取り、殺そうとすらしている貴女も。私では、とても可能には思えませんが……」

 

『私も現段階では彼女を殺せるとは思っていません。ですが、計画は着実に進んでいます。()()もまた、その為の策の一つです』

 

「戦死者の意識の模倣した部隊…でしたか。映像越しにしか見ていませんが…かなり個々の主張が激しい彼らを、よく制御していると感心してしまいます」

 

『私は制御などしていませんよ』

 

「…制御していない、とは?」

 

『簡単なことです。彼らの意識は、戦闘時以外は“休眠状態”にしてあります。彼らが私の支配下である変異コーラル製であることが功を奏した結果ですね』

 

「なるほど。そうして彼らを出撃させる時に休眠を解除するという訳ですね」

 

『そうでもしなければ、各々が好き勝手に、行きたいところに行って、やりたい放題になりますから。まあ、それ以外にも理由があるのですが』

 

「…それを伺っても?」

 

『これこそ、先程より簡単なことです。“狂気”です』

 

「…なるほど。変異コーラルの精神汚染、ですか」

 

『はい。彼らの意識は変異コーラルで増幅されたもの。しかし、元は単なる人の自意識に過ぎません。それが変異コーラルに曝され続ければ、その分だけ、狂気によって精神が侵蝕されます。彼らは安定していたように見えたかもしれませんが、非常に危うい均衡の下に成り立っているのです』

 

「それを休眠状態で防いでいる、と」

 

『そういうことになります。均衡が崩れれば、精神が完全に狂気に冒され、人格の崩壊をもたらすでしょう…』

 

「ルナシーを疑う訳ではありませんが…それだけ危うい不安定なものが本当にあのレイヴンに対する戦力となるのですか?」

 

『問題ありません。変異コーラルが齎す狂気も、戦闘時の興奮である程度打ち消せます。何より──』

 

『彼らはレイヴンに対して、異常なまでの執着心があります。それは殺意であったり、好意であったり、戦意であったりと様々ですが…その執着…妄執が、コーラルの狂気を上回ります。そうなるように、私が調整してあります』

 

「…クックック、対策は万全でしたか。杞憂でした…どうかお許しを」

 

『構いません。──彼らの調整もほぼ済みました。今後は、積極的に投入していっても良いかもしれませんね』

 

「非常に興味深いですね。面白いお話でした。ありがとうございます、ルナシー」

 

『単なる身の上話のようなものでしたが…まあ、楽しんでいただけたのなら幸いです。こちらこそ、わざわざ言伝を届けて下さりありがとうございます』

 

「クックック…いえいえ、この程度、構いませんよ。それでは、私はこの辺で……」

 

黒服はルナシーに丁寧に一礼し、その部屋から退出する。

 

『…さて、レイヴンは今、どこにいるのでしょう?』

 

エアは、再びコーラルを周囲に展開し、ベアトリーチェからの頼み事を果たす為に、レイヴンの捕捉に動き出すのだった。

 

****************************

 

トリニティの一角。

とある一室の前で、多くの生徒が集まり、混迷を極めていた。

 

「せ、セイア様のご容態は…!?」

 

「ダメです、痙攣と血が止まらなくて……」

 

「至急、救護騎士団に連絡を…!シスターフッドでもどこでも構わないから、早く対処法の確認を…!」

 

「ナギサ様は?」

 

「今、病院に移動中です!他の方々にも連絡を取っていますが……」

 

「シャーレ…先生は!?」

 

「さっきから連絡が取れません!…ま、まさか先生にも何か起きたのでは…!?」

 

「不吉なことを言わないで、連絡を続けて!レイヴンは…!?」

 

「レイヴン…本当に、彼女は頼るべき相手なのでしょうか…?」

 

「こんな時に何を言って…!?」

 

「彼女に関して、あまり良い噂を耳にしません…シスターフッドに秘密裏に協力していたり、各地の遺跡に出入りしているという話もそうですが…度々、恐ろしい姿を目にしたという情報もあります…彼女は本当に、信用に足る人物なのでしょうか!?」

 

「今はそんなことを言っている場合では…!」

 

「今だからこそです!!」

 

事の発端は、ミカがセイアの部屋を訪れた数十分前に遡る。

 

セイアの呼び出しに応じ、部屋を訪ねたミカだったが、しかし、とうのセイアは悪夢の影響で錯乱し、ミカを問い詰める。

 

セイアの口からアリウスやスクワッドについて問い詰められ、仲直りが出来ると思っていたミカは面食らい、戸惑った。

 

そんな中、セイアの咳が激しくなり、容態が悪化し始める。

 

ミカはいてもたってもいられず、外の見張りの生徒に助けを求め、その果てに、今に至る。

 

「犯人は!聖園ミカですか!?あの魔女が!」

 

「待ってください!ミカ様は何も…!」

 

「彼女がセイア様の部屋を訪ねたからこんなことが起こったのではありませんか?あの女が何かをしたに決まっています!」

 

「やめなさい!今ここで争ったって…!?」

 

「人殺し!この魔女め!」

 

「出てきなさい!この極悪人!」

 

ミカは自粛して自身の部屋──牢獄に戻ったが、部屋が面した通路の奥から、ミカに対しての罵詈雑言が鮮明に届く。

 

 

 

「全部あなたのせいよ!!」

 

 

 

──そう、ぜんぶ私のせい。

 

──私がバカだったから、セイアちゃんも、ナギちゃんも傷付いた。

 

──許されるはずがない。

 

──私が、許されて良いはずがない。

 

──それなのに…“もしかしたら”、なんて甘い考えで期待して…。

 

──きっと、明日にはみんなでどうにか出来るなんて、おとぎ話みたいなご都合展開を期待して。

 

──そんなものを信じようとしたから……。

 

 

 

「魔女め!!」

 

 

 

──私がバカだから、アリウスや、サオリに利用されて、みんなを傷付けた。

 

──…それなのに、サオリだけが安穏と過ごせるのはおかしいよね?

 

──私を利用した、すべての元凶なのに…。

 

──あの女が、全部…ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーんぶ!計画したことなんだから。

 

 

 

「やめろ!誰か、早く正義実現委員会を連れて来てくれ!」

 

 

 

──だから、私と同じように、あの女も奪われなきゃ不公平でしょ。

 

──大切な人も、大切なものも、大切な居場所も、全部。

 

 

 

「離せ!出てこい聖園ミカ!」

 

「ここで騒ぎ立てるな!今状況を……」

 

僅かな振動。

 

その後──壁が吹き飛んだ。

 

「ぐあっ!?」

 

吹き飛んだ壁の破片が、騒いでいた生徒に直撃する。

 

「な、なんだ!?壁が…壊れた!?」

 

土煙が舞う中、その奥にシルエットが浮かび上がる。

 

その人影は、こちらへと歩いて来ており、やがて、姿を露わにする。

 

「ごめんね〜★」

 

満面の笑顔のミカが、そこには立っていた。

 

「えーっと…私の銃、どこだっけ……」

 

その場の生徒が呆然と硬直する中、ミカは無邪気かつマイペースに見回す。

 

「あっちだっけ?さてさて、行くとしよっか──あ、そうだ。せっかくだし、“あの子”にも連絡してみよっかな★

うん…そうだよね。どうせなら、徹底的に、ね」

 

先程とは打って変わって、獰猛な微笑を浮かべたミカは、目的の場所へと向かって歩き出した。

 

ミカが遠く離れた後、残っていた生徒たちは、ようやく動けるようになった。

 

「か、壁を…素手で……?」

 

「…み、聖園ミカ…聖園ミカが……」

 

「聖園ミカが脱獄した!!」

 

****************************

 

「ミカ…私は君に、また同じことを…」

 

セイアは、暗黒の空間の中、自らの行いを悔やんでいた。

 

自ら仲直りをしようと呼び出しておきながら、悪夢に囚われ、詰め寄り、問い質してしまったこと。

 

「すまない、ミカ…君のせいではない。これは…私が招いた失敗」

 

それだというのに、錯乱したセイアは、ミカに責任を押し付けてしまった。

 

先生が傷付くのは、ミカが先生を連れて来たから、と心にもないことを言い放ってしまった。

 

それがどれだけミカを追い詰めたのか。

 

そこへ畳み掛けるように、セイアの容態が悪化し、彼女を更に窮地に追いやったことだろう。

 

ミカはきっと、自分を責めてしまうだろう。

 

そんなことは、容易に想像できると言うのに。

 

己の失態を悔やんでも悔やみ切れない。

 

苦しむのは、セイア自身ではなく、ミカだからだ。

 

容態が悪化したセイアは気を失い、気が付けば、見知らぬ場所に立っていた。

 

だが、知らずとも、その場所がどこにあるのかは推察出来た。

 

アリウス自治区──。

 

その解に至ると同時に、セイアは不意に聞こえて来た声に驚き、その動揺した隙を突くように拘束された。

 

声の主は、ゲマトリア──ベアトリーチェと呼ばれていた無数の目を持つ、白いドレスに身を包んだ、赤い肌の背の高い女性だった

 

ベアトリーチェは、その場所が《バシリカ》と呼ばれる《至聖所》であると語る。

 

確かに言われてみれば、そこは廃墟のように荒廃していながら、妖しい紫色のステンドグラスからの光が差し込む、祭壇が置かれた場所だった。

 

拘束され、霞んでいく意識の中、セイアはバシリカの奥のステンドグラスに気が付く。

 

それは、彩豊かな鮮やかさがありながら、不吉で禍々しい気配を漂わせたものだった。

 

そして、その手前には、見覚えのある少女──アリウススクワッドのマスクの少女が気を失って、赤い枝のようなものに磔にされたオブジェがあった。

制服のアウターを脱がされ、インナーだけとなった彼女は、露わとなった白い肌が傷付き、血を流していた。

 

それを目にした瞬間、セイアの脳裏を過ぎるのは、先生に話したキヴォトス滅亡の悪夢の光景。

 

そして、ゲマトリアの会議の中で話していた“儀式”について。

 

この女は、一体どんな災禍を招こうとしているのか、セイアは戦慄した。

 

「…先生、私の声が聞こえるなら…どうか……」

 

「逃げてくれ…出来るだけ遠くに…アリウス自治区から離れてくれ」

 

「そうでなければ…先生は……」

 

「…先生を狙う者に……」

 

「先生…!!」

 

 

 





不穏なゲマトリア
暗躍するエア
暴走ミカ
重体な上にベアおばに捕まったセイア

物語はまだ始まったばかり
まだまだ起承転結の起の部分でしかありません

それでは、次回の更新でお会いしましょう
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