ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

アリウス自治区へと通じるカタコンベに繋がる通路の制限時間に追われる中、スクワッドの前に立ち塞がったミカとレイヴン。
一時、窮地には陥るものの、先生の登場とアリウス部隊の援軍で場が乱れたことで隙をついてどうにか突破、カタコンベへの侵入に成功する。
スクワッドと先生は、はぐれないようにアリウス自治区へと向かう。
ベアトリーチェが企む、アツコを贄とする夜明けの儀式を止める為に。


EP-5 復讐者の夜

アリウス部隊は抵抗するが、それも虚しく、ミカとレイヴンの暴力の前に蹂躙された。

 

武器を取り上げ、レイヴンが地面に押さえ付けた状態のリーダーに、ミカは()()()()

 

「それで、アツコを…“彼女”の命令で…アリウス自治区のバシリカに……わ、私たちが知ってるのはそれだけ…」

 

「ふぅん…仲間を救うため、アリウス自治区に、先生を連れて?そっか…そう。レイヴン、()()()()()()良いよ」

 

レイヴンは押さえ付けているアリウス生徒を放す。

 

それと同時に、背を向けて走り出そうとするアリウス生徒の首元に素早く手刀を打ち付け、気絶させた。

 

逃して他の部隊と合流され、反撃されては面倒だと考えての事だ。

 

気絶した生徒は、他の生徒と共に、一緒にまとめて地面に寝かせる。

 

「わーお、容赦な〜い☆」

 

そんなレイヴンに向かって、ミカはケラケラと愉快そうに笑う。

 

「…下手に加減して殴る回数が多くなった方が可哀想だろう」

 

淡々と告げるレイヴンだったが、それが意味することはつまり、気絶させることは確定事項、という事だった。

 

「…本当に容赦なーい……」

 

それにはミカも、引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。

 

「…容赦ないと言えばさ、レイヴン」

 

引き攣った笑みから穏やかな表情へと戻って、ミカはレイヴンに呼びかける。

 

それに対し、レイヴンも僅かに顔を向け、耳を傾ける。

 

「──レイヴン、スクワッドに()()()とかしてないよね?」

 

ミカは穏やかな微笑みを浮かべたまま、レイヴンを真っ直ぐ見つめる。

レイヴンもまた、そのミカの視線を正面から見つめ返す。

 

暫しの間、重い沈黙が続く。

 

「…手加減、は…していると言えばしているな。より正確には、本気を出せない、が正しいか」

 

レイヴンはミカから視線を外し、上を見上げながら答える。

 

レイヴンの視線の先には、地下道の天井。

錆に覆われた配管があるだけだった。

 

「それはどうして?」

 

ミカの問いに、レイヴンは一拍の間を置いて振り向き、答えた。

 

「…今回の依頼はあんたの復讐がメインだろ。私が出しゃばってやり過ぎたら、あんたの復讐が台無しだ」

 

普段であれば、レイヴンが先陣を切って敵へと突っ込み、殲滅するが、今回は依頼の内容が内容だけに、いつも通りに暴れ回る訳にもいかない、というのがレイヴンの主張だ。

加えて、今回の依頼主のミカは、ミカ自身が強く、力を持っている。

暴れ回るのはミカに任せ、自身は支援や遊撃に徹するというのが、今回のレイヴンのスタンスということだ。

 

「あ、そっかそっか!気にかけてくれてありがと☆

レイヴンにもそういう他人を気遣える心があったんだね!」

 

一言余計だと思わないでもないが、レイヴンはその言葉を押し込み、だが、言われっぱなしも癪なので、意趣返しを込めて、付け加える。

 

「…それと、変に動き回って誤射でもされたら堪ったもんじゃないからな。あんたの銃撃の威力は、前に見て分かってるから尚更」

 

星のように煌めくミカの銃撃。

その美しさの反面、恐ろしい威力を秘めており、容易く建物の壁を吹き飛ばす程のものだ。

そんなものが自分に向くというのは、あまり考えたくはない。

 

「えー、レイヴンに危ない人みたいな扱いをされるのは心外だなぁ〜。そんなことしないって……」

 

ミカがくるりとレイヴンに体を向ける。

 

「──レイヴンが、ちゃーんと私に協力してくれている内は、ね」

 

ミカの表情も、声音も、普段通りと言って差し支えない、穏やかなものだった。

しかし、そこにはどこか、剣呑さが含まれていた。

 

それはまるで、釘を刺すかのように。

 

「……」

 

レイヴンはそれに何かを返す事はなく、再び重い沈黙が空間に流れる。

 

そんな沈黙を破ったのは、ミカだった。

 

「…ねぇ、レイヴン。やっぱり、先生はスクワッドを助ける為に、あっちに…サオリについてるのかな?」

 

ミカは、先程とは打って変わって、どこか自信無さげにレイヴンに呼びかけた。

 

「…その答えは、あんたも分かってるんじゃないのか?」

 

しかし、気弱なミカに、レイヴンは容赦なく、現実を突き付ける。

先生のように、気遣いや優しさなど、微塵もない。

突き放すような回答。

 

「…そうだね。そうだよね…先生なら、きっと、そうするよね」

 

ミカは、ゆっくりとレイヴンに背を向ける。

 

ミカも、最初からレイヴンに期待などしてはいなかったのだろう。

その答えを受け入れ、諦めるように、ぽつりぽつりと溢す。

 

「……」

 

レイヴンは、消沈するミカに言葉をかける事はなく、ただ静かに言葉を聞いていた。

 

「…でも、それでも…。私は、追いかけるよ。追いついて、復讐する」

 

それはまるで、自分に言い聞かせるかのように。

震える膝を叩いて、それでも地面を踏みしめて走るかのように。

 

「私を軽蔑するかな…それとも、ガッカリするかな……先生にだけは、嫌われたくなかったなぁ……」

 

ミカは、その顔に微笑みを浮かべる。

それは、喜びや嬉しさから溢れるものではなく、諦観を孕んだ、悲惨な微笑みだった。

 

「…でも、それでもね──私は自分を止められないの」

 

理解していて尚、結果を予測して尚、ミカを突き動かす衝動は、決して消えない。

 

理性に反逆し、衝動に身を委ねる。

 

「ごめんね、だって……」

 

ミカの脳裏を過ぎるのは、かつての──トリニティとゲヘナに憎悪を滾らせていた頃のサオリの姿。

他のアリウスの姿。

 

「私はアリウスを絶対に許せない──たとえ魔女と呼ばれ続けたとしても、地の果てまで追いかけて、復讐しないとダメなの」

 

衝動に突き動かされていることは百も承知。

 

それでも──否、だからこそ、ミカはこの復讐を…サオリへの報復を完遂しなければならない。

己が心の安寧の為に。

 

その先に、救いとは対極に位置する、破滅があると分かっていても。

 

「…だから──私を止めないでね」

 

それは、先生に向けた言葉だったのか。

或いは──他の誰でもない、誰かに向けた言葉だったのだろうか。

 

「……」

 

レイヴンは、ただ静かに、ミカの姿を見つめていた。

 

「…それじゃあ行こっか、レイヴン!早くしないと入口が閉じちゃう!」

 

勢いよく振り返ったミカは、満面の笑顔をレイヴンに向け、催促する。

 

「…ああ」

 

レイヴンはミカの後を追う。

 

振り返った時のミカの笑顔が、貼り付けただけの、ハリボテだと理解していながらも。

 

****************************

 

一方、先生とアリウススクワッドは、何事もなく、アリウス自治区に辿り着いていた。

 

訓練場の跡地だという、もはや遺跡のような廃墟の中、先を急ぎ、今後の方針を考えようとするが、そんな中で、サオリがついに限界を迎えて、倒れてしまう。

 

負傷している中、ずっと追われながら逃げ続け、雨で体を冷やしてしまったサオリは、熱を出してしまった。

 

そんな状態で無理に進む訳にもいかず、本来の自治区からは離れた位置にいるということもあって、少しの休憩を挟むことになった。

 

サオリには先生が所持していた解熱剤を飲ませて休ませ、ミサキとヒヨリも不寝番をしながら交代で休み、先生も適当なところに座って休む。

 

 

 

先生の意識は、あっという間に眠りに落ちていった。

 

 

 

暗闇の中、先生は聞き覚えのある声を耳にした。

 

 

 

『…先生、私の声が届いているかい…?』

 

『私の声が届いているのなら…どうか…耳を傾けてくれ……』

 

 

 

それは、セイアの声だった。

 

先生の夢の中で、セイアは自身の置かれた状況と見聞きしたものを告げる。

セイアは今、夢でも現実でもない、狭間の世界に幽閉されているのだという。

 

その状態に陥ってしまったのは、セイア自身が、過ちを犯してしまったから。

セイアは夢の中でゲマトリアの会議を識り、アリウス自治区を支配するベアトリーチェがバシリカで儀式を行おうとしていることを識り、その果てにキヴォトスが終焉を迎えるであろうことを予見している。

 

ベアトリーチェの目論見は依然として不明であり、儀式で何を為そうとしているのかは分からない。

だが、ベアトリーチェは儀式によって、キヴォトスに存在しない()()を呼び寄せようとしていることは、ほぼ、間違いない。

 

セイアは、明晰夢の中でベアトリーチェの攻撃を受け、儀式の向こう側にいる存在に接触してしまい、セイアの“器”が崩れ始めた。

恐慌状態に陥ったセイアは、ミカを責め立て、傷つけた。

 

それこそが、セイアが犯してしまった、“過ち”。

 

『ミカは己を責め、取り返しのつかない罪を犯そうとするだろう……』

 

『…今、あの子の側にはイヴがいるが…イヴの身にも危険が迫っている……』

 

『ベアトリーチェは、儀式の邪魔になり得るイヴも、排除しようと目論んでいる…彼女に抗する、“専門家”を使って……』

 

ベアトリーチェの儀式は、キヴォトスを終焉に導く切掛に足り得るものであり、その過程でアリウススクワッドのアツコは命を落とす。

 

セイアは、夢と現実の狭間に幽閉されているが故に、届くかも分からない言葉を投げかける事しか出来ない。

 

そして、先生自身もまた、ベアトリーチェに狙われている。

儀式を阻む、障害として。

 

セイアは告げる。

 

これらの問題を全て解決することなど、不可能であると。

 

先生も、イヴも、十分に生徒たちの為に尽力してくれている。

だから、全ての問題を背負おうとしないでくれ、と。

 

『私は此処から抜け出し、ナギサと他のみんなの力を借りて、ミカを取り戻すよ』

 

『今度こそ、私は彼女に謝罪したいんだ』

 

『だから、先生……』

 

『先生…私の声が届いているのなら…どうか……』

 

『逃げてくれ…イヴと共に…そして出来る限り、アリウス自治区から遠ざかって欲しい』

 

『そうでなければ……先生も…イヴも……』

 

『…………』

 

****************************

 

アリウス自治区某所。

 

ズズズ…と重い鉄扉が横に滑り、土煙と共に開く。

 

土煙の中に人影が浮かび上がり、奥の暗闇から姿を現す。

 

「けほっ、けほっ……うーん…最近ずっと部屋にいたからか、鈍ったなぁ…ロールケーキのせいかも?」

 

現れたのは、聖園ミカ。

 

ミカは周囲を見回し、そこがどこであるのかを確認する。

 

「…まあ、でもとりあえず着いたみたい」

 

ミカに続き、もう一人が鉄扉の奥から現れる。

 

「ここが、《アリウス自治区》か」

 

ミカの目的に協力しているレイヴンだ。

 

「うん、そうだよ。ここから──」

 

すっと、レイヴンはミカにジェスチャーを示す。

 

それは、人差し指を口元に添えるもの。

それが意味するのは、『静かに』だろう。

 

ミカはそのジェスチャーの意味を理解し、すぐに口を噤む。

 

ミカが口を閉じると同時に、レイヴンは正面の通路を顎で示す。

 

二人が今いるのは、T字路の垂直方向の通路。

正面には、水平方向の通路が伸びており、レイヴンが指し示したのは、その右方向の曲がり角。

 

「ふーん……」

 

ミカは小さく呟くと、レイヴンの注意を無視して自分から突っ込む。

 

T字路の右方向から現れたのは、アリウス生徒だった。

 

「な、なんだ!?お前は誰だ!?」

 

「お、お前は!?」

 

突然現れた上に、明らかにアリウス生徒の服装ではないミカの姿を目にして狼狽えるアリウス生徒。

 

レイヴンは事前にこのアリウス生徒たちの足跡を感知し、その接近をミカに知らせたのだが、その行為は無駄に終わった。

 

「やっほ☆こんにちは──いや、こんばんは、かな?まあどっちでもいっか!ちょうど良かったよ〜」

 

ミカはまるで知り合いに会ったかのように親しげに話しかけるが、一方のアリウス生徒たちは、警戒、或いは慄いていた。

 

「ねえねえ、アリウスのバシリカって、どっち?」

 

そんなアリウス生徒たちの心情など気にも止めず、気さくに話しかけるミカ。

 

「し、侵入者がここに!早く本隊に連絡を──」

 

侵入者を前に、内線で連絡を取ろうとしたアリウス生徒だったが、その直後、ミカの背後から飛来した銃弾を頭部に受け、倒れた。

 

「ねえ、ダメだよ…夜中に騒いだら迷惑でしょ。そういうの、教わらなかったの?」

 

そこでアリウス生徒は、ミカの背後にいる、暗がりに紛れるレイヴンの存在を認知した。

 

暗闇の中で、仄かな赤い眼光が揺れる。

 

「う、撃て!!総員、攻げ──」

 

アリウス生徒が指示を出すよりも早く、一瞬にしてミカが突撃し、沈める。

 

「…まあ、こうなるとは思ってたけどさ」

 

ミカとレイヴンを前に、戦々恐々と震え上がる残ったアリウス生徒たち。

 

そんな彼らにも容赦なく、レイヴンは淡々と、ミカは嬉々として襲いかかった。

 

 

 

 




先生とスクワッド、ミカとレイヴンの両者共に、アリウス自治区への侵入を成功させる。
先生とスクワッドはアツコを救う為、ミカはスクワッドに復讐し、レイヴンはその手伝いをする為に。
先生は小休止の微睡の中、夢と現実の狭間に幽閉されたセイアの言葉からゲマトリア、ベアトリーチェの思惑の一端を知る。
時間は刻一刻と迫っている。

また次の更新でお会いしましょう。
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