色々と不穏だっぴ
黒服とカイザーPMC理事が色々と企み、便利屋68がその陰謀渦巻く依頼を受ける
果たしてレイヴンの矢は誰に向かうのか…
帰ろうとした私は、サンクトゥムタワーの前で、ある人物と出くわす。
桃色の髪をした、連邦生徒会の制服を纏った女性。
その人は、私に気が付くと微笑みを浮かべ、近付いて来た。
「あら、もしかして、あなたがシャーレに新しく出来たと言う直属の特務戦闘員の方ですか?」
「…そうだけど、あなたは?」
「これは失礼いたしました。私は《不知火カヤ》。《防衛室長》の席を預からせて頂いている者です。以後、お見知り置きを」
そう言ってカヤは腰を折る。
「私は渡鳥イヴ、です。カヤ、さん、よろしくお願いします」
先程のリンとのやり取りを思い出し、慣れない敬語を使う。
不自然にたどたどしくなってしまった。
「ふふっ、そう無理に敬語で話す必要はありませんよ。ここには私たちしか居ませんし、それに同じくキヴォトスを守ろうと言う仲間ではありませんか」
そう言う事ならば、甘えさせて貰おう。
「じゃあ、カヤ。よろしく」
「はい、イヴさん、よろしくお願いしますね。慣れない仕事で大変かと思いますが、お互い頑張りましょう」
「?どう言う事?」
「あら、ご存知ないのですか?実はですね、シャーレに直属特務戦闘員という部を開設するにあたって、結構、揉めたんですよ」
それは初耳だ。
先生もリンも、そんなことは一言も言わなかった。
「特にですね、会長代理のリンさんに《財務室》の《アオイ》さんが、それはもう反対して食い下がりまして。世間にシャーレの私兵だと思われて先生に危害が及ぶかもしれないとか、これはイヴさんを悪く言うつもりは無いのですが、幾ら超法規的機関とは言え、仮にも公的機関であるシャーレに傭兵紛いの部を置くのはどうなのか、とか、そもそも、リンさんは『代理』とは言え、連邦生徒会長権限を行使し過ぎだ、権力の乱用は控えるべきだとか猛反発してまして…」
なるほど。
確かに、私の存在が公になれば、私を先生の個人的武力と捉えられる可能性も無くはない。
それで一部の厄介な連中を刺激し、先生が危険に晒される事も十分にあり得る。
そして、傭兵紛いうんぬんに関しては、否定しようがない。
そもそもが私が傭兵になろうとしていいそれを先生が引き入れた形になるのだから、肩書きや建前はどうあれ、実態は傭兵そのものだ。
申し開きもない。
そして、連邦生徒会長権限、か。
どれだけその権力をリンが行使しているかは分からないが、少なくとも先生やシャーレは間違いなく関わって来るだろう。
そうでも無ければ、超法規的機関など認可されるはずもない。
そこに加えて、実質的にその下位組織として、特務戦闘員などと言う手の付けられないものが併設されたのだから、アオイ財務室長殿の心情は推し量るに余りある。
「私もその場に居たので、どうにか仲裁しましたが、これは根深い問題になりそうです。シャーレの仕事も、先生個人では大変でしょうし、人手はあるに越したことはありませんから、私は賛成なんですけどね…」
なるほど、私がこうして公然と傭兵業を営めるのはこの人の口添えもあったのか。
「そうなんだ。ありがとう、カヤ」
私はニッコリと笑みを浮かべる。
「いえ、構いませんよ。先程も申し上げた通り、仲間は多いに越した事はありませんから」
そう言うとカヤは時刻を確認する。
「随分と話し込んでしまいましたね。それではイヴさん、そろそろ私は戻りますね。何かあれば、また、お話ししましょう。それでは」
そう言って、カヤはサンクトゥムタワーの中へと入って行った。
私はその背中を手を振って見送ると、今度こそ、帰路に着く。
*****************************
サンクトゥムタワーに戻ったカヤは、受付の生徒を労い、防衛室長としての自室へと向かう。
すれ違う生徒の全員に笑顔で挨拶を返し、悠然と歩を進める。
その最中、エレベーターの中で、先程の少女──渡鳥イヴとの会話を思い出し──ほくそ笑む。
シャーレに出来た新しい組織──特務戦闘員がどんなものかと思えば、他愛無い。
一切の疑問も疑念も抱いていない様子だった。
今回の接触は、様子見と挨拶を兼ねていたが、あれならば敵ではない。
捨て置いて問題ないだろう。
最初は少し警戒した様子だったが、私の言葉が効いたのだろう。
後半は完全に私に対しての警戒心が感じられず、寧ろ友好的ですらあった。
アレは、戦うしか能が無さそうな、分かりやすい“凡人”だ。
どれだけ戦う力があろうと、数で圧倒すればどんな敵も相手では無い。
自身の“計画”の障害にはならないだろう。
寧ろ、彼女よりも“先生”の方が得体が知れない。
今後は、先生の方にアプローチを仕掛けるべきだろう。
思考を取り纏め、結論が出ると、カヤは気分良く鼻歌交じりにエレベーターを出る。
全ては私が連邦生徒会長に至る為に、“超人”に成る為に!!
*****************************
帰路に着いた私は、先程のカヤとの邂逅を思い出す。
それにしても、カヤ…。
あの人はなんて──。
胡散臭いのだろう。
どれだけ睨みそうになるのを我慢したか。
《スネイル》の腹黒さと、《ブルートゥ》の外面の良さの両方が一気に襲って来た感じがして、何度銃に触れた事か。
銃に触れたのは、いつでもコイツを殺せると自分に言い聞かせ、敵意と殺意を落ち着かせる為だ。
そうでもなければ、あれを相手に顔面に笑顔を貼り付け続ける事など不可能だ。
私は緊張を解すように、大きく溜め息を吐く。
一旦、奴のことは忘れよう。
何かを企んではいそうな感じだが、今のところ何かをされた訳ではない。
スネイルとブルートゥという、私の二大地雷を呼び起こした彼女は、警戒するに余りあるが、気を張り続けては滅入るだけだ。
今後、それとなくリンから彼女についての情報を集めよう。
恐らく、リンは彼女の危険性を理解していない。
あれは、顔に笑顔の仮面を被って味方になりすまして近付き、腹の中ではドス黒い感情を渦巻かせ、裏で暗躍しているタイプの人間だ。
事が起こってからでなければ、その危険性に気付けない。
私も、ルビコンでスネイルとブルートゥという前例を経験していなければ、取り入られていただろう。
とは言え、厄介な存在には変わりない。
連邦生徒会というキヴォトス最大の組織に所属し、防衛室長などと言う要人だ。
そう簡単には手は出せない。
今後の課題として、頭の片隅に仕舞い込む。
そこで、私の携帯端末が震える。
取り出し、確認すると、それはモモトークだった。
差出人は先生。
メッセージと共に、一枚の写真が送られて来ていた。
それを見た私は、カヤから与えられた不快感が霧散し、口元が自然と綻んだ。
写真には、一つのテーブルを囲んで対策委員会の五人と共に席に着き、こちらに箸を持ったままピースで笑顔を向ける先生の姿が写っており、『柴関ラーメンなう』という文言が添えられていた。
正面画面端に先生、その右隣の席にノノミ、その奥にアヤネ。
先生の左隣にシロコ、その奥に、ホシノと共にセリカが写っている。
セリカだけは、いつもの制服ではなく、恐らくラーメン屋の仕事着と思われる服装だったが、委員会のみんなと共に写真に写る姿は、とても微笑ましいものだった。
続けて、シロコから、『イヴが居なくてセリカが寂しそうだったよ』というメッセージが来たが、間髪入れずにセリカから『そんなんじゃないから!』と届く。
ホシノからは『セリカちゃんが素直じゃなくてごめんね〜』、アヤネからは『ぜひ、次は一緒に来ましょう!』、ノノミからは『ここのラーメン、美味しいんですよ〜☆』と立て続けにメッセージが届く。
胸の中が温かい気持ちになる。
先生には、『今度連れて行って』、シロコには、『セリカには申し訳ないことをしたね…』、セリカには『今度食べに行くね』、ホシノには『私知ってる。ツンデレって言うんでしょ?』、アヤネには『楽しみにしてるね』、ノノミには『行った時にオススメ教えて欲しい』と、それぞれに返信する。
一旦、携帯端末を仕舞い、空を見上げる。
透き通るような青空が、何処までも続いていた。
私は青空と同じような、晴れやかな気分で、シャーレへと帰った。
その道中、謂れのない因縁を付けて来たチンピラリーゼントロボットをシバいたのはまた別の話。
そして、翌日、シロコからセリカが行方不明になったとのメッセージが届いた。
今回は平和回でしたね
戦ってないし、誰も傷付いていない!平和!ヨシ!
裏でチンピラがシバき倒されていますが、まあ自業自得って事で