ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

ブラックマーケット編、完

今回はその総括のようなものです


EP-50 凪の水面下で荒波は渦巻く

とある高層ビルの一室。

 

街並みを見渡せる高層階の部屋で、街を見下ろすロボットがいた。

 

「プレジデント、この度は作戦の失敗、心中、お察しします…」

 

そのロボットは、カイザーコーポレーションの最高責任者だった。

 

プレジデントに、秘書的立場のロボットが声を掛ける。

 

「失敗、か…それは違う。これは栄誉ある前進だ」

 

彼の作戦とは、元は“とある人物”が画策し、実行をプレジデントに要求したモノだった。

 

それは、カイザーPMCの悪行が世間に晒され、その理事が指名手配された事を始まりとしたモノだった。

 

「前進、ですか?」

 

シャーレ及びレイヴンに、ブラックマーケットの闇銀行を襲撃させる。

 

その銀行は、カイザーPMCひいてはカイザー本社の息が掛かった場所だ。

 

そこに依頼と称して誘き寄せ、事前に襲撃を通達されたマーケットガードが首尾良く動き、その際の戦闘の混乱に乗じて先生を拉致し、レイヴンを“提供された資金”で強化した軍隊によって排除、或いは無力化を狙ったモノだ。

 

だが、その狙いは崩れ去った。

 

「この度の作戦、先生の拉致とレイヴンの排除…そのどちらも結果は散々なものだった。“想定外の邪魔”が入った事も、それに拍車をかけたが…所詮は予行演習に過ぎない」

 

思いの外、レイヴンの戦闘力が高く、事前に用意していた軍隊では手も足も出ず、壊滅させられた。

 

その上、畳み掛けるように予期していなかった襲撃。

 

こちらは、向こうにとっても、予期していなかったモノのようだったが。

 

「あのタイミングで、まさかゲヘナ風紀委員会の襲撃が起こるとは…」

 

どういう訳か、まるでタイミングを図ったかのようにゲヘナ風紀委員会が襲撃して来た。

 

その際、爆撃でマーケットガード部隊は全滅だ。

 

しかし、大筋の流れは変わらない。

 

レイヴンの戦闘力の高さも、ゲヘナ風紀委員会の襲撃も、想定より大きな石が多く投げ込まれて、川から僅かに水が溢れてしまった程度。

 

川の流れは変わらない、止まらない。

 

「今回の作戦で、レイヴン、奴の異常な戦闘力と危険性を事前に知り得たのは大きな収穫だ。この情報があるのと無いのとでは、作戦に大きな影響が出る。赤字には違いないが、勉強料として割り切れば良い機会だった」

 

所詮はマーケットガード部隊。

 

本命の部隊、戦力はまだまだ、幾らでも控えている。

 

「そうですね…ヤツの戦闘力は計り知れない…綿密な対策が必要でしょう」

 

情報は力だ。

 

今回、得ることが出来た情報は、今後の重要な指針の一つとなるだろう。

 

「何にせよ、私にしても、“あの女”にしても、最初から全てが上手く行くとは思っていない。上手く行けば儲け物、程度の考えだった」

 

何事も、先ずは挑戦だ。

 

実際にやってみなければ、分からないこと、見えてこないこともある。

 

机上の空論、という言葉があるように、論じるだけでは全ては空虚な絵空事だ。

 

その為の予行演習──情報収集だ。

 

「なるほど…しかし、今回の依頼、あれほど多額の報酬を渡して良かったのですか?」

 

今回のシャーレへの依頼達成の報酬は、予定通りの銀行襲撃、制圧の遂行の分の基本報酬に加え、多額の追加報酬を乗せていた。

 

その理由は、()()()()()マーケットガードに情報が()()()()()()()()()為、相手は万全の準備をして待ち構えており、想定より初動が早く、また、戦力も揃っていた。

 

彼らの奮闘のお陰で、依頼は遂行されたが、危うく、こちらの()()()で、依頼が失敗に終わってしまう可能性もあった。

 

「ああ、構わんよ。()()()()()があったと言うのに、その補填が何も無しで不満を出されてこちらに直接、殴り込みをかけられても堪らん。相応の対価さえ支払えば、下手に動きはしない。傭兵とは、そういうモノだ」

 

所詮、傭兵とは金目当ての連中だ。

 

十分な金さえ握らせておけば、どうとでもなる。

 

「そうでしたか…そうとは知らず、知った風な口を聞きました」

 

秘書ロボットは、プレジデントに頭を下げる。

 

「良い。本命の作戦は未だ準備段階。言い換えれば、我々には、まだまだ時間がある。余裕のある心を持とうではないか」

 

そう、プレジデントの本命は、まだまだ先、遥か未来だ。

 

立て直す時間も、策を練る時間も、十二分にある。

 

「…寛大な御心、感謝いたします」

 

全ては、自身の掌の上にある。

 

「それに…何やら、PMC理事──おっと、“元”PMC理事が、面白いことを画策しているようだ。我々は高みの見物と洒落込もう」

 

****************************

 

「…はい、そうですか。分かりました。引き続き、よろしくお願いします」

 

通話を切り、困ったように溜め息を吐くのは、連邦生徒会防衛室長、不知火カヤ。

 

どうやら、それなりの資金を提供したカイザーの作戦が失敗したらしい。

 

作戦の提案はカヤが挙げ、その上で資金まで提供したと言うのに、収穫がシャーレ専属傭兵レイヴンの危険性だけとは。

 

マーケットガードに偽装したカイザー保有の兵隊も投入しておきながら、たかが傭兵一人にこの体たらくとは、カイザーを高く見積もり過ぎたか?と過去の自分の選択を疑う。

 

とは言え、カイザーコーポレーションはキヴォトスでも有数の大企業。

間違いなく有力なのは疑いようが無い。

 

ならば問題は、レイヴンの方か。

 

シャーレ直属特務戦闘員レイヴン。

 

実質的にシャーレ専属傭兵と呼んで差し支えない、一生徒に過ぎない筈だが、それでも生徒と言うだけで侮ることは出来ない。

 

キヴォトスには、生徒でありながら、異常な程の戦闘力を保有する者が、一定数、確認されている。

 

ゲヘナ学園風紀委員長、空崎ヒナ。

 

トリニティ総合学園《正義実現委員会》委員長、《剣先ツルギ》。

 

《ミレニアムサイエンススクール》プロフェッショナル《Cleaning&Cleaning》、通称《C&C》エージェント、コールサイン《00(ダブルオー)》、《美甘ネル》。

 

そして、今はすっかり鳴りを潜めているが、アビドス高校“元、生徒会副会長”、小鳥遊ホシノ。

 

レイヴンは、彼女らに匹敵するような存在なのかもしれない。

 

だとしても、必ず何処かに、付け入る隙はある筈。

 

彼女もまた、人間には変わりないのだから。

 

“超人”ではないのだから。

 

何はともあれ、今回の作戦は、カヤ本人としても、最初からそれほど期待していた訳ではない。

 

カイザーはもう少し良い働きをすると思ってはいたが、想定の範囲内だ。

 

予行演習にしては悪くない。

 

後は、これを元に、“本番”に向けて内容を詰めて行くだけだ。

 

それまでの時間は十二分にある。

 

焦る必要はない。

 

「七神リン…あなたがその地位に居られるのも今の内ですよ…」

 

不知火カヤは、いずれ来たる自身の栄光ある姿を夢想し、笑みを浮かべるのだった。

 

****************************

 

深い深い、地の奥底。

 

冷たい金属の壁と床、天井に囲われた巨大な空間。

 

吹き抜けも窓も無い、地下格納庫のような場所。

 

「ククッ…クフフフフフ…!フハハハハハッ!!素晴らしい!素晴らしいぞ!なんという“力”!こんなモノが、この世界にあったとは!!」

 

カイザーPMCの理事“だった”ロボットが、大仰な高笑いを発していた。

 

「お気に召していただけたようで何よりです」

 

その後ろには、何者かが控えていた。

 

「ああ…“ルナシー”、と言ったか。でかしたぞ…!フフッ…これで私は敵無しだ!神秘なども私にはもう必要ない!目障りな連邦生徒会も!私を切り捨てたカイザーも!あの忌々しいレイヴンも!もう敵ではない!私が、私こそが!このキヴォトスの覇者だ!!ハハハハハハハハッ!!!」

 

元、PMC理事は、目の前に整然と並ぶ数々の兵器群を眺め、その狂喜的な笑い声が空間に響き渡るのだった。

 

****************************

 

ゲヘナ学園、その広大な敷地内の一角に風紀委員会が普段、利用している建物がある。

 

その中の委員長、空崎ヒナの執務室で、天雨アコは正座をさせられていた。

 

その目の前には、委員長らしい豪奢な椅子に、尊大な姿勢で脚を組んで座り、アコを見下ろすヒナがいた。

 

「それじゃあ、約束通り、聞かせて貰いましょうか、アコ。風紀委員会の戦力を壊滅状態にしてまで、何を為したかったのかを」

 

ヒナの紫色の瞳が妖しく光り、アコを射抜く。

 

アコは口を閉ざして、俯きながら冷や汗を滴らせることしか出来なかった。

 

重苦しい無言の時間が流れ、アコが耐え切れず声を漏らすと同時に、ヒナは大きく溜め息を吐いた。

 

「今の質問は、ちょっと意地悪だったわね。アコはアコなりに、ゲヘナを思っての行動だったのでしょう?」

 

先程までの威圧的雰囲気は鳴りを潜め、穏やかな声音で問う。

 

差し詰め、シャーレの先生やその専属傭兵であるレイヴンという不穏分子を手が届く管理下に置こうと画策したのだろう。

 

「ひ、ヒナ委員長…!はい!それは当然!もちろんです!!」

 

首元の鈴がうるさく鳴る程に、アコは正座のまま何度も何度も、首を縦に振る。

 

今はゲヘナ全体が張り詰めている。

 

何が起こるかわからない状況で、少しでも火種となりそうなものを排除したかったのだろう。

 

「それなら尚更、ひと言くらい、相談して欲しかったわね…」

 

ヒナのその言葉は、アコの心を突き崩すには十分な鋭さを有していた。

 

火種を取り除こうとした結果、大炎上してしまったからこそ、一人で抱えて欲しくなかったと、そう思う。

 

「うぐぅ!?」

 

アコは正座のまま、前のめりに倒れる。

 

「うぅっ…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

尻を突き出すような姿勢で床に頬を付けたまま、アコの涙が床を濡らす。

 

「うっ…反省文千枚くらい反省しますぅ…」

 

ついにはその視線のまま両腕を重ね、嗚咽し始めてしまった。

 

「そう。ならそれは後々、書いて貰うとして──」

 

例えのつもりが真に受けられてしまい、アコは思わず上体を跳ね上げる。

 

「アコ、私とレイヴンの取引の内容には目を通した?」

 

取引内容は先生が纏め、それを各々の端末に送っていた。

 

ヒナはそれを帰還の前にアコに送り、目を通すように指示していた。

 

「え?あ、はい。ひと通りは…しかし、大丈夫なのでしょうか…?レイヴン──彼女は、私たちをこんな状態にせしめた張本人ですよ?」

 

アコはヒナの顔色を伺いながらも、しかし、自身が抱いた疑念について訊ねる。

 

「はぁ…アコ、それは違う。レイヴンは本来、風紀委員会に牙を剥くような存在では無かった。何処かの誰かさんが余計な手出しをしなければ、ね?」

 

ヒナはジロリと目を細め、アコに視線を向ける。

 

「ひぎぃ!?」

 

ヒナの視線に貫かれたアコは、再び背筋を伸ばした正座で姿勢を正した。

 

「彼女の扱いは実に単純。攻撃されたくなければ、こちらから手を出さなければ良い。もし仮に、こちらから手出しせずに攻撃して来た時が来るとしたら、私たちに恨みがある者か、敵である何者かに雇われた時」

 

正直、業務柄、思い当たる対象が多いことに頭痛を覚える。

 

「……彼女が万魔殿に雇われないことを祈りたいですね」

 

あそこの議長は一線は越えないと思うが、嫌がらせ程度になら十分に考えられる。

 

「それにしても、先にこちらに引き入れれば、こちら側に着いてくれる。レイヴン──傭兵とは、そう言うものよ」

 

問題は、あの気紛れ議長が、いつ、どのタイミングで行動を起こすのか分からないと言う事だが、ヒナはそれを口に出すことなく飲み込む。

 

「ならば、それは良いとして、もう一つ気になったことが」

 

「何?」

 

「レイヴンの依頼について、便利屋68やアビドス生徒の協働に関して、この小鳥遊ホシノのみレイヴンとの協働を認めない、と言うのはどういう意図があってのことなのでしょう?と言うか、お知り合いで?」

 

アコの問い掛けに、ヒナは僅かに間を置く。

そして、虚空を眺めながら、ヒナは口を開いた。

 

「…いえ、直接会ったのは今回が初めて…だけど、二年前、情報部にいた時に、彼女はゲヘナにとっての潜在的脅威として監視対象だった。身辺調査もそれなりにしたわ」

 

かつての小鳥遊ホシノは、それこそ今のレイヴンを彷彿とさせるような人物だった。

正直、攻撃性で言えば、レイヴンよりも好戦的だったかもしれない。

 

「……確かに、風紀委員会の部隊の一部は、彼女に壊滅させられました…脅威、というのはあながち間違いでもないですね…レイヴンと組ませないと言うのはつまり…」

 

小鳥遊ホシノは、ヒナが知り得る限り、ただ一人の“天才”と呼ばれた、本物のエリート。

もし、彼女の実力がそのままであり、何かの間違いでレイヴンと組んでしまった場合──。

 

「そう。最悪、彼女たち二人が組んでゲヘナ内で暴動を起こした場合、誰も止める事が出来なくなる危険性がある。彼女たちの性格から考えるに、その可能性は低いけど、念の為それを考慮してのこと」

 

片方だけならばまだヒナが止められる可能性はある。

だが、二人同時の場合、ヒナでさえ手が付けられなくなる確信がある。

 

先程、アコにはレイヴンは分かりやすい人物だと説明した。

だが、それはあくまで彼女の立場上の扱いについて。

 

レイヴンと正面から対面し、ヒナは理解した。

彼女は只者ではない。

キヴォトス最強などとも呼ばれ、相応の実力を有していると自負しているヒナだが、それでも、レイヴンが相手の場合、相打ち覚悟で当たらない場合、倒れるのは自分であるとハッキリ理解している。

レイヴンとは、それほどの力を秘めた存在だとヒナは認識していた。

 

「……」

 

呆然とするアコ。

どうやら、自身の早とちりでとんでもないことになる直前だったことに気付いたらしい。

 

「幸運だったのは、今の彼女が、かつてのような好戦的で荒っぽいナイフのような性格から別人と見紛う程に落ち着いた様子だったこと。あの攻撃的な性格のままだったら、果たしてどうなっていたか…」

 

小鳥遊ホシノにレイヴン、それに加え、話には挙げなかったが、イオリと同等の実力を持つ砂狼シロコ。

そこに加えて、指揮された生徒は格上の相手にすら勝つことが出来ると言われる統率力に優れた先生。

ある意味、この程度で済んで幸運とすら思える。

 

「……」

 

青ざめるアコ。

追い詰めるのはこの程度にしておこう。

 

ヒナはアコから視線を外し、別れ際、先生とレイヴンに伝えた情報を思い出す。

 

彼らは、あの情報を役立ててくれるだろうか。

 

──そう言えば、一つ言い忘れていた。

 

「アコ、反省文千枚、ちゃんと提出するように」

 

「そんなぁ!?」




陰謀渦巻く1ページで終わらせても良かったんですが、文字数に余裕があったのと後味悪いまま終わらせるのはどうかと思ったので最後にヒナアコでお口直しを入れました

アニメでも二人とも可愛いですね
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