ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

アコちゃんお仕置き

ここから新編ですね


EP-51 選択と答え

目を開けるとそこは、かつてのルビコン。

 

以前にも訪れた、衛星軌道上の封鎖ステーションだった。

 

つまりは、夢の世界。

それを示すように、目の前には黒い私がいた。

 

背後には機械仕掛けの猟犬の気配。

振り向けば、座った状態でジッとこちらを見ていた。

 

“歯車”を回さずとも、彼はもういつでも起きてくれる。

私に力を預けてくれる。

 

私が、彼の正体に気付いたから。

LOADER4の化身とでも言うべき、私の力が具象化した存在。

 

それで言うと、目の前の黒い私は、私の力と言うよりは、もう一人の私と言うべきか。

 

「当たらずとも遠からず、と言ったところだな。50点」

 

平然と私の考えを読んで来る。

 

「此処は夢の世界──“無意識の領域”だからな。“意思”を読むのは容易い」

 

よく分からないが黒い私が現実の存在ではなくて、夢の世界も現実ではないから、それが合わさって私の心を読めるということだろうか?

 

「ふむ、まあ今はそれで構わない」

 

思っていることを口に出さず読まれるのはあまり良い気がしないので話を戻す。

 

「それよりも、さっきの話はどう言うこと?」

 

50点を付けられた黒い私についての考察の話だ。

 

「…前にも言った通り、私はルビコンでお前(わたし)が“独立傭兵レイヴン”として出会った人々の意志──今となっては、遺志となったものが形を為したモノだ。お前であるとも言えるが、お前では無いとも言える」

 

こうして説明されれば納得できそうだが、それにしても不可解な事がある。

 

「私には、あなたからも力を引き出せたように思える。あなたが私ではないと言うなら、それは成立しないんじゃない?」

 

“鴉の眼”などは分かりやすいか。

 

あれは、黒い私の力ではないのか?

加えて、何度か“歯車”を回した際に、猟犬と共に姿を現してくれた。

あの現象も私の力だからこそのものではないのか?

 

純粋にそんな疑問が浮かんだ。

 

「……正直言って、私自身、詳しいことは分からない。この世界──キヴォトスには、良く分からん謎の力が満ちている。これは、コーラルとも異なる未知のエネルギーだ。私がこうして姿形を得られたことも、その意味不明な力──エネルギーが原因なのかもしれない。或いはお前がそんな姿なのもな」

 

このキヴォトスの住人は、外の世界の住人と異なる点が幾つもある。

 

銃に撃たれても軽傷で済むような頑強さ、個人差はあるが特定の人物が有する動物的特徴、そして、頭上に浮かぶ天使の輪のような謎の円環──ヘイロー。

 

それらも、黒い私が言う謎の力の影響なのだろうか。

 

「人智の及ばぬ《神秘》とでも言うべき力だな」

 

《神秘》、か。

 

確かに、先に挙げたキヴォトスの住人の特徴が、一つの力によって引き起こされているものだとしたら、元人間の私からは到底、理解できないような神がかったモノだと言える。

 

神秘──そう呼ぶに相応しい。

 

「さて、ではそんな話はさておき」

 

黒い私が話がひと段落ついたところで話題を変える。

 

「決まったのか?過去に戻るのか、それとも、未来へ進むのか」

 

彼女が聞いて来たのは、今後の私の身の振り方についてだ。

 

これまで通り、“歯車”を回し、力の代償に身体機能を失った果てに、かつての強化人間のような戦うだけの存在に成り果てるか。

それとも、“残り火”を燃やし、力の代償にかつてのルビコンでの記憶を失い、過去から脱却するのか。

 

私の記憶は、一度、“残り火”を使いはしたが、過去を思い返してみても、それほど失われてはいない。

 

僅かに、ルビコン突入時のウォルターの記憶が曖昧なくらいか。

 

まだ一度目だから、この程度で済んでいるのか、それとも、それほど一気には失われていかないのか。

 

何にせよ、私の“選択”は決まっている。

 

私は顔を伏せ、逡巡の後、微笑みを浮かべて答えた。

 

「私は、持てる力の限りを尽くして闘う。これからも、これまでも」

 

私が戦いながら考え、導き出した“答え”は、そのどちらでもなかった。

 

「それは…どちらも選ばない、と言うことか?」

 

黒い私の言葉に、私はゆっくりと首を振る。

 

「違う。私は、もう与えられた選択肢から選ぶ事は辞める。自分自身でその時の全力を尽くして戦って、より良い未来の為に、私自身の“答え”を導き出す。それだけ」

 

ルビコンでの私は、与えられた選択肢の中から選択し、それを自身の答えとした。

 

きっとそれは、選ばないことよりは良い事なのだと思う。

きっと誰かは、選択したことを褒めてはくれると思う。

 

でも、私はもう、ただ与えられて選ぶのはやめる。

どちらか一方を選んで、私以外の誰か大切な人の不幸が確定するのなら、私は別の道を模索する。

 

その為に戦う。

 

例え、私自身の肉体が機能を失い、かつての記憶が焼滅するとしても。

 

「…ウォルターは、きっと悲しむぞ」

 

そう言われてしまうと苦しいものがある。

 

けれど──。

 

「そうだね。きっと、悲しんでくれると思う。でも、きっと、理解もしてくれる」

 

ウォルターならきっと、私が導き出した“答え”を尊重してくれる。

 

例え、その“答え”が、ウォルター自身の望みから外れているとしても。

 

「…意志は固いようだな。ならば仕方ない。そんなお前に、一つ、力を伝授しよう」

 

「これは──“残り火”の奥義にして極意。使う場所は良く考えて使え」

 

*****************************

 

目を開けると、白い天井が目に入った。

 

見覚えの無い天井だった。

 

それと同時に、鼻腔を突き抜ける薬品の匂い。

 

ふと視線を横に向ければ、点滴のパックが目に入る。

 

体を起こせば、私は清潔感のある白いベッドの上に寝ているようだった。

 

病院だろうか。

 

「レイヴン!」

 

聞き覚えのある声が耳に届く。

 

聞こえて来た方向──病室の出入口方向に視線を向ければ、そこに立っていたのは便利屋の鬼方だった。

 

「鬼方?なんで此処に…って言うか私は──…」

 

記憶は朧げだが、何となく覚えている。

 

確か私は、ゲヘナ風紀委員の空崎ヒナと取引をして、その後、急に眩暈がして、きっとその後、倒れたんだろう。

 

「レイヴンはヒナと取引した後、急に倒れたんだよ。それで外傷は無かったけど、先生の判断でこのアビドスの病院に入院させたんだけど…丸二日、眠ったままだったんだよ」

 

あれから二日も経っているのか。

私は素直に驚いた。

みんなには、さぞ心配をかけてしまっただろう。

 

「それで、まあ一応、誰かがそばに付いていてあげようってなって、24時間は無理だけど、できる限り、先生やアビドスも交えて交代で見張りを付けてたんだけど…」

 

鬼方は一旦、そこで閉口し、何やら言い淀む。

 

「──小鳥遊ホシノが、アビドスの学校を辞めたらしくて…」

 

私は、寝起きの早々に、大きな衝撃に襲われた。

 

「ホシノが…?」

 

そうして鬼方は、一枚の封筒を渡して来た。

手紙用の封筒だ。

題は、『イヴちゃんへ』と綴られている。

私は丁寧に封を開ける。

 

「今朝の担当だったハルカが、此処に置いてあったのを見付けたんだ」

 

そう言って鬼方は私のベッドの横の台を指し示す。

私はそれを横目に、封筒の中の二枚の便箋を手に取る。

 

「ハルカの前の担当は昨日の夕方のムツキだったんだけど、その時は何も無かったらしい」

 

それなら、きっとホシノは夜中か、伊草が現れる直前に置いていったのか。

 

「そう、か…先生とシロコ達は?」

 

私はホシノの手紙にサッと目を通す。

 

今の私には、それだけでも十分に内容が頭に入る。

 

「…先生もアビドスの連中も、いなくなった小鳥遊ホシノのことで学校に集まってるみたい」

 

私はホシノの手紙を読み終え、ふと、思い出す。

 

「…そう言えば、鬼方、話は変わるけど、便利屋は銀行襲撃依頼の報酬は受け取った?」

 

便箋を折り畳み、封筒に仕舞いながら、鬼方に訊ねる。

 

「え?ああ、うん。先生からアル──社長が受け取ったよ。今、そんなこと気にする場合?」

 

鬼方にジロリと睨まれる。

 

だが私はそれを受け流す。

 

私はあれだけの激戦に無関係の便利屋を巻き込んだのだ。

 

それで二日も報酬を渡さずに眠りこけていたなど、傭兵として恥だ。

 

だが、どうやら先生が気を利かせてくれたらしい。

 

それならば何の憂いも無い。

 

「大事なことだから。念の為、ね。それで、鬼方は──」

 

「…ねぇ」

 

私の言葉を遮るように、鬼方が口を割り込ませて来る。

その視線は、何処となく不満げだ。

 

「私の苗字、言い難くない?」

 

何を言うかと思えば、そんなことを気にする場合だろうか。

 

鬼方も人のことを言えないのではないか。

 

「私は別に…」

 

私としては、特に気にしてはいない。

 

と言うより、こっちの世界では名前よりも苗字呼びの方が個人的に気が楽なのだ。

 

なので基本、他人を呼ぶ時は、フルネームから呼び始めるし、ある程度、親しくなっても苗字呼びは中々、抜け切らない。

 

最初から名前呼びなのは、シャーレ併設コンビニのソラくらいではないだろうか。

 

彼女は苗字を名乗ってくれなかったので、名前で呼ぶしかなかった。

 

「…アビドスの連中は名前で呼んでるのに?」

 

「それは呼んでくれと言われて…」

 

「それなら、私達のことも名前で良いよ。折角、一緒に戦った仲なんだし、いつまでも他人行儀にされるとむず痒いから」

 

「…それなら…カヨコ」

 

「何?イヴ。私も、仕事じゃない時はレイヴンじゃなくて、名前で良いよね?イヴ」

 

「うん、別に良いけど…」

 

何と言うか、回りくどいと言うか、遠回りと言うか。

 

「──イヴ…今、私のこと、めんどくさいって思わなかった?」

 

カヨコがスッと目を細め、私は首を横に振る。

 

取り敢えず、私はそんな鬼方改めてカヨコの視線から逃れるように、咳払いをして、行動を起こす。

 

着ていた患者衣を脱ぎ、着替えを始める。

 

「ちょっ、イヴ…!?まだ寝てないと…!」

 

カヨコが慌てて私を止めようとするが、私は瞬く間に近くに置いてあった、倒れる前に着ていたシャーレ専属傭兵としての制服を身に付け始める。

 

それなりに汚れて汗も吸った筈だが、コートからは良い匂いがしていた。

 

「カヨコ、私の制服、誰か洗ってくれた?」

 

コートの袖に手を通し、ポケットを漁る。

 

「えっ!?誰かがスプレーでもしたんじゃない?って、そうじゃなくて…!イヴ!アンタはまだ病み上がりなんだから──」

 

取り出した携帯端末の電源を入れる。

 

電池は半分程度残っていた。

 

「病んでない。怪我しただけ」

 

端末の私のアカウントに届いたメッセージやら仕事用の電子メールを確認し、目を通す。

 

私はその中に、興味深いものを見付ける。

 

「アンタってそんな屁理屈言うタイプだったの…!?そうじゃなくて──」

 

その直後、爆発音と共に、病室が揺れた。

 

それに加えて、外が何やら騒がしい。

 

「…それに、寝ていられるような状況でも無さそうだけど?」

 

端末をポケットに仕舞い、私が状況を味方に付けて言い返すと、カヨコは額に手を当てる。

 

「…分かった。良いよ。ただし、私も一緒に着いて行く。それから、少しでも様子がおかしかったら、病室に戻ってもらうからね」

 

やがて諦めたように溜め息を吐くが、カヨコは赤い瞳を光らせ、私を睨み付ける。

 

彼女なりに、私を心配してくれてのことなんだろう。

 

「…分かった」

 

ここは素直に聞いておこう。

 

枕元に立て掛けてあった三丁の銃を身に付ける。

 

スナイパーライフルは背中、ショットガンとアサルトライフルは左右の腰に、それぞれ装備する。

 

私は、カヨコの先導の元、病院の外へと向かった。

 

心配させてしまうのは申し訳ないし、ありがたいとも思う。

 

だが、私はもう決めたのだ。

 

戦い続けることを。

 

肉体の機能が削り落ち、かつての記憶が焼き尽くされようと。

 

──例え、過去にも戻れず、未来にも進めずとも、現在(いま)をただ全力で戦い抜くと。




覚悟を決めたレイヴンもといイヴ

果たして彼女はどうなってしまうのか…

先生!なんとかしてくれ!

あとカヨコ可愛いです
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