ブルーアーカイブ -灰の翼-   作:空素

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あらすじ

クルセイダー迫真の抵抗

クルセイダー君は最後に一矢報いることが出来るのか!?


EP-58 迎撃戦の後に残ったもの

砲塔を赤熱させ、エネルギーを溜める砲口から、悉くを破壊せしめる爆炎が迸る直前、私の目に映ったのは、桃色の長髪。

 

その人物は、クルセイダーの主砲の真正面に立ち、重厚なシールドと共に、その小柄な体躯を壁にして立ちはだかる。

 

「ホシノ──」

 

私が名を呼んだ瞬間、クルセイダーが爆炎を迸らせた。

 

深紅の火柱がホシノの姿を飲み込み、その周囲でも火が爆ぜる。

 

クルセイダーの砲撃の殆んど──私たちを襲うはずだった爆撃の全てがホシノが立っていた場所で爆ぜ、火柱を上げ、私たちに当たらない範囲のものだけが周囲で爆ぜる。

 

それ故に、クルセイダーの正面では絶えず爆炎が弾け続け、近付く事すら出来ない。

 

砲撃が収まり、クルセイダーの真正面だけが破壊されて黒焦げになり、黒煙を上げていた。

 

当然、私や、その後ろのアビドス、便利屋のメンバーにも、クルセイダーの砲撃は届いていない。

 

そして、そのクルセイダーの砲撃をほぼ受け切ったホシノは──姿を消していた。

 

その場に、シールドだけを残して。

 

私はそこへ駆け寄り、シールドを拾う。

 

クルセイダーは大技の反動か、動けないようだ。

 

私がシールドのベルトを掴み、持ち上げたタイミングで、こちらに近付く気配を感じた。

 

「イヴ!」

 

シロコだった。

 

走りながら、私に手を伸ばす。

 

私はすぐに理解し、遠心力を乗せて、シロコへとシールドを放り投げる。

 

かなりの重量がある鉄の塊だが、シロコは上手くベルトを掴み、体を回転させ、勢いを殺す。

 

するとそこで、クルセイダーが硬直から解き放たれ、動き出す。

 

「イヴ!退きなさい!!」

 

その声の主はアル。

 

私が飛び退いたその直後、クルセイダーの焼け付いた主砲へとアルの狙撃が砲口の中に吸い込まれるように入っていく。

 

その直後、砲口が火を噴き、砲身が歪む。

 

『[“セリカ!続けて砲身に銃撃を!”]』

 

空かさず先生が指示を出す。

 

「そう言うことね!了解!」

 

セリカの狙い澄ました銃撃が焼け付いて歪んだ砲身に撃ち込まれ、直後、自爆の小爆発を起こし、主砲全体が割れ、砕ける。

 

そこにダメ押しするように、私が共鳴の幻視で強化したSRの狙撃を撃ち込めば、主砲は真紅の爆発と共に砕け散り、根本から折れ、落下する。

 

『[“みんな!あの主砲の根元に集中攻撃をするんだ!”]』

 

「みんな!主砲の根元に攻撃して!」

 

先生の指示を便利屋に伝える為、シロコが叫ぶ。

 

「なるほど、そういうことね♪」

 

「オッケー、了解」

 

「わ、分かりました!!」

 

ムツキの銃撃、カヨコの狙撃がクルセイダーの主砲の折れた根元に撃ち込まれる。

 

ハルカは近距離から撃ち込む必要がある為、距離を詰めるが、それよりも早く、クルセイダーのキャタピラが唸りを上げる。

 

突進の予備動作。

 

だが、そうはさせない。

 

私は、素早く手榴弾を取り出し、投擲する。

 

投擲された()()の手榴弾は、走り出そうとしたキャタピラと噛み、爆発して突進を阻止した上で、自爆を引き起こさせる。

 

各部位の装甲が内側から大きく歪み、ひび割れていた。

 

二つ目の手榴弾は、そばに立っていたシロコによるものだった。

 

クルセイダーの動きが再び止まり、そこに空かさず叩き込まれるのは、ノノミの銃撃。

 

「行きますよ〜!!」

 

いつものような掃射ではなく、折れた主砲の根元の一点を狙った集中射撃。

 

次々と銃弾が撃ち込まれ、それが止んですぐに、今度は距離を詰めたハルカが車体に飛び乗り、至近距離でSGの連射を叩き込む。

 

「死んでください…死んでください死んでください!死んでください!!」

 

まるで錯乱しているかの様子だったが、銃撃が終わるとハルカは冷静に車体から飛び降りる。

 

「あ、これはオマケです…」

 

飛び降りたハルカが片手のスイッチを押せば、折れた主砲の根元で爆発が起きる。

 

それに続けて、自爆するクルセイダー。

 

装甲の幾つかが砕け散り、吹っ飛ぶ。

 

「シロコ、最後は任せたよ」

 

そう言い残し、私は爆発が止んだのを見計らって、クルセイダーへと疾駆する。

 

ハルカと同じように車体を素早く駆け上がり、折れた主砲の根元にSGとARの装填されている銃弾をありったけ叩き込む。

 

銃弾の一つ一つが真紅の小爆発を起こし、それに応じて装甲の赤みが消えていく。

 

私が車体から飛び降りると、その下では既にシロコが銃を構えていた。

 

ホシノのシールドを前に翳し、その上に銃身を乗せて固定するように狙いを定め、ARの銃撃を撃ち込む。

 

最後に、シロコは手榴弾を投擲する。

 

その爆発により発生したクルセイダーひいてはコーラルの自爆がトドメとなり、クルセイダーは無数の自爆を引き起こした後、眩く深紅の光を放ち、車体全体を飲み込むような爆発を起こす。

 

後には、黒煙と僅かな火を立ち昇らせる、赤みがすっかり消えたクルセイダーだった残骸だけが残った。

 

そこから舞い上がった、小さな深紅の光芒。

 

それをSRで撃ち抜く。

 

それで完全に、クルセイダーとその周辺のコーラルは焼滅した。

 

後は、僅かに残っている取り巻きを処理するだけだ。

 

先んじて、他のメンバーが処理をしてくれており、私とシロコもそこに加わる。

 

その後、特に何事も無く、コーラル侵食の有無を問わず全てのPMC兵器群の撃破を完了する。

 

『これで全てのPMC兵器の撃破、完了です!お疲れ様でした!』

 

『[“みんな、お疲れ様。ありがとう”]』

 

アヤネと先生、二人の目であれば疑いようがないだろう。

 

これで、カイザーPMC兵器群のアビドス市街襲撃の迎撃に成功した。

 

いや、成功と言えるかどうかは怪しい。

 

防衛という意味では、完全に失敗だ。

 

この場所は勿論、その他、各区域で、建物や設備に破損、損壊が見受けられる。

 

中には、全壊している場所もあった。

 

だからだろうか。

 

戦いが終わっても、みんなの顔は何処となく暗く、険しい。

 

そして、そのもう一つの理由は、やはり、ホシノの事だろう。

 

恐らく、あの時の──クルセイダーの砲撃の際のホシノは、他のメンバーも見ていたはずだ。

 

「あっ、あの!」

 

突如として、声を上げたのは、アルだった。

 

その側には、ムツキとハルカも控えている。

 

「アビドスのみんなに、伝えなきゃいけない事があるの」

 

アルの表情は、真剣そのものであり、また、緊張しているようでもあった。

 

「ごめんなさい!あなた達の大切な柴関ラーメン、守れなくて、壊されてしまったの!」

 

アルが頭を下げたのは、アビドスの中でも、セリカに向かってのものだった。

 

その言葉に、セリカが驚愕と同時に青ざめる。

 

他のメンバーも驚いた様子だ。

 

「壊されたって…大将は!?大将は無事なの!?」

 

セリカはアルへと詰め寄る。

 

「一応、怪我をしているところを逃がすことは出来たわ。でも、その後は無事に安全な何処かに隠れられたのかどうかまでは、私には分からないわ。ごめんなさい…」

 

アルは上目遣いで見詰めるセリカから目を逸らし、俯く。

 

アル本人も相当に悔しいのだろう。

 

拳を握り締めている。

 

「そう…」

 

セリカは項垂れ、アルから離れる。

 

「あの、えっとね、セリカちゃん、アルちゃんも大将が追いかけられないように足止めを頑張って──」

 

ムツキが必死に弁解し、アルをフォローしようとするが、それをアル本人が制する。

 

「ムツキ、私を庇う必要はないわ」

 

「庇うに決まってるじゃん!あそこには私たちも居たんだよ!?アルちゃんだけに背負わせられる訳ないじゃん!」

 

「そ、そうです!アル様!元はと言えば、私が役立たずだから…!」

 

ムツキもハルカも、必死に自身にも責任があると主張する。

 

『[“みんな、安心して欲しい。今、私の方で確認したけど、大将は無事だよ。他にも、奇跡的に犠牲者は居ないみたいだ。みんなが頑張ったお蔭だよ。ありがとう”]』

 

そこに終止符を打ったのは、先生だった。

 

それを聞き、安堵して緊張が解けたのだろう。

 

「…良かった…」

 

セリカは呆然とした表情のまま、その場に座り込む。

 

『[“うん、だからきっと、壊れちゃった柴関ラーメンのお店もどうにかなるよ。だから、便利屋のみんなも、そんなに自分を追い詰めないで”]』

『[“きっと、みんな頑張って戦ってくれたんだよね?守ろうとしてくれたんだよね?それで壊れちゃったのなら仕方ないんじゃないかな”]』

『[“それに、これ以上、壊れてないのは、便利屋のみんなが頑張ったお陰でしょ?それならきっと、大将も許してくれるよ。だから、あまり気に病まないで”]』

 

アヤネのドローンが回復用ゼリー飲料と共に、便利屋の元に先生の言葉を届ける。

 

「そっ、そんなの分かってるわよ!言われるまでもないわ!」

 

アルはドローンに背を向けて、顔を隠す。

 

涙目なのはバレバレだが、敢えて指摘はしない。

 

「…でも、一応、お礼は言っておくわ。ありがとう、先生」

 

肩越しに少しだけ振り向き、小声でアルは礼を言った。

 

「くふふ、ありがと、先生。アルちゃんがツンデレだから、代わりに可愛いムツキちゃんが素直にお礼を言ってあげるね♪」

 

そう言いながらも、ムツキも僅かに目尻に涙の痕跡があるのは内緒だ。

 

「ちょっ!?誰がツンデレよ!?」

 

ムツキの言葉に黙っていられなかったのだろう。

 

アルが勢いよく振り返る。

 

「せ、先生、その…私からも、ありがとうございます…お陰で、少し…いえ、かなり、気分が晴れました…!」

 

ハルカは隠さずに涙を浮かべながら、ドローンに対し、丁寧に頭を下げる。

 

『[“みんなが元気になってくれて良かったよ”]』

 

これでひと段落、といった雰囲気が流れたところで。

 

「こんな雰囲気で言い出しにくいんだけど、私から一つ、報告がある」

 

そこに私が言葉を差し込む。

 

「ホシノのことについて」

 

私の発した言葉で、場は再び緊張に見舞われる。

 

「そうよ!なんで此処にホシノ先輩が居たの!?」

 

真っ先に声を上げたのはセリカ。

 

私は僅かな逡巡の後、意を決して口を開いた。

 

迷ったのは、ホシノからの手紙の内容を言うか否か。

 

だが、ホシノには申し訳ないが、彼女たちは知るべきことだ。

 

「ホシノは、カイザーに雇われた。それで恐らく、この状況を鎮めるために、動かされたんだと思う」

 

あくまでも、憶測という形で、カイザーからの依頼の内容は出来る限りぼかして告げる。

 

ふざけた連中ではあるが、今は依頼主。

 

依頼主の情報をそのまま流すことは出来ない。

 

「マッチポンプ、ということでしょうか?」

 

彼女たちから見れば、カイザーが保有する兵器が襲撃を仕掛けて来た時点で、カイザーの何らかの企みがあると考えている筈だ。

 

実際は、カイザーにとってもイレギュラーな事態であり、緊急で私に依頼を出し、雇い入れたホシノを動かすしかなかった。

 

だが、その情報はカイザーの依頼内容に含まれている情報であり、彼女たちには告げることが出来ないものだ。

 

『[“いや、これは恐らく、カイザーにとっても不測の事態だと思う”]』

 

意外にも、そこで助け舟を出してくれたのは先生だった。

 

先生の元には今回の依頼は届いていないはずだ。

 

故に、先生もセリカ達と同じような考えであってもおかしくない筈なのだが。

 

「どういう事?先生」

 

シロコが先生を問い詰める。

 

その声は語気が強く、シロコ自身も切羽詰まった様子である事が窺えた。

 

『[“…さっき、私に秘密裏に接触して来た人物が居たんだ。その相手は、自らを《ルナシー》と名乗り、元、PMC理事に協力していると言っていた”]』

 

「えっ!?先生は大丈夫だったの!?」

 

『[“うん。私は問題ないよ。接触と言っても、通信に割り込んで来ただけだから。話を戻すと、今回の襲撃は、元、PMC理事の暴走だったんじゃないかな”]』

 

「でも、あの人は今、指名手配中で、本来であれば兵器を扱うことは出来ませんよね?やはり、裏で本社が支援しているのでは?」

 

ノノミの鋭い指摘は最もだ。

 

カイザーであれば、やりかねないと言う逆の信頼がある。

 

私も段々、本当は騙されているのではないかと不安になって来た。

 

「…多分、そのルナシーって人物が手引きしたんじゃ無いかと思う」

 

私がノノミの疑問に、推測をぶつける。

 

こればかりは、私も何も知らない故に、推測するしかない。

 

先生の話も含めれば、元、PMC理事にはルナシーと言う協力者が付いており、その人物と共謀して、何らかの手段を用いてカイザーの兵器廠から兵器群を操作し、奪った。

 

そして、奪った兵器群をアビドスに襲撃させた。

 

襲撃の理由は推定、報復だろうが、そうなると、コーラルとの関連性も疑わなくてはならない。

 

兵器群のコーラルによる侵食。

 

あれは果たして偶然なのか?

 

そうは思えない。

 

カイザーの兵器廠から自ずから動き出して姿を消した兵器群。

 

襲撃の迎撃中に、突如として現れたコーラル。

 

そして、先生に接触したと言う“ルナシー”と名乗った人物。

 

──推定、私のパートナーだった彼女、《エア》と同じような新手の《変異波形》という可能性もある。

 

それでも、数々の従来のコーラルとの相違点には疑問が残るが、それについては一旦、後にしよう。

 

「それじゃあ本当に、さっきイヴが言った通り、カイザーの緊急事態に、雇われたホシノ先輩が当てがわれたってこと?」

 

「それは間違いないと思う。口を挟む暇が無くて言えなかったんだけど、ホシノは実は一回、私に接触して来たんだ」

 

私の発言に、アビドス組が硬直、その後、一気に詰め寄って来た。

 

「どうしてそれをもっと早く言わないのよアンタわぁ!?」

 

私の胸倉を掴み、前後に揺するセリカ。

 

「他には?他にももっとあるんだよね、イヴ」

 

真顔で詰め寄ってくるシロコ。

 

「イヴちゃん!?隠し事はいけませんよ!?」

 

可愛らしく怒ったような表情でノノミまでもが珍しく私を追い詰める。

 

「あ、あのぉ〜…」

 

そこに、オズオズとした様子で、アルが声を掛けてくる。

 

「実は私たちのところにも、小鳥遊ホシノが来てて…」

 

弱々しくも、その言葉は、この場のアビドス組の思考を停止させるのには十分な破壊力を有していた。

 

『[“…取り敢えず、合流して情報共有からしようか…”]』




これにて、アビドス市街襲撃編は終了ですね

対策委員会編もボチボチ、終わりが見えて来ました

途中でシナリオがごちゃ混ぜになってしまってからと言うもの、プロットもこんがらがってしまい、かなり元のストーリーから逸脱してしまった場面は多々ありましたが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです

パヴァーヌ編はしっかり元のプロットを参考にして作ろうと思いましたまる
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