アビドス市街迎撃戦終了
ここからが山場ですね
気合いを入れて書いていきたい所存
とある建物の屋上にて。
ホシノは風を受けて桃色の長髪を靡かせていた。
「…取り敢えず、アビドスに襲撃して来た兵器は殲滅を確認した」
彼女を知る者からは考えられない程、その声は低く、また殺気立っていた。
『ご苦労。一旦、帰投しろ。指定の場所に迎えを寄越す。その後は指示があるまで待機しろ』
「…了解」
ホシノは短く告げ、通話を切る。
周囲の気配を警戒しながら、ホシノは指定された場所に向かう。
「…割り切ったと、思ったんだけどなぁ…」
小さく呟いたホシノの脳裏には、先程、クルセイダーから後輩たちを守った時の情景が浮かんでいた。
ホシノは、シールドはアビドス高校に置いたままだった。
だが、何の気まぐれか、ホシノは便利屋を助けた後に、ふらりと高校に立ち寄り、惹かれるようにシールドを手にした。
その後、兵器を撃破しながら数が集中している場所に向かえば、シロコが危機に陥っている状況を目撃した。
姿を見せないようにシロコに攻撃しようとしていた敵、その周辺の敵を手当たり次第に倒して行った。
ホシノの任務は、アビドスに襲撃したPMC兵器群の掃討。
カイザー本社の思惑から外れたこの状況を分析し、上層部はいずれ、この襲撃が自分たちに向かう可能性を危惧し、ホシノに緊急任務として指令を下した。
状況が状況だけに、カイザー自体の戦力は使えない。
襲撃しているのはカイザーの兵器だが、それを大々的にカイザー自らの戦力で攻撃しまっては、世間から自社の戦力もマトモに管理出来ないと、更に信用を落とす結果になってしまったからだ。
だからこそ、上層部は雇い入れたホシノに加え、秘密裏にレイヴンにも依頼を出したのだ。
全ては、カイザーには関わりのない、不可解な事件として、事実を隠蔽しようとした。
だからこそ、アビドス対策委員会の戦力はとても貴重であり、任務遂行の為に必要な助力と言う建前で、隠密行動をしながら敵を排除していった。
姿を見せる事は出来ない。
レイヴンと、便利屋の前には晒してしまったが、レイヴンの場合は事故にみせかけた情報共有兼カイザーからの依頼を認識しているかを確認する為。
便利屋は部外者の為、問題ないとした。
「…まだ、やり直せる、かぁ…」
レイヴン──イヴに言われた言葉が尾を引く。
クルセイダーの砲撃から彼女達を守ったのは、無意識だった。
彼女達の危機を目の当たりにして、ホシノの体が勝手に動いていた。
彼女達の前に姿を晒す事になると言うのに、一切の躊躇いも無かった。
「大丈夫。みんなを守る為だから。あれも、これも、何も間違っていない。そうですよね、“ユメ先輩”」
あそこで見捨てていては、本末転倒だ。
ホシノは、アビドスを守る為に、黒服の要求を飲み、カイザーに雇われたのだから。
黒服は、自分を使って何かしようと企んでいるとホシノは見ている。
彼が嘯く、“キヴォトス最高の神秘”が一体、何を指しているのかは分からない。
だが、きっと碌な事にならない。
それでも、こうするしかなかった。
これ以上、無駄に足掻いて、後輩たちやイヴが傷付いて行く姿を見ていられなかった。
迎えが来ると言う指定の場所に辿り着いた。
周囲を見渡せば、一台の黒塗りの高級車が目に入る。
辺りに人影が無いことを確認したホシノは、その高級車に近付き、自動的に開いたドアから車内に入る。
待っていたのは──黒服。
「お疲れ様でした。ホシノさん。見事な活躍でしたよ」
不快な気持ちを露骨に舌打ちで示し、ホシノは離れて座席に腰掛ける。
「何でお前が此処にいる」
車が発進したタイミングで、低く、脅すような声音で黒服に問いかける。
「おや、私が此処にいることがそんなに不思議ですか?」
黒服のやけに芝居掛かった、戯けた様子がホシノの精神を逆撫でする。
「質問に質問で返すな。御託は要らない。簡潔に話せ」
「クックック…当たりが強いですねぇ。まぁ、良いでしょう。端的に言えば、今後について、貴女に選択を与えようかと思いまして」
碌でも無い内容なのは目に見えている。
だが、ホシノにはそれを断れる立場に無い。
「…選択?」
ホシノは、自らを担保として、アビドスの借金をカイザーに肩代わりして貰うことになっている。
その為に、書類にも同意した上で記名した。
「はい。“我々”の目標としては、先ず、明確に敵対しているであろう元、PMC理事の排除。こちらは、その内、カイザー上層部からレイヴンへ通達した依頼が更新されるでしょう。
あくまでも、PMC排除の主体は、依頼を請け負ったレイヴンであり、ホシノは裏方に徹するようにする。
これは、依頼を受諾したとは言え、基本的に部外者であるレイヴンを使い、極力、カイザー自身の関与を疑われないようにするものなのだろう。
「あなたとレイヴン、それに加えてアビドスの生徒や例の先生の協力もあれば、間違いなく目標は遂行されるでしょう。ですが、問題は
元PMC理事の排除で終わりでは無いのか?
ホシノの胸中に不安が渦巻く。
「あと?」
一体、どんな無理難題を吹っ掛けられるのか。
警戒し、敵意を剥き出しに黒服を睨み付ける。
「えぇ、そこで貴女には選択して頂きたい」
心臓の脈動が早まり、その音がうるさい程に主張する。
「…何を…?」
不安が明確な胸騒ぎとなって、ホシノを苛む。
「クックック、それは──」
そうして、黒服の口から告げられた内容は、ホシノにとって、“大人”
という存在の悪辣さと狡猾さを嫌と言うほど刻み込む内容だった。
****************************
私が病室に入ると、既に全員が揃っていた。
全員と言うのは、アビドス対策委員会の四人、便利屋68の四人、そして、先生だ。
「イヴ、あんた大丈夫なの?また何処か、具合悪いのに隠してる訳じゃ無いわよね?」
入室して早々、セリカが私を怪訝に視線を向ける。
それは周囲へと伝播し、私以外の全員の視線が私に注ぐ。
心配してくれるのはありがたい事だが、あまりにも過保護気味でやや息苦しい。
「イヴちゃん?お互いの為に、隠し事は無しですよ?」
そこに追撃して来るのはノノミ。
二人してまるで私のお母さんのような心配のしようだ。
「大丈夫。今は何とも無い」
実際、先の戦闘では、“歯車”や“残り火”を使う必要もなく、何の後遺症も無い為、体調は問題ない。
そうは言ったが、周囲は納得してくれる様子はなく、更に視線を険しくする。
普段は比較的穏やかなアヤネですらも、穴が空きそうなくらいの視線を私に向けて来る。
ただ一人を除いて。
「ん、イヴが大丈夫と言うならそれで良い。それはそうと、便利屋は何でここにいるの?」
まあ、シロコの疑問は尤もだ。
今回の事態の鎮圧には協力して貰ったが、彼女たちにこれ以上、この場に留まっている理由は無い筈だ。
「な、何よ!私達が居ちゃ悪いの!?」
そこに食ってかかるアル。
「そう言うことじゃ無くて、あなた達にはもう私たちに協力する必要はないと思うってこと」
シロコがそう言うと、アルの表情は一転、鋭さを孕んだ真面目なものとなる。
「勘違いしているわね。別に私たちは、貴女たちアビドスの為に居るんじゃないわ。何処かの、すぐに何でも自分一人で背負い込んで、無茶をするおバカなカラスさんが放って置けないだけよ」
そう言うとアルは横目で睨み付ける。
「あー…なるほど…」
アルの言葉にシロコは納得し、私に何とも言えない視線を向ける。
「そうそう♪イヴちゃんはすぐに無理をするからね。でも、本当はあのピンク髪ちゃんの事も心配なんでしょう?ツンデレアルちゃん♪」
アルの後ろでクスクスと小悪魔的に笑うムツキ。
「なっ…!?」
羞恥からか、顔を真っ赤にして言葉に詰まるアル。
「まあ、素直じゃない社長はさて置き、私たちとしても、一応、恩人を見捨てることは寝覚めが悪いからね。イヴのことも心配だし、一枚噛ませて貰うよ」
恩人と言うのは、今回の襲撃でカヨコを除く便利屋三人がホシノに助けて貰ったという話だろう。
「は、はい!わ、私たちも足は引っ張らないので、どうかお願いします!」
ハルカが前に出て、シロコへと頭を下げる。
[“良いんじゃないかな、みんな”]
そこに助け舟を出したのは、意外にも先生だった。
「先生?」
[“今回の相手は、今までに無い強敵の予感がする。戦力は、多いに越したことは無いし、せっかくだから、便利屋のみんなに協力をお願いしよう”]
アビドスの表情が険しくなる。
今回の襲撃して来た相手を思い出しての事だろう。
コーラル──否、最早、私の知っているコーラルでは無いあれは、コーラルのような何かだ。
ここは便宜上、“変異コーラル”と呼ぼう。
変異コーラルに侵食された兵器群は、個々の強さはそれほど厄介では無かった。
だが、それが群れとなる事で、その脅威度は跳ね上がる。
そしてそれは、より強力な、クルセイダーのような大型の個体になる事でも、その脅威性を発揮する。
アビドス対策委員会だけでは、荷が重いだろう。
便利屋の申し出は、渡りに船と言った状況だ。
「ふふん、この私たちが協力するのだから、大船に乗ったつもりでいると良いわ!」
アルは自慢げに胸を反らす。
だが、実際に頼もしいのは間違いない。
アビドスのメンバーの表情から僅かに険が抜ける。
「全く、調子の良い連中ね」
その様子に、セリカは呆れてため息を吐くが、その表情はどこか嬉しそうだった。
「ん、お人好し」
「でも、とても頼もしいです!ありがとうございます!」
これで、便利屋68という頼もしい味方が加わった。
[“それじゃあ、お互い、情報共有といこうか”]
「はい。それでは、私の方から説明させて頂きます」
その後、先ずはアビドスのアヤネから事の次第が説明された。
今朝、早くに来たアヤネが高校に残されていたホシノの退学届と手紙を見付けたこと。
退学届については、前日に一悶着あり、本来は今日、ホシノ本人から直接、説明してもらうつもりが、その前に姿を消してしまったとの事だ。
「ホシノ先輩は、ずっと何かを背負って、息を止めるように、苦しんでいるように見えた」
シロコは険しい表情を浮かべている。
それは、悔しさか、切なさか、それとも、無力感か。
「私たちは、ずっとホシノ先輩一人に、アビドスのことを背負わせ続けていたんだ。本当は、みんなで背負わなきゃいけないことなのに…!」
その全てではないだろうか。
シロコは意外と、ホシノの内心を全てではなくとも、その輪郭くらいは掴んでいたのではないだろうか。
その上で、どうにかしようとしたが、出来なかった。
「だから、私たちはただ、先輩を助ける為じゃない。先輩が背負っているものを一緒に背負い続ける覚悟を示す為に戦うの。だからお願い、些細なことでも良い。少しでも良いからホシノ先輩に繋がる情報を教えて欲しい」
ホシノに頼ってもらえなかった悔しさ、仲間だと思っていたのに裏切られた切なさ、そんなホシノを無理矢理にでも救ってやれなかった無力感。
それが今、シロコを苛んでいるものではないだろうか。
「…言っておくけど、私達から言える情報は少ないわ。あまり期待しないでよ」
そうしてアルから告げられたのは、変異コーラル侵食兵器に襲われている最中に現れたと言うホシノの情報だった。
唐突に現れ、敵を薙ぎ倒して便利屋の窮地を救い、いつもと変わらぬ、おどけた様子でホシノは立ち去ったと言う。
「…悪いわね。大した情報じゃなくて…」
アルの不貞腐れるような自嘲に、シロコは首を横に振る。
「ううん。そんな事ない。ありがとう、アル」
シロコの感謝を受け、アルは照れるように視線を逸らす。
「それじゃあ次はイヴね」
セリカに急かされ、私の番が来る。
そして私は、意を決して口を開く。
「私は、ホシノと接触した上で、言葉を交わした」
そうして、私が伝えたのは、私がカイザーの依頼を受けているという情報をぼかした上での、出来うる限りのホシノの情報。
そこには、ホシノには悪いが、手紙の情報も丸々ではないが、多少、含めさせて貰う。
「ホシノ先輩が…」
「カイザーの指示で…!?」
「ホシノ先輩…」
「…」
どうやらカイザーの傭兵として雇われたことは彼女たちにも伝えてはいたようだ。
「私から言えるのは、きっとホシノは、この元PMC理事の反乱の収拾の為に、また駆り出されるだろうと言うことだ」
依頼の内容は伏せ、推測できることを提示する。
[“なるほど。みんな、ありがとう。情報を教えてくれて。その上で聞いて欲しい。実は、カイザーPMCの兵器の出どころが分かった”]
一同に緊張が走る。
カイザーPMCの出どころとはつまり、元理事の本拠地である可能性が高い。
[“その場所は、カイザーPMCの『前哨基地』──つまり、以前セリカを助けに行った、あの施設だ”]
アビドスと便利屋が一致団結するのは、原作でも熱い展開ですよね
今作ではその間に橋渡しのイヴがいる事で、より明確に協力を示すことになりますが…
原作のホシノの手紙シーンは何度読んでもうるっと来てしまう…