レイヴン、エアの気配を感じ取る
いよいよ、対策委員会編、最終決戦直前です
[“それじゃあ、私はこれで”]
私の細やかな“頼み事”も伝え、先生が部屋を立ち去り、私はひと息吐く。
自らの携帯端末を取り出し、メールボックスを確認する。
その中の一つに、カイザー本社直々のメールがあった。
それには既読を示す、封が開けられた手紙のアイコンが付いている。
私が遅れて病室に到着した理由が、このメールの内容を確認していたからだ。
その内容は、要約すると、アビドスを襲撃した兵器の出どころが分かった為、そこを叩き、元理事を無力化して欲しいというもの。
カイザーの方でも、元PMCの前哨基地だと掴んでおりま、今となっては放棄された廃墟だと言う。
そこを元理事は居城としている可能性が高いとのことだ。
依頼達成の暁には、充分過ぎる報酬金を約束してくれている。
だが、私としては、そんなものよりも優先しなければならないものがある。
・・・私は、昏睡状態に陥る前に、ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナに告げられた言葉を思い出す。
『シャーレの先生、そして、レイヴン。これはまだ、万魔殿もティーパーティーも知らない情報だけど、あなた達には知らせておいた方が良いかもしれない』
『アビドスの捨てられた砂漠…あそこで、PMCだけじゃない。本社ぐるみでカイザーが何かを企んでいる。カイザーからの依頼を受けるのは程々にしておいた方が良い』
砂漠で一体何を企んでいるのかは知らない。
だが、それが執拗なアビドスへの攻撃に関係しているのは間違いないだろう。
連中の思い通りにはさせない。
私は、依頼達成報酬について“交渉”するべく、カイザー本社へメッセージを送った。
****************************
その一方、先生はとある寂れたビルの前に立っていた。
中に入り、エレベーターで上階へと上がると、とある部屋の前で立ち止まり、躊躇なく踏み入る。
「お待ちしておりました。あなたとは一度、こうして話をしてみたいと思っていました。シャーレの先生」
その先で待ち受けていたのは、他でもない“黒服”だった。
[“早速で悪いけど、ホシノを返してもらおうか”]
その先生の表情はいつにも増して険しく、鋭い視線を黒服に向けるのだった。
****************************
トリニティ総合学園、ティーパーティー専用ラウンジ。
そこで、二人の生徒が向かい合っていた。
片方は、阿慈谷ヒフミ。
そして、もう一人は、ティーパーティー所属のトリニティの生徒会長であり、その最高権力の座である《ホスト》を務める生徒。
《桐藤ナギサ》。
「なるほど。ご説明ありがとうございます。ヒフミさんが仰っていることは良く分かりました」
トリニティに於いて、一般生徒に過ぎない(自称)ヒフミに対し、何故、トリニティの最高権力者の一角であるティーパーティーのナギサが目を掛けるのかはヒフミ自身も良く分かっていない。
それでも、先生から協力をお願いされたヒフミ自身は、今こそこのコネクションを…言い方は悪いが利用させて貰う他ない状況と判断し、こうしてナギサにお目通りが叶っている。
「キヴォトス全域で指名手配中の元、カイザーPMC理事による、大量の兵器での物量襲撃…その兵器を強化する謎の赤い物質…それらの先生の話が本当だとすると、このまま聞き流す訳にはいかなそうです」
アビドスの市街地を襲撃し、決して小さくない爪痕を残したカイザーPMCの兵器襲撃事件。
どうにかその場に居合わせた対策委員会と便利屋68、そして復帰したばかりのイヴが迎撃、対処にあたり、どうにか鎮圧できたのだと言う。
ヒフミは、イヴが復帰したと聞いて安心した反面、そのような事件が起きたと聞き、喜んで良いのか悲しんで良いのか、複雑な思いを抱く他なかった。
「“例の条約”も目前に迫っていますし、今は下手に動く訳にはいかないのですが、その襲撃が次はトリニティに向かないという保証はありません。今回はちょっとした例外ということで、何か考えた方が良さそうですね」
ナギサの言う通り、アビドスを目の敵にしているのか、アビドスへの襲撃だったが、もし仮に、アビドスが敗北し、元理事とその戦力が解き放たれた場合、その矛先が次は何処に向くのか、全く検討が付かない。
「あ、ありがとうございます…!ナギサ様…!」
トリニティに於いても、全くの無関係、他人事とは決して言えない。
「構いません。私とヒフミさんの仲ですから。そうですね、確かちょうど、牽引式榴弾砲の課外授業の予定があったはずです。せっかくですし、ちょっとしたピクニックなどいかがでしょう?」
それなりに大規模な先頭になることが予想されるが、それを“ちょっとしたピクニック”と言ってのけるナギサの器量の大きさに、ヒフミは内心で感嘆していた。
「えっと…牽引式榴弾砲ということは、L118の…?」
牽引式榴弾砲、L118は、口径105mm、射程は17,200mという、言ってしまえば大砲の一種。
ティーパーティーの許可が無ければ使用できない強力な兵器の一種だ。
そんなものを貸し出してくれるとは、ナギサからヒフミへの信用と信頼の大きさを表している。
「はい、ヒフミさんに全てお任せします。細かい事は私の方で」
「あうぅ…私に出来るでしょうか…」
「大丈夫です。ヒフミさんであれば。それとも、足りませんでしたか?」
「えっ」
「それでしたら、ヒフミさんが望むものをご用意いたしますよ?流石に、《正義実現委員会》を動かす事は出来ませんが…」
「あっ…いや、あの…その…!」
「そうですよね…相手の戦力は未知数…しかも、不可解な事象も起きていると言うことで、万が一、ヒフミさんの身に何かあってはいけません!良いでしょう、分かりました。ヒフミさん、L118を10門に加え、巡航戦車──“クルセイダー”の利用も許可しましょう!」
「え…えぇぇぇえええええええええええっ!!?」
「ふふっ…きっと、いえ、間違いなく、《シャーレの先生》、そして、その直属の傭兵、《レイヴン》には借りを作っておいた方が良さそうですからね」
*****************************
アビドス市街、柴関ラーメン。
「いやぁ、ありがとなぁ、お嬢ちゃん達。店を守ってくれて」
便利屋のメンバーは、大穴が空いてしまった柴関ラーメンに訪れていた。
「大将、これからどうするの?」
店内はある程度、片付けられ、便利屋も内部の瓦礫撤去や清掃を手伝っていた。
「そうさなぁ…随分と風通し良くなっちまったから、これはリフォームするしかねぇなぁ」
そう言う柴大将は、カウンターの奥で何かしらの作業を行っている。
「…ごめんなさい、私たちがもっと強ければ…」
テーブルを布巾で拭く手を止め、アルが謝る。
「アル様!アル様は悪くありません!私がもっと敵を引き付けられれば!ごめんなさいごめんなさい!!」
店内の床を箒で掃いていたハルカが勢いよくカウンター奥の大将に頭を下げる。
「あぁ!いや!嬢ちゃん達を責めてる訳じゃねぇんだ!むしろ、いい機会だと思ってな」
大将はわざわざ、カウンターから身を乗り出してまで、訂正する。
「良い機会?」
倒れた椅子やテーブルを戻していたカヨコが肩越しに振り返る。
「おうよ!店の工事をする間、せっかくだし、屋台形式で店でも出そうと思ってよ!」
大将は意気揚々と胸を張り、自慢げだ。
「屋台形式!良いじゃん!」
ムツキはカウンター席のテーブルに勢い良く手を突き、目を輝かせて大将へと身を乗り出す。
「そうだろ!?初心に戻った感じでこれがまた楽しくてな!だから、そう気に病みなさんな」
「…そう、それなら良かったわ」
アルは安堵した穏やかな表情を浮かべる。
「んじゃあ、せっかくだし、食ってくだろ?」
大将がずっとカウンターの裏で行っていた作業は、調理の準備だった。
「え、えぇっ!?こんな状況なのに!?」
穏やかな表情を一変させ、驚愕するアル。
「こんな状況だからこそよぉ!」
「ひゅー♪大将ってば、粋だねぇ」
「…まだ、戦いは終わってねぇんだろ?」
先程までの明るさから一転して、大将は真剣に低い声で問いかける。
「…まぁ、ね…」
カヨコが視線を逸らし、肯定する。
「それなら!戦いの前の景気付けに一杯食って行きな!そんで、対策委員会のみんなを助けてやってくれ」
「…そう言うことなら、ありがたく頂くわ」
「そう来なくっちゃな!待ってな!とっておきの一杯を食わせてやるからよぉ!!」
そう言うと、大将は早速、ラーメンの調理に取り掛かった。
その楽しそうな様子を便利屋が眺めていた。
「…次は」
その中で、ポツリとアルが溢す。
「次は、みんなで来ないとね」
その言葉に、この場の全員が笑みを浮かべるのだった。
*****************************
ミレニアムサイエンススクール。
カイザーとの交渉の後、当初の目的の為に訪れた場所が、この学校だった。
比較して申し訳なく感じるが、アビドスよりも遥かに大きな学校だ。
遠目からでも様々な施設が立ち並んでいるのが確認できる。
“サイエンス”の名が付く通り、いかにも科学者の研究施設のような無機質な外観の建物が多く見られる。
私が敷地内の巨大な建物の前の広場で待っていると、そこに近付く気配を感じ取った。
現れたのは、ツーサイドアップの青みがかった黒髪の生徒。
「あなたが先生の紹介の渡鳥イヴさん?」
私が先生に頼んだのは、言わばコネクションを使った案内役の用意。
「うん。忙しいところ、ごめんなさい」
どうやら、彼女がそうらしい。
「ふふっ、大丈夫ですよ。私は《早瀬ユウカ》。また何かあれば、気軽に声をかけてください。それじゃあ、えっと…《エンジニア部》に案内して欲しいってことで良いんですね?」
彼女──早瀬の言う通り、私はこの学校の《エンジニア部》なる技術者集団に用があって、ミレニアムを訪れていた。
「うん、お願い…します」
私は使い慣れない敬語を意識しつつ、早瀬に案内を頼む。
「はい、任されました。それじゃあ、着いてきてください」
私は先行する早瀬の後を着いて行くのだった。
****************************
そろそろ空が赤くなり始める頃、先生はゲヘナ学園を訪れていた。
そして、その目の前には、褐色銀髪ツインテールの生徒。
風紀委員会の銀鏡イオリが鋭い視線を向けていた。
「はぁ?風紀委員長に会いたい?ゲヘナの風紀委員長に、そんな容易く会えるとでも思っているのか?」
[事態は急を要する。どうか頼む]
先生は軽々とイオリに対し、頭を下げた。
「…ふぅん」
そんな先生に対し、イオリは感心したような声を漏らす。
地面を見詰める先生に、その表情は窺い知れない。
「そこまで言うなら…そうだな…じゃあ、私の脚でも舐めたら──」
頭を下げた先生の顔の前に、イオリは脚を伸ばす。
そこに迷いも躊躇いもなく、先生は一瞬にして飛び付き、その柔肌に舌を這わせた。
「ひゃんっ!?ちょっ、まだ話の途中──」
先生は一度に留まらず、イオリのしなやかで滑らかな脚を執拗に舐り続ける。
「んっ!?ちょっと!?」
先生が舌を這わせる度に、イオリは艶めかしい声を漏らす。
「大人としてのプライドとか、人としての迷いとかは無いのか!?」
イオリがそう言うと、先生はイオリの脚から顔を離し、至って真剣な表情を向ける。
[“そんなものは無い”]
先生としては、生徒の身の安全と自身を天秤に掛けた結果なのだが、側から見たら完全に事案に繋がる光景だった。
「おかしい!ヘンタイ!歪んでる!」
もう辛抱堪らんとばかりに、イオリは顔を耳まで真っ赤に染め上げつつも、先生へと銃を向ける。
「こんなヘンタイの大人に──」
しかし先生は銃口を向けられても微動だにすることなく、イオリに向き続ける。
「なんだか楽しそうね?」
その言葉と共に、イオリの背後から現れたのは、先生が求めるゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナ、その人だった。
「い、委員長…?」
ヒナが現れると、そこでようやく先生はイオリを解放する。
「…自分の望みの為に膝を突く姿なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒の為に跪く先生は初めて」
這いつくばる先生の元に、ヒナが歩み寄る。
「顔を上げてちょうだい、先生。言ってみて。私に何をして欲しい?」
「いや、その、委員長…先生は跪いているんじゃなくて、その…脚を…舐め…」
「?」
「!!!???」
普段は沈着冷静なヒナの顔が、珍しく真っ赤に染まり、羞恥と驚愕で大きく歪むのだった。
この時の先生ってどんな気分でイオリの脚を舐めたんだろう…
いや、生徒の事を想っての事は分かるんですが、それはそれとして、イオリの脚を舐めれることを喜んでいてもおかしくないんじゃないかな、って…
取り敢えず、作者はイオリの脚ぺろシーンを描いててとっても楽しかったです
真っ赤になるヒナも可愛いです