イヴ、吹っ切れる
いよいよ、今度こそ最終決戦へと出発です
アビドス三章part2、ダメージがデカい…
『[“『コーラル』…それがあの赤い粒子の正体なんだね”]』
カイザーPMC前哨基地廃墟に行くまでの道中、私は知り得る限りのコーラルの情報と、このキヴォトスに於ける変質したコーラルの情報を伝えた。
移動の足はアビドスが保有する車一台であり、流石にそこには先生、アビドス、便利屋含めた九人も乗れないということで、一旦、便利屋とは分かれた。
便利屋も別に、自前の移動手段があるらしい。
ただ、移動手段は別でも、便利屋達もインカムを用意しており、意思疎通が可能になっている。
車には先生とアビドス組の五人が乗っており、入り切らない私は車の上で胡座で銃を抱えながら風を浴びていた。
普通の人間にとっては、転がり落ちかねない振動と強風が襲い掛かるが、キヴォトス人の肉体の体幹と頑丈さの前では、心地良い揺れとそよ風のようなものだ。
今はちょうど、砂に埋もれた市街地を走っている。
「そう。他にも、私の知ってるコーラルは、飲食物のように摂取できたり、薬物のような依存性があったり、虫が巨大化したりしてたけど、キヴォトスのコーラル──《変異コーラル》にも同じような効果があるのかは、今のところ不明ってところかな」
変異コーラルは、燃えていることからエネルギーを持っている事は確実で、また、先生の話によればハッキングが阻害された事から、情報伝達媒体としての効果は以前、変わりなく有している事が確認されている。
『えぇっ!?アレって食べれるの!?』
すかさず食い付いて来たのは別行動中のアルだった。
食い付いて来たと言っても、嬉々として、と言うよりは驚愕、困惑の色が強い。
「…まぁ、食べると言うか、酒やタバコみたいな嗜好品としての側面の方が強いと思う。後は、ミールワームの餌に使用して、そのミールワームを食べる事で摂取されるような感じかな。少なくとも、好んで食べるような代物じゃない。悪食中の悪食だよ。依存性もあるし」
一応、強化人間についての内容は伏せてある。
あんなものは、望んで伝えるようなものではない。
彼女らが知る必要の無い情報だ。
『な、なんだか、すごい現実離れしたお話ですね…』
ノノミが驚いているが、私からすれば、このキヴォトスの方がよっぽど現実離れしている。
もう慣れてしまったが。
『そう言う物質なら、イヴちゃんがコーラルを滅ぼそうと躍起になるのも分かりますね…』
アヤネが私に理解を示してくれるが、私はまだ、コーラルの本当の厄介さを話していない。
「いや、実はコーラルが本当に危険なのはここからだ」
滅ぼさなくてはならない理由、そして、私が星系を焼き尽くす災厄を起こさなくてはならなかった理由。
『十分過ぎるくらい厄ネタ満載なのにまだ何かあるの!?』
ムツキが驚愕と困惑の悲鳴を上げる。
「コーラルは、自己増殖する物質なんだ。指数関数的に増殖し、ねずみ算のように瞬く間に数を増やしていく。特に宇宙空間のような真空空間ではより、その速度が爆発的に上昇する。これが、コーラルが最も危険とされる理由だ」
私が告げた内容に、一同が言葉を失う。
驚愕もあるのだろうが、一番は恐らく、恐怖と危機感だろう。
ほんの僅かな、塵ような量でも、コーラルは残っていれば増えていく。
一度、見落としてしまえば、それは取り返しの付かない危機に繋がる。
『[“自己増殖で無限に増え続ける、依存性の高いアルコール、みたいな感じかな。正直、これでもまだ説明し切れてないけど。なるほど、イヴの気持ちが少しだけ分かった気がするよ…”]』
「それは何より」
『…ねぇ、イヴ。それなら、ルナシーって人は何者?あの人がやった事はまるで、そのコーラルを操っているように思えるんだけど?』
芯に迫る、的確な疑問を問いかけて来たのは、他でもないシロコだった。
ここまで来たのなら仕方ない。
全てを話すとしよう。
「…《Cパルス変異波形》。そう呼ばれる、コーラルの中に発生する人格、意識のようなもの…それが、ルナシー…だと私は思う」
まだルナシーがエアと確定した訳ではない。
だが、意思を持ち、先生と会話出来る知性を持つことから、同じようなCパルス変異波形の類いであることは間違いない。
とは言え、こちらもやはり、元となるコーラルの変質によるものか、出来ることが増えているように思える。
「…コーラルは、ただの物質じゃない、生き物なんだ。魚や鳥のように、一ヶ所に集まろうとする知性がある。増殖のからくりも、それに起因するものだ」
どれだけ、変異コーラルが元のコーラルと異なる点を持っていたとしても、そこは間違いなく変わらないだろう。
コーラルは生き物であり、言わばこれは、コーラルとの種の存続を掛けた戦争なのだ。
「…それでも、滅ぼさなくてはならない。そうしなければ、キヴォトスそのものがコーラルに侵食される」
ルビコンで起こった悲劇。
アレと同じようなことが起こる。
或いは、あれよりもより最悪な事態が起こる可能性すらある。
この場所には、コーラルの危険性について知っているものは私しかいない。
惑星封鎖機構も、《オーバーシアー》も、存在しない。
コーラルの脅威に対抗できるのは、私だけだ。
だからこそ、私はルナシーの企みを阻止し、コーラルを焼き滅ぼす。
幸い、私にはコーラルに対して特効効果を有する力があるらしい。
私のヘイローから零れ落ちた光芒によって武器や肉体を強化する《共鳴の幻視》と名付けた技は、銃を真紅に染め、その銃撃はコーラルに触れると爆発する。
どうして、そのような力に目覚めたのかは分からないが、これを利用しない手は無い。
それだけではない。
私の“耳”と“眼”は、コーラルを知覚出来る。
“猟犬の耳”コーラルの放つ音──“聲”を聴き、“鴉の眼”はコーラルの揺らぎ──“声”を見る。
決して、コーラルを逃さない。
今も私は、感じ取っている。
前哨基地廃墟に近付くに連れて、その微かな予兆を。
間違いない。
この先に、コーラルがある。
『[“ありがとう、イヴ。話してくれて”]』
「別に良い。私も精々、目的の為にみんなを利用させて貰う」
こうなった以上、もう隠し事は無しだ。
強化人間周りはさておき。
情報はあるだけ共有し、私の駒として利用させて貰う。
それが、私なりの彼らへの敬意の表れだ。
『おっ、イヴちゃんも言うようになって来たじゃーん♪』
くふふ、とムツキが悪戯っぽく笑う。
『ま、イヴが私たちを頼るんなら、それでも良いよ』
カヨコも納得してくれたようで、満足げな声色だ。
『はい!イヴちゃん、利用しても良いから、これからも私たちを頼ってね!』
アヤネは何やら嬉しそうだ。
何だか子供扱いされているようで居心地が悪い。
気分を入れ替えるように私はわざとらしく咳払いをして口を開く。
「そんなことより、みんなそろそろ警戒してよ。ルナシーが私の読み通り、Cパルス変異波形なら、遠隔からでもある程度のことはできる」
私が警戒を促すと、途端に会話が途切れる。
周囲の景色は、住宅街から廃墟の路線へと移り変わっていた。
また、本格的に砂漠的な砂丘が現れ始め、廃線を覆う砂の量も増えている。
もう少し進めば、廃墟となったPMCの前哨基地が一望できる高台に辿り着くだろう。
そんなところで、ふと私は、砂漠地帯を疾走する車の駆動音と風切音に紛れ、それとは別の音を捉える。
それと同時に、先程までは遠く微かだったコーラルの気配を強く感じ取る。
その正体は、アビドスを襲撃した兵器と同じように、“深紅”に染め上げられた武装ヘリ──アパッチだった。
だが、私は、前回の変異コーラル侵食兵器との相違点を見出す。
装甲を染め上げる赤が、以前のものよりも明らかに濃く、深い。
それに加えて、その赤の中には、まるで血管を思わせるような淡く明滅する網目状の模様が所々に浮かび上がっている。
「──飛ばせッ!!」
私が叫んだ直後、“深紅”に染まるアパッチがミサイルを放つ。
それと同時に、車が急加速する。
私は振り落とされないように、低姿勢で体幹を維持しながら、車の後を追うアパッチに対し、銃を構える。
右手にアサルトライフル、左手にはショットガンではなく、スナイパーライフルを握る。
爆発は車の後方や側面の地面に直撃し、激しい爆炎と共に大量の砂を巻き上げる。
衝撃と振動の中、どうにか車の天井の上で低姿勢のまま堪える。
落ち着いたところで、私はインカムに声を乗せる。
「便利屋!そっちは大丈夫か!?」
こちらは私が居るから問題は無いが、便利屋の方にも襲撃が及んでいる場合、かなり厳しい。
『今のところは問題ないわ!何があったの!?』
どうやら、向こうは何事もないようだ。
「コーラル侵食を受けた武装ヘリの襲撃に遭ってる!何事も無ければ、そのまま突っ走れ!もし襲撃を受けたらこっちに合流してくれ!」
もし向こうも襲撃を受けた場合、対応する者がいない。
そうなったら、私が二体を同時に相手取るしかない。
幸い、今はまだ、向こうは何事も無いようで、私は目の前のアパッチに集中する事が出来る。
アパッチは変わらず私が乗っている車を追って来ており、今度はミサイルではなく、機銃の狙いを定める。
「アヤネ!私の言う通りにハンドルを切れ!」
車を機銃の銃撃から回避させる為に、運転手のアヤネに声を掛ける。
『うん!分かった!』
アパッチの機銃の狙いを見極め、固定され、銃口が火を噴く直前に叫ぶ。
「右!」
間髪入れず、車体が勢い良く右に逸れる。
僅かに銃弾が車体を掠めるが、殆んどが砂の地面を穿つ。
銃撃の勢いも、速度も、威力も、以前のブラックマーケットで見たアパッチとは遥かに桁違いだ。
銃撃の狙いが外れ、銃撃を止めたアパッチが再び狙いを付ける。
「左!」
叫んだ直後に車体が左に逸れる。
今度は完璧なタイミングで、掠める事なく、完全に回避に成功する。
「今度は、こっちの番だ!」
《共鳴の幻視》を起動し、両手の二丁の銃の銃撃を強化し、また、コーラル特効を付与する。
そして、アパッチのフロントガラスの部分へとARの銃弾を叩き込む。
銃弾の直撃と同時に、真紅の爆発が発生し、それが無数に火の華を咲かせる。
小爆発が重なり、フロントガラスが目論見通りに砕け散るが、明らかに耐久力が上がっている。
そして、その上昇幅は、アビドス市街で見た侵食兵器よりも高いように感じる。
見た目からしても色合いが濃くなっているところを見ると、侵食率のようなものが以前の個体群よりも高いのかもしれない。
私は、割れたフロントガラスの奥、機体の内部へと狙いを定め、SRを放つ。
割れたガラスの奥へと銃弾が吸い込まれるように消え、その後、真紅の爆炎が球状に広がった。
『イヴ!私も“コレ”で援護する!』
シロコの声の直後、現れたのは、シロコの新たなドローン。
「ああ!助かる!」
私は割れたガラスからアパッチの内部へと手榴弾を投擲する。
橙色の爆炎の直後、真紅の小爆発が発生する。
一定以上のダメージの蓄積で発生するコーラル侵食兵器の自爆だ。
更にそこに、シロコのドローンから無数のミサイルが射出され、アパッチへと殺到する。
殺到、直弾したミサイルは、それぞれが爆発した後、連鎖的に爆発を引き起こし──やがて、アパッチ全体を包み込むような大爆発を巻き起こした。
コーラルの爆発ではない。
明らかな、シロコのドローンのミサイルによる爆発だった。
だが、以前のシロコのドローン爆撃は、これほどの威力は出していなかった。
『イヴ、これはどういうこと…?』
収まっていく爆炎を真顔で眺めているところに、感情を一切、廃したシロコの声が届く。
私の脳裏には、誇らしげな満面の笑みでサムズアップするミレニアムのエンジニア部の姿が脳裏を過った。
これだから技術者って連中は…。
「シロコ、これは私も想定外なんだ。すまない」
私は一応、元の規格通りのものを基準に、ドローンを作成するように依頼した。
確かに、改良出来るところがあれば、報酬金を予算として、その範囲内で手を加えても良いと言った。
だが、これは改良どころか改造だ。
それも、“魔”が付くような。
シロコの魔改造ドローン爆撃を受けたアパッチは、見慣れたコーラル爆発を立て続けに起こした後、内側からより大きなコーラル爆発を起こして砕け散った。
深紅の炎と共にコーラルが燃えて行き、コーラルの気配もまた、消えて行く。
あの並外れた耐久力を持つコーラル侵食兵器が、私が多少、削っていたとは言え、一発とはどう言う事だろうか。
いや、結果的には良かったが、こんなモノが混戦状態の時にでも放たれていたら、ただでは済まなかっただろう。
エンジニア部には後で、今後の為にもクレームを入れておいた方が良いかもしれない。
そんなことを考えている最中も車は進んで行き、私たちの目の前に広大な砂漠と、その砂塵の中に巨大な施設が現れた。
カイザーPMCの前哨基地、その廃墟だ。
エンジニア部によって、シロコのドローンは異常火力制圧兵器と化しました
当然、その分のコストは重いのですが…
そして、コーラル侵食クルセイダーに続き、コーラル侵食アパッチまでもが現れました
魔改造シロコドローンで瞬殺されましたが…