元理事、撃墜
「ああ!もう、こいつらしつこいなぁ!!」
悪態を吐くのは、風紀委員会の銀鏡イオリ。
ヒナと共に、レイヴンを先に進ませる為にこの場に残ったものの、攻撃してもしつこく復活して来るコーラル侵食機体──コーラル感染体を相手に、苦戦を強いられていた。
『イオリ、慌てて一気に倒そうとせずに、一体一体、確実に倒して行きなさい。あなたは委員長のように手数が多い訳では無いのですから』
そんなイオリを見かねたアコが、助言を贈る。
『先生からの情報によれば、コーラル侵食体──その第二段階は、通常よりも遥かに耐久力が上がっているそうです。いつも以上に、徹底的にダメージを与える必要があります。攻撃に関しては、あなたの機動力であれば、回避は容易いでしょうが、その調子では敵に囲まれて袋叩きにされますよ?』
アコの的を射た指摘を受け、イオリは言葉に詰まる。
イオリは、つい、いつもの調子で敵が倒れたら、それでターゲットを移してしまう。
気が逸ってしまい、つい、仕留め損ねてしまっている。
それも無理は無い。
イオリは、コーラル侵食体との戦闘は初めてであり、そう簡単に慣れるものでは無い。
何より──。
「イオリ、そんなに焦る必要はない。落ち着いて対処すれば、あなたでもそう苦戦する相手じゃない」
そのように、イオリを気遣う余裕を見せて尚、コーラル侵食兵器を圧倒するヒナの存在が、更なる活躍の場をイオリ自身に強いらせる。
ヒナと共に戦う場面など、そうそう無い。
だからこそ、イオリは焦る。
自身が、足手纏いになるまいと。
そうしている間にも、ヒナは黒紫のエネルギーを纏った無数の銃弾を放ち、戦車もオートマタもドローンも纏めて吹き飛ばし、爆散させる。
そこへ、上空からコーラル侵食の武装ヘリがヒナへと銃撃を見舞う。
それに対してヒナは、腰から左右に伸びる翼を広げ、滑空する。
銃撃を躱すと同時に、ヘリの真下へと潜り込み、銃撃を下から叩き込む。
黒紫のエネルギーを纏っていない為、火力不十分であり、倒し切ることは出来ない。
だが──。
「イオリ!決めなさい!」
ヒナに名を呼ばれ、イオリは反射的にヘリへと銃口を向け、発射していた。
計三発の狙撃を受け、ヘリは空中でコーラル自爆を起こし、爆散する。
燃え尽きるヘリの残骸を眺めながら、ふとヒナへと視線を向ける。
「ありがとう、助かった。この調子で、よろしくね」
そう言い残し、ヒナはまだ残るコーラル侵食兵器の元へと向かった。
イオリの脳裏には、先程のヒナの言葉が、繰り返し響いていた。
『…委員長が、足手纏いを一緒に連れて来るハズが無いでしょう…』
呆れたようなアコの声が聞こえ、イオリは喜びが込み上げて来る。
自分でも、ヒナの役に立てるのだと。
自分も、ヒナと一緒に戦えるのだと。
その気付きを得たイオリは、これまでの雑な立ち回りと迷いのあった狙いが嘘のように、的確で研ぎ澄まされたものへと昇華していた。
だが、その様はまるで単純な子供のようであり、その様子にもまた、アコは深く溜め息を吐く。
周囲のコーラル侵食兵器は、二人の活躍と奮闘で、着実に数を減らしていくのだった。
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一方、コーラル侵食クルセイダーと対峙する便利屋68と、トリニティクルセイダーに搭乗し、操作するヒフミ。
トリニティの榴弾砲や便利屋の爆撃により、周囲の取り巻きはほぼ壊滅状態だった。
残るはコーラル侵食クルセイダーのみ。
しかし、そのコーラルクルセイダーに、便利屋とヒフミは苦戦を強いられていた。
「無差別砲撃!来るわよ!」
アルが叫ぶ、その視線の先で、コーラルクルセイダーの砲塔が熱を帯びる。
『皆さん!私の陰に!』
即座にヒフミが、トリニティクルセイダーの陰に隠れるように指示を出す。
トリニティクルセイダーも高い防御性能を誇る装甲に覆われているとは言え、コーラルによって強化されたクルセイダーの無差別砲撃を受けて、ただでは済まない。
それでも、誰かが身一つで受けるよりは、遥かにマシだ。
砲撃のほとんどをトリニティクルセイダーが受け止め、その範囲から外れた砲撃が周囲で火柱を上げる。
『あうぅ!!』
ヒフミの悲鳴が届き、便利屋メンバーは全員が胸を痛める。
今はまだ、どうにか受け止めることが出来ているが、いつまでも可能な方法ではない。
早々に決着を付けなくては、ヒフミの身が危ない。
「次、撃たれる前に、決着を付けるわよ!!」
トリニティクルセイダーの陰から飛び出し、アルはコーラルクルセイダーを狙撃する。
放たれた銃弾は、砲塔に着弾し、爆炎を迸らせる。
コーラルクルセイダー自体も、度重なる攻撃によって、着実にダメージが刻まれている。
次の無差別砲撃の前に撃破するというのも、不可能ではない。
「りょ〜か〜い♪それじゃっ、出し惜しみはナシだねっ!!」
ムツキも続けて、爆弾を投擲する。
それは、爆発と同時に、青白い閃光を迸らせた。
「虎の子の
その電撃は車体全体に伝わり、至る部位でコーラル爆発が発生する。
「あの主砲が無くなれば、手っ取り早いんだけどね」
カヨコがコーラルクルセイダーの砲塔目掛けて、狙いを澄まし、連射する。
放たれた無数の銃弾が砲塔に直撃し、火花を散らす。
着実にダメージは刻まれるが、コーラル自爆には至らない。
「わ、私も行きます!!」
そこで、ハルカがコーラルクルセイダーへと距離を詰める。
しかし、そこでコーラルクルセイダーが大技後の硬直から立ち直り、動く出す。
ハルカへと、キャタピラを唸らせ、突進しようとする。
『させませんっ!!』
だが、その直前に、ヒフミがコーラルクルセイダーへと砲撃する。
その衝撃により、コーラルクルセイダーはコーラル自爆を起こし、突進が不発に終わる。
「あ、ありがとうございますっ!!」
そこへ、更に畳み掛けるようにハルカが近距離でショットガンを連射する。
立て続けに発射される散弾がコーラルクルセイダーの装甲を削り、表面のコーラルに負荷を蓄積させる。
『ハルカさん!下がってください!』
ヒフミの指示を受け、ハルカが飛び退く。
『砲撃部隊の皆さん!お願いします!』
ヒフミが指示を出して間も無く、無数の砲撃がコーラルクルセイダーへと降り注ぐ。
車体全体を爆炎が飲み込み、また、それが起因となってコーラル自爆が発生する。
砲撃が止み、爆煙が晴れると、黒煙を立ち昇らせるコーラルクルセイダーの姿があった。
しかし、その表面にはまだ、コーラルが浮かび上がっている。
突如、コーラルクルセイダーは、キャタピラを唸らせ、トリニティクルセイダーへと突進する。
『っ!!』
それを迎え撃つように、ヒフミもトリニティクルセイダーを突進させる。
二両のクルセイダーが激突し、激しく火花を散らす。
その凄まじい衝撃に、両方の車両が飛び跳ねる。
『きゃあっ!?』
だが、それにより、ヒフミが衝撃に耐え切れず、一瞬だけトリニティクルセイダーの操作が不能になった。
まるで、その瞬間を見計らったかのように、コーラルクルセイダーが至近距離でトリニティクルセイダーへと砲撃を放つ。
その衝撃で、トリニティクルセイダーが押し戻され、それと同時に、動きが止まる。
相手の兵器が衝撃の蓄積により、負荷限界を迎えるように、こちらもまた、そのルールからは逃れられない。
その一瞬の負荷限界の間に、コーラルクルセイダーが主砲にエネルギーを溜める。
無差別砲撃の予備動作。
負荷限界状態でコーラルクルセイダーの無差別砲撃を直撃すれば、幾らトリニティクルセイダーと言えど、ただでは済まない。
ましてや、これまでに蓄積したダメージを鑑みれば、大破の可能性も十分にあり得る。
「これやばいってぇ!!?」
それを止める為に、便利屋が動き出す。
ムツキが爆弾入りのバッグをコーラルクルセイダーへと投擲する。
無数の火柱が上がり、コーラルクルセイダーの装甲を吹き飛ばすが、チャージは止まらない。
カヨコ、ハルカも、射撃を見舞うが、効果は無い。
そして、アルはと言えば──。
「アル!?」
「アル様!?」
「アルちゃん!?」
三人が驚愕し、視線を向けるのは、トリニティクルセイダーの天板の上だった。
そこで、アルはコーラルクルセイダーの赤熱する砲塔に向かって、左手だけで持ったスナイパーライフルの銃口を向けていた。
『アルさん!?ダメです!逃げて──』
ヒフミが今からでも降りるように説得しようとする。
「嫌よ」
だが、ヒフミが言い切るより早く、両断する。
その間にも、コーラルクルセイダーの砲塔は赤熱し、それすらも超えて白熱する。
「私はもう、誰かが傷付きながら守られるのは、真っ平ごめんなのよッ!!!」
アルのスナイパーライフルから、銃弾が放たれる。
それは、砲撃寸前のコーラルクルセイダーの砲口に吸い込まれるように飛んで行き、砲身の中の光へと消えて行く。
その直後、コーラルクルセイダーの砲身があり得ない程に歪み、膨れ、やがて眩い光がコーラルクルセイダーの至るところから噴き出し、一際、強い光を放つと、内側から爆発した。
砲塔は跡形も無く砕け散り、天板が吹き飛ぶ。
ダメ押しと言わんばかりにコーラルが自爆し始め、無数の小爆発の後、全体を覆い尽くす程のコーラルの大爆発を引き起こす。
爆炎と爆風が止むと、後には原型を留めていない残骸の鉄屑だけが残っていた。
トリニティクルセイダーはギリギリ、爆発に巻き込まれずに済み、その中のヒフミは呆然と、黒煙と炎を立ち昇らせる残骸を眺めていた。
一方、アルは爆風に煽られ、車体の上から転げ落ちる。
だが、地面に激突する前に、誰かがアルを受け止める。
「全く、無茶が過ぎるでしょ…」
目を開けた先には、呆れた様子のカヨコの顔があった。
「な、何よ…べ、別に勝算があって、最終的にみんな無事なんだからそれで──」
抱きかかえられているという状況もあって、アルは気恥ずかしさもあって、カヨコから視線を外す。
「良くない!」
その声は、カヨコにしては、いつも以上に強く、荒いものだった。
「…アルは、便利屋にとって…私たちにとって、掛け替えの無い存在だって自覚してよ。…一歩間違えたら、アルは…アルが居なくなったら、誰が私たちを纏めるの?」
大袈裟だ、と一蹴してしまうのは簡単のはず。
だが、アルは、ふと横目で見た切なそうなカヨコの顔を目にして、言葉に詰まってしまった。
「はぁ…どうしてイヴと言い、こうして無茶ばっかりするのか…本当に勘弁してよ…」
「…ごめん、なさい…」
アル自身、イヴの行動にカヨコ同様に呆れていた物だが、これで自分も彼女を責めるに責められなくなった。
「まぁ、説教はこのくらいにしてあげる。アルのお陰でみんな無事なのは、間違いないしね。それじゃ、後は立てるよね?」
そう言って、カヨコはアルを地面に下ろそうとする。
だが──。
「ま、待って…」
アルはカヨコに制止をかける。
「ん?」
カヨコは訝しんでアルの顔を見れば、震えながら、僅かに赤くなっていた。
「そ、その…腰が抜けちゃって…立てない…」
カヨコは呆れながら、溜め息を吐きつつも、アルらしいとどこか安心感を覚えた。
「…慣れないことするから」
そんなことを言いながらアルに微笑み掛ければ、当人は耳まで真っ赤にして両手で顔を覆う。
「う、うるさいわね…!ちょっと疲れただけよ…!」
そんな強がりを聞きつつ、アルの反応を楽しんでいると。
「「「………」」」
クルセイダーの陰からこちらを見詰めるムツキ、ヒフミ、ハルカの三人と目が合う。
それと同時に、言い知れぬ羞恥心が湧き上がる。
「えーっとー…もう話し掛けても大丈夫そ?」
ニヤニヤしながらこちらを窺うムツキに、カヨコは腕の中のアルを離す。
アルが強かに尻を打ち付け、悲鳴を上げるが、今のカヨコにそれを気にしていられる余裕はなかった。
「べ、別に何でもないから!何もないから!」
「うん?私が聞いたのは話しかけて大丈夫かどうかだけど?」
ムツキはわざとらしく、芝居がかった様子で大袈裟に首を傾げる。
「あ…いや、えと…その…」
「あ、あの、えと…み、皆さん無事で良かったです!!」
何とかフォローするべく、ハルカが助け舟を出そうとする。
「は、はい!そ、そうですね!一時はどうなる事かと思いましたが、便利屋の皆さんも無事で良かったです!」
それにヒフミも便乗する。
「そうだねぇ〜良かったねぇ〜うんうん♪」
だが、ムツキはそれすらも利用し、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、カヨコを揶揄う。
「む、ムツキ!言いたいことがあればはっきり言えば!?」
「別に何でもないよ〜♪それはそうと、ご馳走様♪」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「おしり、いたい…」
一人取り残されたアルは、うつ伏せの体勢で両手で臀部を押さえているのだった。
さて、残すところは、イヴとエアの戦いだけとなりました
果たして無事に決着が付くのか…
そう言えば、姿が見えない人がいますね…